エド「真理の扉は肛門にあった」 ルシエド ︻注意事項︼ このＰＤＦファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にＰ ＤＦ化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でＰＤＦファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ 門があれば扉がある。 新しい世界の扉を開けば、その向こうには新しい性癖が待ってい る。 真理の扉もまた、人がくぐるためにあるどこかの門に据えられたも のである。 扉の向こうの真理を求める者達は、その扉を越える術を追い求め た。 人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。 何かを得るためには、それと同等の代価が必要になる。 それが、錬金術における等価交換の原則だ。 その頃彼らは、それが世界の真実だと信じていた│││ エドとアル │││││││││││││││││││││││ 目 次 伝説の徳川家康の伝説 ││││││││││││││││││ 1 鋼の錬金術師 │││││││││││││││││││││ クソ科学読本 │││││││││││││││││││││ クセルクセスってなんかくさそう │││││││││││││ 8 16 26 36 エドとアル 男は死んだ。 阪神が優勝したことがあまりにも嬉しくて道頓堀に飛び込み、凍死 したのである。 悔いはなかった。 阪神が優勝したという事実があれば満足だった。 だが、心残りはあったのだ。 ﹂ ﹁うおおおおおおおおお死ぬなら女の子に生まれ変わりたいいいいい いいいいいッ 彼の叫びは性同一障害ではなく、 ﹁一回女の子になってみたい﹂とい う女性化願望。 彼は今まで生きていた世界から死後の世界に向けて、ジェットコー スターもかくやという速度ですっ飛んでいた。 その姿はまさしくシャンバラを征く者。 老衰で判断能力が死んだ老人がアクセルベタ踏みにした車のごと し。 ﹂ ﹁女 の 体 で 一 回 ぐ ら い オ ナ り た い い い い い い い い い い い い い い い い いッ ＴＳ転生とやらを果たしていた。 ﹁⋮⋮やべえ、あれがエンドルフィンってやつか。 人間死にかけると、いや死ぬとマジで脳内麻薬出まくるんだな⋮⋮ 死んでから生まれるまでの俺の言動、興奮し過ぎで一から十まで黒 歴史ぜよ⋮⋮﹂ だが彼の激動の人生はノンストップの急行便だ。 彼がハーフの女の子として生まれてから三年の後。 ﹂ 三歳の女の子だった彼の体は、朝起きたら三歳の男の子の体になっ ていた。 ﹁ファッ 先天的ＴＳと後天的ＴＳの両方の要素を持った彼はまさしく無敵。 !? 1 !! そして彼は、世界と世界を繋ぐ扉を発見、突撃、突破、通過。 !! 男でありながら特に問題なくＩＳを動かせる分かりやすい理屈│ │元女││を手に入れた彼は、世界中の人がランダムにＴＳするとい う謎の現象を調べながら、ＩＳ学園に入学することとなった。 彼の名は﹃エドモンド本田﹄。人は彼を、エドと呼ぶ。 時は流れる。 エドは中学校三年間、織斑一夏らと一緒であったが、さしたるイベ ントもなかったためカット。 現在、エドがＩＳ学園に入学してから一ヶ月ほどの時間が経ってい た。 ﹁平和なもんぜよ﹂ エドは窓際の席で購買のパンを齧りながら、学園のグラウンドを見 下ろす。 男に言い寄られて困っている少女こそ、ＴＳ現象に巻き込まれ女性 化した織斑一夏その人である。 ＩＳ学園は今や男女比１：１の普通の学校になっていたが、この学 校で一番モテる女性の座を織斑一夏が独占するという、世にも奇妙な 状態になってしまっていた。 と言う者が 何してもだいたい受け入れてくれる、容姿端麗、家事万能、割と誰 女になった織斑一夏こそが究極のヒロインだった にでも優しい。 入れているように見える。 ＴＳ時に自意識もある程度変わるのか、一夏は女である自分を受け " 2 ﹁いや、平和でもないか﹂ ﹂ ﹂ そこには、一人の女と五人の男が居た。 ﹁織斑さーん ﹂ ﹁付き合ってくれー ﹁かわいー ! ! ﹁いやー、ははは⋮⋮﹂ ! 居るほどであった。 " ﹂ そこで、わざとらしく女一夏の近くを通り過ぎていった六人のイケ 学園のイケメンセブンよー メンが居た。 ﹁キャー ﹂ ＥＤでヒロインと再会を約束して外国に行くイケメン 的オー 更識楯無は非の打ち所のない完璧超人イケメンポジション。 なくマゾ寄りだった。 鬼畜眼鏡ポジを乙女ゲー的に求められているのだが、簪はサドでは 更識簪はメガネの陰気なイケメン。 爆発させている。 眼帯が正気を疑うレベルで装飾過多だが、それが逆に乙女ゲー感を ラウラ・ボーデヴィッヒは軍人タイプのイケメン。 を出している。 実際は女性経験などなく一途なのだが、そのギャップが乙女ゲー感 シャルル・デュノアはフランス出身のヤリチン風イケメン。 している。 貴公子風のやたらと胸元を開いた服装が、実に乙女ゲー感を醸し出 セシリア・オルコットはイギリス出身のパツキンイケメン。 剣道をやっているせいか肩幅が異常に広いが、乙女ゲー感はある。 篠ノ之箒は剣道の全国大会で優勝したイケメン。 ﹁キャー ﹂ ﹁正 直 こ の ネ ー ミ ン グ ク ソ ダ サ だ と 思 う け ど 乙 女 ゲ ー 感 は あ る わ ー ! ﹁何ぶつくさ言ってんのよ、エド﹂ いつの間にこの学園は乙女ゲーの舞台になったぜよ ﹂ その美少女に夢中になる学園指折りのイケメン複数。 ﹁一人の美少女。 まとめて呼んでいるようだ。 ここに織斑千冬︵男︶を加えた七人を、クソダサネーミングで七人 そして六人揃って、野獣の眼光を女性化した一夏に向けていた。 " 教室の窓際席でパンを一人食うエドの横に、弁当を手に持った少女 ? 3 ! ! ! ラが実に乙女ゲー的だ。 " が座る。 ﹁アル﹂ ⋮⋮ あるのか無いのか 彼女の名は﹃凰鈴音﹄。ＴＳ経験無しの普通に可愛い女の子。 ﹂ ﹂ 中国から日本に来てすぐの頃、 ﹁中国人だろアルアル言えよ ﹁語尾のアルはどうしたアルは ﹂ ﹁アルアル言わないわけ無いアルよ どっちだ ? ! ﹂ アル ﹂という流れで離 ! 居るようだ。 男↓女↓男↓女と何度も性別が変わってしまっている哀れな者も 婚した者まで居るという。 ホモは嫌だホモは嫌だ﹂ ﹁グリフィンドォォォルッ 話に聞く限りでは、妻が男になったせいで﹁ホモは嫌だホモは嫌だ 恐るべしはこの性転換現象だろう。 えていた。 旧知の仲である一夏の堂に入った女っぷりに、エドと鈴は恐怖を覚 るんだよなあ⋮⋮﹂ ﹁同意。しかもこの性転換現象、一人の人間に複数回起きることがあ じゃない ﹁⋮⋮昔の知り合いが再会したら別の性別になってるって、普通恐怖 人は彼女を、アルと呼ぶ。 いう蔑称はいつの間にか友情を示す愛称になっていた。 その隙に動いたエドやら一夏やらのおかげでいじめは終了、アルと が大きかったらしく、一時登校拒否に。 現象に飲み込まれ、自意識の変革があってもなお男になったショック といじめられていたが、鈴をいじめていた女子グループが全員ＴＳ ! ! ﹂ ﹁そういえばあんた、あのランダム性転換現象のこと調べてたんだっ け ﹁え、本当に ﹂ ﹁嘘ついてどうすんだよ﹂ ? 4 ! ? ﹁ああ。だいたいあの現象の原因分かったぞ﹂ ? そしてエドは、転生という前提情報を持った上で調査と研究を続け ﹂ ﹂ たことで、人の性別が次々と変わっていくこの世界の真実に辿り着い ていた。 ﹁錬金術の基本、忘れてないよな ﹁質量保存の法則と自然摂理の法則、つまり﹃等価交換﹄でしょ できない﹂ ﹁なんてことなの⋮⋮ ﹂ ﹂ 錬金術の基本法則・等価交換が、ここに成立する。誰も抗うことは る。 女が男にＴＳして生まれて来ると、この世界の男の誰かが女にな ﹁男が女にＴＳして生まれて来ると、この世界の女の誰かが男になる。 昼休みに教室で話すようなことではない、そんな話を。 ﹁│││なん、ですって かが、等価交換でＴＳする﹂ 誰かがこの世界にＴＳして生まれて来るたび│││この世界の誰 すなわちここにも錬金術における等価交換が成立するんだ。 女が男になる。 ﹁男が女になる。 二人はタナカさんの様子に全く気付かず話を続けた。 エドとアルの後ろの席で弁当を食べていたタナカさんが戦慄する。 ⋮⋮︶ ︵なんでこの二人さも当然のように錬金術について語ってるんだろう ? ? ＴＳとは神の御業。気軽にＴＳしようとした者の思い上がりのツ ケは、この世界の誰かが支払わなければならない。同等の代価とし て。 ﹂ ﹁これは世界の真理だ。真実を知ったところで、俺達には何もできな かったのさ⋮⋮ ﹁エド⋮⋮﹂ た。 5 ? 思い上がらぬよう正しい絶望を与えるのが真理という存在だ。 ! この世界は、ＩＳの登場で引っくり返って女尊男卑の世界になっ ! だがその後、ＴＳの登場で全ての性別が引っくり返り、もう何がな んだか分からない世界となっていた。 だが、時は待たない。 緊急事態発生 ﹂ 絶望に打ちひしがれている彼らに、新たなる敵が襲いかかろうとし ていた。 ﹁緊急事態発生 ! ﹃現場﹄では、目撃者の誰もが口を抑えて絶句していた。 