2.医薬品 - 中国日本商会

2.医薬品
(1)業界概況
2003 年の中国では、SARS(重症急性呼吸器症候群)が確定患者 5,327 例、死亡 349 例を
数えた。SARS 流行のピーク時(4-6 月期)には SARS 以外の患者の病院離れが医薬品販売業
界の売上に影響したが、業界全体でみると大した影響ではなかったようだ。
2003 年における医薬関連製造業界の販売収入(化学製薬業、漢方薬製造業、生物生化製
薬業、その他製薬業、衛生材料製造業、医療機器製造業、製薬機械製造業の合計)2,962
億元は対前年比 19%増で、伸長率で前年を 2.7%上回った。そのうち化学製薬業では 1,633
億元で対前年比 20%増であった(「医薬経済報」2004 年 2 月 16 日号)。
また、医薬品販売業界では 2003 年の業界売上高(医薬品類、医療機器類、化学試薬類、
ガラス什器類、漢方薬材、漢方製剤、その他薬類の合計)2,200 億元は対前年比 15%アップ
[流通重複売上高補正後合計:1,250 億元で対前年比 10%アップ]となった。そのうち医薬
品類売上高は、1,495 億元で対前年比 15%の伸び[流通重複売上高補正後合計:853 億元で
対前年比 10%の伸び]を示した(「中国医薬市場信息」2004 年 2 月 28 日号収載記事)
。
2003 年の中国医薬品産業は、部分的に SARS の影響があったものの、年間を通した全体
としては近年来の高度成長がさらに加速された年だったと言える。
(2)WTO加盟後
WTO 加盟後第二年目に当る 2003 年は、市場開放、許認可の透明性、ダブルスタンダード
の是正などを推進するための薬事法規や行政上の改革に進展があった。
2002 年 12 月施行の「薬品登録管理弁法」に続き 03 年には、
「生物製品批簽発管理弁法」
(1 月)、「薬品生産質量管理規範(GMP)認証管理弁法」(1 月)、「薬品生産監督管理弁法」
(2 月)、
「薬品経営質量管理規範(GSP)認証管理弁法」
(4 月)、
「薬物臨床試験質量管理規
範(GCP)」(9 月)、「薬物非臨床研究質量管理規範(GLP)」(9 月)などが施行された。
法規整備に伴い、実際ビジネスの場にも改革開放の波は押し寄せている。製薬企業は、
製造工程管理と品質管理を国際標準に適合させ、GMP 認証の取得を求められる。2004 年 7
月以降認証無しでは操業停止となる。ダブルスタンダード撤廃のために中国製薬企業も取
得を義務付けられた。02 年末の製薬企業(西洋薬・漢方製剤および薬品原料)は約 5,700
社とみられたが、GMP 取得社は 26%(1,470 余社)だった。03 年末で GMP 取得は、2,355 社
となった。対応できないメーカーは淘汰される。また、販売業界でも GSP 認証の 04 年末ま
での取得が義務付けられた。GSP 認証を取得した業者(卸売業と小売業)は 02 年末で 131
社、03 年末現在で 2,224 社となったが、業者数(2002 年末現在:卸売業 1.3 万、小売業
1
16 万)からみて、極めて少ない数である(「中国医薬市場信息」収載記事)。
医薬品業界では製造業で外資導入が行われて来たが、流通業界は未開放だった。WTO 議
定書に示された外資全面開放を 2004 年末に控え、03 年に初めて外資投入による合弁卸売
企業(総投資額 1.2 億元、登録資本金 8 千万元、外資出資比率 49%)が認可設立された。
なお、医薬品の輸入関税率は、WTO 議定書で約束した通り 2003 年初めには平均 6%まで下
がった(「中国証券報」2003 年 3 月 10 日号)。
政府による WTO 対応策が 2003 年に医薬品産業界を動かし、改革開放への準備が進みつつ
あるが、中国企業にとってその道は険しく厳しいようにもみえる。
(3)直面する問題
中国に進出した日系企業はどのような問題に直面しているのであろうか。これを北京・
天津に拠点を有する日系製薬企業の交流会である「北京医薬品部会」
