経済数学 I・II 講義ノート

経済数学 I・II 講義ノート
愛知学院大学 経済学部
野村 友和
2016 年 5 月 15 日
2
目次
第1章
一次関数
4
1.1
関数とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
1.2
一次関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
1.3
定義域と値域 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
1.4
応用例:需要関数・供給関数と市場均衡 . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
1.5
逆関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
15
1.6
弾力性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
16
1.7
比較静学 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
19
二次関数
23
2.1
二次関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
23
2.2
二次方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
27
2.3
応用例:賃金プロファイル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
31
関数の微分
33
3.1
接線の傾きと微分の概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
33
3.2
接線による関数の動きの近似
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
37
3.3
関数の極大・極小
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
38
3.4
三次関数の極大・極小 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
43
3.5
応用例:費用関数と企業の利潤最大化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
45
指数・対数
57
4.1
指数法則と指数の拡張 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
57
4.2
a を底とする指数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
59
4.3
対数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
69
第2章
第3章
第4章
3
4.4
第5章
自然対数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
75
多変数の関数
84
5.1
一次の二変数関数
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
84
5.2
高次の二変数関数
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
86
5.3
交差項 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
90
5.4
応用例:コブ=ダグラス型生産関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
92
5.5
多変数関数の最適化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
94
5.6
応用例:消費者の効用最大化(二財モデル) . . . . . . . . . . . . . . . 102
4
第1章
一次関数
1.1 関数とは
経済理論というのは,ある変数とほかの変数の関係を述べたものである。たとえば,
「あ
る財の価格が上昇すれば,その財に対する需要量は減少する」という需要法則は,財の価
格と需要量という 2 つの変数の関係を述べている。また,「労働者の勤続年数が 1 年間増
加すれば,賃金はどれだけ高くなるか」という実証的な問いにも,勤続年数と賃金という
2 つの変数の関係を明らかにすることで答えることができる。こうした変数の間の関係を
モデル化するために用いられるのが関数である。
2 つの変数 x と y があるとしよう。x の値が決まれば y の値が一意に決まるとき,y は
x の関数であるといい,以下のように書く。
y = f (x)
(1.1)
このとき,x を関数の独立変数,y を従属変数という。
f という文字は関数(Function)の頭文字であり,関数を表すためによく用いられるが,
しばしば他の文字を用いることもある。たとえば,所得(Y )と消費(C )の間の関係を
表す消費関数は,以下のように表されることがある。
C = C(Y )
(1.2)
左辺の C は消費を表しており,右辺の C(Y ) は関数を表していることに注意しよう*1 。
*1
消費量を表す C と関数を表す C は同じ文字である必要はないので C = f (Y ) のように書いてもよい。
ただし,あまり多くの種類 の文字を使うと混乱するので同じ文字が用いられることが多い。同じ文字を
用いる場合,関数には関数を表すことが明確になるよう C() のように文字の後に () をつける。
1.2 一次関数
5
y
7
5
x
0
1
図 1.1 y = 5 + 2x のグラフ
この消費関数は,所得の額が決まれば消費の額が一意に決まるということを意味してい
る。すなわち,所得の額が同じであれば消費の額も同じである。
1.2 一次関数
関数の形として最も基本的なものは一次関数である。2 つの変数 x と y があるとき,こ
れらの変数の間の関係が,
y = f (x) = a + bx
(1.3)
のように表されるとき,y は x の一次関数であるという。ここで a と b はどちらも定数で
あり,その値は変化しない*2 。
第 1 章 一次関数
6
1.2.1 一次関数のグラフ
変数間の関係は,グラフを描くことによりその意味をより直感的に理解できる。たとえ
ば,a と b の値がそれぞれ 5 と 2 であるとすれば,
y = f (x) = 5 + 2x
(1.4)
となる。この関数のグラフを描いてみよう。
まず,x のいくつかの値について,それぞれ y がどのような値をとるかを調べ表にして
みよう。
x の値
···
−2
−1
0
1
2
···
y の値
···
1
3
5
7
9
···
表 1.1 x と y の関係
そして,この表をもとに xy 平面上に点を打っていこう。すると,これらの点の軌跡は
図 1.1 のような直線となる。
この直線は y 軸上の (0,5) を通り,x が 1 だけ増加すると y は 2 だけ増加するため,
y = 5 + 2x は切片(もしくは定数項)が 5 で,傾きが 2 の直線であるという。一般に,
y = a + bx は切片が a,傾きが b の直線である。
y = a + bx のグラフは直線なので,この直線が通る任意の二点を結んで延長することに
より描くことができる。たとえば,y = 5 + 2x のグラフを描くには (0,5) と (1,7) の二点
を結んで延長すればよい。
y = a + bx は,b > 0 であれば x が増加すれば y も増加するため右上がりの直線とな
る。b < 0 の場合には x が増加すれば y が減少するため右下がりの直線となる。また,
b = 0 の場合には,x の値にかかわらず y = a となるため,水平な直線となる。
1.2.2 直線の式
通過する一点と傾きが与えられている直線の式
一点 A(x1 , y1 ) を通り,傾きが与えられている直線の式を求めてみよう。傾きがわかっ
ている場合には,切片を求めれば直線の式が求められる。
*2
一般的に,変数は x, y, z など,定数は a, b, c などの文字が用いられることが多い。
1.2 一次関数
7
b > 0 の場合
b < 0 の場合
y
y
a
0
b = 0 の場合
y
a
a
x
図 1.2
0
x
x
0
b の値と一次関数のグラフの形状
まず,わかっている傾きを β とすれば,この直線の式は以下のように書ける。
y = a + βx
(1.5)
ここで,この直線が点 A(x1 , y1 ) を通ることを利用すれば,
y1 = a + βx1
(1.6)
が成立する。したがって,切片 a の値は以下のように求められる。
a = βx1 − y1
(1.7)
点 A(x1 , y1 ) を通り,傾きが β である直線の切片は,
a = βx1 − y1
二点を通る直線の式
次に二点 A(x1 , y1 ),B(x2 , y2 ) を通る直線の式を求めよう。この直線の式 y = a + bx
の a と b の値を求めてみよう。
まず傾き b から求めよう。傾きとは,x の 1 単位の変化に対して,y がどれだけ変化す
るかを表すものであるから,y の変化分を x の変化分で割ることで求められる。
b=
∆y
y2 − y1
=
∆x
x2 − x1
ここで,∆x,∆y はそれぞれ x,y の変化分を表す。
(1.8)
第 1 章 一次関数
8
y
B
y2
∆y
A
y1
∆x
x
0
x1
x2
図 1.3 二点を通る直線
二点を通る直線の傾き
二点 A(x1 , y1 ),B(x2 , y2 ) を通る直線の傾き b は,
b=
y2 − y1
∆y
=
∆x
x2 − x1
傾きがわかれば,前項の方法により直線の式を求めることができる。すなわち,点
A(x1 , y1 )(もしくは点 B(x2 , y2 ))を通り,傾きが b である直線の式を求めればよい。
例題 1.1
点 (6,3) を通り傾きが 2 の直線の式を求めよ。
【解答】
傾きが 2 である直線の式は以下のように書ける。
y = a + 2x
1.2 一次関数
9
また,この直線は点 (6,3) を通るので,
3=a+2×6
これを a について解けば,a = −9 となる。したがって,点 (6,3) を通り,傾きが 2 の
直線の式は,
y = −9 + 2x
(解答終わり)
例題 1.2
二点 A(3, 2) と B(5, 8) を通る直線の式を求めよ。
【解答】
この直線の式を以下のように書く。
y = a + bx
この直線の傾き b は,
b=
∆x
8−2
=
=3
∆y
5−3
この直線が点 A(3, 2) を通ることを利用して,
a = 2 − 3 × 3 = −7
したがって,二点 A(3, 2) と B(5, 8) を通る直線の式は,
y = −7 + 3x
(解答終わり)
第 1 章 一次関数
10
C(Y )
Y
0
図 1.4 消費関数のグラフ
1.3 定義域と値域
独立変数のとりうる範囲を定義域,従属変数のとりうる範囲を値域という。たとえば,
消費関数が以下のような一次関数で表されるとしよう。
C(Y ) = 100 + 0.8Y
(1.9)
すなわち,所得がゼロのとき消費は 100 で,所得が 1 だけ増えるごとに消費は 0.8 だけ増
える。消費関数の傾きは限界消費性向と呼ばれる。この消費関数の場合,限界消費性向は
0.8 である。
所得は負にはならないため,この関数の定義域は Y ≥ 0 である。それに対応して消費
額は C ≥ 100 となるから,この関数の値域は C ≥ 100 ということになる。
関数のグラフを描くときには,定義域と値域を考慮して必要な部分だけを描けばよい。
多くの経済変数は負の値をとらないため,経済学で用いられるグラフは第一象限(原点よ
りも右上)だけ描かれることが多い。たとえば上記の消費関数の場合,所得も消費も負に
なることはないため,図 1.4 のようにグラフを描けばよい。
1.4 応用例:需要関数・供給関数と市場均衡
まず,財の価格と需要量の関係について考えよう。財の需要量はその財の価格に依存し
て決まっており,この関係を以下のように書こう。
D = D(P )
(1.10)
1.4 応用例:需要関数・供給関数と市場均衡
11
ここで,D はこの財に対する需要量を,P はこの財の価格を表す。すなわち,需要量 D
は価格 P の関数である。(1.10) 式は価格 P が決まればそれに応じて需要量 D が決まる
ということを意味しており,需要関数あるいは需要曲線と呼ばれる。
財の価格が上昇するとその財に対する需要量は減少するため,D と P は負の関係にあ
り,需要曲線は右下がりである 。いま,需要関数の関数形が以下のように直線で与えられ
るとしよう。
D = D(P ) = 1700 − 5P
(1.11)
すなわち,価格がゼロのときには需要量が 1700 で,価格が 1 円上昇するごとに需要量は
5 だけ減少する。価格が 340 円になれば需要量はゼロとなり,価格が 340 円を上回れば需
要量は,計算上負の値となる。しかし,実際には価格が 340 円を上回ったとき,需要量は
価格に関係なくゼロであり,負の需要量というのは意味をなさない。したがって,より厳
密には需要関数は,以下のように書くべきである。
{
1700 − 5P
D(P ) =
0
(P ≤ 340 のとき)
(P ≥ 340 のとき)
しかし,需要量が需要量が負になることがないことは明らかなので,簡単化のため需要曲
線は (1.11) 式のように表すことにする。
次に財の価格と供給量の関係について考えよう。財の価格が上昇すれば,その財の供給
量は増加する。この関係は供給関数あるいは供給曲線と呼ばれる。需要曲線と同様に供給
曲線も直線で表されるとしよう。
S = S(P ) = −100 + 4P
(1.12)
価格がゼロ円のときには供給量は計算上マイナス 100 であり,価格が 1 円上昇するごと
に供給量は 4 だけ増加する。需要量の場合と同様に,負の供給量というのも意味をなさな
い。供給量が正の値になるのは価格が 25 円よりも高いときなので,価格が 25 円よりも低
いときには供給量はゼロである。したがって,より厳密には,供給関数は以下のように書
くべきである。
{
S(P ) =
0
−100 + 4P
(P ≤ 25)
(P ≥ 25)
煩雑さを避けるため,需要関数と同様に,供給関数も (1.12) 式のように表すことにする。
ここでは,需要関数および供給関数を一次関数で表したが,もちろん,現実に価格と需
要量や供給量との関係が単純にこのような直線で捉えられるわけではない。しかし,重要
第 1 章 一次関数
12
なのは価格が上昇すれば需要量は減少し,供給量が増加するという性質であり,それらの
性質によって市場がどのように機能するのかを知ることが目的であれば,単純化のため需
要曲線が直線で表されると仮定しても十分な分析を行うことができる。
ここで,需要曲線と供給曲線をグラフに描いてみよう。需要関数や供給関数は,価格が
独立変数,需要量や供給量といった数量が従属変数なので,価格を横軸に,数量を縦軸に
とってグラフを描くのが普通であるが,経済学においては価格を縦軸に,数量を横軸に
とってグラフを描くという慣習がある。はじめは混乱するかもしれないが,慣れるように
しよう。
参考のためにまず,価格を横軸に,数量を縦軸にとってグラフを描いてみよう(図 1.5)
。
需要曲線は切片が 1700 で傾きが −5,供給曲線は切片が −100 で傾きが 4 の直線である。
次に,価格を縦軸に,数量を横軸にとってグラフを描き直そう(図 1.6)
。グラフの縦軸
と横軸を入れ替えても,需要曲線はやはり右下がり,供給曲線はやはり右上がりとなる。
ただし,縦軸と横軸を入れ替えることによって,需要曲線や供給曲線のグラフの傾きが逆
数となることに注意しよう。数量を縦軸にとった場合に傾きが急であった需要曲線や供給
曲線は,価格を縦軸に取った場合には水平に近くなる。
財の価格が決まれば,その財に対する需要量が需要関数によって,供給量が供給関数に
よって与えられる。たとえば,P = 300 であれば,
D = D(300) = 1700 − 5 × 300 = 200
S = S(300) = −100 + 4 × 300 = 1100
したがって,価格が 300 であれば供給量が需要量を 900 だけ上回る。このような状況を
900 の超過供給が生じるという。
また,P = 100 であれば,
D = D(300) = 1700 − 5 × 100 = 1200
S = S(300) = −100 + 4 × 100 = 300
したがって,価格が 100 であれば需要量が供給量を 900 だけ上回る。このような状況を
900 の超過需要が生じるという。
それでは,需要量と供給量がちょうど等しくなるような価格はいくらだろうか。そのよ
うな価格を P ∗ とすれば D(P ∗ ) = S(P ∗ ) より,
1700 − 5P ∗ = −100 + 4P ∗
(1.13)
これを P ∗ について解くと,P ∗ = 200 となる。価格が 200 のとき需要量と供給量は
D(200) = S(200) = 700 となる。このように,需要量と供給量が等しくなる状況を市場
1.4 応用例:需要関数・供給関数と市場均衡
13
D, S
1700
S = −100 + 4P
D = 1700 − 5P
0
P
25
340
-100
図 1.5 需要曲線と供給曲線(価格を横軸に)
P
S = −100 + 4P
340
25
D = 1700 − 5P
D, S
0
1700
図 1.6 需要曲線と供給曲線(価格を縦軸に)
第 1 章 一次関数
14
均衡といい,そのときの価格を均衡価格,取引数量(=需要量=供給量)を均衡数量と
いう。
図 1.6 からも明らかなように,価格が均衡価格よりも高ければ超過供給が生じ,均衡価
格よりも低ければ超過需要が生じる。超過供給が生じると,市場では財が売れ残るため,
財をすべて売り切ろうとして価格が低下する。一方,超過需要が生じると,市場では財が
品不足となり,消費者はより高い価格を支払ってでもこの財を購入しようとするため価格
が上昇する。このように,市場では需要と供給が均衡するように価格が調整される。
例題 1.3
ある財の需要関数,供給関数がそれぞれ以下のように与えられているとする。
D(P ) = 3000 − 4P
S(P ) = −500 + 6P
(1) 価格が 400 のとき,需要量および供給量はそれぞれいくらか。また,このとき超
過需要,超過供給のいずれがどれだけ生じるか。
(2) 価格が 200 のとき,需要量および供給量はそれぞれいくらか。また,このとき超
過需要,超過供給のいずれがどれだけ生じるか。
(3) 市場均衡価格と均衡数量を求めよ。
【解答】
(1) P = 400 のとき,
D = D(400) = 3000 − 4 × 400 = 1400
S = S(400) = −500 + 6 × 400 = 1900
したがって,超過供給が 500 だけ生じる。
(2)P = 200 のとき,
D = D(200) = 3000 − 4 × 200 = 2200
S = S(200) = −500 + 6 × 200 = 700
したがって,超過需要が 1500 だけ生じる。
(3) 均衡価格を P ∗ とする。D(P ∗ ) = S(P ∗ ) なので,
3000 − 4P ∗ = −500 + 6P ∗
1.5 逆関数
15
これを P ∗ について解くと,P ∗ = 350 である。また,均衡数量を Q∗ とすると,
Q∗ = D(P ∗ ) = S(P ∗ ) = 1600
したがって,均衡価格は 350,均衡数量は 1600 である。
(解答終わり)
1.5 逆関数
ある財の需要関数が以下のように表されるとしよう。
D = D(P ) = a − bP
(1.14)
ここで,D は需要量を,P は価格を表す。この需要関数は,ある財の価格が 1 だけ上昇
すると,その財に対する需要量が b だけ減少することを表している。
この需要関数の独立変数は P ,従属変数は D である。しかし,いま逆に需要量 D の方
がわかっているとすれば,その需要量をもたらす価格 P を求めることができる。
P = P (D) =
1
a 1
(a − D) = − D
b
b
b
(1.15)
このように独立変数と従属変数を入れ替えた関数を逆関数といい,f (x) の逆関数を f −1
と書く。特に、需要関数の逆関数を逆需要関数という。
逆関数というのは,必ずしも存在するとは限らない。たとえば,f (x) = x2 という関数
を考えよう。この関数の値が 4 であるとすれば,x の値は 2 か −2 のどちらかである。関
数の定義は,独立変数の値が決まれば従属変数の値が一意に決まるというものであるのか
ら,f (x) = x2 の逆関数は存在しないということになる。
たとえば,前節と同様に需要関数が以下のように表されるとしよう。
D = D(P ) = 1700 − 5P
(1.16)
1
P = P (D) = 340 − D
5
(1.17)
このとき,逆需要関数は,
したがって,価格を縦軸に,数量を横軸にとってこの需要関数のグラフを描くと,切片が
340,傾きが − 15 の直線となる(図 1.6)。
第 1 章 一次関数
16
1.6 弾力性
価格の変化に対して需要量,供給量が大きく反応するとき,需要,供給は(価格に関し
て)弾力的であるという。一方,価格の変化に対する需要量,供給量の反応が小さいとき,
需要,供給は(価格に関して)非弾力的であるという。
需要関数が D = a − bP ,供給関数が S = −c + dP で表されている場合,b の値が大き
いほど需要は価格に関して弾力的である。また,d の値が大きいほど,供給量は価格に関
して弾力的である。
価格を縦軸に,数量を横軸に取った場合,需要曲線や供給曲線が水平に近いほど価
格弾力性が大きく,垂直に近いほど価格弾力性が小さい。需要曲線や供給曲線が水平
(b, d = ∞)であるとき,需要あるいは供給は完全弾力的であるといい,需要曲線や供給
曲線が垂直(b, d = 0)であるとき,需要あるいは供給は完全非弾力的であるという(図
1.7)。
需要や供給の価格変化に対する反応の大きさを測る指標として用いられるのが価格弾力
性である。一般に y の x に関する弾力性とは,x が 1% 変化したときそれに反応して y が
何 % 変化するかを表す数値である。したがって,需要の価格弾力性(需要の価格に関す
る弾力性)とは,価格が 1% 変化したときに需要量が何 % 変化するかという値である。
P
P
P
S
D
(a) 完全弾力的
D, S
D, S
(b) 完全非弾力的
図 1.7 弾力性とグラフ
D, S
(c) 供給の方が弾力的
1.6 弾力性
17
弾力性
【定義】y の x に関する弾力性 ε:
ε=
∆y/y
∆y x
=
·
∆x/x
∆x y
定義より,需要の価格弾力性は以下のように書くことができる。
ε=
∆D/D
∆P/P
(1.18)
分子が需要量の変化率,分母が価格の変化率を表しているため,ε は価格の変化 1% あた