織斑一夏氏がオソマを漏らして倒れているのが発見 ﹁織斑一夏氏がオソマを漏らして倒れているのが発見された ﹂ 繰り返す された ! ＩＳ間で焦り混じりの通信が飛び交い、情報が共有されていく。 ＩＳを身に纏った者達が、学園内を飛び回る。 ! 浮かべていた。 ﹁敵は例の無差別襲撃犯 ﹂ スカトロ趣味の﹃スカー﹄ スカー 飛び回る学園のＩＳ。 繰り返す、襲撃者のコードネームは 人のように、その目に同情・悲痛・恐怖・不安といった様々な感情を ﹃現場﹄で一夏の周りに集まった者達は、殺人現場に立ち尽くす一般 現場の惨状に、思わず悲鳴を上げる。 被害者を見て、一歩後ずさる。 血の匂いを嗅ぎたくない時にする仕草のように、鼻をつまむ。 見たくないものを見ないように、目を覆う。 人のような反応を見せていた。 ﹃現場﹄で一夏の周りに集まった者達は、殺人現場に立ち尽くす一般 ! いるということに。 ﹁奴の破壊の右腕に触れられれば、絶対防御も無意味 ! 空を飛んでいるＩＳの数が一つ、また一つと、徐々に減っていって だが、彼ら彼女らは気付いているのだろうか。 ! ! 6 ! ! 攻撃を受けた者は必ず腹を壊す 接近戦は絶対に挑むな ﹂ ! なるぞ ﹂ ﹁スカーを捕らえろ このままでは、全員がオソマを漏らすハメに えているということに。 オソマを漏らし地に転がる仲間の数が一つ、また一つと、徐々に増 ! の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約に守られ あらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと、学園 ! ていたＩＳ学園は今、混迷の時代に突入していた。 7 ! ス カー 伝説の徳川家康の伝説 異常性癖の変態。 唯一スカーの魔の手から逃れたと言われる更識楯無生徒会長の証 言によれば、その人物は褐色の肌と切り傷のように残る白い肌が特徴 であるという。 肌の色以外に情報はなし。 顔をじっくり見る暇もなかったようで、楯無生徒会長も肌の色以外 の情報は持っていない。 全てが謎に包まれた、恐るべき襲撃者だ。 ﹁奴はＩＳ学園の生徒だけを狙っているぜよ。 事件が起こってから学園の出入りは常に監視されていた。 けれどスカーは捕まるどころか見つかってもいない。つまり⋮⋮﹂ ﹁ス カ ー は 学 校 と 外 を 行 き 来 し て い な い 人 物。つ ま り こ の 学 園 の 生 アル 8 徒ってことね﹂ エドと鈴はあえて言わないが、今年から事件が始まったことを考え れば、スカーはＩＳ学園一年生である可能性が非常に高い。 恐ろしいことだ。 エド達視点、スカトロ趣味の犯罪者が気付けば横に居るという状況 があり得る。 そして授業中に自分が、皆の前でオソマバーストを強要される可能 性すらあるのだ。 ﹁想像しただけで嫌になるわね﹂ ﹁特に被害の多い一年生の被害者を並べていくと⋮⋮ 第一の被害者は田中円さん。第二の被害者は田中焔くん。 第三の被害者は田中美樹くん。第四の被害者は田中京子さん。 第五の被害者は田中真美さん。第六の被害者は田中明美さん。 ﹂ 第七の被害者は田中要くん。第八の被害者が│││﹂ ﹁なんで今年の入学生、田中が異常に多いの 戦ったであろう人物を除くと、織斑一夏を除いた全員の名前が﹃タナ エドは被害者の名前を読み上げていくが、警備の最中にスカーと ? カ﹄であるという共通項があった。 ﹁一見、タナカさんばかり狙われてるように見えるけど⋮⋮﹂ ﹁次に狙われるのが誰かは分からんぜよ。 ﹂ 何せＩＳ学園のタナカさんはもう全員胃腸か肛門の医者の世話に なってるからな﹂ ﹁被害状況が嫌すぎるっ⋮⋮ ﹁それに田中さんだけ狙ってたんなら一夏を狙った理由が分からんぜ よ﹂ ﹁ん、それもそうね﹂ 織斑一夏。 彼だけが⋮⋮彼女だけが、この被害者の中で浮いている。 そこにスカーの正体を知る手がかりがあるのかもしれない。 せいへき ﹁﹃怖くてもう外を安心して歩けない﹄ ﹃新しい世界の扉⋮⋮真理の扉を開いてしまった﹄ ﹃ブリュンヒルデって名前が排便音に聞こえてきた﹄ ﹂ と被害報告が次々と上がってきてるらしいぞ。やっべーぜよ﹂ ﹁最後の風評被害的名誉毀損が致命的すぎない んでしょ ﹂ ﹁あんまり期待しすぎないでよ。スカー、あのタナカさんもやられた ﹁こっちのメイン戦力はお前だ。頼りにしてるぜ、アル﹂ 代表候補生の鈴が力を合わせ、事件解決に動いている様子。 まるかと、入学試験四位の頭脳を持つエド、エドよりかは強い中国の 人の尊厳が奪われる事件が人の命が奪われる事件に変えさせてた タイムリミットは、そう遠くないように思えた。 早くスカーを捕まえなければ、織斑千冬が殺人犯になってしまう。 ? アル エドと鈴の後ろの席で黙々と飯を食べていたタナカさん。あのタ ナカさんこそが、ソマリアの国家代表ＩＳ操縦者である。 鈴の後ろの席、エドの斜め後ろの席であるため、彼らは何度か会話 したこともある相手だ。 ﹁カナダの国家代表とホームグラウンドのカナダで対決、完勝。 9 ! ﹁ソマリアの国家代表操縦者、カックエー・タナカさんか﹂ ? スイスの国家代表とフランスの国家代表と一対一対一で対決、完 勝。 カナダのオマン湖での戦いも、スイス・フランス間にあるレマン湖 での戦いも伝説だ。 ﹂ ﹂ 海上湖上問わず、水上であれば無敵の強さを誇る伝説の国家代表、 カックエー・タナカ⋮⋮﹂ オマン湖とレマン湖がどうしたって ﹁⋮⋮ねえあんた、自分で言ってて恥ずかしくないの ﹁え ﹁あーあー、分かった分かった ? ﹂ ﹁ならないわよ ﹂ ﹁痛っ、痔になってしまうぜよ﹂ た。 ちょっと赤くなった顔色を隠すため、鈴はエドのケツを蹴り上げ ね あんたあたしを恥ずかしがらせるためにわざと下ネタ言ってるわ ? あのちょっと筋肉質な元女の ? ﹁会長に情報貰ったぜよ﹂ ﹁会長 ﹂ こいつ中一の時とやってること変わらねえな、とエドは思った。 身内相手にしか見せないような面白モーション。 白い格好になっていた。 そのままくるくると回り、カーテンを体に巻きつけ、鈴はかなり面 を確かめた鈴が、カーテンの隙間から顔だけを出す。 カーテンの向こうの窓で自分の顔を確認し、赤くなっていないこと ﹁でもよくこんなに被害者の情報集まったわね﹂ こいつ中三の時とやってること変わらねえな、とエドは思った。 れる。 鈴はエドの視線を逸らした隙に、教室のカーテンの裏に逃げ込み隠 ! ロシアの代表操縦者であり、日本の国防に携わる忍者であるとも言 更識楯無生徒会長。 長﹂ ﹁そう、スカーの不意打ちを食らってもただ一人耐えたというあの会 ? 10 ! ? ! われる少女⋮⋮元少女だ。 だが、一般的に女忍者はアナルが弱いとされている。 その例に漏れず男になった後の更識楯無もアナルが弱点であり、ス カーには敵わないだろう、というのがＩＳ学園生徒一同の見解であっ た。 だが楯無は、筋肉質な体に恥じない肛門の筋肉でその予想を覆し た。 スカーとの戦いでも漏らさなかったのだ。 括約筋においてもＩＳ学園最強であることを証明し、生徒達の尊敬 を集めたのである。 ﹂ ﹁情報をくれてたんだ、更識生徒会長⋮⋮通称、アナルストロング少将 がな﹂ 楯無会長ってアナル弱そうだよね という下馬評を覆し、その名 ﹁その通称付けたやつ、ドラッグでもキメてたの は伝説となった。 ? ﹁その心意気やよし あんたのそういうところは結構好きよ﹂ ﹁他の奴に任せるんじゃなく、俺達の手で一夏の仇、取ってやろうぜ﹂ グ要素の塊だった者といったところか。 流石は昔、北国で頂点を取った女で刀かつ姉というアームストロン " は確かな友情があり、それがエド達の を沸き立たせていた。 友の尊厳を貶められた怒り " 乗ってもいいだろう。 オソマを漏らしたことがないのならば、その人間は後方不敗を名 は、前方不敗の名を名乗るに相応しい。 スプラッシュをやらかしたことがない者が居たならば⋮⋮その人間 だがもしも、ただの一度も尿意に負けず、前から意図しない黄金の まけ、世界地図を描いたことがあるだろう。 誰しも一度は、小学生の頃に布団の中で黄金のスプラッシュをぶち " 特筆すべきこともない平々凡々とした中学校生活だったが、そこに だそれだけである。 エドとアルが事件解決に乗り出した理由はシンプルだ。友情。た ! 11 " ﹂ 織斑一夏はもう後方不敗を名乗れない。 悲しみに満ちた悲劇であった。 ﹂ ﹁俺達で怪しい場所徹底して回るぜよ ﹁おー ﹁何か居る﹂ ﹁何か居た﹂ ﹁やっほー、束さんだよ 束さんだった。 ﹂ ﹁つか、俺のこと覚えてたんですか﹂ 入っているのか。 九 死 に 一 生 を 得 た、気 が し た。あ の ポ ケ ッ ト の 中 に は、一 体 何 が 出す汗を抑えきれない。 を見せてから手をポケットから出したのを見て、エドはぶわっと吹き 束がエドと鈴を見るなりポケットに手を入れ、ちょっと考える様子 ︵あ、これアカンやつや︶ いっちゃんのお友達だっけ、エドモンド本田君﹂ ? 彼らがＩＳ学園の校舎裏に足を踏み入れた先に、何かが居た。 ただなんて。 スカーを探しに行ったその先で、更なる脅威が生まれようとしてい だが、彼らは想像もしていなかった。 彼らは倒すべき敵を探すべく、力強い一歩を踏み出した。 