第 3 章 滋賀県における学校ビオトープ整備校への視察調査 本章では

第3章
滋賀県における学校ビオトープ整備校への視察調査
本章では,滋賀県における学校ビオトープ整備校 4 校を対象に行った視察調査(ヒアリ
ング調査も含む)の概要とその結果について述べる.
3-1
視察調査の目的と実施方法,調査対象校の選定方法
本調査では実際に学校ビオトープでの取り組みに参加し,学校ビオトープの実態や取り
組みの全体像を把握するために実態調査を実施した.また,その際に学校ビオトープの整
備の意義についてのヒアリング調査も同時に行った.調査対象校は甲賀市立油日小学校,
安土町立老蘇小学校,草津市立渋川小学校,東近江市立御園小学校の 4 校である.同 4 校
は M 氏(全国学校ビオトープ・ネットワーク副会長)より,滋賀県の学校ビオトープ整備
校のうち学校ビオトープの活動に PTA 会員や地域住民,環境 NPO/NGO など,児童・生徒
や教諭以外の多くの人が関わっている整備校という理由で紹介を受けた.
視察調査実施日や視察日における活動内容などの概要を表 3-1 に示す.
表 3-1
視察調査実施日
2005/05/14
2005/05/15
2005/05/18
2005/05/18
2005/05/22
2005/06/18
調査校名
老蘇小学校
老蘇小学校
老蘇小学校
御園小学校
老蘇小学校
老蘇小学校
2005/06/25
渋川小学校
2005/07/08
2005/07/31
2005/08/27
2005/09/11
2005/10/06
2005/10/07
2005/10/13
2005/10/16
2005/10/22
2005/10/30
2005/11/19
油日小学校
老蘇小学校
渋川小学校
老蘇小学校
油日小学校
御園小学校
老蘇小学校
老蘇小学校
油日小学校
渋川小学校
渋川小学校
視察調査の概要
視察日の活動内容
ビオトープ整備作業(池の底のヘドロ除去作業)
ビオトープ見学会
ヒアリング調査
ヒアリング調査
ビオトープ整備活動(草刈り,観察路整備)
自然観察会
ビオトープ整備作業
(草刈り,メダカ・カワエビ放流)
ヒアリング調査
ビオトープ整備作業(草刈り,間引き作業)
ビオトープ整備作業及び夏の生き物観察会
ビオトープ整備作業(草刈り,樹木の剪定など)
ヒアリング調査
ヒアリング調査
ヒアリング調査
ビオトープ整備作業(草刈り,間引き作業)
自然観察会
学校ビオトープでのイベントに参加
自然観察会
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表 3-1 に示すように,合計 18 回視察調査を行った.各校ごとの調査回数の内訳は老蘇小
学校が 9 回(ビオトープ整備作業 5 回,ヒアリング調査 2 回,自然観察会 2 回),渋川小学
校が 4 回(ビオトープ整備作業 2 回,自然観察会 1 回,学校ビオトープでのイベント 1 回),
油日小学校が 3 回(ヒアリング調査 2 回,自然観察会 1 回),御園小学校が 2 回(ヒアリン
グ調査 2 回)である.
3-2
視察調査の結果
ここでは視察調査の調査結果について述べる.先ず各校の学校ビオトープ整備年度や面
積,構成要素をまとめたものを表 3-2 に示す.
表 3-2
視察調査対象校における学校ビオトープ整備年度と面積,構成要素について
学校名
整備年度(年)
面積(m2)
御園小学校
油日小学校
老蘇小学校
渋川小学校
1997
1999
2000
2003
980
1000
1000
220
学校ビオトープの構成要素
池,草地,樹林地,湿地
池,草地,樹林地
池,草地,樹林地,湿地
池,草地
表 3-2 に示すように,整備年度でみれば御園小学校の学校ビオトープが最も古く,渋川
小学校の学校ビオトープが最も新しい.また学校ビオトープの面積としては,油日小学校
と老蘇小学校,御園小学校が約 1000 m2でほぼ等しく,渋川小学校のみが約 200 m2であっ
た.学校ビオトープの構成要素としては,4 校全てにおいて,池と草地が整備されており,
また,面積の大きなところでは,樹林地や湿地も整備されていた.
次に調査結果を各校ごとに述べる.
3-2-1
滋賀県甲賀市立油日小学校
油日小学校の付近には杣川が流れ,周辺には山林などの自然が数多く残っている.しか
し,人工林がほとんどでカブトムシやクワガタなどの昆虫や,メダカなどの生物が以前よ
り少なくなってきた.このため学校の中に地域の自然を観察できる場を創造することによ
って,児童が地域の自然を身近に観察できる機会を創出する必要があった.また同小学校
は 1999 年度に森林・林業教育の推進校として滋賀県から「おうみ・森っこスクール」モデ
ル校に認定されていた.
