平成21年度理数科課題研究 掲載 - 説明: 説明: 説明: 説明: 説明

平成21年度
理 数 科
課 題 研 究
山口県立萩高等学校
目
次
<数学>
フィボナッチ数列について
数学の起源と幾何学史
1
14
<物理>
直管と傾斜管における気柱共鳴
26
糸の種類による糸電話の聞こえやすさの違い
30
<化学>
フルーチェについて
36
天然色素の抽出と染色
44
<生物>
ハエトリソウとオジギソウの運動に関する研究 51
フィボナッチ数列について
☆動機
最初、フィボナッチ数列について何も知りませんでしたが、調べていくうちに自然界と関わっ
ているということを知り、興味深く思いました。また、他にも面白い特徴があるのではないかと
思い調べることにしました。
緒方美月
自分が使っている数学 B の教科書でフィボナッチ数列と自然界との関係を知り、深く研究し
ようと思いました。
斉藤僚
フィボナッチ数列を調べた時に、花びらの枚数やマツボックリなど自然界にフィボナッチ数列
が関わっていると知り、自分で確かめようと思い、この課題に取り組みました。
田村萌美
『ダヴィンチ・コード』でフィボナッチ数列の存在を知りました。そして、この数列は美しい数
字の並びだと聞き、美しい数字の並びとはどういうことなのか疑問に思ったので調べることにし
ました。
横山礼奈
☆研究内容
フィボナッチ数列がどのような数列なのかを知ると共に、自然界との関係を確かめる。
数列とは
「数字を規則的に並べたもの」です。
その中でフィボナッチ数列とは
<0 1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 ・・・>
二つ前と一つ前の数を次々と足していく数列のことです。
例えば 5 ですが、5 の前の二つの数字は 2 と 3
よって、2+3=5 となります。
-1-
フィボナッチ数列をうさぎで説明します。
ここに 2 羽のうさぎがいます。これはオスとメスで、一組の夫婦です。
このうさぎは、大人になるまでに 1 ヶ月かかります。
1 ヶ月経つと、子供がほしくなります。
2 羽の子ども(オスとメス)が生まれるまでに 1 ヶ月かかります。
そして、その次の子供も同じように子供を生みます。
(うさぎは死なないと考えます)
うさぎはすっかり大人になりました。
メスのうさぎが2羽の子供を生みました。
これでうさぎの夫婦は2組になりました。若い
夫婦、年寄りの夫婦です。
そして、年寄りのメスうさぎがま
た2羽の子供を生みました。夫婦の
数は3組になり
ました。1番年寄
りが1組、それから最初に生まれた
子供で大人になっているのが1組、
そして、1番若い1組です。
-2-
年寄りの夫婦が次の1組を生み、年上の子供も同じように1組生みました。
これで、親が1組、子供が3組、孫が1組になりました。
3 組の夫婦がつがいの子供を 1 組ずつ生みました。
これで夫婦は 8 組になりました。
5 組の夫婦がつがいの子供を 1 組ずつ生んだので、
夫婦は 13 組になりました。
1ヶ月ごとのうさぎの夫婦の数を数えると全てフィボナッチ数列です。
-3-
このうさぎの夫婦の数を表にしてみると・・・
n
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Fn
0
1
1
2
3
5
8
13
21
34
55
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
89
144
233
377
610
987
1597
2584
4181
6765
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
10946
17711
28657
46368
75025
121393
196418
317811
514229
832040
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
1346269
2178309
3524578
5702887
9227465
14930352
24157817
39088169
63245986
102334155
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
165580141
267914296
433494437
701408733
1134903170
1836311903
2971215073
4807526976
7778742049
12586269025
51
52
53
54
20365011074
32951280099
53316291173
86267571272
55
139583862445
60
61
……
1548008755920
2504730781961
……
56
225851433717
57
365435296162
58
591286729879
59
956722026041
このように無限に続きます。
フィボナッチ数列には多くの性質があります。
フィボナッチ数列の性質
① Fnの2つ前と1つ前のフィボナッチの和は Fnになる
Fn-2+Fn-1=Fn
② Fnの2つ前までの数をすべてたしたものに1加えるとFnになる
F 1 + F 2+ F 3 + ・ ・ ・ + F n-2+ 1= F n
③ 隣りあった項のフィボナッチ数の2乗をたすとその項どうしの和のフィボナッチ数に
等しい
2
Fn={F 1 (n+1) } +{F
2
}
1
(n-1)
2
2
-4-
④ フィボナッチ数を自然数で割るとその余りの並びが規則的になる
2 の時 110 110 110・・・・・・
(周期 3)
3 の時 11202210 11202210・・・(周期 8)
4 の時 011231 011231・・・
(周期 6)
5 の時 11230331404432022410 11230331404432
(周期 20)
022410・・・・
⑤ Fnの3倍は2つ前の項と2つ後の項のフィボナッチの数の和に等しい
3Fn=Fn-2+Fn+2
⑥ Fnの2乗を1つ前と1つ後の項のフィボナッチ数の積から引くと必ず1になる
Fn-1× Fn+1−Fn2=1
また、さきほどの表を見てわかるように 61 番目のフィボナッチ数列はなど 2504730781961
でありすぐには出てきません。数の大きいフィボナッチ数列を求めたいときには一般項を
使うと求められます。
フィボナッチ数の一般項の証明
フィボナッチ数列の一般項は
Fn=
1
1+ 5
2
5
1− 5
−
2
n
n
です。
今回、私たちはフィボナッチ数列を母関数に一度置き換え、そして一般項を求めました。
数列
母関数
数列の一般項
母関数とは・・・数列に対応づけられた関数、とする。
数列<a0,a1,a2.…>を母関数(a0x0+a1x1+a2x2+…)と定義する。
数列
母関数
a0x0+a1x1+a2x2+…
<a0,a1,a2.…>
例<1,3,5,7,9…>
1+3x+5x2+7x3+9x4…
式A
F x × x2=
式B
F x × x=
式C
F x × x0=0x 0+1x1+1x2+2x3+3x 4+ …
0x 2+1x3+1x4+ …
0x1+1x2+1x3+2x4+…
-5-
式 A+式 B−式 C
(左辺)=F x × x2+F x × x1−F x × x0
2
1
0
=F x x +x −x
=F x x2+x−1
(右辺)=0x1−0x0−1x1+ 1+1−2 x2+ 1+2−3 x3+…
0x1−0x0−1x1
Fn=Fn-2+Fn-1フィボナッチ数
Fn-2+Fn-1−Fn=0 F0=0 F1=1 F2=2
=
=−x
よって F x x2+x−1 =−x
F x 1−x−x2 =x
F x =
x
1−x−x2
フィボナッチ数列の母関数
F x =
=
=
=
x
1−x−x2
r−s
r2−x2 2 r3−x3 3
x+
x +・・・
x+
r−s
1−x−x2= 1−rx 1−sx のように因数分解できたとする。
r−s
r−s
x
1−rx
=
1−sx
R
S
+
1−rx 1−sx
R
S
R 1−sx
S 1−sx
+
+
=
1−rx 1−sx
1−rx 1−sx
1−rx 1−sx
=
R+S − rS+sR x
1− r+s x+rsx2
R+S − rS+sR x
x
=
2
1− r+s x+rsx
rx−x2 より
R+S=0
・・・①
rS+sR=−1・・・②
r+s=1
・・・③
rs=−1
・・・④
① より R=−S
rS−sS=−1
−rR+sR=−1
S(r−s)=−1
R(s−r)=−1
S=−
1
r−s ・・・⑤
-6-
R=
1
r−s ・・・⑥
F x =
=
x
1−rx
R
S
+
1−rx 1−sx
=
1
1
1
1
−
×
×
r−s 1−rx r−s 1−sx
1
=1+rx+r2x2+r3x3+・・・
1−rx
=
1
r−s
1
1
−
1−rx 1−sx
1
=1+sx+s2x2+s3x3+・・・
1−sx
より
=
1
r−s
1+rx+r2x2+r3x3+・・・ − 1+sx+s2x2+s3x3+・・・
=
1
r−s
r−s x+ r−s x2+ r−s x3+・・・
=
r−s
r2−x2 2 r3−x3 3
x+
x +・・・
x+
r−s
r−s
r−s
r−s
r2−s2 2 r3−x3 3
x+
x +・・・
x+
r−s
r−s
r−s
F0 F1 F2
Fn=
1−sx
=
⑤,⑥より
F x =0+
x
1−x−x2
F3
rn−sn
r−s
r、s を求めればよい。
③、④より
r+s=1
rs=−1
解と係数の関係より
=
1
r−s
×
rn−sn
x2− r+s x+rs= x−r x−s
x2− r+s x+rs=x2−x−1
2
r、s はx −x−1=0の解より
x=
1±
5
2
-7-
仮に r>s とすると
r=
1+ 5
2
s = 1− 5
2
r−s=
Fn=
=
1− 5
1+ 5
= 5
−
2
2
より
rn−sn
r−s
1
×
r−s
1
Fn=
rn−sn
1+
1− 5
−
2
n
5
2
5
n
よって一般項 Fn
Fn=
1
5
1+
2
5
1− 5
−
2
n
n
になります。
ここで、フィボナッチ数列の名前の由来は何でしょうか。実は、フィボナッチとは人の名
前です。今からフィボナッチさんについて紹介します。
レオナルド=フィリオ=ボナッチ、本名はレオナルド=ダ=ピサと
いい、ピサのレオナルドと言われています。父の名前はグリエモで
すが、イタリア語で「単純」の意味のあだ名 Bonaccio から「ボナッ
チの息子」すなわち Filius bonacci(フィボナッチ)を愛称としました。
父親は商人が建てた商館で商人監督官として働いていました。フィ
ボナッチは 12 歳の時ナイジェリアにあるピサの貿易居留地で行政官
として働き始め、大人になって商用と趣味を兼ねてエジプト、イタ
リア内部、シリアやギリシャなどへ旅行しました。旅行先で商業に
