平成20年7月16日 経 済 産 業 省 「新潟平野ガス田(水溶性ガス田) 」等に関する調査結果について 【工業用に地下水を採取する事業者の方々等に 対する情報提供及び注意喚起】 当省では、昨年12月に実施した「南関東天然ガス田(水溶性ガス田)」に 関する調査に引き続き、 「新潟平野ガス田(水溶性ガス田)」等の分布範囲及び 地質構造等につき、独立行政法人産業技術総合研究所に依頼して調査しまし た。今般、暫定的な取りまとめが行われたので、公表します。 関係事業者におかれましては、本件調査結果を参照され、地下水採取に際す る安全対策につき、より一層の注意をお願いします。 1.新潟県の平野部やその周辺、静岡県の大井川河口付近及び沖縄本島南部一帯 の地下には「水溶性ガス田」が広がっています。当該地域に立地している企業 が工業用途で地下水を採取する場合、その地下水中に天然ガスが溶存している 可能性があります。 2.このため、当省では、昨年12月に独立行政法人「産業技術総合研究所」 (以 下「産総研」という。)に依頼して実施した南関東天然ガス田に関する調査に 引き続き、 「新潟平野ガス田」等の分布範囲と注意すべき地質構造等の情報に つき、産総研に調査を依頼しました。 産総研が既存のボーリング調査等のデータを分析した結果、今般、暫定的 な取りまとめが行われましたので、南関東天然ガス田に関する調査結果と同 様に公表します。 【参考】: 南関東天然ガス田に関する調査結果(平成19年12月26日公表)については、 以下のURLより参照してください。 http://www.meti.go.jp/press/20071226003/20071226003.html 3.工業用に地下水を採取している事業者の方々等におかれましては、本件調 査結果を踏まえ、地下水採取に際する安全対策につき、より一層の注意をお 願いします。 4.なお、前回とりまとめを行った南関東天然ガス田につき、産総研では既存 のボーリング調査等のデータベースから、当該ガス田の布域に立地している 事業者を抽出して、地下水に関するアンケート調査を実施しました。その結 果を併せて公表します。 ○資料一覧 1.水溶性ガス田に関する情報 2.天然ガスの湧出に対する注意 3.新潟平野ガス田の概要 4.静岡大井川河口ガス田の概要 5.沖縄本島南部ガス田の概要 6.地下水(工業用水用)に関するアンケート調査の結果について (本発表資料のお問い合わせ先) 地域経済産業グループ 産業施設課長 野口 正 担当者:小宮、今井 電 話:03−3501−1511(内線 2781∼7) 03−3501−1677(直通) (資料に関するお問い合わせ先) 独立行政法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター 担当者:丸井 電 話:029−861−3684(直通) 平 成 20 年 7 月 16 日 独立行政法人産業技術総合研究所 新潟平野ガス田(水溶性ガス田)等について 1.水溶性ガス田に関する情報 1)日本の主要な水溶性ガス田の分布等 ガス田には、遊離ガスとして存在する天然ガス田、原油とともに産出する油ガス田、地下水 に溶け込んで存在する水溶性ガス田がある。遊離ガスとして存在するものは油田帯や炭田帯で 産出され、水溶性ガスとして存在するものは油田帯や炭田帯の分布とは関係なく、堆積平野に 認められる。下図に日本の主要な水溶性ガス田の分布図を示す。水溶性ガス田は、南関東及び 新潟に広く分布する。水溶性ガス田である南関東ガス田では、かん水(水溶性ガスを含む地下 水)から天然ガスと同時にヨウ素を生産しており、世界で有数のヨウ素の生産地であることで も知られている。