資料4.広州市の在留邦人の医療事情 A.邦人数 2 0 0 4年2月現在、広東省には約6, 00 0人の邦人が登録されていた。省内で最も多いのが、深!市で2, 4 00 人、次いで広州市2, 0 0 0人、東莞市8 00人、珠海市400人、仏山市200人となっている。広州市の日本人学校 には、小中学生が1 0 0人、OISCA という NGO が経営している幼稚園には40人がいる。広州市南沙の経済特 区には、日本を代表する邦人企業の進出が計画されており、関連の企業が70社位進出するので、この数年 間でさらに増えるものと思われる。 B.広州の病気 なぜか広東病といわれる鼻咽頭部の癌が多い。広東省からカナダに移民している中国人にこの広東病が 多いことでも有名。何が原因か、今のところ不明。 一般には、肺癌、肝癌の順に多い。感染症は、呼吸器感染症が最も多い。2002年11月、SARS が初めて発 生したのもこの地域。この地域には、小鳥が飛来することがあり、ニワトリ、アヒル、豚などを飼ってい る地域でもあり、WHO は、早くからトリインフルエンザなど、新しいウイルス発生の可能性があると注意 していた地域でもある。 C.広州の医療事情 病医院は街中にたくさんある。医療レベルはそれなりの水準に達しているが、機器などの設備は病院に よりかなり差がある。衛生環境や言葉の問題などから、外国人が受診できる医療施設はそんなに多くない。 ! 現地の医療制度・医療事情 近年、中国の社会インフラが全体的に向上し、医療機関の設備や衛生状況もかなり改善された。 しかし、基本的に中国語しか通じないので、複雑な病気は安心して診てもらえないし、清潔さに乏しい ので、一般病院にかかることはあまりないようだ。 そのため、広州、深!など外国人の居住が多い地域には、外国人向けのクリニックが建てられ、市内の 総合病院内に充分な設備とサービスを整えた外国人専門のセクションが設けられたりしているので、緊急 時でも、おおむね対応できるレベルとなっている。 日本語を話すスタッフをそろえたクリニックも大都市を中心に作られている。 また、会員制の緊急医療サービスを行う会社があり、いざとなったときに日本語で症状を伝えたり、病 院の紹介をしてくれたりするので便利。 さらに、赴任前に駐在員保険に入るなどして自衛手段をとることも必要。 " 赴任までの準備 近い中国だが、日本でそれなりの準備を済ませておくことが大切である。 ◆常備薬や既往症の薬を準備する 日本で一般的に使われている常備薬のたぐいは現地でもおおむね揃えることができる。しかし赴任当 初の生活でなれない地で、急病になってから薬を買いに走る不便さを考えたら、日本で使い慣れた薬を 持参した方がよい。また、服用中の薬は現地で専門医の診察を受けてから処方してもらうのは現実的で ― 38 ― ないのであらかじめ日本で多めに準備しておきたい。 ◆歯科疾病は赴任前に治す 歯科治療は現地の病院でも可能だが、あらかじめ悪い部分は治しておくこと。発病に備えて渡航前に 一度歯科で検診しておくとよい。 ◆母子手帳の持参を お子さんの発育や発達に関する問題が生じた時や、予防接種が済んだかどうかをチェックするために 母子手帳が意外に役立つ。中国語版の母子手帳を販売している機関もあるので、必要に応じて入手する とよい。 ! 予防接種で防げる疾病 中国では、肝炎や日本脳炎が流行しているので、赴任前に済ませておくこと。中国の医療機関でも接種 が受けられる。 ◆乳児の予防接種について 日本脳炎、麻疹、三種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風)ワクチンなどは、中国総合病院、香港で も受けられる。ポリオ、BCG、MMR(麻疹、風疹、おたふく風邪予防用)も接種できる。 ◆肝炎の予防接種 経口感染する A 型、不潔な医療器具や性行為などから感染する B 型のどちらもリスクも高いので必 要。現地でも接種可能。 ◆日本脳炎の予防接種 中国国内では年間1 0 0人以上の日本脳炎患者が発生しており、水田耕作と豚の飼育が盛んな地域で多 発する。広東省などの華南地区の場合、日本の夏にあたる期間が長いこともあり、日本脳炎の予防接種 を受ける必要がある。 " 日常生活での健康上の注意 ◆気候 広州市を含む広東省は亜熱帯地域に属し、年間を通じて湿度が高い。 真夏の暑さは強烈で6月から9月までは特に気温も上がるので、食物の管理については日本以上の注 意が必要である。 冬場は、雪が降ったり、氷が張ったりしないものの、体感温度は意外と寒い。 インフルエンザは、毎年流行する。 ◆水はそのまま飲めない 都市部での上下水道の管理は比較的進んでいる。洗面や食器を洗ったりする分にはまず心配ないが、 硬水のため、そのままの飲用はできない。3分以上煮沸してから飲むか、ミネラルウォーターや蒸留水 を購入して飲むようにしたい。 現地には、冷水と熱湯がでてくる便利な蒸留水タンク装置がある。約30リットルほど入った水のタン クを入れ替えるというもので、通常、飲料水を扱う業者が適宜配達してくれる。 ◆食品の管理には注意する 残留農薬や寄生虫を予防するため、葉物の野菜類は10〜20分、水に晒し、できる限り生食は避けたい。 また年間を通じ、卵の生食は避け、魚介類の生食に注意し、肉類もよく加熱すること。真夏の暑さと湿 ― 39 ― 度が厳しい広東省では、食中毒防止のために衛生局が「生魚禁止令」を出すこともある。 ! 病気になったら… もしもの時のために、在住者などの情報をもとに、近所の信頼できる医師をあらかじめ知っておくと良 い。また、 「緊急医療手配サービス」に加入している場合は、万一に備え、推薦されている病院を下見して おくとよい。 急病の場合、ホテル内の2 4時間対応のクリニックにかかるのが便利。そのホテルの泊り客でなくても対 応してくれる。料金的には、一般の病院より高いが、衛生面の問題も比較的少ないし、簡単な英語(場所 によっては日本語も)も通じるので便利。 " 総合病院 「○○市第×人民医院」とか「○○市中心医院」などの名前がつけられた総合病院がある。大学の付属病 院も少なくない。 これらの総合病院の多くは、2 4時間体制をとっており、外国人用の「外賓部」か、設備のグレードの高 い「特診部」などが設けられているので、そちらを利用するとよい。夜間、休日などの時間外の場合は「急 診部」にかかることになるが、中国語で医学用語や病気の症状を伝えることは難しいと思われるので、通 訳や言葉のわかる人と一緒に出掛けるようにしたい。 ◆救急車を呼ぶ 中国の救急車を呼び出す電話番号は1 2 0。 ただし、オペレーターは外国語を解せないので、現実的に利用が難しい。 救急車で運ばれる病院が必ずしも外国人の対応に慣れた病院とは限らないなどの問題がある。 # 中国で薬を使う… 中国はいうまでもなく漢方薬の本場だ。生薬製剤をはじめ、薬草を煎じて飲むものまで、さまざまな漢 方処方の薬がある。 また、西洋医学でつくられた薬も中国で一般的に売られている。日本をはじめ、外国の主要メーカーが 中国の現地工場などでは風邪薬、胃薬などの常備薬を作っているし、日本などからパッケージのみ中国語 に替えた薬品も中国に数多く輸入されている。 街の薬局は朝8時頃から夜1 1時頃まで開いている。老舗的なところや、幅広く店舗展開しているチェー ン薬局もある。 薬品の販売に関する規制が比較的甘いこともあり、日本では医師の処方箋がないと購入できない日本製 の抗生物質や抗菌剤が市内の薬局で普通に買える。しかもたばこと並んでホテルの売店でも手に入るとい う現実がある。たしかに効き目はある薬なのだが、医師の指示なしに飲み続けると、大きな病気を起こし たとき薬が効かなくなったり、重大な副作用を起こす危険性もありうるので、十分注意したい。 ◆現地で手に入るもの 包帯、バンドエイド、各種の生理用品、サロンパス(トクホン)など。 ◆手に入りにくいもの 眼帯、マスク、経皮消炎剤(湿布剤) 、オキシドール、マキロンなどの消毒薬、うがい薬、滅菌ガーゼ、 伸縮包帯、マーキュロクローム(赤チン) 、ヨードチンキなど。 ― 40 ― ★コラム★ 〜新源市場〜 広州市内から車で2 0分位のところにある。野生動物を売っている広大な市場。車で降りるとムッ とする異臭が鼻をつく。思わず中国人通訳のリエラさん(女性)が、ハンカチを口に当てる有様。 空のオリも多い。1つ1つみてまわる。市場内は火が消えたように静か。電灯の灯りはなく暗い。 暗闇に目が慣れてくると、いるいる。ニワトリ、アヒル、ハト、キジ、ハクチョウ、ウズラ、カエ ル、カメ、犬、仔牛、ヤギ、それに猫…。ちょうど買人が来ていて、猫をオリから出す瞬間に出会 った。猫は、最後のあがきでヒューと声をあげ、耳を立て、踏ん張ったところを、鉄の棒で首をは さまれ、そのまま買人の袋に。何も言わない通訳のリエラさんから、涙がひとすじ。始めてみた光 景だという。自分のところの飼猫と同じ種類だと言って呆然となる。 市場の2階に料理店の看板が。ここで調理するのかも。リエラさんが沈んでしまったので、新源 市場をあとにし、市内に引き返した。 中国人もびっくりの市場だった。大きな看板は、ところどころ動物、猫などの字が削られていた。 ネズミ、ハクビシンはいなかった。これは、SARS 発生後、売買禁止されたらしい。 ★コラム★ 〜仏山市第一人民医院〜(7 9ページに詳細) 2 0 0 2年1 1月、初めての SARS 患者が入院したことで、一躍有名(?)になった仏山市第一人民医 院を視察した。中華人民共和国衛生部直轄の三級甲等病院である。 1 8 8 1年、英国ミッション系病院として開院。100年以上の歴史を持つ病院。1953年、広東省仏山区 の病院。1 97 9年、第一人民医院として現在に至る。1999年、スタッフ総数1, 640人。外来総数、約13 6 万人、入院2 7万人、ベッド数1, 3 0 0床。 訪問時、アカデミックホールにて、トリインフルエンザの講演がおこなわれていた。省内の衛生 局、検疫所、関係医師など3 0名が集まっていた。 ◆感染症科 病院の病棟に4階建ての感染症科がある。13人の医師が勤務。約70人が収容可能。発熱外来は 別にある。病室は、陰圧室完備。通路は患者用とスタッフ用が分けられている。感染症病棟の玄 関前に SARS と闘った8カ月間を記録し、銅像が建てられた。WHO のドナルド・ヘンダーゾン博 士が当院を訪れ、その指導により、外来の右側に発熱外来を設置。一般の外来患者への区別をは かった。このことで院内感染防止に効果があり、外来患者に安心感を与えた。感染症棟は、本院 より少し離れたところに建設され、焼却炉が完備された。仏山市第一人民医院に限らず、多くの 病院で発熱外来が設置された。 重症の肺炎で、1 1月2 5日入院した3 6歳農民(男)が、実は SARS だった。12月26日退院したが、 その家族3人のうち2人も肺炎で入院した。その後、この病院に1 00人以上の疑い例が入院。うち 6人が SARS だったが、死亡者0。院内感染もなく、当院での治療および感染症対策は成功した。 SARS 流行の報が WHO より入り、カルテを掘り起こして SARS と認定したという。 ― 41 ― ★コラム★ 〜本当にあった話(在留邦人からの聞き取り)〜 ! 8カ月の妊娠。中国で渡航許可証をもらい空港に。出国時、渡航許可証を見た検疫官が、この 医師の診断書は信用できないと判断し、中華航空に乗れなかった。結局、JAL に切り替え帰国。 " 帰国した際、SARS の流行地からの帰国とみられ、民間の産婦人科で出産のための入院を拒否さ れたという。 # 歯科受診。インフォームドコンセントでは、まず、治療というより、歯を抜く話から始まった。 $ スープを出され、これは何ですかと尋ねたら、猪、ヘビ、犬のスープだと言われ、気分が悪く なった。 % 野菜の農薬中毒の事件は、今でもある。充分に30〜40分、水洗いして始めて食材となる。 ― 42 ―
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