スライムとゴムの性質

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スライムとゴムの性質
2005.6.25 葛生 伸
”不思議なふうせんとスライム”のコーナーに来ていただきましてありがとうご
ざいます。実演しましたスライムと風船をつかった実験に方法についての説明し
ます。
1. ペンシルバルーンと熱の性質
スライムやゴムは高分子からできています。高分子というのは原子がひものよ
うに長くつらなったものです。鎖のようにつながっているので,高分子鎖ともよ
ばれます。ゴムは高分子が図 1 のよ
うに網目状につながったものです。
ゴムに重りをつけて伸ばしておい
たものにお湯をかけると縮みます。
高分子鎖は人間の目や顕微鏡では見
えないくらい小さなものです。これ
図 1 ゴムの網目構造
が激しく暴れまわっています。温度
が高くなるほど,激しく暴れまわり
ます。高分子の運動が激しくなると
高分子鎖の両端は縮もうとします。
手をつないだ幼稚園児の両端に先生
図 2 手をつないで暴れまわる子ども
がいるとしましょう(図 2)。子どもが
手をつないだまま暴れると先生は中
の方に引っぱられるでしょう小さな
あばれんぼうの動きを実感するため
には,ブラスチックの鎖を 1m 位に
切って,机の上に鎖を引き延ばして
図 3プラスティックの鎖の端を振り回すと縮む
片端を鎖と垂直な方向に揺さぶって
みましょう。鎖が縮むことがわかります(図 3)。高分子という小さなあばれんぼう
も温度が高くなるとより激しく運動するようになり,両端を引っ張る力が強くな
ります。そのため,重りをつるしたゴムは縮むのです。このとき,小さなあばれ
んぼうたちは,重りを持ち上げるという仕事をします。
ゴムは激しく動き回っています。暴れまわっている高分子鎖は,運動エネルギ
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ーとよばれるエネルギーを持っています。高分子鎖に限らず分子の持っている運
動エネルギーは温度に比例します。力をかけてものを動かしたとき,力の大きさ
と動いた距離をかけたものを仕事といいます。仕事はエネルギーに変わることが
できます。ゴムを引っ張ったときゴムは手によって仕事をされます。ゴムを急に
引っ張るとこの手のした仕事が高分子鎖の運動に変わります。運動の激しさで温
度がきまるので,温度が上がります。ゴムを引っ張る実験のときには,できるだ
け急激に引っ張ることが必要です。ゆっくりの引っ張ると周りとの温度が同じに
なろうとするはたらきがあるために,
温度があまり上がらなくなります。
これは,
動き回っているゴムの中の高分子が周りの空気の分子とぶつかって運動のエネル
ギーを伝えることにより周りの温度に近づくためです。ゴムを引き伸ばしておい
て急に縮めると,ゴムは外に対して仕事をすることになります。外に仕事をした
分,高分子鎖の運動のエネルギーは小さくなります。そのためにゴム温度が下が
ります。
このように巨視的な仕事をゴムの分子の運動という非常に小さなあばれんぼう
の運動に変えたり,
熱を巨視的な仕事に変えたりすることができるということを,
ゴム風船で体験することができます。
2. スライムと高分子の性質
スライムもゴムと同じように,高分子からできています。高分子は身の回りに
ある繊維,プラスティック,食料品など私たちの生活になくてはならないもので
す。高分子は原子が細長く連なって鎖のようにつながったもので,ゴムはこの鎖
が網目状につながったものだということを先にお話しました。洗濯のりに使われ
るポリビニルアルコールも高分子の一種
です。ポリビニルアルコールは一本の紐
のような分子です。これにほう砂を加え
ると,一部がゴムの網目のようにつなが
ります(図 4)。そうするとかたくなります。
高分子が水を含んで網目状につながった
ものをゲルといいます。お菓子のゼリー
もゲルの一種です。スライムはゴムのよ
うに網の目のようにつながっていますが, 図 4 スライムの中では高分子の鎖がくっ
そのつながりはきわめて弱く,力が働く
ついたり離れたりする。
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とすぐに切れてしまいます。しかしなが
からみあい
ら,放っておくとまた分子が網目をつく
ります。したがって,スライムはゆっく
り流すと水あめのように流れますが,机
にたたきつけると切れるひまがなく,ゴ
ムのようにふるまいます。このように,
ゆっくり変形させると粘っこい液体のよ
うに流れ,速く変形させるとゴムのよう
図 5 生ゴムの中では高分子が絡みあって
いる。
に弾む性質を粘弾性といいます。風船もおもりを下げてしばらくおくとだんだん
伸びてきます。しかしながら,網目のような構造をとっているので,伸びはじき
に止まります。通常のゴムはイオウを加えて高分子間をつないで網目を作ってい
るのです。
生ゴムとよばれるゴムは網目を作っていません。生ゴムやエアコンのホースな
どの間につめるゴム製のパテやチューインガムなどもはり粘弾性を示します。た
だし,生ゴムでは,高分子同士網目を作っていません。そのかわり,ひものよう
な高分子が互いに絡み合っています(図 5)。粘弾性を示す高分子物質では,このよ
うな絡み合いが弱い網目の働きをします。急に変形したあとは,絡み合いがほど
けずに,ゴムのように振舞いますが,時間がたつと絡み合ったところがすべるた
めに,だんだん流れていきます。からみ合っているので,急に変形すると一時的
に網目が出来ているように振舞います。
そのため,
机にたたきつけると弾みます。
しかしながら,高分子は熱運動で暴れまわっていますので,充分長い時間が経つ
と動くことができます。そのため,生ゴムもゆっくりと流れることができるので
す。
粘弾性を示す物質に棒を入れて,ゆっくり回転させると棒の周りを這い登って
きます。スライムの硬さを適当に調整すると驚くほどよく登ります。この現象を
ワイゼンベルク効果といいます (図 6)。スライムをたたきつけるとゴムのように
弾む性質と関係しています。スライムの中に棒を入れてまわすと,棒のまわりのス
ライムは引き伸ばされます。このとき,スライムは,ゴムを引き伸ばしたような
感じになっています。ゴムバンドを引き伸ばすと縮もうとします。縮もうとする
力によって,ゴムは横にひろがります。このちからによって,ゴムは棒を登って
くるのです。
洗濯糊が入っていた空き容器の底を切ってスライムを入れます。これに水ラム
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おしあげられる
ひろがる
しめつけられる
おしちぢめられる
図 6 バラス効果とワイゼンベルグ効果
をいれて,容器の口から絞り出します。そうすると出口で風船のように丸くなり
ます。この現象をバラス効果といいます(図 6)。これは,容器の口を出る前に押し
縮められたスライムが元に戻ろうとする性質があるからです。
このように,高分子からできている物質は不思議な性質があります。教科書に
は,物質は気体,液体,固体に分けられると書いてありますが,現象を観察する
時間スケールによって固体としてふるまったり,
液体としてふるまったりします。
たとえば,海底の近くは硬い岩石からできていて,どうみても固体ですが,1 年
間に数十センチメートルの速さで動いています。したがって,非常に長い目でみ
ると固体です。このように,流れや変形に関する性質を研究する学問をレオロジ
ーといいます。
このほかにレオロジーの現象として色々な現象が知られています。
レオロジーに興味がある方は,尾崎邦宏「キッチンで体験レオロジー」(ポピュラ
ーサイエンス,裳華房)を参照してください。