市場原理をゲームとして教材化した一事例

市場原理をゲームとして教材化した一事例
∼買い物ゲームを通して「価格」の秘密をさぐる∼
単元名
スーパーマーケットの人気のひみつを調べよう
実践者
田口小学校
髙木政志
実践の内容
家庭での買い物
調査から始め、最も利用される地元のスーパー見学を中心に、地域素材の教材化、またその過程で
関わってくる人物に焦点を当てることを考え、取り組み出した本事例です。しかし、子どもたちの
調べようとしたこと、見学の感想を追ってみると、子どもたちの最も大きな興味、感心が物の値段
に向けられていることがわかってきました。そのため、中心となる課題を「価格」として据え直し、
その要素を実感を持って学習できるよう、ゲーム化して授業で再現し体験することが、本事例の中
心となっています。
実生活の中で触れる「価格」には、様々な要素が絡んでおり、買い物をよく手伝うからといって、
その諸要素に気付いたり、整理してとらえるのはとても難しいものです。ゲームの中で子どもが自
然に体験的に自気付けるよう、要素のしぼり込みとルール設定を行いました。
実践をしての成果(○)と課題(●)
○学習を進める中で、学級内で皆が共通に体験しているバザーでの値段設定という体験が作用し、
自然と価格に興味が集まり、無理のない課題設定を行うことができた。またそれだけに、子ど
もの意欲も高く、準備や実行に意欲的に取り組み、気付いたことの話し合いの場面でも、積極
的に発言する子どもの姿が多く見られた。
○売る側と買う側という両方の立場を体験することで、双方の願いの接点で価格が決まることを、
理解してゆくことができた。
○市場(いちば)で仕入れた値段と、買い手の「安いものを買いたい」という欲求をバランスよ
く考慮した値段設定をしたグループが、結果として利益を上げることになった。
●今回のゲームのルールでは、需要と供給を一定にした上で、仕入れ値と売値を考慮することに
なったが、実際には需要と供給は常に変化し価格に影響するものであるので、子どもの実態に
応じてそれらをゲームに組み入れ、より多面的に市場を捉える授業を仕組みたい。
田口小学校3年2組
1、単元名
スーパーマーケットの人気の秘密を調べよう
2、単元目標
男子17名、女子12名
計29名
担任
高木政志
(15時間扱い)
田口探検をし、町内にあるいろいろな施設やそこでの仕事に興味を持ってきた子ど
もたちが、ふだんからなじみのあるスーパーマーケットの人気の秘密を予想し、見学やインタ
ビューによって確かめる活動を通して、スーパーの人たちの販売の工夫や配慮について知るこ
とができる。
3、主な学習の流れ
1
時
1
1
学 習 活 動
指導・助言
児童の反応・意識
○今までに行ったこと
のあるお店や知っ
ているお店を発表
する。
・前単元で分類した、3つの仕事
のうち、「物を売ったりする仕
事」について学習していくことを
伝える。
・子どものあげたお店を、スーパ
ーと専門店で分けて書く。
・花屋 ・肉屋 ・マツヤ ・ジャスコ
・おもちゃ屋 ・スパー ・肉屋
・家具屋 ・文房具屋 ・しまや
・セブンイレブン ・服屋 ・鞄屋
・材木屋 ・八百屋 ・果物屋
・ペットショップ ・西友 ・車屋 ・・・
○自分の家庭ではど
のお店でよく買い物
をするのか考え、調
べようとする意欲を
持つ。
・「自分の家では、どこのお店で
何を買うことが多いかな。」
・シマヤが多い ・夕飯の買い物
・文房具屋によく行く ・・・
スーパーに行くことが多いと思う
○買い物調べの結
果を見て、気付いた
ことを話し合う。
・「一番買い物が多かったお店は
どこ?」「何を買ったかな。」
○マツヤの人気の秘
密を予想する
・「どうしてマツヤに一番よく行く
んだろう。」
○同じ予想をした人
でグループになる
・予想を確かめるために、マツヤ
に見学に行くことを伝える。
・「これから10日間、自分の家の
お買い物調べをしてみよう。」
・「似ている予想は一つのグルー
プで一緒に確かめよう。」
(結果)・シマヤ→ツルヤ→西友
・牛乳、肉、卵、納豆、魚・・・
・ほとんどスーパーだ。
・食べ物が多い。
やっぱりみんなスーパーによく行く。どう
してだろう。
・いろんな種類の物があるから一軒です
む。 ・近い ・新鮮 ・安い
・割引きのときがある ・試食がある
・売り物がきちんと並んでいる
・広告がくる ・カートがある
・セールがある ・電子レンジがある
グルーピング
・新鮮さ ・安さ ・サービス
・品ぞろえ ・べんりグループ
