パネルディスカッション 「エリアマネジメントを広げる・深める

パネルディスカッション
「エリアマネジメントを広げる・深める-官と民の役割-」
テーマ1 エリアマネジメントの取組み状況と課題
「エリアマネジメントの現状と課題
ある地方都市の事例」和歌山大学
経済学部
教授
あだちもと
足立基
ひろ
浩
これから一時間半のパネルディスカッションの議論は、20分ごとに3つの大きなテーマで進めま
す。まずは私から、エリマネとは何かを確認したあと、自己紹介を兼ねて私が和歌山で行っている
取組をお話しします。
エリマネとは、一言で申し上げると、民間が中心となって公的なまちづくり、地域の活性化、防
災活動様々な活動を行っていこうというものです。イギリスでは、キャメロン政権で始まった市民
が力をつけるという発想である「ビックソサエティー」というとりくみの下、エリアマネジメント
的なまちづくりが行われています。エリアマネジメントの活動は、ルール、イベント、情報発信、
防災活動、公共施設管理、民間施設活用などがあります。財政が厳しい中で、このような本来行政
職員が行ってきたことを民が行うようになってきています。また市民が力をつけてきており、地域
をローカルに盛り上げ、その先にグローバルな世界があるという話になってきています。
和歌山市では、これまで10数年の活動の中で、特に民間と行政とのコラボレーションにより、中
心市街地の活性化事業として、野外アートプロジェクトを使われなくなったメイン通りで行ったり、
空きビル事業、学生のカフェ事業、学生のたまり場作り、家守などいろいろな活動を行ったりして
います。しかし、実は頑張っているのですが、通行量や居住人口推移の数値の目標達成はたいへん
厳しく、むしろ増加目標に反して減少するなど、活動の成果は数字になかなかあらわれないという
問題があります。和歌山市では10年間で80%地価が減少しています。これを地域の力でどう盛
り上げるかということで、学生たちが商店街を舞台にお年寄りの結婚式を企画したりしています。
こういった学生等が中心となった民の活動も立派なエリアマネジメントだと考えています。
「梅田地区エリアマネジメントの取組みについて –都市マネジメント時代の「民」が担う「公」の
うえまつひろゆき
ありかた-」梅田地区エリアマネジメント実践連絡会 植松宏之 事務局長
梅田地区エリアマネジメント実践連絡会は、大阪駅周辺地域の約 100ha(1Km )にて活動をして
おります。梅田地区の特徴ですが、毎日の乗降者数が約 250 万人となる西日本最大のターミナルで
あること、昨年春にグランフロント大阪が開業し、新宿を上回る国内屈指の商業集積地区であるこ
と、更に国から特定都市再生緊急整備地域に指定されており、国の国際競争力を発揮するエリアで
あることです。
実践連絡会の設立の背景ですが、従来は個別の開発により、都市機能の充実や歩行者動線の円滑
化を実現、都市再生プロジェクトを契機に、関係者が連携して梅田地区全体の魅力向上に取り組む
といったことから、地域活動連携のプラットホームになるために、実践連絡会を 2009 年 11 月に組
成されました。
我々の活動コンセプトは、「梅田でつながる。梅田がつながる。」~梅田コネクト~、3 つのコン
セプト、8 つの活動戦略、28 の具体活動のもとで、4 社が 30 名の人員で活動に取り組んでおります。
実践連絡会の組織体制ですが、並列的な組織として、毎年輪番制としております。事務局の下に
4 つのワーキングを組成しており、設立以来賑わい・情報発信を中心とした活動に取り組んでおり
ます。
実践連絡会の設立から、今年で 5 回目となる「梅田スノーマンフェスティバル」を行っています。
本イベントは、梅田地区の賑わいづくりを目指して取り組んでおります。活動の基本方針は、
「地域
連携の強化」「情報発信の強化」「公共空間活用の拡充」です。このイベントには、実践連絡会に加
え、大阪地下街等も参加いただいております。特に大阪市のご支援をいただいていることが道路使
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用許可などの手続きに推進力を与えて頂いております。スノーマンフェスティバルは、6 つのコン