用いられる計算法や記数法を観察、研究しました。
1202年、32 歳の時にヨーロッパで「算盤の書」を出版しました。算盤の書には零を
取り入れたインドの考えが西洋に広まりつつあった中世には新しく、「インドの方法」
(modus indorum)としてアラビア数字を紹介しました。位取り記数法の利点を簿記や利
子の計算などへの応用を例にとって説明しています。また、うさぎの出生率に関する数学
的解法つまり後に、フィボナッチ数列として知られる数列も載せられています。これはそ
-8-
の後200年に渡って模範的な数学の教科書として用いられました。
他の著書には、算術あるいは幾何学における問題を代数的な考えで解いた「幾何学演習」
や、不定方程式の問題を考察している「精華」も出版しました。
また宮殿で開かれた、数学の大会で優勝をするなどすばらしい功績を残してもいます。
その後神聖ローマ皇帝フリードリヒⅡ世に気に入れられたためにピサ共和国から表彰され
給料が贈られるようになりました。
(したがって数学者として自立した)
フィボナッチ数列は彼の死後に名付けられ、ベストセラーになった「ダヴィンチ・コー
ド」にも用いられさらに有名となりました。
自然界でみられるフィボナッチ数列
フィボナッチ数列の面白い点は自然界に非常に大きく関わっていることです。
例)ひまわりの種の並び、マツボックリ・パイナップルのうろこ模様、植物の葉のつき方、
木の成長、花びらの数、サボテンのトゲのつき方
1 マツボックリのうろこ模様
マツボックリのうろこ模様を観察してみると、このうろこ模様は螺旋を描いています。
(左)時計回りの螺旋の数を数えてみると5列
(右)反時計回りの螺旋の数は8列
この数字はいずれもフィボナッチ数です
-9-
2 ひまわりの種
ひまわりの種の並びもマツボ
ックリと同様に螺旋を描いていま
す。この螺旋も時計回りと反時計回
りがあります。
このひまわりの種が描く反時計回りの螺旋の数を数えると55列でした。これもフィボナッチ数列です。
- 10 -
3 花びら
花びらの数も多くはフィボナッチ数です。
- 11 -
☆考察
高校数学で習う数列は等差数列と等比数列があります。
等差数列とは、
<1 3
5
7
9・・・・>
+2 +2 +2 +2
のように、次々に同じものを足した数列のことです。
一般項:Fn =2n−1
等比数列とは、
4
<2
8
16
32・・・・>
×2 ×2 ×2 ×2
のように、次々に同じものをかけた数列のことです。
一般項:Fn=2n
今回、研究したフィボナッチ数列は一つ前と二つ前の数を次々と足していく数列です。
しかし、これは等差数列でも等比数列でもない数列です。
特別な数列ゆえに、一般項の証明など簡単には求めることができません。だから、数列を
母関数に置いて、そこから一般項のもととなる式を得ました。そして、母関数を数列に置
き換え直すと一般項が求められました。
Fn=
1
5
1+
5
2
1− 5
−
2
n
n
このように、でてきた一般項もとても複雑なものでした。
今まで、自然界にあるものは、自分たちの生活の中であまりにも身近であり、そのため
単純なものであると考えていました。しかし、実際はその構造はとても複雑なものであり
安易には説明のつかないものでした。今回、調べたフィボナッチ数列の数字の並びは、一
見、規則性も感じられず、美しくもありません。さらに、一般項はとても難しいものでし
た。しかし、ひまわりの種・マツボックリのうろこの螺旋の数など今までなにげなく見て
いた自然界の多くのものに深く関わっていました。このフィボナッチ数列を解明すること
によって改めて数学と自然界が密接に関わっていることがわかりとても不思議に感じまし
た。
☆感想
一般項の証明を理解することが大変でした。数列を母関数におきかえて証明する方法も
あることを知って、おもしろい証明方法だなと思いました。他のおもしろい証明方法が知
りたくなりました。
- 12 -
数列という分野を自ら学習し、黒板を使って教えるという貴重な体験をしました。きち
んと教えることができたかは分かりませんが、自分では理解できたのに人に教えるという
難しさを改めて実感しました。
フィボナッチ数列を調べることで数列を学ぶことができ、また数学と身近なことが深く
繋がっているという意外な事実を知ることができて良かったです。
ひまわりの種の螺旋の数を数えるのが大変でしたが、数え終わった後フィボナッチ数に
なったときは感動しました。そして、フィボナッチ数列が自然界にも大きく関わっている
ことに驚きました。
☆参考文献
・『数学ガール』結城浩 著 ソフトバンククリエイティブ株式会社 発行
・『数の悪魔』エンツェンスベルガー 著 丘沢静也 訳 晶文社 発行
・『11からはじまる数学』松田修+津山工業高等専門学校数学クラブ 著
東京図書 発行
・『フィボナッチ数の小宇宙(ミクロコスモス)』中村滋 著 日本評論社 発行
・『世界科学者事典 5 数学者』デービット・アボット 編
伊東俊太郎 日本語版監修 原書房 発行
- 13 -
数学の起源と幾何学史
〈動機〉
生まれてから今まで生活の中にあった数学はいつ頃どうやってどこから発祥していき、
どのようにこれまで伝承されてきたのか興味をもつと同時に、幾何学についても興味を持
った。
小田奈央
授業で習う数多くの定義・定理は今では当たり前のように思われているが、それがどの
ように考えられて広まっていったのかを深く理解していきたいと思った。
田中海
日々意識しなくとも当たり前のように目にし、用いられている数字や定理の起源、また
国や時代によって異なる数に対する概念の違いに興味を抱いたから。
藤山友里亜
幾何学、統計学、解析学、代数学といった数学の分野のなかで1つ詳しく学ぼうと思っ
た。その中でも図形を扱う幾何学が一番身近なもので、その基礎が誰によってどのように
築かれたのか知りたいと思った。
古屋翔平
〈研究内容〉
1 数学の起源と四大文明
文字がない時代、人々は部族の人数や獲物の頭数を“数える”ことが必要であったため、
“数”という考えはそこから自然に発生した。つまり、数学は人類が生活を営む上で実行
された必須の人間の活動といえる。
集落を構え共同生活を営むようになるまで、人類は食物を求めて放浪しながら生きてい
た。当然、移住生活で税制度も文明が発達するまでなかったため、地積を求める必要はな
かった。だから、「幾何学」の前身となるものは生まれなかった。
しかし、古代文明が発達していくと、生活を通して数学は必要不可欠となった。
- 14 -
エジプト文明…ナイル川流域で発達
エジプトでは「パピルス」
当時 象形文字 十進法の利用
中国では「紙」
測地術・・・ギリシアの幾何学に発展
に活動を記録
メソポタミアでは「粘土板」
資料
「リンド・パピルス」
(大英博物館)・・・「数」について
「モスクワ・パピルス」(プーシチン博物館)・・・「図形」について
エジプトの数学はまだ原始的で、他の文明ほど進んでいなかった
メソポタミア文明…ユーフラテス川とティグリス川流域で発達
B.C.2900 メソポタミア文明成立
(新バビロニア帝国)カルデア人・・・正確な天体の観測を行うなど、天文学に優れる
当時 楔形文字 十進法・六十進法の併用
簡単に使える記号表記はなかったが、方程式を解く方法は進んでいた。しかし、数につい
ての概念が狭く、負の数は「本当の」数としては認められていなかった。
中国文明…黄河流域で発達
当時 算木数字 十進法
B.C.206∼220 漢王朝の時代が成立
秦の<始皇帝>が没前に、全ての書物を焼き払うよう命じたため、それ以前の数学の記録
が残っていない。
B.C.100「周髀算経」が書かれる
中国最古の歴史書である。測量中心で天文学に利用された。
A.D.25∼220「九章算術」が書かれる
中国古代の数学書で現存する 10 種類をとって「算経十書」と呼ぶ。そのうちの一冊であ
る。比例や連立方程式、三平方の定理などが示されている。この中で使われている負の
数は、東洋(中国)で非常に古くから見いだされている。西洋に負の数が知られるよう
になったのは 13 世紀頃とされる。
6 世紀頃「海島算経」「孫子算術」朝鮮半島を経由して日本へ伝わった
(1299)「算学啓蒙」算木で数を表す
(1592)そろばん <程大位>
17 世紀初期に日本へ伝わった
つまり、日本は中国から恩恵を受けていた
インダス文明…インダス川とガッガル・ハークラー川流域で発達
商業上の必要から数学が発達した。計算が重要な役割を果たす
現代用いられている算用数字(アラビア数字)は本来、インドで創案された数字から派生
したものであった。
5 世紀には、「数」としての「零」導入され、十進法と結びつけられた。
- 15 -
「ゼロ」について
…−2,−1,○
0 ,1,2,…
負の世界
ゼロ 正の世界
2 つの世界をつなげる
ゼロは暗号のように思われていた
インド数字をアラビア人がアラビア語に訳し、さらにこのアラビア語のインド数字をヨ
ーロッパ人がラテン語に訳した。そのため、インドの数学は直接後世には発展しなかった。
当時のアラビアは、イラクのバグダッドからスペインのゴルドヴァまでと広範囲だったた
め、書体もかなり異なっていた。15 世紀に現在使われている形に統一された。
以上のことから、エジプトが最初に発達した文明であり、そこで測量術を始めとした幾
何学が発展した。そして幾何学というものは数学の分野の中でもっとも古いものである。
そこで、私たちは幾何学に着目し研究した。
2幾何学の歴史
幾何学とは、図形について研究する学問分野の総称。さまざまな対象が「図形」として
扱われる。
B.C.30∼22 世紀ごろ
幾何学の起源は古代オリエント(エジプト)におけるナイル川の定期的な氾濫をめぐる
土地測量の手法にまでさかのぼる。ナイル川は雨季の氾濫の際しばしば区画の境界を押し
流し、その復旧のために再び測定し直さなければならないため発達した。
幾何学の大きな進歩を遂げた最初は古代ギリシアである。遠隔地との通商で、陸路では砂
漠で正しい道を進むために、海路では大海原で船の位置を知るために、太陽や月・星の観
測が欠かせなかった。多くの学者が幾何学の発展に関わった。
B.C.6 世紀ごろ
タレス
古代ギリシアの哲学者。小アジアのイオニア地方の町ミレトスの生まれ。エジプトから幾
何学を取り入れた人物とされ、ピラミッドの高さをその影の長さから測定したとか、円は
その直径によって二等分される、二等辺三角形の底角は相等しい、二直線が交わるとき対
頂角は相等しい、半円に内接する角は直角である、三角形は底辺と底角が与えられれば決
定される、といった諸定理を発見したとも伝えられる。
- 16 -
ピタゴラス
古代ギリシアの自然学者、数学者、宗教家。エーゲ海のサモス島の生まれ。青年期、エジ
プトを訪れたといわれる。音楽、数学、天文学、医学を研究し、そのなかには科学史に残
る業績も少なくないが、彼の組織する教団にとっての研究の本来は教義を追究するための
補助的なものであった。そのため、評価の高い数学の研究にさえも、合理性のなかにとき
