英・仏・独・米における交通施設整備制度

原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
原田 昌彦
◎ 研究開発第1部
主任研究員
人々の生活の場、政策の実践の場である地域を対象とする研究員として、専門性を高めつ
つ、バランス感覚を養っていくことを絶えず肝に銘じています。
これまでは、交通・物流に関する調査を多く手がけてきました。この分野の醍醐味は、人や
物の流れを通じて、地域における人々の活動や産業構造などが見えてくること、交通・物流政
策の提案を通じて地域の発展や交流の促進に貢献していけることです。これ以外に担当した分
野では、国土構造や首都機能に関する調査も興味深いものでした。
現在、グローバル化がますます進む中にあって、個々の地域特性、あるいは日本という国の
個性、すなわち国柄をどのように維持しつつ、地域や国の活力を維持・増進していくかという
M a s a h i k o
ことに関心を持っています。また、人口減少時代において、これまでの定住人口やGDPに代
H a r a d a
わる新たな地域発展の指標づくりにも取り組んでみたいと思っています。
交
通
英・仏・独・米における交通施設整備制度
1
学ぶべきものが依然として多いのは事実である。しかし、交通に限
はじめに
らずさまざまな社会制度は、その国の自然条件や社会条件と密接に
わが国では、幕末以来の欧米キャッチアップを目標とした近代化の
関連しており、ある国の個別制度をわが国に導入する際にも、制度
取り組み、特に戦後の急速な経済成長の結果、欧米諸国に比肩しう
全体の枠組みやその考え方、背景となる諸条件などを総合的に勘案
る、あるいはそれらを凌ぐ経済水準に到達するに至った。しかし、い
する必要がある。本稿は、こうした観点から、英・仏・独・米の交通施
わゆるバブル経済崩壊後のわが国全体を覆う閉塞感の中で、近年はグ
設整備制度の全体像を俯瞰することにより、わが国の交通分野にお
ローバル化への対応という観点から、再び欧米
( 特に米国)を強く意
ける制度改革を考える際の視座を提供しようとする試みである。
識した、社会の諸側面における構造改革が進められようとしている。
なお、交通施設には鉄道、道路、空港、港湾などがあるが、本稿で
交通分野においてもその例外ではなく、交通事業における需給調
はこのうち陸上交通に関係する鉄道・道路を取り上げ、鉄道について
整規制を原則として廃止する制度改革が現在進められつつあり、ま
は都市間旅客鉄道、都市内旅客鉄道、貨物鉄道に分けて取り扱って
た、少子・高齢化の進展に伴う労働力不足や、地球環境問題の顕在
いる。また、施設整備とその運営の間には密接な関係があることか
化に伴う環境負荷の軽減へも早急かつ的確な対応を迫られている。
ら、施設整備を中心としつつも、必要に応じて運営面についても言
こうした状況において、社会の成熟化が進んでいる欧米諸国から
及している。
図1● 同一縮尺上における英・仏・独・米および日本
イギリス
ベルリン
アメリカ
ニューヨーク
ロンドン
パリ
日本
ドイツ
東京
フランス
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原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
2
のほかに最高速度200km/hの在来線改良区間が1,237km)に達
都市間旅客鉄道
している。一方、イギリスでは在来線の改良により201km/hで運転
可能な区間がある
(しかもその表定速度※は高速鉄道システムに匹敵
(1)分析の視点
都市間旅客鉄道の施設整備・運営制度においては、1987年に行
われたわが国の国鉄分割民営化を先鞭として、民営化や上下分離
(施設整備主体と運営主体の分離)が世界的な潮流となっている。た
する)が、これまでに開業した高速新線は全くない。また、アメリカ
にも現在開業済の高速鉄道システムはない。
※表定速度:停車時間等も含めた運転ダイヤ上の平均速度
だし、各国の制度改革の内容にはかなりの相違があり、それは各国
の都市間旅客鉄道自体が持つ特徴と大きく関係しているというのが
本稿の基本的な視点である。
②ローカル線の存続・廃止状況
1950年以降の都市間旅客鉄道の路線延長の推移をみると( 図
例えば、施設整備制度においては、わが国の整備新幹線がそうで
2)、各国ともモータリゼーションの進展などに伴い、地方鉄道の廃
あるように、欧米においても高速鉄道システム(最高速度200km/h
止が進められてきたが、イギリスが最も廃止に積極的で現在の路線
超)の整備が大きな関心事となっている国が多く、その推進に対す
延長はピーク時の半分に減少しているのに対し、フランス、
ドイツで
る各国の立場の相違が施設整備制度に強く反映されている。
はイギリスほど廃止が進んでおらず、かなりの地方鉄道が存続してい
一方、わが国では国鉄民営化に先立って、地方鉄道(その多くがい
る。また、アメリカでは都市間旅客鉄道としての路線延長はわずか
わゆる赤字ローカル線)の廃止や地方移管が行われたが、こうした
1,000km強しかなく、それ以外は貨物鉄道の路線に乗り入れる形
地方鉄道の存続もしくは廃止の状況は、各国の運営制度に大きく関
態を取っている。
係している。
( 3)英・仏・独・米における施設整備・運営制度
(2)各国の都市間旅客鉄道の特徴
①イギリス
①高速鉄道システムの整備状況
イギリスは、都市間鉄道の施設整備・運営に関して最も先鋭的な改
各国の高速鉄道システムの現状をみると
( 表1)、フランスは、わ
が国の新幹線( 1964年開業)に約20年遅れて、1983年にTGV
を導入した。現在までにすべて新線建設により1,378kmを開業さ
せた結果、幹線鉄道輸送の約6割をTGVが占めるまでになってい
革を行っている。
イギリスの鉄道改革では、1994年に鉄道事業の上下分離が行わ
れ、線路会社と鉄道運営会社は、順次民間に売却された。
施設整備に関して、国としての整備計画はなく、計画の策定・実施
る。また、ドイツではフランスに遅れて1991年にICEを導入したが、
はレールトラックという民間の線路会社に委ねられている。また、施
急速に整備を進めた結果、現在、開業済み高速新線は578km(こ
設整備の費用も鉄道運営会社からの線路使用料を主な財源として線
表1● 高速鉄道の最高速度・表定速度
所要時間
( 分)
表定速度
( km/h)
最高速度
( km/h)
東京〜博多( 東海道・山陽新幹線) 1,069.1
東京〜盛岡(東北新幹線)
496.5
東京〜新潟(上越新幹線)
300.7
東京〜長野(北陸新幹線)
222.4
289
141
97
79
222.0
211.3
186.0
168.9