このほか、静岡、宮崎、沖縄等にも水溶性ガス田は認められる。水溶性ガス 田地域に関しては、かん水の過剰くみ上げによる地盤沈下やガス管理の不具合による火災事故 など、注意を要する事項も指摘されている。本調査においては、新潟平野に分布する水溶性ガ ス田(以下「新潟平野ガス田」という)、静岡大井川河口に分布する水溶性ガス田(以下「静 岡大井川河口ガス田」という)、そして沖縄本島南部に分布する水溶性ガス田(以下「沖縄本 島南部ガス田」という)について、地質学的・地下水学的情報を収集した結果をまとめる。 新潟ガス田 南関東ガス田 静岡ガス田 宮崎ガス田 《水溶性ガス田の埋蔵量》 埋蔵量(億m3) 沖縄ガス田 南関東ガス田 新潟ガス田 静岡ガス田(小笠ガス田) 宮崎ガス田(日南ガス田含) 沖縄ガス田 日本の主要な水溶性ガス田の分布図 1 6,843.2 1,056.8 180.0 348.5 346.8 2)天然ガスの性質 天然ガスの主成分はメタンガスであり、約 99%を占める。メタンガスは無色・透明・無臭で あり、また人体に有害ではない。ただし、酸欠や爆発には注意を要する。具体的には空気に対 する比重が 0.55 と軽く、密室では天井に停滞しやすい性質がある。さらに、空気に 5%∼15% 混入しただけで火気にふれると爆発する可能性がある。 3)天然ガスの成因と産出状況 ガス田のメタンガスは、地層が堆積する際に取り込まれた植物等の有機物が腐敗して生成さ れる。この地層は通常海底で堆積したため、メタンガスは塩分濃度の高い地下水(「かん水」 と呼ばれる)に溶け込んでいる。したがって地下水中の塩分濃度が天然ガス胚胎の一つの指標 となる。また、天然ガスの溶解度は深度に伴って圧力に依存するものであり、深度 3,000m 程 度にいたる範囲で多量に溶解している。ガス開発などで大気中に開放されて、減圧され遊離し た場合に、ガスが発生すると報告されている。 2.天然ガスの湧出に対する注意 1)注意すべき地層 全国のガス田分布を見ると、第三系(とくに新第三系)と呼ばれる地層が主に天然ガスの胚 胎層となっている。新第三系は、200 万年前∼2,500 万年前の期間に堆積した地層であり、そ の内部で微生物活動によって天然ガスを発生させて胚胎していると考えられている。この報告 では、その新第三系の上面深度の分布図を示す。 2)地盤調査や土木工事に対する注意 地質ボーリングにおいて沖積層の下部粘土層を掘り抜いたときに、天然ガスが湧出(突出) することがある。これは粘土層やシルト層がキャップロックとして働き、天然ガスを封じ込め ているために起こる現象である。このため、土木工事などに伴う掘削や杭打ち、深部までにお よぶ構造物の建設やその後の管理などにおいて注意を要する。 2 3.新潟平野ガス田の概要 村上市 A A 新発田市 新潟市 B B 新潟平野ガス田 長岡市 C C 柏崎市 D D 上越市 糸魚川市 図 3-1 調査位置図(空中写真地図は「Google Maps™」により使用) 【解説】 赤線で囲まれた地域が、新潟県の平野部一帯に広がる「新潟平野ガス田」を示す。この中の一 部の地域においては、地下水に天然ガスが溶存している可能性があり、地下水を取水する場合に は注意が必要である。 新潟平野周辺部の丘陵部や山麓地域では、ガス胚胎層が地表面に露出しているが、この地域に おいて、実際に天然ガスの漏出や噴出が確認された記録はないことから、天然ガス噴出の危険性 は低いものと考えられる。 この地域のガス胚胎層は、もともと地下深部に形成されていた地層が、その後の地殻変動によ って浅くなったものである。このため、圧力が開放され、地温も低下したことから、現在ではこ の地層中の地下水に天然ガスは溶存しないと考えられる。 