り需要量が何 % 変化したかを表している。
また,この式は以下のように書き直すことができる。
∆D P
·
∆P D
ε=
(1.19)
ここで,需要曲線が D = a − bP という直線の場合, ∆D
∆P は需要曲線(直線)の傾きで
ある。したがって,需要曲線が直線で表される場合,∆D
∆P は −b となり一定である。一方,
P
D
の値は一定ではないため,需要の価格弾力性は直線のどの部分で計測するかによって
変化する。
たとえば,需要関数が以下のように表されるとしよう。
D = D(P ) = 1700 − 5P
(1.20)
P
∆D P
·
= −5 ·
∆P D
D
(1.21)
需要の価格弾力性は,
ε=
価格が 300 のときのこの財の需要の価格弾力性を求めてみよう。価格 P = 300 のときの
需要量 D は D = 1700 − 5 × 300 = 200 なので,
ε = −5 ·
300
= −7.5
200
(1.22)
また,価格が 200 のときの需要の価格弾力性は同様に,
ε = −5 ·
200
= −1.429
700
(1.23)
価格が上昇すれば需要量は減少するため,(1.18) 式の値は負となる。そのため,価格の
変化に対する需要量の反応の大きさ(減り方)は,(1.18) 式の値が小さいほど大きい。しか
第 1 章 一次関数
18
し,反応が大きい場合に弾力性が大きいと表現する方が直感に合致しているので,弾力性
は絶対値で定義されることが多い。これは傾きも同様である。たとえば,D = 1700 − 5P
の場合では,価格が 300,200 のときの弾力性はそれぞれ絶対値の 7.5,1.429 であるとす
る。価格が 1% 変化したときの需要量の減少は,(絶対値で表された)弾力性が大きいの
で,価格が 300 のときの方が大きい。
例題 1.4
ある財の需要関数,供給関数がそれぞれ以下のように与えられているとする。
D(P ) = 2400 − 3P
S(P ) = 5P
このとき,均衡における需要の価格弾力性および供給の価格弾力性を求めよ。需要と供
給はどちらの方が弾力的か。
【解答】
まず,均衡価格と均衡数量を求める。均衡価格を P ∗ とすれば D(P ∗ ) = S(P ∗ ) なので,
2400 − 3P ∗ = 5P ∗
これを P ∗ について解くと,P ∗ = 300。また,均衡数量を Q∗ とすれば Q∗ = D(P ∗ ) =
S(P ∗ ) = 1500。
したがって,市場均衡 (300, 1500) における需要の価格弾力性 εD ,供給の価格弾力
性 εS はそれぞれ,
∆D P 300 ε =
·
= −3 ·
= 0.6
∆P D 1500 ∆S P 300 S
·
= 5·
=1
ε =
∆P S 1500 D
したがって,供給の方が需要よりも弾力的である。
(解答終わり)
一般に y が x の一次関数である場合(すなわち直線の場合),y の x に関する弾力性は
一定ではなく,直線のどの部分で計測するかに依存して変化する。しかし,原点を通る直
線 y = bx の場合,y の x に関する弾力性は,
ϵ=
∆y x
x
· =b·
=1
∆x y
bx
(1.24)
1.7 比較静学
19
すなわち,原点を通る直線の場合,弾力性は 1 で一定である。
1.7 比較静学
ある財の需要関数 D(P ) と供給関数 S(P ) がそれぞれ以下のように表されるとしよう。
D(P ) = a − bP
(1.25)
S(P ) = −c + dP
(1.26)
ただし,a, b, c, d > 0 であるとする。このとき,市場均衡価格 P ∗ と均衡数量 Q∗ を
a, b, c, d を用いて表してみよう。
均衡価格 P ∗ のもとでは需要量と供給量が一致するから,
a − bP ∗ = −c + dP ∗
(1.27)
これを P ∗ について解けば,
P∗ =
a+c
b+d
(1.28)
均衡数量は,
a(b + d) − b(a + c)
ad − bc
a+c
=
=
b+d
b+d
b+d
a
+
c
−c(b
+
d)
+
d(a
+
c)
ad − bc
= S(P ∗ ) = −c + d ·
=
=
b+d
b+d
b+d
Q∗ = D(P ∗ ) = a − b ·
(1.29)
需要曲線および供給曲線は,ある財の価格とその財の需要量および供給量の関係を表し
ている。しかし,実際には需要量や供給量はその財の価格以外にも人々の所得や関連する
他の財の価格などさまざまな要因に依存している。それでは所得などその財の価格以外の
要因が変化すれば,モデルの中ではどのようなことが生じるだろうか。
ここでは簡単化のため,ある財の需要量に影響を与える要因がその財の価格と所得の二
つだけであると考えよう。需要曲線は他の要因をすべて一定として,ある財の価格が変化
したときにその財の需要量がどのように反応するかを表している。すなわち,需要曲線は
所得が一定の水準に固定されたもとでの価格と需要量の組み合わせを表している。
ここで何らかの理由で人々の所得が増加したとしよう。この財が上級財であれば,所得
の増加により需要量が増加する。すると,この財の価格が同じであっても,この財に対す
る需要量は所得の増加前よりも増加後の方が大きくなる。そのため,新しい所得のもとで
の需要曲線は,もとの需要曲線よりも右側に位置することになる。
第 1 章 一次関数
20
このように,モデルの中では明示的に現れない変数が変化することで生じる需要の変化
は,需要曲線や供給曲線が移動することによって表現される。
需要曲線が移動すれば供給曲線との交点で表される均衡点も移動する。モデルの中の変
数(価格)以外の要因(たとえば所得)が変化したときに,均衡がどのように移動するか
を分析することを比較静学*3 という。
いま,需要関数と供給関数がそれぞれ (1.25),(1.26) 式で表されているとする。ここで
家計の所得が増加し,どのような価格のもとでも需要量が以前より e だけ増加したとしよ
う。すなわち,増加した所得のもとでの需要曲線 D new (P ) は,以前の需要曲線 D(P ) よ
りも水平(右方向)に e だけ移動したものとなる。
Dnew (P ) = (a + e) − bP
(1.30)
所得の増加などのように,需要曲線が移動するような出来事を需要ショック*4 という。
需要ショックが起こり需要曲線が移動すると,供給曲線との交点である均衡点も移動する
P
S = c + dP
P ∗∗
e
b+d
P∗
Dnew = (a + e) − bP
de
b+d
Q∗
Q∗∗
図 1.8
*3
D = a − bP
a
a+e
D, S
比較静学
比較静学 (comparative statics) という用語は,経済学以外の分野ではあまり用いられることがない。他
の分野では感応度分析 (sensitivity analysis) などと呼ばれることが多い。
*4 技術革新による費用の低下など,供給曲線が移動するような出来事は供給ショックという。
1.7 比較静学
21
P
S ′ = c′ + d ′ P
B
S = c + dP
C
A
Dnew
D
D, S
図 1.9 供給の弾力性と均衡の変化
(図 1.8)。新しい均衡点 (P ∗∗ , Q∗∗ ) は,(1.28) 式と (1.29) 式の a を a + e に置き換えれ
ば求めることができる。
a+c
e
(a + e) + c
=
+
b+d
b+d b+d
ad − bc
de
(a + e)d − bc
=
+
=
b+d
b+d
b+d
P ∗∗ =
(1.31)
Q∗∗
(1.32)
すなわち,需要曲線が e だけ平行移動すると,価格は
e
b+d
だけ上昇し,取引数量は
de
b+d
だけ増加するということがわかる。
価格の変化
e
b+d
は b や d の値が大きいほど小さい。すなわち,需要ショックに対する
価格の反応は,需要や供給の価格弾力性が大きいほど小さい。一方,取引数量の変化
de
b+d
は,b の値が大きいほど小さく,d の値が大きいほど大きい。すなわち,需要ショックに
対する取引数量の反応は,需要の価格弾力性が大きいほど小さく,供給の価格弾力性が大
きいほど大きい。
図 1.9 は,需要曲線が D から D new に移動したとき,均衡点の変化が供給の価格弾力
性によってどのように異なるかを示したものである。供給量の価格に対する反応は,実線
で描かれた供給曲線 S ′ が d′ ,破線で描かれた供給曲線 S が d であり,d > d′ である。す
なわち,供給曲線 S の方が価格弾力性が大きい。需要曲線が D から D new に移動したと
き,均衡点は当初の A から供給曲線上を移動する。供給曲線が S であれば新しい均衡点
22
第 1 章 一次関数
は C であり,供給曲線が S ′ であれば新しい均衡点は B である。供給曲線が価格に対し
てより弾力的な S の場合の方が,需要ショックによる価格変化が小さく,取引数量の変化
が大きいことがわかる。
23
第2章
二次関数
ここまでは,需要曲線や供給曲線が直線で表されるとして均衡価格や均衡数量を求めた
り,比較静学を行った。これは,もちろん現実に需要曲線や供給曲線が直線となっている
と考えているわけではない。価格の変化に対して需要量や供給量が増加するのか減少する
のか,価格以外の条件が変化したときに均衡はどちらの方向に移動するのかといったこと
を分析するためには,需要曲線や供給曲線を直線と仮定しても十分だからである。
しかし,多くの経済変数の間の関係というのは,必ずしも線形を仮定することが適切で
はない。たとえば企業の生産量と利潤の関係が一次関数で表されるのであれば,生産量を
増やせば増やすほど利潤が同じ割合で増えるので,企業にとって最適な生産量の決定とい
う問題は存在しなくなる。
線形ではない関数のうち,経済学でよく用いるのは二次や三次といった高次の関数や,
指数・対数関数などである。ここではまず,非線形の関数のうち最も基本的な二次関数を
取り扱う。
2.1 二次関数
y が x の関数であり,その関数形が以下のように表されるとする。
y = f (x) = ax2 + bx + c
(2.1)
このとき,y は x についての二次関数であるという。
a = 1,b = c = 0 の場合,すなわち y = x2 のグラフから確認しよう。まず,x のいく
つかの値について,それぞれ y がどのような値をとるかを調べて表を作成する。
この表をもとにグラフを描くと,図 2.1 のような上に開いた放物線となる。この関数は
第 2 章 二次関数
24
y
x
0
図 2.1
y = x2 のグラフ
x の値
···
−3
−2
−1
0
1
2
3
···
y の値
···
9
4
1
0
1
4
9
···
表 2.1 x と y の関係
x が 0 のときに y が最小値 0 となり,その周りで左右対称となっている。
次に,y = ax2 のグラフを考えよう。このグラフは y = x2 のグラフを原点を起点とし
て y 軸方向に a > 1 なら拡大,0 < a < 1 なら縮小したものとなる。また,a < 0 であれ
ば,y = ax2 のグラフは下に開いた放物線となる。y = ax2 と y = −ax2 のグラフは x 軸
を挟んで上下対称である(図 2.2)。
一般的な二次関数 y = ax2 + bx + c のグラフは,y = ax2 のグラフと同じ形のまま,平
行移動したものとなる。そのことを確かめるため,(2.1) 式を以下のように書き直そう。
]
[
b
c
2
y =a x + x+
a
a
[(
]
)2 ( )2
b
b
c
=a x+
−
+
2a
2a
a
(
)2
b2 − 4ac
b
−
=a x+
2a
4a
(2.2)
2.1 二次関数
25
y
a=3
a=1
x
0
a = −1
a = −3
図 2.2
2
y = ax のグラフ
二次関数を上の式のように書き直すことを,二次関数を平方完成するという。
b
したがって,y = ax2 + bx + c のグラフは,y = ax2 のグラフを x 軸の正の方向に − 2a
2
だけ,y 軸の正の方向に − b
−4ac
4a
2
だけ平行移動した曲線となる(図 2.3)。
2
b
ここで重要なのは,y = ax + bx + c のグラフの頂点が (− 2a
, −b
−4ac
4a )
であるという
b
ことである。言い換えると,この関数は x = − 2a
で最小値(a > 0 の場合)または最大
2
値(a < 0 の場合)をとり,その最小値または最大値は − b
−4ac
4a
である。
二次関数の平方完成
二次関数 y = ax2 + bx + c を平方完成すると,
y = ax2 + bx + c
)2
(
b
b2 − 4ac
=a x+
−
2a
4a
b
したがって,二次関数 y = ax2 + bx + c は x = − 2a
で最小値(a > 0 の場合)また
2
は最大値(a < 0 の場合)をとり,その最小値または最大値は − b
−4ac
4a
である。
第 2 章 二次関数
26
y
y = ax2
y = ax2 + bx + c
b
− 2a
x
0
−b
図 2.3
例題 2.1
2
−4ac
4a
y = ax2 + bx + c のグラフ
以下の二次関数が最小となるような x と,そのときの y の値を求めよ。
y = f (x) = 2x2 + 4x + 4
【解答】
この式を平方完成すると,
y = 2[x2 + 2x + 2]
= 2(x + 1)2 + 2
したがって,この二次関数は x = −1 のときに最小値 y = 2 をとる(図 2.4)
。
(解答終わり)
2.2 二次方程式
27
30
f (x)
25
f (x)
20
15
10
5
0
−3
−2
−1
0
x
1
2
3
図 2.4 y = 2x2 + 4x + 4 のグラフ
2.2 二次方程式
以下のような方程式を考えよう。
ax2 + bx + c = 0
(2.3)
この方程式の解は f (x) = ax2 + bx + c の値が 0 となるような x の値なので,y =
ax2 + bx + c のグラフが x 軸と交わる点で与えられる。
まず,a > 0 の場合を考えよう。y = ax2 のグラフは x = 0 のときに最小値 0 をとり,
この点で x 軸と接する。この点以外に y = 0 となる点はないので,ax2 = 0 という方程式
の解は一つ*1 で,x = 0 である。y = ax2 のグラフを y 軸の負の方向(下方向)に平行移
動させると,グラフと x 軸の交点は二つになる。また,y = ax2 のグラフを y 軸の正の方
向(上方向)に平行移動させると,そのグラフと x 軸は交わらなくなる。以上のことか
*1
重解という。
第 2 章 二次関数
28
(a) b2 − 4ac = 0
(b) b2 − 4ac > 0
y
(c) b2 − 4ac < 0
y
x
y
x
0
0
x
0
図 2.5 二次方程式の解(a > 0)
(a) b2 − 4ac = 0
(b) b2 − 4ac > 0
y
0
(c) b2 − 4ac < 0
y
0
x
y
x
0
図 2.6 二次方程式の解(a < 0)
ら,二次方程式の実数解は (a) 一つ,(b) 二つ,(c) 存在しないの三つ場合があることがわ
かる(図 2.5)
。
(2.2) 式により,y = ax2 + bx + c のグラフは y = ax2 のグラフを y 軸の負の方向(下
b2 −4ac
だけ平行移動したものであるから,a > 0 の場合,y = ax2 + bx + c と x
4a
2
軸の交点は, b −4ac
が正であれば二つ,0 であれば一つ,負であれば存在しない。いま,
4a
b2 −4ac
a > 0 であるから 4a の符号は,分子である b2 − 4ac の符号に等しい。したがって,
2
方向)に
(2.3) 式を満たす実数解は,b − 4ac が正であれば二つ,0 であれば一つ,負であれば存
在しない*2 。b2 − 4ac は判別式と呼ばれる。
次に,a < 0 の場合を考えよう。y = ax2 のグラフは下に開いた放物線となるため,
y = ax2 + bx + c と x 軸の交点は, b
*2
2
−4ac
4a
が負であれば二つ,0 であれば一つ,正であれ
b2 − 4ac が負であれば,この二次方程式は二つの虚数解をもつ。
x
2.2 二次方程式
29
ば存在しない。いま,a < 0 であるから
b2 −4ac
4a
の符号は,分子である b2 − 4ac の符号と
逆になる。したがって,a > 0 の場合と同様に (2.3) 式を満たす実数解は,b2 − 4ac が正
であれば二つ,0 であれば一つ,負であれば存在しない(図 2.6)。
b2 − 4ac ≥ 0 であれば,方程式 ax2 + bx + c = 0 に実数解が存在することがわかった
が,それではその解はどのように求められるだろうか。(2.2) 式を利用すれば,この二次
方程式は以下のように書き直すことができる。
(
b
a x+
2a
)2
b2 − 4ac
=0
4a
−
(2.4)
左辺第二項を右辺に移行すると,
(
b
a x+
2a
)2
=
b2 − 4ac
4a
この式の両辺を a で割ると,
(
b
x+
2a
)2
=
b2 − 4ac
4a2
ここで,両辺の平方根をとると,
√
± b2 − 4ac
b
=
x+
2a
2a
最後に左辺第二項を右辺に移項すると,
−b ±
x=
√
b2 − 4ac
2a
二次方程式の解の公式と判別式
(2.5)
二次方程式 ax2 + bx + c = 0 の解の公式:
x=
−b ±
√
b2 − 4ac
2a
判別式:
D = b2 − 4ac
D > 0:実数解は二つ
D = 0:実数解は一つ(重解)
D < 0:実数解は存在しない。
第 2 章 二次関数
30
例題 2.2
以下の二次方程式の解を求めよ。
(1) x2 − 2x − 8 = 0
(2) 2x2 + 8x + 12 = 4
【解答】
(1) 解の公式により,
x=
−(−2) ±
√
(−2)2 − 4 × 1 × (−8)
2±6
=
2×1
2
したがって,x = −2, 4。
(2) 解の公式を適用できるように移項すると,
2x2 + 8x + 8 = 0
解の公式により,
x=
−8 ±
√
82 − 4 × 2 × 8
−8 ± 0
=
2×2
4
したがって,x = −2(重解)。
(解答終わり)
【別解】
因数分解を用いても解くことができる。
(1) (x + 2)(x − 4) = 0 ⇒ x = −2, 4
(2) 2(x + 2)2 = 0 ⇒ x = −2
(別解終わり)
2.3 応用例:賃金プロファイル
31
2.3 応用例:賃金プロファイル
年齢とともに賃金がどのように変化するかを表したものを賃金プロファイルという。い
ま,ある企業の従業員の平均的な賃金(月額)が以下のように表されるとしよう。
w = f (x) = 12000 + 15000x − 150x2
(2.6)
ここで w は賃金,x は従業員の年齢を表す。この賃金プロファイルをグラフにしたものが
図 2.7 である。賃金は当初年齢とともに上昇するが,その上昇額は徐々に小さくなってい
き,ある年齢を過ぎると逆に賃金が下がりはじめる。
(2.7) 式は以下のように書き直すことができる。
w = −150(x2 − 100x − 80)
= −150[(x − 50)2 − 2580]
= −150(x − 50)2 + 387000
この式より関数 f (x) は x = 50 のとき最大値 387,000 となる。したがって,この企業の
従業員は 50 歳のときに最も賃金が高くなり,そのときの賃金は 38 万 7 千円となること
がわかる。
次に,この企業の従業員の賃金が 37 万 2 千円となる年齢を求めてみよう。
12000 + 15000x − 150x2 = 372000
(2.7)
−150x2 + 15000x − 360000 = 0
(2.8)
この式を書き直すと,
両辺を −150 で割ると,
x2 − 100x + 2400 = 0
解の公式より,
x=
100 ±
√
= 50 ± 10
1002 − 4 × 1 × 2400
2×1
したがって,賃金が 37 万 2 千円となるのは 40 歳のときと 60 歳のときである。
第 2 章 二次関数
32
40
w = f (x)
38
月額賃金(w 万円)
36
34
32
30
28
26
24
22
20
25
30
35
40
45
年齢 (x)
図 2.7 賃金プロファイル
50
55
60
65
33
第3章
関数の微分
3.1 接線の傾きと微分の概要
関数 f (x) において,x の値が ∆x だけ増加した場合を考えよう。このとき関数 f (x) の
値の変化は,
f (x + ∆x) − f (x)
(3.1)
である。したがって,x の変化 1 単位あたりの f (x) の値の変化は,
f (x + ∆x) − f (x)
∆x
(3.2)
と書くことができる。
いま,f (x) = a + bx であれば,(3.2) 式はこの直線の傾きを表し,∆x の大きさにに
関わらず値は一定である。しかし,f (x) が直線ではない場合は,∆x の大きさによって
(3.2) 式の値も変化する。
図 3.1 において,x の値が始点 xO から終点 xA に ∆x だけ変化したとしよう。すなわ
ち,∆x = xA − xO である。このとき,(3.2) 式の値は直線 OA の傾きとなる。
ここで,∆x を少しずつ小さくしていこう。すなわち,終点を A 点から f (x) のグラ
フ上を移動させ O 点に近づけていく。たとえば,終点を B 点まで移動すれば (3.2) 式の
値は直線 OB の傾きとなる。さらに,∆x を小さくしてゼロに近づけていくと,O 点と
x = xO + ∆x における f (x) 上の点 (xO + ∆x, f (xO + ∆x)) を通る直線の傾きは,f (x)
の O 点における接線の傾きに近づいていく。そして,∆x を限りなくゼロに近づければ,
(3.2) 式の値は f (x) の O 点における接線の傾きに一致する。すなわち,f ′ (x) を以下のよ
第3章
34
関数の微分
A
B
O
xO
xA
∆x
図 3.1 微分と接線の傾き
うに定義すれば,
f (x + ∆x) − f (x)
∆x→0
∆x
f ′ (x) = lim
(3.3)
は f (x) の O 点における接線の傾きとなる*1 。f ′ (x) を f (x) の導関数と呼び,導関数を求
めることを f (x) を x について微分するという。
微分については,いろいろな書き方があり,
f ′ (x),
df (x)
,
dx
d
f (x),
dx
y′ ,
dy
,
dx
d
y
dx
などはすべて,f (x) を x で微分した導関数を表す。
関数の導関数を求める,あるいは関数を微分することにより,どのようなことがわかる
だろうか。最も重要なことは,f (x) の導関数の値が正であれば,x を微少に増加させたと
き,f (x) の値は増加するということである。逆に,f (x) の導関数の値が負であれば,x を
微少に増加させたとき,f (x) の値は減少する。したがって,導関数の値を調べることによ