資料
・田口探検
でとった、
マツヤと
高原パン
の 写 真
(提示)
・絵地図(提
示)
・買い物調
べの学習
カード(配
布)
・前時の子
どもの予
想 一 覧
(提示)
2
○グループでマツヤ
見学計画を立てる
・予想を確かめる方法
を考える
・「自分たちの立てた予想は、どう
やったら確かめられそうかな。」
・「どんな質問をすれば確かめられ
るかな。」
・「どこを見てきたい?」
・グループ内の役割分
担を決める
・見学時間内の活動
計画を立てる
・持ち物、注意事項に
ついて話し合う
・リーダー ・カメラマン ・メモする
・質問する等。グループの人数に
従い兼任や2人で担当するなど
工夫させる。
・見学時間が1時間程であることを
伝える。
・出発してから返ってくるまでに、
注意することは何だろう。
3
○マツヤを見学する
・行き帰りの交通に注意
・計画に従い見学するよう指示す
る。
・人の入る写真をとるときには必ず
一言お願いする。
・試食は一人一回。
2
○見学してきたことを
まとめる
・「見たり、聞いたりしてきたこと、
わかったことを模造紙にまとめよ
う!」
2
○まとめたことについ
て発表する。
・他のグループの発
表を聞いた感想、評
価を書き、発表する。
1
○マツヤの店長さん
にお礼状を書く
○さらに知りたいこと
について話し合う。
1 ︵本
時︶
○お店ゲームで、値
段の付け方を体験す
る。
・「それぞれのグループの発表の
よい点や、気付いたこと、驚いた
ことなどを出しましょう。」
・「いそがしい中、とっても親切に
質問に答えてくれたりいろいろ見
せてくれた、店長さんや店員さん
にお礼のお手紙を書こう。
・もっと知りたいことはないかな。
本時案参照
どうやって予想を確かめたらいいのかな
・お店の人に聞く ・お客さんに聞く
・お店の中を見せてもらう
・どうやって値段を決めるか
・売り切れないのはなぜか
・古くなったらどうするか・・・
・作っているところ ・倉庫 ・冷蔵庫
・他のお客さんに迷惑をかけない
・お店の人の仕事をじゃましない
・丁寧な言葉をつかう
・はっきりしゃべる
・行き帰りでは車に気を付ける
・店長さんに話を聞く
「値段はどうやって決めるのですか。」
「セールはいつするんですか。」
「一日に何人くらい人が来るんですか。」
「賞味期限が切れたらどうするんですか。」
「ツルヤとマツヤの一番大きな違いは何で
すか。」
・店員さんに話を聞く
「何種類くらいの商品があるんですか。」
「商品はどこから来るんですか。」
「何で試食コーナーがあるんですか。」
「お客さんに便利に買い物をしてもらうた
めに、どんな工夫をしていますか。」
・お客さんに話を聞く
「なぜマツヤにくるんですか。」 ・・・
予想は当たっているかな
・グループ名とみんなの名前を入れよう。
・とってきた写真をいっぱい使ってわかり
やすくしよう。
・した質問と答えを載せよう。
・もらってきた広告を使おう。
・感想も書こう。
・まとめ方がわかりやすかった。
・話し方がはっきりしていた。
・知らなかったことがわかってよかった。
予想は当たっていた
知らなかったことがたくさんわかった
・見学計画
カード
(配布)
・探検バッグ
・デジタルカ
メラ
・質問カード
(事前にマツ
ヤに同じ物
を渡す)
・下書き用
紙
・模造紙
・マジック
・とった写真
・まとめた模
造紙(提示)
・評価カード
(配布)
・お礼状用
紙(配布)
・何で毎日値段が変わるんだろう。
・賞味期限が過ぎた食べ物をどこに捨て
るんだろう。
1
○新しい物から買う
か、古いものから買う
かを話し合う。
○献立計画表を立て
る。
4、本時の位置
・「みんなのお家では買い物をす
るとき、新しい方から買う?古い
方から買う?それはどうしてか
な。」
・「お店の人はどっちから買って
ほしいかな。」
・牛乳等の陳列の工夫や夕方の
セールの様子を紹介する。
・献立計画があると無駄を減らせ
るね。
「新しい方から買う。もったいないから。」
「古い方から買ってほしいと思う。もった
いないから。」
・牛乳を古
い順に並べ
てある写真
(提示)
・売れ残りを
廃棄する写
真(提示)
・献立計画
用紙(配布)
15時間中第14時
5、本時の主眼
バザー出店やマツヤ見学の経験を通して、商品の値段の付け方に興味を持ってきた子どもたちが、
値段をつけて買ってもらうお店ゲームを通して、値段の決め手となる諸要素について理解することが
できる。
6、展開
段階
課
学習活動
○各スーパーの