しかしながら、当該浅部の地層には、部分的に粘土層などが狭在している可能性があり、この 粘土層が天然ガスを封じ込める蓋の役割を果たしている部分では、天然ガスが局所的に胚胎して いることも考えられる。したがって、注意は怠らない方が良いといえる。 3 対象地域の地質説明の表 地質時代 第 四 紀 ガス 地層名 備考 胚胎 深度 浅 完新世∼ 灰爪(ハイツメ)層 更新世 または灰爪層以浅の地層 (新しい地層) 西山(ニシヤマ)層 ○ 椎谷(シイヤ)層 ○ 鮮新世 新第三紀 新生代 ・天然ガスを含む地層。 ・埋蔵量が多いのは西山層と椎谷層 で、七谷層がこれにつぐ。寺泊層では 寺泊(テラドマリ)層 △ 七谷(ナナタニ)層 ○ 埋蔵量が少ない。 中新世 古第三紀 花崗岩類 中生代 ・新第三系の基盤岩類。 白亜紀 ・平野縁辺部の山地や平野内部の地 古生代 下深部に分布することが確認されて ジュラ紀∼石炭紀 いる。 粘板岩・砂岩 深 (古い地層) (※ピンク色:主要ガス胚胎層、黄色:ガス胚胎層) 新潟平野の新第三系は、中生代花崗岩類(基盤)の上に、下位から七谷層、寺泊層、椎谷層、西 山層の順で堆積しており、いずれも石油・天然ガスを胚胎する可能性がある。天然ガス胚胎の可 能性を含め、これらの層序を上の表に示す。七谷層は、下部が凝灰岩、上部が泥岩からなり、部 分的に厚い流紋岩の貫入が認められ、石油・天然ガスの根源岩(石油・天然ガスを生成する微生 物活動が行われる地層)となっている。寺泊層は層厚 350m 以上で、砂岩と泥岩の互層からなり、 天然ガスの胚胎層として知られている。椎谷層は、砂岩と泥岩の互層からなり、一般に寺泊層を 整合で覆うが、東縁部では不整合で覆う。地域によって層厚が大きく変化し、沈降量の大きなと ころでは 1,000m∼1,500m、沈降量の小さなところでは 250m 程度である。西山層は、泥岩層から なり、椎谷層を整合で覆う。層厚は 300m 程度であり、ここまでが天然ガス胚胎層となっている。 4 地質断面 図 3-2 に断面位置図を示す。 村上市 A 新発田市 新潟市 B 長岡市 C 柏崎市 D 上越市 糸魚川市 図 3-2 断面位置図(空中写真地図は「Google Maps™」により作成) 図 3-2 のAライン∼Dラインにおける地質断面図を以下に示す。前頁の表で述べたように、天 然ガス胚胎の中心である七谷層、寺泊層、椎谷層、西山層(断面図の濃い黄色及びピンク色)を 中心に図示した。断面位置の選択においては、基礎試錐(公的調査用井戸)のある地点どうしを 結び、また人口の集中しているところを通過するように設定した。 5 ①Aライン地質断面図(胎内市(旧中条町)−関川村) 村上市 関川村 A 胎内市 新発田市 図 3-3 Aラインにおける地質断面図 図 3-3 に示すAラインの断面は、胎内市∼関川村にかけての断面である。新第三系の各天然ガ ス胚胎層とも、その層厚は他地区に比べて薄い。東側の丘陵地ではこれらの層が露出している。 6 ②Bライン地質断面図(新潟市中央区−新潟市北区(豊栄)) 新発田市 新潟市 北区 B 新潟市 中央区 図 3-4 Bラインにおける地質断面図 図 3-4 に示すBラインの断面は、新潟市中央区∼新潟市北区付近にかけての断面である。新潟 市付近では、新第三系の天然ガス胚胎層は第四系(200 万年前∼現在までに堆積した地層。本地 域では灰爪層以浅の地層が相当する。)で覆われている。第四系の層厚は厚く、海岸線付近では 4,000m を超えるほどである。 7 ③Cライン地質断面図(柏崎市−小千谷市) 長岡市 C 小千谷市 柏崎市 図 3-5 Cラインにおける地質断面図 図 3-5 に示すCラインの断面は、柏崎市から小千谷市にかけての断面である。