(正会員 19 社、準会
員 2 社)の 2003 年月例会における話題を追うことで探ってみる。
1)薬事行政
多くの薬事関連法規が 2003 年も施行された。透明性が改善され待遇の内外格差の是正が
期待されるところだが、許認可や規則解釈が行政の裁量である限り、運用により改善が進
展しないことも往々にしてあり得る。
①2003 年 4 月、薬事行政主管部門は新たに食品の監督管理を加え、国家食品薬品監管理
局(SFDA)として改組されたが、直後に SARS に直面し、申請等の受理窓口を閉鎖して郵送
受付とした。SARS 終息後も窓口が閉鎖されたままで、郵送した書類が紛失する例もあり、
コミュニケーションに支障を来した。
②「薬品登録管理弁法」
(2002 年 12 月施行)に関連して問題視されるのは知的財産権に
関する点、すなわち、申請データの独占性保証に隙間が存在する点、当局の申請データ漏
洩防止の具体策が明示されない点、新規開発品の上市に対する先発保護(監視期間)が輸
入品には与えられない点、などであるが、2003 年にこれらの点で改善はみられなかった。
③「薬品生産質量管理規範(GMP)認証管理弁法」
(2003 年 1 月施行)に関連して、2004
年 6 月の GMP 認証取得期限については、ダブルスタンダード廃止の方針に反して、中国製
薬企業の対応遅れに対する救済策が当局によって準備される、との情報がある。
④「薬品生産監督管理弁法」(2003 年 2 月施行)では、委託生産の規定が緩和されなか
ったこと、すなわち、輸入品の中国市場向けの委託生産が許可されないことが論議された。
⑤「薬品添付文書とラベルの管理規定」の『意見聴取稿』
(2003 年 7 月発)については、
要求する表示項目が多く、ラベル・スペース上記載困難と思われる規定など、画一的で現
実に対応困難な規定が一部にある、との指摘がなされた。
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⑥「薬品輸入管理弁法」
(2003 年 8 月公布、2004 年 1 月施行)については、依然として
輸入品に通関毎の薬検所試験が要求される点は内国民待遇に反するが、企業の責任の下で
薬検試験結果を待たずに販売可能となったことに若干の前進を認めた。
2)医薬品入札購入制度
地域毎に医療機関で使用する医薬品を集中入札によって購入する体制が浸透してきた。
この体制により、購入価と薬価との乖離、開発メーカー製品購入の抑制、低価格品の優遇、
あるいは落札決定過程の不透明性などの弊害が問題となっている。
上海市など地方政府によっては、入札での高価格医薬品の選定を抑制する規則を定めた
ところもある。高価格品には輸入品や外資系企業の製品が多く、このような規則は実質的
に外資製品の使用抑制になり、内国民待遇を求める外資系企業から規則撤回の声があがっ
た。一方、関連行政部門で入札制度改善の検討が開始された、との情報もある。
3)薬価制度
2002 年末と 03 年初めに、国家発展計画委員会(SDPC)による西洋薬 199 品種と漢方薬
267 品種の薬価調整があり、平均 15~20%ダウンした(「中国医薬市場信息」収載記事)。
5 月に SDPC が改組された国家発展改革委員会(SDRC)により、「薬品価格管理の改革を
さらに強化するための意見の通知」
(2003 年 9 月;471 号)が公布され、代表薬品価格は国
家が制定しそれ以外は省レベルで比較係数等により制定すること、および薬品価格監査方
法を改善し薬価管理を強化すること、などが通知された。
同通知に基づき 11 月に SDRC が、抗生剤抗菌剤の工場立入りによる価格調査を実施した。
同調査に基づく価格調整は 2004 年春実施されると予想される。今後、その他品種について
も立入り調査が行われる見込みである。
さらに年末に SDRC は、「政府の薬価行為規範を前進させることに関する通知」(2003 年