行く。 エドが情報を元に怪しそうな場所に見当をつけ、アルが彼に付いて ! ﹁うーん、どうやって口封じしようかな ! ﹂ ﹁ぜよぜよ言っててウザかったしね。よく覚えてるよ﹂ ﹁ 12 ! ﹁まあそれ抜きにしても君のことは覚えてるよ。 !? 何でもしますから ﹂ ぶっちゃけ、世界に一人のレアモノだし、ちょっと同情できなくも ないし⋮⋮﹂ ﹂ 黙れ ﹁レアモノ⋮⋮ ﹁シャラップ ! アル ﹂ ? ﹁ぜよぜよ君。錬金術の基本は ﹂ 左手にＩＳコアに似た謎の大型機械を持っている。 気付けば束はいつの間にか、右手に何かが入った七本の試験管と、 余裕を無くしていたのだと気付かされた。 を見て、エドは数秒前までの自分がそんなことにも気付かないほど、 そして鈴が指差した先に、目立つ光の玉がプカプカと浮いているの ﹁あれって⋮⋮あれ、なんだあれ本当になんだあれ﹂ ﹁ねえ、あれ何かしら 束が秘密を漏らさないと知り、エドは安堵の息を吐く。 それを知っていて、彼女らしくもなくちょっと同情している模様。 エドはどうやら、鈴に何か隠したいことがあるようだ。そして束は んでもない﹂ ﹁いや束さんとしては君に何でもされてもたかが知れ⋮⋮ううん、な ! ? ﹂ ﹁え ﹂ 肉体はともかく、精神の構成要素だったものは、どこに行くのかな ﹁なら、女の子が女の子だった頃に持っていたもの⋮⋮ 束の意図が読めないため、エドは素直に質問に答える。 さも当然のように特に理由もなく錬金術に詳しい彼と彼女ら。 ﹁質量保存の法則と自然摂理の法則⋮⋮﹃等価交換﹄ですよね﹂ ? エドはピンと来なかったようだが、同じ少女であり、元正統派ＩＳ ヒロインである鈴にはピンときたようだ。束にはそれが分かったよ うで、陽気な笑みに一瞬知性を浮かばせる。 そう、錬金術の基本は等価交換なのだ。 Ａをａにする、一を壱にすることこそが基本であり、０から１は生 まれず、１を０にすることはできない。それが世界の法則だから。 13 ! ﹁⋮⋮まさか﹂ ? ? ﹁箒ちゃん達が男になって、箒君達の中に居られなくなった感情が、 ﹂ ﹃これ﹄だよ﹂ ﹁は 例えば﹃ヒロイン特有の嫉妬心﹄。そういった感情は、ヒロインがヒ ロインでなくなった時点でヒロインの中には居られない。 ﹁そう、箒ちゃん達がまだ女の子だった頃 言い換えるなら、彼女達がヒロインだった頃 ﹂ ヒロインとしての彼女らが持っていた心の要素は、全てここにある ! ! ロイン全ての中に大なり小なりあった ヒロイン特有の感情 は " プライド まあ最終的には私を好きになってくれるよね ﹃傲慢﹄。 エンヴィー 思い上がり。 ?" 強の大罪⋮⋮ ﹂ 他の大罪ことごとくを凌駕し、他の大罪と複合することもある、最 そして﹃嫉 妬﹄。 という無自覚の ら、自分をよく見せるための偽装は特に行わない⋮⋮という怠け。 好かれたいと思うけど、ありのままの自分を好きになって欲しいか ﹃怠惰﹄。 スロウス メシウマの者とメシマズの者が入り混じった高度なハーモニー。 ﹃食 欲﹄。 グラトニー 思春期特有のバカみたいに色恋一直線な恋愛感情。 ﹃色欲﹄。 ラスト 惚れた異性も、勝利の栄光も、新たな力も、何もかもを求める欲求。 ﹃強欲﹄。 グリード 惚れた異性の鈍感さに向けられる、暴力を伴った理不尽な怒り。 ﹁﹃憤怒﹄。 ラー ス る生命体として顕現しようとしていた。 ⋮⋮元ヒロイン達の体から抜け出し、ＩＳ学園の片隅で、今や新たな " ＩＳヒロインが男になり、ＩＳヒロインでなくなった瞬間、ＩＳヒ ! そう、彼らの前に浮かぶ光の玉こそが、ＩＳヒロインに共通して存 ! 14 ? " あ、あれを見てるとあたしの胸が痛む 在していた感情の集合体。 ﹁あだだだだ ﹂ ! ていたってのか ﹂ この世界を構成する真理の一角だ。 あんたはこれを何に使おうってんだ ! ! 比例して目が死んでいく。 ﹁この世界の法則を壊すために使うのさ ていいよ ちーちゃんがちーくんになったのは目眩がしたよ ﹂ ! ﹂ ! 突した ﹁ハッピーバースデイ 光が弾ける。 ホムンクルス達 束は死んだ目のまま七つの試験管を放り投げ、試験管と光の玉が衝 始めたぜよ⋮⋮﹂ ﹁人格破綻者のマッド女が、世界の残酷さの前にまともなことを言い 怖すぎるかなって﹂ ﹁というかね、あのね、いつ自分が男になるかもしれないってちょっと ﹁Ｏｈ⋮⋮﹂ は吐き気がしたよ いっくんがいっちゃんになって、うちの母が男になって離婚した時 ! 箒ちゃんが目を話した隙に箒くんになっちゃうような世界は壊れ ! エドがそう問うた瞬間、束の声がこれまで以上に上ずっていき、反 ﹁束さん ﹂ ﹁なんてことぜよ⋮⋮こんな大罪が、たった六人の中に押し込められ ! が誕生した。 そうして、篠ノ之束が望んだ、世界の法則を捻じ曲げるための存在 ! 15 ! ! クセルクセスってなんかくさそう 篠ノ之束は大罪を連れ、エド達に何をするでもなく去って行った。 あ れ を ど う い う 形 で 彼 女 の 目 的 に 活 用 す る の か ま で は 分 か ら な かったが、束の切実な叫びに嘘はなかったと、エドは思う。 さて、どうしたものかと彼は思案する。 アル インパクトのある出来事が連続したせいで、彼は何から片付ければ いいのか判断に困っていた。 千冬に束のことを報告しに行った鈴と別れ、彼は悩みながら昇降口 ﹂ を目指して校舎の脇を歩いて行く。 ﹁お と、そこで、エドは草木の陰に隠れている男子生徒を発見した。 一学年ごとに指で数えられる程度の数しか存在しない、ＴＳ未経験 の純粋な男である少年だ。 男だった女、女だった男、普通の男、どれもこれもがＴＳ一夏に惚 ﹂ れる中、女になった一夏に惚れていない珍しい男子生徒だったので、 エドもおぼろげながら覚えていたようだ。 ﹂ ﹁どうしたお前、なんでそんなとこに隠れてるんだ ﹁ ? るのを思い出してぐっと声を堪えたようだ。 そしてエドの顔を見て、彼が特定の女子と仲良くしていたリア充で あることを思い出す。 男子生徒は少し悩んでいたようだが、自分よりちょっとでも恋愛経 験のありそうな、かつ悩み相談をすればいいアドバイスをくれそうな 顔をしている││いいアドバイスをくれそうな性格をしているわけ ﹂ ではない││、二組の委員長・エドモンド本田を頼ることを決めた。 ﹁なあエド。ちょっと相談に乗ってもらっていいか ﹁いいぜよ。ちょっとした相談くらいなら﹂ 話がしたかった。 話を聞こうとするエド。今は汚い話ではなく、同級生とバカっぽい ? 16 ? 男子生徒は驚きながら振り返り大声を出しそうになるが、隠れてい !? ち ょ っ と っ て レ ベ ル じ ゃ な い の が い き な り 来 た ぜ ﹁俺、ホモかもしれないんだ﹂ ﹁お お っ と う よ﹂ あゝ無情。バカっぽい話を望んだはずなのに、薔薇っぽい話に流れ てしまった。 そこでようやく、エドは男子生徒が草木の陰から見ていた人物が、 男になった篠ノ之箒であることに気付く。 ちょっとだけ女らしい欠点があるものの、それ以外は非の打ち所の ない美少女だった篠ノ之箒。 当然ながら男になった彼女は、非の打ち所のない完璧なイケメン剣 道マンになっていた。 欠点があるとすれば、箒の剣道着が異常に臭いことくらいだろう。 ﹁どうすりゃいいんだ。この胸のドキドキ、揺れる想い⋮⋮﹂ ︵どっちにも揺れる胸がねえ恋愛相談を受けた俺の方こそどうすりゃ いいんだ︶ ﹁俺、異常性癖者になっちまったのかな⋮⋮﹂ ︵そうだよ︶ ロ ゼ ﹁どうすればいいんだ、エド⋮⋮これから俺は、何にすがって生きてい けばいいんだ⋮⋮﹂ 男同士の恋愛は薔薇と呼ばれる。つまり薔薇。ロゼなのだ。 勃って歩け、前へ進め、男には立派な第三の足が付いてるだろ││ │そう気軽に言えたなら、エドもどんなに気が楽か。 気軽に何かを言えない状況がエドに言葉を選ばせて、思考は堂々巡 り。 結果、エドはだんだん面倒臭くなって、何も考えずに適当に喋り始 めた。 ﹁お前がホモであることを恐れる必要はないぜよ﹂ ﹁だけど⋮⋮﹂ ﹁仮にお前の先祖の中に一人でもホモが居れば、お前は生まれてこな かった。 その事実が一つの事柄を証明する。 17 ? お前は先祖代受け継がれてきたその血脈に初めて現れた、始まりの ホモ。始祖のホモだ﹂ ﹁始まりの⋮⋮始祖の、ホモ⋮⋮﹂ ﹁お前はアダム。ホモのアダムだ。イヴを必要としない、より完成さ れたアダムなんだ﹂ 命がなかった頃の地球に初めて生まれた命は、偉大だろう。 海の命の中で初めて陸に上がった命も、また偉大だろう。 猿の中に初めて発生した人間も、我々からすれば偉大な命だ。 という意味で、ノンケ なればこそ、代々ノンケであった血脈の中に初めて発生したホモ それまで誰もなれなかったものになった も、また偉大。 る生命なんだ﹂ ﹂ と ! 今までお前の先祖が誰もなれなかった存在に進化した、未来を生き ﹁考え方を変えてみるぜよ。お前は異常性癖者になったんじゃない。 飛行士のそれに匹敵する人間なのだ。 の家系に生まれた始まりのホモとは、月に初めて足を踏み入れた宇宙 " ポケモンＧＯもといホモ堕ちＧＯだよ ﹁そうか、俺は、ホモに進化したのか⋮⋮ Ｂボタン押せよ ! ﹂ 現在ノンケの││考えようによってはレズだが││♂箒に告白し ⋮⋮テキトーなことをそれっぽく言ってしまった⋮⋮︶ ︵⋮⋮どう答えるのが正解か分からなかったから⋮⋮ とほんのりとした後味を残す後悔が、エドの体に残っていた。 