アメリカと日本―子供の生活―

[教材開発]
アメリカと日本―子供の生活―
武田
1
哲哉(森町立尾白内小学校)
はじめに
数年前に司馬遼太郎の「アメリカ素描」を読んだ。それまでアメリカという国は、映画や小説の中で
しか知らなかった。取り立ててアメリカに憧れを抱いていたわけではない。しかし、多くのアメリカ映
画を観たりや小説を読んだりしているうちに、自分の生活がいつの間にかうわべだけアメリカ的になっ
ていた。そのことに「アメリカ素描」を読んで気づかされた。
二年前、かねてから念願だったニューヨークに行った。そこは、さまざまな人種が何のてらいもなく
自分たちの民族性を表現している活気に溢れる大都市だった。東京やロンドン、パリにはない独特の躍
動感があり、ここが世界の中心だということが理屈抜きに理解できた。
その後、改めて「アメリカ素描」を読み直した。筆者は優れた歴史の含蓄から見事にアメリカ合衆国
をとらえていた。その中で随所に「アメリカ文明」という言葉が出てくる。様々な事実からわかりやす
く定義づけるあたりは、さすがとしか言いようがない。
「アメリカ素描」に啓発され、もっとアメリカと
いう国、アメリカ人を知らなければならないと思い、今回のプロジェクトに参加した。
このような経緯から、日本にもある身近な「アメリカ文明」を教材化できないものかと思案しながら、
現地でささやかな視察・調査をおこなった。
アメリカ文明
文明・・・だれもが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの。
文化・・・不合理なものであり、特定の集団(民族など)においてのみ通用する特殊なもので、他に
及ぼしがたい。普遍的でない。
Nation・・・native がいて、natural に存在した国。
States・・・法によってできあがった国。人工的な国家。
か
ど
多様な文化群が擦れ合い、互いに長所を取り入れ、互いに特殊という圭角を磨滅させ、だれでも参加
できる普遍性ができあがる。
その民族しか持っていない「得意芸」がアメリカをつくっていった。
アングロサクソンが社会の規範をつくる。
ユダヤ人が資本主義を発展させる。
ドイツ人が医学を進歩させる。
アフリカ人がアメリカ音楽を広める。
諸民族の多様な感覚群がアメリカの中で幾層もの濾過装置を経て認められていく。そして、そのまま
多民族の地球上に普及していく。ジャズ・ジーンズ・バンダナなどはアメリカの文明といっても過言で
はない。
文明は、多民族地帯に興りやすい。大地は農業的な豊かさを持っていなければならない。大地が食え
るから異文化の者が大勢やってくるのである。
さまざまな人種が、おでんのようにそれぞれ固有の形と味を残したまま一つ鍋に入っている。これが
アメリカだ。
司馬遼太郎「アメリカ素描」から抜粋
― 219 ―
アメリカと日本
「アメリカ文明」と日本
ワシントン州は、多文化主義(muliculturalism)と民族文化の多様性(diversity)の色が濃かった。
司馬氏の「おでん」のたとえがワシントン州にもぴったりと当てはまる。
ファストフード、コーヒーメーカーで大量に淹れるコーヒー、発砲スチロールのコーヒーカップ、こ
れらはどこの国に行っても普遍的なものになりつつある。特に先進国と呼ばれている国ではなおさらだ。
これも「アメリカ文明」と言える。イギリスにおいても伝統的な紅茶よりアメリカスタイルのコーヒー
が多く飲まれている。スターバックスは、浅煎り豆のアメリカンではなく、フランスやイタリアで多く
飲まれている深煎り豆のコーヒーで売り出した。瞬く間にアメリカ国内で認められ、今や下火と言われ
ながらも世界中に広がっている。これもヨーロッパのコーヒー文化をうまく取り入れ、一つの普遍的な
もの(文明)にした例と言えよう。
「アメリカ文明」にどこの国よりも先に反応するのが日本である。マ
