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山梨医大誌 17(2)
,47 ∼ 54,2002
原 著
プロゲステロンの精子受精能に与える効果
大 田 昌 治
山梨医科大学産婦人科学教室
要 旨:目的:ヒト精子は女性生殖路内で受精能を獲得するが,これにプロゲステロン(P)が関
与すると考えられている。我々は,精子のプロゲステロン受容体(PR)の存在そして,P の精子
に対する影響を検討した。
方法:まず,射出精子などから total RNA を調製し,逆転写して cDNA を合成,PCR primer set
にて,遺伝子増幅を行い,PR mRNA の存在,タイプを検討した。次に,P の hyperactivation(HA),
先体反応(AR),ハムスターテストに対する効果,至適濃度を検討し,培養液内の Ca の有無での
効果も比較した。
結果: PR は P 結合領域を認識するプライマーによってのみ検出された。次に,HA,AR,ハム
スターテストはそれぞれ P で有意に促進され,Ca を必要とした。
結論:ヒト精子の PR mRNA は P 結合領域は有するが,DNA 結合領域は持たない C 型 PR に類似
し,精子細胞膜上の PR との関連が示唆される。また,P は精子の受精能発現を促進する。とくに
卵管内で P は HA と,AR の前段階に促進的に関与していると考えられ,細胞外 Ca が必須である。
キーワード
プロゲステロン,先体反応,プロゲステロンレセプター mRNA
緒 言
の増加がみられることが実験的に確認されてい
る 1,2,6,7)が,その作用様式ならびに作用機序に
ヒト精子は,射出後直ちには受精能力を有し
ついては未解明な点が少なくない。
ておらず,女性生殖路内で capacitation,hy-
先行研究によると,プロゲステロン処理によ
peractivation, 先 体 反 応 ( acrosome reaction;
る精子細胞内 Ca 上昇の反応時間は 1 分以内と
AR)を完了することで,受精が可能になる。
きわめて短く,細胞膜を通過できないように
hyperactivation や AR は受精において必要不可
bovine serum albumin(BSA)を結合させたプ
欠の過程であり,精子の細胞内カルシウム
ロゲステロンを作用させても同様の反応が起こ
(Ca)イオン濃度の増加を契機として開始され
る 8) ことから,精子に対するプロゲステロン
る 。この過程に卵胞液が関与することが報告
の作用は精子細胞膜上の受容体を介して作用す
され 2 – 4),卵胞液に含まれるプロゲステロンが
る non-genomic effect であると想定されてい
1)
受精能発現促進物質として注目されている 。
る。さらに,ヒト精子先体膜上にプロゲステロ
プロゲステロン処理によりハムスターテストが
ン結合部位が局在することが蛍光色素(fluo-
促進されることや,精子細胞内 Ca イオン濃度
rescein isothiocyanate; FITC)でラベルされた
5)
〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110
受付: 2001 年 8 月 31 日
受理: 2001 年 11 月 30 日
プロゲステロンを用いた研究で報告されてい
る9)。これらの報告から細胞内 Ca の精子内流
入は,プロゲステロンが精子細胞膜プロゲステ
大 田 昌 治
48
ロン受容体(PR)に作用して生じる可能性が
ニジン液にホモジナイズし,5.7 M のセシウム
考えられるが,膜 PR の本態は不明である。
クロライド上にサンプルを重層し,超遠心し
そこで我々は,プロゲステロンの精子への作
用機序を推定するために精子の PR の存在につ
いて遺伝子レベルの解析を試みた。
た。
Reverse transcription-polymerase chain reaction
(RT-PCR)
また,プロゲステロンの hyperactivation な
得 ら れ た total RNA 200 ng を , random
らびに AR への影響を詳細に検討するととも
primer( Takara, Kyoto, Japan) と RAV-2 re-
に,細胞外 Ca の存在がプロゲステロンの反応
verse transcriptase を用いて逆転写して,cDNA
に関わっているかを検討した。
を合成した。得られた cDNA を template とし
て,図 1 のようなプライマーを設定し,
対象と方法
1.5 mM の MgCl2 と 0.25 ユ ニ ッ ト の Taq DNA
polymerase にて遺伝子増幅を行った。94 °C で
【1】精子膜 PR の遺伝子レベルでの解析
1 分間,55 °C で 1 分間,72 °C で 1 分間反応さ
健康男子より射出精子を得て,HTF(Sigma