まったりとしていてそれでしつこくなく、口の中に絶妙な歯ごたえ やりとげた感とやっちまった感が奏でる極上のハーモニー。 いた。 走り去って行く男子の背中を、手を振るエドが死んだ目で見送って ﹁いってらっしゃい﹂ ﹁俺、告白してくる ︵アーッチャー⋮⋮︶ ﹁答えは得た。ありがとうエド。俺もこれから頑張っていくから﹂ 突っ込む者はここに居ない。 ! ! 18 " て、あの男子生徒がそのショックでノンケ、あるいはバイに戻ること もあるだろう。今のエドにはそう祈ることしかできない。 負けないホモになること、投げ出さないホモになること、逃げ出さ ないホモになること、信じ抜くホモになること。ホモからノンケに戻 りそうなその時、きっとそれが一番大事なことだ。 ただそれは、ホモで居続けるために大事なことであり、人として大 事なことではないことに留意する必要がある。 ﹁そうだ。大切なのは、自分らしくあることぜよ﹂ ホモらしくあること、ノンケらしくあること、レズらしくあること、 男らしくあること、女らしくあること。この世界だからこそあやふや になっているそれらについて考えを巡らせる内に、エドは一つの結論 に辿り着いたようだ。 スカーやら束やら、間近に迫った危険は多くある。 自分らしく考える という思考から原点に だからエドはどれから片付けるべきか迷っていた。 されどエドはここで " 立ち返り、今すぐにでも何かやらかす可能性のある方、スカーから片 付けるべきだという判断を下した。 ＩＳ学園はいい学び舎だ。 その人らしく ⋮⋮、⋮⋮ ⋮⋮ ? ﹂ ! る│││ アル 駆け寄ってくる鈴を遠目に見ながら、エドはスカーの正体に思い 至っていた。 19 " 青少年が迷った時、他の青少年の決断と覚悟が、迷う背中を押して 自分らしく ? くれることがある。 ﹁ん ? ﹁そう、か。そういうことだったのか﹂ ! 何気ない出会いが、閃きをくれることもある。その時エドに電流走 ? カックエー・タナカ。 エドとアルの会話にも名前が出ていた、名の知られたＩＳ操縦者で あると同時にソマリア国家代表である人物であり、二人の後ろの席の 少女であり、スカーの襲撃を受けた少女だ。 彼女は昇降口でオソマを漏らした姿を発見され、スカーの被害者と して病院に運ばれた。 そして本日退院し、午後の授業から出席することになっていた。 が、そんな少女の前に一人の少年と一人の少女が立ちはだかる。 少年はタナカを指差し、告発の言葉を紡いだ。 ﹂ ﹁お前がスカーだぜよ﹂ ﹁⋮⋮何の冗談かな タナカは動揺を見せず、けれど僅かな困惑が垣間見える微笑みを浮 かべ、頬を掻く。 それを見た鈴は不安になったのか、エドの背後からその背中を軽く ? 小突いた。 ︵ちょっと、大丈夫なんでしょうね︶ ︶ ? もしかしてあんたの方は忘れてんの え ︵俺を信じろ。俺がお前に嘘ついたことあったか ︶ 何 は ? ? 進めた。 ﹁俺はまず、犯人の性癖を考えるべきだった。 正解は⋮⋮そこにあったんだからな 俺は過去の事件を参考にプロファイリング、スカーの思考を推測し た﹂ 突きつけた指をピッと動かし、エドは推理を披露する。 ﹁お前は恐るべき女ぜよ。 常に趣味と実益を両立していた。 ﹃タナカ﹄だけを狙っていたのはフェイク。 自分を被害者に仕立て上げても、自分もタナカであるがために疑わ れないだろう、という企み﹂ 20 ? ? ︵あるわよ。え マジで ? 鈴が怒り始めた雰囲気を背中に感じ、エドは誤魔化しも兼ねて話を ? ﹁ ﹂ じゃあエドは、この人が自分を容疑者から外すために自作自演 やったって言うの ﹁ああ。この人はわざとオソマを漏らして、自分を容疑者にならない 被害者にしたんだ﹂ ﹁⋮⋮﹂ あの男子生徒のおかげだ。 ア イ デ ア ロー ル 失 敗 濃厚なホモ話とホミングアウトのダブルパンチによって、エドは 正気を保つことに成功し、一時的な狂気に陥ってしまった。 が、それが逆に﹃一時的に狂人を理解できる状態になった﹄という メリットをエドにもたらしたのである。 狂人は狂人にしか理解できない。 与えられた狂気は、言い方を変えれば狂人を理解できる権利である とも言える。 そうして狂人の思考を一時的に手に入れたエドは、自分が今まで無 自覚に一部の人間を犯人候補から外していたことに気が付いた。 ﹁スカーの性癖なら、人前で漏らすのは苦痛じゃない。むしろ快楽の はずだ﹂ もしタナカが本当にスカーであるのなら、真っ昼間、青い空の下、人 に見られる目的で、野外で漏らすのはさぞ気持ちよかったことだろ う。。 見つかるまでの間、漏らした自分の姿を見られたらどうなるんだろ うと興奮してたはずだ。 私の肌の色は褐色ではありませんよ ﹂ 発見された瞬間、絶頂すら覚えていた可能性すらある。 ﹁肌の色は 好きな物を身に付ける よな ? のは、そりゃ誰だって好んでやることだ お前はそこでも、趣味と実益を両立していた。 ﹁そこもお前の恐ろしいところだ。 ? " ﹁⋮⋮﹂ から気付けなかった﹂ だけどおそらく、お前以外の誰もがそんなことを考えもしない。だ ? 21 ? ! " 戦慄する鈴。 つまり、カックエー・タナカは、肌の上に﹃好む物﹄を塗りたくっ ぎないでしょう ﹂ ﹂ ﹁でも、証拠が無い。残念ね。私がスカーだという推測、いや妄想に過 ただその現実を鈴の脳が受け入れていないだけで。 いや、本当は分かっているのだ。 ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 鈴は戦慄しつつも、全く理解できない。 うことになる。 て自分の肌の色、ひいては人種を誤魔化し、捜査網を逃れていたとい !?!?!?!?!?!!?!?!?!?!!?!? ﹁ ﹂ ﹂ ﹁オソマ、髪に付いてるぜ﹂ す。 エドはタナカに突き付けていた指を僅かに動かし、彼女の髪を指差 ﹁⋮⋮ ﹁いや、証拠は今見つけた。﹂ ? これが決着の一撃となった。 髪にいもけんぴが付いていた少女漫画を参考にエドが考えたハッ タリが、綺麗に炸裂する。 普通の人間はな ! 一瞬後、タナカは狼狽し、エドは目を細めていた。 ﹁ボロを出したな⋮⋮ オソマなんて触りたくねえんだよ ! ? ﹂ 自分の髪にゴキブリが付いてたとして、瞬時に掴んで捨てようとで ﹂ きる人間が居るか ﹁⋮⋮ !? ﹂ 普通の人間なら、髪にオソマが付いているわけないと思い、少し視 ス。 好んで常にオソマと共にあった人間だからこそ、してしまったミ ぜよ ﹁咄嗟に手で取って隠そうとした時点で、お前はもう言い逃れできん ! ! 22 ? はっとして、髪に手をやるタナカ。 ! 線をやるだけだろう。 最近の事件で疑心暗鬼になっている人間でも、髪のオソマに怯えて 洗面所に駆け込み、そこで初めて恐る恐る確認するはずだ。 髪のオソマを﹃手で取って隠そうとした﹄行動を見せた時点で、タ ナカは詰んでいた。 ﹂ ﹁⋮⋮そうよ、私がスカー﹂ ﹁ エドが追い詰めたことは無駄ではなかったようで、タナカは様子を 一変させ、一転して饒舌になり、自分がスカーであることを認め始め た。 ﹁一つ訂正しましょう。 タナカを狙ったのは、偽装の意味だけじゃない。 オソマ被ってる奴がキャラ被り 名前被りのキャラ被りがあんまりにも多かったから、間引いたの よ﹂ ﹂ ﹁想像以上に酷い理由だった⋮⋮ を気にするとかありかよ ! ﹂ 自殺直前の女性を見ている気分だ。 ﹁一夏を狙った理由は何だ 悪い俺、織斑が好きなんだ ﹁ふふふ⋮⋮あなたに分かる 好きな男に告白して、 " ? ﹂ 気持ちが⋮⋮﹂ ﹁ ﹁私の何がアイツに負けてるの って言ったら !? 分 か ! な⋮⋮﹄ ﹂ ! ﹃顔と、性格と、性癖のまともさと、胸の大きさとスタイルの良さか ! 元男に女として負けた、私の気持ちが。女として、殺された、私の の気持ちが。 と言われた私 タナカの言葉からは、凄まじいやけっぱち感が感じられる。 ! !? " っ て 言 わ れ た 私 の 気 持 ち が ぁ あ ん た 達 な ん か に ぃ るってのぉ ﹁⋮⋮ごめんね﹂ !? 23 ! !? ﹁⋮⋮ごめんな﹂ ﹁同情はやめろォ これは酷い。 ﹂ タナカが好きだった男が、タナカの必死の懇願で胸中を語ってし まった結果がこれであるというのだから、なおさらに酷い。 完全にとばっちりな一夏も、単に好きな人が別に居ただけという男 も、狂乱に相応の理由があったタナカも、全員哀れだ。 許される許されないの問題を脇に置いておけば、全員が被害者であ るとさえ言える。 何もかも、クソみたいなこの現実が悪い。 ﹁だから教えてやったのよ ﹂ あの、アイドルはオソマしないと幻想を抱いている男に 自分の正体を隠すための、口封じだ。 ! そんなことになったら首吊って死んでやるわ ! タナカが動き、鈴が動く。 絶対に嫌 ﹁さあ、あんた達も味噌漬けにしてやるわ ﹁嫌よ ﹂ ﹂ ならば、ここで彼女が取る行動は決まりきっている。 る。 まで、タナカを振った男に何の危害も加えていないことからも伺え それは怒り狂って無差別八つ当たり襲撃犯と化したタナカがここ は自分を割と酷い理由で振った男への復讐で完結させるはずだ。 