クドナルドやスターバックの店舗数は、アメリカの次に多い。そういう意味においても日本人にとって
アメリカを理解することは重要なことだと思われる。特に、アメリカ人のものの考え方を知ることはこ
れからの日米関係に欠かせないことである。
「アメリカ文明」を教材化する
私は、「アメリカと日本−子どもの生活−」を教材開発のテーマにした。
その根本的な考えは、小学生の思考の発達にある。教材を開発しても、それが子どもの思考に合った
ものでなければ無駄なものとなる。子どもの思考に合った教材には、できるだけ身近で具体的なものが
必要となる。それらを子ども向けに改良し、うまく組み合わせて、具体的に思考させるのが無理のない
方法と考えた。教師の知識を教えるだけなら、今まで自分が経験したアメリカを話せばよい。しかし、
それはアメリカ理解の教材とはなり得ない。なぜなら、単なる土産話の域を出ないからである。子ども
の事実を把握し、子どもにとって身近なところから切り込み、その事実に変化をもたらすのが授業であ
る。そして、その触媒になるのが教材である。そういうことを念頭に置いてテーマに基づいた教材開発
をおこなった。
2
多文化主義
ワシントン州での調査(教材開発に関連することまたはベースとなるもの)
ボーイング社(エバレット)
民族文化の多様性(Diversity)を会社経営の理念に盛り込み、様々な国々の労働者を雇用している。
「People Working Together」をモットーに、文化の違いを学ぶためのトレーニングをおこなったり、
マイノリティを支援するシステムなども構築されている。労使間・従業員同士、互いに理解し合わな
ければ、生産性の向上や会社経営の障害になり、結果的にそれが個人に跳ね返ってくる。そういうき
れい事ではすまされない現実的な考え方が根本にある。しかし、それぞれの民族の特質を生かし、生
産性につなげていることはさすがとしか言いようがない。
ジャンボジェット機(Boeing747)は、世界各国の航空会社が当たり前のように使用している機種
で、航空業界では普遍的なものとなっている。これは、今や「アメリカ文明」の代表格である。
今回の教材開発には利用しない。
― 220 ―
教材開発
アフリカン・アメリカン博物館(タコマ)
館長の話からアメリカにおけるアフリカ系移民の歴史を知ることができた。主に奴隷解放までの道
のりとその後の現実は、なまなましいものがあった。また、マーティン・ルーサー・キングの偉業も
再認識できた。草の根活動から人々の「師」になるまで、彼の意志の強さと前向きな姿勢には脱帽で
ある。ここにアメリカ歴史の負の側面と正の側面をみた。やはり建国当初ら多文化主義が息づいてい
たのだ。
ウィング・ルーク博物館(シアトル)
ここではワシントン州とアジア系移民の歴史を知ることができた。ワシントン州という限られた地
域ではあるが、アジア系移民とアフリカ系移民の存在そのものの違いを垣間見ることができた。どち
らも苦難の歴史を歩んできたことに変わりはないが、今やブラック(アフリカ系アメリカ人)は、ア
メリカのスタンダードになりつつあるが、アジア系アメリカ人は経済の中で地道に活躍する「縁の下
の力持ち」的な存在の感がある。
今回の教材開発には利用しない。日系二世・三世のアメリカ人については事実として教えるべき。
スターバックス(シアトル)
ここ3年間ぐらいの間で先進国と自称している国々に急速に展開した。自家焙煎のコーヒーを商品
の軸とし、ファストフード化に成功した会社である。フランスやイタリアで多く飲まれている深煎り
豆のコーヒーを使用し、
「アメリカン・コーヒー」と呼ばれている浅煎り豆とは対照的な味で売り出し
た。その本社工場と記念すべき1号店がシアトルにある。
「スターバックス」は、シアトルで生まれア
メリカ国内で認められた。そして、世界に広まっていったのである。これが今後、普遍的なものとな