テンツから構成されております。
また、
「クリーンアップ」など公益性の高い活動にも取り組んでおります。公共施設である「うめ
きた広場」でイベント参加者が集ったフィナーレも行っていますし、茶屋町の車道にレッドカーペ
ットを敷いて取り組んだ地域イベントも行っています。夏のエリアイベント「梅田ゆかた祭」も開
催しています。日本が世界に誇る文化と「打ち水」というエコ活動をテーマに開催しております。
また、「うめきた広場」に盆踊りの櫓を設置し、2 日間で 5500 人の参加がありました。
次は、グランフロント大阪が取り組むエリアマネジメント活動をご紹介します。昨年春開業の 1
年前に、グランフロント大阪の価値向上及び梅田地区全体の持続的な発展を考え設立したのが、一
般社団法人グランフロント大阪 TMO です。現在、12 名の人員で、事業に取り組んでおります。特に
全国から注目されております特例道路占用施設についてご紹介します。この占用主体として、TMO
が道路占用の諸手続きを行っております。オープンカフェが4店舗あり、歩道で「広告板・バナー
広告」を設置しています。TMO では、交通マネジメント事業にも取り組んでおります。梅田エリア
を 30 分、100 円で巡回するバス「うめぐるバス」、24 時間利用できるレンタサイクルなどです。
最後に現在 TMO が取り組んでいる先導的な取り組みをご紹介します。今年 4 月に施行されました
大阪版 BID 制度と呼ばれている「大阪市まちづくり活動促進条例」であります。7 月 29 日に都市再
生推進法人の指定を受け、来年 4 月の制度の適用が始まります。もう一つは、国家戦略特区区域会
議に TMO が提出した計画が区域計画素案として取り上げられております。今年度中に、道路空間を
活用して、国際的拠点の形成に向けたまちの集客力を強化する取り組みを実施する予定です。
よ し い しげひと
「長浜のまちづくり」 長浜まちづくり株式会社 吉井茂人 コーディネーター
長浜は30年にわたって小さな事業を積み上げて今日に至っています。毎年200万人のお客さ
んに来ていただいています。北陸、中部、関西圏の中心にあるうえ、駅から非常に近いという立地
条件と、まちが絶えず変化していることがその理由だと考えています。黒壁の周辺はたくさんの人
に来ていただいていますが、商店街も環境整備を行うことにより面的な広がりが生まれたことが賑
わい創出に繋がっています。長浜ではハード・ソフト両面の取り組みを今でも継続しています。着
物の女性が最盛時には2000人集まる着物園遊会や、アーティストを招き芸術版楽市楽座等のイベン
トを行っています。参加した創作活動をされている方がまちの活動に参加する等の効果が出ていま
す。黒壁を再生し、その立地する四つ角は、現在のようになりました。大手門通りという商店街が
現在ではきれいに修復されました。また、表参道商店街から山門が見渡せるような景観を駅前通り
から作る事業が行われました。さらに、まちづくり三法のTMOの第1号となり、70mアーケード取っ
払い開放的な商店街にするとともに、お年寄りが集えるように中心部アーケードの一部改修などを
おこなってきました。中心部の西友の郊外移転の跡地に、曳山祭りの博物館が平成12年にオープ
ンしています。
長浜のまちづくりには3つの流れがあります。ひとつは商店街・市・商工会議所が一体となって
大型店の郊外出店に伴いどうしたらいいかを議論し、プランを練って事業を行ってきました。長浜
は大きな時代の流れや法改正に合わせて、昔から専門家の先生にアドバイスをいただきつつ真面目
にプランを策定して事業を行ってきており、今でも変わっておらず特色となっています。また、2
1市民会議で議論し、JR直流化、大学誘致、ドーム球場建設などを行ってまいりました。そして、
黒壁のダイナミックな事業展開で都市活性化を図ってまいりました。
か
な こういち
大阪市立大学 工学院工学研究科 嘉名光市 准教授
私は大阪版BIDのお話をさせていただきたいと思います。大阪市のエリアマネジメント活動促進条
例が今年3月に成立しました。私は、これを検討会で小林先生らと共に検討してまいりました。海外
のBIDを日本でやろうというときに、いくつかの課題・論点があります。たとえば、BID団体の位置