270/300
275
270
260
アメリカ
ワシントン〜ニューヨーク
361.7
158
137.4
−
イギリス
ロンドン〜ヨーク
(東海岸線)
303.3
101
180.2
201
フランス
パリ〜リヨン(南東線)
パリ〜ルマン(大西洋線)
パリ〜リール(北ヨーロッパ線)
433.1
187.2
225.3
134
48
58
194.0
234.0
233.0
270
300
300
フランス/イギリス
パリ〜ロンドン
494.5
173
171.5
270
ドイツ
ハノーバー〜ヴュルツブルグ
マンハイム〜シュツットガルト
328.0
107.5
114
37
172.6
174.3
280
280
国名
日
本
区間(線名)
距離
(km)
注) 一部在来線の改良区間を含む。
年次)1997年
資料)「主要鉄道先進国の鉄道整備とその助成制度」運輸施設整備事業団、1998年ほか
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交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
図2 ● 都市間旅客鉄道の路線延長の推移
路線延長(km)
アメリカ路線延長(km)
50,000
100,000
45,000
90,000
40,000
80,000
35,000
70,000
30,000
60,000
25,000
50,000
20,000
40,000
15,000
30,000
10,000
20,000
5,000
10,000
0
0
1950
1955
1960
日本
1965
1970
イギリス
1975
フランス
1980
1985
ドイツ
注) ドイツ:1990年までは旧西ドイツ
定義)日本:JR イギリス:レールトラック フランス:フランス国鉄 ドイツ:ドイツ鉄道
資料)「 諸外国における鉄道整備方策に関する調査研究」鉄道整備基金、1994年ほか
1990
1995 年
アメリカ
アメリカ:アムトラック以外の貨物鉄道乗り入れ分含む
路会社が全額負担しており、線路会社に対する直接的な公的補助制
るため、施設整備財源も十分に確保されるようになっている。この
度はない。
ように国からの補助においても、入札制度の導入により公的負担の
一方、運営面では、フランチャイズ方式という新制度が導入された。
フランチャイズ方式とは、25に分割した線区ごとにサービス条件・契
約期間( 通常7年)等を定めて競争入札を実施し、落札した会社が国
抑制が図られている。
イギリスでこのように大胆な制度改革が実施できた要因として、2
つの点があげられる。
および線路会社と契約を結んで運送事業を行うものである。入札に
まず、イギリスでは主要都市がロンドンから約300km圏内に比較
は原則として誰でも参加可能とすることで競争原理が導入されてお
的近接して分布し、在来線の規格が高く比較的高速での走行が可能
り、事業リスクも鉄道運営会社が負う。
であるため、大規模な新線整備計画はなく、設備投資は既存施設の
このように、イギリスの鉄道改革は、施設整備・運営両面において
更新が主体となっていることである。唯一の例外として英仏海峡トン
民間の裁量を大きくし、事業リスクも負わせているところが特徴で
ネル連絡線の計画があるが、これは別途国主導で進められており、総
あり、国の裁量は、入札時のサービス条件の設定などに限定されて
じて国が施設整備を強力に推進する必要性が低い。
いる。
ただし、すべて民間任せでは、不採算路線の入札には誰も応札し
ないといった事態が想定される。そこで、応札者がその線区に採算
性がないと判断した場合には補助金要求額を入札することができ、
また、地方鉄道の廃止を積極的に行った結果、路線延長はピーク
時の半分となっているため、その維持に対する費用負担も他国と比
較して相対的に小さくて済む。
このように、イギリスの都市間鉄道は、今後の大規模投資や遊休
全応札者が補助金要求額を入札した際には、その額が最も少ない者
化した施設の維持・廃止を進める必要性が少なく、事業経営的に安
が落札するという方式( 補助金入札)を導入している。その際、応札
定した成熟期にあることが、サッチャー政権下の民営化路線に沿って
者が見積もる経費の中に、線路会社に支払う線路使用料も算入され
着手された、大胆な市場化の実験の背景となったといえる。
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交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
表2 ● 都市間旅客鉄道の施設整備・運営制度の特徴
イギリス
フランス
ドイツ
アメリカ
事業主体
旧国鉄を上下分離、完全民営化の
上、線区ごとに入札で運営主体を決
定するフランチャイズ制を導入
旧国鉄を上下分離したが、国営企業
のまま
旧国鉄を株式会社化したが、株式の
過半は国が保有
民間鉄道会社の旅客部門を1社に集
約・国営化
高速鉄道整備動向
開業済高速新線はなく、今後も一部
を除いて計画なし
80年代よりTGV網を順次整備、今
後も継続
90年代よりICE網を急速に整備、 開業済高速新線はなく、今後も一部
今後も継続
を除いて計画なし
地方鉄道廃止状況
積極的に廃止し、路線延長はピーク
時の半分に減少
廃止はあまり進んでいない
廃止はあまり進んでいない
約1,000kmの自社路線以外は全廃
鉄道整備計画
国としての整備計画はなし( 例外と
して英仏海峡トンネル連絡線)
国がTGV網基本計画を策定
国が連邦交通路計画(全交通機関対
象)を策定
国としての整備計画はなし
(例外とし
て北東地区における高速化計画)
施設整備負担制度
整備主体が線路使用料から調達し、
個別プロジェクトごとに国・地方・事
公的負担なし( ただし線路使用料を
業者が協議して負担割合を決定
通じて運営補助から間接補助)
国が全額拠出し、事業者はプロジェ
クトごとに採算を取れる範囲内での
み無利子貸付金として返済
国が全額負担
運営補助制度
応札者が採算性を確保できないと
判断した場合、補助金要求額を入
札、落札額を国・地方が分担して補
助
遠距離鉄道旅客交通は公的補助な
幹線輸送は公的補助なし
( 線路使用
し
( 整備費用は採算取れる範囲内で
料は低額に抑制)
のみ負担)
地域輸送は国が欠損補助(地方への
(近距離鉄道旅客交通は都市内旅客
移管を試行中)
鉄道を参照)
国が欠損の全額を補助
特定財源
なし
高速道路通行税等の一部をTGV整
備の特定財源化
なし
②ドイツ
ドイツでは、イギリスと対照的に、施設整備に対して国(連邦)が積
極的に関与する制度を採っている。
都市間鉄道の施設整備は、
「連邦交通路計画」において、道路、水
なし