せたものを 1 サイクルとし,26 ∼ 28 サイクル
Chemical Co., Cat. No. 9962, Poole Dorset, UK)
反応させた。プライマー P15(forward)と P35
にて洗浄した。また,子宮筋腫の手術時に患者
(reverse)のシークエンスは 5’-AGGAGTTTGT-
の同意を得たうえで増殖期子宮内膜を採取し
CAAGCTTCAA-3’と 5’-GGGACTGGATAAATG-
た。さらに,健康な供血者より同意を得たうえ
TATTC-3’で あ り , ヒ ト 細 胞 内 型 PR cDNA 11)
で白血球を採取した。Chirgwin et al.10)の方法
の exon 6,7,8 を含むプロゲステロン結合領
に従い,射出精子,増殖期子宮内膜ならびに白
域を規定し,A,B ならびに C 型 mRNA の総和
血球からグアニジウム−セシウムクロライド法
の検討に用いた。また,プライマー P36(for-
によりそれぞれの total RNA を調製した。すな
ward)と P33(reverse)のシークエンスは 5’-
わち,得られた組織を 4 M のチオシアン酸グア
CCCTCCGACGAAAAGACGC-3’と 5’-AAC-
図 1.プロゲステロン受容体 isoform A, B, C の構造
プロゲステロンの精子受精能に与える効果
49
CTTGCACCCGGACCGGCTCA-3’で DNA 結合
を含む mBWW で培養し,30 分後の acrosome-
領域より上流の A/B 領域を認識するプライマ
reacted sperm の割合を計測した。
ーであり,A および B 型 mRNA のみの検討に
Cross らの方法 16,17)に従い,死滅精子を選別
用いた。
除去するために,まず Hoechst 33258(Sigma
Southern blotting
Chemical Co.)による染色を施行した。その後,
得られた反応液のうち 5 µl を 2.0 %アガロー
10 µg/ml の fluorescein isothiocyanate-conjugat-
ス ゲ ル 電 気 泳 動 し て , 32 P-labeled PR cDNA
ed pisum sativum agglutinin(FITC-PSA; Sigma
probe を用いてハイブリダイゼーションを行っ
Chemical Co.)にて 30 分間染色し,蒸留水を
た。
用いて十分に洗浄した。蛍光顕微鏡(Olympus
【2】プロゲステロンの hyperactivation に対す
る効果
BHT; Olympus, Tokyo)下に Hoechst 33258 染
色で蛍光発色している死滅精子を除外しなが
8 例の健康男子より用手法にて得られた精液
ら,1 例あたり約 200 個の生存精子の先体反応
を 30 分間室温において,液化した。精液は全
率(% AR)を計測した。Acrosome cap 全体に
を満たすものを実験に
FITC-PSA 蛍光を認める精子を acrosome intact
使用した。その後,37 °C,5 % CO2 大気下に
sperm,equatrial segment の部分にのみ蛍光を
て WHO の判定基準
12)
0.3 % human serum albumin( HSA; Sigma
認める精子を acrosome-reacted sperm と判定
Chemical Co., St. Louis, MO, U.S.A.)を含有す
した。
る modified Biggers, Whitten and Whittinghams
培養液(mBWW)13)を用いて swim up 法 14)を
【4】プロゲステロンのハムスターテストに与え
る効果
1 時間行い,運動良好精子を回収した。その後,
8 例の健常男子の精子を用いてハムスターテ
37 °C,5 % CO2 大気下にプロゲステロン 1 nM,
スト 18)を行い,プロゲステロンの透明帯除去
10 nM,100 nM,1 µM を含む mBWW とプロゲ
ハムスター卵への精子侵入率に与える効果につ
ステロンを含まない mBWW(コントロール)
いて検討した。
内 で 培 養 を 行 い , 30 分 後 の hyperactivated
(1)透明帯除去ハムスター卵の作成
sperm を計測した。プロゲステロン(Sigma
体重 90 ∼ 150 g の成熟メスゴールデンハム
Chemical Co.) は dimethylsulfoxide( DMSO;
スターを用いた。発情周期の第 1 日目(poste-
Sigma Chemical Co.)で溶解し,DMSO の最終
strous discharge の認められた日)に pregnant
濃度が 1 %未満になるように mBWW で調整し
mare’s serum (PMS; Sigma Chemical Co.)