付けとして、アメリカでは特別地方公共団体というべき位置づけ(準政府ともいわれる)を付与さ
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れており公物管理ができますが、日本の場合はそのあたりが明確ではありません。BIDでやれる事業
については日本とほぼ同じですが、アメリカではBID税が取れる等、日本とは制度設計上の違いがあ
ります。また、ニューヨークのタイムズスクエア、ブライトパークなどの研究をしている中で、元々
BID団体は清掃や防犯といった取組みを行っていましたが、近年は都市空間を変えるという方向に海
外でも変化しているということが明らかになりました。
大阪版BID条例は、都市再生特別措置法と、都市計画法と、地方自治法という3つの法律をまたぐ
難しい条例となっています。例えば、地方自治法で定められた分担金という方法で大阪市が資金を
集めて、エリアマネジメント団体に資金を交付し、エリアマネジメント団体は都市再生特別措置法
で位置づけられる都市再生推進法人として事業を行うことになっています。大阪にはこうしたまち
づくり団体は多くありまして、グランフロント大阪やOBP、西梅田のような再開発を中心にした
もの、御堂筋のような既成市街地を中心としたもの、大阪城や天王寺公園のような公園を中心とし
たPMO型、水辺空間活用型等も増えてきて、これからそれらに対応したBIDやエリアマネジメントの
仕組みを考えていくのが大阪の課題であると考えています。
み た ら い じゅん
「エリアマネジメントの取組み状況と課題」京都大学経営管理大学院 特定教授 御手洗 潤
私は、都市再生の視点から、エリアマネジメントに何が期待されるかについて、及びエリアマネ
ジメント活動の中身の分類についてお話したいと思います。
まず、エリアマネジメントへの期待です。「公共的な機能・サービスを自治体が維持・提供をす
る余裕が無くなっている中でそれを補完する」、「従来は地域の担っていた公と私の中間領域を補
完する」、「民が収益事業も行えるため提供コストの最小化が図れる」、「地域の声やニーズに対
応したサービスを提供出来る、それによって地域の個性が発揮できる、その結果地域間競争の生き
残りが出来る」、「より狭い範囲で最適な水準・内容でのサービス提供が決定できる」、「コミュ
ニティ・ネットワークの再生・形成などの社会関係資本であること」などが期待されています。結
局のところ、地域力の向上や活性化が期待されていると考えます。
エリアマネジメントの主な活動として、地区のビジョン・ルールの策定、公共施設の整備管理、
清掃・防犯、情報発信、駐車場や空き店舗活動・エネルギーなどのハード関係、イベントなどがあ
ります。こうした活動を、縦軸に収益、横軸に公益をとって分類してみました。すると、「例えば
防災・防犯は公益性が高く収益性が小さい」、「地域のビジョン等は収益性が低く公益性はそれな
りにはあるが地域内に留まるので真ん中くらい」、「広告事業等は民間事業にかなり近いので収益
性が高く公益性は低い」、「イベントは収益性が高く公益性が低いものからその逆までいろいろあ
る」、「会員向け事業等もある」、などそれぞれの活動が様々な場所に分類できます。これらにつ
いて、収益性から見れば、収入>支出の「収益事業」、収益はあるが少ない・セールス効果ありなど
の「収益・支出事業」、収入<支出の「支出事業」に分けることが出来ると思います。また、公益性
から見ると、公益性とは何かという議論はあると思いますが、「民間事業・会員向け事業」、「地
域の共益事業」、組織外の人にも効果がある「公益事業」に分類できると思います。
テーマ2 エリアマネジメントの収支
足立:次に、私の一番関心のあるテーマである、エリアマネジメントにおけるお金・収支について
議論したいと思います。私も、商店街の活性化や地権者の意識改革を促すために学生のレストラ
ンをやっていますが、たいしたお金ではありませんがそれでもそれなりのお金がかかってしまい
ます。
まず始めに、BIDとは、アメリカでは税としてみんなから集めたお金を地域のために使う制度
ですが、大阪では分担金等少し違う形をとっています。嘉名先生、BIDについて、大阪では収支
はうまくいきそうでしょうか?