れば「アメリカ文明」の一つに加わることになるのだろうが、今のところは定かではない。
札幌の高校生には教材となるが、小学生には馴染みがないので使用できない。
EPA(Environmental Protection Agency)環境保護局(シアトル)
二酸化炭素削減条約の京都議定書を未だに拒み続けている先進国はアメリカだけである。そのアメ
リカが自国のことになると事細かに法整備をすすめて積極的に活動をする。その一つにこの「EPA」
(環境保護局)があげられる。一般向けにパンフレットや書物などを大量に用意してあり、だれもが
政府の環境政策を知ることができる。より詳しく知りたい場合は、担当者に直接尋ねるか、インター
ネットでアクセスすることもできる。さらに環境教育のカリキュラムまでつくられていて、学校教育
でそのまま使えそうである。こういう国家レベルおよび州レベルのスタンダードをつくることに関し
て、アメリカという国は実に上手である。こういうところにも多民族の集まった国ならではの必然性
のようなものを感じる。一つのことに集めなければ全体としての調和がとれないのであろう。
しかし、ごみの分別処理は日本にくらべると大ざっぱである。土地がたくさんあるから深刻になる
必要がないのだろうか。
セミナーで概要を知ることはできたが、具体的な活動を視察していないので残念ながら教材化でき
ない。
ジョン・スタンフォード国際小学校(John Stanford International Elementary School)(シアトル)
私学のインターナショナル・スクールである。日本・韓国・ノルウェー・ブルガリア・アルゼンチ
ン・中国など様々な国々の子が学んでいる。アメリカの中にいながらそれぞれの国の文化を尊重し合
っているところに感銘を受けた。民族の多様性を認め、それを教育課程の中に位置づけている小学校
― 221 ―
アメリカと日本
である。こういうことは単一民族の日本ではあり得ない。ほとんどの学校では特別なこととして扱い、
認め合うところまでにはならない。特に他の国の人々が住んでいない地域では、それが顕著に現れる。
さすが私学だけあって、保護者への情報提供は徹底している。年間指導計画や学級担任の学習指導
方法・評価・宿題の内容まで、すべて提供している。その上で入学してもらい保護者の協力も得ると
いう仕組みになっている。互いに理解し合い尊重し合い、そして利益を分かち合うという現実的なこ
とが教育理念の学校である。こういうところも多文化主義の国ならではの特徴であるいえる。
ウェスト・シアトル高等学校(ESLクラス)(シアトル)
ESL(English as a second language =
第二言語としての英語)
英語を第二言語としているクラスの生徒たちと交流することができた。つまり、彼らの母国はアメ
リカではないと言うことである。ソマリア、メキシコ、アルゼンチン、ホンジュラス、ベトナムなど、
全校で85カ国にも及ぶ。生徒たちは、1・2学年でESLを修了し、普通のクラスにすすむ。ここ
にもやはり多文化主義があった。
「将来の夢は?」という問いかけに、医者、秘書、FBI捜査官、法律家、消防士、警察官など、
何の迷いもなくこたえていた。そこには、ブルーカラーの職種はひとつもなかった。
「アメリカ人とは?」という問いに対しては、「自分はいつまでたってもメキシコ人。」、「アメリカ
人にはなりたくない、勉強しているだけ。」、「ホンジュラスへの思いが強い。」、「自由のない国からく
るとアメリカには自由があると思う。」などとしっかりとしたこたえが返ってきた。
彼らからは、確かな目的を持ち、それを達成するために高校で勉強するという印象を受けた。もち
ろん途中で挫折する生徒もいることだろう。しかし、夢を実現しようという前向きの姿勢には、見習
うべきものがあった。やはりアメリカはチャンスの国、アメリカン・ドリームは健在なのだろう。
「アメリカ人」とは?