当該地区では、 沈降域では天然ガス胚胎層の層厚が厚く、その下面深度は-4,000∼-5,000m、寺泊層だけでも1,500m を超えているところが見られる。また、当該地区では、地殻変動の余波を受けて盆状化 し、東西の両端が地表に露出している。 8 ④Dライン地質断面図(上越市(頸城地区)−十日町市) 柏崎市 十日町市 D 上越市 図 3-6 Dラインにおける地質断面図 図 3-6 に示す断面は、上越市頚城地区∼十日町市にかけての断面である。上越市付近では、第 四系(灰爪層以浅の地層)が他地区に比べてほとんど見られなくなる。また、寺泊層が厚く堆積 する部分も多くなる。西山層は、沈降域でのみ厚く堆積しており、とくに内陸の信濃川周辺で厚 いのが特徴的である。 9 -1000m -2000m -3000m 0m 0m 図 3-7 天然ガス胚胎層(西山層)上面深度分布 新第三系の天然ガス胚胎層(西山層)の上面深度は、新潟市に向かって信濃川に沿うように谷 を形成している。この谷は地殻変動に伴う沈降・褶曲によって形成されたものであり、内部には 断層を数多く形成している。天然ガス胚胎層は、第四系の堆積する平野中央部では深部に存在す るが、周辺の丘陵部や山麓部では地表に露出しているのが特徴である。 10 4.静岡大井川河口ガス田の概要 岡部町 静岡大井川河口ガス田 牧之原市 図 4-1 調査位置図(空中写真地図は「Google Maps™」により使用) 【解説】 赤線で囲まれた地域が、大井川河口付近に広がる「静岡大井川河口ガス田」を示す。この中の 一部の地域においては、地下水に天然ガスが溶存している可能性があり、地下水を取水する場合 には注意が必要である。 岡部町、牧之原市や御前崎周辺では、ガス胚胎層が地表面に露出しているが、この地域におい て、実際に天然ガスの漏出や噴出が確認された記録はないことから、天然ガス噴出の危険性は低 いものと考えられる。 この地域のガス胚胎層は、もともと地下深部に形成されていた地層が、その後の地殻変動によ って浅くなったものである。このため、圧力が開放され、地温も低下したことから、現在ではこ の地層中の地下水に天然ガスは溶存しないと考えられる。 しかしながら、当該浅部の地層には、部分的に粘土層などが狭在している可能性があり、この 粘土層が天然ガスを封じ込める蓋の役割を果たしている部分では、天然ガスが局所的に胚胎して いることも考えられる。したがって、注意は怠らない方が良いといえる。 11 対象地域の地質説明の表 1) 時代 ガス 地層名 完新世 更新世 洪積層 鮮新世 第四紀 沖積層 掛川(カケガワ)層群 × (Q) × (Q) (Kg) 大寄(オオヨリ)層 (S3) 相良(サガラ) 相良(サガラ)層 層群 (S2) (S1) 中新世 新第三紀 新生代 時ヶ谷(トキガタニ)層 西郷(サイゴウ)層群 (Sg) 倉真(クラミ)層群 (Km) 竜爪(リュウソウ)層群 (R) 大井川(オオイガワ)層群 (O) 漸新世 古第三紀 瀬戸川(セトガワ)層群 (Se) 備考 胚胎 河川、海岸堆積物で低地を埋積する。 未固結の粘土、砂、礫からなる。 浅 (新しい地層) 河川堆積物で大井川沿いの低地に分布 する。未固結の粘土・砂・礫からなる。 × 砂岩泥岩互層からなる。 × 塊状のシルト岩からなる。 ○ 深度 砂岩・シルト岩互層からなる。 油田の貯留岩層である。 粗粒砂岩、砂岩・シルト岩互層からなる。 ○ 油田の貯留岩層である。 「相良」では、本層から産ガスしている。 △ △ 泥岩を主体とする。 油田の根源岩層である。 礫岩、砂岩、泥岩からなる。 