嘉名:うまくいくと信じています(笑)。アメリカのBIDでは、財産税に上乗せして課税するという方
法がよく知られていますが、詳しく聞いてみると、BID毎に異なります。例えばほとんど会費の
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ような団体あたりいくらというところもあります。しかし基本的には、BIDが行う事業と関連付
けて、例えばお祭りや警備は一人当たりの額を決める等して集金を行っています。大阪BID条例
においても、お金の集め方は地区毎に考えていこうという制度になっています。例えば不動産価
値を高めて行く事業であれば固定資産税に連動させ負担をして頂くというやり方が考えられま
す。例えば、福岡のwe love 天神はそれに近い形をとっています。このように、場所にフィット
する形で、地域の方が合意できるような制度を目指しています。
足立:払いたくないという人が出た場合はどうするのですか。
嘉名:ニューヨークのBID団体の方がおっしゃるのは、たとえ歪な形になったとしてもスモールイズ
ベストで100%合意できるものからはじめ、そこで成果をみせることで、周りの人も一緒にやりた
いとなることが重要だそうです。このやり方で、ニューヨークでもエクステンションと呼ばれる
がBIDの形がどんどん変わってきており、現在では、団体の形は歪ですが都心はBIDでほぼ覆われ
ています。このように、スタートラインとしては100%合意から始め、事業も範囲も徐々に拡げて
いき、その都度負担金のあり方を考えるというやり方が良いと思います。
足立:形が歪になってもやりたいという人からお金を集めてやっていくということですね。
続いて、長浜は全国的にもとても元気になった街ですが、民が主導でどうやってお金を集めたので
しょうか。レトロな街並み形成の資金はどうしたのでしょうか。お金の面での工夫はありますか。
吉井:商店街でのお金の集め方と、第3セクターの黒壁ガラス館等の会社で行う方法と二種類あり
ます。例えば黒壁は、不動産業者が買収してしまった建物をなんとかしなければということで、
8人で9000万集めて始めました。そのあと、市の4000万を合わせ会社が設立されました。他にも、
重要な不動産が競売にかかった際に16人で500万ずつ出資して8000万円の会社を作った例があ
ります。つまり必要に応じて皆様からお金を出していただいています。長浜まちづくり会社も、
重要な不動産が売りに出された場合に、自己資金だけで買える額として7200万円集めて会社を設
立しました。曳山博物館通りの事業についても、まず理事長候補者が100万円出したうえで、振
興組合に1000万円出資金を募りました。これが長浜という地域の性格であると思います。
足立:一人1000万円は寄付ですか? 配当はありますか?
吉井:会社への出資ですが、寄付みたいなものです。1社だけ配当していますが、あとは無配当で
す。
足立:そのメンバーの方はそれだけ町に愛着があるということでしょうか。
吉井:誇りあるまちづくりのためにという気持ちが強いです。
足立:すごいですね。続いて、植松さん、梅田でも相当お金かかると思いますが、どうなっている
のでしょうか。
植松:梅田地区でも財政については悩んでいます。実践連絡会はさまざまな活動をやっていますが、
財政については、4社の会費が7割程度で、3割程度がパンフレットを作った際の協賛金となっ
ています。一方で9割がイベント・プロモーションに支出されています。環境・美化などにもと
りくみたいのですが、まだ5年目でそこまで至ってございません。もっとその割合を高めていき
たいと思っています。参考までに、まちづくりサロンの資料によりますと、東京の都心拠点10地
区の収入は、5割程度は会費・寄付・協賛金となっていて、その他事業収入や補助金などです。
一方支出の約6割がイベント・プロモーションであり、その他は事務局費用等となっています。
名古屋駅前のまちづくり協議会の方との議論のなかでヒントをいただいて、収益と公益の軸で
活動を分類しました。私的な活動部分は自分たちのお金で賄うのは当たり前ですが、公益的活動
にも自分たちのお金を使っています。しかし、財源が限られているので、大きなものをやるのは
戸惑いがあります。補助金ばかりに頼るのではなく、規制緩和による財源確保が望まれます。財
源の確保のための規制緩和として、公共空間の使用・占用(国家戦略特区等を使えばできるが時
間がかかる)や、東京都のしゃれた街なみづくり条例のような公開空地での飲食・物販による収
益の確保、都市再生推進法人に対する屋外広告物条例の緩和が挙げられます。また、法・条例制
度の見直しとして、大阪市から国に要望していますが、都市再生推進法に対する公益法人並みの
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税制優遇(収益に対する法人税課税)、公物管理に限られている大阪版BID条例の交付金使用用
途の緩和が必要です。また、BID税に関連して、建物の都市計画税が大阪市内で300億円ぐらいあ
り、そのうち梅田周辺の建物だけで9億円、市全体の約3%となっています。都市計画税は目的
税ですので、都心の再生のために税金を払っていただくような仕組みが考えられるのではないで
しょうか。
足立:法的な支援が必要との話がありましたが、行政に携わった立場から、今の点御手洗さんどう
でしょうか?