り,x を変化させたときに f (x) の値がどのように変化するのかを判断することができる。
微分に関しては,いくつかの便利な公式がある。まず,よく利用されるのが以下の公式
である。
*1
lim というのは,∆x を限りなくゼロに近づけたときの極限の値という意味である。
∆x→0
3.1 接線の傾きと微分の概要
35
微分の公式 (1)
xn の微分:
f (x) = xn
⇒
f ′ (x) = nxn−1
定数の微分:定数 c は x の値に依存しない(x が変化しても c 変化しない)ので,微
分すれば 0 となる。
dc
=0
dx
また,以下の公式を覚えておくと役に立つ。
微分の公式 (2)
関数の定数倍の微分:h(x) = cf (x) とすれば,
h′ (x) = cf ′ (x)
関数の和の微分:h(x) = f (x) + g(x) とすれば,
h′ (x) = f ′ (x) + g ′ (x)
関数の差の微分:h(x) = f (x) − g(x) とすれば,
h′ (x) = f ′ (x) − g ′ (x)
関数の積の微分:h(x) = f (x) · g(x) とすれば,
h′ (x) = f ′ (x)g(x) + f (x)g ′ (x)
関数の商の微分:h(x) =
f (x)
とすれば,
g(x)
h′ (x) =
f ′ (x)g(x) − f (x)g ′ (x)
(g(x))2
合成関数の微分:h(x) = f (g(x)) とすれば,
h′ (x) = f ′ (g(x)) · g ′ (x) =
df dg
dg dx
第3章
36
例題 3.1
関数の微分
次の関数を x について微分せよ。
(1) h(x) = 2x3 − 3x2 + 4x + 4
(2) h(x) = (x2 + 4)(2x + 1)
x2 + 4
(3) h(x) =
2x + 1
(4) h(x) = (x2 + x − 1)3
【解答】
(1) f (x) = 2x3 ,g(x) = 3x2 ,z(x) = 4x,c = 4 とおけば,h(x) = f (x)+g(x)+z(x)+c
である。和の微分・差の微分の公式より,
h′ (x) = f ′ (x) − g ′ (x) + z ′ (x) + 0
= 6x2 − 6x + 4
(2) f (x) = x2 + 4,g(x) = 2x + 1 とおけば,h(x) = f (x) · g(x) である。積の微分の
公式より,
h′ (x) = f ′ (x)g(x) + f (x)g ′ (x)
= 2x(2x + 1) + (x2 + 4) · 2
= 4x2 + 2x + 2x2 + 8
= 6x2 + 2x + 8
(3) f (x) = x2 + 4,g(x) = 2x + 1 とおけば,h(x) =
f (x)
である。商の微分の公式
g(x)
より,
f ′ (x)g(x) − f (x)g ′ (x)
(g(x))2
2x(2x + 1) − (x2 + 4) · 2
=
(2x + 1)2
2x2 + 2x − 8
= 2
4x + 4x + 1
h′ (x) =
(4) f (g(x)) = [g(x)]2 ,g(x) = x2 + x − 1 とおけば,h(x) = f (g(x)) である。合成関
3.2 接線による関数の動きの近似
37
数の微分の公式より,
df dg
dg dx
dg
= 2g ·
dx
= 2(x2 + x − 1)(2x + 1)
h′ (x) =
(解答終わり)
3.2 接線による関数の動きの近似
まず,関数 f (x) の x = a における接線の式を求めよう。導関数の値は接線の傾きを表
すので,関数 f (x) の x = a における接線の傾きは f ′ (a) である。したがって,f (x) 上の
点 (a, f (a)) を通って,傾きが f ′ (a) の直線の式は以下で与えられる。
y = [f (a) − f ′ (a)a] + f ′ (a)x
(3.4)
接線
関数 f (x) の x = a における接線の式:
y = [f (a) − f ′ (a)a] + f ′ (a)x
次に,図 3.2 の関数 f (x) のグラフ上の点 O(x0 , f (x0 )) において,x の値が x0 から x1
に変化した場合を考えよう。x の変化分(x1 − x0 )を ∆x とすれば,O 点から f (x) のグ
ラフ上の B 点までの移動によって,y の値は BC = f (x0 + ∆x) − f (x0 ) だけ変化する。
一方で,O 点から接線上の A 点までの移動では,y の値は AC = f ′ (x0 ) · ∆x だけ変化
する。
ここで,y の関数 f (x) のグラフ上の移動 BC と,接線上の移動 AC の間には AB だけ
の差が生じているが,この差は ∆x が小さくなるにしたがって縮小していく。たとえば,
x の変化が x0 から x2 までであれば,y の関数 f (x) のグラフ上の移動は EF ,接線上の移
動は DF となり,その差は DE(< BC) となる。さらに,∆x を小さくしていけば,y のグ
ラフ上の移動と接線上の移動の差は小さなっていき,関数の値の変化 f (x0 + ∆x) − f (x0 )
は接線上の変化 f ′ (x0 ) · ∆x に近づいていく。∆x が十分に小さければ,関数の値の変化
第3章
38
y
A
関数の微分
[f (x0 ) − f ′ (x0 )x0 ] + f ′ (x0 )x
f (x)
D
B
E
F
C
x2
x1
O
x0
図 3.2
x
接線による関数の動きの近似
f (x0 + ∆x) − f (x0 ) は接線上の変化 f ′ (x0 ) · ∆x で近似することができる*2 。
関数の一次近似
関数 f (x) について,∆x が十分に小さければ,
f (x0 + ∆x) − f (x0 ) ≈ f ′ (x0 ) · ∆x
3.3 関数の極大・極小
微分を用いると,比較的容易に関数の極大や極小を求めることができる。
たとえば,以下のような関数を考えよう。
f (x) = 2x2 + 4x + 4
*2
「近似する」とは,正確に同じ値ではないが,同じ値と考えても良いくらいに近い値を求めることである。
3.3 関数の極大・極小
39
30
f (x)
25
f (x)
20
15
10
5
0
−3
−2
−1
0
x
1
2
3
図 3.3 f (x) = 2x2 + 4x + 4 の接線
この関数を x について微分する。
f ′ (x) = 4x + 4
したがって,関数 f (x) = 2x2 + 4x + 4 の x = x0 における接線の傾きは 4x0 + 4 で与
えられる。図 3.3 に図示されているように,x = −1 での接線の傾きは 0,x = 0 での接
線の傾きは 4,x = 1 での接線の傾きは 8,x = 2 での接線の傾きは 12 である。
ここで重要なことは,この関数が最小値をとる x = −1 において接線が水平,すなわち
傾きがゼロとなっていることである。
一般に関数の値が極大・極小*3 となるところでは接線が水平となるため,導関数の値が
*3
極大・極小とはその周囲で最大・最小ということである。二次関数の場合には極大であれば必ず最大,極
小であれば必ず最小であるが,一般的には極大であっても最大とは限らず,極小であっても最小とは限ら
ない。また,極大や極小はそれぞれ複数存在することもある。
第3章
40
関数の微分
0 となる。
f ′ (x) = 0
(3.5)
この条件を極大・極小の一階の条件という。
関数が極大もしくは極小となるような場所では,必ず一階の条件が満たされる。すなわ
ち,一階の条件は極大・極小の必要条件である。しかし,一階の条件が満たされていても,
それだけではその場所で関数が極大と極小のどちらとなっているのかを判断することはで
きない。また,一階の条件が満たされていても,その場所で極大にも極小にもならない場
合もある。すなわち,一階の条件は十分条件ではない*4 。
一階の条件を満たす場所で,関数が極大となるのか,極小となるのか,あるいはどちら
でもないのかを判断する方法を考えてみよう。たとえば,図 3.3 の y = 2x2 + 4x + 4 の場
合,関数が極小となる x = −1 より左側では接線の傾きは負,x = −1 ではゼロ,x = −1
より右側では正である。すなわち,極小の周辺では接線の傾きが負から正へと変化する。
逆に y = −(2x2 + 4x + 4) のように x = −1 で極大になるような関数を考えた場合,極大
の周辺では接線の傾きが正から負へと変化する。
したがって,一階の条件を満たすような場所が関数の極大なのか極小なのかを判断する
には,その周辺で接線の傾きがどのように変化するかを見ればよい。接線の傾きは f ′ (x)
で表されるから,接線の傾きがどのように変化するかは,f ′ (x) を再び x で微分してその
符号を見ることで判断することができる。f ′ (x) をさらに x で微分することを f (x) を x
に関して二階微分するといい,f (x) の二階微分を f ′′ (x) と書く。
関数が f ′ (x) = 0 で極小であれば,その場所で接線の傾きが負から正へと変化するの
で,f ′′ (x) は正になる。したがって,f (x) が f ′ (x) = 0 となる場所で極小となるための十
分条件は,
f ′′ (x) > 0
(3.6)
一方,f ′ (x) = 0 で極小であれば,その場所で接線の傾きが正から負へと変化するので,
f ′′ (x) は負になる。したがって,f (x) が f ′ (x) = 0 となる場所で極大となるための十分条
件は,
f ′′ (x) < 0
*4
(3.7)
「A であれば B である」という命題が成立するとき,B を A の必要条件といい,A を B の十分条件と
いう。たとえば,「名古屋市であれば愛知県である」という命題は正しいので,愛知県であることは名古
屋市であることの必要条件であり,名古屋市であることは愛知県であることの十分条件である。
3.3 関数の極大・極小
41
30
f (x)
20
f (x)
10
0
−10
−20
−30
−4
−3
−2
−1
図 3.4
0
x
1
2
3
4
y = x3 のグラフ
f (x)
14
12
f (x)
10
8
6
4
2
0
−3
−2
−1
図 3.5
0
x
1
2
3
y = x4 のグラフ
これらの条件を極大・極小の二階の条件という。
たとえば,y = 2x2 + 4x + 4 の場合,一階の条件は f ′ (x) = 4x + 4 = 0 であるから,
これを満たすのは x = −1 のときである。また,二階の条件は f ′′ (−1) = 4 > 0 なので,
この関数は x = −1 のとき極小値をとることがわかる。また,y = −(2x2 + 4x + 4) の場
第3章
42
関数の微分
合,一階の条件は f ′ (x) = −4x − 4 = 0 であるから,これを満たすのはやはり x = −1 の
ときである。また,二階の条件は f ′′ (−1) = −4 < 0 なので,この関数は x = −1 のとき
極大値をとることがわかる。
一階の条件が満たされていても,その点で関数の値が極大にも極小にもならない場合も
ある。たとえば,三次関数 f (x) = x3 を考えよう。f ′ (x) = 3x2 であるから,x = 0 のと
き f ′ (x) = 0 となる。しかし,図 3.4 から明らかなように,この関数は x = 0 のとき極大
でも極小でもない。このような点は,その場所で二階微分の符号が変わるため変曲点と呼
ばれ,f ′′ (x) = 0 となる。いま,f ′′ (x) = 6x であるから,f (x) は x = 0 で変曲点となる
ことがわかる。
f ′′ (x) = 0 となることは,関数がその場所で変曲点となるための十分条件ではなく,
f ′′ (x) = 0 となる場所で関数が極値となる場合もある。たとえば,f (x) = x4 であれば,
x = 0 において f ′ (x) = f ′′ (x) = 0 である。しかし,図 3.5 からも明らかなように,この
関数は x = 0 で極小となる。したがって,f ′′ (x) = 0 の場合には,二階の条件を用いて関
数が極値となるかどうかを判断することができない。
関数の極大・極小
関数 f (x) の極大点もしくは極小点の求め方:
Step 1. f ′ (x) = 0 となるような x を求める。(一階の条件)
Step 2. 上で求めたそれぞれの x について,f ′′ (x) の値を求める。(二階の条件)
1. f ′′ (x) > 0 であれば,関数 f (x) はその場所で極小。
2. f ′′ (x) < 0 であれば,関数 f (x) はその場所で極大。
3. f ′′ (x) = 0 であれば,判断できない。
例題 3.2
ある企業の労働者の賃金が,以下のような賃金プロファイルで表されている。
w = f (x) = 12000 + 15000x − 150x2
ここで,w は月額賃金,x は年齢である。このとき,この企業の労働者の賃金が最も高
くなるのは何歳のときか。
【解答】
3.4 三次関数の極大・極小
43
f (x) が極大になるための一階の条件は,
f ′ (x) = 15000 − 300x = 0
この条件を満たす x を求めると,x = 50 となる。さらに二階の条件を確認すると,
f ′′ (x) = −300 < 0
したがって,x = 50 のとき f (x) は極大である。
(解答終わり)
3.4 三次関数の極大・極小
以下のような三次関数を考えよう。
f (x) = 2x3 − 3x2 − 12x + 2
(3.8)
この関数のグラフは図 3.6 の実線で描かれている。
この関数が極大・極小・変曲点となる場所では f ′ (x) = 0(一階の条件)なので,
f ′ (x) = 6x2 − 6x − 12
= 6(x + 1)(x − 2) = 0
(3.9)
x について解くと,x = −1 もしくは x = 2 となる。したがって,f (x) は x = −1 と
x = 2 で極大・極小・変曲点のいずかとなる。極大・極小・変曲点のいずかとなるかは,
二階の条件を確認することで明らかになる。
f ′ (x) を x について微分すると,
f ′′ (x) = 12x − 6
(3.10)
x = −1 のとき,f ′′ (x) = 12 × (−1) − 6 = −18 < 0 なので,f (x) は x = −1 のとき極大
であり,極大値は f (−1) = 9 である。また,x = 2 のとき,f ′′ (x) = 12 × 2 − 6 = 18 > 0
なので,f (x) は x = 2 のとき極小であり,極小値は f (2) = −18 である。
図 3.6 には,f ′ (x) と f ′′ (x) のグラフも描かれている。f (x) が極大・極小の一階の条件
を満たす(すなわち,f ′ (x) = 0 となる)のは,f ′ (x) のグラフ(放物線)と 0 の水平線と
が交わる二点である。そのうち,極大となっている左側の交点(x = −1)では f ′ (x) が正
から負に変化しており,f ′′ (x) の値が 0 よりも小くなっている。また,極小となっている
第3章
44
関数の微分
60
f (x)
f ′ (x)
f ′′ (x)
50
40
f (x)
30
20
10
0
−10
−20
−30
−2
−1
0
1
x
2
3
4
図 3.6 三次関数の極大・極小
右側の交点(x = 2)では f ′ (x) が負から正に変化しており,f ′′ (x) の値が 0 よりも大き
くなっているということが確認できる。
例題 3.3
次の関数が極大・極小となるような x の値と,極値を求めよ。
(1) f (x) = −2x2 + 4x − 1
(2) f (x) = 2x3 + 2x2 − 2x + 3
【解答】
(1) 一階の条件は,
f ′ (x) = −4x + 4 = 0
⇒
二階の条件は,
f ′′ (x) = −4 < 0
x=1
3.5 応用例:費用関数と企業の利潤最大化
45
したがって,f (x) は x = 1 のときに極大となる。極大値は,f (1) = 1 である。
(2) 一階の条件は,
f ′ (x) = 6x2 + 4x − 2 = 0
⇒
⇒
(x + 1)(6x − 2) = 0
1
x = −1,
3
f ′′ (x) = 12x + 4 より,二階の条件は,
f ′′ (−1) = −8 < 0
1
f ′′ ( ) = 8 > 0
3
したがって,f (x) は x − 1 のとき極大となり,極大値は f (−1) = 5,x =
1
3
のとき極
小となり,極小値は f ( 13 ) ≈ 2.63 である。
(解答終わり)
3.5 応用例:費用関数と企業の利潤最大化
3.5.1 総費用関数
企業の生産量 y と,y だけの生産を行うために必要な最小の総費用 T C との関係を表す
関数を総費用関数という。
いま,総費用関数の形が具体的に以下のような三次関数で与えられているとしよう。
T C(y) =
1 3
y − 4y 2 + 20y + 20
3
(3.11)
総費用のうち, 13 y 3 − 4y 2 + 20y の部分は生産量 y に応じて変化するため,可変費用
(V C )という。また,20 の部分は生産量にかかわらず必要な費用なので固定費用(F C )
という。固定費用は生産量がゼロであっても(何も生産しなくても)必要な費用である。
この費用関数のグラフは,図 3.7(a) に表されている。生産量がゼロのときには,総費用
は固定費用である 20 となり,生産量を増加させるにしたがって総費用が増加する。
第3章
46
(a) 総費用関数
T C(y)
140
120
費用
100
80
60
40
20
0
0
2
4
6
8
10
生産量
(b) 限界費用・平均費用
50
MC
AT C
AV C
40
費用
30
20
10
0
0
2
4
6
8
生産量
図 3.7
平均総費用・平均可変費用・限界費用
10
関数の微分
3.5 応用例:費用関数と企業の利潤最大化
47
3.5.2 限界費用・平均費用・弾力性
限界費用
限界とは,「独立変数があと 1 単位変化したときに従属変数がどうなるか」という概念
である。たとえば,限界費用(marginal cost)というのはあと 1 単位生産量を増加させた
ときに必要な追加的費用のことである。また,限界収入(marginal revenue)とはあと 1
単位生産量を増加させたときに得られる追加的な収入である。
経済主体の意思決定はほとんどの場合限界的な部分で行われる。たとえば,利潤という
のは収入から費用を引いたものであるから,企業は限界収入が限界費用を上回っている限
り,生産量を増やすことにより利潤を増やすことができる。
いま,総費用関数が微分可能であるとしよう。定義上,総費用関数の y に関する微分は
以下のように表される。
T C(y + ∆y) − T C(y)
∆y→0
∆y
T C ′ (y) = lim
(3.12)
この式の右辺は,生産量を微少に増加させたとき,追加的な生産 1 単位あたりに必要な費
用を表している。したがって,費用関数が微分可能であれば,限界費用は費用関数の微分
(傾き)で表すことができる。
ここで,総費用関数が (3.11) 式で表されるとしよう。すると,限界費用(M C )は,以
下のように表される。
M C = T C ′ (y) = y 2 − 8y + 20
(3.13)
この限界費用関数を再び生産量で微分すると,
C ′′ (y) = 2y − 8
(3.14)
C
すなわち,0 ≥ y ≥ 4 であれば, dM
dy < 0 なので,生産量が大きくなるほど限界費用が
小さくなる。これを,限界費用が逓減するという。一方,y > 4 であれば,生産量が大き
くなるほど限界費用が大きくなることがわかる。このように生産量が大きくなるほど限界
費用が大きくなることを,限界費用が逓増するという。生産量と限界費用の関係は,図
3.7(b) に表されている。
厳密に言えば,費用関数が直線で表されない限り,実際に y を 1 だけ増やしたときの追
加的な費用と,微分で与えられる限界費用とは一致しない。たとえば,y = 2 から y を 1
だけ増加させたとき,実際の追加的な費用は C(3) − C(2) = 6.333 である。しかし,微分
第3章
48
関数の微分
で与えられる限界費用は C ′ (2) = 8 である。これは,実際の追加的な費用が,費用関数上
の(y = 2, 3 に対応する)二点を結んだ直線の傾きであるのに対し,微分で与えられる限
界費用は C(y) の y = 2 における接線の傾きだからである*5 。
数学的なモデルでは,特に断らない限り「限界」といえば微分のことを指す。それは,
通常の数学的なモデルにおいて生産量 y は必ずしも整数ではなく,連続的にいかなる値を
とることも可能だからである。企業は必ずしも生産量を 1 単位増やすかどうかという選択
をしているわけではなく,0.1 だけでも 0.01 だけでも生産量を増やすことが可能である。
そのため,限界による意思決定は微少な変化,すなわち微分によって行われると考えるの
である。
平均費用
平均とは,独立変数 1 単位あたりの従属変数がどれだけかということを表す。たとえ
ば,平均費用というのは生産量 1 単位あたりの費用であり,総費用関数を T C(y) とすれ
ば,平均総費用は
T C(y)
y
である。
総費用関数 T C(y) が (3.11) 式で表されているとすれば,平均総費用(AT C )は,以下
のように表される。
− 4y 2 + 20y + 20
y
20
1
= y 2 − 4y + 20 +
3
y
T C(y)
AT C =
=
y
1 3
3y
(3.15)
また,総費用は固定費用と可変費用との和で表された。
TC = FC + V C
(3.16)
したがって,平均総費用も,以下のように生産量 1 単位あたりの固定費用と可変費用との
和で表される。
AT C =
TC
FC
VC
=
+
y
y
y
(3.17)
この式の右辺第一項は,生産量 1 単位あたりの固定費用であり,平均固定費用(AF C )と
いう。また,右辺第二項は,生産量 1 単位あたりの可変費用であり,平均可変費用(AV C )
という。
*5
ただし,図 3.2 で見たように,生産量の変化が十分に小さければ費用関数上の二点を結んだ直線の傾き
は,費用関数の接線の傾きで近似することができる。
3.5 応用例:費用関数と企業の利潤最大化
49
この場合,AF C と AV C はそれぞれ以下のようになる。
20
y
1 2
AV C = y − 4y + 20
3
AF C =
(3.18)
(3.19)
生産量と AT C および AV C の関係は,図 3.7(b) に表されている。ここで,M C が
AT C および AV C の最小点を通っていることに注意しよう。生産量を 1 単位増加させる
とき必要な費用(限界費用)が,それまでの平均費用を上回れば,生産量を増加させるこ
とで平均費用は増加する。一方,それまでの平均費用よりも安い費用で生産量を 1 単位
増加させることができるのであれば,生産量を増加させることで平均費用は減少する。そ