12 月;1331 号)を公布し、企業申請価格の審査厳格化と合理的な薬価決定システムの追求、
自主価格品の各地方での登録廃止などを通知した。
薬価制度は未だに試行錯誤の域にあり、今後も変動/変更が予想される。
4)医療保険償還薬リスト
医療保険は、都市労働者を対象とする制度が 2000 年から開設され徐々に加入者を増やし
ている。03 年末の加入者は前年から 1,495 万人増加し、1 億 895 万人に到った。04 年には
1 億 1,550 万人の加入者数を目指すと、労働社会保障部(MLSS)は発表している。また、
農民向け医療保険制度の試みも開始されたとの情報もある。
医療保険による薬剤費負担は、医療保険償還薬リスト収載品のみだが、リストの策定を
管轄する MLSS は、2000 年以降新版を公布していない。改定版の公布は MLSS の部内改組の
ため 04 年後半にずれ込む可能性が高い。同リスト改定が遅れると新薬のリスト収載が遅れ
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ることになり、新製品を持つ外資系製薬企業にとって問題となっている。
他方、一部の地方政府が地方用保険薬リストを 2003 年に制定した。北京市が 8 月(西洋
薬 828 品種、漢方製剤 590 種、民族薬 47 種)、上海市が 10 月(西洋薬 1,255 品種、漢方製
剤 800 種、民族薬 47 種)に、それぞれ施行した。天津市では現在作成作業中である。
5)医薬品不良反応監測制度
医薬品の副作用モニタリング制度は十分には機能していないようだ。中央と省レベルに
モニタリング・センターが設立され体制は整ったがソフト面で未整備未成熟の部分がある。
2002 年に「薬品不良反応監測管理弁法」
(1999 年 11 月施行)の改正に向け意見聴取稿が公
表されたが、03 年には規則として公布されなかった。
医薬品副作用モニターのナショナル・センター「国家薬品不良反応監測中心」は、2003
年 1-11 月に 21,431 件の医薬品有害事象報告を受理した。これは前年同期比 58.5%アップ
となる(「中国医薬市場信息」掲載記事)。(日本では H14 年度 28,416 件の報告数。
)
同一品目を複数国で上市する場合、ある国で発生した副作用は他の上市国行政当局へ報
告する制度が国際標準であり、中国でも収集・報告・発信の体制を整備する必要があろう。
6)連携
北京医薬品部会では直面する諸問題の解決に向けて、在中国日本大使館、厚生労働省、
日本製薬協会あるいは在中国日本商工会議所との連携と支援のもと、機会を捉え中国当局
へ意見・要望を伝えている。また、在中国の欧米同業者団体と交流し、対中国当局対応に
おける共同歩調をとろうと試みている。上海とその周辺に進出した日系製薬企業の交流会
「上海医薬品部会」との情報交換も深めている。
(4)最後に
2004 年の医薬品産業はどうなるであろうか。マクロ的には、底硬い需要増要因(所得増、
医療保険加入者増など)による成長基調に変わりはないと思われるが、ミクロ的視点に立
てば、競争の激化、薬価切下げと入札制度による価格下落傾向の継続など、より厳しい環
境がみえる。改革開放と市場経済の高波を受けて生き残った中国企業と、積極的に中国に
投資する欧米企業との狭間で、日系企業が厳しい中国展開を迫られる時代はすぐそこに来
ている。その対策・対応の準備に追われる年が 2004 年ではなかろうか。
現在、医薬品価格は『虚高』(不当に高い)と表現され、その原因/結果が行き過ぎた販
売促進活動の経費にある、との誤解を含んだ指摘がマスコミを通して流されている。誤解
は解く必要があるが、中国企業を含む業界全体として、プロモーション・コード(販売促
進活動規範)を徹底することが業界の健全性をアピールすることに繋がる。競争激化のな
かでこそ、同コードの遵守も国際標準に近づくよう働きかけていく必要があろう。
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