( 近距離鉄道旅客交通を除く)
経営効率化を志向しているものの、その全株式を国が保有したまま
で将来的にも株式の過半数は国が保有することとなっており、上下
分離も持株会社のもとでの分社化にとどまるなど、民営化後も国の
影響力や鉄道経営の一体性を保持しようとしている。
路などとともに全交通機関にわたる長期的な施設整備の一環として
このような施設整備制度を採用する背景として、国自身が鉄道整
計画される。
「連邦交通路計画」は、交通機関別の整備計画をとりま
備に対して非常に積極的であることがあげられる。
「連邦交通路計画
とめるのではなく、交通機関別需要予測とプロジェクト評価に基づ
'92」における旅客輸送需要予測は、ドイツ統合に伴う輸送需要増大
く客観性の確保に配慮した方法によって一体的に策定される。また、
や環境負荷の高まりに伴う自家用車利用コストの増加等を前提に、
プロジェクト評価では、事業採算性に基づく経営的評価ではなく、地
鉄道の輸送機関分担率上昇と20年間で40%の鉄道輸送量増加を
域開発効果や環境効果を含む費用便益分析による各交通機関に共
予測しており、これに対応するため、1991〜2012年の連邦投資
通な経済的評価基準に基づいて優先度が決定される。
額は鉄道が道路を上回る計画となっている。特に日・仏に遅れをとっ
こうした「連邦交通路計画」を着実に推進するため、鉄道の施設整
た高速鉄道システムについては、2012年までに3,200kmの高速
備費用は国が責務として全額提供する。1994年の鉄道民営化後は
鉄道網を整備することとしている。さらに、ドイツ統一に伴う旧東ド
受益者負担の考え方が一部導入され、鉄道会社は採算の取れる範囲
イツ地域の施設改良投資もある。こうした積極的な施設整備政策を
内で国の提供した資金を無利子貸付金として返済することとなった
国の責務として着実に推進するため、国が自ら施設整備に強く関与
が、依然として金利負担は免れており、採算性を超える部分は返済義
する制度を採用しているのである。
務のない補助金となる。無利子貸付金と補助金の比率については、
一方、運営面では、都市間鉄道を一定の基準により
「 遠距離鉄道
個別プロジェクトごとに協議して決定される。なお、都市間鉄道への
旅客交通」と
「近距離鉄道旅客交通」に分類しており、この結果、いわ
整備財源は専ら一般財源に依っており、後述する都市内鉄道とは異
ゆるローカル線の多くは
「近距離鉄道旅客交通」として都市内鉄道と
なり、道路関係諸税の投入は行われていない。
同じ区分に分類される。
都市間鉄道の施設整備・運営を行うドイツ鉄道(DB)も、1994年
幹線鉄道を中心とする「 遠距離鉄道旅客交通」の運営制度は、上
の東西旧国鉄の合併と同時に長期債務を切り離し、株式会社化して
記のように施設整備費用の負担が免除・軽減されるという前提の上
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●30
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交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
で、鉄道会社の努力により採算の取れる分野とされ、原則として公的
④アメリカ
補助は行われない。一方、
「近距離鉄道旅客交通」の運営は公的補助
アメリカの都市間旅客交通では、国土が広大であるために航空が
の対象となるが、1996年に地方に権限と財源が移管され、依然と
中心的な役割を果たしており、鉄道の果たす役割は限定的である。こ
して多く残る赤字ローカル線の存続・廃止の判断は地方に委ねられ
のため、都市間鉄道の事業運営は民間鉄道会社の旅客部門を統合・
ている
(詳細は都市内鉄道を参照)。
国有化したアムトラック社に集約されており、路線延長約1,000km
の自社路線以外は、貨物鉄道会社の施設を借り受けて事業を行って
③フランス
フランスは、イギリス・ドイツと比較して中間的な制度を採用してい
るといえるだろう。
いる。
施設整備は、自社路線を有する北東地区( 北東回廊路線)におい
て高速化投資が行われているが、その費用は全額国(連邦)が負担し
フランスでは高速鉄道システム( TGV)の整備計画を国が策定す
ており、2000年10月より高速列車が運転される予定である。運営
るが、最初に開業したパリ〜リヨン間は平坦な地形で整備費用が安
面でも、アムトラック社の運営欠損の全額を、国( 連邦)が事後的に
価なこともあり、その整備費用は事業者であるフランス国鉄
(SNCF)
補填している。
の全額負担で賄われ、その後は事業者の全額負担もしくは国・事業
者の分担となっていた。しかし、今後整備着手される路線では、国・
事業者に加えて地方も含めた各関係者において個別プロジェクトご
とに費用負担比率を協議し、合意されたものについて実際の整備に
移されることとなっている。
3
都市内旅客鉄道
( 1)分析の視点
都市内旅客鉄道は、都市圏の規模や都市構造、既存施設の状況
これは、各関係者が応分の負担を行うという考え方に基づいてお
(地下鉄の有無、路面電車の存続状況等)が施設整備・運営制度を大
り、中でも地方負担が求められるようになったのは、2010年まで
きく左右するが、いずれの国においても、わが国のJRや私鉄各社の
に4,700kmに及ぶTGV網を整備するという計画に基づき、TGV
ように都市内鉄道が独立採算で運営できる都市は希有であり、都市
の整備が事業採算性の低い路線に移行してきたことが背景にある。
内鉄道は公共サービスの一つとして公的補助を前提に制度設計が行
わが国の整備新幹線に近い方法であるが、要請者に対して応分の負
われている。そこで、ここでは施設整備における公的補助の比率や
担を求めることが、政治的な介入をある程度食い止める役割を果た
国・地方の関係、財源のあり方、公的補助の効率化の取り組みなどに
している。
着目する。
なお、TGVの整備にかかる国の財源として、道路利用者からの特
定 財 源で あ る高 速 道 路 通 行 税お よび 水 力 発 電 税を 財 源とす る
FITTVN( 陸上および可航水路輸送投資基金)の一部が充てられて
いることも注目される。
( 2)各国の都市内旅客鉄道の特徴
まず、各国の人口規模別の都市分布状況をみると、イギリスとフラ
ンスでは、首都のロンドンとパリが1,000万人強の都市圏人口を有
都市間鉄道の運営においては、主要都市間の距離が比較的長いこ
する一方、地方都市は未発達であり、都市圏人口50〜100万人程
と、TGVの整備が進んでいることなどから、輸送実績の8割以上を
度の都市は少ない。一方、ドイツにはロンドンやパリのような巨大都
幹線輸送が占め、その過半をTGVが担っている。これらの幹線輸送