のため,限界費用曲線が平均費用曲線よりも下に位置する領域では平均費用曲線は右下が
り,限界費用曲線が平均費用曲線よりも上に位置する領域では平均費用曲線は右上がりと
なる。したがって,平均費用曲線は必ずその最小点で限界費用曲線と交わる。
M C が必ず AT C および AV C の最小点を通ることは,数学的に以下のように示すこ
とができる。まず,AT C を y で微分すると,
(
)
dAT C
d T C(y)
=
dy
dy
y
T C ′ (y) · y − T C(y)
=
y2
(3.20)
ここで,T C ′ (y) = M C である。また,AT C の最小点では,この式の値がゼロとなるか
ら,以下が成立する。
M C(y) · y = T C(y)
両辺を y で割ると,
M C(y) =
T C(y)
≡ AT C
y
(3.21)
3.5.3 企業の利潤最大化
ここでは,完全競争市場における企業の利潤最大化行動を考えよう。完全競争市場と
は,ひとつひとつの企業の生産量が市場規模に比べて非常に小さく,ひとつの企業が生産
量を変化させても市場価格が変化しないような市場である*6 。完全競争市場において,企
*6
このとき,企業は価格支配力を持たないという。
第3章
50
関数の微分
業は所与の総費用関数と生産物の市場価格の下で,利潤を最大化するためにどのような生
産量を選択するだろうか。
企業の収入(売上)を R(y),利潤を π(y) と表す。利潤は収入から総費用を引いたもの
であるから,以下のように書ける。
π(y) = R(y) − T C(y)
(3.22)
したがって,利潤最大化の一階の条件は以下のようになる。
π ′ (y) = R′ (y) − T C ′ (y) = 0
⇒ R′ (y) = T C ′ (y)
(3.23)
ここで,R′ (y) は限界収入であり,T C ′ (y) は限界費用である。すなわち,利潤最大化の一
階の条件は,限界収入と限界費用が等しくなることである。限界収入 R′ (y) を M R と書
けば利潤最大化の一階の条件は以下のように表される。
MR = MC
(3.24)
より直感的には,生産量を増加させることによる収入の増加(M R)が費用の増加(M C )
よりも大きければ,生産量を増加させることで利潤を増やすことができる。逆に,M R が
M C よりも小さければ生産量を減少させることで利潤を増やすことができる。したがっ
て,利潤が最大になるような生産量では,M R と M C が等しくなっていなければなら
ない。
完全競争市場では,一企業の生産量の変化が生産物の市場価格に影響を与えることはな
いため,生産物の市場価格を p とすれば,企業の収入は以下のようになる。
R(y) = p · y
(3.25)
したがって,利潤 π は以下のように書ける。
π(y) = p · y − T C(y)
(3.26)
利潤最大化の一階の条件は,以下のようになる。
π ′ (y) = R′ (y) − T C ′ (y)
= p − T C ′ (y)
=0
(3.27)
完全競争企業の限界収入は生産物価格に等しいため,利潤を最大にするような生産量では
p = M C が成立する。すなわち,企業は利潤を極大にするため限界費用と生産物の市場
価格が等しくなるような生産量を選択する。
3.5 応用例:費用関数と企業の利潤最大化
51
いま,企業の総費用関数が再び (3.11) 式で与えられているとしよう。
T C(y) =
1 3
y − 4y 2 + 20y + 20
3
限界費用は以下のように表される。
M C = y 2 − 8y + 20
したがって,利潤最大化の一階の条件は以下のようになる。
p = y 2 − 8y + 20
(3.28)
いま,価格 p が 20 であるとすれば,
20 = y 2 − 8y + 20
⇒ y 2 − 8y = 0
⇒ y(y − 8) = 0
⇒ y = 0, 8
となり,利潤最大化の一階の条件を満たす生産量は 0 と 8 の二つということになる。
それでは,生産量が 0 でも 8 でも利潤は最大になるだろうか。数学的には,二階の条件
を調べることで 0 と 8 の生産量で利潤が最大かどうかを判断することができる*7 。
π ′′ (y) = −M C ′ (y) = −2y + 8
(3.29)
であるが,π ′′ (0) = 8 > 0 なので,y = 0 において π は極小となる。また,π ′′ (8) = −8 < 0
なので,y = 8 において π は最大となる。したがって,利潤が最大になる生産量は 8 とい
うことになる。このときの利潤は π(8) ≈ 65.33 である。
生産物の市場価格はさまざまな要因により変化する。生産物の価格が下落(上昇)すれ
ば,企業は生産量を減少(増加)させ,利潤は減少(増加)する。いま,p が 10 まで下落
したとすれば,利潤を最大にするような生産量はどうなるだろうか。利潤最大化の一階の
条件は,
10 = y 2 − 8y + 20
⇒ y 2 − 8y + 10 = 0
*7
ただし,限界費用は二次関数であり,上に開いた放物線である。限界費用が逓減するような範囲(限界費
用の最小点よりも左側)では,明らかに企業は生産量を増加させることで利潤を増加させることができ
る。したがって,利潤最大化の問題では,限界費用が逓増する範囲(限界費用が最小点よりも右側)だけ
を考えればよく,二階の条件を調べるまでもなく一階の条件を満たす生産量のうち必ず大きい方が利潤を
最大にする生産量となる。
第3章
52
解の公式を用いてこれを y について解くと,y = 4 ±
の条件を満たし利潤が極大となるのは y = 4 +
潤は,π(4 +
√
√
√
関数の微分
6 となる。二つの解のうち,二階
6 ≈ 6.445 である。このとき,企業の利
6) ≈ −7.54 である。すなわち,価格が 10 であれば企業は生産を行っても
赤字となる。
価格がどこまで下落すれば,企業は赤字に転落するだろうか。企業の利潤がちょうどゼ
ロとなるのは,収入と総費用が等しいときである。
p · y = T C(y)
(3.30)
この式の両辺を y で割れば,
p=
T C(y)
≡ AT C
y
(3.31)
すなわち,価格と平均総費用が等しいとき企業の利潤はゼロとなる。価格が平均総費用を
下回ると企業は赤字に転落するため,このような価格を損益分岐価格(損益分岐点)と
いう。
利潤極大化の一階の条件が p = M C であるから,損益分岐価格においては,p =
M C = AT C である。M C = AT C を y について解くと,y ≈ 6.67 となる*8 。このとき
の M C(6.67) = AT C(6.67) ≈ 11.15 なので,損益分岐価格は約 11.15 である。
価格が 10 のときには,損益分岐点を下回っているため企業は生産を行っても 7.54 だけ
の赤字となる。しかし,生産を行わなければ,企業の赤字額は固定費用分の 20 となる。
この場合,生産を行った方が赤字を小さくすることができるので,価格が 10 であれば企
業は短期的には生産を続ける。
価格がさらに下落して 5 になったとすればどうだろうか。このとき利潤極大化の一階の
条件は,
5 = y 2 − 8y + 20
⇒ y 2 − 8y + 15 = 0
これをを y について解くと,y = 3, 5 である。二つの解のうち,二階の条件を満たし利潤
を極大化するのは y = 5 であり,このときの利潤は π(5) ≈ −36.67 である。すなわちm
生産を行えば赤字は 36.67 となる。生産を行わなければ赤字は 20 なので,価格が 5 であ
れば企業は生産を行わない。
*8
この三次方程式は手計算で解くことができないので,関数電卓などを使って計算する。一般に三次方程式
の解は 3 つであるが,この場合は実数解が 1 つ(約 6.67)で,残りの 2 つは虚数解となる。
3.5 応用例:費用関数と企業の利潤最大化
53
それでは,企業が生産を中止する価格はいくらだろうか。企業は赤字の大きさが固定費
用を上回れば生産を停止する。生産を行わない方が赤字が小さくて済むからである。
赤字が固定費用と等しくなるということは,収入が可変費用に等しいということである
から,
p · y = V C(y)
(3.32)
この式の両辺を y で割れば,
p=
V C(y)
≡ AV C
y
(3.33)
すなわち,価格が平均可変費用と等しいとき,企業の収入は可変費用に,赤字は固定費用
に等しくなる。価格が平均可変費用を下回ると企業は生産を停止するため,このような価
格を操業停止価格(操業停止点)という。
利潤極大化の一階の条件が p = M C であるから,操業停止価格においては,p = M C =
AT C である。この場合,平均可変費用は,
AV C =
1 2
y − 4y + 20
3
(3.34)
したがって,M C = AV C となるような生産量は,
y 2 − 8y + 20 =
1 2
y − 4y + 20
3
2
⇒ y 2 − 4y = 0
3
⇒ y(y − 6) = 0
⇒ y = 0, 6
すなわち,生産量が 0 と 6 のときに限界費用と平均可変費用が等しくなる。生産量が 6 の
とき限界費用は M C(6) = AV C(6) = 8 なので操業停止価格は 8 である。
生産量がゼロのときにも,限界費用と平均可変費用は 20 で等しくなるが,この点では
生産量を増加させれば限界費用が低下するため,利潤は極大化されていない*9 。したがっ
て,20 は操業停止価格ではない。
図 3.7 においては,限界費用曲線の右上がりの部分と平均可変費用曲線とが交わるとこ
ろが操業停止点,限界費用曲線の右上がりの部分と平均総費用曲線とが交わるところが損
益分岐点である。
*9
価格が 20 であれば,y = 0 は利潤極大化の一階の条件を満たすが,二階の条件を満たさない(二階の条
件を満たす生産量は y = 8)。
第3章
54
関数の微分
100
p = 20
p = 11.15
p = 10
p=8
p=5
80
60
利潤
40
20
0
−20
−40
0
2
4
6
8
10
12
生産量
図 3.8 市場価格と企業の利潤
また,図 3.8 は異なる価格のもとでの企業の生産量と利潤の関係を表したものである。
価格が損益分岐点を上回っていれば企業は正の利潤を得ることができる。損益分岐点であ
る p = 11.15 のとき,企業の利潤は最大でもゼロとなる。価格が損益分岐点 p = 11.15 と
操業停止点である p = 8 の間にあれば,企業は赤字となるが赤字の大きさは生産量がゼロ
の時よりも小さいため,赤字でも生産を行う。また,操業停止点である p = 8 のとき企業
の利潤は最大でも生産量がゼロの場合と等しい。価格が操業停止点を下回ると,企業は生
産を行えば固定費用以上の赤字となるため,生産を行わない。
例題 3.4
ある完全競争企業の費用関数が以下のように与えられているとする。
T C(y) = y 3 − 9y 2 + 27y + 8
(1) 生産物の市場価格が 75 であれば,この企業の利潤が最大になる生産量はいく
らか。
(2) 操業停止点を求めよ。
3.5 応用例:費用関数と企業の利潤最大化
55
【解答】
(1) 利潤極大化の一階の条件 p = M C より,
T C ′ (y) = 3y 2 − 18y + 27 = 75
⇒ 3y 2 − 18y − 48 = 0
⇒ 3(y + 2)(y − 8) = 0
⇒ y = −2, 8
このうち二階の条件を満たし利潤が極大になる生産量は 8 である。
(2) 操業停止点では M C = AV C なので,
3y 2 − 18y + 27 = y 2 − 9y + 27
⇒ 2y(y − 4.5) = 0
⇒ y = 0, 4.5
したがって,操業停止点は M C(4.5) = AV C(4.5) = 6.75 である。
(解答終わり)
例題 3.5
ある完全競争企業の費用関数が以下のように与えられているとする。
T C(y) = y 2 + 2y + 16
(1) 生産物の市場価格が 20 であれば,この企業の利潤が最大になる生産量はいく
らか。
(2) 損益分岐点を求めよ。
【解答】
(1) 利潤極大化の一階の条件 p = M C より,
T C ′ (y) = 2y + 2 = 20 ⇒ y = 9
したがって,利潤が極大になる生産量は 9 である。
第3章
56
(2) 損益分岐点では M C = AT C なので,
16
y
2
⇒ y − 16 = 0
2y + 2 = y + 2 +
⇒ (y + 4)(y − 4) = 0
⇒ y = −4, 4
したがって,損益分岐点は M C(4) = AT C(4) = 10 である。
(3) 操業停止点では M C = AV C なので,
2y + 2 = y + 2
y=0
したがって,操業停止点は M C(0) = AV C(0) = 2 である。
(解答終わり)
関数の微分
57
第4章
指数・対数
4.1 指数法則と指数の拡張
a を x 回乗じることを a を x 乗するといい,a の x 乗を ax と書く。このとき x を a の
指数という。
a, b > 0 のとき,指数の計算には,以下のような法則がある。
指数法則
• ax ay = ax+y
• (ax )y = axy
• (ab)x = ax bx
x, y が正の整数であれば,これらの法則が成立することは,以下のように確かめること
ができる。
ax ay = (a × a × · · · × a) × (a × a × · · · × a)
|
{z
}
|
{z
}
x
y
= (a × a × · · · × a)
{z
}
|
x+y
x+y
=a
(4.1)
第4章
58
指数・対数
(ax )y = (a × a × · · · × a)y
|
{z
}
x
= (a × a × · · · × a) × (a × a × · · · × a) × · · · × (a × a × · · · × a)
|
{z
}
|
{z
}
|
{z
}
x
x
x
|
{z
}
y
= (a × a × · · · × a)
|
{z
}
x×y
xy
=a
(4.2)
(ab)x = (a × b) × (a × b) × · · · × (a × b)
|
{z
}
x
= (a × a × · · · × a) × (b × b × · · · × b)
|
{z
}
|
{z
}
x
x
x x
=a b
(4.3)
ここで,この法則がより一般的に成立するよう,指数がゼロや負の数,分数となる場合
を定義しよう。
(4.1) 式で y = 0 とすると,
ax a0 = ax+0 = ax
(4.4)
したがって,指数法則が成立するためには a0 は 1 でなければならない。そこで,a0 = 1
と定義する。
また,(4.1) 式で y = −x とすると,
ax a−x = ax−x = a0 = 1
したがって,指数法則が成立するためには a−x は
a−x =
1
ax
1
ax
(4.5)
でなければならない。そこで,
と定義する。
次に,(4.2) 式で x =
1
y
とすると,
y
1
(a y )y = a y = a
(4.6)
1
したがって,指数法則が成立するためには a y は y 乗すると a になるような数でなければ
1
ならないことがわかる。そこで,a y を y 乗すると a になるような正の数と定義する。y
√
a と書き,特に y = 2 の場合には 2 を省略して a と
√
1
書く。たとえば,a 2 は二乗すれば a になるような正の数なので, a ということになる。
乗すると a になるような正の数を
√
y
4.2 a を底とする指数関数
指数が一般的な分数である a の
59
x
y
乗は,
x
1
a y = (a y )x
なので,
√
y
a の x 乗となる。
指数の拡張
• a0 = 1
• a−x =
y
(4.7)
1
a
√
• a x = ( x a)y
例題 4.1
以下の式を計算せよ。
(1) 2−3 × 2
2
(2) 27 3
(3) x3 x−2
(4) 24a 24−a
【解答】
(1) 2−3 × 2 = 2−3+1 = 2−2 =
2
3
1
4
1
3
(2) 27 = (27 )2 = 32 = 9
(3) x3 x−2 = x3−2 = x
(4) 24a 24−a = 24a−a = 240 = 1
4.2 a を底とする指数関数
4.2.1 a を底とする指数関数のグラフ
a > 0 に対して以下のような関数を考えよう。
f (x) = ax
(4.8)
第4章
60
指数・対数
f (x)
0<a<1
a>1
a=1
0
x
図 4.1 a の値と指数関数のグラフ
このような関数のことを a を底とする指数関数という。指数関数のグラフの形状は底 a
の値が 1 よりも小さければ右下がり,1 であれば水平,1 よりも大きければ右上がりとな
る。また,a0 = 1 であるから,a の値にかかわらず切片は 1 となる。
図 4.1 は,底 a の値が異なる場合に指数関数のグラフがどのように異なるかを示したも
のである。急速に増加することを「指数的に増加する」と表現することがあるが,それは
a > 1 のとき,x の値が増えるにしたがって f (x) の値の増え方が大きくなっていくとい
う指数関数の性質に由来する。
4.2.2 複利
a 円の元金を年率 r × 100% の利子で一年間貯金したとすれば,元金と利息をあわせた
元利合計は,以下のようになる。
a × (1 + r)
(4.9)
この元利合計金を同じ利子でさらにもう一年間貯金すると元利合計は,
a × (1 + r) × (1 + r)
(4.10)
4.2 a を底とする指数関数
61
元利合計は一年ごとに (1 + r) 倍になるので,n 年後には,
a × (1 + r)n
(4.11)
このように,元金だけでなく利息をあわせた元利合計に利子がつくことを複利という。
表 4.1 は,r と n の値が異なるとき,元利合計がどのように異なるかを表したものであ
る。たとえば,r = 0.01,すなわち年率 1% の利子では,100 年間で元金は約 2.7 倍にな
る。それが,5% の利子になると,100 年間で元金は 131 倍,10% では 13,780 倍となる。
複利の場合には,利子が 1% 異なると長期的に大きな差が生まれることがわかる。
逆に a 円の元金を n 年間複利で貯金をし,元利合計が b 円になったすれば,利子は年率
でいくらになるだろうか。
求める年率の利子 r は,以下の式を満たす。
a(1 + r)n = b
(4.12)
b
a
(4.13)
この式の両辺を a で割ると,
(1 + r)n =
両辺を
1
n
乗すれば,
( ) n1
b
(1 + r) =
a
(4.14)
r の値
n
-0.05
-0.01
0
0.01
0.02
0.05
0.1
1
0.950
0.990
1.000
1.010
1.020
1.050
1.100
2
0.903
0.980
1.000
1.020
1.040
1.103
1.210
3
0.857
0.970
1.000
1.030
1.061
1.158
1.331
4
0.815
0.961
1.000
1.041
1.082
1.216
1.464
5
0.774
0.951
1.000
1.051
1.104
1.276
1.611
10
0.599
0.904
1.000
1.105
1.219
1.629
2.594
20
0.358
0.818
1.000
1.220
1.486
2.653
6.727
50
0.077
0.605
1.000
1.645
2.692
11.467
117.391
100
0.006
0.366
1.000
2.705
7.245
131.501
13780.612
表 4.1 r の値と元利合計
第4章
62
指数・対数
したがって,
( ) n1
b
r=
−1
a
(4.15)
たとえば,20 年間で 10,000 円の元金が 20,000 円になったとすれば,
(
r=
20, 000
10, 000
1
) 20
− 1 = 0.0353
であるから,年率の利子は 3.53% ということになる。
例題 4.2
10 年間で元金が 2 倍になるためには,利息は年率で何 % 以上必要か。
【解答】
1
2 10 − 1 ≈ 0.0718
したがって,10 年間で元金が 2 倍になるためには,利息は年率で 7.18% 以上必要であ
る。
(解答終わり)
4.2.3 成長率
変化率とは,前期(t − 1 期)と今期(t 期)の値の差を,前期の値で割ったものである。
たとえば,t 年の GDP(国内総生産)を GDPt と定義すれば,t 年における GDP の変化
率 gt は,
gt =
GDPt − GDPt−1
GDPt
=
−1
GDPt−1
GDPt−1
(4.16)
GDP の変化率のことを経済成長率という。経済成長率などの比率は,100 倍すること
により %(パーセント)で表すことができる。2000 年の経済成長率が 0.009 であったと
いうのと,0.9% であったというのは同じ意味であるが,経済学ではパーセントよりも比
率の方がよく用いられる。
表 4.2 は,1980 年から 2009 年までの日本の国内総生産と経済成長率の推移である*1 。
また,これをグラフにしたものが図 4.2 である。
*1
データは内閣府発表の 2009 年度国民経済計算確報(2000 年基準・93SNA)
4.2 a を底とする指数関数
63
4.2.4 幾何平均
経済成長率は毎年異なっている。それでは,年平均の経済成長率はどのように求めれば
よいだろうか。
通常,
「平均」といえば算術平均のことを指すことが多い。算術平均とは,すべてのデー
タを足しあわせて,データの数で割ったものであり,たとえば,. . . , xn の算術平均は以下
のように求められる。
1
(x1 + x2 + · · · + xn )
n
しかし,成長率や収益率などの変化率について,平均を求める場合,(4.17) 式による計算
は適切ではない。
変化率に関して平均を求める際には,幾何平均が用いられる。x1 , x2 , . . . , xn の幾何平
国内総生産
経済成長率
国内総生産
経済成長率
1995
497,740
0.017
1980
248,376
1981
264,642
0.065
1996
509,096
0.023
1982
276,163
0.044
1997
513,613
0.009
1983
288,773
0.046
1998
503,324
-0.020
1984
308,238
0.067
1999
499,544
-0.008
1985
330,397
0.072
2000
504,119
0.009
1986
342,266
0.036
2001
493,645
-0.021
1987
362,297
0.059
2002
489,875
-0.008
1988
387,686
0.070
2003
493,748
0.008
1989
415,885
0.073
2004
498,491
0.010
1990
451,683
0.086
2005
503,187
0.009
1991
473,608
0.049
2006
510,938
0.015
1992