油田の根源岩層である。 アルカリ玄武岩を主体とする。 ◎ 油田の貯留岩層である。 焼津地域では本層から産ガスしている。 ◎ × 泥岩、砂岩、砂岩泥岩互層からなる。 油田の根源岩層である。 砂岩、泥岩、砂岩泥岩互層からなる。 本地域のガス胚胎層の基盤をなす。 深 (古い地層) (※ピンク色:主要ガス胚胎層、黄色:ガス胚胎層) 天然ガスを胚胎する可能性のある地層は、他の地域と同様に新第三系である。根源岩とは石 油・天然ガスを生成する微生物活動が行われる地層のことであり、生成された石油・天然ガスは、 上位に堆積する貯留岩層に蓄えられたり、褶曲などの地質構造によって凸状部分に集積したりす る。「静岡大井川河口ガス田」中に位置する相良油田 2) では、西郷層群、倉真層群、大井川層群 が根源岩としてのポテンシャルを有している。相良油田の貯留岩は、相良層群時ヶ谷層の砂礫岩 と言われている。 主な天然ガス胚胎層は、相良層群の時ヶ谷層、相良層である。御前崎市(相良地区)では相良 層群の相良層から産ガスし、焼津地域では竜爪層群中の火山角礫岩や火砕質砂岩中から産ガスし ている。 1)「地層名」の欄のカッコ内のアルファベットは、後述の断面図における地層の略称に対応する。 2)相良油田は、静岡県牧之原市の西部にあった油田である。産油量の減少や国外からの安価な原 油の輸入などのため、1955 年に廃鉱となった。 12 地質断面 図 4-2 に断面位置図を示す。 牧之原市 図 4-2 断面位置図(空中写真地図は「Google Maps™」により作成) 図 4-2 のAライン∼Dラインにおける地質断面図を以下に示す。前頁の表で述べたように天然 ガス胚胎の中心である相良層群(時ヶ谷層、相良層)∼大井川層群(断面図の濃い黄色及びピン ク色)を中心に図示した。断面位置の選択においては、基礎試錐(公的調査用井戸)のある地点 どうしを結び、また人口の集中しているところを通過するように設定した。 13 ①Aライン地質断面図(御前崎市(相良地区)−島田市) 「相良」 図 4-3 Aラインにおける地質断面図 図 4-3 に示すAラインの断面は、御前崎市∼島田市にかけての北北東-南南西方向の断面であ る。大井川流域には、-50m まで河川堆積物(Q)が堆積する。相良油田の貯留岩と考えられる相 良層(S2)は、基礎試錐「相良」地点では、深度-583m∼-1,042m 間で確認され、大井川に向か って地表に近い範囲に分布する。根源岩である大井川層群(O)も広範囲に分布する。また、こ の断面方向に応力を受け、地層はおおきく褶曲しており、天然ガス胚胎層の上面深度は 0m∼800m の範囲で所によって大きく異なる。 14 ②Bライン地質断面図(大井川河口−藤枝市−岡部町) 岡部町 大井川町 吉田町 図 4-4 B ラインにおける地質断面図 図 4-4 に示すBラインの断面は、大井川河口付近∼藤枝市∼岡部町にかけてのほぼ南北方向の 断面である。大井川付近の河川堆積物(Q)は、層厚 200∼300m と推定される。大井川の低地部 の基盤は、主に大井川層群(O)と考えられる。断層で接する竜爪層群(R)より南側はほぼ水平 な堆積構造を呈している。 15 ③Cライン地質断面図(御前崎市(相良地区)−大井川河口−焼津市) 「東海-1」 大井川町 吉田町 牧之原市 萩間川 「相良」 図 4-5 C ラインにおける地質断面図 図 4-5 に示すCラインの断面は、御前崎市∼大井川河口∼焼津市にかけての北東-南西方向の 断面である。大井川付近の河川堆積物(Q)は層厚 200∼300m で、大井川の低地部の基盤は主に 大井川層群(O)と考えられる。地層は、大井川から「相良」へ向かっては南傾斜である。