市が立地しないが、都市圏人口50〜100万人規模の都市が多数存
については原則として運営補助は行われない。
在している。アメリカは広大な国土を有し、ニューヨーク、ロサンゼ
一方で、ローカル線の廃止はドイツと同様あまり進んでおらず、こ
れら地方鉄道は従来より運営補助の対象として、国・地方からの欠損
ルス、シカゴのような巨大都市をはじめさまざまな規模の都市が多
数存在する。
補填が行われてきたが、近年、ドイツと同様に国から地方への権限
都市内鉄道の整備状況については
(表3)、巨大都市の中でもロン
移管が試行されており、今後、運営補助や路線の存続・廃止について
ドンとニューヨークは、ともに20世紀初頭までに延長約400kmの
は地方の責任の下に行われる方向にある。
地下鉄網を完成し、その後新線建設はほとんど行われていない。一
なお、国鉄改革は他国と比較して遅れており、1997年に線路事
方、パリは、都心に人口・諸機能が集中したコンパクトな都市構造に
業と鉄道運営事業の上下分離を行ったのみで、今後も民営化の予定
対応した地下鉄網を従来から有していたが、都市圏の拡大に対応し
はない。上下分離の際、線路会社であるRFF(フランス鉄道線路公
て現在も郊外急行線(RER)などの整備を継続している。
社)には、固定資産とともに旧SNCF(フランス国鉄)の長期債務の
ドイツでは、おおむね都市圏人口100万人以上の都市ではUバー
多くが移管され、その後もRFFは、運営専業となった新SNCFに課
ンと呼ばれる地下鉄もしくは都心部が地下化されたLRT( 高性能化
す線路使用料が国によって低額に抑制される一方、その3倍近い管
された路面電車)、さらにわが国の旧国電に相当するSバーンといっ
理委託料をSNCFに対して支払っており、線路会社に債務が蓄積す
た都市内鉄道が充実している。また、人口50万人程度の都市圏でも
る構造となっていて、その処理方法は先送りされたままである。
路面電車を廃止せず、LRTとして存続・再生させている都市が多い。
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表3 ● 主要都市の都市内鉄道の整備状況
対象圏域
面積
(km2)
人口
( 万人)
整備延長
( km)
路線密度
(km/km2)
東京圏
13,553
3,258
ニューヨーク大都市圏
19,526
1,795
−
−
−
6,400
1,320
1,195
0.187
0.905
ロンドンメトロポリス
10,621
1,211
800
0.075
0.661
イル・ド・フランス州
12,011
1,097
1,411
0.117
1.286
ベルリン・ブランデンブルグ州
30,370
601
296
0.010
0.493
東京特別区
621
783
237
0.382
0.303
ニューヨーク市
791
733
393
0.497
0.536
1,601
638
392
0.245
0.614
パリ市および周辺3県
763
614
202
0.265
0.329
ベルリン州
889
347
143
0.161
0.412
ニューヨークMCTD
1,873
0.138
1万人あたり整備延長
( km/万人)
0.575
近郊鉄道
地下鉄
グレーターロンドン
注) 路面電車は含まない。
年次)1997年
定義)日本:地下鉄は交通営団、東京都( 横浜市営地下鉄を除く)。近郊鉄道はJR・私鉄
アメリカ:地下鉄はNYCTA営業路線延長、近郊鉄道は、LIRR、MNCR、SIRTOA、PATH
イギリス:地下鉄は、ロンドン地下鉄の営業路線延長
フランス:フランス国鉄の郊外鉄道線を含む
ドイツ:地下鉄はUバーン、近郊鉄道はSバーン
資料)「 諸外国における鉄道整備方策に関する調査研究」鉄道整備基金、1997年ほか
一方、フランスでは都市圏人口100万人ないしそれ以下の都市に
LRTが含まれる
「 公共道路旅客交通」と、Sバーンをはじめドイツ鉄
おいて、1980年代以降LRTの導入が活発化している。また、イギ
道近距離旅客部門を中心とする「 近距離鉄道旅客交通」に分けられ
リスではロンドン、アメリカではニューヨーク、シカゴ、サンフランシ
る。なお、後者にはいわゆる赤字ローカル線を中心とする地方鉄道
スコなどを除き、概ね都市内鉄道が脆弱であったが、近年になって
も含まれる。
一部で導入に向けた取り組みが活発化してきている。
「 公共道路旅客交通」は従来より地方が運営補助を行ってきたが、
国( 連邦)の 所管で あった「 近距離鉄道旅客交通」につ い ても 、
(3)英・仏・独・米における施設整備・運営制度
①ドイツ
1996年に実施された地方分権化法により、その維持・運営が州の
判断に委ねられることとなった。また、その際、事後的な欠損補助
ドイツでは、Sバーン、Uバーン、LRTといった都市内鉄道のスト
ではなく、地方が要求するサービス提供の対価として補助を行う形
ックが充実しているが、これらの整備費用は原則として公共が全額負
態を採るようになったが、併せてオープンアクセスの実施により、ド
担しており、特に国( 連邦)の負担率は60〜75%と高い。その財源
イツ鉄道以外の事業者もサービスを提供することが可能となり、部
は、公共交通・道路が補完関係にあるとの認識に基づき、鉱油税(わ
分的ながら事業者間の競争が導入されている。一方、
「 公共道路旅
が国のガソリン税や軽油引取税に相当)を特定財源として、両者のい
客交通」に対する運営補助は、事業者の多くが公営ということもあり、
ずれにも充当可能となっており
( 自治体交通補助法)、実際には約7
赤字補填的な側面を残している。
割が公共交通に充当されている。なお、連邦の補助総額の80%分
地方分権化に伴って、補助財源を国( 連邦)から地方( 州)へ交付
は一定の基準に基づいて地方( 各州)に配分され、具体的な使途は
することとなったが、その際、連邦の固有財源である鉱油税を特定
州の判断に委ねられており、補助総額の20%分についてのみ連邦
財源とすることとしたため、従来は施設整備が対象であった鉱油税
が裁量権を保持している。
特定財源の使途が運営面に拡大されることとなった。また、地方分
都市内鉄道の運営については、制度上「公共近距離旅客交通」
(移
権化の趣旨に則り、州は連邦からの交付金を「近距離鉄道旅客交通」
動距離50km未満または所要時間1時間以内の都市圏内・地域内の
の運営補助のみならず、自らの判断により、
「 公共近距離旅客交通」
輸送需要を満たすもの)として位置づけられ、これらは、Uバーンや
の施設整備・運営補助全般に充当することも可能である。一方で、こ
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volume ◆ 004