自分の正体を隠したまま、目障りな人間全てを排除し、そして最後 とはいえ、カックエー・タナカの目的は一つだろう。 違いなしか。 神の右席・前方の○ン○とオティヌスのクソグニルの大規模衝突間 たらどうしよう。 だ。神裂さんが﹁下条のオソマ⋮⋮いい名前ですね﹂とほざきはじめ 下の幻想殺しなんて上条さんではない。下条さんだ。下条オソマ 嫌な幻想殺しもあったものだ。 当たり前の現実を思い知らせる、この幻想殺しの右腕で ! ! ! 24 ! ! ! ＩＳ二次創作に相応しい、代表操縦者ＶＳ代表候補生のＩＳ戦が始 まろうとしていた。 25 クソ科学読本 鈴とタナカがＩＳを纏い、激突する。 タナカは専用の改造が為されたラファールの装甲の厚みにあかせ た籠手の拳撃、鈴は専用機・甲龍の青龍刀による斬撃を振るう。 拳撃と斬撃が衝突し、鈍い金属音が響き渡った。衝撃波が二人の少 女の髪を揺らす。 だがその一交で両者は何かを悟り、タナカは笑って、鈴は口元を歪 めた。 ﹂ タナカは鈴を蹴り飛ばし、その隙にエドと鈴から離れるように飛翔 する。 ﹁逃げた ﹁⋮⋮違う。今の一瞬で、悟られたのよ﹂ 二人はタナカの後を追うが、どうにも追いつけない。 エドは逃げたのかと思ったが、悔しげに呟く鈴にはタナカの思考が 理解できているようだ。 ﹁あたしにほぼ確実に勝てること。 それでも時間はかかるだろうってこと。 あたしの役目が時間稼ぎだってこと。 ﹂ ぐらい一般人には理解不能なことしてるなこ だからタナカさんは、会長達に先んじて奇襲を仕掛けて先に片付け ﹂ 目を見れば分かる るつもりなのよ ﹁ の野郎 とエドが事前に根回しをしていたこと 自分達が追い詰めたタナカがＩＳを使用した時点で彼女 をスカーと認定して下さい 実は今、 " ! 仕掛けて全滅させる可能性に賭ける方がまだマシだ。 それなら鈴に背を向けこの戦闘から離脱し、会長達に先制の奇襲を 鈴と戦っていて足止めされ、包囲されたらそれこそ勝ち目がない。 あるいは鈴の様子から感づいたのかもしれない。 タナカはそれを感知したのだろう。 で、ここに更識楯無を初めとする数名が向かっていた。 " " 26 !? ! " ︶ エドは会長に警告しようとしたが一手遅かったようで、応答が返っ てこない。 ︵通信が繋がらない⋮⋮ クソだけに 残な醜態を晒していた。 ﹁クソ、遅かったか ﹂ ! い安全性能だ。 ﹁ってあれは、会長 ﹁⋮⋮な、なんとか、ね⋮⋮﹂ 大丈夫ですか ﹂ 人の尊厳すら守ってくれるＩＳ、有能。世界を変えたロボに相応し でいた。 ツの外側にまで漏らすことなく、人としての尊厳を全て失わずに済ん 全てのＩＳが持つ搭乗者保護機能により、彼ら彼女らは皆ＩＳスー がＰＩＣ。 外に出てしまったものをパンツがなんとか押し留めてくれた状態 腹を壊しても外に出していない状態がＡＩＣ。 肛門で押し留められなかったために⋮⋮可哀想に⋮⋮︶ いや、 Ｐ Ｉ Ｃ か。 パンツインクラッシュ ︵Ａ Ｉ Ｃ ⋮⋮ アナルインクラッシュ エドは一瞬で目配せし、それぞれの被害状況を把握した。 漂う。 各操縦者達の人としての尊厳と等価交換で辺りに発生した異臭が ﹁エド、はっ倒されたいの ﹂ 襲で全員やられており、対象の腹を壊す破壊の右腕のせいで見るも無 エドとアルがタナカを再度見つけたその時には、援軍はタナカの奇 ! ﹃くのいちって尻穴弱そうだよな﹄ ﹁私のご先祖は時の将軍家光公に る。 ておらず、ＩＳ学園最強の生徒の名に恥じない勇姿を見せつけてい 楯無は足が震え脂汗こそ流しているものの、オソマの一切を漏らし ︵男︶も視界に入れた。 そしてエドはタナカだけでなく、タナカと対峙していた更識楯無 ! 27 ? ! ! と言われて以来、その屈辱にずっと耐えてきた。 ﹃くのいちのアナルを攻めるロマンはあっても、くのいちのアナル 屈辱を晴らすそのために 私 も、妹 も ! が弱いなんて事実はない﹄ ということを証明するために ﹂ 更 識 家 の 女 は 代 々、ア ナ ル を 鍛 え て き た の よ ⋮⋮ ⋮⋮ ﹂ ﹁まあ今は男ですけどね﹂ ﹁だまらっしゃい ! ! ! ではなく、彼女の求める勝利はトイレにしかない。 ﹂ ﹂ ﹁気を付けなさい⋮⋮やつは、新しい技を身に付けて⋮⋮うっ⋮⋮ ﹁あ、アナルストロング会長⋮⋮ ﹂ ! オソマのご武運を ﹁私に構わず早く奴を⋮⋮ ﹁⋮⋮分かりました ! ! ﹂ 彼女が戦うべき相手はタナカではなく、彼女が戦うべき戦場はここ イレに行こうとする。 エド達の到着に少し安心したのか、楯無はこの場を二人に任せてト ! して、左手をエドに向ける。 だが、タナカは右手の上で転がしていたパンやおにぎりを右手で消 ﹁はいはい無駄無駄﹂ た。 した倉持技研の専用機を身に纏い、鈴に先んじて攻撃を仕掛けてい いつの間にか彼は、何かカッコいい名前とちょうつよい機能を搭載 エドは格好つけて楯無を送り出し、鈴と共にタナカに立ち向かう。 ! あの右手に触れなければ大丈夫 と思い込んでいたエドは、突然 すると突然、エドの腹に激痛が走る。 ﹂ ﹂ ﹁ふぅう ﹁エド !? " うだ。 肛門に圧力をかけるシーリドエネルギーは今にも尽きてしまいそ 便意という名の零落白夜がエドの腹に突き刺さる。 !? 28 ! の激痛にその場で膝をついてしまった。 " 便意が思考を加速させ、エドにこの攻撃の正体を解明させる。 ﹁錬金術の基本は理解・分解・再構築⋮⋮ 錬金術はＡからＢになるという当たり前の変化しか再現できない ⋮⋮ まさか、破壊の右腕で食べ物を分解 ﹂ 再構築の左手を使い、敵の腸の中でオソマに再構築しているのか ! ﹁ご名答。頭は悪くないみたいね。腹の調子は悪いみたいだけど﹂ タナカの能力は対人において無敵に近い。 だが、断食をこなしてきた敵には無力という弱点があった。 その弱点を誰かに突かれる前に彼女は研究に研究を重ね、弱点を埋 能 力 の 射 程 範 囲 内 に 入 っ ち ま う ぞ めるための新技の開発に成功していたのである。 ﹁エ││﹂ ﹂ ﹁ア ル こ れ 以 上 近 付 く な ﹂ ﹁││ッ ! ﹂ ! た。 ﹂ エドは腹痛に一瞬意識を手放し、その一瞬が彼に走馬灯を見せてい ︵俺は、こんなところで、死ぬのか⋮⋮社会的に⋮⋮︶ ﹁エド オソマを抑え込むシーリドエネルギーも、もう尽きる。 あまりに大きな腹痛に、エドはとうとう膝をついてしまう。 ﹁くっ、うっ⋮⋮ 殺した方がマシなくらいに嫌なことだった。 真っ当な女の子としての感性を持っている鈴からすれば、それは自 だがエドを助けようと動けばタナカの能力を食らってしまう。 鈴はエドを助けたい。 いていた鈴が、まだタナカの能力の射程外に居るからだ。 エドだけがこの能力を食らっているのは単純な話で、エドの後に続 鈴はエドを助けようとするが、エドの声に踏み留まる。 ! ! ! 29 !? ! 真っ昼間にオソマを漏らすということは、社会的な死を意味する。 死を前にしたエドの脳裏に走ったのは、走馬灯だった。 あれはそう、彼が中学生の頃。 ﹄ Ｆａｔｅ Ａｎｏｔｈｅｒ 信長のシェフ という映画 エドの家に鈴が遊びに来て、二人でぐだぐだと映画を見ていた時の ことだ。 二人は を無言で眺めていた。 ﹃ケンは料理人だから戦っちゃダメだ ﹃しかしですね、衛宮さん⋮⋮﹄ " しっかりしろ ﹄ ﹄ ﹃大丈夫よ衛宮くん。最優のセイバーだし、名前が剣だし、剣持ってる し大丈夫大丈夫﹄ ﹃あれは剣じゃなくて包丁だ遠坂 さ ﹃この真名バレバレの赤いアーチャーどうしましょう⋮⋮﹄ ﹄ いや剣のことを言ったんだけど ! た。 ﹁Ｆａｔｅ っての知らないからつまんない﹂ 信長が冬木の寺を燃やし始めたところで、二人は映画の再生を止め ! ﹃ケンのことを言ったんじゃない ﹃いえ、私の名前はケンであっていますが﹄ ! ! ﹃ゴジラＶＳリーマン・ショック 世界経済Ｓ ? ﹁あ ー、こ う い う 守 ら れ る 女 の 子 ポ ジ シ ョ ン っ て ロ マ ン あ る わ よ ね ぼやきだした。 すると、その内の一作品の一幕を見ながら、鈴が気の抜けた口調で み、何も考えずに再生していく。 イン﹄ ﹃劇場版マシュランボー﹄ ﹃劇場版ＰＳＹＲＥＮ﹄などを引っ掴 二人は適当にその辺から﹃劇場版アムドライバー﹄ ﹃劇場版ゼーガペ ﹁面白そうだから最後にしようぜよ﹂ ＯＳ﹄﹂ ﹁次はこれにしない ﹁奇遇だな。俺も信長のシェフ分かんねえからつまんねーわ﹂ ? 30 ! " ﹃うむ、これは楽しそうじゃの。この聖杯戦争、主役はワシじゃ ! ⋮⋮﹂ ﹁なんだ、守られたいのか ﹂ お前の性格的に守る方だろうに﹂ ﹁うっさい。女の子のロマンなのよ、ロマン ﹁頑張って王子様探せよ、応援してるから﹂ ル ﹂ 手渡されるはメタルマンのＤＶＤ。 く。 ﹂ の微笑みで鈴を地獄に引きずり込む行動を取って、部屋から出て行 が、鈴が何を言っているのかイマイチ分からなかったエドは、天使 ﹁あいあい。面白い映画なら、一人でも退屈はしなさそうね﹂ ろ﹂ 俺は見終わった映画返して新しいの借りてくるから、一人で見て ﹁そういうもんかね。あ、これ面白いぞ。 妻への愛を行動で示し、妻からの愛を勝ち取る夫にも似ている。 いる。 それは赤ん坊を幼い頃から愛し、赤ん坊の信頼を勝ち取る親に似て 対的な味方である、という確信なのだ。 