「東 海-1」では竜爪層群(R)の玄武岩が確認されている。この堆積構造から大井川河口付近の河川 堆積物(Q)中の地下水(下位層との接点部分)には水溶性天然ガスの影響が懸念される。 16 ④Dライン地質断面図(栗ヶ岳−島田市−大井川町) 栗ヶ岳 大井川町 図 4-6 Dラインにおける地質断面図 図 4-6 はDラインの断面で、栗ヶ岳∼島田市∼大井川町にかけてのほぼ東西方向の断面である。 大井川流域の河川堆積物(Q)は、島田市付近で 50m、河口付近で 200∼300m の厚さで堆積する。 大井川流域の基盤は、大井川層群(O)、瀬戸川層群(Se)であるが、大井川層群の堆積範囲が大 きくないことがわかる。天然ガス胚胎層の分布はこの断面より概ね南に向かって伸張している。 17 牧之原市 相良 比木 御前崎市 堀野新田 御前崎 図 4-7 天然ガス胚胎層(相良層群相良層(S2))上面深度分布図 図 4-7 に相良油田の貯留岩である相良層群の相良層(S2)の上面深度分布(海水準)を示す。比 木地区を通る向斜軸に沿って相良層(S2)が分布し、相良∼堀野新田付近で地表に露出する。ま た、御前崎半島先端部においても、地表付近に相良層(S2)が分布している。しかし、この下位 には広く大井川層群(O)が堆積しており、ガス田の下面深度は、深いところで-4,000m に達す ると考えられている。 18 5.沖縄本島南部ガス田の概要 那覇市 与那原 那覇空港 南風原 豊見城 沖縄本島南部ガス田 南城市 八重瀬 糸満市 図 5-1 断面位置図(空中写真地図は「Google Maps™」により作成) 【解説】 赤線で囲まれた地域が、那覇市以南に広がる沖縄島南部の「沖縄本島南部ガス田」を示す。こ の中の一部の地域においては、地下水に天然ガスが溶存している可能性があり、地下水を取水す る場合には注意が必要である。 沖縄本島南部ガス田の北西部に位置する那覇市及び豊見城市周辺では、ガス胚胎層が地表面に 露出しているが、この地域において、実際に天然ガスの漏出や噴出が確認された記録はない。 この地域のガス胚胎層は、もともと地下深部に形成されていた地層が、その後の地殻変動によ って浅くなったものである。このため、圧力が開放され、地温も低下したことから、現在ではこ の地層中の地下水に天然ガスは溶存しないと考えられる。 しかしながら、当該浅部の地層には、部分的に粘土層などが狭在している可能性があり、この 粘土層が天然ガスを封じ込める蓋の役割を果たしている部分では天然ガスが局所的に胚胎してい ることも考えられる。したがって、注意は怠らない方が良いといえる。 19 対象地域の地質説明の表 1) 地質時代 ガス 地層名 完新世 隆起礁性石灰岩、海浜堆積物、沖積層(a) × 牧港(マチナト)石灰岩 (M) 琉球層群 新生代 更新世 第四紀 読谷(ヨミタン)石灰岩 (Y) × (50m) 礫層 (I) (50m) に分布する。 浅 (新しい地層) 浅層地下水の主要な帯 水層。南部の地下ダムは 琉球層群を貯留層として 那覇(ナハ) 嘉手納(カデナ) 知念(チネン) 石灰岩 礫層 (K) 砂層 (C) (N) (40m) (30m) (70m) 新里(シンザト)層 シルト岩:Sm 凝灰岩:St 島尻層群 後期中新世 新第三紀 鮮新世 (120m) いる。 × 均質なシルト岩が主体。 △ 凝灰岩の薄層や細粒砂 岩層を挟む。 与那原(ヨナバル)層 シルト岩:Ym シルト質砂岩:Ys (900m) 極めて均質なシルト岩。 △ 凝灰岩の薄層や細粒砂 岩層を挟む。 豊見城(トミグスク)層 シルト岩:Tm 砂岩:Ts (1,100m) 中生代 白亜紀 低地の表面や海岸沿い 深度 × (50m) 池原(イケバル) 備考 胚胎 名護(ナゴ)層 (Ng) ○ × シルト岩と砂岩の互層。