●32
原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
表4 ● 都市内旅客鉄道の施設整備・運営制度の特徴
イギリス
都市内鉄道整備動向
フランス
【ロンドン】
更新投資が中心。
【 パリ】
整備を継続。
【その他の都市】
近年LRT等の整備が活発化
【その他の都市】
80年代よりLRT等の整備が活発化
ドイツ
アメリカ
従来より都市規模に応じてSバーン
( 旧国電に相当)、U バ ーン( 地下
鉄)、LRT等が充実
ニューヨーク等を除き都市内鉄道は
脆弱、近年一部でLRT等の整備が活
発化
施設整備負担制度
【ロンドン】
国負担40%、事業者負担60%
【 パリ】
全額公共負担が 原則。国が 6 0 〜
公共負担80%
(国30%、
地方50%) 75%を負担。国の補助金は公共交
事業者負担20%
通・道 路 双 方に 充 当 可 能で、そ の
【その他の都市】
80%分は地方に使途配分権
各都市の交通政策計画( TPP)の中 【その他の都市】
から国が補助対象を選定( 約9割補 国が20〜40%を負担(地方負担は
助)。公共交通・道路を組み合わせ 任意)
たパッケージアプローチ枠を拡大中
各都市の地域交通計画( RTP)、交
通改善計画(TIP)から国が補助対象
を選定
運営補助制度
【ロンドン】
国が全額負担
地方が補助。その財源として公共近
距離旅客交通( 都市内鉄道等)の運
営・施設整備に充当可能な国から地
方への交付金あり
基本的に地方が補助するが、国も約
1割を負担
上記施設整備負担、運営補助とも鉱
油税の一部を特定財源化
燃料税を主たる財源とする道路特定
財源の一部を上記施設整備負担、運
営補助の特定財源化
【その他の都市】
国・地方が折半
【 パリ】
通勤割引分は都市圏内の事業所に
課す交通税から補助。それ以外は国
30%、地方70%負担
【その他の都市】
通勤割引分はパリと同様。それ以外
は地方が負担
特定財源
なし
なし
(地方レベルでは上記交通税)
のことは鉄道輸送に適さないローカル線が温存される危険性もはら
んでいる。
ドイツの都市内鉄道にかかる事業者は、施設整備費用の負担を免
担は20%にとどまる。なお、事業者も国営企業である。
一方、パリ以外の都市圏では、1980年代以降地下鉄、新交通シ
ステム、LRT等の都市内鉄道への投資が活発化しているが、これら
れているにもかかわらず、運営コストに対する運賃収入比率は3〜5
の施設整備計画は地方自治体が設置する都市交通当局が策定する。
割にとどまっているが、その要因の一つに運輸連合の存在があげら
施設整備に対する国の補助率も20〜40%にとどまり、地方もしく
れる。運輸連合は従来より主要な都市圏における都市内旅客交通に
は事業者の負担が相対的に大きいが、国の補助においては軽量交通
関係する事業者間の調整組織として設置されており、共通運賃制の
機関ほど補助率を高くし、都市規模に比して過大な施設整備を行わ
採用やダイヤ調整等により高い利便性を提供する一方、これらに要
ないよう誘導している。
するコストの多くを公的補助に依存している。1996年の地方分権
運営面でも都市交通当局が一元的に事業主体の監督・調整等を行
化以降は、多くの運輸連合に地方( 州・地方自治体)が参画し、従来
っており、①通勤割引運賃への補助、②社会的割引運賃への補助、
の事業者間の調整機能に加え、公共・事業者間の調整機能も担うよ
③収支差額への補助の3種類の運営補助を行う。この中で特徴的な
うになっているため、公共的側面がより強まり、独占的運営による効
のは、都市交通当局が独自財源として都市圏内の事業所から交通税
率低下を招くおそれもある。
を徴収する点である。これは交通サービスの提供により各事業所の
従業員の通勤手段が確保されるという受益者負担の考え方に基づい
②フランス
フランスでは、パリとその他の都市で施設整備・運営制度が大き
く異なる。
パリ
( 近郊を含むイル・ド・フランス州)では、現在も郊外急行線
ており、交通税の税収は、パリ・その他の都市圏のいずれにおいても
運営補助のうち主として①に充当される。また、②および③の運営
補助については、パリでは国と地方が30:70の比率で負担し、その
他の都市圏では主として地方の負担により補助する。
(RER)などの施設整備を継続しているが、施設整備計画は国直轄の
都市交通当局( パリ旅客輸送調整機構:STP)により策定され、その
整備費用は公共が80%( 国30%、地方50%)を負担し、事業者負
③イギリス
イギリスでも、ロンドンとその他の都市で施設整備・運営制度が大
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33 ●
原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
きく異なっている。
ロンドンは早くから充実した都市内鉄道網を有しているが、パリと
なお、1998年にはISTEAに代わるTEA21( 21世紀交通平等
法)が制定されている。
は異なり、現在の施設整備への投資は、既存施設の更新と特定の都
市再開発関連が中心となっている。都市内鉄道(近郊鉄道を除く)の
事業主体は国営企業(ロンドン地域運輸公社)であり、施設整備費用
は国40%、事業者60%の比率で分担し、地方負担はない。
4
貨物鉄道
( 1)分析の視点
一方、ロンドンに次ぐ7大都市圏でも、1990年代に入って地下
貨物鉄道は、各国の地理的特性によってその役割が大きく異なっ
鉄、LRT等の都市内鉄道への投資が増加している。国は、7大都市
ているが、地球環境問題への対応の観点から、施設整備・運営制度
圏以外も含む各地方から提出される交通政策計画( TPP:公共交通
面でも各国でさまざまな対応が試みられており、主にこの点に着目
および道路の5年間の投資計画)の中から、国が定めた方針に基づ
することとする。
いて対象事業を選定し、施設整備費用の約9割を国が補助している。
95年にはTPPの対象事業分野の一つとして、公共交通と道路を適
( 2)各国の貨物鉄道の特徴
切に組み合わせた総合的な交通計画を対象とするパッケージアプロ
貨物輸送における輸送機関分担率をみると
(図3)、イギリスは、わ
ーチが導入され、この補助枠の割合が年々増加している。また、PFI
が国同様島国で陸上輸送距離が短いことから鉄道分担率が低い。一
方式の導入をはじめ、施設整備・運営に民間の資金やノウハウを導入
方、大陸に位置するドイツ、フランスでは、イギリスやわが国と比較
する動きがみられる。
して陸上輸送距離が長いことから、鉄道分担率が比較的高く、とも
運営面についてみると、ロンドンでは、事業者の運営欠損をすべ
て国が補填することとなっているが、運賃値上げや人件費削減によ