欲しいものは安心であり、自分を守ってくれたその人物が自分の絶 そうではない。そうではないのだ。 誰でもいいという事になる。 守ってくれた誰かに惚れるのならば、自分を守ってくれた異性なら ﹁﹃この人は自分を見捨てない﹄って確信なのよ、欲しいのは﹂ はない。 女の子が本当に憧れているものは、守られるという単調なシチュで ア するでしょ ﹁自分のピンチに、誰かが自分を庇ってくれたら、誰だって少しは安心 いう事実があればそれでいいのか。いや、違う。 守って欲しいのか。守ってくれれば誰でもいいのか。守られたと ﹁分かってないわねー、問題は力の有無じゃないのよ﹂ ﹁お前ガチで俺よりつえーじゃねーか、生身でもＩＳでも﹂ ﹁そこは﹃俺が守ってやるぜよ﹄とかでしょ ! ? ? あ、俺が嘘ついたってのここか、とエドは思い。メタルマンのパッ 31 ? ケージを見ながら、彼の意識は現実に復帰した。 そうだ、せめてあの時悪いことをした分くらいは、鈴を守らなけれ ば。 走馬灯の光景から帰って来るなり、彼はまだ正常に戻り切っていな ﹂ い意志のままに、タナカに突っ込んだ。 ﹁何 ﹂ ﹂ ! 分かったわ 今だ 二人してうつ伏せに倒れた状態で、エドは叫んだ。 む。 肛門の状態を無視したエドが、タナカの両腕を掴んだまま倒れ込 てしまう。 エドはこのまま漏らして終わり、と思っていたタナカは虚をつかれ !? ﹁アル ﹁ ! これは中国国家代表ＩＳ操縦者ラーメンマンの得意技、 ﹂ ﹁な、何故あなたが⋮⋮ ﹂ 私も中国の代表候補生なのよ⋮⋮ ! !? いて敵を倒し、時に絶対防御を発動させて敵を倒すＩＳ関節攻撃の達 サブミッション 中国国家代表ＩＳ操縦者ラーメンマンが、時に防御機構の隙間を突 ﹁忘れたの ﹂ ＩＳの防御の上から窒息させてやる、という鉄の意志を込めて。 キャメルクラッチ ﹁ゲェー 首に両手をかけた。 ゆえに鈴は、うつ伏せになったタナカの背中にまたがり、タナカの 選ぶべき攻撃は一つ。 をチョイスするのは最悪すぎる。 回しか攻撃を叩き込めないこの状況で、一撃で倒せないであろう攻撃 剣もダメ。衝撃砲もダメ。それではエドを巻き込んでしまうし、一 離をゼロにする。 タナカの能力が飛んで来ないのを確認し、鈴は一気にタナカとの距 エドの言葉を信じ、鈴は踏み込む。 ! ! ! ? 32 ! 人であることは、誰でも知っていることだ。 ﹂ ＩＳの絶対防御も完璧じゃないのよ という鈴の声が聞こえて だが、鈴がそれを使うなどと、誰が想像できようか。 くるようだ。 ﹁くっ⋮⋮この、離せエドモンド ﹁やはり、基本は触れること。 ぶことはできない⋮⋮ ﹂ ﹁なら、お前に徹底してこの腕の力を使うだけよ ﹁覚悟はあるぜよ﹂ このまま行けば確実に漏らされる。 だが、エドにタナカの腕を離す気はない。 覚悟はある。彼は﹃初心﹄を思いだしていた。 ﹂ 両の腕に別のものが触れている限り、別の対象を腕の効果対象に選 " ﹂ ﹁こいつを守れるのなら、俺の尊厳くらいいくらでもくれてやる⋮⋮ 決めていた。 子の目の前で、オソマを派手に漏らしても構わない。彼は男の覚悟を 凰鈴音を守るためなら│││公衆の面前で、真っ昼間から、好きな ! ! もうこれで、社会的に終わってもいい。だから、ありったけを。 エドはありったけの力で、タナカの腕を抑え込む。 ﹁じゃ、漏らせ﹂ そして、尻に爆音が響き渡った。 ビキニ環礁でゴジラが生まれた瞬間に発生した爆音と、どこか似た 響き。 ゴジラを生み出してしまった時のように、人類史に刻まれた人の罪 がまた一つ増えた。 ﹂ 核爆弾は命を奪うが、その爆発はエドの人としての尊厳を奪う。 ﹁⋮⋮ッ を離さない。 だが尊厳を奪われてなお、社会的に死んでもなお、彼はタナカの腕 ! 33 ! " ﹁⋮⋮エド﹂ ! 鈴を守る、その一心で離さない。 仮に彼がその心臓を剣を一突きにされたとしても、彼が鈴のためと ﹂ ﹂ 自分に言い聞かせたならば、きっとこの手は離さないだろう。 ﹁離せ ﹁離さない 爆音が響く。 爆発が一度起きるたびに彼の尊厳は削れ、涙が流れ、心も抉れる。 どんなミサイルよりも深いダメージを当たる爆発が連続する。 ﹂ それでもエドは手を離さず、タナカの首に鈴の手が食い込んでい く。 ﹁この手は、絶対に離さない⋮⋮ の怒りに火をつけた。 !!! まった。 ﹁やったか ﹂ やった、やった、エド ﹂ 彼の内心が手に取るように分かっていた鈴は、涙に濡れたエドの頬 エドの気持ちを分からないアルなど居るものか。 すぐに呆れた顔になる。 顔を逸らしたエドを見て、鈴は一瞬きょとんとした顔をしてから、 ﹁⋮⋮っ﹂ 的な気持ちになり、思わず顔を逸らしてしまう。 数秒後には情けなさすぎて不潔過ぎて嫌われてるな、とエドは絶望 だ。 ＰＩＣが発動した服の内側が、やけにぬるぬると生暖かったから だがエドは、その笑顔をまっすぐに見ることができなかった。 ! ﹁⋮⋮﹂ ﹁よし、やってる 虫の息だわ そして先程までもがいていたはずのタナカの動きが、ピタリと止 タナカの首に指が食い込み、体が海老反り、眼球が白目に裏返る。 ﹁エドいじめんなあああああああああああッ ﹂ そして、エドの醜態が、それを引き起こしているタナカの行動が、鈴 ! ! 勝利を掴んだ鈴が、笑顔でエドに話しかける。 ! !? 34 ! ! を袖で拭って、情けない顔をしている彼の頭を撫でてやる。 ﹂ ﹁大丈夫、あたしはあんたのこと嫌いになったりしないから﹂ ﹁え ﹂ カッコいいじゃない ﹂ ﹁よく頑張ったわね、エド。本当によく頑張った、褒めたげる ﹁⋮⋮ ﹁見直したわよ 聖母か、とエドは思う。 だが彼女は そういう行動を取れば傷付く人が居る ﹂ という深い " ﹂ ! 歩けないなら運んであげようか ? ﹁アル⋮⋮鈴⋮⋮ ﹁歩ける ﹂ それこそが本当の意味で優しい人間であり、いい女の資格である。 優しさを使うべき時、使うべき相手に使うことができる。 てはいまい。 その優しさがどれほど彼の救いになったか、彼女自身ですら分かっ 思いやりから、笑って彼に優しくしてあげていた。 " 不快感を覚えていないはずがない。ちょっと引いても居るはずだ。 いを増していた。 前よりもっと彼女のことを好きになっていた。流れる涙が更に勢 ! ! ? 出していた。 オソマも涙も止まらない。ただ流れるままに、彼の体の外へと流れ 彼女の優しさが、彼の目から止めどなく涙を流させる。 ﹁ん﹂ ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮いや、いい。大丈夫だ。ただ⋮⋮涙が止まるまで、待ってくれ ? 35 ! ! 鋼の錬金術師 カックエー・タナカが倒されてから一週間が過ぎた。 ＩＳ学園に平和が戻り、けれどエド達が英雄として持て囃されたか といえばそうでもなく。 誰もがスカーの引き起こした事件を腫れ物に触るように││オソ マに触るように││扱い、皆がなかったことにしようとし、大多数の 人間が口にしないことで忘れることを選んでいた。 異臭の日々に終わりを告げる一週間であった。 というかアンタ、あたしにクソ映画見せた日にも ﹁過去に騙してメタルマンというクソ映画を見せたこと、ここに謝罪 します。ぜよ﹂ ﹁ええ、今更⋮⋮ なんだ ﹂ ﹂ ﹁前置きはいいぜよ。面会の時間も限られてる。話したいことって、 ﹁いらっしゃい、お二人さん﹂ ちょっと響いた痛みに耐えて、エドは目的地の扉を開いた。 エドの身長は結構高いため、そこそこいい肘が入ったようだ。 二人並んで歩きつつ、鈴が肘でエドの脇腹を小突く。 ろう﹂ ﹁その一言で、あんたが完璧に忘れてたってことを知れたわこんにゃ ﹁え、マジ ちゃんと謝ってるからね﹂ ? アル エドと鈴を呼び出したのは、なんと先日戦ったタナカ本人であっ た。 極めて短い面会時間しか与えられなかったのも、当然と言える。 だがそれでも面会を許されたということは、この一週間という時間 が正気を失っていたタナカに理性を取り戻させたということだろう。 タナカはベッドに横になったまま、二人の訪問者を笑顔で迎え、語 り始める。 ﹁⋮⋮この能力をくれた人物について。 36 ? ﹁つれないわねぇ﹂ ? ﹂ そして私にこの学園で暴れるよう唆した人物に、興味はない ﹁ ﹁つまり、私を使いっ走りにした黒幕のことよ﹂ ﹁その人物は﹂ つまり、黒幕を結果的に倒して欲しいということだろう。 い。 ﹂ 渡そうとしているあたり、タナカの狙いと思考はとても分かりやす 秘密裏に、黒幕を背後から殴りつけられそうな人物を狙って情報を 人物に真っ先にこの話をしていたはずだ。 もしそうであるのなら、彼女は織斑千冬などの、もっと権限のある ではないということは分かる。 タナカが自分の罪を軽くするために口から出任せを言っているの ? しかし、黒幕がオソマリア代表操縦者タナカの暴露を予想していな かったわけがない。 ﹂ あっ⋮⋮ ﹂ ! ﹂ ! ﹂ ! ﹁大丈夫かな、タナカさん﹂ 黒幕に繋がる手がかりは失われてしまったのだ。 ろう。 タナカの体を夏にした犯人を倒さない限り、彼女は何も話せないだ 体が夏になったタナカは、救急車に乗せられ病院に運ばれていく。 れてしまった。 