として神秘性が混在している。彼はピタゴラスの定理でも有名だが、実際にはエジプトや
メソポタミアですでに使われていた。
エジプトにあるピラミッドの土台は正方形で、とても美しい姿を維持している。4500 年前
のエジプトですでに、直角を正確に作ったり、長さを計算で求めたりする技術が発達して
いたのだ。
「なわばり師」という人が、毎年のナイル川の氾濫後、測量をし直していた。彼
らは、3:4:5や5:12:13が直角をつくるということを昔から知っていた。しか
し、どうしてそうなるかまでは知らない・・・。これを理論的にも正しいと証明したのが、
ピタゴラスである。
直角三角形ABCで、3つの辺の長さをa,b,cとすると、
∠C=90°ならば、a2+b2=c2(cは斜辺)が成り立つ。
ピタゴラスの定理には100種以上もの証明方法があると言われており、説によれば、
200種、300種ともいわれ、よくわかっていない。
ここでは、簡単かつ目で見てわかりやすい1つの方法で証明を行うことにする。
三平方の定理である、 a2+b2=c2
を証明する。
与式をわかりやすく言い換えると、
a の平方+b の平方=c の平方
1辺が a の正方形の面積+1辺が b の正方形の面積=1辺が c の正方形の面積
となる。
- 17 -
図1
図2
図1より、
(全体の正方形の面積)−(三角形の面積×4)
=(1辺が a の正方形の面積)+(1辺が b の正方形の面積)
(a+b)2−( ab×4)=a2+b2 ・・・①
図2より、
(全体の正方形の面積)−(三角形の面積×4)=(1辺が c の面積)
(a+b)2−( ab×4)=c2 ・・・②
① 、②より
a2+b2=c2
となり、与式は正しいことがわかる。
ピタゴラスの定理の証明は、このほかに
・三角形の相似を使ったもの
・三角形と円を使ったもの
・三角形と台形を使ったもの
・正方形を組み合わせたもの
・等積変形を利用したもの
など、たくさんある。
このタレス、ピタゴラスが多くの定理を発見し、幅広く深く図形を研究した結果、証明
という手法を発見した。証明とは、少数の原理から厳密に演繹(公理から定理を導く方法)
- 18 -
を積み重ねて事柄を示していくやり方である。公理と定理について、どちらとも真理があ
る点では同じだが、公理とは当たり前のことであり、理由がない。それに対して定理とは
考えたことであり、理由が存在している。
B.C.3 世紀ごろ
ユークリッド
紀元前 3 世紀前半に活躍したギリシアの数学者、物理学者。ギリシア語読みではエウクレ
イデス。彼の代表的著書は『ストイケイア』
(『幾何学原本』
『原論』などと訳す)13 巻であ
る。『原論』では、公理から厳密な論理によって幾何学を構成した。また、“点とは部分を
持たないものである”などと定義した。彼の定義と幾何学の公理系(幾何学についての公
理のあつまり)は、2000 年以上、現在まで数学の見本となっている。また、幾何学は楽に
すます道がないことから「幾何学に王道無し」という言葉も生まれた。
アルキメデス
古代ギリシアの科学者、数学者、技術者。シチリア島シラクサ出身。円周率すなわち円周
と直径との比率について「円周はその直径の 70 分の 220 より小さく、71 分の 223 よりは大
きい」と算出した。また、「てこの原理」に精通していて、「私にどこか(地球以外の)
足場を与えてくれるなら、地球を動かしてみせる」と豪語したエピソードもある。王冠と
同じ重さの純金、純銀、それに金と銀を混ぜたという王冠を、水を張った同じ容器にそれ
ぞれ入れて、あふれ出る水の量で王冠の不正を見破った、「アルキメデスの原理」が有名
である。
アポロニウス
小アジアのペルゲに生まれ、エジプトのアレクサンドリアに出て活躍した。『円錐曲線論』
を書き表し、直円錐を平面で切ったときに得られる「切り口の図形」が、円や楕円、放物
線、双曲線などであることを示した。また、平面上で 2 定点への距離の比が一定の点の軌
跡が作る円の「アポロニウスの円」も有名である。
一方、ヨーロッパでは、「幾何学的精神」 という公理から定理を演繹する精神態度が厳
密さを重んじることを数学の王道とされた。
B.C2世紀ごろ
ヒッパルコス
小アジアのニカイア出身。月の視差の測定をした。視差は二つの異なる場所から同一の天
体を見たときの方向の違いで、それを正確に計算するために、彼は弦の表を作製して三角
法(とくに球面三角法)を確立した。彼はこの視差を求めて地球から月までの距離を地球
の半径の約 67 倍、さらに太陽までの距離を地球の半径の 2490 倍だとしている。
- 19 -
A.D1世紀ごろ
メネラウス
アレクサンドリアで活躍した。球面三角形についての類似の定理をも導いている。
A.D3世紀ごろ
パップス
ギリシアの数学者。アレクサンドリアの出身。主著『数学集成』は、当時のギリシアの幾
何学の入門書である。立方体の倍加や、二つの比例中項を求める問題などの歴史が記載さ
れている。
ここから 12 世紀もの間、幾何学の発展は止まる
B.C.15 世紀
ドイツのラトルトによってユークリッドの『原論』が印刷され、数学の復興がヨーロッパ
中に広まる。
B.C.17 世紀
デカルト
数学者として、幾何学に代数的解法を適用した解析幾何学の創始者として知られている。
変数や座標を導入し、図形を代数的方程式によって表現することが可能になった。
B.C.19 世紀
ボヤイ、ロバチェフスキー
「平行線」に関するユークリッドの公理、つまり第 5 公準の「直線外の 1 点を通って、そ
の直線に平行な直線は、一つあってただ一つに限る」だけを否定する幾何学を樹立した。
この幾何学は「非ユークリッド幾何学」とよぶ。
ポアンカレ、リー、ヒルベルト、クライン
公理群のいくつかを他の公理で置き換えて「新しい幾何学」を創造するという思想を持っ
た。ドイツの数学者ヒルベルトの著書『幾何学基礎論』では、点・直線・平面といった基
本的対象および「存在する」「…の間に」「∼と合同」といった基本的関係を「基本概念」
と考えて、それらに直接的な定義を与えないとした。
「射影幾何学」点・直線・平面を基礎図形(無定義用語)としてそれらに結合の公理を設定
し展開する幾何学。
「微分幾何学」微積分を用いて曲率などの概念を導入し、曲線・曲面の
性質などを研究する幾何学。ガウスらによって体系づけられたなど1人の幾何学者ではそ
のすべてを把握することはできない、といっても過言でないほどになっている。
- 20 -
現代までこうした様々な幾何学が誕生して、複雑なものになったが、やはりユークリッ
ド幾何学が中心である。義務教育や高校の課程でもユークリッド幾何の中でしか物事を考
えないのは、それだけユークリッド幾何が 2000 年の歳月を経ても幾何学の基礎であり、私
たちはユークリッド空間の中で生きているといえるだろう。
3 ①幾何学が止まった理由
幾何学のゆっくりとした発展は紀元前3世紀までヒッパルコス、メネラウス、パッポス、
プトレマイオスなどによってなされた。その後、幾何学の飛躍的な発展は止まり、古代ギ
リシャの崩壊と共に幾何学の発展は事実上永い眠りについた。なぜ幾何学の発展は止まっ
たのか。
一説ではアレクサンドリア図書館がユリウス・カサエルの起こした戦乱によって焼失し
たのが原因とされる。地球の大きさを正確に測ったアルキメデス、初めて経線と緯線を使
って地球を平面の地図に描いたプトレマイオス。他にもエラトステネス、クラウディオス
など、この偉大な数学者たちは代々のアレクサンドリアの図書館長であった。図書館の焼
失とともに彼らの幾何学の当時の最先端だった研究物も焼け、幾何学の停滞につながった
とされる。
他の説では、同じくカサエルの起こした戦乱によってアレクサンドリアの偉大な数学者
たちが殺されたのが原因とされる。アレクサンドリア自体、その戦乱で壊滅的な状態にな
ったという。当時一番幾何学が発展していたアレクサンドリアでのそのような出来事は、
幾何学の停滞につながった。
幾何学の停滞は曖昧である。
②幾何学が復活した理由
幾何学が復活した理由は、ドイツのラトルトによってユークリッドの「原論」が広まっ
たからである。ユークリッドは自分の思想を他人に広めることを禁止していたので、ユー
クリッドの考えはギリシャ国外に出ることはなかった。17 世紀、デカルトが考えた座標は
のは、
「原論」が定義した“平面”を元にして作られている。19 世紀ボアイ、ロバチェフス
キーが考えた非ユークリッド幾何学、ポアンカレーたちが想像した新しい幾何学も「原論」
が元である。つまり、ユークリッドの「原論」が幾何学を復活させたのである。
4 幾何学の復活に関わった「原論」
『原論』
13巻から構成されて1∼4巻で成果を体系化した
公理とはその他の命題を導き出すための前提として導入されるもっとも基本的な仮定であ
る。
公理を前提として演繹法によって導き出される命題は定理と呼ばれる。
- 21 -
1平面図形の性質
2面積の変形(幾何学的代数)
3円の性質
4円の内接・外接する多角形
5比例論
6比例論から図形への応用
7数論(=整数の性質について研究する分野。代数学の一部とみなされる)
8数論
9数論
10無理量論
11立体図形
12面積・対積
13正多面体
ユークリッド本人は既に存在している知識と最新の学術成果を付け加えて原論とした
公準
公準1 直線は任意の点から任意の点にひく
公準2 連続して有限直線を延長して一直線となる
公準3 円は任意の中心と半径で描く
公準4 すべての直角は互いに等しい
公準5 2つの直線とかちあっている1つの直線が同じ側に2直角より小さい内角をつく
るならば、2直線は限りなく延長されると2直角より小さい角のある側で交わる
共通概念
共通概念1 同じものに等しいものはまた互いに等しい。
共通概念2 等しいものに等しいものを加えれば全体は等しい。
共通概念3 等しいものから等しいものをひけば残りは等しい。
共通概念4 互いに一致しているものは互いに等しい。
共通概念5 全体は部分より大きい。
- 22 -
定義(一巻)
定義1
点は部分をもたないものである。
定義2
線は幅のない長さである。
定義3
線の端は点である。
定義4
直線はその上の点について一様に横たわる線である。
定義5
面は長さと幅だけをもつものである。
定義6
面の端は線である。
定義7
平面はその上の直線について一様に横たわる面である。
定義11 鈍角は直角より大きい角である。
定義12 鋭角は直角より小さい角である。
定義15 円は1本の線によって囲まれた平面図形で、その図形のなかに置かれているあ
る点からその図形にひかれたすべての線分は互いに等しい。
定義16 そして、そのある点は円の中心と呼ばれる。
定義17 円の直径は、中心を通ってかくことができ、円の円周によって両方向を限られ
た任意の線分で、そのような線分はまた円を2等分する。
定義18 半円は、円周とそれによって切られた直径によって囲まれた図形である。そし
て、半円の中心は円の中心と同じである。
命題[I-29]
平行線の2つの錯角は等しい.