広告を見比べ
る
題
○お店ゲームで
値段つけをす
ることを知る
把
○ゲームのルー
ルを知る。
握
追
○お店の準備
をする。
・値段付け
・値札作り
・看板作り
指導・助言
・近くの3つのスーパーの広告を提示
予想される児童の反応
・「同じ商品でも値段が違うなあ」
・「安売りしている物が違う」
・「自分たちも、値段を付けてお客さんに
買ってもらうゲームをやってみよう!」
・
「好きな値段をつけられるって楽し
みだな。」
∼∼∼∼お店ゲームのルール∼∼∼∼∼
・学級内で半分に分かれて、前半お店グル
ープ3つ(各5人)とお客グループ6つ(各
2∼3人)をつくる。
・お店はスーパーマーケット。扱う品物はカ
レーの具材4種。
・商品には仕入れ値があり、それ以下の値
を付けると、売れても儲けがマイナスに
なる。
・お客は制限時間内で3軒のスーパーを見
比べられる。(制限時間は短めに設定)
・買い物は小切手形式で行う。
・お客はなるべく安く買い物を済ませたグ
ループの勝ち。お店は多くもうけたグル
ープの勝ち。
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
・「グループで相談して、値段を決めよ
う。」
・「他のお店の値段を見ないで決めよ
う。」
究
○お店ゲーム
をする
・「店員さんは元気に宣伝しよう!」
時間
10
・スーパーの店長さんも、市場で仕
入れた値段で、野菜とかの値段が
決まるって言ってたな。
・なるべく安く買い物できるように、
見てまわろう。
・「安い方が買ってもらえると思う
よ。」
・「仕入れ値が50円だから、51
円で売ろう。
」
・「安すぎると、もうけがなくなっ
ちゃうんじゃないかな。」
・「仕入れた値段より安くならない
ように気を付けなくちゃ。
」
・「たくさんのお客さんに買ってほ
しいな。」
・「どのお店のが一番安いかな。
」
20
○結果発表を
見る。
ま
と
め
○値段を決め
るとき注意し
たことを発表
する。
○分かったこ
とや感想を話
し合う。
○値段を決め
る時の、他の
諸要素につい
て話し合う。
・お店とお客の結果を黒板に掲示。
・値段を決めるときに、どんなことに注
意したかな。
・「お店ゲームをやってみて、わかった
ことや感じたことを学習カードに書こ
う。」
・感想用紙配布。
・「感想を発表して下さい。」
・仕入れた値段以外に、食材を売るま
でにかかっているお金はないかな。
15
・ほかのお店より安くしなきゃい
けないから、難しかった。
・店員さんの給料
・電気代
・ガソリン代
・お店の機械のお金・・・
7、子どもの感想(発表及び学習カードより)
●値段をつけるとき、どんなことに気をつけましたか。
・あんまりそんしないよういする。
・売れるようにする。
・お客さんがくるように、高くしすぎないようにする。
・市場でかったねだんより、お店で売るときは高いねだんをつけなくちゃそんしてしまうところ。
●思ったことや気付いたこと、感じたことを書きましょう。
・ねだんをつけるとき、高くもなく安くもなくちょうどにするのがむずかしかった。
・お客さんは、安いところに行って、高いところにはあまりこない。
・マツヤとかのお店の人は、ねだんをつけるのがむずかしそう。
・ねだんを、お客さんの気持ちになって考えるのがむずかしい。
・高すぎるとお客があんまりこなくて、そんをした。
・安すぎると、そんをすることがわかった。
・140円のそんとかになるなんて、知らなかった。
・お店でどうやってねだんをつけるのかわからなかったけどわかってよかった。
・1班と、鶏肉が1円ちがって、みんなあっちへ行った。
8、考察
マツヤで「値段はどうやってきめるのですか」と聞いた時には、「市場の値段によって毎日変わる。
たくさん出ていれば安くなるし、少しならば高くなる。」という答えで、子どもたちの反応には実感の
ない様子であった。今回のゲームでは、多くの子が値段付けの、特に原価及び他社との関係に実感に持
って気づけたように思う。ゲームを前半、後半に分けたことで、後半の子どもたちは損を出さないよう
にとくに注意することができた。市場で買った値段以外に、売るまでにかかるお金についても、マツヤ
を見学した子どもたちはよく気付くことができた。
実際には、仕入れた以上はたとえ安くても売れた方が得ということや、需要と供給の変化による価格
の変動があり、もう少し学年が上であれば、何を何個、いくらで仕入れるか、というところからやって、
より値段の仕組みをよく知るように仕組みたい。