「アメリカ人」とはどんな民族なのだろうかということは、以前から疑問に思っていた。
やはりWASP(White Anglo-Saxon Protestant)なのだろうか。今回、シアトルのエクスタイン
中学校の教師と話をする機会があったので、聞いてみたが明確な結論を得ることはできなかった。ア
メリカ人自身、そういう認識を持っていないようだ。アメリカの市民権をもち、仕事をもって自立し
ている人は全てアメリカ人であるというのが基本なのだろう。そうであるならば、なるほど懐の深い
国である。先日、ニュースでアメリカにおけるヒスパニックの人口比率がブラックを抜いたと報道さ
れていた。今後、ますます「アメリカ人」を定義づけるのが難しくなりそうだ。
3
アメリカの学校教育
イリノイ州での調査(ブルーミントン、ノーマル)
イリノイ州とワシントン州の学校教育の現状からアメリカ合衆国の教育を語ることはできないが、
その特徴をとらえることはできる。ノーマルには、アメリカでも教育分野でレベルの高い「イリノイ
州立大学」がある。以下は、教育現場に関わる事柄である。
子どもの姿を見かけない
以前、ニューヨークに行った時もそうであったが、シアトル、ブルーミントン、ノーマルでも街で
子どもの姿を見かけなかった。通りはもちろん郊外のショッピングモールの中にも小・中学生の姿は
なかった。そう言えば、イギリスやフランスでも同じだった。日本とはまるで違う光景だ。
― 222 ―
教材開発
後で聞いた話では、子どもだけで店に入れないということだ。万引きなどが起こった場合、店と保
護者の間で訴訟問題になりかねず、そうなると互いの利益にならないというのが理由らしい。なるほ
どアメリカである。このアメリカの「訴訟文化」だけは、世界中で普遍的なものになりそうにない。
ハロウィーンの夜、シアトルの住宅街を思い思いの仮装で歩いている子どもたちを見て、日本の七
夕の光景を思い出し、なぜかほっとした。
ブルーミントンとノーマルの小学校
そもそも学校教育に対する考え方とシステムが日本とは違う。ただ、イリノイ州の子どもの「読
み」
・
「書き」の力が落ちてきているということだけは日本と同じである。おそらくアメリカ全体でも
同じ現状だろう。
ここでは取材時のこととアンケートや聞き取り調査の結果を少しだけ述べることにする。
公立校は、個人のプライヴァシーを守ることにかけてはなかなか徹底している。取材のための写
真撮影は言うに及ばず、インタビューやアンケート調査まで校長や保護者さらには本人の承諾を必
要とする学校が多い。契約が優先する国だけあって、正式なルートを通して契約すれば可能なこと
も増える。その場で承諾を得るということはほとんど不可能に近い。中には校長の判断で自由に写
真を撮らせてくれるところもあるが、そうは言っても動物園で動物をとるのとは訳が違うので遠慮
せざるを得ない。今回の場合も事前に話が通っていて正式に契約している学校は、スムースに事が
運んだ。そうでない場合は、こちらの意図していることをさせてもらうことはできなかった。日本
と違い、学級担任の判断でできることは極めて少ない。校長が学校を動かしているという感が強い。
校長は、保護者と教育に関する契約を結んでいるので、それに対して全責任を負っている。そのた
め、できるだけ摩擦を起こさないように配慮しているのであろう。保護者、職員、児童・生徒に見
える形で学校運営をしているあたりは、自己をアピールすることで理解されるといったアメリカな
らではの特質である。
これが、私立になるとがらり変わる。まさに正反対である。とにかくこちらの要求を満たしてく
れる。インタビューも写真撮影もすべてよし。どこの教室に入っても笑顔で応対してくれる歓迎ぶ
り。資料の提供や取材のための遊び時間の設定、おまけに地元の新聞記者まで呼んでいる徹底ぶり。
公立と私立とではこれほどまでに違うものなのかと驚かされた。
次の日、地元新聞に私たちの訪問のことが大きめの記事になって載っていた。これで、無料で学
校の宣伝もできたというものだ。さすが私立は抜かりがない。
子どもの好きなもの(アメリカの小学校4年生から6年生
76名の回答から)
【食べ物】
【おやつ】
【スポーツ】
①ピッツァ
①キャンディー・バー