証明には公準 5 が用いられる.2つの錯角が等しくなければ,平行線でなくなってしまう
という論法である.
命題[I-32]
三角形の内角の和は 2 直角である.
上記のように平行線を引き,平行線の性質を使えばよい.
- 23 -
命題[I-35]
底辺と高さの等しい平行四辺形の面積は等しい.
定義(三巻)
定義1
等しい円とは直径が等しいか、半径が等しいことである。
定義10 円のおうぎ形とは、角が円の中心で作図されるとき、角をはさむ線分とそれら
によって切り取られた円周によって囲まれた図形である。
命題[Ⅲ-20]
命題[Ⅲ-31]
円周角は中心角の 1/2 である.
直径の円周角は直角である.
命題[Ⅲ-21]
同じ円弧の円周角は等しい.
原論が元々書かれたパピルス本は断片が残っているのみである。現存する最も古い(9 世紀)
写本は羊皮紙に書かれていている。日本語版の出版は 1971 年である。
- 24 -
〈考察〉
大昔、ナイル川の氾濫後の測量やピラミッドの製作、通商においての太陽や月・星の観察など
に数学は必要不可欠だった。現代、約 2300 年前にユークリッドがまとめた「原論」の内容の中
で私たちは高校数学を学んでいる。さらに、数学の王道とされた幾何学精神は、幾何学の分野に
とどまらず、哲学など広く重視されている。いつの時代でも、数学は日常生活の中心となってい
る。
現代ではカーナビやテレビなどの静止衛星は射影幾何学を利用している。私たちの気づかない
ところで幾何学は役立っており、これからも幾何学をはじめとする数学は発展していくことだろ
う。
アレクサンドリアでの出来事がなければ、そこで栄えていた円や球面の分野を中心に幾何学は
もっと発展していたと言えよう。また私たちが調べていく中で、カエサルは美女クレオパトラへ
の恋心のためにアレクサンドリアを壊滅的にしてしまったという事実が出てきた。本当に幾何学
の停滞がアレクサンドリアの陥落を原因としたならば、一人の恋心のせいで幾何学が止まってし
まったということになる。
人間の感情一つで文化の発展は止まる…!? 幾何学が長い時間止まり、そして「原論」ひとつ
で復活したことからも分かるように、文化を進歩させるためには、人々の知識、考え、アイデア、
見方を広めていくことが必要である。
〈感想〉、
私たちは今日も、遠い昔にユークリッドがまとめた原論の中でほとんどの高校数学を考えてい
ることがわかり、ユークリッドの偉大さをあらためて感じた。数学史を調べていく過程で名があ
がる人物は哲学者としても有名な人ばかりで、数学と哲学の関わりの深さにも新たに興味を持っ
た。
幾何学は、数千年もの長い年月をかけて、多くの数学者が新しい考えを出していく一方で、進
歩したものは単純なことばかりというのを知った。これからさらに様々な分野に分かれて発展し
ていくだろうと思った。
数学史一つを探るために古代から現代、国土の違いから宗教に至るまで幅広い内容に注目しな
ければならず苦労したが、それだけ数学が広く長く使われ私たちの暮らしを豊かにするものであ
るのだということを研究中一番に感じた。
私たちが無意識のうちに使っている点や線を定義することに偉大な数学者たちの大変な苦労
があったと知った。現代の数学の基礎は数学者たちの苦労の賜物だと思った。調べていくほど自
分の無知さを痛感したと同時に、数学の奥深さを改めて感じた。
〈参考文献〉
アンドレ・ドラシュ著「現代の幾何学」
宮腰患著「高校数学α」
の数学2
小松醇郎著「いろいろな幾何学」
ジョン・タバク著「はじめからの数学1
代数学」「はじめからの数学3
数」
ロバート・カプラン著「ゼロの博物誌」
ジョン・ダービーシャー著「代数に惹かれた数学者たち」
- 25 -
幾何学」「はじめから
直管と傾斜管における気柱共鳴
I.
動機
当初は蚊の羽音に興味を持ち、音の伝わり方について調べようとした。ラッパなどの楽器
の形状や人間の耳の渦巻き管の形状に音を増幅させる要因があるのだろうと考えたが、そ
れらの形状を再現することが困難だった。そのため、シンプルな気柱の形状による共鳴強
度の違いから、 音を増幅するのに適した形を調べることにした。
II.
気柱共鳴とは
管の中の空気(気柱)が振動して、管の中へ伝わる音波と、管の端で反射した音波が干渉
し、管の中に縦波の定常波ができるため、管の長さや伝わり方に応じて、定まった振動数
の音が強く出ること。
III. 実験
(ⅰ)<実験内容>
次の場合における共鳴音をとる。
① 直管の開管構造(両端が開いている状態)のとき
② 直管の閉管構造(片端が閉じている状態)のとき
③ 傾斜管(広口→狭口)の開管構造のとき
④ 傾斜管(広口→狭口)の閉管構造のとき
⑤ 傾斜管(狭口→広口)の開管構造のとき
⑥ 傾斜管(狭口→広口)の閉管構造のとき
(ⅱ)<実験用具>
気柱(2 種類)
オシロスコープ
コンデンサーマイク
スピーカー
マイクプリアンプ
(ⅲ)<準備>
気柱作成
・直管の場合
木板を縦 69mm×横 910mm×4 枚に切断する。
管口を内径 51mm×51mm の形にする。
- 26 -
低周波発振器
・傾斜管の場合
木片の片方の内径をもう片方の内径の約 2 倍にする。
小管口の内径 51mm×51mm、大管口の内径 98mm×98mm の形にする。
(ⅳ)<実験方法>
1.
低周波発振器にスピーカーを接続する。マイク出力をプリアンプで増幅し、オ
シロスコープで観察する。
2.
スピーカーの横にマイクをセットし、オシロスコープで振幅を読み取る。
3.
音の周波数を変えながら、2.で管が有る時と無い時の振幅をそれぞれ測定する。
4.
3.の振幅の比率をグラフ化する。
プリアンプ
マイク
スピーカー
気柱共鳴管
低周波発生装置
次頁グラフの記号の説明
開管
□ 傾斜管
大口径から小口径に向けて音を入れた場合
△ 傾斜管
小口径から大口径に向けて音を入れた場合
⃝ 直管の場合
■ 小口径側を閉じた傾斜管
閉管
▲ 大口径側を閉じた傾斜管
● 一方を閉じた直管
- 27 -
IV. 結果
気柱共鳴管のあるときと、気柱共鳴管がないときの振幅比
- 28 -
・直管の開管構造のとき
開管の場合、これを基準とする。
・直管の閉管構造のとき
閉管の場合、これを基準とする。
① 傾斜管(広口→狭口)の開管構造のとき
振幅の比率がいずれの開管よりも高い。
② 傾斜管(広口→狭口)の閉管構造のとき
振幅の比率がいずれの閉管よりも高い。
③ 傾斜管(狭口→広口)の開管構造のとき
振幅の比率が低い。
④ 傾斜管(狭口→広口)の閉管構造のとき
周波数が高くなるに連れ、直管との差がなくなる。
V.
