セカンダリーファンドへの投資について - 東京海上アセットマネジメント

(vol.40)
<ファンドマネジャーの視点-Private Equity>
~セカンダリーファンドへの投資について~
Tokio Marine Asset Management
東京海上アセットマネジメント投信株式会社
2013年8月
弊社では、各資産クラスのファンドマネジャーが日頃考えている点についてお伝
えする「ファンドマネジャーの視点」をお届けしております。今回は Private
Equity(PE)編として、セカンダリーファンド(二次買取りファンド)への投
資について、弊社プライベートエクイティ運用部 部長の久村俊幸に訊きました。
Q:一般的にプライベートエクイティのセカンダリーファンドとはどういうもの
でしょうか?
久村
俊幸
プライベートエクイティ運用部
部長
久村:既発行の「PE ファンド持分」や「未公開株式」を買取る手法です。ここ
では、セカンダリー取引の中心となる「PE ファンド持分」の買取りについて
話を進めていきます。
Q:セカンダリーファンドにはどのような特徴があるのでしょうか?
久村: 以下の 3 点が挙げられます。
① ディスカウントでの投資⇒J カーブ(注 1)の短縮
(注 1)
J カーブ:
PE ファンド投資では、投資後一
定期間(通常 2~3 年程度)は、
投資先企業の価値上昇よりも
PE ファンドに対する管理報酬
の支払いなどの損失が先行しま
す。したがって、累積損益の推
移を示すグラフを描くと、当初、
累積損益はマイナス、その後プ
ラスとなり、グラフの形状がア
ルファベットの J の形に似てい
ることから J カーブと呼んでい
ます。
(注2)
NAV からのディスカウント率:
投資手法、マネジャー、市場環
境により異なります。例えば、
バイアウトよりはベンチャーの
方が回収予想を立てるのが難し
く結果的に大きなディスカウン
トとなります。また、景気改善
局面では持分評価額が上昇して
いく傾向にあるためディスカウ
ント率は小さくなる傾向があ
り、逆に景気悪化局面では持分
評価額の下落を見越してディス
カウント率が大きくなる傾向に
あります。評価の高いマネジャ
ーが運営するファンドの場合に
はプレミアムが付く場合もあり
ます。
PE ファンド持分は、活発に持分が売買されているわけではありません。この
ためセカンダリーでの売買価格は通常、時価総額(Net Asset Value、以下
NAV)を下回る水準(注2)なっています。このためセカンダリーファンド
のリターンは 1 年目からプラスとなることが多く、通常の PE 投資で出資当初
リターンがマイナスとなる「J カーブのマイナス期間」が短い(あるいはほと
んどない)ことが期待されます。
② 平均で 5 年程度経過した持分の買取り⇒資金の早期回収
セカンダリーファンド市場では、新規募集後間もないファンドから募集後 10
年を超えたファンド持分まで取引されています。中でも、投資期間が終了し、
ポートフォリオの中身を評価しやすい 5 年以上経過したファンドの持分買取
りが中心となっているようです。
③ 多数のファンド持分を取得⇒ポートフォリオの分散
セカンダリーファンドの投資では、ファンド規模にもよりますが多数のファン
ド持分を買い取ります。ファンドサイズが 55 億米ドルを越えるような大型の
セカンダリーファンドであれば、投資するファンド数が 500 を超えることも
あり、セカンダリーファンド1つに投資するだけでも分散されたポートフォリ
オになろうかと思います。
Q:リターンにはどのような特徴があるのでしょうか?
久村:セカンダリーファンドの運営者は買取り時に、ファンドの投資済み案件
について、回収見込み額、回収タイミング、各ファンドの契約条件などを精査
し、期待キャッシュフローを作成します。そのキャッシュフローを年率
20-25%程度の期待リターンで割引き、買取り価格を算出します。買取り価格
は、直近の NAV 対比でディスカウントされたものになっていることが多いよ
うです。買取り後すぐに認識する評価益は、このディスカウント分を反映する
ことになります。
-1-
買取後は、投資したファンドのポートフォリオ内の企業価値向上がリターン
に寄与することとなります。まとめると、買取り時のセカンダリーファンド
運営者の目利き力(最終的な回収額の推定)、各ファンドのマネジャーの力量
(経済環境の変化に対応しつつ企業価値向上をサポートする力量)がセカン
ダリーファンドへの投資成果ということになります。また、保有期間中のリ
ターンは、企業業績を反映しますので、中長期的には上場株リターンとの相
関は高くなると考えられます。
セカンダリーファンドの投資家の最終的な期待リターンは、米ドルベースで
IRR15%程度、倍率(分配総額/払込総額)で 1.5 倍程度が目安になるかと思
います。
Q:リスクはどのように考えておけばいいでしょうか。
久村:以下が主要なリスク要因と考えられるでしょう。
①セカンダリーファンド運営者の買取り時の目利き、見込みが甘いリスク
②投資先ファンドのマネジャーによる企業価値向上がうまくいかないリスク
③マクロ環境変化による企業業績変動
Q:早期の投資回収(リターンの認識)が可能とのことですが、もう少し具体的
にセカンダリーファンドに投資した場合の投資家の損益、キャッシュフロー
(CF)の推移についてお話しください。
久村:図 1 は、2001 年設定の実在のセカンダリーファンドに投資金額 10 百万
米ドルをコミット(投資を約束)した場合の CF 推移をグラフにしたものです。