天 然ガスを胚胎する地層。 地表部での露出なし。黒 色千枚岩からなる 深 (古い地層) (※ピンク色:主要ガス胚胎層、黄色:ガス胚胎層) 上記の表は、沖縄本島南部地域の地質層序を示したものである。天然ガスを胎胚する地層は新 第三系の島尻層群の地層であり、上部より新里層、与那原層、豊見城層の三層に区分されている。 このうち、島尻層群の上∼中部を構成する新里層及び与那原層は、主としてシルト岩にからなり、 砂岩や凝灰岩等の帯水層となりうる地層の発達があまりよくない。島尻層群の最下位層である豊 見城層は、シルト岩と砂岩が互層状を呈していることから、天然ガス胎胚層としては島尻層群の 豊見城層が対象である。 1)「地層名」の欄のカッコ内のアルファベットは、後述する断面図における地層の略称に対応し、 カッコ内の数字は、地層の最大層厚を表す。 20 地質断面 図 5-2 に断面位置図を示す。 B A 那覇市 与那原町 那覇空港 南風原町 豊見城市 南城市 八重瀬町 D 糸満市 C 図 5-2 断面位置図(空中写真地図は「Google Maps™」により作成) 図 5-2 のAライン∼Dラインにおける地質断面図を以下に示す。前頁の表で述べたように天然 ガス胚胎の中心である島尻層群(断面図の濃い黄色及びピンク色)を中心に図示し、島尻層群の 豊見城層については、既存資料より推定できる場合は、シルト岩と砂岩の境界も合わせて図示し た。断面位置の選択においては、基礎試錐(公的調査用井戸)のある地点どうしを結び、また人 口の集中しているところを通過するように設定した。 21 ①Aライン地質断面図(那覇空港−那覇市−与那原町) 琉政2号井 那覇市 A 与那原町 与那原1号井 那覇空港 国場川 南風原町 豊見城市 南城市 T1 T3 T5 T13 図 5-3 Aラインにおける地質断面図 図 5-3 に示すAラインの断面は、那覇空港の北側∼那覇市∼与那原町にかけてのほぼ東西方向 の断面である。島尻層群の地層は北東−南西の走向で南東側に傾斜する同斜構造であるので、東 に行くほど新しい地層が分布するようになる。そのため、国場川付近より西側では豊見城層が地 表から分布するが、東海岸沿いの地域では豊見城層の上端は-900m となる。天然ガス胚胎層は、 琉政2号井の結果によると、豊見城層の上部より T1、T3、T5、T13(上図の赤丸の地層)が含有 層とされ、特に最下部の T13 砂層が有力な胎胚層とされているが、深度は-850m∼-950m と非常 に深いことから、T13 の分布は大部分の地域で-1,000m 以深となる。 22 ②Bライン地質断面図(那覇市−南風原町−南城市(玉城地区)) 琉政2号井 琉政1号井 B 那覇市 与那原町 那覇空港 国場川 南風原町 豊見城市 大里 南城市 玉城 八重瀬町 T1 T3 T5 T13 図 5-4 Bラインにおける地質断面図 図 5-4 に示すBラインの断面は、那覇市∼南風原町∼南城市大里∼南城市玉城にかけての北西 −南東方向の断面であり、島尻層群の走向とほぼ直交する方向である。この断面では島尻層群を 構成する三層の分布が認められる。Aラインの断面と同様に国場川付近より西側では、豊見城層 が地表から分布するが、南東側に向かって深度が深くなり、南城市玉城(断面図右端)では、1,000m に達するものと推定される。したがって、天然ガス胚胎層はAラインの断面の場合と同 じであり、豊見城層最下部の砂層(T13)が最も有望な胎胚層であるが、大部分の地域では1,000m を超えることとなる。 