御手洗:植松さんの支援の話もふまえ、どういう活動についてどういう財源でやるべきか、どうい
う支援を受けるべきかを整理する必要があると思います。まずは、エリアマネジメント団体の活
動範囲について、会員向けの収益性の低い共益事業だけではなく、公益性の高い活動に拡大する
ことが必要だと思います。さらに、収益性の高い民間事業について、収益を配当せずに公益性の
高いところに収益を持っていくことが必要です。また、収益性が高い公益的な事業の拡大充実が
必要で、そのための収益改善が求められます。そして、最も重要なのが、収益性の低い公益事業
です。規制緩和によって収益性を改善したり、外部からの支援や収益を他の領域の事業からお金
を持ってくることを容易にするための工夫を考えたりする必要があると考えています。その方法
として、税があり、また参加を促す方策(BIDもその一つと思います。)を活動の性格を見つつ
考えていく必要があると思います。このように、制度論の議論の際には、どこの部分についてな
のかを念頭に考えていく必要があると思います。
テーマ3 エリアマネジメントの公共性・公益性
足立:次は、公益性とはなんなのかについて議論したいとおもいます。例えば、商店街の賑わいっ
て公共性なのかという質問を学生から受けます。私も悩んでいますが、何かいったい公共性なの
でしょうか。公益性が高いなら補助金があるべきと考えることもあります。御手洗さん、一言で
いうと公益性とは何でしょうか?
御手洗:一言で言うと、経済学的に言えば外部性であると考えています。エリアマネジメントは一
部の人がやらざるを得ませんが、その効果には、エリア内の他の人に効果が及ぶ外部性と、域外
に及ぶスピルオーバー効果があるのではないかと考えています。
足立:経済学でいう外へのプラスの効果、外部性ということですね。
ところで、梅田は非常に活気があると思いますが、植松さん、あれは公益性でしょうか。
植松:公益性と我々は考えています。資産の価値を上げたいという部分もありますが、エリアマネ
ジメントはどこまでか切れないものだと思っています。梅田では、さきほど天河課長から説明の
あった事業のうち、都市再生安全確保推進事業、国際的ビジネス環境等改善・シティーセールス
支援事業、民間まちづくり活動促進事業の3つを利用しています。公益性が高いからこそ、国の
補助を頂戴できていると思っています。
足立:商店街の活性化のための経産省の補助金事業がありましたが、2年前に仕分けでなくなりま
した。このような状況を見ると、補助金でどこまでやるべきか、公益性ついて悩むところなので
すが、吉井さん、長浜ではいかがでしょうか?
吉井:長浜では、当初は県・市・地元負担で事業をやってきましたが、平成9年以降国の支援をい
ただきながら、活動を行っています。一方で地元資本だけでやっている部分もあります。国の支
援を受けることは、同時多発的に複数の事業にチャレンジできるというメリットがあります。そ
の効果で街がよくなり人が増えることによって、他のビジネスチャンスも生じて、ほかの人たち
も自己投資をまちの中で始めるという、いい関係の経済循環をもたらすことができます。さらに、
自治会の出資会社などいろいろな人の投資が集まり、遊休不動産がお金を生むように変化するな
ど、よい経済効果があります。
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足立:和歌山県では、所有者不明の古い建物について、火事・地震の際に危ないことから撤去でき
るという条例ができました。このように、個人所有の家は、個人の財産であると同時に、公的な
面を持つという議論があります。長浜では、例えばまちの景観整備の際に個人の建物を修景する
ときに、補助金は出でましたか?