483,256
0.020
2007
515,804
0.010
1993
482,608
-0.001
2008
492,067
-0.046
1994
489,379
0.014
2009
474,040
(注)GDP の単位は 10 億円
-0.037
表 4.2 日本の国内総生産と経済成長率(1980∼2009 年)
第4章
64
指数・対数
0.2
GDP
500
経済成長率
0.1
400
0.05
300
0
−0.05
200
GDP(兆円)
0.15
経済成長率
−0.1
100
−0.15
−0.2
1980
1985
1990
1995
2000
2005
0
2010
年
図 4.2 国内総生産と経済成長率
均は以下のように定義される。
1
(x1 × x2 × · · · × xn ) n
たとえば,ある債権の価格の変化率が,1 年目に 80%,2 年目に −50 % であったとしよ
う。この債権を 100 万円分購入すると,1 年目には債券価格が 80% 上昇するので,債権
の価値は (1 + 0.8) × 100 = 180 万円となる。しかし,2 年目には債券価格が 50% 下落す
るので,債権の価値は (1 − 0.5) × 180 = 90 万円となる。このとき,この債権の年平均の
収益率(価格の変化率)はいくらだろうか。収益率は 1 年目が 80%,2 年目が −50 % な
ので,算術平均では平均収益率は 0.8 + (−0.5)/2 = 0.15 % となる。しかし,実際には 2
年間で債権の価値は 100 万円から 90 万円に下落しているため,収益率がプラス 15% と
いうのは適切ではない。
この債権の場合,2 年間で価格が 0.9 倍となったため,2 年間における収益率は −10 % で
4.2 a を底とする指数関数
65
ある。したがって,年平均の収益率は (−10)/2 = −5 % であるとするのはどうだろう。
この計算方法は,平均収益率の近似値を求めるには悪くないが,厳密には適切ではない。
なぜなら,債券価格が 1 年目に 5% 下落し,2 年目にさらに 5% 下落すれば,2 年間で債券
価格は 0.95 × 0.95 = 0.9025 倍になり,2 年間における収益率は 0.9025 − 1 = −0.0975,
すなわち −9.75 % となるからである。
この債権の年平均収益率は,債券価格が 1 年目と 2 年目に同じ r という率で変化したと
き,2 年後に債券価格が 0.9 倍になるような r で定義される。すなわち,平均収益率は以
下の式を満たす r である。
(1 + r)2 = (1 + 0.8) × (1 − 0.5)
= 0.9
この式を満たす (1 + r) は
√
0.9 = 0.94868 となる。したがって,r は −0.5132 であり,
この債券の年平均の収益率はマイナス 5.132% であるということになる。すなわち,収益
率 ri
(i = 1, 2, · · · , n) の平均は,(1 + ri ) の幾何平均を求め,そこから 1 を引くことで
求められる。
年平均成長率 (CAGR:Compound Average Growth Rate)
n 期間における各期の成長率(変化率,収益率)が ri
(i = 1, 2, · · · , n) であるとき,
(一期あたりの)平均成長率 r̄ は,
1
r̄ = [(1 + r1 ) × (1 + r2 ) × · · · (1 + rn )] n − 1
たとえば,1980 年から 2009 年までの年平均経済成長率を求めてみよう。各年の経済成
長率を gi
(i = 1981, 1982, · · · , 2009) と表すと,この期間の年平均経済成長率は,
1
ḡ = [(1 + g1981 ) × (1 + g1982 ) × · · · (1 + g2009 )] 19 − 1
(4.17)
GDP1980 × [(1 + g1981 ) × (1 + g1982 ) × · · · (1 + g2009 )] = GDP2009
(4.18)
また,
であるから,
[(1 + g1981 ) × (1 + g1982 ) × · · · (1 + g2009 )] =
GDP2009
GDP1980
(4.19)
第4章
66
指数・対数
したがって,
(
ḡ =
GDP2009
GDP1980
1
) 29
−1
(4.20)
いま,1980 年の GDP は 248,376(× 10 億円),2009 年の GDP は 474,040(× 10 億
円)なので,1980 年から 2009 年までの年平均経済成長率は,
(
g=
474, 040
248, 376
1
) 29
− 1 = 0.0225
すなわち,248,376(× 10 億円)は,年率 0.0225(もしくは年率 2.25%)という成長率
で成長すれば,29 年後に 474,040(× 10 億円)になる。
例題 4.3
図 4.2 から,日本の経済成長率は 1990 年までは比較的高かったが,それ以
降は「失われた 20 年」といわれているように経済成長率が低迷しているということが
わかる。表 4.2 を用いて,1980 年から 1990 年までと,1990 年から 2009 年までとのそ
れぞれの年平均経済成長率を求めよ。
【解答】
1980 年から 1990 年までは,
(
451, 885
248, 376
1
) 10
− 1 ≈ 0.0617
1990 年から 2009 年までは,
(
474, 040
451, 885
1
) 10
− 1 ≈ 0.0025
したがって,1980 年から 1990 年までの 10 年間の年平均経済成長率は 6.17%,1990 年
から 2019 年までの 19 年間の年平均経済成長率は 0.25% である。
(解答終わり)
4.2.5 有効数字
GDP など,非常に大きな数字を表すときには,下の方の桁を考えても意味がないこと
が多い。たとえば,表 4.2 では 2009 年の GDP は 474,040 × 10 億円(474 兆 40 億円)
4.2 a を底とする指数関数
67
と表記されているが,ここでは 10 億円未満の桁は無視されている*2 。このとき,10 億円
以上の桁は 6 桁であるが,この 6 桁のことを有効数字という。
474 兆 40 億はしばしば有効数字と 10 の累乗を用いて以下のように表現される。
474, 040 × 109
また,コンピュータでは”474,040E+09”のように表示される。
”E+08”とは 10 の 8 乗
をかけるという意味である。
同様に,非常に小さい数字を表すときにも有効数字と 10 の累乗が用いられる。たとえ
ば,0.00000125 という有効数字 3 桁の数は以下のように表現される。
1.25 × 10−6
また,コンピュータでは”1.25E−06”のように表示される。
”E−06”とは 10 の −6 乗を
かける(10 の 6 乗で割る)という意味である。
4.2.6 割引現在価値
あなたは今 1 万円をもらうのと 1 年後に 1 万円をもらうのではどちらを選ぶだろうか。
もし,今 1 万円を手に入れそれを年率 5% の利子で貯金すれば,1 年後には 1 万 500 円を
受け取ることができる。したがって,今 1 万円をもらうことと 1 年後に 1 万円をもらうこ
とは無差別ではない。
それでは,1 年後の 1 万円というのは,今の価値に換算するといくらになるだろうか。
10,000
今,9,524 円( 1+0.05
)を受け取り,5% の利子で貯金すれば 1 年後には 1 万円になる。そ
のため,1 年後に 1 万円もらうというのは,今 9,524 円をもらうことと同じであるといえ
る。このように将来のことを割り引いて現在の価値に換算したものを割引(正味)現在価
値(NPV: Net Present Value)といい,現在に比べて将来のことをどれだけ割り引いて
考えるかという比率を割引率という。
たとえば,今 40 万円の奨学金を受け取るという場合には,その割引現在価値は(割り
引く必要がないので)40 万円である。しかし,毎年 10 万円ずつの奨学金を 4 年間受け取
るという場合には,2 年目以降に受け取る奨学金は割り引いて考えなければならない。割
引率が年率 r とすれば,4 年間に 10 万円ずつを受け取る奨学金の割引現在価値は,
P V = 100, 000 +
*2
100, 000 100, 000 100, 000
+
+
(1 + r)
(1 + r)2
(1 + r)3
これを桁の「丸め」という。切り上げ,切り捨て,四捨五入などは丸めの方法である。
(4.21)
第4章
68
指数・対数
ここで,割引率 r = 0.05 であれば割引現在価値は 37 万 2325 円,r = 0.1 であれば 34 万
8685 円となる。
それでは,毎年 10 万円を永久に受け取れるとすれば割引現在価値はいくらにになるだ
ろうか。
100, 000 100, 000 100, 000
+
+
+ ···
(1 + r)
(1 + r)2
(1 + r)3
)
(
1
1
1
+
+
+ ···
= 100, 000 × 1 +
(1 + r) (1 + r)2
(1 + r)2
P V = 100, 000 +
ここで,δ =
1
1+r
と定義すれば,
(
)
P V = 100, 000 × 1 + δ + δ 2 + δ 3 + · · ·
と書くことができる。δ のことを割引因子という。
ここで,−1 < δ < 1 であれば,無限等比級数の和は
1 + δ + δ2 + δ2 + · · · =
1
1−δ
(4.22)
となることを利用すれば,
P V = 100, 000 ×
となる。割引率 r = 0.05 であれば割引因子 δ =
割引率 r = 0.1 であれば割引因子 δ =
1
1+0.1
1
1−δ
1
1+0.05
となり割引現在価値は 210 万円,
となり割引現在価値は 110 万円となる。
4.2.7 投資の内部収益率
投資というのは,将来の収益を得るために資源を用いることである。たとえば,株式投
資であれば,現在株式の購入代金を支出することにより,将来配当金を受け取ることがで
きる。教育投資であれば,現在教育費用を負担することにより,卒業後は引退までより高
い賃金を受け取ることができる。
投資を行うかどうかについての合理的な意思決定は,投資の費用とそこから得られる便
益(収益)を比較することで行われる。投資について,その費用と便益を比較して分析す
ることを費用・便益分析という。
費用便益分析の際によく用いられるのが,投資の内部収益率である。前節で見たよう
に,将来受け取る収益は,現在受け取ることができる収益よりも割り引いて考える必要が
ある。同様に,将来支払う費用は,現在支払う費用よりも割り引いて考える。内部収益率
4.3 対数
69
とは,投資の費用の割引現在価値と将来得られる収益の割引現在価値がと等しくなるよう
な割引率のことである。
いま,i = 0, 1, 2, · · · , n の期間に,Ci だけの費用を支出し,Bi だけの便益を受け取る
としよう。このとき,内部収益率は,以下の式を満たす r である。
n
∑
i=0
∑
1
1
Ci =
B
i
i i
(1 + r)
(1
+
r)
i=0
n
(4.23)
たとえば,ある事業に 5 年間,毎年 100 万円を出資すれば,6 年目からは毎年 30 万円
の配当を 30 年間受け取り続けることができるとしよう。このとき,割引率を r とすれば,
投資の費用の割引現在価値は,
4
∑
i=0
1
100 万円
(1 + r)i
(4.24)
である。一方,投資から得られる収益の割引現在価値は,
34
∑
i=5
1
30 万円
(1 + r)i
(4.25)
費用と収益との割引現在価値が等しくなるような r を求めると,r ≈ 0.0382 となる*3 。し
たがって,この投資の内部収益率は約 3.8% である。あなたがこの事業に投資することが
合理的となる条件は,以下の通りである。
• 1 年後の将来のことを現在より 3.8% 以上は割り引いて考えない
• 銀行預金など他の投資から得られる収益率が 3.8% よりも低い
4.3 対数
4.3.1 対数の定義と対数法則
x > 0, a > 0(ただし,a ̸= 1)について,
ay = x
*3
(4.26)
内部収益率を求める計算式はないため,費用と便益の割引現在価値が等しくなるまで繰り返し割引率を変
化させながら代入していくことにより求める。Excel では IRR() 関数が用意されており,これを用いて
内部収益率を求めることができる(Excel 内部でも繰り返し代入を行って内部収益率を求めている)。
第4章
70
指数・対数
となるような y の値を loga x と書く。すなわち,loga x は a を何乗すれば x になるかと
いう数である。log を対数といい,a を対数の底,x を真数という。
対数には以下のような法則が成り立つ。
対数法則
• loga (xy) = loga x + loga y
• loga
x
y =
k
loga x − loga y
• loga x = k loga x
4.3.2 a を底とする対数関数
a > 0(ただし,a ̸= 1)に対して以下のような関数を考えよう。
f (x) = loga x
(4.27)
このような関数のことを a を底とする対数関数という。a を底とする対数関数 y =
loga x は a を底とする指数関数 y = ax の逆関数である。
対数関数のグラフの形状は底 a の値が 1 よりも小さければ右下がり,1 よりも大きけれ
ば右上がりとなる。また,a0 = 1 であるから,a の値にかかわらず f (1) = 0 となる。
図 4.1 は,底 a の対数関数のグラフである。対数関数は指数関数の逆関数なので,指数
関数のグラフの縦軸と横軸を入れ替えたものになる。関数の定義域が x > 0 であること
と,a = 1 の場合には対数関数が定義されないことに注意しよう。
4.3.3 底の変換
ax の底を b に変換することを考えよう。まず,対数の定義から当然に a = blogb a が成
り立つ*4 。したがって,ax = (blogb a )x となるが,指数法則により (blogb a )x = bx logb a で
あるから,
ax = bx logb a
(4.28)
これを指数の底の変換公式という。
次に,loga x の底を b に変換することを考えよう。y = loga x とおくと,
ay = x
*4
b を何乗すれば a になるかというのが logb a。
(4.29)
4.3 対数
71
f (x)
a>1
0
x
1
0<a<1
図 4.3 a の値と対数関数のグラフ
が成立する。この式の両辺に b を底とする対数をとると,
logb ay = logb x
(4.30)
y logb a = logb x
(4.31)
対数法則を用いれば,
よって,
y=
logb x
logb a
すなわち,loga x は任意の正の数 b を底とする対数の比
を対数の底の変換公式という。
(4.32)
logb a
logb x
で表すことができる。これ
第4章
72
指数・対数
指数・対数の底の変換公式
指数の底の変換公式:
ax = bx logb a
対数の底の変換公式:
loga x =
logb x
logb a
4.3.4 常用対数
10 を底とする対数を常用対数*5 という。前節で示した底の変換公式により,任意の底
の対数は常用対数の比に変換することが可能である。すなわち,常用対数の値がわかって
いればどのような対数の値でも計算することができる。そのため,表 4.3 のような常用対
数表が用意されている。
たとえば,1 万円の元金を年率 1% の複利で貯金したとして,元利合計が 2 万円になる
のは何年後かを知りたければ,
(1 + 0.01)n = 2
(4.33)
となるような,n を求めればよい。対数の定義により n = log1.01 2 であるが,底の変換公
式を用いれば,
n=
log10 2
log10 1.01
(4.34)
常用対数表から,log10 2 = 0.3010,log10 1.01 = 0.0043 なので,n = 70 となる。
常用対数表には,1.00 から 9.99 までの常用対数が掲載されているが,対数法則を
用いると 1 未満の数や 10 以上の数の常用対数を計算することができる。たとえば,
0.1 =
1
10
= 10−1 なので,log10 0.1 = −1 となることに注意すれば,log10 0.5 は,
log10 0.5 = log10 (0.1 × 5)
= log10 0.1 + log10 5
= −1 + 0.6990
= 0.3010
*5
高校の数学では log x と書くと x の常用対数を表したが,経済学では通常 log は自然対数を表すため,常
用対数は log10 x と底を省略せずに書く。
4.3 対数
73
また,log10 25 であれば,
log10 25 = log10 (10 × 2.5)
= log10 10 + log10 2.5
= 1 + 0.3979
= 1.3979
例題 4.4
常用対数表を用いて以下の値を求めよ。
(1) log2 6
(2) log3 30
【解答】
(1) log2 6 =
log10 6
0.3010
=
≈ 2.584
log10 2
0.7782
(2) log3 30 =
log10 10 + log10 3
1 + 0.4771
log10 30
=
=
≈ 3.096
log10 3
log10 3
0.4771
表 4.3: 常用対数表
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
2.0
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
2.6
2.7
0.00
0.0000
0.0414
0.0792
0.1139
0.1461
0.1761
0.2041
0.2304
0.2553
0.2788
0.3010
0.3222
0.3424
0.3617
0.3802
0.3979
0.4150
0.4314
0.01
0.0043
0.0453
0.0828
0.1173
0.1492
0.1790
0.2068
0.2330
0.2577
0.2810
0.3032
0.3243
0.3444
0.3636
0.3820
0.3997
0.4166
0.4330
0.02
0.0086
0.0492
0.0864
0.1206
0.1523
0.1818
0.2095
0.2355
0.2601
0.2833
0.3054
0.3263
0.3464
0.3655
0.3838
0.4014
0.4183
0.4346
0.03
0.0128
0.0531
0.0899
0.1239
0.1553
0.1847
0.2122
0.2380
0.2625
0.2856
0.3075
0.3284
0.3483
0.3674
0.3856
0.4031
0.4200
0.4362
0.04
0.0170
0.0569
0.0934
0.1271
0.1584
0.1875
0.2148
0.2405
0.2648
0.2878
0.3096
0.3304
0.3502
0.3692
0.3874
0.4048
0.4216
0.4378
0.05
0.0212
0.0607
0.0969
0.1303
0.1614
0.1903
0.2175
0.2430
0.2672
0.2900
0.3118
0.3324
0.3522
0.3711
0.3892
0.4065
0.4232
0.4393
0.06
0.0253
0.0645
0.1004
0.1335
0.1644
0.1931
0.2201
0.2455
0.2695
0.2923
0.3139
0.3345
0.3541
0.3729
0.3909
0.4082
0.4249
0.4409
0.07
0.0294
0.0682
0.1038
0.1367
0.1673
0.1959
0.2227
0.2480
0.2718
0.2945
0.3160
0.3365
0.3560
0.3747
0.3927
0.4099
0.4265
0.4425
0.08
0.0334
0.0719
0.1072
0.1399
0.1703
0.1987
0.2253
0.2504
0.2742
0.2967
0.3181
0.3385
0.3579
0.3766
0.3945
0.4116
0.4281
0.4440
0.09
0.0374
0.0755
0.1106
0.1430
0.1732
0.2014
0.2279
0.2529
0.2765
0.2989
0.3201
0.3404
0.3598
0.3784
0.3962
0.4133
0.4298
0.4456
第4章
74
指数・対数
表 4.3: 常用対数表
2.8
2.9
3.0
3.1
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
3.7
3.8
3.9
4.0
4.1
4.2
4.3
4.4
4.5
4.6
4.7
4.8
4.9
5.0
5.1
5.2
5.3
5.4
5.5
5.6
5.7
5.8
5.9
6.0
6.1
6.2
6.3
6.4
6.5
6.6
6.7
6.8
6.9
7.0
7.1
0.00
0.4472
0.4624
0.4771
0.4914
0.5051
0.5185
0.5315
0.5441
0.5563
0.5682
0.5798
0.5911
0.6021
0.6128
0.6232
0.6335
0.6435
0.6532
0.6628
0.6721
0.6812
0.6902
0.6990
0.7076
0.7160
0.7243
0.7324
0.7404
0.7482
0.7559
0.7634
0.7709
0.7782
0.7853
0.7924
0.7993
0.8062
0.8129
0.8195
0.8261
0.8325
0.8388
0.8451
0.8513
0.01
0.4487
0.4639
0.4786
0.4928
0.5065
0.5198
0.5328
0.5453
0.5575
0.5694
0.5809
0.5922
0.6031
0.6138
0.6243
0.6345
0.6444
0.6542
0.6637
0.6730
0.6821
0.6911
0.6998
0.7084
0.7168
0.7251
0.7332
0.7412
0.7490
0.7566
0.7642
0.7716
0.7789
0.7860
0.7931
0.8000
0.8069
0.8136
0.8202
0.8267
0.8331
0.8395
0.8457
0.8519
0.02
0.4502
0.4654
0.4800
0.4942
0.5079
0.5211
0.5340
0.5465
0.5587
0.5705
0.5821
0.5933
0.6042
0.6149
0.6253
0.6355
0.6454
0.6551
0.6646
0.6739
0.6830
0.6920
0.7007
0.7093
0.7177
0.7259
0.7340