①フットボール
①バレーボール
②チキン
②ポテト・チップス
②バスケットボール
②ソフトボール
③チーズ
③チョコレート
③サッカー
③バスケットボール
④スパゲッティ
④アイスクリーム
④野球
④サッカー
⑤マッシュポテト
⑤クラッカー
⑤トランポリン
⑤陸上
以上
男子
以上
女子
ほとんどの子が、放課後、町のクラブチームでスポーツをしたり、ビオラやチェロ等を習ったり、
している。乗馬をしている子やコンピューターで遊ぶ子も何人かいる。近所の子と外で遊んだり、
自転車に乗ったりして遊ぶ子は少ない。「塾」とうものはない。学校の宿題が多い。
― 223 ―
アメリカと日本
総合的な学習の時間
1
教材名
2
教材について
学習指導案
日
時
:
2003年2月14日(金)
児
童
:
尾白内小学校4学年
16名
指導者
:
教諭
哉
武
田
哲
第5教時
「アメリカと日本」
(1)アメリカ観
アメリカ合衆国と日本は、ペリー来航(襲撃?)以来切っても切れない縁が続いている。とりわけ
太平洋戦争後は、日本国憲法をはじめ、さまざまな法整備や生活物資までもがアメリカによってもた
らされた。日米安全保障条約の傘下にある日本は、今や東洋のアメリカといっても過言ではない。
しかし、私たち日本人は、アメリカという国の歴史・文化・習慣、アメリカ人のものの考え方を知
らないばかりか、日常生活に、いかに多くの「アメリカ文明」が入り込んでいることに気づいていな
い。それほど生活に根ざしてしまっている。その反面、日本の歴史・文化・習慣などを知っているつ
もりで、ほとんど知らない日本人が多いのも昨今の事実である。何より合理性・機能性を重視するア
メリカ、情緒的で不合理なことをも認める日本。この両国のことを知らずに、これからの世紀を生き
ていくのは賢明とはいえない。
しかし、4学年の児童にこのようなことを教えるには、明らかに無理がある。この期の児童の歴史
および地理的な空間認識は、せいぜい自分たちの地域である。さらに思考の発達も具体的思考からよ
うやく抽象的思考ができるようになってきている段階である。そういう児童にアメリカ合衆国につい
て抽象的に教えても、実感としてとらえることはできないし、自分たちの生活と比較することも難し
い。
本教材の視点は、日常的な事柄を通してアメリカと日本を比較し、そこから共通点を見つけること
にある。最終的には、
「アメリカ文明」が自分たちの身の回りにもたくさんあるということに気づかせ
たい。そのことにより、今後も密接な関係が続くアメリカに対する認識の入り口を開けるのではない
かと考える。同時に、日本の文化について知ろうとする動機付けになれば何よりである。
(2)教材観
教材化をすすめるにあたっては、米国理解プロジェクトにおいてアメリカで入手した情報をもと
にし、それらを児童の実態に合わせて加工、組み合わせることに留意した。
そこで、本教材では、アメリカの小学生の映像を見せて親近感を持たる、五感を使って実物を比
較する、データを読み取るなどの具体的な活動を主軸とした。これらに伴って、適宜、教えたり、
考えさせたりして授業を展開させる。
教材づくりのためにアメリカで入手した情報及びもの
《小学生の食べ物・おやつ》
①インタビューによる調査(おやつ)・・・4年生から5年生(30人)
○パークサイド小学校4学年(5名)
[イリノイ州ノーマル]
ショート・インタビュー(ビデオによる映像)
・ブルック(男子)すねた表情をしている。
・ジェロン(男子)落ち着いていてどこか芸術家タイプ。
・マット(男子)活動的で明るくアメリカ的。
― 224 ―
教材開発
・アシュリー(女子)はにかみがちだが明るい。
・ローレン(女子・ホワイト)しっかりしていて大人びている。
○スティーブンソン小学校(26名)
[イリノイ州ブルーミントン]
5年生26名に質問に答えてもらった。聞き取り調査。映像はなし。
②アンケートによる調査(食べ物)・・・・4年生から6年生(45人)
○パークサイド小学校(20名)
○スティーブンソン小学校(25名)
*旭川校のアンケートを借用して集約した。
③小学校のランチタイム(給食)
○スティーブンソン小学校(1・2学年)