吉井:修復再生型のまちづくりを進めてきた理由は、ローコストですぐにアクションを起こせる事
業として木造家屋等の地域資源を活かしたまちなみの再生を目指したこと、及びまちなみの統一
と景観整備によって都市魅力を高めていこうというものでありました。今でも、木造住宅を改修
してシェアハウスとするまちづくり会社の事業等、いいものを活用し、景観を大事するという考
え方がずっと息づいています。
足立:それは行政のサポートも得ながらということですね。私の知っている例では、景観・街並み
には公共性があるということで個人財産である建物の修繕費について補助金が出来るケースが、
徳島県美馬市、大分県豊後高田市などでみられます。このように、いろいろな公共性の捉え方が
あると思います。
吉井:昭和62年からまちなかのファサード整備に市が単独で200万円を上限に1/2の補助をおこな
ってきました。今は、民都機構から住民参加型まちづくりファンドの支援を受け、継続していま
す。
足立: BIDでの資金徴収の考え方には、公益性でもありながら、一方で自分たちがメリットを受け
るから自分たちでお金を払うというようなマーケットの論理があると思いますが、嘉名先生、大
阪ではそういった議論はなかったのでしょうか。
嘉名:御手洗さんの分類スライドの4象限で、道路空間の活用、オープンカフェなどは収益が高い
事業に分類されますが、実際にはなかなか儲かりません。儲かるようにするにはどうしたらいい
かということが課題になっています。また、収益性の低い公益事業と収益性の高い民間事業・公
益事業を分けて考えることが難しいケースがあります。例えば、新宿の事例では、オープンカフ
ェ事業による賑わい創出と不法駐輪対策という、収益性の高い民間事業と収益性の低い公益事業
がうまく組み合わさってできています。広島の水辺のオープンカフェも同様です。このようにパ
ッケージで絡まりあうことにエリアマネジメント主体が運営する意義があります。
また、収益性の高い民間事業や収益性の低い公益事業の位置付けが難しいという話ですが、例
えば、プロモーション・イベントは、大阪BID条例では今のところ対象に入れることが難しいと
されています。しかし、従来、にぎわい創出は民間がやることといわれていましたが、現在、日
本中の中心市街地活性化ではにぎわい創出が極めて重要な公共性の高いミッションになってき
ています。このように、従来公共性がないといわれていた事業にも公共性を見出していくという
意味で、御手洗さんの4象限の図の公益性の軸を少し左にずらしていくという発想が、現場を見
ていると必要と考えます。
足立:この点、御手洗さんいかがですか?
御手洗:図では単純化していますが、実態はそんなに上手くいかないと思いますので、組み合わせ
は大事だと考えています。公益性の軸については、基準は一言でいえば外部性といいましたが、
もう少し詳しくみる必要があると思います。具体的には、公共財の性質を持っているのか、すな
わち非排除性と非競合性を持っているかどうかを見ていく必要があると考えています。エリアマ
ネジメントの効果は、多くの場合エリア内の会員以外の人への外部効果を有していると思います。
例えば賑わいが増して集客が増えれば、会員以外にも効果は得られると思います。そこで、外部
性だけでなく、フリーライダー(エリアマネジメントの会費を払っている以外の方)についても
併せて議論すべきだと思います。例えば、景観であれば、フリーライダーは排除できないし、あ
る人が美しさを享受しても別の人が景観を見られなくなるわけではないので競合性がないと思
います。集客だと、フリーライダーの排除はできないと思うのですが、集客によりある人の利益・
売上が増えると別の人が減ることがあるので競合性はあるのではないかと思います。このように、
排除性と競合性を詳しく見ていくとことが、公共による支援を考える際に大事だと思います。こ
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の点、国交省と一緒に行うエリアマネジメント活動や効果に対するアンケートによって、より明
らかにできればと考えています。
足立:フリーライダーはなかなか排除しにくいにですが、公共性の議論の中では必ず出てくる問題
だと思います。ちなみに私も、商店街で学生が活性化のための活動をしていた際、そのせいで他