た。Hyperactivation の評価は,Hamilton-
30 IU,第 3 日 目 に human chorionic gonado-
Thorne Research Motility Analyzer(HTM-IVOS,
tropin( HCG; Mochida, Tokyo) 30 IU を 腹 腔
version 10, Beverly, MA, U.S.A.) を 使 用 し ,
内に注入して過排卵させ,HCG 注射後 17 時間
track velocity ≧ 100 microns/sec, linearity ≦
に開腹して卵管中より未受精卵を採取した。そ
65 %,maximum amplitude for lateral displace-
の 卵 を 0.1 % hyaluronidase( Sigma Chemical
ment ≧ 7.5 microns を満たす精子を hyperacti-
Co.)を含む培養液で 15 分間処理して卵丘細胞
vated sperm とする Burkman の定義 15) に従い
を 除 去 し た 。 mBWW で 2 回 洗 浄 後 , 0.1 %
判定した。
【3】プロゲステロンの AR に対する効果
33 例の健常精液を用い,swim up 法で運動良
trypsin(Sigma Chemical Co.)を含む mBWW
にて 3 分間の処理を行って透明帯を完全に除去
した。最後に新鮮な mBWW で 3 回洗浄して実
好精子を選別した後,mBWW 内で 6 時間の前
験に供した。
培養を行った。その後,プロゲステロン 10 nM,
(2)精子の調整
100 nM,500 nM,1 µM,3 µM,15 µM,30 µM
8 例の健常精液を用い,swim up 法で運動良
大 田 昌 治
50
好精子を選別した。mBWW 内で 6 時間の前培
える効果を,培養液内の Ca の有無で比較した。
養を行った後,プロゲステロン 10 nM,
検討したプロゲステロンの濃度は 15 µM とし,
100 nM,500 nM,1 µM,3 µM,15 µM,30 µM
それぞれの実験に 5 例の健常精液を用いた。
を含む 1 ml の mBWW に移して 30 分間培養し
た。遠心分離後上清を捨て少量の mBWW を加
えて高濃度精子浮遊液を作成した。
【統計学的処理】
Hyperactivation および AR の解析には t 検定
を,そしてハムスターテストには χ2 検定を用
いて統計学的解析を行った。
(3)媒精ならびに精子侵入の判定
3.5 % HSA を含む mBWW 300 µl を Petri dish
結 果
内におき,その上をミネラルオイルで覆った。
10 ∼ 20 個の透明帯除去ハムスター卵をこの培
養液内に入れ,プロゲステロン処理後の高濃度
【1】精子膜 PR の遺伝子レベルでの解析
精子浮遊液を最終精子濃度 10 × 10 /ml になる
ヒト精子における A,B ならびに C 型 PR
ように加えた。37 °C,5 % CO2 大気下で 4 時間
mRNA の存在ならびにレベルを解析した結果,
培養後,卵を取り出して精子侵入の有無を位相
exon 6,7,8 を含むプロゲステロン結合領域
差顕微鏡(Olympus BX, Olympus, Tokyo)下
を認識するプライマー P15/35 によってのみ検
に観察した。卵内に一個以上の膨化精子頭部も
出され,DNA 結合領域より上流の A-B 領域を
しくは雄性前核が認められた場合に精子侵入あ
認識するプライマー P36/33 では検出されなか
6
りと判定した。
【5】細胞外 Ca の有無がプロゲステロンの精子
受精能発現効果に与える影響
った。(図 2)。
【2】プロゲステロンの hyperactivation に対す
る効果
Ca free mBWW を用意し,プロゲステロンの
8 例の精子について検討した。コントロール
精子 AR に対する効果とハムスターテストに与
21.1 %に対して,100 nM 以上のプロゲステロ
図 2.プロゲステロン受容体(B + A + C)mRNA と(B + A)mRNA の検出
A : PR (B + A + C)mRNA B : PR(B + A)mRNA C : β actin
mRNA
Lane 1, ejaculated spermatozoa. Lane 2, proliferative phase uterine endometrium 200 ng. Lane 3, 50 ng. Lane 4, 13 ng. Lane 5, 3.1 ng. Lane 6,
0.78 ng. Lane 7, 0.20 ng. Lane 8, 0.05 ng. Lane 9, peripheral blood leucocyte. Lane 10, RT-PCR blank.