市場環境にもよりますが、この図から以下のことが見て取れます。
①投資 1 年目から分配金を受領
②ネットの払込額(Net CF:払込額-分配額)は、投資家コミットメント額
の 50%弱
③ファンドそのものの存続期間は 10 年を超えるものの、6 年目までに払込合
計額を超える分配金を受領。
④リターンは、図の例では、
投資期間中:1 年目からプラス。払込額の 1.1~1.3 倍程度。
図 1 セカンダリー
キャッシュフロー例
2004/12
2007/12
最終見込み:払込合計額の 1.6 倍程度(ネット払込額に対しては 2 倍強)
(USD百万)
15
払込額
分配額
Net CF
NAV
10
5
0
-5
出所:TMA
-2-
2012/12
2012/06
2011/12
2011/06
2010/12
2010/06
2009/12
2009/06
2008/12
2008/06
2007/06
2006/12
2006/06
2005/12
2005/06
2004/06
2003/12
2003/06
2002/12
2002/06
2001/12
-10
Q:セカンダリーファンドに資金が集まっているようですが、市場環境、変遷に
ついてお話しください。
久村:売りに出されるファンド持分は、図 2 の通り、新規募集されたファンド
募集額の 6%前後になるといわれています。6%に満たない 2006 年以降のファ
ンドについては今後セカンダリーで売却される候補になると考えられます。
図 2 プライマリーファンド募集額と流通比
(10億ドル)
10%
500
400
300
7.7%
6.8%
6.4%
8%
6.9%
6.4%
6.4%
6%
4.6%
4.4%
3.4%
200
4%
3.0%
1.8%
100
2%
1.1%
0.2%
0
0%
2001
2002
2003
2004
プライマリーファンド募集額(左軸)
2005
2006
2007
2008
セカンダリー取引率(右軸)
2009
2010
2011
年
2001~2005年平均セカンダリー取引率(右軸)
出所:Thomson Reuters、Lexington Partnersのデータを元にTMA作成
セカンダリーでの取引額は、2005~2008 年の新規募集額が多額であったことも
あり、図 3 の通り 2011~2012 年には連続して 250 億米ドル前後の取引量とな
っています。
図 3 セカンダリー売買取引額
(10億ドル)
25
25
25
2011
2012
23
20
20
18
15
10
10
7
7
2004
2005
5
5
2
2
2001
2002
10
0
2003
2006
2007
2008
2009
2010
出所:Cogent Partners
年
セカンダリーファンドの買い手は、セカンダリー市場に特化したマネジャーだけ
ではなく、ファンド・オブ・ファンズや公的基金などの年金基金、ソブリン・ウェ
ルス・ファンドなども投資機会があれば参入しています。売り手は、自己資本規
制により売却を余儀なくされる金融機関、運用責任者交代などに伴う投資戦略変
更による入れ替えやアロケーション縮小のために売却する公的年金基金、事業戦
略の変更のために売却する事業会社など多岐にわたります。昨今は市場規模の拡
大に伴って、売買の仲介や競争入札を仕切る仲介業者も活発に活動しています。
Q:最後になりますが、投資家にとってセカンダリーファンドに投資する意義は
何でしょうか?
久村:以下 5 点が挙げられます。
①早期にリターンを認識、かつ、好リターンを期待できること
ファンド持分は、流動性の低い資産ですので、公正価値に対してディスカウ
ントで購入することができ、非流動性プレミアムの獲得が期待できます。
買取り後の市場環境にもよりますが、投資家は投資期間を通じて 15%前後
のネットリターンを期待できます。
-3-
②早期の資金回収期待
既存投資家が保有していた持分を買い取るということから、早期に分配を受領
できます。セカンダリーファンドの存続期間は 10 年を超えますが、資金回収
が早期に始まるため、実質的な保有期間という面では、新規にファンドに出資
するよりも短くなります。
③比較的リスクの低い手法
(注3) ビンテージ:
投資開始年のこと。また、ある
投資開始年に募集(設定)され
たファンド群のこと。
PE ファンドは、投資先企業の業績改善・成長の投資テーマを設定し投資する
ことが多いのですが、必ずしも全てが思惑通りにいくわけではありません。当
初の戦略がうまくいかないケースは、投資後比較的早期にその兆候が現れる
ことが多いといわれています。セカンダリーファンドでは、大半が投資済みの
ファンド持分を買い取りますのでこうした不適な案件を見極めた上で投資で
き、リスクは低くなっていると考えられます。
④セカンダリーファンド 1 件に投資するだけでも十分な分散を確保
セカンダリーファンドでは多数のファンド持分を買い取りますので、ビンテ
ージ(注 3)
、手法、地域、投資先ファンド数、マネジャー数、企業数などの
面で十分な分散を達成することが可能であると考えられます。
⑤過去募集されたビンテージに分散可能
主として 4~7 年前程度に募集されたファンドを買い取りますので、過去のビ
ンテージに分散投資することが可能であると考えられます。
(本資料で用いた図 1、2、3 をはじめとする数値、データなどは過去の実績で
あり、将来の動向を示唆・保証するものではありません。)
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