考察
傾斜管(広口→狭口,開管)は広口から狭口に向けて音を発しているので、音の反射
が起き、発信源に返ってくる音の割合が大きいと考えられる。逆に、傾斜管(狭口→
広口,開管)は狭口から広口に向けて音を送ると、反射が少ないので、返ってくる割
合が少なく、音が増幅して外に出やすいと考えられる。そのことから、やはりラッパ
やメガホンなどの形状は外に向けて音を増幅するのに適しているといえる。
- 29 -
糸の種類による糸電話の聞こえやすさの違い
1 研究の目的
某テレビ番組で糸電話についての実験の特集をしているのをみて身近な糸電話という題
材に大変興味をもち、何種類かの糸や金属線やバネなどで糸電話をつくり予備実験をして
みると、糸や金属線など種類によって音の伝わりやすさに違いがあった。そこで実際には
どのくらいの差があるのかを調べ、どの糸が一番糸電話にするのに適しているのかを調べ
ることにした。
2 実験方法
【下準備】
スピーカーの改良
空気中の音や音源から出た音が実験に影響しないように、糸を直接振動させる専用スピ
ーカーを作る。
(ⅰ)市販されているスピーカーのカバーを外したものを2つ用意する。
(ⅱ)一方のスピーカーに低周波発信器、他方にマイクアンプをつなぐ。マイクア
ンプの出力はオシロスコープに入力する。
- 30 -
【実験】
(1)実験道具
糸(4種類)金属線(2種類)スピーカー 低周波発信器 鉄製スタンド
定規 錘(10g 1 個) オシロスコープ メジャー イージーセンサー
(2)実験方法
(ⅰ)糸とスピーカーをホットボンドでつなげる。
(ⅱ)低周波発信器で音を出す。
(ⅲ)オシロスコープで波形を目測する。
(ⅳ)パソコンにデータを入力する。
(ⅴ)糸の種類ごとにグラフにしまとめる。
(3)実験処理
音の大きさは電圧(mv)に換算し、y 軸に電圧(mv)x 軸に周波数(Hz)をとる。
3 結果
- 31 -
- 32 -
- 33 -
- 34 -
以上の結果より、450∼550Hz あたりではフロロカーボン糸が一番伝わりやすいが、高音
範囲では伝わりにくいといえる。
平均的に伝えることができそうなのは木綿糸で、これらはほぼすべての範囲においてナ
イロン糸や絹糸より伝わりやすい。高音範囲では、低音範囲においてこれらよりも伝わり
やすかったフロロカーボン糸よりも伝わりやすかった。
ナイロン糸は全体的に他の3つには劣るが、他の3つ同様 400∼500Hz あたりではよく
伝わる傾向がみられた。
4つの糸はともに 400∼500Hz あたりで電圧が大きくなることから、糸の張力の大きさ
が関係しているか、もしくは今回用いた糸のすべてがこの周波数を伝えやすかったという
可能性が考えられる。
また、絹糸にみられたことだが、400Hz 以下のときに異様に電圧が高くなる Hz の値が 2
∼3 箇所あった。これは糸の固有振動数による影響と考えられる。
今回、金属線も数種類実験してみたが定常波の影響でうまく測定ができなかった。唯一、
ある一部の範囲のみ測定することに成功したニクロム線でも横揺れによる定常波が起こり、
530Hz 以上は測定不可能だった。
4 考察
グラフなどから考えると、やはり糸電話の定番である木綿糸が一番糸電話にするのに向
いていると思われる。しかし、フロロカーボン糸のように比較的狭い範囲の周波数に極端
に強い糸もみられた。また、金属線やバネを用いた糸電話ではエコーがかかるため会話に
は向いていないが、とても興味深い糸電話が作れるのではないだろうか。
今回は糸の接着にホットボンドを用いたが、他にもっと伝わりやすい接着方法があるか
もしれない。しかし今回の研究においては糸だけに注目したため、そのあたりについては
今後の研究課題としたい。
- 35 -
フルーチェについて
【動機】
午後3時。おやつの時間。フルーチェを作って食べていた。そこでふと疑問が湧いた。
「フ
ルーチェはどうして固まるのだろうか?」
。フルーチェの素の箱の裏面を見てみると目につ
いたのは『ペクチン』という物質の名前と、その他たくさんの注意書きであった。
そこで、フルーチェの秘密を暴くため、私たちは『ペクチン』という物質の性質と、注意
書きにある『温度条件』について研究することにした。
【ペクチンとは】
柑橘類やりんごなどの果実などに多く含まれている天然のゲル(ゼリー状に固化したも
の)化剤。
【予備実験1】
《きっかけ》
フルーチェの箱の注意書きより疑問を抱いた。
「必ず種類別が「牛乳」と表示されているものをお使いください。カルシウム・鉄分・ビタミン強化、低脂
肪、高脂肪などの「乳飲料」「加工乳」では固まらない場合があります」
→本当に調整牛乳などではペクチンと反応しない(以下「固まらない」と表現する)のだ
ろうか?
《目的》
調整牛乳で固まらないかどうかを確認する。
《仮説》
牛乳の種類によって固まり方に違いが出る。
《器具・試料》
フルーチェの素、無調整牛乳、加工乳(低脂肪、高脂肪、Ca 強化)、有機豆乳
《方法》
① フルーチェの素と牛乳を各 50ml ずつ量りとる。
② フルーチェの素に牛乳を加え、攪拌する。
③ できあがったフルーチェの粘性を比べる(触覚・味覚・視覚による)。
④ それぞれの牛乳の成分表示を比べる。
《結果・考察》
固まり方に違いが出た。
また、成分表示の Ca イオンの量が多いほど粘性が強かった。
(次図参照)
- 36 -
たんぱく質[g] 脂質[g] 炭水化物[g] Na[mg]
6.8
7.8
9.9
85
Ca[mg]
227
② 加工乳
(CGC低脂肪乳)
③ 乳飲料
(特濃4.2)
④ 乳飲料
(おなかにやさしく
MEGMILK)
6.8
1.4
10
90
240
5.6
8.9
11.8
89
190
5.1
5.5
8.2
66
178
⑤ 乳飲料
(カルシウムの多いミルク)
⑥ 有機豆乳
(有機豆乳無調整)
6.6
6.4
10.4
86
365
9.4
6
2.8
2
30
名称
① 牛乳
(明治おいしい牛乳)
[mg]
[g]
[mg]
- 37 -
[g]
[g]
この実験より Ca イオンが関係するということが考えられる。
また Ca イオン濃度によって粘度が変わると仮説を立てた。
【実験1】
《目的》
Ca イオンがあれば固まってフルーチェになるということを検証するとともに、Ca イオン
濃度による粘性の違いを比較する。
《器具・試料・薬品》

器具
電子天秤、薬さじ、薬包紙、50ml メスシリンダー、200ml メスフラスコ、ホールピペット、
100ml ビーカー、ガラスの筒、ガラス棒、ガラス板、方眼用紙

薬品・試料
塩化カルシウム二水和物 CaCl2・2H2O 、フルーチェの素、純水
《実験の前に・・・》
牛乳中の Ca イオン濃度を計算する。
→約 0.03mol/L だった。
→0.03mol/L の CaCl2 水溶液を基準にして、数種類の CaCl2 水溶液を作り、実験を行うこ
とにした。
《操作》
① 0.10mol/L の CaCl2 水溶液を 200ml 作る
電子天秤で薬品を 2.94g 量りとり、ビーカーに入れ、少量の水で溶かす。これをメスフラス
コに移し(ビーカー内に付着した分も純水で流しながらメスフラスコに移す)
、標線まで純
水を入れる。
- 38 -
② ①の溶液に純水を加え、0.010mol/L、0.020 mol/L、0.030 mol/L、0.040mol/L、0.050mol/L
の濃度の溶液を作る。
③ フルーチェの素 20ml に②で作った 0.030mol/L(基準)の水溶液 20ml を加え、ガラス
棒で 50 回かき混ぜる。
(以下、フルーチェの素と牛乳を混ぜ合わせたものをフルーチェと呼ぶ)
④ 他の濃度についても同様に実験する。
⑤ 方眼用紙の上にガラス板を敷いて、その上にガラスの筒を立て、③④で作ったフルーチ
ェを入れ、筒を外してフルーチェの広がり具合を記録する。(下図参照)
⑥ 方眼用紙のマス目を用いて面積を計算し、それぞれの濃度によるフルーチェの広がり具
合の違いを比較する。
《結果・考察》
固まった。
→Ca イオンでフルーチェが固まることがわかった。
濃度
面積[c ㎡]
状態
[mol/L] (分離部分含む)
0.010 189
液体に近い状態。
やや粘性がある程度だった。
0.020 85
基準より粘性が減少し、とても柔らかいフルーチェだ
った。
- 39 -
様子
0.030 78
市販のフルーチェに近い固さ。
ただし、牛乳で作ったときのようななめらかさはない。
0.040 103
分離して水分が出てきた。
固体は硬めのゼリーのような物体だった。
0.050 111
分離して水分が出てきた。
固体は硬めのゼリーのような物体だった。
0.040mol/L のフルーチェよりも分離しており、固体は
硬かった。
[c ㎡]
分離して出てきた水のために面積
が大きくなった。
[mol/L]
以上より、牛乳と同じ濃度(0.030mol/L)のものがフルーチェに近い固さになった。
Ca イオンがフルーチェの固さや状態に影響することが分かった。
やはり、フルーチェ作りに最適なものは牛乳であるようだ。
【実験2】
《きっかけ》
実験1より、Ca イオン(2価の金属イオン)でフルーチェが固まることが分かった。そこ
で、ほかの金属イオンでも固まるのではないかという疑問を抱いた。
- 40 -
《目的》
Mg イオン(2価の金属イオン)や Na イオン(1価の金属イオン)でも固まるかどうか実
験する。
《仮説》
Mg イオンは2価のイオンなので Ca イオンと同じように固まる。また Na イオンは1価の
イオンなので、倍の量にすれば Ca イオンと同じように固まる。
《器具・試料・薬品》

器具
電子天秤、薬さじ、薬包紙、25ml メスシリンダー、100ml メスフラスコ、ホールピペット、
100ml ビーカー、ガラス棒

薬品・試料
塩化マグネシウム MgCl2、塩化ナトリウム NaCl、フルーチェの素、純水
《操作》
① 0.10mol/L の MgCl2 水溶液を 100ml 作る
電子天秤で MgCl2 を 0.95g 量りとり、ビーカーに入れ、少量の水で溶かす。これをメスフ
ラスコに移し(ビーカー内に付着した分も純水で流しながらメスフラスコに移す)、標線ま
で純水を入れて作る。
② ①の溶液に純水を加え、0.030 mol/L の濃度の溶液を作る。
③ 同様に、NaCl を 0.59g 量りとり、0.030mol/L の NaCl 水溶液を作る。
④ フルーチェの素 20ml に②③で作ったそれぞれの水溶液 20ml を加え、ガラス棒で 50 回
かき混ぜる。
《結果・考察》
どちらも固まらなかった。
Ca イオンでないと固まらないことが分かった。
【予備実験2】
《きっかけ》
フルーチェの箱の注意書きより疑問を抱いた。
「冷えたフルーチェで作ると固まりにくい場合がありますので・・・」
→温度によって固まらないことがあるのだろうか?