残酷で非道な黒幕の手によって半ば自動的に、タナカの口は封じら ﹁タナカさーんッ ﹁か、体が│││夏になるッ│││あぁ│││ タナカが苦しみ、絶叫し、断末魔のような声を響かせる。 !? 彼女が二の句を継ぐ前に、スカーの両腕と共に彼女の体内に埋め込 まれていた﹃安全装置﹄が起動した。 ﹂ ﹁あなたもよく知る、し│││かはッ ﹁タナカさん !? ﹁ま、まさか⋮⋮あいつ私の体に細工を⋮⋮ !? 37 ! ﹁⋮⋮﹂ だが、彼女が残した断片的な言葉は最後のピースになってくれたよ うだ。 ﹂ エドはオソマの残り香残る明晰な頭脳で、情報を一気に組み立てて いく。 ﹂ ﹁スカー騒動は囮。なら、ラスボスの目的は何だったと思う ﹁え ﹃ＴＳしたＤｒ．ウェスト﹄ ﹃ラヴォスよりラスボスっぽいルッカになれる女郎﹄ ヒ ロ イ ン ﹃他人のためにドラゴンボールを使わないブルマ﹄ ﹃白い魔法使いより自己中な魔法使い﹄ ﹃メタルマンの博士よりはマシ﹄ ﹃芹沢博士に殺して欲しいゴジラ兎﹄ ﹃ＳＳの阿笠博士より邪悪な女﹄ ﹃見た目がいいだけのＤｒ．マンハッタン﹄ ﹃汚いドラえもん﹄ ﹁あんな能力を人間に後付けできる人間なんて一人しかいない。 束のことを思い出していた。 会おうともせず、学園でコソコソ動きさっさと帰って行った、篠ノ之 エドはタナカが学園で大暴れしている時に、織斑姉弟や篠ノ之箒に をすることだと思う﹂ ﹁俺は、スカーを学園で暴れさせてそちらに目を向けさせ、学園で何か ? と敵対する派閥から好き勝手に言われてる、実はちょっと優しい所 ﹂ もあるあの人だ⋮⋮ ! それが、黒幕。 もない﹂と評される女。 れているほどいい人でもなければ、世間で言われているほど悪い人で そして実際どういう性格かを知っている人物からは、﹁世間で言わ の無い天才という手の付けられない外道、とも言われている女性。 世界の表側では世界を変えた偉人と言われ、世界の裏側では共感性 ﹂ ﹁それって、まさか ! 38 ? だがエドが真実に辿り着いたその瞬間、エドと鈴の肩に手が置かれ ていた。 ﹂ ﹁君のような勘のいいガキは嫌いだよ﹂ ﹁│││ そして走る激痛、暗転する意識。 篠ノ之束に奇襲されたのだと気付くこともできず、エドと鈴は一撃 で気絶させられてしまった。 目が覚めた時、エドは見知らぬ場所にいた。 白亜の部屋の真ん中には錬成陣とその上に置かれたテーブルが有 ホ ム ﹂ ン ク ル ス ﹂ り、テーブルには﹃未分化の胎児﹄のような生物が収められたフラス コが据えられていた。 ﹁フラスコの中に、小人⋮⋮ ﹂ あなたは、束さん⋮⋮これは、あなたが ﹁お、気が付いたかな ﹁ ? だいたい私のせいさ ﹂ ﹁身も蓋もない元凶論ッ ﹂ カックエー・タナカに力を与えたのも、全て私 なにかあったら 七つの大罪を集めてフラスコの中の小人を作ったのも。 ? ? ! ﹁鈴 ﹂ ﹁エ⋮⋮ド⋮⋮﹂ い。 こ 子も見当たらないのに、力なくだらんと手足を投げ出したまま動かな 鈴は何らかの薬品でも嗅がされたのか、目立った外傷も苦しげな様 えていた鈴を視界に捉えた。 フラスコ、束と視線を動かしたエドの視線は、自然と束が片手で抱 あり人でないものを作る束の超技術の結晶が、フラスコにある。 そ 人が人である限り持つもの、と定義される七つの大罪を集めて人で ! ! ﹁おおっとう、動けばこの子はその瞬間漏らすことになるよ﹂ ! 39 !? ﹁そそ。君らを気絶させて運んできたのも。 ! エドは鈴を助け出すため踏み出そうとするが、踏み出す直前にその 足は止まる。 タナカが腕に刻んでいた模様と同じ模様が浮かび上がっている束 アル その腕、アルを人質に ﹂ の腕が、鈴に突きつけられていたからだ。 ﹁ うけど﹂ ﹁くっ⋮⋮ ﹂ ﹁うーん、美しい男女の友情だねー。今はそれが仇になってるんだろ ﹁⋮⋮たしに⋮⋮かまわ⋮⋮ず⋮⋮﹂ す。 鈴は動かない体で現状を認識し、束の手の中で呻くように声を出 た。 エドは自分の尊厳は捨てられても、鈴の尊厳までは捨てられなかっ ない。 だが好きな子を守れず、好きな子に漏らさせてしまうなど耐えられ 好きな子の前で漏らすならまだ耐えられる。 これでは鈴を助けることなどできやしないだろう。 !? 食べたものをオソマにするということは、束ねること た力だったのか ﹂ タナカさんに与えた力とは、束さんが自分の存在そのものを形にし ! ﹁そうか、食と消化の過程とは、すなわち食べたものを﹃束﹄ねる過程 完全に詰まされたこの状況で、エドはハッとする。 ﹁誰かに与えた力は束さんも使える力ってことなのさっ﹂ ! 当な殺意であった。 子供が虫を潰す時のような冷たい冷酷さでもない、ひどく真っ当で正 子供のような癇癪でもなく、子供のような無邪気な喜びでもなく、 束の目に殺意が浮かぶ。 ﹁あ、はい。すみません﹂ だ殺すぞ﹂ ﹁なに人の名前勝手に糞もじりして無理矢理それっぽく糞に絡めてん ! 40 ! ! ﹁⋮⋮俺に、何をさせようって言うんですか 向こう ﹂ にある真理の扉を通っ 彼の察しの良さに束はちょっとばかり機嫌を直して、テーブルの上 た理由を察して、束に指示を仰ぐ。 エドは鈴が人質に取られた時点で抵抗を諦め、束が鈴を人質に取っ ﹁勘のいいガキは嫌いだけど便利だから好きでもあるよ﹂ ? " のフラスコを指差した。 ﹁簡単な話。錬成陣を起動させて、 ﹂ て戻ってきてくれればいいよ﹂ ﹁それで、何が起こるんです " ﹂ ﹁っ⋮⋮ ﹂ 箒ちゃ⋮⋮箒くんとかだね﹂ いっく⋮⋮いっちゃんとー。 ﹁ちーちゃ⋮⋮ちーくんとー。 ﹁何人か、って⋮⋮﹂ から﹂ ﹁大丈夫、何人かは生き残れる上、元の性別に戻れる仕組みにしてある みである。 大切なものとは、彼女が作った傑作と、彼女の身内と、彼女自身の 才だ。 篠ノ之束は、大切なもの以外はどうなってもいいというタイプの天 ﹁媒介になるフラスコの中身を、ようやく仕上げられたからね﹂ ﹁ 消える﹂ ﹁世界中でＴＳした奴がだいたい死ぬ。そして性転換現象が世界から ? 問題なのは、束が犠牲にしようとしている人間があまりにも多いこ その過程で何を壊してしまうかなんて、まるで気にしない。 だ。 束は世界の現状が気に入らなければ、迷いなく壊そうとする人間 らさー、だから生贄﹂ 意図的に狙った人物を元の性別に戻すパワーの捻出って大変だか ﹁正確には、それだけの数のＴＳ経験者の生け贄が要るってことだね。 ! 41 !? と。 そして、そこかしこで誰も彼もが性転換しているこの世界の酷さの せいで、束の蛮行にエドが﹃まあそうしようとする気持ちもちょっと は分かる﹄と僅かに共感してしまっていることだ。 僅かな共感を押し隠し、エドは己が内の常識に沿った声を上げる。 ﹁そんなこと、許されるわけが⋮⋮﹂ ﹂ ﹁５﹂ ﹁え ﹁４﹂ だが束は、エドと押し問答をする気はないようだ。 何も言わず、ただ数字のカウントをしながら、腹を壊す破壊の右腕 を鈴に寄せていく。 ﹂ ﹁ちょっ、待﹂ ﹁３﹂ ﹁⋮⋮ ︶ ︵そもそも、帰って来れるのか︶ るように。 数秒後に出て来るオソマの状態を、出て来る前から感覚で把握でき 彼はなんとなく感覚で世界の真理を理解している。 強いていうならフィーリング。フィーリングだ。 理由はない。 当然のように彼は深い錬金術の知識を保有しているが、それに特に い だが、分かってても鈴を人質に取られている現状、どうしようもな 束さんはそれで目的を果たすと同時に、俺を無力化するつもりだ。 ︵真理の扉は利用する時、通行料で体の一部を持っていく⋮⋮ かず、エドはテーブルのフラスコに向かって走る。 虐殺をする覚悟を決めきれず、けれど鈴の尊厳を諦めるわけにもい 鈴を守りたければ、束の虐殺の片棒を担ぐしかない。 もはや何を言っても時間の無駄だ。 ! 扉をくぐれば死ぬかもしれない、とエドが思う。 42 ? ! ２、と束が言う。 フラスコを乗せたテーブルと、テーブルを乗せた錬成陣の前に立っ たまま、何も決断できないエドが動きを止める。エドが顔を上げる と、不安と恐怖に揺れる彼の瞳に、鈴の姿が映った。 ﹁│││﹂ 鈴が何かを言う。 それは鈴を抱えている束の耳にも届かないほどか細い声であった が、鈴の顔が見えていたエドには、その唇の動きから何を言っている のかが分かった。 揺らいでいた男の瞳が、覚悟の支えで揺らがなくなる。 まるで下痢に悩まされていた男のオソマが、胃腸薬で腸内にて固 まっていくように、彼の意志も堅固に固まっていった。 ︵│││いや、絶対に帰って来るんだ。あいつを助けるために︶ 起動される錬成陣。 43 だがエドは既に束の思い通りになる気などさらさらなく、叛逆の意 志を胸に秘めていた。 気付けば彼は、真っ白な世界で真理の扉の前に立っていた。 生まれ変わる際、世界の壁を越える際に通って来た扉だ。 見覚えのある扉の前に、今は無地で無色で透明な人型をした何かが 座っている。 ﹃なんだ、また来たのか﹄ ﹁ああ、また来たよ﹂ 人型が話しかけてきて、エドは気安い返答を返した。 扉は真理。人型も真理。扉は人の内にあり、人型は己であり他者で ある。 真理 " エドが理解していく。扉に手を添え、彼は己の真実を呟 よく分からないがそういうものなのだろうと、扉を前にして に近付いた ﹁今なら分かる。俺は、彼女が欲しかったんだな﹂ きはじめた。 " ﹃ああ﹄ ﹁女に興味があった。 女に縁がなかった。 