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以上のような背景から,環境学習を実践していくための一つのきっかけとして 1999 年度
に学校ビオトープが整備された.
同小学校の学校ビオトープは 1000 m2の敷地にトンボやメダカの棲む池や,学校付近に
も分布している樹種を中心に植え込んだ樹林地,自然発生的にさまざまな野草が繁茂して
いる草地の 3 つの主な要素で構成されている.1)
教科学習としてのビオトープ内での活動としては,池に棲息するプランクトンの観察や
草地に分布する植物の調査・観察,草地や樹林地に棲息する昆虫や野鳥の観察が主である.
維持管理活動は当初,同小学校の PTA の指導部会の 1 つである「やさしさ部会」を中心に
行われていた.その後,同小学校が 2001 年度に環境学習の先進校として「エコ・スクール」
実践校になったときに設立された「エコ・スクール支援委員会」が「やさしさ部会」から
維持管理活動を引き継ぐ.現在では「エコ・スクール支援委員会」が中心となり,維持管
理活動が行われている.
同支援委員会は維持管理活動以外にも「親子自然観察会」を実施している.同観察会で
は動植物の専門家を講師に招き,ビオトープ内の動植物の観察やプランクトンの観察が行
われている.それ以外にも,児童会が主催する自然観察会もあり,同観察会では,ビオト
ープ内の動植物をウォークラリー形式で調査するといった活動が行われている.
学校ビオトープの整備の意義としては,学校にビオトープを整備することによって,児
童が授業や休み時間などを活用し,動植物を観察することによって,動植物の日々の変化
や動物の採餌の様子や脱皮の様子など日ごろ見ることのできない営みを目にすることがで
きることを担当教諭はあげている.
3-2-2
滋賀県安土町立老蘇小学校
老蘇小学校は,周辺を豊かな自然に囲まれているが,学校の横を流れる川はほとんどが
コンクリート護岸である.流れている水も農業用水として管理されているため,魚がほと
んど棲息していなかった2).このような状況を踏まえ,2000 年度,当時のPTA会長(造園
業者)と教諭(理科担当),地域住民などが集まり学校ビオトープの整備が計画された.ま
たその際,学校ビオトープの計画,施工を円滑に進めるために,教諭とPTA会員,地域住
民のボランティアによる「ビオトープ企画委員会」を立ち上げた.同委員会はビオトープ
整備後「ビオトープ委員会」と改称され,現在も維持管理活動や自然観察会を定期的に行
っている.
同小学校の学校ビオトープは 1000 m2の敷地にトンボやメダカの棲む池や学校付近にも
分布している樹種を中心に植え込んだ樹林地,自然発生的にさまざまな野草が繁茂してい
る草地,陸域と水域の移行帯を意識して造られた湿地の 4 つの要素で主に構成されている.
教科学習としてのビオトープ内での活動としては,池や湿地に棲息している動物の観察,
樹林地に飛来する野鳥の観察,草地の野草調査などが主に行われている.維持管理活動は
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「ビオトープ委員会」を中心に年間 5 回の整備作業が行われている.整備作業には,同委
員会の委員以外にも,数多くの児童や教諭,PTA 会員が参加している.また同委員会が主
催する児童や PTA 会員を主な対象とした,学校ビオトープでの自然観察会が年に 2,3 回
開かれている.それ以外にも,児童会組織の中に「環境委員」が設けられており,同委員
を中心に魚つかみなどのイベントが学校ビオトープで行われている.
学校ビオトープの整備の意義としては,休み時間の遊び場として多くの児童が活用する
ことができ,動植物の日々の変化を観察することができることと,学校ビオトープでの活
動を通して学校と地域とのつながりが強くなるという 2 点を担当教諭はあげている.
3-2-3
滋賀県草津市立渋川小学校
渋川小学校は 2003 年に創立された比較的新しい学校である.学校周辺は宅地化が進み,
付近を流れる河川は全てコンクリート護岸されている.このため地域の自然を見直す場を
子どもたちに提供する必要があった.そこで学区内の自治会の代表者の集まりである「渋
川地区自治連合会」が中心となり同小学校の学校ビオトープが計画され,児童や教諭,地
域住民,PTA 会員の手作業で整備された.学校ビオトープは竣工から現在 2 年目で,生物
が定着しはじめた段階である.
同小学校の学校ビオトープは 220 m2の敷地にトンボやメダカの棲む池や自然発生的にさ
まざまな野草が繁茂している草地の 2 つの要素で主に構成されている.
