最近は、日本から海外、特に中国への農産 物の輸出という新しい貿易の流れが生まれて います。果物や魚など各地の特産品が高額商 品として輸出されるケースが話題となってい ます。今回は、比較的早い時期から日本の農 産物が輸入されていた香港での事情を中心に この新たな流れについてレポートします。 1.日本産農林水産物の輸出傾向 日本の農林水産物の輸出額は近年増加傾向 にあり、日本食品の持つ高品質で安全・安心といったイメージとともに、今後も輸出 が拡大する傾向を示しています。特に経済発展の著しいアジア諸国に対しての日本か らの輸出は、1989年には全体の59%であったものが、2004年には76%にまで拡大 しています。 香港における、2004年の日本から の輸入食品は、約30億香港ドル(約 450億円) で、前年比8%の増加、3 年連続で前年比増となっています。 日本にとって香港は非常に重要な市 場となっています。 日本から 海外市場への 新しい流れ 食品の 新しい流れ 2.日本食品市場拡大の背景 香港における日本食品拡大の背景 には次の3点が挙げられます。 (1) 食品の安全と健康に対する 意識の高まり 現在、香港の消費者は二極 化されています。低価格志向 者は中国産品を多く求めてお り、中国産野菜・果物の香港への輸入が増加しています。一方SARS、鳥イン フルエンザの発生以降、比較的豊かな高所得者層は、食品の安全性・品質管理 を重要視し、安全性に定評がある日本などの食品を指向する傾向が高まったと いわれています。 (2) 香港人消費者の、日本食に対する本格志向化 入国ビザ制度が緩和され、日本へ旅行しやすくなって以来、香港人が日本で ● 5● 味わった本格的な日本食を求める動きが強まったといわれています。また、 元々香港人は、定期的に外食をする習慣があり、ある調査によれば、特に若い 世代は、週1回の外食で日本食を一番多く選んでいます。 (3) 日系の飲食店チェーンや日系スーパーの相次ぐ出店 最近、香港では日本の大手居酒屋チェーン、回転寿司チェーンが進出し、店 舗を拡大しており、刺身、寿司ネタ、干物類などの日本からの輸入が増加して います。また、農産物に関して言えば、2005年9月には高所得者層をター ゲットにする日系の高級スーパーが香港で4店舗目をオープン、5月には、香 港人を中心とした中所得者層をターゲットとする日系スーパーが8店舗目を オープンしました。これらのスーパーの食品売場では必ず日本からの果物、野 菜等が販売されており、日本食品消費拡大に繋がっています。 香港で販売している日本産の果物 外国産果物の新聞広告 (地元スーパーマーケット) 3.各機関の動き 日本の公的機関でも農産物輸出促進の旗が盛んに振られています。JETROでは 2003年7月に『日本食品等海外市場開拓委員会』を設置し、東アジア市場を中心に、 市場調査、国際見本市への参加等を行なっています。農林水産省では輸出支援の予算 を増額し、外国の貿易制度の調査、海外市場開拓ミッションの派遣、販売促進運動へ の支援等をおこなっています。福岡県は比較的早くから香港での市場開拓をおこなっ てきています。福岡産のイチゴ 『あまおう』 は大変好評で、1パック100香港ドル (約 1,500円)するにもかかわらず輸出高を伸ばしています。今後は桃、なし、ブドウ等 に力を入れ、農産物輸出高を2003年度の実績2億円から2008年度には20億円まで 増やすことを目標にしています。 ● 6● 4.問題点 順調に推移しているかのよう に見える日本食品の輸出ですが、 さまざまな問題点も抱えてい ます。 まず第一に、現地での販売価 格が高くなってしまうこと。こ れは生産や輸送コストを考えれ ば仕方ありませんが、日本での 価格の1.5∼2倍にもなります。 現地食品との比較では3∼4倍にもなり、家計を考えると毎日口にするというわけに はいかないようです。香港人は 「日本の果物は確かに甘くておいしいから時々買うよ。 だけど野菜にお金はかけたくない」 と言います。 第二に、輸出ルートです。現在の食品輸出ルートはかなり限定されています。数日 のうちに売ってしまわなければならない食品は、リスクも高く、コストもかかること から、既存のルート以外での新規参入は難しいようです。また、果物、野菜等の輸送 は最新の注意を払って行なわれていますが、香港サイドで長時間炎天下に晒されて商 品が駄目になるケースもよくあるようです。 最後に、味覚の問題があります。食に関して好奇心旺盛な香港人とはいえ、好みの 味覚があり、あんこを使った甘い和菓子、辛子明太子といったものはあまり受けがよ くないようです。 5.最後に 現在、香港では、多くの日本食品を口にすることが出来ます。これは香港人が日本 食を好み、他のアジア諸国に比べ比較的所得が高いという事と関係しています。香港 への輸出量を伸ばすのはもちろんですが、多くの輸出者は、まだ規制が多く残り、生 鮮食品等の輸出制限が行なわれている巨大市場中国を目指しています。その足がかり として、香港を中国のアンテナショップとして利用しようとしているのです。 今後、日本と中国の間に農産物に関する規制がなくなった場合には、中国沿岸部の 高所得者層をターゲットに日本食品の輸出がさかんに行なわれるかもしれません。 ● 7●
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