女体に興味があった。 死後のテンションでそれがこじれて、この扉をくぐる時に作用して しまったんだ⋮⋮﹂ ﹃女への興味をこじらせたＴＳ好き、まあつまりノーマル寄りのＴＳ 好きは多いわな﹄ 女への興味、女体への興味、それらをこじらせたノーマル性癖が下 地にあるＴＳ趣味。 この手のこじらせ方をしたＴＳ好きのノーマル達は、ＴＳというス パイスを振られただけの美少女キャラが好きなタイプが多く、性転換 というテーマをディープに扱う作品をそこまで好まない。 エドはまさしくこのタイプだった。 今は⋮⋮あの子に好かれたい。誰よりも何よりも、あの子だけを守 りたい﹂ ﹃扉をくぐってあっちに戻る気か。なら、通行料はどうする 代価 ? 44 彼は童貞をこじらせたがゆえに、女体に興味を持ちすぎたバカだっ たのだ。 そんな彼は今も、女のことを考えて無茶をしている。 ﹃で、今も結局女のためか﹄ ﹁愛は等価交換じゃない。 恋も等価交換じゃない。 相手に等価の見返りを求めても、交換を放棄して奉仕しても成り立 たない。 俺は俗物だからな、無償の愛とか無理だから⋮⋮今は必死に頑張っ ってのは、極端に言えばいい女なら誰でもいい、み て、好感度稼ぎぜよ﹂ 彼女が欲しい ﹃殊勝なこった﹄ ﹁ " 昔の俺はそれを望んでた。だけど今は違う。 たいな願望だ。 " は ﹄ ﹁代価ならここにあるだろ。社会がかでけえ価値を保証してくれてる のがよ﹂ そう言って、エドはベルトを外す。 ズボンを下ろす。 パンツを下ろす。 そこには、束がエドを世界に一人の希少種と言って哀れんでいた理 由があった。 ﹂ ﹁俺は世界でただ一人の、性転換が微妙に中途半端に終わった結果生 まれた、ふたなりだ﹂ ﹃知ってる﹄ ﹁この女性器部分が通行料だ。文句はないな ・ ﹃それがなくても大丈夫か ・ ﹄ 通行料としては十分だろう。 二の属性。 男と女の間を反復横跳びしていた人間の中でも、特に希少な唯一無 る。 世界にただ一人のふたなりという価値を捨て、彼は一人の男に戻 ? けよう、と決意させていた。 自分のことより他人のことを心配してしまう彼女を何が何でも助 あの一言が、エドを奮い立たせていた。 │││逃げて く口にしていた言葉。 元の世界に帰るさなか、彼の脳裏に蘇るのは、捕まった鈴が弱々し 減ったことで、オソマの内包許容量の限界が少しばかり増す。 エドの下半身から女要素が消え、腹の中身││内臓の総量││が 人型は笑い、エドを送り出す。 ﹃正解だ、錬金術師﹄ ものだったので、捨てることに全く躊躇いはなかった。 と、いうか。価値はあるのだろうが、彼にとっては激しく要らない ﹁女性器一つで女の子一つ助けられる可能性がある。安いもんだ﹂ ? 45 ? ﹂ 帰還すると同時に、エドは束に突っ込んで行った。 ﹁ 扉の通行料でまず動けないだろう、と高をくくっていた束は奇襲を 受けてしまう。 のプリンプリンのオソマ量差以上の力の差があったが、奇襲 篠ノ之束とエドモンド本田の間には、浦安鉄筋家族の国会議員とコ ロッケ ︶ ! いた。 ﹁│││え ﹂ その力はエドに注がれた後逆流し、束の下腹部と肛門に流れ込んで だが、何故か。 む。 束は最低最悪の力、研究の果てに自ら開発した破壊の力を注ぎ込 ︵馬鹿め、漏らせ 結果、束の破壊の右はエドの背中にピタリと触れる。 束は身体能力を攻撃に注ぎ、エドは鈴を庇うために使った。 この一瞬のみ、エドの身体能力は束に並ぶ。 とさせた。 かすかに聞こえた鈴の声が、鈴を抱えるエドに超人的な動きを可能 ﹁│││﹂ ﹁⋮⋮エ、ド﹂ 咄嗟に振るわれた破壊の右腕が、エドに迫る。 余裕はない。 しかし取り返すのが精一杯で、取り返した直後の束の一撃をかわす で鈴を奪い返すことくらいはできた。 ! 束は腹に走るあまりの激痛に膝をつき、破壊の腕に触れられても平 下腹部に疾走する本能。新たな性癖に目覚めろ、その魂。 爆裂する便意。 壊れかける肛門。 壊れる腹。 ? 46 !? 気なエドの顔を見上げた。 ﹁な、なにっ、おっ﹂ ﹂ ﹁錬金術におけるリバウンド⋮⋮対象を理解せず、ありったけの力を ﹂ 対象を、理解せず、って⋮⋮ 注ぐからですよ﹂ ﹁⋮⋮ ﹁全ては、あんたが蒔いた種だ そう言って、エドはベルトを外す。 ズボンを下ろす。 パンツを下ろす。 を塞ぐ扉があった。 オー ト メ イ ル ﹁鋼の人工肛門⋮⋮ ﹂ そこには、ＩＳ技術で作られた彼の新たな門と、リモコンで動き門 !? なってくれていた。 ﹁っ、く、ぅ、うぅっ⋮⋮ ﹂ その過程が、その結果が、今ここで束を追い詰めるジョーカーに 彼は己が肛門と引き換えに、好いた女を守っていたのだ。 肛門は完全にその機能を喪失していた。 タナカの能力から鈴を守り続け、能力を食らい続けた結果、エドの 師。 彼は今や束に扉を開かされた無名の錬金術師、否│││鋼の錬金術 !? ファーストシフト 一痔移行。 ﹁地獄に落ちな、ベイベー﹂ ﹁コヒュー、コヒュー、コヒュー⋮⋮﹂ 今の束は、セカンドシフト直前の状態にあった。 われている。 最終的に排泄に苦痛を感じるようになるのが三痔移行である、と言 サー ド シ フ ト そして常時開きっぱなしの肛門になるのが二痔移行。 セカンドシフト 通常開いていて意識的に閉じていないといけない肛門になるのが 通常閉じていて意識的に開く肛門が初期設定。 ! 47 ! !? ﹁待っ﹂ そうして、エドの掌底が束の腹に突き刺さる。 彼の掌底がもたらした結果は、想像に難くない。 爆発。そう、爆発だ。 ﹁│││﹂ そしてエドは写真を取った。 エドは良心を持っているが、同時に手段を選ばない、落ちる所まで 落ちた人間だ。 オソマを漏らしたことが、彼から甘さを拭い去っていた。 エドは束を脅す。 また何かやらかしたらこの写真バラまくぞ、と脅す。 丸っきり悪役のやり方であったが、女を捨てきれない束には効果抜 群であった。 織斑千冬に写真を見せないよう預けるなど、エドは二重三重の安全 動を起こすものだ。 48 策を用意した上で、薄い本でもやらないような極悪非道の脅迫を成立 させる。 泣きながら帰って行った束の背中に激しい罪悪感を感じながら、エ ドは世界を守った実感と、好いた女の子を守れたという満足感に、瞳 を閉じていた。 二人は世界を守った余韻に浸る。 ﹂ 鈴はエドの顔を見上げて、微笑んで、彼に礼を言おうとした。 どしたぜよ ﹁ね、エド﹂ ﹁ん ? だが、一寸先は闇。人生はジェットコースター。次の瞬間には大変 ﹁ありが│││﹂ ? ﹁うわあああああああああああああああああ ﹁アルが男になったァ ﹂ た時以上のショックを受けていた。 ﹂ ﹂ そのショックはＴＮＴ換算で１０メガトンに相当する。 アル 体が男のそれになってしまったことに、織斑一夏が女になって失恋し 鈴は性転換に伴う自意識変化があまり起きなかったようで、自分の ﹁終わった⋮⋮なんか、色々終わった⋮⋮﹂ ンド・グロッソを開幕させるかの二つに一つしかない。 に至っては、ハイスピード学園バトルラブコメを終幕させるか、ホモ 男が惚れた女のために頑張る物語はここで終わり。もはや事ここ まさかこのタイミングで、鈴に性転換現象が起きるとは。 ﹁な、な、なんですとぉー ﹂ さしもの二人も、想像もしていなかっただろう。 ﹁うわあああああああああああああああああ !!! !!! ﹂ 鈴が好きだ ホモじゃねえから ! 鈴が男になって、その事実にようやく ! 鈴が男のツラで暑苦しく泣き出しそうになったその時、エドが彼の ﹂ ﹁鈴が男でも女でも好きだ 気付いた ! ﹂ !? 狼狽えるな鈴 俺がついてる ﹂ ﹂ ! ﹁は、ちょ、待、え ﹁落ち込むな鈴 ! ﹁今あたしがうろたえてんのはあんたのせいよ ! ! これが真実の愛の証明だったとしても、まごうことなくホモだ。 だがホモだ。 それは直接的に、彼の恋と愛が本物だったことを証明する。 彼は鈴が男になっても好きなままだった。 ブコールを口にする。 エドは愛の告白、はたから見るとカミングアウトにしか見えないラ ! 49 !? !? 男でも好きだ 手を取り、叫ぶ。 ﹁か、構わん ﹂ ちょっと嫌だけど ﹁ ! ! ホモンド・グロッソ、開幕。 !? 頬を赤らめ、照れる鈴。鈴の方にまだ恋愛感情はないようだが、嫌 そうな様子は見て取れない。 実にホモだ。 オソマに吐き気を覚える人が居るように、この光景もまた一部の人 に吐き気を催させるだろう。 ホモとクソは切っても切れない因果律で、いつの時代もどんな世界 でも繋がっている。 ﹁お前を苦しめるもんがあるなら、俺が取り除いてやるぜよ﹂ ﹁エド⋮⋮﹂ ﹂ ﹁行こう、アル 俺の体の一部と、お前の体の全部、元に戻す方法を 探しに なかった。 ﹂ ﹁行くぞォ ﹁おー ﹂ う も ん オートメイルと仮の体のコンビは、元の体に戻ることを諦めてはい アルは今の体を投げ捨て、元の体を丸ごと取り戻すために。 エドは失われた体の一部を取り戻すために。 こ 二人は旅立ちの決意を固める。 ﹁⋮⋮ん、だよね。生きて生きて生き延びて、いつか、元の体に⋮⋮﹂ ! 願わくば、彼らの旅路の先に、よき終わりのあらんことを。 そして、これにて物語は終わる。 かくして、彼らの旅路は始まる。 ! 50 ! !
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