プロゲステロンの精子受精能に与える効果
51
ン で hyperactivated sperm が 有 意 ( p < 0.05)
卵の割合は,精子処理に用いたプロゲステロン
に増加した。(表 1)
の濃度が上昇するに従って上昇し,500 nM の
【3】プロゲステロンの精子 AR に対する効果
プロゲステロンで処理したときは危険率 5 %以
10 nM ∼ 3 µM のプロゲステロンの処理では
下で,それ以上の濃度では 1 %以下の危険率で
acrosome-reacted sperm の割合にコントロール
コントロールに対し有意であった。(表 2)
(プロゲステロン無添加)と差が認められなか
【5】細胞外 Ca の有無がプロゲステロンの精子
ったが,15 µM および 30 µM のプロゲステロン
受精能発現効果に与える影響
培養液中の 1.71 mM の Ca と 15 µM のプロゲ
処 理 後 は acrosome-reacted sperm の 割 合 が 有
ステロンの有無が,ヒト精子の AR とハムスタ
意(p < 0.05)に上昇した。(表 2)
ーテストに与える影響の結果を表 3 に示した。
【4】プロゲステロンのハムスターテストに与え
Ca が存在する条件下では 15 µM のプロゲステ
る効果
ロンで精子を処理することにより acrosome-re-
精子侵入が認められた透明帯除去ハムスター
表 1.ヒト精子の hyperactivation に与える効果・濃度
n=8
Progesterone 濃度
Hyperactivated sperm(mean ± SD,%)
21.1 ± 10.6
25.8 ± 15.2
29.3 ± 10.5
31.8 ± 12.8*
32.1 ± 9.3**
0nM
1nM
10nM
100nM
1000nM
**p < 0.01(vs. 0nM)
*p < 0.05(vs. 0nM)
表 2.ヒト精子の AR に与えるプロゲステロンの効果
Progesterone 濃度
Acrosome-reacted sperm
Hamster test
(mean ± SD,%)
(% of eggs penetrated)
9.1 ± 3.9
8.6 ± 4.5
8.8 ± 4.8
9.0 ± 5.2
11.5 ± 6.4
13.3 ± 9.4
16.2 ± 9.9**
16.4 ± 10.9**
0nM
10nM
100nM
500nM
1 µM
3 µM
15 µM
30 µM
8.8
10.4
15.3
25.0*
40.0**
75.0**
55.0**
86.4**
**p < 0.01(vs. 0 µM)
*p < 0.05(vs. 0 µM)
表 3.ヒト精子の AR に与える Ca とプロゲステロンの効果
Ca2+
Progesterone
Acrosome-reacted sperm
Hamster test
濃度
濃度
(mean ± SD,%)
(% of eggs penetrated)
0mM
0mM
0 µM
15 µM
3.8 ± 2.1
4.5 ± 3.4
6.3
10.2
1.71mM
1.71mM
0 µM
15 µM
* *
* *
12.5 ± 6.4
19.7 ± 10.4 *
**
**
**
**
28.0
53.4**
**p < 0.01
*p < 0.05
大 田 昌 治
52
acted sperm の割合もハムスターテストによる
かった。これらの成績から,ヒト精子中の PR
精子侵入卵の割合も有意(それぞれ p < 0.05,
mRNA はプロゲステロン結合領域は有するが,
p < 0.01)に増加した。Ca-free の条件下では
DNA 結合領域は持たない C 型に類似している
Ca が存在する場合と比べて,acrosome-react-
ことがはじめて明らかになった。精子細胞膜の
ed sperm の割合もハムスターテストによる精
PR の本態は明らかではないが,この PR
子侵入卵の割合も有意(それぞれ p < 0.05,
mRNA が精子膜に存在すると思われるプロゲ
p < 0.01)に減少し,この傾向はプロゲステロ
ステロン受容体と深い関係を有していることが
ンで処理しても変化を示さなかった。
強く示唆される。
プロゲステロンと哺乳動物精子の受精能発現
考 察
との関連については多くの報告がある。Uhler
らはプロゲステロンの精子 hyperactivation に
精子の hyperactivation や AR は受精において
対する効果を調べ,10 nM 以上で hyperactivat-
必要不可欠の過程である。この過程にプロゲス
ed sperm の割合が有意に上昇すると報告して
テロンが受精能発現促進物質として関与するこ
いる 21)が,我々の成績では 100 nM 添加するこ
とが注目されている 5)。精子をプロゲステロン
とで hyperactivated sperm の有意な増加を認め
で処理することによりハムスターテストが促進