に約2割を占めている。国土の広大なアメリカでは、鉄道分担率は
約4割を占めている。
りロンドン地下鉄の営業収支は黒字であり、減価償却費・金利等を含
む経常収支の欠損に対して補助が行われている。
一方、7大都市圏では、都市公共交通の一元的な政策主体として
地方自治体が共同で設置する旅客交通当局(PTA)が、原則として欠
損補填の形で補助しており、その費用は国と地方が折半する。
なお、近郊鉄道についてはロンドンとその他の都市で違いはなく、
都市間鉄道と同様、フランチャイズ方式が導入され、運営条件の不
利な線区については入札結果に基づいて補助金が交付される。
( 3)英・仏・独・米における施設整備・運営制度
①ドイツ
ドイツでは貨物輸送における鉄道分担率が約2割を占めるが、分
担率は低下傾向にある。輸送形態は在来のバラ積み輸送が主体であ
り、コンテナ等の複合輸送の比率は低い。なお、鉄道改革後の貨物
運送事業はドイツ鉄道( DB)の部門子会社が行う。
一方、
「 連邦交通路計画'92」
( 都市間旅客鉄道を参照)における
全交通機関にわたる長期的な需要予測では、ドイツ統一による需要
④アメリカ
増加や 環境問題等に伴う自動車利用コストの 増加等を 前提に、
アメリカでは、戦後、自動車の普及に伴って発展した拡散的な構
2010年の鉄道分担率を約35%、20年間の鉄道輸送量の増加率
造を有する都市が多く、早期に形成された東部13州の都市を除い
を55%と予測している。その実現化方策として、複合輸送の強化を
て、都市内鉄道はあまり発達していない。
企図し、複合輸送ターミナルや貨客併用の高速鉄道の整備を進めて
こうした中で顕在化してきた交通渋滞や大気汚染等の都市交通問
題に対処するため、1960年代以降都市内鉄道を含む都市公共交
おり、現に高速貨物列車が時速160km運転を行っているが、35%
という分担率の実現には疑問が残る。
通への連邦補助が次第に拡充され、燃料税を主たる財源とする道路
運営面では、鉄道貨物輸送を対象とした運営補助は行われていな
特定財源である道路信託基金の一部が、都市公共交通の整備に充当
いが、部門別収支状況が非公表のため内部補助等の運営実態につい
可能となっている。さらに1991年に制定されたISTEA( 陸上交通
ては不明である。
効率化法)では、道路整備資金を公共交通へ転用可能とする
「フレキ
シブルファンド」も創設され、都市公共交通の予算枠は大幅に拡大し
ているが、軌道系都市公共交通の導入は一部にとどまっている。
②フランス
フランスでも貨物輸送における鉄道分担率は約2割を占め、やは
ISTEAに基づく連邦補助を受けるためには、MPO( 都市圏計画機
り在来貨物輸送が主流である。なお、鉄道貨物運送事業は従来より
構)を設置し、20年間の地域交通計画( RTP)および3年間の交通
フランス国鉄( SNCF)が行っている。
改善計画(TIP)を策定することが条件となる。
今後は、環境問題の重要性の高まりや産業構造の転換等による在
また、運営補助は主に地方が負担するが、1991年時点で国( 連
来貨物の停滞などから、複合輸送の強化を企図しており、複合輸送
邦)もISTEAに基づく都市公共交通の整備・運営補助資金より1割程
施設に対して国の補助が行われている。その財源には、高速道路通
度を負担している。
行税および水力発電税を財源とするFITTVN( 陸上および可航水路
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原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
図3 ● 貨物輸送機関分担率
(トンキロベース)
0%
20%
日本 4.5
60%
5.9
100%
43.8
40.4
フランス
80%
51.5
アメリカ
イギリス
40%
27.0
0.2
14.6
65.2
18.0
5.3
23.7
20.5
76.3
3.2
注)
ドイツ
21.2
66.2
鉄道
自動車
7.6
水運
その他
5.0
単位%
鉄道、船舶は国内輸送のみ。その他にはパイプライン
を含む。ただし、フランス貨物輸送にはパイプライン
輸送量は含まれていない。
年次) 日本、アメリカ、ドイツ:1995年、イギリス:1994
年、フランス1992年
資料)「 諸外国における鉄道整備方策に関する調査研究」
鉄道整備基金、1994年ほか
表5 ● 貨物鉄道の施設整備・運営制度の特徴
イギリス
フランス
ドイツ
アメリカ
鉄道貨物輸送の特徴
機関分担率は低く鉄道の役割は限
定的
機関分担率は約2割で在来輸送中
心
機関分担率は約2割で在来輸送中
心。複合輸送ターミナル、貨客併用
の高速鉄道等の整備を推進
機関分担率は約4割で長距離大量輸
送に特化。DST等輸送革新を推進
事業主体
旧国鉄を上下分離、完全民営化
旧国鉄を上下分離したが、国営企業
のまま
旧国鉄を株式会社化したが、株式の
過半は国が保有
貨物専門の民間鉄道会社( 複数)が
自社施設で事業運営
施設整備負担制度
鉄道車両、倉庫、積卸施設等に対し
て国の負担あり
複合輸送施設整備に国の負担あり
高速鉄道は都市間旅客鉄道に同じ。 なし
複合輸送ターミナルの費用負担は
不明
運営補助制度
線路使用料に対する国の補助あり
なし
( 線路使用料は低額に抑制)
なし
(ただし運営実態不明)
なし
特定財源
なし
高速道路通行税等の一部を複合輸
送施設整備の特定財源化
なし
なし
輸送投資基金)の一部が充てられている。なお、ドイツと異なり高速
搬、積み卸し施設等)に対して国から鉄道貨物補助金( FFG)が交付
鉄道は旅客専用である。
される。また、運営面でも、線路使用料支払いを補うための線路使
また、鉄道貨物輸送に対する運営補助も、ドイツ同様行われてい
ないが、線路会社に支払う線路使用料は安く設定されている( 都市
間旅客鉄道参照)。
用料交付金(TAG)が国から補助される。
今後の交通政策の基本路線を決定づける1998年のホワイトペー
パー( 交通白書)では、交通混雑解消及び環境負荷軽減等を目的と
した総合交通政策が提唱され、この一環として貨物鉄道促進策が打
③イギリス
イギリスは、貨物輸送における鉄道分担率が低く、すでに大幅な路
線廃止が行われ、貨物輸送における鉄道の役割は限定的である。鉄
ち出された結果、FFGおよびTAGの補助額が大幅に増加するとと
もに、両補助金の算出にあたって道路交通の代替効果として環境便
益を考慮する仕組みが提案されている。
道貨物運送事業は、上下分離のうえ、民営化された鉄道貨物運送会
社が行っている。
④アメリカ
線路会社が行う施設整備には直接的な公的補助はないが(都市間
アメリカでは、都市間貨物鉄道の施設整備・運営は、
「クラス1」と