の店の売り上げが落ちるといって、かつて怒られたことがあります。我々はよかれと思ってやっ
ているのに、なかなか難しいと思いました。
テーマ4 エリアマネジメントを広げる
足立:つづいて、最後のテーマである、エリアマネジメントを広めるというテーマに移りたいと思
います。人口減少下でこのような民が中心にがんばる活動を全国的に広めていくことが重要です
が、仲間集めをいかに行っていけばいいのでしょうか。我々の学生の活動でもなかなかメンバー
が集まらないといった問題があります。これは、持続可能なエリアマネジメント活動を考えるこ
とでもあります。植松さん、梅田の活動の広がり・展開はいかがでしょうか。
植松:実践連絡会では、全国や関西の様々なエリアマネジメント団体と情報交換・情報共有して、
レベルアップし、発信していこうとしています。しかし、道路などの公共空間の利用に際し、国
家戦略特区等もありますが、新たな公共としての位置づけは実態としては得づらいという状況も
あります。都市再生推進法人制度も、国交省から見れば公的位置づけとなっていますが、他省か
ら見れば違うようにも見えます。新たな公の認定の強化が必要と思います。
また、梅田では郵政二期の建替えや地下街もあります。そして、シティーセールス、環境・防
災等さらに活動範囲も拡大していくには、実践連絡会の法人化等により各団体が連携強化して梅
田をバリューアップしていく必要があります。その際には、例えば都市計画税など財源の問題へ
の対処が重要と思っています。
足立:梅田地区エリアマネジメント実践連絡会は、かなり大きな組織ですが、どれくらいの頻度で
集まっていますか。また、給与などはどうなっていますか?
植松:いろいろなワーキンググループ等があり、手弁当でほぼ毎日集まっております。盆踊り、卓
球大会等様々なイベントがありますし、4社の社員が本業との兼務という形で給与等は発生しな
い形で集まっています
足立:エリアマネジメントを広げる際の一つのキーワードにもなってきますが、集まってエリマネ
活動をすることは、イベント等もありますし、夢があって「楽しい」とお感じですか?
植松:仕事はきついですが、関西をリードして国際的都市をつくるという4社の使命感のもとに活
動しています。
足立:このような活動を広げるという点で、吉井さんいかがでしょうか?
吉井;経産省のまちづくりプロジェクトにより毎年研修生を長浜まちづくり会社で(去年であれば
1週間)受け入れています。そのような人が全国でまちづくりの先進事例を研修し、それをそれ
ぞれの地元に持ち帰ってアクションを起こしてもらえると、うまくいくのではないかと思います。
長浜は、地方都市の実験と呼んでいて、大きなお金を使わずとも、ずっと小さい活動を行ってい
けば何十年後にこうなるという事例として参考にされています。このように、簡単に取り組むこ
とができる事例として、トップダウンではなく皆が喜んで仕事してもらえればいいと思います。
その時、家族とともに住めるいい街をつくっていこうとトータルで皆で考えていけば(例えば職
場や子育て施設等が思いつくと思いますが)、上手くいくのではないかと思います。まちづくり
で大切なことは、人的ネットワークの構築と信頼関係だと思われます。
足立:商店街振興組合等様々な活動の中では、手弁当等によるボランティア的な活動が多いと感じ
ていますが、ある人がずっとやらねばならず、後を継ぐ人がいないという課題も起きていていま
す。長浜では、組織の中での疲弊や悩みはありますか。
吉井:長浜で活動を起こしてきたメンバーは現在還暦をすぎており、今一番の悩みは30歳前後の
人の顔が見えてこないことが長浜の課題です。昨年、20代の5人にお金がいくらかかってもい
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いのでと呼びかけて、ハロウィンのイベントの企画から実施・占用許可まで全てを初めて担って
いただきました。これは、まちづくりへの思いをもってどうしたら街がよくなるかを考えてくれ
る長浜が好きな人間をいかに仲間に入れていくか、という課題があるためです。
足立:次の世代を巻き込むことがヒントになって、エリアマネジメントが広がっていくのではない
かと思います。嘉名先生、同じ質問ですが、いかがでしょうか?