0.7419
0.7497
0.7574
0.7649
0.7723
0.7796
0.7868
0.7938
0.8007
0.8075
0.8142
0.8209
0.8274
0.8338
0.8401
0.8463
0.8525
0.03
0.4518
0.4669
0.4814
0.4955
0.5092
0.5224
0.5353
0.5478
0.5599
0.5717
0.5832
0.5944
0.6053
0.6160
0.6263
0.6365
0.6464
0.6561
0.6656
0.6749
0.6839
0.6928
0.7016
0.7101
0.7185
0.7267
0.7348
0.7427
0.7505
0.7582
0.7657
0.7731
0.7803
0.7875
0.7945
0.8014
0.8082
0.8149
0.8215
0.8280
0.8344
0.8407
0.8470
0.8531
0.04
0.4533
0.4683
0.4829
0.4969
0.5105
0.5237
0.5366
0.5490
0.5611
0.5729
0.5843
0.5955
0.6064
0.6170
0.6274
0.6375
0.6474
0.6571
0.6665
0.6758
0.6848
0.6937
0.7024
0.7110
0.7193
0.7275
0.7356
0.7435
0.7513
0.7589
0.7664
0.7738
0.7810
0.7882
0.7952
0.8021
0.8089
0.8156
0.8222
0.8287
0.8351
0.8414
0.8476
0.8537
0.05
0.4548
0.4698
0.4843
0.4983
0.5119
0.5250
0.5378
0.5502
0.5623
0.5740
0.5855
0.5966
0.6075
0.6180
0.6284
0.6385
0.6484
0.6580
0.6675
0.6767
0.6857
0.6946
0.7033
0.7118
0.7202
0.7284
0.7364
0.7443
0.7520
0.7597
0.7672
0.7745
0.7818
0.7889
0.7959
0.8028
0.8096
0.8162
0.8228
0.8293
0.8357
0.8420
0.8482
0.8543
0.06
0.4564
0.4713
0.4857
0.4997
0.5132
0.5263
0.5391
0.5514
0.5635
0.5752
0.5866
0.5977
0.6085
0.6191
0.6294
0.6395
0.6493
0.6590
0.6684
0.6776
0.6866
0.6955
0.7042
0.7126
0.7210
0.7292
0.7372
0.7451
0.7528
0.7604
0.7679
0.7752
0.7825
0.7896
0.7966
0.8035
0.8102
0.8169
0.8235
0.8299
0.8363
0.8426
0.8488
0.8549
0.07
0.4579
0.4728
0.4871
0.5011
0.5145
0.5276
0.5403
0.5527
0.5647
0.5763
0.5877
0.5988
0.6096
0.6201
0.6304
0.6405
0.6503
0.6599
0.6693
0.6785
0.6875
0.6964
0.7050
0.7135
0.7218
0.7300
0.7380
0.7459
0.7536
0.7612
0.7686
0.7760
0.7832
0.7903
0.7973
0.8041
0.8109
0.8176
0.8241
0.8306
0.8370
0.8432
0.8494
0.8555
0.08
0.4594
0.4742
0.4886
0.5024
0.5159
0.5289
0.5416
0.5539
0.5658
0.5775
0.5888
0.5999
0.6107
0.6212
0.6314
0.6415
0.6513
0.6609
0.6702
0.6794
0.6884
0.6972
0.7059
0.7143
0.7226
0.7308
0.7388
0.7466
0.7543
0.7619
0.7694
0.7767
0.7839
0.7910
0.7980
0.8048
0.8116
0.8182
0.8248
0.8312
0.8376
0.8439
0.8500
0.8561
0.09
0.4609
0.4757
0.4900
0.5038
0.5172
0.5302
0.5428
0.5551
0.5670
0.5786
0.5899
0.6010
0.6117
0.6222
0.6325
0.6425
0.6522
0.6618
0.6712
0.6803
0.6893
0.6981
0.7067
0.7152
0.7235
0.7316
0.7396
0.7474
0.7551
0.7627
0.7701
0.7774
0.7846
0.7917
0.7987
0.8055
0.8122
0.8189
0.8254
0.8319
0.8382
0.8445
0.8506
0.8567
4.4 自然対数
75
表 4.3: 常用対数表
7.2
7.3
7.4
7.5
7.6
7.7
7.8
7.9
8.0
8.1
8.2
8.3
8.4
8.5
8.6
8.7
8.8
8.9
9.0
9.1
9.2
9.3
9.4
9.5
9.6
9.7
9.8
9.9
0.00
0.8573
0.8633
0.8692
0.8751
0.8808
0.8865
0.8921
0.8976
0.9031
0.9085
0.9138
0.9191
0.9243
0.9294
0.9345
0.9395
0.9445
0.9494
0.9542
0.9590
0.9638
0.9685
0.9731
0.9777
0.9823
0.9868
0.9912
0.9956
0.01
0.8579
0.8639
0.8698
0.8756
0.8814
0.8871
0.8927
0.8982
0.9036
0.9090
0.9143
0.9196
0.9248
0.9299
0.9350
0.9400
0.9450
0.9499
0.9547
0.9595
0.9643
0.9689
0.9736
0.9782
0.9827
0.9872
0.9917
0.9961
0.02
0.8585
0.8645
0.8704
0.8762
0.8820
0.8876
0.8932
0.8987
0.9042
0.9096
0.9149
0.9201
0.9253
0.9304
0.9355
0.9405
0.9455
0.9504
0.9552
0.9600
0.9647
0.9694
0.9741
0.9786
0.9832
0.9877
0.9921
0.9965
0.03
0.8591
0.8651
0.8710
0.8768
0.8825
0.8882
0.8938
0.8993
0.9047
0.9101
0.9154
0.9206
0.9258
0.9309
0.9360
0.9410
0.9460
0.9509
0.9557
0.9605
0.9652
0.9699
0.9745
0.9791
0.9836
0.9881
0.9926
0.9969
0.04
0.8597
0.8657
0.8716
0.8774
0.8831
0.8887
0.8943
0.8998
0.9053
0.9106
0.9159
0.9212
0.9263
0.9315
0.9365
0.9415
0.9465
0.9513
0.9562
0.9609
0.9657
0.9703
0.9750
0.9795
0.9841
0.9886
0.9930
0.9974
0.05
0.8603
0.8663
0.8722
0.8779
0.8837
0.8893
0.8949
0.9004
0.9058
0.9112
0.9165
0.9217
0.9269
0.9320
0.9370
0.9420
0.9469
0.9518
0.9566
0.9614
0.9661
0.9708
0.9754
0.9800
0.9845
0.9890
0.9934
0.9978
0.06
0.8609
0.8669
0.8727
0.8785
0.8842
0.8899
0.8954
0.9009
0.9063
0.9117
0.9170
0.9222
0.9274
0.9325
0.9375
0.9425
0.9474
0.9523
0.9571
0.9619
0.9666
0.9713
0.9759
0.9805
0.9850
0.9894
0.9939
0.9983
0.07
0.8615
0.8675
0.8733
0.8791
0.8848
0.8904
0.8960
0.9015
0.9069
0.9122
0.9175
0.9227
0.9279
0.9330
0.9380
0.9430
0.9479
0.9528
0.9576
0.9624
0.9671
0.9717
0.9763
0.9809
0.9854
0.9899
0.9943
0.9987
0.08
0.8621
0.8681
0.8739
0.8797
0.8854
0.8910
0.8965
0.9020
0.9074
0.9128
0.9180
0.9232
0.9284
0.9335
0.9385
0.9435
0.9484
0.9533
0.9581
0.9628
0.9675
0.9722
0.9768
0.9814
0.9859
0.9903
0.9948
0.9991
0.09
0.8627
0.8686
0.8745
0.8802
0.8859
0.8915
0.8971
0.9025
0.9079
0.9133
0.9186
0.9238
0.9289
0.9340
0.9390
0.9440
0.9489
0.9538
0.9586
0.9633
0.9680
0.9727
0.9773
0.9818
0.9863
0.9908
0.9952
0.9996
4.4 自然対数
4.4.1 自然対数の底
利子が年率 100% で,この利子が一年に一度付与されるとすれば,一年後に元利合計は
2 倍となる。いま,年率 100% の利子が 2 回に分けて半年ごとに 50% ずつ付与されると
すれば,
(
1
1+
2
)2
= 2.25
(4.35)
第4章
76
指数・対数
であるから,一年間で元利合計は 2.25 倍になる。同様に,利子が 3 回に分けて付与され
るとすれば一年間で元利合計は (1 + 13 )3 ≈ 2.37037 倍に,4 回に分けて付与されるとすれ
ば (1 + 14 )4 ≈= 2.44106 倍になる。一般的に年率 100% の利子が n 回に分けて付与され
ると一年後に元利合計は,(1 +
1 n
n)
倍になる。
それでは,年率 100% の利子が無限回に分けて付与されるとすれば,一年間で元金は何
倍になるだろうか。一年後の元利合計 (1 +
1 n
n)
は,n が大きくなるにしたがってある値
に近づいていく。言い換えると,n が大きくなるにしたがって (1 +
1 n
n)
は大きくなって
いくが,どんなに n を大きくしてもある値を超えることはない。この「ある値」のことを
(1 + n1 )n の極限といい,以下のように書く。
(
)n
1
lim 1 +
n→∞
n
(4.36)
(4.36) 式の値を自然対数の底と呼び,e と書く。e は無理数でありその値は,以下のよ
うになる。
(
)n
1
e = lim 1 +
= 2.71828182845905 . . .
n→∞
n
(4.37)
e を底とする指数関数 f (x) = ex を単に指数関数と呼ぶ。指数関数はまた,
f (x) = exp(x)
(4.38)
と表されることがある。
また,e を底とする対数を自然対数と呼び,関数 f (x) = loge x を単に対数関数と呼ぶ。
底の e はしばしば省略され,
f (x) = log x
(4.39)
と表される。また,ln x と表されることもある*6 。
4.4.2 指数関数・対数関数の微分
指数関数 f (x) = exp(x) の導関数は,exp(x) そのものとなる。
d exp(x)
= exp(x)
dx
*6
(4.40)
log x が常用対数を表すのか,自然対数を表すのかは前後の文脈から判断する必要がある。経済学ではほ
とんどの場合,log x は自然対数を表すが,常用対数と明確に区別するため,ln x と書くこともある。本
書では,単に log x と書いた場合には,x の自然対数を表すこととする。
4.4 自然対数
77
言い換えると,ex を x で微分すると ex である。
また,対数関数の微分については,以下が成り立つ。
d log x
1
=
dx
x
(4.41)
指数関数・対数関数の微分
d exp(x)
= exp(x)
dx
d log x
1
=
dx
x
例題 4.5
以下の関数を x で微分せよ。
(1) h(x) = e2x
(2) h(x) = log(2x2 + 4)
【解答】
(1) g(x) = 2x,f (g) = eg とすれば,h(x) = f (g(x)) と書ける。合成関数の微分の公
式を用いると,
h′ (x) = f ′ (g) · g ′ (x) = eg · 2 = 2e2x
(2) g(x) = 2x2 + 4,f (g) = log g とすれば,h(x) = f (g(x)) と書ける。合成関数の微
分の公式を用いると,
h′ (x) = f ′ (g) · g ′ (x) =
(解答終わり)
1
4x
2x
· 4x = 2
= 2
g
2x + 4
x +2
第4章
78
指数・対数
4.4.3 自然対数を用いた成長率の近似
テーラー展開・マクローリン展開
関数 f (x) が無限回微分可能であるとする。このとき,f (x) は以下のように表すことが
できる。
f (x) = f (a) + f ′ (a)(x − a) +
f ′′ (a)
f ′′′ (a)
(x − a)2 +
(x − a)3
2!
3!
f (n) (a)
(x − a)n + · · ·
n!
∞
∑
f (n) (a)
=
(x − a)n
n!
n=0
+··· +
(4.42)
ここで,f (n) は関数 f を n 回微分したものを表す。関数 f (x) をこのように表すことを,
関数 f (x) を x = a でテーラー展開するという。
特に x = 0 におけるテーラー展開を,マクローリン展開という。
f (x) = f (0) + f ′ (0)x +
∞
∑
f (n) (0) n
=
x
n!
n=0
f ′′′′ (0) 3
f ′′ (0) 2
x ++
x + ···
2!
3!
(4.43)
関数のテーラー展開・マクローリン展開
テーラー展開:
f (x) = f (a) + f ′ (a)(x − a) +
=
∞
∑
f (n) (a)
(x − a)n
n!
n=0
f ′′ (a)
(x − a)2 + · · ·
2!
マクローリン展開:
f (x) = f (0) + f ′ (0)x +
∞
∑
f (n) (0) n
x
=
n!
n=0
f ′′ (0) 2
f ′′′′ (0) 3
x ++
x + ···
2!
3!
4.4 自然対数
79
自然対数を用いた成長率の近似
以下のような関数を考えよう。
f (x) = log(1 + x)
(4.44)
この関数をマクローリン展開すると,
1
(−1)n−1 (n − 1)! n
1
x + ···
log(1 + x) = x − x2 + x3 − · · · +
2
3
n!
(4.45)
ここで,x が十分に小さければ,右辺第二項以降の項はゼロと見なすことができるくらい
小さい値となる*7 。したがって,x が十分に小さければ,
log(1 + x) ≈ x
(4.46)
十分に小さい数 x について,以下の近似が成り立つ。
log(1 + x) ≈ x
いま,y が y0 から y1 に変化するとしよう。対数法則により,以下が成立する。
log
y1
= log y1 − log y0
y0
(4.47)
また, yy10 は以下のように書き直すことができる。
y1
y1 − y0
=1+
y0
y0
(4.48)
0
ここで, y1y−y
は y の成長率である。したがって,y の成長率が十分に小さければ,以下
0
のように近似できる。
(
)
y1 − y0
y1 − y0
y1
≈ log 1 +
= log
= log y1 − log y0
y0
y0
y0
自然対数を用いた成長率の近似
*7
y1 − y0
≈ log y1 − log y0
y0
たとえば,x = 0.01 であれば,第二項は −0.00005,第三項は 0.000000333 · · · である
(4.49)
第4章
80
指数・対数
たとえば,表 4.2 から 2000 年の経済成長率 g2000 を自然対数を用いた近似により求め
てみよう。2000 年の GDP は 504,119,1999 年の GDP は 499,544 なので,
g2000 ≈ log 504, 119 − log 499, 544 ≈ 13.131 − 13.121 = 0.009
となり,実際の成長率にほぼ一致することがわかる。
例題 4.6
1980 年から 2009 年までの年平均経済成長率を,自然対数を用いた近似によ
り求めよ。
【解答】
log GDP2009 − log GDP1980 = log 470, 040 − log 248, 376
≈ 13.069 − 12.423
= 0.646
GDP の対数値は,29 年間で 0.646 だけ増加しているので,年平均の増加は,
0.646
≈ 0.0223
29
したがって,1980 年から 2009 年までの年平均経済成長率は 2.23% である。
(解答終わり)
4.4.4 自然対数と幾何平均
x1 , x2 , · · · .xn の幾何平均 m は,以下のように定義される。
1
m = (x1 × x2 × · · · xn ) n
(4.50)
この式の両辺に自然対数をとれば,
1
(log x1 + log x2 + · · · + log xn )
(4.51)
n
すなわち,x1 , x2 , · · · .xn の幾何平均 m の対数値は,x1 , x2 , · · · .xn の対数値の算術平均
log m =
となる。
ここで,g1 , g2 , · · · .gn を各年の経済成長率としよう。n 年間の 平均経済成長率 ḡ(に 1
を足したもの)は,
1
1 + ḡ = [(1 + g1 ) × (1 + g2 ) × · · · × (1 + gn )] n
(4.52)
4.4 自然対数
81
両辺に対数をとると,
log(1 + ḡ) =
1
[log(1 + g1 ) + log(1 + g2 ) + · · · + log(1 + gn )]
n
(4.53)
ここで,g1 , g2 , · · · .gn が十分に小さければ,log(1 + gi ) ≈ gi なので,近似的に以下の式
が成り立つ。
ḡ ≈
1
(g1 + g2 + · · · + gn )
n
(4.54)
すなわち,各年の成長率が十分に小さければ,その算術平均は近似的に年平均成長率
(CAGR)と等しいことがわかる。
4.4.5 対数微分
関数 f (x) を x について微分するとき,f (x) の関数形によっては対数微分法を用いると
簡単になる場合がある。
関数 y = f (x) の両辺に対数をとると,
log y = log f (x)
(4.55)
この式の両辺を微分すると,
d log y dy
d log f (x)
=
dy dx
dx
d log f (x)
1 dy
=
⇒
y dx
dx
この式を
dy
dx
(4.56)
について書き直すと,
dy
d log f (x)
=y
dx
dx
(4.57)
したがって,y = f (x) を x で微分するには,f (x) に対数をとったものを微分し,それに
y をかければよい。
対数微分法
関数 y = f (x) に関して,
dy
d log f (x)
=y
dx
dx
第4章
82
指数・対数
たとえば,以下のような関数を対数微分法を用いて微分しよう。
y=
(x + 2)3
4x + 1
(4.58)
対数微分の公式を用いると,
dy
d log f (x)
=y
dx
dx
d
= y (3 log(x + 2) − log(4x + 1))
dx
(
)
3
4
=y
−
x + 2 4x + 1
)
(
3(4x + 1) − 4(x + 2)
=y
(x + 2)(4x + 1)
8x − 5
(x + 2)3
·
=
4x + 1 (x + 2)(4x + 1)
(x + 2)2 (8x − 5)
=
(4x + 1)2
商の微分の公式を用いても同じ結果が得られることを確認しよう。
4.4.6 対数と弾力性
価格を P ,需要量を D とする。このとき,需要の価格弾力性は,需要量の対数を価格
の対数で微分することにより求めることができる。
d log D dD
dP
d log D
=
·
·
d log P
dD
dP d log P
dD P
=
·
dP D
(4.59)
対数を用いた弾力性の求め方
y の x に関する弾力性は,y の対数を x の対数で微分するこで求めることができる。
dy x
d log y
· =
dx y
d log x
たとえば,以下のような関数を考えよう。
1
y = f (x) = ax 2
(4.60)
4.4 自然対数
83
両辺に対数をとると,
log y = log a +
1
log x
2
(4.61)
log y を log x で微分すると,
d log y
1
=
d log x
2
したがって,y の x に関する弾力性は, 12 である。
(4.62)
84
第5章
多変数の関数
需要関数というのは,ある財の価格とその財に対する需要量の関係を表したものであっ
た。このとき,その財の価格の他の要因は一定とされていることに注意が必要である。価
格以外にその財の需要量に影響を与えるものは,たとえば所得や他の財(代替財・補完財)
の価格などさまざまなものがある。しかし,需要関数が D(P ) と表されているモデルで
は,その財の価格 P 以外の要因は変化しないと仮定されているため,モデルの中に変数
として登場しないのである。
この章では,従属変数の値が複数の独立変数の値に依存して決まるような関数を扱う。
5.1 一次の二変数関数
ある財に対する需要量 D が,その財の価格 p と家計の所得 y に依存して決まるとしよ
う。このとき,需要量 D は価格 p と所得 y の関数であるといい,以下のように表す。
D = D(p, y)
(5.1)
まず,最も単純な場合として,D(p, y) が p および y に関する一次式で表される場合を
考えよう。
D(p, y) = 300 − 10p + 0.05y
(5.2)
図 5.1 は,(5.2) 式をグラフに表したものである。独立変数が一つの場合,一次関数の
グラフは平面上の直線であったが,独立変数が二つの場合には一次関数のグラフは三次元
