節目の年 - 日本化学会

節目の年
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黒田玲子 Reiko KURODA
東京理科大学総合研究機構 教授
人生には還暦,米寿などの節目の歳がある。大学や企業などの組織体でも,創立 100 周
年などに大きな行事が開催される。傑出した個人の偉大な業績を讃え,没後の節目の年に
記念行事が開催されることもある。例えば,1991 年はモーツァルト没後 200 年で,ザル
ツブルグやウィーンの大聖堂で命日にレクイエムが演奏され,ウィーンフィルの演奏は世
界に中継された。世界中で記念コンサートが開かれ,CD が発売された。
実は,1791 年は,マイケル・ファラデーの誕生の年でもあった。ファラデーは,電磁
誘導,電気分解の法則の発見にとどまらず,テトラクロロエテン,イソブテン,ベンゼン
の化学式決定など,化学分野でも貢献した。静電容量の SI 単位「ファラッド(F)」,1 モ
ルの電子の電荷に相当する「ファラデー定数」にも名を残しているし,筆者の専門に近い
磁気旋光も「ファラデー効果」とよばれている。科学の発見にとどまらず,金曜講話,ク
リスマス講演の創設など科学の普及にも貢献した。モーツァルト没後 200 年ばかりが取り
上げられたのをちょっとさみしく思っていた。
しかし,最近では,科学の世界でも,啓発活動の一環として,記念行事が盛んになって
きた。2005 年は「世界物理年」だった。アインシュタインの 3 本の基本的な論文,「光電
効果の理論」
,
「ブラウン運動の理論」,「特殊相対性理論」が出されてから 100 年を記念し
たものである。世界規模で,自然の解明,科学技術への応用の重要な基礎である物理学の
理解を促進し,また,人材育成につなげるのが目的であった。
2009 年は,ガリレオが倍率約 20 倍の屈折式天体望遠鏡を自作して天体観測を始めてか
らちょうど 400 年の節目の年に当たり,
「世界天文年」となった。 ガリレオは翌 1610 年 1
月には,木星の周りを公転している 4 つの衛星と,土星の輪を発見している。
2011 年はマリ・キューリーのノーベル化学賞受賞から 100 年で,
「世界化学年」となり,
世界中で様々な催しが開催されたことはみなさんの記憶に新しいことだろう。
そして,2014 年は「世界結晶年」である。1912 年にマックス・フォン・ラウエが硫化
亜鉛結晶による X 線回折現象を発見し,翌年には,ヘンリー・ブラッグとローレンス・
ブラッグの父子がブラッグの法則を発表して X 線回折による構造解析に理論的な基礎を
与えた。1916 年にはピーター・デバイとパウル・シェラーが粉末 X 線回折像から物質を
同定する方法を発表した。ラウエは 1914 年に,ブラッグ父子は 1915 年に,ノーベル物理
学賞を受賞している。「国際年」の採択は国連総会でなされる。2013 年も想定し,ICSU
(International Council for Science: 国際科学会議)の副会長とし
て裏方で応援してきていたので,2014 年と決まり,ほっとした。
本誌にも紹介されているように,日本,世界で多くの活動が予定
されている。楽しみである。
Ⓒ 2014 The Chemical Society of Japan
CHEMISTRY & CHEMICAL INDUSTRY │ Vol.67-1 January 2014
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