嘉名:御堂筋では、緩速車道の歩行者空間化やデザインストリート等と呼ばれる賑わいのまちづく
り(一階部分の賑わい施設化、グレードの高い景観形成等)を進めています。これをできればエ
リアマネジメントで実現していきたいと考えています。また、民間の方々により、難波駅前の広
場空間化、水辺空間の利活用等のアイデアも出てきています。こういうことを行おうとすると公
物管理の問題が出てきます。河川空間や道路の規制緩和は進んできていますが、それでも警察協
議等がありまして、理想的な広場空間の公物管理についてはもう少し考えなければならなくなっ
ています。例えば富山で、条例で公物管理ルールを作っている等の例もあり、にぎわい型の公共
施設の公物管理について考えていく必要があると思います。都市空間の再編成、すなわち車が主
役の空間を人を主役とする空間に変えていくヒューマニゼーションが、今後、大阪だけではなく
あらゆる町で求められてきます。新しい時代に併せて都市を変えていくタイミングで、活用でき
そうな資源(公共空間、古い建物、活用されていない水辺など)を活用させることや活用のイン
センティブを与えることが、エリアマネジメント活動を広げていくためのフォローウインド乃至
マグネットのような存在になると思います。実際に人々がまとまっていく過程を見ても、例えば
あそこを歩行者広場化したい等の思いから、賛同が広がってきています。
足立:例えば高知市ではたくさんの人が訪れる非常に素晴らしい朝市がありますが、地方都市の道
路を朝市で利用することが増えていると思います。嘉名先生、BIDは今大阪で先駆け的に行われ
ていますが、全国に広まるのでしょうか。
嘉名:景観法が10年前にできましたが、これに典型的に見られるように、国の法制定前にいろん
な自治体が独自にルールを策定していく中で、新しいスタンダードができたということで国が法
律を制定するということがあります。すなわち、BIDの定着には地方自治体の動きが重要だと
思います。新しい価値を提示しそれが全国的に広がると、国も認知して制度化することがあると
思うので、BIDについても、ぜひ全国的に自治体の皆様に条例化していただきたいです。私もお
手伝いします。
足立:ありがとうございました。御手洗先生、エリアマネジメントを広げるというテーマで一言お
願いします。
御手洗:エリアマネジメントを広げていくことは重要ですが、そのためには認知度を高めることが
非常に重要だと思います。エリアマネジメント団体間のネットワークを広げることや、全くエリ
マネをやっていないところに広げることが求められると思います。そのためには、エリアマネジ
メントという言葉を広げることも重要です。このシンポジウムを開催したのもそのためですが、
このようなシンポジウムを今後ともあちこちで開催することや、リレーイベントを行うことなど
も考えられます。また、どういう効果があるのかを見える化していくことが重要です。
人の巻き込みという観点では、自分が大学にいて思うのですが、若い人の中には社会性のある
活動を行いたい人が多いと思うので、学生等がこのような活動に参加することが大事です。また、
外の人が活動に入ることは重要と考えますが、卒業後の学生等の外部者が入ろうとすると若干の
お金が必要で、エリアマネジメント団体に収益性がないと受け入れられないという問題もあると
思います。そこを改善することで活動が円滑に進むことがあるのではないでしょうか。
足立:最近、若者のまちづくりへの参加が増え、また学生の地元志向が強まってきていると感じま
す。しかしながら地元で職がない中、まちづくりやエリアマネジメント活動を地元で行いたいと
いう人が増えている気がします。また、自営業の方などが、地域の活性化に不安を持ち、商工会
議所や既存組織以外の組織でアクションを起こすことも増えてきています。このような流れが、
エリアマネジメントの全国的な広がりにつながると思います。
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私が地域の再生や街づくりの活動に関して様々な人と接すると、まちづくりは、何をやってい
いのか「わからない」、「まとまらない」、地域だけの「エゴになる」とよく言われます。こう
いった課題に対して、エリアマネジメントが答えになるのではないでしょうか。具体的には、こ
のような活動はまず勉強会から始まり、お金とか持続性等様々な課題が出てきます。宮崎市では
高校生を中心としたエリアマネジメントを行っています。まずこうした勉強会でそういった事例
を学ぶということが有効だと思います。
これからは財政難などを背景に、民の時代がやってくると思います。そこで重要になるのは、
「楽しい」ということであると思います。誰かにやらされると必ず潰れます。従って、きちんと
したルールをつくり、一人に依存せず、役割を分担することが重要です。持続可能なエリアマネ
ジメントのために、楽しく活動し、次に来たくなるという組織づくりができれば、エリアマネジ
メントは全国に爆発的に普及していくのではないでしょうか。
今日は本当にありがとうございました。
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