校長の計らいもあり、無料で学校ランチを食べることができた。(ビデオによる映像)
④小・中学生の観察(休憩時間・放課後のおやつ)
○エクスタイン中学校[ワシントン州シアトル]
○ジョン・スタンフォード国際小学校[ワシントン州シアトル]
○スティーブンソン小学校
⑤学校内のバザー販売の観察
○ブルーミン・グローブ・アカデミー(私立幼・小・中)
[イリノイ州ブルーミントン]
《関連する映像・実物》
①スーパーマーケット、セブンイレブンの売れ筋スナック菓子
○スニッカーズ、キットカット、チョコチップクッキー、チーズクラッカーなど
②セブンイレブンの店内写真(ワシントン州シアトル)
③インタビュー時の映像(ビデオ)[パークサイド小学校4学年5名]
④ランチタイムの映像(ビデオ)[スティーブンソン小学校1・2学年]
⑤小学校の教科書・問題集・教師用指導書・保護者用指導書
⑥文房具(ノート・鉛筆・消しゴム・定規・コンパス・はさみ・のり・ボールペンなど)
⑦広告ちらし(スーパーマーケット・スポーツ店などのもの)
⑧各種写真(デジタル写真
約300枚)
上記のものを情報過多にならないように組み合わせて一つの教材とする。
授業をすすめるにあたっては、教師からの知識の押しつけは極力避け、できる限り具体的に考えた
り、気づいたことを互いに交流し合ったりする活動を多く設けたい。なぜなら、前記した通り、本校
の児童にとってアメリカは、あまりにも日常からかけ離れているからである。そういう児童に教師の
見聞きしたことをいくら教え込んでも、彼らの理解の範疇を越えてしまう。それよりも、身近でしか
も少ない情報をもとにしてイメージさせたり考えさせたりした方が、アメリカを知る糸口になるであ
ろう。
3
目標
具体的な事柄を比べることを通してアメリカと日本の共通点を見つけ、自分たちの生活にアメリカ
合衆国という国が密接にかかわっていることに気づくようにする。
― 225 ―
アメリカと日本
4
児童の実態
アメリカと日本の人とものについての知名度調査(事前調査)
「知っている」、「見たことがある」、「聞いたことがある」、「食べたことがある」ものに印をつけてくだ
さい。(国名と知名度を入れていないものを児童に配布して、記入させた。)
ア
□
ステーキ
□
メ
リ
カ
知名度
日
本
知名度
100
□
さぬきうどん
67
ナイキ
73
□
アシックス
53
□
タイガー・ウッズ
47
□
丸山しげき
27
□
ミッキー・マウス
100
□
ペコちゃん
93
□
ハンバーガー
100
□
おにぎり
100
□
コカ・コーラ
100
□
緑茶(りょくちゃ)
100
□
チャンピオン
93
□
ミズノ
40
□
ジャンボ・ジェット
87
□
トヨタ
80
□
くまのプーさん
100
□
ドラえもん
□
ジーパン
93
□
じんべえ
27
□
コーンフレーク
100
□
お茶漬け(おちゃづけ)
93
□
ウィンドウズ
27
□
ソニー
47
□
スニッカーズ
0
□
カロリーメイト
93
□
ケンタッキー・フライド・チキン
100
□
回転寿司(かいてんずし)
100
□
プリングルス
40
□
かっぱえびせん
100
□
スプライト
73
□
サイダー
100
□
スペース・シャトル
87
□
H2 ロケット
27
□
スヌーピー
93
□
ゴマちゃん
67
□
ディズニー・ランド
93
□
柔道(じゅうどう)
87
□
ポテト・チップス
100
□
柿の種(かきのたね)
73
□
スーパーマン
87
□
ウルトラマン
93
□
スパイダーマン
93
□
アトム
93
□
マクドナルド
100
□
牛丼「よしのや」
87
□
オレオ
73
□
どら焼き
100
□
ハリーポッター(映画)
100
□
千と千尋の神隠し(映画)
100
□
大リーグ
80
□
セントラル・リーグ
47
□
ボブ・サップ
100
□
アントニオ猪木(いのき)
87
□
フリース
80
□
浴衣(ゆかた)
80
□
セブン・イレブン
100
□
ローソン
93
100
上記の項目は、児童が知っていそうなもの、身近にあるものなどを関係性なく羅列したもの。
本校の児童は、ほとんどの子が、アメリカという名前と国旗しか知らない。2001年9月の貿易