旅客鉄道参照)、鉄道貨物運送会社の行う投資(鉄道車両、倉庫、運
よばれる大手民間貨物鉄道会社が行っている。施設整備・運営に関
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35 ●
原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
して政府からの補助は一切なく、参入規制も撤廃されている。
備延長となっている。イギリスは高速道路の整備延長こそ少ないも
貨物輸送における鉄道の分担率は約4割と圧倒的に高いが、その
のの、一般道路でも高速走行可能な道路が多く、道路ストックは相
要因として、大陸性が強く輸送が長距離であることに加え、完全な自
対的に充実している。また、アメリカでは今世紀初頭から積極的な道
由競争のもとで、コンテナ化やダブル・スタック・トレイン( DST:コン
路投資が行われ、90年代初頭には州際道路(インターステート)が概
テナを2段積みして輸送する列車)の導入など鉄道会社の創意工夫に
成している。
より、長距離コンテナ輸送を中心としたマーケットを開発し、顧客ニ
次に、都市内環状道路網について、ドイツでは高速道路網の一環
ーズに応えていることがあげられる。DSTの導入に際しては、拠点タ
として都市内環状道路の整備が進んでいる。フランスではパリとそ
ーミナルへの集中投資を行った結果、ハブ&スポーク化が進展してお
の他の都市における規模の格差が大きいが、パリでは、3環状道路
り、鉄道は長距離輸送のラインホール部分に特化し、端末輸送はトラ
( 内環状、中環状、外環状)と放射状道路の整備が進んでおり、充実
ック業者に請け負わせるというインターモーダル化が進んでいる。
した都市内高速道路網を有している。また、パリ以外の都市におい
ても環状道路の整備は概ね進んでいる。
5
道
イギリスもロンドンとその他の都市における規模の格差が大きい
路
が、ロンドンでは、外縁部に世界最大級の環状道路M25が整備され
( 1)分析の視点
ているものの、内環状・中環状に相当する環状道路の整備は遅れて
道路整備については、都市間高速道路や都市内環状道路の整備
いる。7大都市圏においても環状道路を持つ都市は少なく、道路ス
状況や整備に対する考え方の相違が、各国の施設整備制度にも反映
トックは全般に脆弱である。アメリカでは、都市の発展が新しく、土
されている。また、道路特定財源の有無や使途についても各国ごと
地利用も粗放的であることから、都市内環状道路の整備は総じて進
の特徴がみられる。
んでいる。
(2)各国の道路整備の特徴
( 3)英・仏・独・米における施設整備制度
まず、高速道路延長の推移(図4)をみると、ドイツは充実した高速
①ドイツ
道路( アウトバーン)網を有し、非常に活発に利用されている。フラ
ドイツの都市間道路は、充実した高速道路( アウトバーン)網を有
ンスは高速道路網の整備着手で遅れをとったが、急速に整備を推進
することから、施設整備の中心は、旧東ドイツを除いて新設から拡幅
した結果、ドイツには及ばないものの、わが国やイギリスをしのぐ整
に移っている( 旧東ドイツでは整備格差是正のために新規投資が活
表6 ● 道路整備制度の特徴
イギリス
フランス
ドイツ
アメリカ
都市間道路の特徴
高速道路の 整備延長は少ない が、 高速道路の整備に遅れをとり、積極
高速走行可能な幹線道路網は充実、 的に整備を推進
改良投資が中心
充実した高速道路網を有し、施設整
備の中心は新設から拡幅へ
都市間道路の整備負担制度
一部を除いて有料道路は存在せず、 高速道路の整備は原則有料道路と
幹線道路は国が全額負担、非幹線 して通行料収入で費用償還。国道整
道路は5〜6割を負担
備は国と地方の折半を目安として分
担
一部を除いて有料道路は存在せず、 州際道路の整備は国が資金提供す
連邦長距離道路の整備は国が全額 る。全国幹線道路網( NHS)の整備
負担
費用は、国が80%を上限として補助
都市内道路の特徴
【ロンドン】
【 パリ】
環状道路は未充実で今後も計画な 都市内高速道路が充実
し
【その他の都市】
【その他の都市】
環状道路は概ね充実
環状道路を持つ都市は少ない
高速道路の一環として都市内環状道
路が充実
州際道路は90年代初頭に既成
都市内環状道路は総じて充実
都市内道路の整備負担制度
各都市の交通政策計画( TPP)の中
から国が補助対象を選定( 約9割補
助)。公共交通・道路を組み合わせ
たパッケージアプローチ枠を拡大中
国の助成制度あり
( 詳細不明)
自治体道路は国が75%を負担。国 国は陸上交通プログラム( STP)や、
の補助金は公共交通・道路双方に充 混 雑 緩 和・大 気 汚 染 プ ロ グ ラム
当可能で、その80%分は地方に使 (CMAQ)などに基づいて補助(補助
途配分権
率不明)
特定財源
なし
なお、民間の資金・ノウハウを活用
するPFI方式を積極的に導入( 道路
投資全体の11%)
高速道路通行税等の一部を過疎地
等の国道整備の特定財源化
上記連邦長距離道路、 自治体道路
とも鉱油税の一部を特定財源化(連
邦長距離道路整備の特定財源化の
一部は他に流用)
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●36
燃料税を財源とする道路特定財源が
大半を占める
原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
図4 ● 高速道路延長の推移
高速道路延長(km)
アメリカ高速道路延長(km)
12,000
100,000
90,000
10,000
80,000
70,000
8,000
60,000
50,000
6,000
40,000
4,000
30,000
20,000
2,000
10,000
0
0
1950
1955
1960
日本
1965
1970
イギリス
1975
1980
フランス
1985
ドイツ
1990
1995
年
アメリカ
定義)日本
:日本道路公団が建設・管理する高速道路
アメリカ :インターステートハイウェイ
イギリス :幹線自動車専用道路および地方自治体自動車専用道路
フランス :高速道路(オートルート)の有料区間
ドイツ :連邦長距離道路のうちの高速道路(アウトバーン)の延長
資料)「データで見る国際比較1997」建設省道路局、1997ほか
発である)。一部を除いて有料道路は存在せず、高速道路および連
通補助法)が存在し、国が整備費用の75%を補助する。連邦補助金
邦道路( 国道)からなる連邦長距離道路の整備は、
「 連邦交通路計
は一定の基準に基づいて地方( 各州)に配分され、具体的な使途に
画」により全交通機関にわたる施設整備計画の一環として、原則とし