空間上の平面となる。
需要量が価格や所得の変化に対してどのように反応するかを見るためには,価格と所得
のどちらか一方の変数を一定としてもう一方の変数だけが変化したときに需要量がどのよ
5.1 一次の二変数関数
85
D(p, y)
600
500
400
需要量 300
200
5000
4000
3000
2000
所得
1000
100
0 0
5
10
価格
15
20
25
30 0
図 5.1 D(p, y) のグラフ
うに反応するかを見るのがわかりやすい。この場合,需要量は,所得を一定として価格が
1 上がると 10 だけ減少し,価格を一定として所得が 1 上がると 0.05 だけ増加する。この
ように,注目する独立変数以外の変数を一定として,その変数の従属変数に対する限界効
果を求めることを偏微分するという。この場合,D(p, y) を p で偏微分すると −10 である
といい,以下のように書く。
∂D(p, y)
= −10
∂p
(5.3)
∂D(p, y)
= 0.05
∂y
(5.4)
同様に,
“∂ ”は,“ラウンド”と読む。偏微分を求めるには,他の変数を定数と見なして通常の微
分を行えばよい。
第5章
86
多変数の関数
600
D(p, y)
500
500
400
400
需要量
需
要
量
600
300
300
200
200
100
100
5000
4000
0
5
3000
10
15
価格
2000
20
25
1000
30
図 5.2
所得
0
0
5
10
15
20
25
30
価格
y = 1000 で切った断面
偏微分が何を表すのかを理解するために,所得を 1,000 に固定してみよう。すると,
(5.2) 式は以下のようになる。
D(p, 1000) = 350 − 10p
(5.5)
所得を一定とすれば需要量は価格だけの関数となる。これは通常の需要関数(他の要因を
一定として価格と需要量の関係を表した関数)であり,この場合は価格が 1 上がったとき
に需要量は 10 減少する。
図 5.2 は,三次元の空間を所得が 1,000 の部分で切った断面を表している。断面上で,
この関数のグラフは D(p) = 350 − 10p という直線になっているが,この直線の傾きが
−10 であるというのが (5.3) 式の意味である。
ここで所得が変化した場合を考えよう。所得が 3,000 および 5,000 の場合はそれぞれ,
D(p, 3000) = 450 − 10p
(5.6)
D(p, 5000) = 550 − 10p
(5.7)
すなわち,図 5.1 に示されているように,所得が変化すれば需要曲線は平行移動するとい
うことがわかる。需要曲線が平行に移動するのは,偏微分
∂D
∂p
の値が y の値にかかわらず
一定で −10 であることによる。
5.2 高次の二変数関数
高次の一変数関数が平面上の曲線で表されたのと同様に,高次の二変数関数は空間上の
曲面となる。
5.2 高次の二変数関数
87
600
y = 1000
y = 3000
y = 5000
500
需要量
400
300
200
100
0
0
5
10
15
20
25
30
価格
図 5.3 y の変化による需要曲線のシフト
たとえば,労働者の時間当たり賃金 w が修学年数 s と労働市場における経験年数 x に
依存しており,以下のような関数となっている場合を考えよう。
w = w(s, x) = 1500 + 200s + 100x − 2x2
(5.8)
この関数は,s に関しては一次関数だが,x に関しては二次関数となっている。したがっ
て,x を特定の値に固定したとき s と w の関係は直線であるが,s を特定の値に固定した
とき x と w の関係は二次曲線となる。この関数のグラフを描いたものが図 5.4 である。
図 5.5 のパネル (a) は,x を特定の値(0,20,40)に固定したときの s と w の関係を表
している。これらの直線の傾きは,
∂w
= 200
∂s
(5.9)
となる。すなわち,x を一定として s が 1 だけ増加したとき,w が 200 増加する。
次に,図 5.5 のパネル (b) は,s を特定の値(9,12,16)に固定したときの賃金プロファ
イル(x と w の関係)を表している。修学年数を固定した賃金プロファイルは二次関数で
第5章
88
多変数の関数
w(s, x) = 1500 + 200s + 100x − 2x2
7000
6000
5000
賃金 4000
3000
2000
1000 0
5
10
修学年数
15
20 0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
経験年数
図 5.4 w(s, x) のグラフ
あるが,経験年数が時間あたり賃金に与える限界効果は,
∂w
= 100 − 4x
∂x
(5.10)
限界効果は経験年数に依存しており,経験年数が増加するほど小さくなる(限界効果逓
減)
。また,経験年数が 25 年未満であれば限界効果はプラスなので経験年数が増加すれば
時間あたり賃金は増加する。経験年数が 25 年のときに限界効果はゼロとなり,修学年数
が一定のもとで時間あたり賃金が最大となる。経験年数が 25 年を超えると限界効果はマ
イナスに転じるため,経験年数が増加すれば時間あたり賃金は減少する。
5.3 交差項
89
(a) x を固定
7000
6000
5000
賃金
4000
3000
2000
1000
0
x=0
x = 20
x = 40
0
5
10
15
20
修学年数
(b) s を固定
7000
6000
5000
賃金
4000
3000
2000
1000
0
s=9
s = 12
s = 16
0
5
10
15
20
25
経験年数
図 5.5
w(s, x) の断面
30
35
40
45
第5章
90
多変数の関数
w(s, x) = 1500 + 200s + 100x − 2x2
10000
9000
8000
7000
6000
賃金
5000
4000
3000
2000
1000 0
5
10
修学年数
図 5.6
15
20 0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
経験年数
交差項を追加した w(s, x) のグラフ
5.3 交差項
賃金関数が (5.8) のように表されている場合,図 5.5 のパネル (b) で示されているよう
に修学年数が変化すると賃金プロファイルは平行移動する。これは賃金プロファイルの傾
き
∂w
∂x
が修学年数には依存していないことによる。
ここで,賃金関数に以下のように修学年数と経験年数の乗算の項(このような項を x と
s の交差項という)を追加してみよう。
w = w(s, x) = 1500 + 200s + 100x − 2x2 + 4s · x
(5.11)
5.3 交差項
91
8000
賃金
7000
6000
5000
4000
s=9
s = 12
s = 16
3000
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
経験年数
図 5.7 修学年数による賃金プロファイルの違い
この賃金関数における修学年数,経験年数の限界効果はそれぞれ,
∂w
= 200 + 4x
∂s
∂w
= 100 − 4x + 4s
∂x
(5.12)
(5.13)
したがって,s および x の限界効果がそれぞれもう一方の変数にも依存する。
図 5.7 は,修学年数を特定の値(9,12,16)に固定した場合の賃金プロファイルである。
賃金プロファイルの傾き(経験年数の限界効果)は修学年数にも依存して決まっているた
め,修学年数の異なる賃金プロファイルは平行ではない。この場合では,修学年数が増
加するほど賃金プロファイルの傾きは大きくなり,賃金が最大となる経験年数も大きく
なる。
第5章
92
多変数の関数
5.4 応用例:コブ=ダグラス型生産関数
生産関数というのは,資本や労働といった生産要素の投入量により生産量が決まる関数
である。したがって,生産関数は財・サービスの生産を行う技術を記述したものと考える
ことができる。ここでは二変数関数の応用例として,経済学では非常に頻繁に用いられる
コブ=ダグラス型生産関数*1 を紹介する。
コブ=ダグラス型生産関数は,以下のように表される。
Y = F (K, L) = AK α L1−α ,
0<α<1
(5.14)
ここで,Y は生産量,K は資本の投入量,L は労働の投入量,A は生産性(定数)であ
る。コブ=ダグラス型生産関数は,個別の企業の生産技術を表す場合にも,産業や国全体
のマクロの生産技術を表す場合にも用いられ,ある程度よく現実の生産技術を描写してい
ることが知られている。
コブ=ダグラス生産関数において,資本と労働の投入量がどちらも λ 倍になった場合を
考えよう。このとき生産量は,
F (λK, λL) = (λK)α (λL)1−α
= λα K α λ1−α L1−α
= (λα λ1−α )K α L1−α
= λF (K, L)
(5.15)
であるから,λ 倍になる。このように,資本と労働の投入量を λ 倍にすれば生産量も λ 倍
になるようなとき,この生産関数は資本と労働に関して一次同次である,あるいは規模に
関して収穫一定であるという。
資本を一定として労働を微少に増加させると生産量はどれだけ増加するだろうか。生産
関数を L で偏微分すると,
MPL =
∂F (K, L)
= (1 − α)AK α L−α
∂L
M P L を労働の限界生産物という。ここで,1 − α > 0 であり,K α > 0,L−α =
(5.16)
1
Lα
>0
なので,労働の限界生産物は常に正である。また,この労働の限界生産物をさらに L で偏
微分すると,
∂ 2 F (K, L)
= −α(1 − α)AK α L−α−1
∂L2
*1
コブおよびダグラスというのは,この生産関数を考案した二人の人物の名前である。
(5.17)
5.4 応用例:コブ=ダグラス型生産関数
93
F (K, L) = K 0.3 L0.7
10
9
8
7
6
生産量
5
4
3
2
1
0 0
10
8
6
2
4
資本
図 5.8
4
6
8
労働
2
10 0
コブ=ダグラス型生産関数(α = 0.3 の場合)
2
ここで,∂∂LF2 は関数 F を L で二階偏微分することを表している。この値は負であるから,
労働投入量が増加すれば労働の限界生産物は小さくなる。これを限界生産物が逓減すると
いう。
同様にして資本の限界生産物は,
∂F (K, L)
= αAK α−1 L1−α > 0
∂K
(5.18)
∂ 2 F (K, L)
= α(α − 1)AK α−2 L1−α < 0
∂K 2
(5.19)
また,
したがって,資本の限界生産物も常に正であるが,資本投入量が増加すれば限界生産物は
逓減する。
第5章
94
多変数の関数
最後に,生産量の労働投入量に関する弾力性を計算してみよう。弾力性は限界を平均で
割ることにより求めることができる。労働の限界生産物は,(5.16) 式で与えられた。ま
た,労働の平均生産物 AP L は生産量を労働投入で割ることにより求められる。
AP L =
F (K, L)
AK α L1−α
=
= AK α L−α
L
L
(5.20)
したがって,生産量の労働投入量に関する弾力性 εL は,
εL =
MPL
=1−α
AP L
(5.21)
すなわちコブ=ダグラス型生産関数においては,生産量の労働投入量に関する弾力性が
一定の値 1 − α となる。同様に,生産量の資本投入量に関する弾力性も一定で,α となる。
5.5 多変数関数の最適化
5.5.1 制約条件のない最適化問題
二変数の場合
一変数の関数 f (x) において,f (x) が極大もしくは極小となるための必要条件(一階の
条件)は,
f ′ (x) = 0
(5.22)
であった。また,一階の条件を満たす x において,f (x) が極大となる十分条件(二階の
条件)は,
f ′′ (x) < 0
(5.23)
f ′′ (x) > 0
(5.24)
極小となる十分条件は,
ここでは,この最適化の条件を,二変数の関数に拡張する。
y = f (x1 , x2 )
(5.25)
一変数の場合と同様に,y が極大もしくは極小となるための必要条件(一階の条件)は,
y をそれぞれの独立変数で偏微分したものがすべてゼロとなることである。
∂f (x1 , x2 )
=0
∂xi
for i = 1, 2
(5.26)
5.5 多変数関数の最適化
95
f (x1 , x2 )
0
−5
−10
−15
−20
−25
−30
−35
−40
−45
−50
0
−5
−10
−15
−20
−25
−30
−35
−40
−45
−50
4
2
0
x2
−2
−4
−2
−4
4
2
0
x1
4
f (x1 , 0)
f (0, x2 )
3
3
2
2
1
1
0
0
−1
−1
−2
−2
−3
−3
−4
4
−2
−1
0
x1
1
2
−4
−2
−1
0
x2
1
2
図 5.9 f (x1 , x2 ) = −(x21 + x22 ) のグラフ
二変数関数の場合,極大および極小の十分条件(二階の条件)は複雑なため,例を用い
て考えよう。いま,表記を簡略化するため,f (x1 , x2 ) の一階,二階の偏微分を以下のよう
に定義する。
∂f (x1 , x2 )
∂xi
2
∂ f (x1 , x2 )
fij (x1 , x2 ) =
∂xi ∂xj
fi (x1 , x2 ) =
(5.27)
(5.28)
まず,以下のような関数について考えよう。
f (x1 , x2 ) = −x21 − x22
(5.29)
この関数のグラフは,図 5.9 に描かれている。図からも明らかなように,この関数は
(x1 , x2 ) = (0, 0) で最大となる。必要条件を確認すると,
f1 (0, 0) = 0,
f2 (0, 0) = 0
(5.30)
第5章
96
多変数の関数
g(x1 , x2 )
25
20
15
10
5
0
−5
−10
−15
−20
−25
25
20
15
10
5
0
−5
−10
−15
−20
−25
4
2
0
x2
−2
−4
−2
−4
4
2
0
4
x1
4
g(x1 , 0)
g(0, x2 )
3
3
2
2
1
1
0
0
−1
−1
−2
−2
−3
−3
−4
−2
−1
0
x1
1
2
−4
−2
−1
0
x2
1
2
図 5.10 g(x1 , x2 ) = x21 − x22 のグラフ
また,
f11 (0, 0) < 0,
f22 (0, 0) < 0
(5.31)
となっており,一方の変数を 0 で一定として,もう一方の変数が 0 のときに関数の値が極
大となることがわかる。
次に,以下のような関数について考える。
g(x1 , x2 ) = x21 − x22
(5.32)
この関数も,同様に (x1 , x2 ) = (0, 0) で極値の必要条件を満たす。
g1 (0, 0) = 0,
g2 (0, 0) = 0
(5.33)
g11 (0, 0) > 0,
g22 (0, 0) < 0
(5.34)
また,
5.5 多変数関数の最適化
97
h(x1 , x2 )
200
150
100
50
0
−50
−100
200
150
100
50
0
−50
−100
4 3
2 1
0−1
x2
−2−3
−4
−1
−4 −3 −2
0
1
x1
2
3
4
図 5.11 h(x1 , x2 ) = x21 − 8x1 x2 + x22 のグラフ
となっており,x2 を 0 で一定として x1 が 0 のときに関数の値が極大,x1 を 0 で一定と
して x2 が 0 のときに関数の値が極小となっていることがわかる。この関数のグラフは図
5.10 に描かれているが,(x1 , x2 ) = (0, 0) においてこの関数は極大でも極小でもないこと
がわかる。このように,必要条件を満たしていても二階微分の符号が異なる場合には,関
数はその場所で極大でも極小でもない。このような点は鞍点(saddle point)と呼ばれる。
必要条件を満たし,二階微分の符号が同じであっても,その場所で極大にも極小にもな
らない場合もある。たとえば,以下のような関数を考えよう。
h(x1 , x2 ) = x21 − 8x1 x2 + x22
(5.35)
この関数も,やはり (x1 , x2 ) = (0, 0) で極値の必要条件を満たす。また,
h11 = 2,
(5.36)
h22 = 2
であるから,二階微分の符号は同じである。しかし,図 5.11 からも明らかなように,こ
の関数は (x1 , x2 ) = (0, 0) において極大でも極小でもない。
結論だけを述べると,二変数関数が (5.26) 式の必要条件を満たすとき,関数がその場所
で極小となるための十分条件は,
2
[f12 (x1 , x2 )] − f11 (x1 , x2 )f22 (x1 , x2 ) < 0,
f11 (x1 , x2 ) > 0
(5.37)
第5章
98
多変数の関数
極大となる十分条件は,
2
[f12 (x1 , x2 )] − f11 (x1 , x2 )f22 (x1 , x2 ) < 0,
f11 (x1 , x2 ) < 0
(5.38)
また,D(x1 , x2 ) > 0 であれば,f (x1 , x2 ) はその場所で極値とはならない。D(x1 , x2 ) = 0
であれば,この方法では極値であるかどうかを判断することができない。
二変数関数の極大・極小
二変数関数 f (x1 , x2 ) の極大点・極小点の求め方:
Step 1. f1 (x1 , x2 ) = f2 (x1 , x2 ) = 0 となるような (x1 , x2 ) を求める。(必要条件)
Step 2. 上で求めた (x1 , x2 ) について,以下の値を求める。
2
D(x1 , x2 ) = [f12 (x1 , x2 )] − f11 (x1 , x2 )f22 (x1 , x2 )
– D(x1 , x2 ) < 0, f11 (x1 , x2 ) > 0 であれば,f (x1 , x2 ) はその場所で極小。
– D(x1 , x2 ) < 0, f11 (x1 , x2 ) < 0 であれば,f (x1 , x2 ) はその場所で極大。
– D(x1 , x2 ) > 0 であれば,f (x1 , x2 ) はその場所で極小でも極大でもない。
– D(x1 , x2 ) = 0 であれば,この方法では判断できない。
例題 5.1
以下の関数の極大点・極小点をすべて求めよ。
f (x1 , x2 ) = x31 + x32 − 3x1 x2
(5.39)
【解答】(この関数のグラフは,図 5.12)
f (x1 , x2 ) が極値となる必要条件は,
f1 (x1 , x2 ) = 3x21 − 3x2 = 0
f2 (x1 , x2 ) = 3x22 − 3x1 = 0
これを解くと,(x1 , x2 ) = (0, 0), (1.1)。
D(x1 , x2 ) = [f12 (x1 , x2 )]2 − f11 (x1 , x2 )f22 (x1 , x2 ) = 9 − 36xy
であるから,D(0, 0) = 9 > 0 となり,f (x1 , x2 ) は (0,0) では極大にも極小にもなら
ない。また,D(1, 1) = −27 < 0 であり,f11 (1, 1) = 6 > 0 であるから,f (x1 , x2 ) は
(1,1) で極小となる。
(解答終わり)
5.5 多変数関数の最適化
99
f (x1 , x2 )
15
10
5
0
−5
−10
15
10
5
0
−5
−10
x2
2
1.5
1
0.5
0
−0.5
−1
−1.5
−2 −2 −1.5 −1 −0.5
0 0.5
x1
1
1.5
2
図 5.12 f (x1 , x2 ) = x31 + x32 − 3x1 x2 のグラフ
三変数以上の場合
行列の知識が必要になるが,制約条件のない最適化問題の解法を三変数以上の関数につ
いて一般化しておこう。
多変数関数 f (x1 , x2 , · · · , xn ) が極値となる必要条件は,
∂f (x1 , x2 , · · · , xn )
=0
∂xi
i = 1, 2, · · · , n
f (x1 , x2 , · · · , xn ) のヘッセ行列 H を以下のように定義する。


f11 f12 · · · f1n
 f21 f22 · · · f2n 

H=
 ··· ··· ··· ··· 
fn1 fn2 · · · fnn
(5.40)
(5.41)
(5.40) 式を満たす (x1 , x2 , · · · , xn ) において,f (x1 , x2 , · · · , xn ) が極大となる十分条件
は,H が負値定符号となることであり,極小となる十分条件は,H が正値定符号となる
ことである。
第5章
100
多変数の関数
5.5.2 制約条件付き最適化問題
前小節で扱った二変数の最適化問題では,(x1 , x2 ) を自由に選ぶことができた。ここで
は,(x1 , x2 ) の選び方に制約がある場合の最適化問題を考えよう。
いま,g((x1 , x2 ) = 0 という制約の下で,f (x1 , x2 ) が極大もしくは極小となる点を求
めるという問題を考えよう。このような制約条件付きの最適化問題を解くには,ラグラン
ジュ乗数法という方法がよく用いられる*2 。まず,ラグランジュ関数を以下のように定義
する。
L(x1 , x2 , λ) = f (x1 , x2 ) − λg(x1 , x2 )
(5.42)
結論だけを述べると,制約条件の下での最適化問題は,(5.42) 式のラグランジュ関数を
制約条件なしで最適化するという問題に置き換えることができる。すなわち,f (x1 , x2 )
が g(x1 , x2 ) = 0 という制約条件の下で極値となる必要条件は,(5.42) 式のラグランジュ
関数を x1 , x2 , λ のそれぞれで偏微分したものが,すべてゼロとなることである。
∂L(x1 , x2 , λ)
=0
∂x1
∂L(x1 , x2 , λ)
=0
∂x2
∂L(x1 , x2 , λ)
=0
∂λ
(5.43)
(5.44)
(5.45)
この三つの式を同時に満たす x1 , x2 , λ を求めれば,g(x1 , x2 ) = 0 という制約条件の下で
f (x1 , x2 ) が極値となる点の候補となる。
通常は,(5.43),(5.44),(5.45) 式で表される必要条件を満たすような点を見つければ
それで十分である場合が多いが,念のため十分条件を明らかにしておこう。必要条件を満
たす x1 , x2 , λ において,f (x1 , x2 ) が g(x1 , x2 ) = 0 という制約条件の下で極大となるた
めの十分条件は,
f11 f22 fλλ + f12 f2λ fλ1 + f1λ f21 fλ2
− f11 f2λ fλ2 − f12 f21 fλλ − f1λ f22 fλ1 < 0
*2
(5.46)
もし制約条件を書き換えて x2 を x1 の式で表す(あるいは x1 を x2 の式で表す)ことができれば,それ
を目的関数に代入することで,この問題は制約条件のない一変数の最適化問題に変換して解くこともでき
る。