教科学習としてのビオトープ内での活動は,池の水生生物調査や草地に繁茂している野
草の調査などが主に行われている.また維持管理活動は,校区内の地域住民を中心に教諭
やPTA会員で構成された「渋川ビオトープの会」によって行われている.活動への参加者
は同会の会員や児童,教諭,PTA会員である3).2005 年度は同会の主催でビオトープ整備
活動が 2 回,自然観察会が 1 回,学校ビオトープを活用したイベントが 1 回行われた.こ
こでイベントとは,渋川学区における「ふれあいまつり」の一つの催し物として,ビオト
ープ内で行われたクイズラリーのことである.
学校ビオトープの整備の意義としては,維持管理活動や学校ビオトープでのイベント,
自然観察会などを通して学校と地域とのネットワークを強め,かつ児童や教諭,PTA 会員,
地域住民との交流の場となることを担当教諭はあげている.
3-2-4
滋賀県東近江市立御園小学校
旧八日市市(現東近江市)では 1995 年度から 5 年間「緑の湖作り推進プラン」にもとづ
き,同市全体が「緑の湖」となるように,市内の緑化や美化が推進された.同プランの事
業第 1 号として選ばれたのが御園小学校である.同校の運動場と前庭の間にあった素堀の
排水路や弾痕の石の場所を整地し,林や池,小川を作り,1997 年度にビオトープ施設(「せ
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せらぎの森とやすらぎの池」)として完成した.しかし当時は行政主導の取り組みであった
ため,維持管理活動が十分に行われず,一度は荒廃してしまう.現在ある学校ビオトープ
は.一旦荒廃してしまった学校ビオトープを再整備したものである.4)
同小学校の学校ビオトープは 980 m2 の敷地にトンボやメダカの棲む池や,学校付近に
も分布している樹種を中心に植え込んだ樹林地,自然発生的にさまざまな野草が繁茂して
いる草地,陸域と水域の移行帯を意識して造られた湿地の 4 つの要素で主に構成されてい
る.
教科学習としてのビオトープ内での活動は,池の水生生物観察や水質調査,草地の野草
調査,外来種の動植物の除去作業などが行われている.教科学習以外には,ビオトープに
棲息しているメダカを,夏休みに児童が家に持ち帰り繁殖させ,繁殖したメダカをビオト
ープの池に戻すという「メダカの里親」という取り組みも行われている.
再整備当時,維持管理体制は整っていなかった.児童会のエコ委員会が中心となって二
週間に一度せせらぎの森の掃除(除草作業も含む)を行っていたのと,年に一度 PTA が中
心となり除草作業が行われているのみであった.しかし同小学校が 2001 年度に滋賀県「エ
コ・スクール」実践校になったことを受けて,PTA 会員や教諭,地域住民などを構成員と
して設立された「エコ・スクール支援委員会」が,設立以降,維持管理活動や自然観察会
を実施するようになった.現在ではエコ委員会の児童による掃除や PTA 主催による除草作
業以外にも,
「エコ・スクール支援委員会」が中心となった年 2 回の自然観察会と年 1 回の
奉仕作業が行われている.
学校ビオトープ整備の意義としては,学校にビオトープがあることによって児童がいつ
でも自然を見ることができるため,動植物の日々の変化や動物の採餌の様子や脱皮の様子
など日ごろ見ることのできない動物の営みを数多く目にすることができることを担当教諭
はあげている.
3-3
まとめと考察
学校ビオトープの構成要素としては,上記 4 校は全て池と自然発生的に野草が繁茂する
草地を有していた.また,陸域と水域の接点に湿地を造っている学校や,学校付近にも分
布する樹種を池の周辺に植え込んだ樹林地を造っている学校も見られた.
学校ビオトープでの活動としては,上記 4 校全てがビオトープ内の動植物の観察を主な
活動としてあげている.また,メダカの里親活動を行っていたり,ビオトープ内での魚つ
かみやウォークラリー形式での自然観察を行っている学校もあった.
学校ビオトープの整備の意義としては,授業内や休み時間,放課後などに児童がビオト
ープに立ち寄り,動植物の観察ができるため,動植物の日々の変化や動物の採餌の様子や
脱皮の様子など,日ごろ見ることのできない自然の営みを目にすることができることをあ
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げている担当教諭が多かった.また休み時間に児童の遊び場になることや,学校ビオトー
プでの活動を通して,学校と地域住民とのネットワークを形成できることをあげている担
当教諭もいた.
【参考文献】
1)滋賀県甲賀市立油日小学校:平成 14 年度版
学校ビオトープ視察資料,pp.3-8,滋賀
県甲賀市立油日小学校(2002)
2)滋賀県安土町立老蘇小学校:学校ビオトープ視察資料,pp.2-3,滋賀県安土町立老蘇小
学校(2003)
3)北川眞造:Re: 渋川小学校の学校ビオトープに関して,2005-06-25,私信
4)滋賀県東近江市立御園小学校:
『せせらぎの森』の活動を生かして,p.1,滋賀県東近江
市立御園小学校(2005)
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