センタービル惨劇のとき、ちょうど私がもっていた展望台からの写真とビル本体の写真を見せて体験
談を聞かせた。それで初めてアメリカ合衆国とニューヨークという大都市を知ったという児童が多い。
― 226 ―
教材開発
自分が行ったことのある所以外は、想像もできないのは4年生として当然のことである。
このように地理的な空間認識が未熟な児童であっても、アメリカ製ものは日常的になっている。し
かし、それらがアメリカで生まれたものだという認識は彼らにはない。それほど生活にとけ込んでい
ると言える。もちろんこれには、テレビ番組や繰り返し流されるコマーシャルからの情報が多大に影
響している。若者向けのテレビ番組をたくさん見ている児童、中学生や高校生のきょうだいがいる児
童、生活経験の豊かな児童ほど知っていることが多い。
5
指導計画(全5時間)
・アメリカの小学校の様子と小学生が使っている教科書や
第1時
ノート、文房具などの実物を見たりさわったりして、自
「アメリカと日本の文房具」
分たちのものと比べる。比較の観点を与える。
文房具を使い比べてみよう
(使いやすさ、デザイン、値段など)
・教師による簡単な補足説明。
・アメリカの小学生の食生活の一側面について知る。
第2時
実際にアメリカと日本で売られている同じスナック菓
「アメリカと日本のお菓子」
子を食べて味を比べる。同じであることに気づく。
人気のスナック菓子を食べ比 ・アメリカの小学生も自分たちとさほど変わらないことを
べてみよう。
知る。
本時
・教師による補足説明と映像。
・自分たちの日常に元祖がアメリカのものが数多くあるこ
第3時
とに気づく。
「アメリカがいっぱい」
・具体的なものから抽象的なものへ(実物から文字へ)
事前のアンケートをもとに考察し、交流する。
・教師による補足説明。
・インタビューの映像とアンケートの調査結果からアメリ
第4時
「好きなスポーツは?」
カの小学生の好きなスポーツを知り、自分たちと共通し
たものがあることに気づく。
・バスケットボールを取り上げ、その歴史と現状を知らせ
る。シアトルで撮影したNBAの試合の写真やパンフレ
ットなども活用する。
・アメリカの小学生が将来なりたい職業と自分たちが将来
第5時
「将来、何になるの?」
なりたいと思っている職業を比べる。
*アンケート調査結果を資料として比較する。
・スポーツ選手は男子に共通しているが、「獣医」が女子
では第1位だということに驚く。アメリカと日本では小
学生の職業観が違うことに気づく。
― 227 ―
アメリカと日本
6
本時案
(1)本時の目標
食生活を中心としたアメリカの小学生の一側面を知り、自分たちと比較することで、どちらにも
それほど違いがないことに気づく。
(2)展開
児童の活動
○前時を思い出す。
教師の活動
○前時を振り返らせる。
留意点
文房具・教科書など
●アメリカの小学生はどんな食べ物がす
きなのかな?
○ビデオを見る。
○アメリカの小学生の様子を見て感
想を持つ。
○ビデオを見せる。
資料1
・ランチタイムの様子(給食)
・インタビューの様子
○補足説明する。
○簡単な感想を書く。
「考えノート」に書か
○感想を発表する。
○感想を聞く。
せる。
○アンケート結果からアメリカの子
○アンケート結果を知らせる。
資料2
どもたちの好きな食べ物を知る。
・スティーブンソン小学校
・パークサイド小学校
○簡単な感想を書く。
○補足説明する。
○感想を発表する。
○感想を聞く。
「考えノート」に書か
せる。
●アメリカの小学生がよく食べるおやつ
を食べてみよう。
○スナック菓子の実物を見て、同じ
○スナック菓子の実物を見せる。
実物1
○アメリカでも森町でも売っているスナ
比較の観点を教える。
物が森町でも売っていることに気
づく。
○アメリカでも森町でも売っている
ック菓子を食べて比較させる。
スナック菓子を食べて味などを比
・味(甘さなど)
べてみる。
・包装
○気づいたことを書く。
・デザイン
「比較プリント」に書
・値段
かせる。
○気づいたことを発表し、交流する。
◎アメリカの小学生も自分たちとさ
ほど変わりがないことを知る。
グループ活動
○次時の予告をする。
●お菓子以外にアメリカのものは売って
いないのかな?