《目的》
加熱して固まるかどうかを調べる。
《仮説》
加熱をするとフルーチェは液体になり、そのあと冷ましても液体のままである。
《器具・試料》
フルーチェの素、無調整牛乳、電子レンジ、耐熱皿
《方法》
① フルーチェの素と牛乳を各 50ml ずつ量りとる。
- 41 -
② フルーチェの素に牛乳を加え、攪拌する。
③ できあがったフルーチェを電子レンジにかける(70℃の設定)
《結果》
加熱した直後は液体になった。それをしばらく置いて冷ましたところ、もとのフルーチェ
の状態に戻った。
《考察》
温度によって状態は変わるが、性質は変わらない。
【実験3】
《きっかけ》
予備実験2より、温度によって状態が変わることが分かった。
どれくらいの温度で固まらないのかを調べたいと思った。
《目的》
フルーチェが固まらない温度の範囲を知る。
《仮説》
フルーチェの素の箱に「フルーチェは・・・常温で保存してください」「冷えた牛乳をくわえます」と表
記してあったことより、冷たい牛乳と常温のフルーチェの素を合わせた温度に近い温度の
範囲で固まる。
(10℃∼15℃くらい)
《器具・試料・薬品》

器具
25ml メスシリンダー、50ml ビーカー、100ml ビーカー、ガラス棒、ホットプレートスタ
ーラー、水槽、スタンド、温度計

薬品・試料
無調整牛乳、フルーチェ、純水
《操作》
① メスシリンダーでフルーチェの素、牛乳を各 20ml 量りとり、ビーカーに移す。
② 水槽に沸かした湯をはり、水槽の中にスタンドに吊した温度計を入れる(このとき、ホ
ットプレートスターラーの上に置いて攪拌することで湯の温度を一定に保つ)
。
③ 湯が 50℃、40℃、30℃、20℃、15℃、低温になったところで①のビーカーを浸ける。
④ 湯、フルーチェの素、牛乳が同じ温度になったらフルーチェの素に牛乳を加えて1分間
かき混ぜる。
《結果》
20℃前後で通常のフルーチェに近い状態のものができた。
(下表参照)
フルーチェと
結果(素と牛乳
牛乳の温度[℃]
を混ぜたときの
備考
固さ)
低温(約2)
●
とっても固まる・のばしたら切れる・固
- 42 -
いダマができる
●→固まりすぎ
市販のより固い
◎→市販のフルーチェ
15
◎●
20
◎
しっかり固まった
○→ややゆるい
30
○
ゆるめのフルーチェ
△→若干固まる?程度
40
□
分離した
□→飲むヨーグルト程度のとろみ
50
×
牛乳よりとろみがある程度。湯葉有り
×→液体
《考察》
温度が高いと固まらないが、低ければ固まる。
また、予備実験の結果と同じように、高い温度で作ったフルーチェも、しばらく置いて冷
ますと固まった。
【結論】
フルーチェは、フルーチェの素に含まれるペクチンと牛乳に含まれるカルシウムが反応す
ることによって固まる。
ゲル化剤となるペクチンは熱を加えても分解されない。
【反省・感想】
はじめは、操作ひとつひとつの意味をとることができず、何度も実験に失敗してしまった。
しかし、先生方のご指導のおかげでだんだん操作の意味を理解しながら実験できるように
なった。また、この研究を通して論理的に順序立てて考えることが、少し身についたと思
う。
今回できなかった実験に、
「果物から抽出したペクチンでフルーチェを作ることはできるの
か」というものがあり、またの機会に実験してみたい。
そして、なぜ Mg イオンや Na イオンでは固まらなかったのかも調べてみたい。
【参考文献】
実教出版
増補三訂版化学総合資料、化学Ⅰ新訂版、化学Ⅱ新訂版
ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3
ハウス食品
http://housefoods.jp/inquiry/index.html
- 43 -
天然色素の抽出と染色
Ⅰ
研究の目的
家で染め物をする際に、身近な染料として紫キャベツやタマネギなどを用いること
が一般的に知られている。その時に紫キャベツから作った染色液に、レモン汁・石鹸な
どを加えると、色が変化し、様々な色を楽しむことができる。なぜ、色が変化するのだ
ろうか。そこには染色液に加えるものの pH 濃度が関係していると思われる。また、染
色を助けるはたらきをする媒染剤によっても色が変化するとされている。この現象につ
いて、追跡実験をふまえて、詳しく研究することにした。
Ⅱ
仮説
紫キャベツに含まれている色素が pH 濃度によって変色するということは教科書に
も記載されている。
仮説Ⅰ:紫キャベツの色素液は、pH 濃度により特有な色に変化する。
仮説Ⅱ:仮説Ⅰが成り立つとすれば、他の染色液でも pH 濃度により変色する。
仮説Ⅲ:水に溶け出す(水溶性)色素と油に溶け出す(脂溶性)色素は色が違う。
仮説Ⅳ:媒染剤に浸けると浸けないものより色素特有の色が出る。
Ⅲ
実験・結果
実験① pH 検査用の色素液を作る
材料 紫キャベツ(30g)
用具
ビーカー
ガラス棒
加熱用具
メートルグラス
水酸化ナトリウム液
塩酸
駒込ピペット 試験管 試験管立て 純水 pH メーター ろ過装置
(1) 色素液を作る
紫キャベツをきざむ。
100ml の湯でよく煮て、色素を抽出する。
ろ過して紫色の抽出液を作る。
(2) pH のシリーズを作る
塩酸 1.0ml を取り、メートルグラスに入れる。純水 9.0ml を入れて液全体を 10.0ml
とする。このうちの 1ml をメートルグラスに残し、9.0ml を試験管に移す。
残した液の入ったメートルグラスに純水 9.0ml を入れて、液全体を 10.0ml として
このうちの 1.0ml を残して 9.0ml を試験管に移す。
これを繰り返して 10 倍(A)、102倍(B)、103倍(C)、104倍(D)、105倍(E)となる試験
- 44 -
管を作る。
塩基性の溶液として水酸化ナトリウムも同様に作る。
(105倍に希釈した溶液から濃
い順にそれぞれ F,G,H,I,J とする。
)
(3) pH による色素の色の変化
pH 測定器を用いて A から J までの溶液の pH を測定する。
抽出していた色素液を等量ずつ加え、各色の記録をする。
抽出した色素液には、アントシアン(アントシアニン)という色素が含まれている
とされている。
結果表
pH シリーズ
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
pH
0.3
1.0
1.8
3.8
5.5
6.0
6.8
10.0
12.4
13.4
色
赤
赤
赤
赤紫
紫
紫
青
緑
黄緑
黄
28.5
28.3
温度
28.1 27.8 28.2
28.1
28.2 28.2 28.2 28.3
結果、溶液の酸性が強ければ色素液の色は赤く変色し、塩基性が強ければ、色素液は黄
色く変色する。
追加実験 タマネギとヨモギの pH 濃度による色の変化
実験③で作ったヨモギとタマネギの色素液を試験管3本に等量ずつ入れ、それぞれ塩
酸・純水・水酸化ナトリウムを2ml ずつ加え、色の変化をみる。
結果
タマネギの皮の場合
加えた溶液
塩酸
純水
水酸化ナトリウム
色の変化
特になし
特になし
濃く変化した
加えた溶液
塩酸
純水
水酸化ナトリウム
色の変化
特になし
特になし
濃く変色した
ヨモギの場合
- 45 -
右、タマネギから抽出した染色液
左、ヨモギから抽出した染色液
上の結果より水酸化ナトリウムによって色の変化が起きた。さらに水酸化ナトリウムの
pH シリーズ(濃度10−1 倍 J、10−2倍 I、10−3倍 H、10−4倍 G)を作り、詳しく
調べた。
結果
タマネギの皮の場合
pH シリーズ
HCl溶液
水
G
H
I
J
pH
0.2
6.5
7.0
8.7
11.9
13.0
温度
26.8
27.1
26.9
26.9
26.9
26.9
色
白濁色
白濁色
白濁色
緑
黄土
茶
ヨモギの場合
pH シリーズ
HCl溶液
水
G
H
I
J
pH
0.3
3.1
4.3
10.0
11.9
12.9
温度
27.0
27.1
27.0
27.0
27.0
27.2
色
薄い
→
→
→
→
濃い
結果、ヨモギの葉やタマネギの皮の色素液も塩基性の溶液によって色素液の色が変わる。
- 46 -
実験②
水溶性か脂溶性かを調べる
材料 ヨモギ 茶葉 紫キャベツ
用具 乳鉢 乳棒 試験管 試験管立て アセトン 水 駒込ピペット
脂溶性の溶媒として、アセトンを用いた。
(1) ヨモギ・茶葉・紫キャベツをそれぞれ 3.0gずつ、アセトン用と水用の乳鉢に入れ
る。
(2) 水用の乳鉢には水を、アセトン用の乳鉢にはアセトンを 10.0ml ずつ加える。
(3) 乳鉢で材料を押しつぶす。
(4) 得られた色素液を試験管に入れて水とアセトンでどのように色素が抽出されたかを
比較する。
(5) 結果を記録し、考察する。
結果
ヨモギ、紫キャベツ、茶葉の三種類ともアセトンで抽出した色素液の方が、より鮮やかな
色が出て、明るくなった。
(例)
ヨモギ+水=茶色
ヨモギ+アセトン=透き通った緑
紫キャベツ+水=紫
紫キャベツ+アセトン=ピンク
茶葉+水=濁った黄緑
茶葉+アセトン=濃い緑
考察
仮説Ⅰでは、pH 濃度が高いとき色素液は青でなく黄に変色したが、pH 濃度が低いとき
は仮説どおり赤に変色した。
仮説Ⅱでは、ほかの染色液でも pH 濃度が高ければ変色したが、低いときは変化が見られ
なかった。
仮説Ⅲでは、仮説通り水溶性・脂溶性によって色素液の色は変色した。