ている。したがって,排卵時卵管内のプロゲス
されたり,精子細胞内 Ca イオン濃度の増加が
テロンで十分に hyperactivation が惹起される
みられることが実験的に確認されている
ことになる。
が 1,2,6,7),その作用機序は protein kinase C を介
するという説
19)
があるものの,ほとんど明ら
Meizel らは AR に対する効果を検討し,プロ
ゲステロン濃度 250 ng/ml(約 800 nM に相当)
以上で有意に AR が惹起されると報告し 22),
かにされていない。
我々は,プロゲステロンが精子細胞膜の PR
Brucker ら 6)もプロゲステロン濃度依存性に先
を介して受精能発現に関与していると考え,
体反応終了精子が増加することを報告してい
PR について遺伝子レベルで検討を行った。近
る。本研究ではプロゲステロン 15 µM 以上の
年ステロイドホルモンは,従来のゲノム介在の
添加ではじめて先体反応完了精子の有意な増加
情報伝達系のほかに,非ゲノム性の情報伝達系
が認められており,これまでの報告よりは比較
を介して効果を発現しているということが明ら
的高濃度のプロゲステロンが AR 惹起に必要で
。現在までヒト細胞内型
あった。この違いは,プロゲステロンを添加す
PR には A,B,C の 3 タイプがあることが知ら
るまでの前培養の時間や培養液,精子の洗浄の
れており,8 つの exon から構成されている。
やり方などの違いによる可能性が考えられる。
PR の B 型 mRNA や A 型 mRNA は exon 1 から
プロゲステロンの女性生殖器管内濃度について
転写され,乳癌組織で確認された C 型の
の詳細なデータは少ないが,主として卵丘細胞
mRNA は exon 2 の途中から翻訳される。B,A
層や卵胞液中に多く存在し,排卵時の卵丘細胞
かにされつつある
20)
ならびに C 型 PR mRNA のすべてを検出するプ
塊のプロゲステロン濃度は 2-3 µM と報告され
ライマーと B,A 型 PR mRNA のみを特異的に
ている 23)。その濃度は血中の 50-100 倍に相当
検出するプライマーを用い,RT-PCR を行い
する。Meizel らの示した濃度では,精子が卵
mRNA レベルを検討したところ,すべての細
丘細胞塊に侵入した時点で AR が惹起されるこ
胞内型 PR mRNA を検出するプライマーでは,
とになり,これまで示されてきた卵透明帯に反
ヒト精子で子宮内膜と同等レベルの mRNA が
応して AR を起こす 24)という受精の進行過程
検出されたが,B および A 型のみを検出するプ
と合致しない。ハムスターテストでは 0.5 µM
ライマーを使ったものではほとんど検出されな
以上のプロゲステロン処理で精子侵入率の有意
プロゲステロンの精子受精能に与える効果
な上昇が認められている。卵丘細胞塊中の比較
的低いプロゲステロン濃度が精子の hyperactivation と capacitation に寄与し,AR の準備段
3)
階に十分に達したのちに卵と接触することで
AR が進行したものと考えられる。AR にはプ
ロゲステロンのみならず,卵の存在が重要であ
4)
る。
Hyperactivation や AR など精子受精能の発現
は精子細胞内 Ca の上昇後に生じることが知ら
れている 1,2,6,7)。牛の精子では培養液から Ca を
5)
除去すると,AR は全く起こらないと報告 25)さ
れ,ヒト精子では培養液中の Ca とマグネシウ
ムが AR に必要であると報告 26)がされている。
6)
しかし,プロゲステロンの細胞内 Ca 上昇作用
に細胞内外の Ca がどのように関与するかにつ
いて検討した報告は少ない。細胞外の Ca を除
7)
去するとプロゲステロンの精子に対する諸反応
がみられないことを明らかにした本研究の成績
は,Ca channel blocker で AR が惹起されにく
くなる
27)
8)
ことを考えると精子内 Ca 濃度の上昇
は細胞外からの Ca 流入に起因していることを
9)
示している。
プロゲステロンは精子細胞膜上の PR に作用
し,Ca チャネルを開かせ,Ca の細胞内流入を
10)
ひきおこす。おそらくこの過程は精子が卵管の
中を卵管膨大部に向かって進む間に起こり,
11)
Ca の細胞内流入は capacitation と hyperactivation に関与するのであろう。細胞内 Ca 濃度を
ある程度上昇させた形で精子は最終的に卵に接
近し,透明帯 ZP 3 が精子のレセプターを介し
12)
て決定的に Ca の流入を促し,先体反応が一気
に進行するものと推定される。P は Ca のよう
に精子の様々な反応に必要不可欠ではないが,
13)
それらの調節機構に強く関与していると考えら
れる。
14)
文 献
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