― 228 ―
教材開発
日本とアメリカの文房具を使い比べてみよう。
デザイン
使いやすさ
アメリカ
日本
アメリカ
日本
えんぴつ
B
B
B
A
黄色で消しゴム付きの事務用
消しゴム
B
B
A
B
ゴム製
マーカーペン
A
B
A
B
水性ペン
ステップラー
B
B
B
A
日本は MAX(ホッチキス)
ボールペン
B
A
A
A
ビック、ゼブラ
メカニカル
ペンシル
A
A
A
A
実は、どちらも日本製
クリップ
B
B
C
C
定
規
B
B
A
A
コンパス
B
B
C
A
はさ み
A
A
A
A
児童用
の
A
A
B
A
スティックのり
チョーク
B
A
A
A
クレヨン
A
A
B
A
ノー ト
A
A
A
A
り
補
足
分度器も比較
クレイヨラ、ぺんてる
使ってみた人の名前
上記の表は、児童がおこなった比較結果を三段階評価にしてまとめたもの。
【授業を終えての考察】
教材として使用した文房具、
アメリカ・・・・小学生が日常的に使用しているものを現地で観察した。
シアトル及びブルーミントン、ノーマルの教材店、スーパーマーケット、事務
用品店などで購入。
日本・・・・・・アメリカの文房具と値段やデザインが似通ったものを文房具店で購入。
授業では、ビデオの映像でアメリカの小学生が鉛筆などを使っている姿を見せてから、児童に「テスタ
ー」になってもらい、「使いやすさ」と「デザイン」の観点で比較させた。児童は、紙に書いたり、切っ
たり、貼ったり、においをかいだりなど、いろいろ使ってみて評価と感想を書いた。意外だったのは、
「に
おい」も重要な評価の要素だったことである。ほとんどの児童がにおいをかいでいた。
この文房具比較の目的は、アメリカと日本の小学生が使う文房具には、デザインなどにそれほど違いは
ないということと、日本の文房具の方が種類がたくさんあって、質が良いことに気づかせることにあった。
児童は、自分が実際に使ってみたので比較的公平な評価をしていた。残念ながら、質についてまではおよ
ばなかった。しかし、目的の前段は達成された。児童は日米の文房具を使ってみることによって、アメリ
カの日常的な一部分を知ることができた。
アメリカの文房具は、通信販売でも入手できるため、教材としての利用価値は高い。この文房具比較は、
どの学年でもできるので、その点において対象は広いと言える。
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アメリカと日本
人気のお菓子を比べよう
アメリカ
スニッカーズ
SNICKKERS
気づいたこと
キットカット
KITKUT
気づいたこと
味
包装のデザイン
甘すぎる。
歯にくっつく。
始めはしょっぱい
日本のものとあま
り変わらない。
裏の説明は、日本
のものより少な
い。
日
味
本
包装のデザイン
甘すぎる。
アメリカのものと
歯にくっつく。
あまり変わらな
始めはしょっぱい い。
甘さがのどにから 裏の説明は、アメ
む。
リカのものより多
い。
全体的に、アメリカのスニッカーズの方がおいしいという感想が多かった。
味や包装にあまり違いがないことには気が付いた。
アメリカの方が、裏の説明が詳しいことに注目した児童もいた。
バ ナ ナ の 味 が す キットカットの文
る。
字が違う。
おいしい。
銀紙で包んでい
る。
かっこいい。
美味。
甘すぎる。
さびしい
かわいくない。
味については、日本の方がおいしいという児童が多かった。スニッカーズとち
がって、半数近くの子が味の違いに気が付いた。
包装については、アメリカの方がいいという児童が多かった。
食べ比べてみた人の名前
上記の表は、授業で使用したプリントの様式に、児童の書いたことを集約したもの。
【授業を終えての考察】
本時も前時と同様に「本物」を使った授業をおこなった。導入段階でのパークサイド小学校4年生のイ
ンタビュー映像は、同じ学年だということもあり、児童にとって興味深いものだったらしい。ずっと同じ
顔ぶれで生活してきているので、たとえ映像でも担任がインタビューしていることでテレビとは違った現
実感を持ったようだ。
スニッカーズとキットカットを食べ比べてみたのだが、スニッカーズを知っている児童はいなかったの
で身近なものにはならなかった。しかし、キットカットの方は知名度は100パーセントで、人気も高か
ったため、比較にこだわりを見せていた。子どもの味覚、臭覚はなかなか鋭く、微妙な味の違い、香りの
違いをも識別していた。(喫煙者の私には無理?)また、成分表に着目した児童もいたが、残念ながら英
語が読めないので、内容はわからずじまいになったしまった。
本物ではなく写真を使って比較させた場合、味覚と嗅覚を使えないので、おそらく形式的で平板なもの
になると思われる。せいぜい包装デザインの違いぐらいしか出てこないだろう。
今回の授業で、子どもには五感を使わせると思いもかけない効果が現れることが実証された。
アメリカのスナック菓子は、日本でも手に入れることができるので、米国理解の教材としては有効であ
る。観点を変えて中学生でおこなってみてもおもしろいだろう。英語が読めたり、辞書で調べたりできる
ぶん、多様な見方ができるはずである。
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