このことより、色素液の色の変化は種類によって多少の違いはあるが、pH 濃度に強く関
係し、また、同じ色素液でも水溶性と脂溶性では、脂溶性の方がより色素特有の色が出る
ことが分かった。
- 47 -
実験③
天然色素の抽出と染色
材料 ヨモギの葉 タマネギの皮
用具 ビーカー ガーゼ ミョウバン 硫酸銅 湯
(1) 色素の抽出
タマネギの皮 10g、ヨモギの葉 50g を各ビーカーに入れ、熱湯 500cm3をそれぞれ
に加え、15 分間煮沸する。
冷却後、ガーゼでそれぞれろ過し、別のビーカーに移す。
(2) 染色
4×4cm2 の布を用意し、それらを湯に浸して軽く絞る。
熱した(1)の液に布(絹・レーヨン・ポリエステル・麻・麻綿・洋絹・ナイロ・
綿)を入れ、時々かき混ぜながら 20 分間浸した後取り出し、軽く水洗いして絞る。
(3) 媒染剤
媒染剤① ミョウバン 5gを 95gの湯に溶かしたもの(濃度5%)
媒染剤② 硫酸銅(Ⅱ)5gを 95gの湯に溶かしたもの(濃度5%)
媒染剤①に(2)の布を各半分 20 分間浸し、取り出し水洗いをして、乾燥させる。
同じく媒染剤②に残りの布を浸し、同様の手順で染色、乾燥する。
結果
タマネギの皮の場合
ヨモギの葉の場合
左から順に絹・レーヨン・ポリエステル・麻・麻綿・洋絹・ナイロン・綿
上から そのまま(何も加えない場合)、硫酸銅溶液を加えた場合、ミョウバン溶液を加えた
場合の順
結果
タマネギの場合:媒染剤を浸けてないものに対して、ミョウバンは鮮やかな色に、硫酸
銅は濃いはっきりとした色になった。
ヨモギの場合:タマネギに比べると、布に対する着色があまり見られなかった。媒染剤
を浸けてないものに対しては、ミョウバンは薄くなっており、硫酸銅は濃くなった。
- 48 -
追加実験
有機溶媒・無機溶媒による染色の違い
材料 紫キャベツ
用具 乳鉢 乳棒 試験管 試験管立て 駒込ピペット
(1) 実験③(1)∼(3)と同様の手順で紫キャベツ 9.0g と水 30.0ml の抽出液をつく
る。
(2) 麻・綿麻生地三枚ずつを(1)の水溶液に 20 分間浸す。
(3) 生地を取り出しそれぞれ一枚ずつをミョウバン・硫酸銅をお湯で溶かし、20 分間
各々の生地を浸す。
(麻・綿麻それぞれ一枚はそのままにしておく。)
(4) 色、pH を比較する。
結果
紫キャベツ(左)水 (右)アセトン
茶葉 (左)水 (右)アセトン
実験③で紫キャベツを水で抽出し、麻・綿麻をそれぞれ浸けたところ、色が紫から濃青色
へと変化した。それに基づいて次のような実験をした。
実験④
色素と繊維の関係
材料 紫キャベツ
用具 乳鉢 乳棒 試験管 試験管立て 駒込ピペット
(1) 実験③(1)∼(3)と同様の手順で紫キャベツ 9.0g と水 30.0ml の抽出液をつく
る。
(2) 麻・綿麻生地三枚ずつを(1)の水溶液に 20 分間浸す。
- 49 -
(3) ミョウバン・硫酸銅をお湯で溶かしたビーカーに 20 分間取り出した生地をそれぞ
れの溶液に浸す。(麻・綿麻それぞれ一枚はそのままにしておく。
)
(4) 色、pH を比較する。
結果
実験③で用いた水溶液 pH 6.9
綿麻(左) pH 7.3
麻(右) pH 6.8
考察
仮説Ⅳで立てた通り、媒染剤に浸けたものは、浸けてないものよりも鮮やかになった。
また、天然繊維の布は染まりやすく、媒染剤の影響も受けやすい。しかし、化学繊維のナ
イロンやポリエステルは染まりにくく、媒染剤の影響も受けにくい。
これからの課題
同じくアントシアンを含むものからも、実験①のような結果が得られるか。
化学繊維の中でも染まりやすいものはあるのか。
媒染剤で価数の違う硫酸銅ではどのように変化するのか。
有機溶媒として、エチルアルコールを使用するとどうなるか。
温度の違いによって色素の出方はどうなるのか。
感想
結果が出ても、その結果がどう関係しているのか考えるのが大変だった。
今回の研究で、様々な色の変化を知ることができたので、染め物をする機会があれば
利用したいと思った。
媒染剤の有無や、布の種類だけで実験結果が大きく左右されていたのに驚いた。機会が
あれば、浸す溶液に身近な物質を入れて、その関連性について詳しく調べてみたいと思っ
た。
参考文献
理科実験 植物色素を探る http://homepage3.nifty.com/~hispider/jikken/hanatoph.htm
抽出の方法 http://www.rinku.zaq.ne.jp/chlo/soap/tisiki/tyusyutu.htm
天然色素の抽出と染色 高等学校化学Ⅱ改訂版 啓林館 p.281
- 50 -
ハエトリソウとオジギソウの運動に関する研究
研究の動機・目的
幼い頃からよくオジギソウを触ったり、ハエトリソウにアリをいれたりして遊んでいたが、な
ぜ触ることによって葉をとじるのかなど、オジギソウとハエトリソウについて知らない事も多い。
そこで、せっかくのこのような機会があるのだから、子供の頃の疑問を解決するべくオジギソウ
とハエトリソウについて、一度じっくり調べてみたいと思ったのでこの研究を始めた。
今回の研究では主に、刺激の種類、大きさ、場所など、葉の構造を調べることで、オジギソウ
とハエトリソウの運動が起こる仕組みを明らかにすることを目的とした。
材 料:オジギソウ、ハエトリソウ
準備物:水槽、磁石、線香、氷、温度計、ビーカー、ストップウォッチ、暗室、アリ、松の葉
実験の環境条件:以下の実験は基本的に気温 27.5℃、照度 3000 ルクス程度の明るく直射日
光の当たらない無風の室内で実施した。
1
葉の運動の要因を調べる実験
{目的}刺激Ⅰ∼Ⅳ(Ⅰ:温度 Ⅱ:光
Ⅲ:磁力 Ⅳ:化学物質)をハエトリソウ・オジギソ
ウに与えて観察することで、接触以外に葉が反応する刺激を探る。
Ⅰ
温度
(1)高温
{方法}火のついた線香を小葉・捕虫葉の下5mmに近づける。
{結果}ハエトリソウ:閉じた。
オジギソウ
:葉が閉じてしおれた。
{考察}強い熱刺激による細胞の膨圧の低下などが原因で、ハエトリソウもオジギソウも接触し
なくても反応したと考えられる。
(2)低温
{方法}氷水を入れた水槽にオジギソウとハエトリソウが入った水槽を入れた。
{結果}ハエトリソウ:反応が鈍くなった。
オジギソウ
:20℃で葉が閉じ、14.5℃で反応が鈍くなり、12℃で反応しなくなった。
{考察}ハエトリソウもオジギソウも、一定の温度より温度が下がると反応が鈍くなった。
- 51 -
Ⅱ
光
(1)暗所
{方法}ハエトリソウとオジギソウを暗い場所に1日放置し、暗所内で松の葉で刺激を与えた。
{結果}ハエトリソウ:葉は開いていて、刺激したら反応した。
オジギソウ
:小葉は閉じたが葉柄が下がらなかった(夜の就眠運動と同様の反応)
。
{考察}オジギソウは光の強さの変化を感知して運動を行うが、ハエトリソウの捕虫行動は光の
強さの影響を受けないと考えられる。
(2)明所
{方法}ハエトリソウとオジギソウを直射日光がよく当たる窓際(2994ルクス)に 1 日放
置し、明所内で松の葉で刺激を与えた。
{結果}ハエトリソウ:閉じた。
オジギソウ :閉じた。
{考察}暗所と同様。
Ⅲ
磁力
{方法}強力磁石を葉に近づける。
{結果}ハエトリソウ:反応なし。
オジギソウ :反応なし。
{考察}ハエトリソウ、オジギソウは、磁石には反応しないと考えられる。
Ⅳ
化学物質
(1)煙
{方法}線香の煙をビーカーにためて、覆いかぶせた。
{結果}ハエトリソウ:反応なし。
オジギソウ :葉が閉じてしおれた。
{考察}煙については熱刺激の要因もあり、本当に煙で閉じたのかは不明。
(2)薬品
{方法}ジエチルエーテルまたはクロロホルムをしみこませ脱脂綿をシャーレに入れ、ハエトリ
ソウ・オジギソウをともに同じプラスチック容器にいれた。
{結果}
ジエチルエーテル
ハエトリクサ
葉を触れても反応しなくなった個体もあっ
クロロホルム
葉を触れても反応しなくなった。
たが、反応する個体もあった。
オジギソウ
葉を触れても反応しなくなった。
葉を触れても反応しなくなった。
{考察}ジエチルエーテルではうまく行かないものもあったが、クロロホルムでは運動が阻害さ
れた。このことから、これらの化学物質は動物と同様に麻酔として働いたと思われる。
- 52 -
2
葉の運動に関係する接触刺激について調べる実験
(1) 刺激を受容する部位を調べる実験
{目的}ハエトリソウは葉の感覚毛に触れることで閉じるといわれる。それ以外の部分では閉じ
るのか、また、オジギソウではどの部分に触れると葉が閉じるのかを調べる。
{方法}ハエトリソウは感覚毛以外の下図の①∼④の部分を松の葉を用いて1秒間隔で弱く刺激
を与え、運動するかどうかを記録する。オジギソウは葉の⑤∼⑦の部分を松の葉で弱く刺
激した。
{結果}
※弱い刺激:アリ一匹(13.4mg)が歩いたときの刺激よりも弱い刺激
○…反応した
×…反応しなかった
ハエトリソウ
①
②
③
④
結果
×
×
×
×
オジギソウ
⑤
⑥
⑦
⑧
結果
×
×
×
×
{考察}ハエトリソウは感覚毛以外の部分を弱く刺激しても反応しなかった。反応しなかったと
ころはやや強い刺激(アリ1匹が歩くよりも大きな刺激)を与えたが、やはり反応しなか
った。文献には感覚毛以外の部分を刺激しても反応すると述べられている物もあったが、
今回の実験ではそれを確認できなかった。オジギソウは弱い刺激では反応せず、ある程度
の強さをもった刺激を与えなければ反応しないことがわかった。