5.5 多変数関数の最適化
101
極小となるための十分条件は,
f11 f22 fλλ + f12 f2λ fλ1 + f1λ f21 fλ2
− f11 f2λ fλ2 − f12 f21 fλλ − f1λ f22 fλ1 > 0
(5.47)
この十分条件は行列を用いればより簡潔に表現することができる。ラグランジュ関数の
ヘッセ行列 H を以下のように定義する。

f11
H =  f21
fλ1
f12
f22
fλ2

f1λ
f2λ 
fλλ
(5.48)
すると,極大の十分条件は H が負値定符号,極小の十分条件は H が正値定符号となるこ
とである*3 。
例題 5.2
関数 f (x1 , x2 ) = x1 x2 が,x1 +x2 = 5 という制約の下で最大になる (x1 , x2 )
を求めよ。
【解答】(この関数のグラフは,図 5.13)
制約条件 x1 + x2 = 5 を書き直すと,
x1 + x2 − 5 = 0
この問題のラグランジュ関数は,
L(x1 , x2 , λ) = x1 x2 − λ(x1 + x2 − 5)
*3
行列による表現を用いると,ラグランジュ乗数法による解法を三変数以上の制約条件付き最適化問題に
一般化することができる。f (x1 , x2 , · · · , xn ) を g(x1 , x2 , · · · , xn ) = 0 という制約条件のもとで最適化
する問題を考えれば,ラグランジュ関数は,
L(x1 , x2 , · · · , xn , λ) = f (x1 , x2 , · · · , xn ) − λg(x1 , x2 , · · · , xn )
(5.49)
最適化の必要条件は,
∂L(x1 , x2 , · · · , xn , λ)
=0
∂xi
∂L(x1 , x2 , · · · , xn , λ)
=0
∂λ
i = 1, 2, · · · , n
(5.50)
(5.51)
H を L(x1 , x2 , · · · , xn , λ) のヘッセ行列とすれば,極大の十分条件は,det H < 0,極小の十分条件は,
det H > 0 である。
第5章
102
多変数の関数
f (x1 , x2 )
25
20
15
10
5
0
25
20
15
10
5
0
5
4
x2
3
2
1
0 0
1
3
2
4
5
x1
図 5.13 f (x1 , x2 ) = x1 x2 のグラフ
最適化の必要条件は,
∂L(x1 , x2 , λ)
= x2 − λ = 0
∂x1
∂L(x1 , x2 , λ)
= x1 − λ = 0
∂x2
∂L(x1 , x2 , λ)
= x1 − x2 − 5 = 0
∂λ
最初の二式より,x1 = x2 が得られ,それを最後の式に代入することで,(x1 , x2 ) =
(2.5, 2.5) が求められる。
したがって,x1 + x2 = 5 という制約の下で f (x1 , x2 ) = x1 x2 が最大となるのは
(x1 , x2 ) = (2.5, 2.5) のときである。
(解答終わり)
5.6 応用例:消費者の効用最大化(二財モデル)
消費者は財・サービスを購入して消費することで満足を得る。経済学では,消費者の満
足度のことを効用といい,消費者は予算の範囲内で効用が最大になるように財・サービス
5.6 応用例:消費者の効用最大化(二財モデル)
103
の消費量を決定すると考える。
実際には,消費者はさまざまな財・サービスを購入して消費することで満足を得てい
る。しかし,消費者の行動を分析する際には,簡単化のため消費者が消費する財・サービ
スは二種類だけであるとしても十分に一般的な分析が可能である。ここでは二財を消費す
ることで効用を得る消費者の効用最大化問題を考える。
消費者が得る効用 u は,財 1 の消費量 x1 と,財 2 の消費量 x2 によって決定されると
する。すなわち,消費者の効用 u は,財 1 の消費量 x1 と,財 2 の消費量 x2 の関数であ
り,以下のように書くことができる。
u = u(x1 , x2 )
(5.52)
このように財の消費量と消費者の効用水準との関係を表す関数を効用関数という。効用
関数の関数形としてよく用いられるのが,以下のようなコブ=ダグラス型の関数である。
β
u = u(x1 , x2 ) = xα
1 x2
, 0 < α < 1,
0<β<1
(5.53)
ここで,u は消費者の効用,x1 ,x2 はそれぞれ財 1,財 2 の消費量である。
他の条件を一定として消費する財を増加させたとき,追加的に得られる効用のことを限
界効用という。たとえば,財 2 の消費量を一定として財 1 の消費量を増加させたとき,追
加的に得られる効用のことを財 1 の限界効用といい,M U1 と書く。
この効用関数の下で,財 1 および財 2 の限界効用はそれぞれ以下のように表される。
∂u(x1 , x2 )
= αxα−1
xβ2
1
∂x1
∂u(x1 , x2 )
β−1
M U2 ≡
= βxα
1 x2
∂x2
M U1 ≡
(5.54)
(5.55)
ここで,α, β, x1 , x2 はいずれも正であるから,限界効用 M U1 , M U2 は財 1 および財 2 の
消費量にかかわらず常に正である。すなわち,どれだけ消費量が大きくなっても,消費
を増加させることにより効用が下がることはない。このことを,消費が「飽和」しないと
いう。
また,限界効用をさらに x1 および x2 で微分すると以下のようになる。
∂M U1
∂ 2 u(x1 , x2 )
=
= α(α − 1)xα−2
xβ2
1
2
∂x1
∂x1
2
∂M U2
∂ u(x1 , x2 )
β−2
=
= β(β − 1)xα
1 x2
∂x2
∂x22
(5.56)
(5.57)
第5章
104
U1
0 < α < 1, 0 < β < 1 であるから, ∂M
∂x1 および
∂M U2
∂x2
多変数の関数
はいずれも負である。すなわち,
*4
消費量の増加にともなって限界効用は逓減する 。
また,それぞれの財の限界効用は,もう一方の財の消費量にも依存している。
∂M U1
= αβxα−1
xβ−1
>0
1
2
∂x2
∂M U2
= αβxα−1
xβ−1
>0
1
2
∂x1
(5.58)
(5.59)
すなわち,それぞれの財の限界効用は,もう一方の財の消費量が大きいほど大きい。ここ
U1
で, ∂M
∂x2 と
∂M U2
∂x1
とが等しくなることに注意しよう。一般に,ある関数を複数の変数で
偏微分するとき,微分する順番を変えても結果は変わらない。これをヤングの定理とい
う。この場合,効用関数を,x1 で偏微分して(M U1 を求めて)からそれを x2 で偏微分
したものと,x2 で偏微分して(M U2 を求めて)からそれを x1 で偏微分したものとが等
しいことを確認することができる。
消費は飽和しないため,消費量を増加させれば効用も増加する。しかし,限られた予算
のもとでは,消費者は自分の効用が最大になるような財 1 と財 2 の消費の組み合わせを選
ばなければならない。このような問題を制約条件付き最大化問題という。この場合,制約
条件とは消費者の予算であり,これを予算制約という。
消費者の予算制約は以下のような式で表すことができる。
p1 x1 + p2 x2 ≤ I
(5.60)
ここで,I は消費者の所得(予算)
,p1 ,p2 はそれぞれ財 1,財 2 の価格である。
予算制約下での効用最大化問題は,以下のように表される。
max u(x1 , x2 )
x1 ,x2
s.t. p1 x1 + p2 x2 ≤ I
この式の一行目は,u(x1 , x2 ) が最大になるように x1 , x2 を選ぶ問題であることを表す。
二行目の s.t. は subject to の略で,「以下の制約の下で」という意味である。
予算制約の下での効用最大化問題には,いくつかの解法がある。ここでは,制約条件の
ない最大化問題に変換して数学的に解く方法と,限界代替率・価格比均等の条件を用いて
経済学的に解く方法の二通りで解いてみよう。
*4
ここでは,0 < α < 1, 0 < β < 1 を仮定したため,いずれの財の限界効用も逓減する。一般には,限界
効用が逓減することを仮定する必要はなく,α > 0, β > 0 であれば,予算制約下で効用を最大化する消
費の組合せは定まる。
5.6 応用例:消費者の効用最大化(二財モデル)
105
制約条件のない最大化問題に変換する方法
限界効用は常に正であるため,予算が余っているなら,財を購入することで効用を増加
させることができる。そのため,消費者が効用を最大化するためには予算をすべて使い切
る必要がある。したがって,予算制約式は等号で成立する。
p1 x1 + p2 x2 = I
(5.61)
財 1 もしくは財 2 のいずれかの消費量が決まると,残った予算はすべてもう一方の財に
支出されるため,もう一方の財の消費量は自動的に決定される。すなわち,財 2 の消費量
x2 は,財 1 の消費量 x1 の関数となり,以下のように表される。
p1
I
− x1 n
p2
p2
x2 =
(5.62)
これを,(5.53) 式の効用関数に代入すると以下のようになる。
(
u=
xα
1
I
p1
− x1
p2
p2
)β
(5.63)
この u が最大になるように,x1 を決めればよいということになる*5 。最大化の一階の条
件は,
du
=0
dx1
(5.64)
実際に (5.63) 式の u を x1 で微分してゼロとおくと,
du
= αxα−1
1
dx1
(
I
p1
− x1
p2
p2
)β
(
+ βxα
1
p1
I
− x1
p2
p2
)β−1 (
−
p1
p2
)
=0
(5.65)
この式を x1 について解くと,
x1 =
α
I
·
α + β p1
(5.66)
x2 =
β
I
·
α + β p2
(5.67)
これを (5.62) 式に代入すると,
*5
財 1 の消費量を決めるということは,予算制約を等号で満たすように財 2 の消費量も同時に決めている
ことになる。
第5章
106
多変数の関数
したがって,予算制約の下で効用を最大にする財 1,財 2 の消費量の組み合わせは,以下
のようになる。
(
(x1 , x2 ) =
I
α
·
α + β p1
,
I
β
·
α + β p2
)
(5.68)
ラグランジュ乗数法
この問題のラグランジュ関数は以下のようになる。
β
L(x1 , x2 , λ) = xα
1 x2 − λ(I − p1 x1 − p2 x2 )
(5.69)
最適化の必要条件は,
∂L(x1 , x2 , λ)
= αxα−1
xβ2 + λp1 = 0
1
∂x1
∂L(x1 , x2 , λ)
β−1
= βxα
+ λp2 = 0
1 x2
∂x2
∂L(x1 , x2 , λ)
= I − p1 x1 − p2 x2 = 0
∂λ
(5.70)
(5.71)
(5.72)
(5.70) と (5.71) 式から λ を消去すれば,
αxα−1
xβ2
1
p1
p2
p1
⇒
=
βx1
p2
β p1
⇒ x2 =
x1
α p2
βx1 xβ−1
2
αx2
(5.73)
=
(5.74)
(5.75)
これを (5.72) 式に代入して,x1 , x2 について解けば,
(
(x1 , x2 ) =
α
I
·
α + β p1
,
I
β
·
α + β p2
)
(5.76)
となり,(5.68) 式と同じであることが確認される。
無差別曲線と限界代替率
x1 x2 平面上に,同じ水準の効用を与える財 1 と財 2 の消費量の組み合わせの軌跡を描
いたものを無差別曲線という。すなわち,無差別曲線とは効用関数の等高線である。
図 5.14 の上図は,(5.53) 式の効用関数を,α = 0.3,β = 0.7 として図示したものであ
る。ここで,効用の高さは色の濃度で表されている。また,下図は x1 x2 平面上に,x1 , x2
5.6 応用例:消費者の効用最大化(二財モデル)
107
0.7
u(x1 , x2 ) = x0.3
1 x2
効用
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0 0
10
8
2
4
4
6
財 1 の消費量
6
財 2 の消費量
2
8
10 0
10
8
6
財 2 の消費量
4
2
0
2
4
6
8
財 1 の消費量
図 5.14 消費者の効用最大化
10
0
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
108
第5章
多変数の関数
の値に対応する効用水準を色の濃度で表したものである。無差別曲線は,この平面上の色
の濃度(効用水準)が同じ部分の軌跡である。
無差別曲線には,重要な性質が 4 つある。
(1) 無差別曲線は互いに交わらない。
(2) 原点から遠い無差別曲線ほど効用水準が高い。
(3) 無差別曲線は右下がりである。
(4) 無差別曲線は原点に対して凸である。
(1) の性質は,無差別曲線が交わるとしたときに,どのような矛盾が生じるかを考える
ことで示すことができる。図 5.15 には,異なる効用水準に対応する二つの無差別曲線が
交わっている状態が描かれている。このとき,A 点と B は同じ無差別曲線上にあるため,
効用水準は同じである。一方,A 点と C 点も同じ無差別曲線上にあるため,効用水準は
同じである。すると,B 点も C 点もともに A 点と同じ効用水準なので,B 点と C 点の
効用水準も同じでなければならない。しかし,C 点は B 点よりも財 1 の消費量も財 2 の
消費量も大きい。どちらの財も限界効用は厳密に正であるため,C 点の効用水準は B 点
の効用水準よりも高いはずである。この矛盾は無差別曲線が交わると仮定したことにより
生じたので,無差別曲線は交わらない。
(2) と (3) の性質も,どちらの財の限界効用も厳密に正であることから明らかである。
まず,平面上の右上ほど財の消費量が大きくなるため,原点から離れている無差別曲線ほ
ど,すなわち右上にある無差別曲線ほど効用水準が高い。また,一方の財の消費量が減少
したとき,同じ効用水準を保つためには,もう一方の財の消費量を増加させる必要がある
ため,無差別曲線は右下がりである。
(4) の性質は,限界効用が逓減することから導かれる。財 1 の消費量が少ないときには,
財 1 の限界効用は大きい。そのため,財 1 の消費量を少し増やせば,同じ効用水準を維持
しながら財 2 の消費量を大きく減らすことができる。しかし,財 1 の消費量が増加するに
ともなって,財 1 の限界効用は逓減し,同じ効用水準を維持しながら減らすことができる
財 2 の消費量は小さくなっていく。したがって,無差別曲線は傾きが徐々に緩やかになっ
ていき,原点に対して凸となる。
財 1 の消費量を少し増やしたときに,同じ効用水準を維持しながら減らすことができる
財 2 の消費量のことを,財 2 の財 1 に対する限界代替率という。限界代替率は,無差別曲
線の接線の傾きの絶対値である。したがって,(4) の性質は,限界代替率が逓減するとい
うことを意味している。
限界代替率を求めるためには,無差別曲線の式(x2 を x1 の関数で表したもの)を求め,
5.6 応用例:消費者の効用最大化(二財モデル)
109
x2
C
B
A
x1
0
図 5.15 交差する無差別曲線
それを x1 で微分すればよい*6 。
実際には無差別曲線の式がわからなくても,効用関数から限界代替率(M RS )を次の
*6
効用関数が (5.53) 式のように表されているとき,効用水準を ū で固定すると,
β
ū = xα
1 x2
(5.77)
この式を x2 についての式に書き直すと,
1
β
x2 = (ūx−α
1 )
(5.78)
これが x1 x2 平面上の無差別曲線の式となる。無差別曲線の傾きである限界代替率は,ū を定数と見なし
てこの式を x1 で微分することで得られる。
dx2 α β1 − α+β
=
ū x1 β
dx1 u=ū
β
(5.79)
ここで,この式に (5.77) 式を代入すると,
1 − α+β
dx2
α
β β
β
= (xα
1 x2 ) x1
dx1
β
α x2
=−
β x1
x2
である。
したがって,限界代替率は α
β x1
(5.80)
第5章
110
多変数の関数
ように求めることができる。
dx2 M RS ≡ −
=
dx1 u=ū
ここで,
dx2 dx1 u=ū
∂u
∂x1
∂u
∂x2
=
M U1
M U2
(5.81)
は,u を一定の値 ū に固定して x2 を x1 で微分したものを表す。無差
別曲線は右下がりであることからこの値は常に負であるため,マイナスをつければ絶対値
となる。この式は,限界代替率は限界効用の比率と等しい*7 ということを示している。
効用関数が,(5.53) 式であれば,財 2 の財 1 に対する限界代替率は,
M RS =
M U1
αxα−1
xβ2
1
=
β−1
M U2
βxα
1 x2
α x2
=
β x1
(5.84)
予算制約下の効用最大化(無差別曲線を用いた解法)
ここで,予算制約を満たす領域を,x1 x2 平面に図示しよう。予算制約は (5.60) 式で表
された。
p1 x1 + p2 x2 ≤ I
この式が等号で成立するとして,x2 を x1 の式で表すと,以下のようになる。
x2 =
I
p1
− x1
p2
p2
(5.85)
したがって,予算制約を等号で満たす,すなわち予算をすべて使い切る消費の組合せの軌
跡は,x2 切片が
p1
I
p2 ,傾きが p2
の直線となる。この直線のことを予算制約線という。予
算制約を満たす領域は,予算制約よりも内側(原点側)の領域と言うことになる。
*7
これを陰関数定理という。全微分を知っていれば,この定理は以下のように確かめられる。
まず,u(x1 , x2 ) を全微分すると,
du =
∂u
∂u
dx1 +
dx2
∂x1
∂x2
(5.82)
無差別曲線上では効用は変化しないことから,du = 0 であるので,
∂u
∂u
dx1 +
dx2 = 0
∂x1
∂x2
∂u
dx2 ∂x1
=
−
∂u
dx1 u=ū
∂x
2
(5.83)
5.6 応用例:消費者の効用最大化(二財モデル)
111
x2
u1 > u2 > u3
I
p2
A
C
u = u1
B
u = u2
u = u3
I
p2
0
x1
図 5.16 消費者の効用最大化
図 5.16 には,予算制約線といくつかの異なる効用水準(u1 > u2 > u3 )に対応する無
差別曲線が描かれている。
先に見たように,消費者が効用を最大にするためには予算をすべて使い切る必要がある
から,消費者は予算制約線上で消費の組合せを選択する。それでは,予算制約線上で最も
効用水準が高くなる消費の組合せはどの点だろうか。
まず,効用水準が最大になるのは A 点ではない。なぜなら,A 点における効用水準は
u3 であるが,予算制約線上を右下に移動することにより u3 よりも高い効用を得ることが
できる(u3 に対応する無差別曲線よりも外側に移動できる)からである。点 B も同様に
効用最大化点ではない。なぜなら,B 点を通る無差別曲線は図に描かれていないが,B 点
から予算制約線上を左上に移動することで,B 点を通る無差別曲線の外側を選択すること
ができるからである。最後に,C 点からは,予算制約線上をどちらの方向に移動しても,
C 点を通る無差別曲線よりも内側しか選択することができない。つまり,C 点から移動す
ると効用水準は下がるため,C 点が予算制約線上で最も効用水準が高くなる消費の組合せ
第5章
112
多変数の関数
である。この場合に予算制約の下で実現できる最大の効用は u2 である。u1 に対応する無
差別曲線は,完全に予算制約線の外側にあるため,予算制約の下で u1 の効用を実現する
消費の組合せを選択することはできない。
したがって,予算制約線と接するような無差別曲線を見つければ,その接点が効用最大
化点となる。予算制約線が無差別曲線に接しているということは,効用最大化点では無差
別曲線の傾きが予算制約線の傾きと等しくなっていなければならない。
dx2 p1
=−
−
dx1 u=ū
p2
(5.86)
したがって,効用最大化点では,
M RS =
p1
p2
(5.87)
が成立している必要がある。すなわち,効用最大化点では限界代替率と価格比が等しい。
効用関数が (5.53) 式で表されているとき,限界代替率は (5.84) 式なので,限界代替率
と価格比が等しいという条件は,以下のようになる。
α x2
p1
=
β x1
p2
(5.88)
この式から,効用最大化点における財 1 の消費量と財 2 の消費量の比率を求めることがで
きる。消費量の比率がわかれば,予算制約式と組み合わせることでそれぞれの財の消費量
を求めることができる。まず,この式を x2 についての式に書き直すと,
x2 =
β p1
x1
α p2
(5.89)
(5.60) 式が等号で成立するとして,(5.89) 式を代入すると,
p1 x1 + p2
β p1
x1 = I
α p2
⇒
⇒
⇒
⇒
β
p 1 x1 + x1 = I
)
( α
β
x1 p1 + p1 = I
α
I
(
)
x1 =
p1 α+β
α
x1 =
I
α
(α + β) p1
5.6 応用例:消費者の効用最大化(二財モデル)
113
同様に x2 を求めると,
x2 =
β
I
(α + β) p2
(5.90)
したがって,予算制約を満たしながら効用を最大にするような消費の組合せは,
(
(x1 , x2 ) =
α
I
·
α + β p1
,
β
I
·
α + β p2
)
となり,(5.68) 式と同じであることが確認される。
予算制約下の効用最大化問題
max u(x1 , x2 )
x1 ,x2
s.t. p1 x1 + p2 x2 ≤ I
Step 1. 効用関数から限界代替率(M RS )を求める。
M RS =
M U1
M U2
Step 2. 限界代替率=価格比とおく。
M RS =
p1
p2
Step 3. 上で求めた条件から x1 と x2 の比率を求める。
Step 4. x1 と x2 の比率および予算制約式から x1 と x2 を求める。
例題 5.3
ある消費者の効用関数が以下のように表されているとする。
0.7
u(x1 , x2 ) = x0.3
1 x2
(5.91)
財 1 の価格が 20,財 2 の価格が 40,予算が 2000 であるとき,この消費者の効用が最
大となるような消費の組合せを求めよ。
【解答】
解くべき問題は,
0.7
max u(x1 , x2 ) = x0.3
1 x2
x1 ,x2
s.t. 20x1 + 40x2 ≤ 2000
第5章
114
多変数の関数
限界代替率を求めると,
M RS =
0.3x−0.7
x0.7
3 x2
2
1
=
−0.3
7 x1
0.7x0.3
x
1
2
効用最大化点では,限界代替率と価格比が等しいので,
3 x2
20
=
7 x1
40
したがって,
x2 =
7
x1
6
これを予算制約式に代入すると,
7
20x1 + 40 × x1 = 2000
6
これを解くと,x1 = 30 となる。さらに,予算制約式から x2 = 35 が求まる。
したがって,効用が最大になる消費の組合せは (x1 , x2 ) = (30, 35) である。
(解答終わり)