ついては、公共交通・道路の配分シェアも含めて、地方( 州)の判断
て全額国( 連邦)の負担により行われる。その財源として、国は鉱油
に委ねられている。
税を財源とする連邦長距離道路整備の特定財源を持つが、実際の道
また、鉱油税は国(連邦)の重要な固有財源であることから、目的
路事業費は特定財源額を大きく下回っており、特定財源の一部が他
に応じて増税を繰り返しており、その財源は、連邦長距離道路整備、
に流用されている。なお、高速道路では大型トラックが有料化され
公共近距離旅客交通・自治体道路の整備(自治体交通補助法)、公共
たが、これは欧州の市場統合にともなう他国との制度面での調和と
近距離旅客交通の運営・整備(地方分権化法)の3種類の特定財源と
いう側面が強く、通行料収入は一般財源に繰り入れられている。
一般財源から構成される。
都市内道路のうち、地方自治体の道路整備については、公共交
通・道路が補完関係にあるとの認識に基づき、鉱油税を特定財源と
して、両者のいずれにも充当可能な国(連邦)の補助制度(自治体交
②フランス
フランスでは、高速道路網の整備に遅れをとったことから、有料
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37 ●
原田 昌彦 ◎ Masahiko Harada
交通 ● 英・仏・独・米における交通施設整備制度
道路制度の導入により積極的に高速道路整備を推進しており、今後
も積極的に道路整備を推進していくこととしている。有料道路制度に
6
おわりに
よる高速道路の整備に公的補助はなく、ほとんどが有料道路会社の
借入金によって賄われ、通行料収入によって償還される。なお、国
以上のように欧米4か国の陸上交通にかかる施設整備・運営制度
道整備においては、地方負担を求めており、国と地方の折半が費用
をみてみると、各国の制度が制度単独で存在するのではなく、地理
分担の目安とされている。
的特性、国家体制、施設整備・運営の現状、今後の政策の方向性な
また、高速道路通行税(通行料に加算して徴収)および水力発電税
どと密接な関係を持っていることが確認できたと思う。このため、各
を 財源とするF I T T V N( 陸上および可航水路輸送投資基金)が
国の制度をわが国の制度設計の参考とするためには、当然双方を取
1995年に創設され、その一部が道路整備の特定財源として過疎地
り巻くさまざまな周辺環境を個別に検討してみる必要があるわけだ
等の国道整備費用に充てられている。なお、FITTVNの一部は、こ
が、あえて欧米4か国の制度から得られる共通の示唆を考えてみた
のほかTGV整備や貨物鉄道施設整備の特定財源にもなっている。
いと思う。
都市内道路は概ねよく整備されており、都市内高速道路は原則と
して無料であるが、一部には有料の都市内高速道路も存在している。
まず第一点は、総合化という視点である。例えば、ドイツでは、交
通機関別需要予測、統一的基準に基づく費用便益分析によるプロジ
ェクト評価という客観的手法に基づき、全交通機関にわたる施設整
③イギリス
備計画を策定している。また、ドイツやイギリスには、公共交通と道
イギリスでは、高速道路の整備延長は少ないが、高速走行可能な
路が一体となった補助制度があり、地域の実情に合わせて交通機関
幹線道路網は充実しており、施設整備は拡幅などの改良投資が中心
のベストミックスを選択できるように配慮している。さらに財源面で
となっている。一部を除いて有料道路は存在せず、高速道路を含む
も、ドイツ、フランス、アメリカのように、公共交通と道路が補完的な
幹線道路の整備費用は国が全額負担し、非幹線道路( 地方道)の整
関係にあるという考え方から、道路特定財源の一部を公共交通に充
備費用も国が5〜6割を負担するが、道路整備にかかる特定財源は
当している国もある。一方で、イギリスのように特定財源を廃止し、
1955年以降存在していない。
使途配分の柔軟性を確保するという考え方もある。
都市内道路は全般に脆弱であるが、このうちロンドンでは道路整
いずれにしても、各交通機関の最適な役割分担の実現を目指して
備がほとんど行われていないのに対し、7大都市圏では比較的整備
いるという点は共通であり、地球環境問題や少子・高齢化問題をはじ
が進められている。都市内道路の整備に対する国の補助制度には、
めとするさまざまな課題に対して、各交通機関ごとの個別対応では
使途の限定のない地方税補助金( RSG)、使途が道路に限定された
対処しきれなくなっている状況にあって、大いに参考にすべき点で
交通補助金( TSG)等がある。TSG等の適用対象は、国の補助金総
あろう。
額の枠内で、各地方自治体の策定する交通政策計画( TPP:公共交
通および道路の5年間の投資計画)の中から選定される。
折しも2001年1月1日には省庁再編が実施され、鉄道をはじめ
とする各交通機関や空港・港湾整備を所管する運輸省と、道路整備
また近年、道路整備に民間の資金やノウハウを導入するPFI方式
を所管する建設省が、国土交通省のもとに統合される。これを契機
が年々増加し、PFI方式を含む民間投資は道路投資全体の約1割を
として、わが国においても総合的な交通政策が本格的に実施される
占めている。高速道路ではPFI方式の一種であるDBFO方式( 政府
ことが望まれる。
から「 Shadow Toll( 影の料金)」を受け、民間が一括して設計・建
また、各国の制度から得られるもう一つの示唆は、地方分権に関
設・資金調達・運営を行う方式)によってすでに8プロジェクト
(1997
するものである。欧米各国の主要な都市圏では、都市公共交通の監
年現在)が契約されている。
督・調整等を行う政策当局が存在し、中にはフランスの交通税のよう
な独自財源を有する場合もある。わが国においても、交通事業全般
④アメリカ
アメリカでは、州際道路(インターステート)の整備主体は州であり、
にわたる需給調整規制の廃止により、地方自治体が地域の交通問題
に対して主体的に取り組む必要性が高まる中で、こうした地方レベル
国(連邦)は資金提供を行う。州際道路の概成にともなって策定され
の交通政策当局の拡充(具体的には都道府県、市町村への地方分権
た全国幹線道路網(NHS)の整備費用は、国が80%を上限として補
化)が求められるところである。
助する。これらの大半は、燃料税を財源とする特定財源によって賄
われる。
都市内道路はよく整備されており、維持管理が中心であるが、国
( 連邦)はISTEA( 陸上交通効率化法)で定める陸上交通プログラム
(STP)や、混雑緩和・大気汚染プログラム(CMAQ)などに基づいて
補助を行う。
SRIC MOOK
RD
volume ◆ 004
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