- 53 -
(2)
どの程度の大きさで反応するか(閾値)を調べる実験
{目的}強い刺激を与えたときは当然葉を閉じるが、逆にどれくらい弱い刺激で葉を閉じさせる
ことができるか、その閾値を調べる。
{方法}ハエトリソウの捕虫葉・オジギソウの小葉・主葉枕の各部位に生きているアリ一匹(重
さ 13.4mg)をのせて歩かせ、反応が起こるか調べた。また、オジギソウの主葉枕に 500mg
∼1100mg のおもりを取り付け、オジギソウが反応する大きさの限界を調べた。
{結果}
・アリ一匹(重さ 13.4mg)をのせて歩かせた時の反応(弱い刺激)
アリの重さ
オジギソウ
ハエトリソウの捕虫葉
13.4mg
小葉は閉じた。主葉枕は反応しない。
感覚毛にふれると葉は閉じた
・オジギソウの葉柄におもりを糸でつるしたときの反応(主葉枕の反応)
※おもりをつるした糸は、主葉枕から約 3cm 離れた葉柄にくくりつけた。
重りの重さ
500mg
600mg
700mg
800mg
900mg
1000mg
1100mg
反応の有無
なし
なし
なし
なし
なし
あり
あり
{考察}ハエトリソウの感覚毛、オジギソウの小葉ともにアリ一匹(重さ 13.4mg)が歩く程度
の弱い刺激でも反応したことから、閾値はアリ一匹の重さ未満であることが考えられる。
ただ、オジギソウの主葉枕は反応にある程度強い刺激が必要である。つまり、オジギソウ
は各部位ごとに閾値が異なっていると考えられる。
(3)
運動する刺激の間隔の限界を調べる実験
{目的}ハエトリソウでは短時間に2回、葉の感覚毛に触れることで、葉が閉じると言われる。
短時間とはどれくらいなのかを調べる。
{方法}
1
ハエトリソウの感覚毛とオジギソウの葉を十分な強さで、一回ずつ松の葉で刺激する。
2
5秒後に再度刺激し運動するかどうか調べる。また同様の操作を5秒ごとに30秒までくり
かえす。
3
同じ実験を10回程度繰り返した。
{結果}
間隔
ハエトリソウ
○…すぐに閉じた △…閉じるときと閉じないときがあった
×…閉じなかった
5秒
10秒
15秒
20秒
25秒
30秒
35秒
○
○
○
○
○
△
×
オジギソウに関しては、1回の刺激で運動するので、実験はしなかった。
{考察}ハエトリソウは感覚毛を 25 秒以内に2回の刺激すると葉を閉じる。2回目の刺激を 35
秒以降に行った場合は閉じなかった。25∼35 秒の間に閉じるか閉じないかの境界がある
と考えられる。資料では2回目の刺激は 30 秒以内であれば閉じるとあったので、今回の
実験結果は、ほぼその通りとなった。
- 54 -
3
葉の開閉にかかる時間の計測
(1)葉が閉じる運動にかかる時間の計測
{目的}葉の開閉にかかる時間を計測し、運動のしくみを考える。
{方法}刺激をしてから葉が閉じるまでの時間をストップウォッチで計測した。さらに葉を閉
じさせた植物が再び葉が開くまでの時間を計測した。開く運動については 1 分ごとに、
完全にとじた状態からどの程度葉が開いたか、幅を記録した(葉の幅 21mm の小葉を使
用)
。光条件はやや暗い室内の中央と、直射日光はあたらないが明るい窓際に置いて、そ
れぞれの場合で実験した。
{結果}葉が閉じるまでの時間はオジギソウ、ハエトリソウともに室内窓際・室内中央ともに1
秒以内であった。
・葉が開くまでの時間
オジギソウ
室内中央 463 ルクス
刺激後の時間(分後) 長さ(mm)
オジギソウ
ハエトリソウ
室内窓際 2994 ルクス
室内窓際 2994 ルクス
長さ(mm)
長さ(mm)
1
0
3
0
2
3
8
0
3
5
11
0
4
7
15
0
5
8
17
0
6
8
18
0
7
8
20
0
8
8
20
0
9
8
20
0
10
9
21
0
11
10
―
0
12
10
―
0
13
11
―
0
14
11
―
0
15
12
―
0
16
13
―
0
17
13
―
0
18
14
―
0
19
15
―
0
20
16
―
0
21
16
―
0
- 55 -
室内中央のオジギソウは刺激後21分後で16mm、1時間後でも16mmでそれ以上開かな
かった。窓際に放置したものは10分後に完全に元の状態に戻った。ハエトリソウは室内・窓際
に問わず、1時間程度では開かなかったが、翌日には完全に葉が開いた。また、アリを入れたも
のは開くまでに7日間かかった。
{考察}
葉が閉じる運動の早さは明暗にあまり関係ないようだった。開く運動についてはオジギソウは
明るい場所で回復が早く、暗い場所では遅い。ハエトリソウはオジギソウに比べて長時間かけて
葉を開くことがわかった。特にアリを入れたものは養分を吸収するためか、1週間かかったと考
えられる。
これらの実験からオジギソウとハエトリソウの葉が閉じる運動はともに同じように素早い。資
料によると、オジギソウ・ハエトリソウともに閉じる運動は細胞の膨圧運動が原因で起こると書
いてあった。ところが、葉を開く運動は両種で時間が大きく異なるため、そのしくみも異なるこ
とが考えられた。実際に資料で調べてみるとオジギソウは膨圧運動で、ハエトリソウは成長運動
と書いてあった。
(2)葉の開閉運動前後のハエトリソウの葉の横幅の計測
{目的}ハエトリソウの葉が開く運動が、葉の成長運動であることを確かめる。
{方法}葉の横幅を葉に刺激を与えなかったものと、刺激を与えたもの(アリを入れ、刺激した
ものとアリを入れず、刺激したもの)とで比較し、実験の前後で記録する。
{結果}
アリを入れ、刺激する
アリを入れず刺激のみ
刺激なし
回数
長さ(cm)
長さ(cm)
長さ(cm)
1
2.2
2.5
2.5
2
2.3
2.6
2.5
3
2.4
2.7
2.5
4
2.4
2.7
2.5
5
2.4
2.7
2.5
葉の横幅は、刺激を加えたときはアリの有無にかかわらず、回数を重ねるごとに大きくなった
が、一定の大きさで成長が止まった。刺激なしの葉では横幅に変化が見られなかった。
{考察}
今回の実験でもアリの有無に関わらず葉の横幅が大きくなったことで成長運動であることが
考えられた。
- 56 -
4
ハエトリソウ・オジギソウの葉の構造の観察
{目的}葉の構造を観察することで、運動のしくみを考察する。
(a)ハエトリソウの葉の構造
{方法}ハエトリソウの葉をちぎり、表面を顕微鏡で観察した。また、ハエトリソウの葉の切片
を作り、それも顕微鏡で観察した。
{結果}葉の内表面の感覚毛周辺の拡大写真
・赤い部分に小さな突起が無数に存在しているが、ここから捕らえた虫を消化する消化液が出て
いると考えられる。
・感覚毛に触れると、てこの原理で小さな力が増幅されて、葉身に伝わるといわれる。葉の運動
に関係する感覚毛の構造を確認できた。
葉の断面の様子(葉が閉じたとき)
{考察}
・葉が閉じるときの細胞の変化は資料によって様々な説が唱えられており写真上部の細胞(葉の
内側)の細胞の膨圧が低下し、細胞が収縮するために葉が閉じるという説と、写真下部(葉の外
側)の細胞の膨圧が上昇し細胞が大きくなるために葉が閉じるという説がある。
・断面の観察は葉の内側、外側ともに大きな細胞が観察できたが、今回の観察では葉が開いた状
態で切片をつくることができなかった。そのため、葉の内側、外側のどちらの細胞が運動に関係
するか、明らかにできなかった。
- 57 -
(b)オジギソウの葉の構造
{方法}オジギソウの主葉枕の切片を作り、それを顕微鏡で観察する。
{結果}主葉枕の輪切りの様子(主葉枕が下がった状態)
葉が閉じるときの細胞の変化は様々な説が唱えられている。写真は葉枕の横断面で下部の細胞
(葉の裏側)の膨圧が低下し、細胞が収縮するために葉柄が下がるという説が有力とされる。
{考察}下側の細胞群で膨圧運動が起こり、葉柄が下がるとされるが、実際の膨圧の変化は確認
できなかった。
実験のまとめ・考察
・オジギソウ、ハエトリソウともに運動の様子や運動する部分の様子は異なるが、接触刺激によ
って1秒以内に素早く葉を閉じるという共通点があった。
・オジギソウ、ハエトリソウともに接触以外では温度(高温・低温)や化学物質(クロロホルム
やジエチルエーテルなどの麻酔薬)による反応は共通に見られた。しかし、光刺激については
ハエトリソウでは反応が見られず、オジギソウでは反応が見られた。夜に葉を閉じる就眠運動
はオジギソウで見られ、ハエトリソウには見られない。光刺激による反応の違いは就眠運動を
おこす何らかの要因が関係していることが考えられる。
・オジギソウの小葉やハエトリソウの葉はきわめて小さな接触刺激によっても敏感に反応する
(閾値が小さい)。
それに対してオジギソウの葉柄の付け根の葉枕の細胞では小葉に比べて閾値
が大きいことがわかった。
・葉が開く運動はオジギソウでは30分以内で早く、ハエトリソウ1日以上かかった。このこと
から、葉が開く運動のしくみはオジギソウとハエトリソウでは大きく異なることが考えられた。
資料では閉じる運動は膨圧運動、開く運動はオジギソウで膨圧運動、ハエトリソウで成長運動。
<参考図書>
・動く植物:柴岡孝雄著:東京大学出版会、 1981 年
・動く植物 理学入門:P.サイモンズ著 柴岡孝雄・西崎友一郎訳:八坂書房、 1996 年
・動く植物 その謎解き:山村庄亮、 長谷川宏司編著:大学教育出版、 2002 年
・植物の運動:清水清著:ニューサイエンス社、 1979 年
・食虫植物:小宮定志、清水清著:ニューサイエンス社、 1978 年
- 58 -