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私たちが使っている漢字の歴史は古く、約 3,500 年前の中国が出発点とされています。漢字の数は膨大で、『大漢和辞典』
(大修館書店)には約 50,000 字の漢字が
収録されており、その内女偏の漢字は約 900 字収められています。しかし男偏はまったく収録されておらず、なぜ女偏だけが多いのか疑問が生じます。その理由とし
ては、古代中国が女系(母系)社会であったという説や、漢字を作った男性たちが女性の容姿に関心があったから容姿を表わした漢字には女偏が多い、など様々な説
があります。それぞれに由来や解釈が数多くありますが、ここでは、いくつか例を取り上げ、女偏の漢字がどのように語られているかをみていきます。
姑
しゅうとめ
姦
かしま(しい)
女性はおしゃべりで、集まるとうるさくなるので「かしましい」という意味に用
いられますが、それは日本だけの用法です。「みだら」「よこしま」などを意味
するとも言われますが、「女」を三人並べることで何を表わそうとしたのか
は、よくわかっていません。
古い女だから姑という説だけでなく、父の姉妹「おば」という意味もあります。
そこで、「先に生まれた女」という意味で、先祖や氏族のなかの年輩者を指し
ていたのではないかという解釈もあります。
※比べてみると⇒
嫉
ねた(む)
たばかる
日本で作られた和製漢字です。「たばかる」とはこっそりと悪だくみをすると
いう意味で、おそらく「姦」からヒントをえて創作したものだろうといわれています。
一般に、ねたんだり、憎んだりする感情が男性よりも女性の方が強いとみな
されて、「女」が加えられたという解釈があります。他に次のような解釈があ
ります。疾という漢字は、「やまいだれ」+「矢」から成り立っています。これ
は、矢が脇の下に刺さっていることを示しており、もともとは外傷を意味する
漢字でした。そこから、病気になると悩んだり、うらんだりするようになること
から、「なやむ」「うらむ」「ねたむ」などの意味が生じたとされています。
嫁
よめ
「家」は祖先の位牌などを安置している廟を表わしています。女性は結婚す
ると夫の家の廟(びょう)につかえることになることで、この字ができたという
説があります。
びょう
※比べてみると⇒
むこ
元となった漢字は「壻」で、これは才能ある男という意味という説があります。女性(娘)の側
からとらえ、娘にとっての男という意味から女偏になったと思われます。
媚
こ(びる)
女性が眉を動かして相手にこびている様子、という解釈もありますが、
「眉」という漢字には、自然なまゆげではなく、呪術的な目的で装飾的に描
き加えたまゆげ、つまり巫女(みこ)などが眼の呪力を強めるために加え
た装飾を表わしているという解釈があります。そこから「女」+「眉」=「媚」
は、シャーマン的な巫女を意味するという説があります。
【参考文献】
杉本つとむ『漢字女偏のルーツとドラマ』1993、東京書籍
例でもみたように、女偏の漢字にはいくつかの解釈があることがわかりました。
しかし、私たちは古い女だから「姑」
、男性よりも女性の方が嫉妬しやすいから「嫉」
など、女偏がついていることでその漢字と女性に対するイメージを結びつけがちです。
では、私たちがこのような解釈を信じ、妥当だと思うのは何故でしょうか。そこには、
女性に対する思い込みや先入観があるのかもしれません。女偏の漢字の歴史を知ること
で、今の社会で女性がどのように見られているのか、あらためて考えてみませんか。
北嶋廣敏『オンナの漢字』2002、太陽企画出版