23 ③Cライン地質断面図(那覇空港−糸満市) 那覇市 与那原町 那覇空港 南風原町 豊見城市 南城市 琉政3号井 沖天還元1号井 八重瀬町 糸満市 C 図 5-5 Cラインにおける地質断面図 図 5-5 に示すCラインの断面は那覇空港∼糸満市にかけての北北西−南南東方向の断面である。 この断面は西海岸沿いにあたり、豊見城層の分布深度が比較的浅くなることから、注意が必要で ある。ただし、大深度のボーリング資料が無いため、豊見城層のガス胚胎層となる砂岩の分布状 況は不明な点が多く、豊見城層最下部の T13 の分布深度も明らかではない。なお、沖天還元1号 井や琉政3号井のボーリングデータでは豊見城層上部に比較的厚い砂岩層が確認されており、こ れらの地層からガス採取をしていたものと推定される。 24 ③Dライン地質断面図(糸満市−八重瀬町(具志頭)) 沖天還元1号井 八重瀬町 D 糸満市 具志頭 慶座地下ダム 具志頭1号井 米須地下ダム 図 5-6 Dラインにおける地質断面図 図 5-6 は、最も南側に位置するもので、糸満市∼八重瀬(ヤエセ)町具志頭(グシチャン)にかけ ての西北西-東南東方向の断面である。豊見城層の上面深度は西側の糸満市付近では-200m 付近 であるが、東側の具志頭付近では-1,000m である。糸満と具志頭のボーリング結果では、豊見城 層は、砂岩優勢のシルト岩互層となっており、天然ガスの胎胚に関して注意が必要である。 25 0m −400m −600m −800m −1000m 図 5-7 天然ガス胚胎層(島尻層群(新里層))上面深度分布図 図 5-7 に天然ガス胚胎層である島尻層群(新里層)の上面深度分布(海水準)を示す。当該層は 那覇市周辺で地表に露出しているが、南東方向に向かって傾斜しており、南城市付近では1,000m を超える。また、島尻層群自体の層厚が 1,000m を超えていることから、ガス胚胎層の下 面深度は-2,000m を超えると推定される。地下水開発に伴う天然ガスの発生に関しては、那覇市 や豊見城市周辺で注意を要する。 26 6.地下水(工業用水用)に関するアンケート調査の結果について 独立行政法人産業技術総合研究所(以下、「産総研」という。)は、東京都、千葉県及び 埼玉県を中心とした既存のボーリング調査等のデータベースから、「南関東天然ガス田 (水溶性ガス田)」上に立地している製造業等の事業者を抽出して、当該事業者に対し、 地下水の使用の有無や、地下水中への天然ガス溶存の有無等につきアンケート調査を実施 した。 1.213社から回答があったが、そのうち、地下水を使用している事業者数は121社 であった。 2.121社のうち、①地下水中に天然ガスの溶存はないと回答した事業者数は41社、 ②天然ガスの溶存があると回答した事業者数は3社、③天然ガス溶存の有無が不明と回 答した事業者数は77社であった。 3.なお、天然ガスの溶存があると回答した3社は、地下水の保管場所に換気設備の設置 等の安全対策を講じていた。 4.一方、天然ガス溶存の有無が不明と回答した77社については、産総研の調査によれ ば、大部分の事業者が通気性の良い場所に汲み上げた地下水を保管しており、また、地 下水を汲み上げるための井戸の深さも浅層部に位置し(井戸の深度は、ほとんどが地下 300m以浅)、天然ガスが多く胚胎している深層部(概ね地下1,000m以上)と は離れているため、地下水中に天然ガスが溶存している可能性は低い、とのこと。 5.ただし、念のため、今回のアンケート調査の実施にあたり、対象とした全事業者(工 業用水法に基づく許可事業者(全41社)含む)に対しては、当省のホームページ上に も公表してある「南関東天然ガス田」の分布範囲と注意すべき地質構造等の情報につい て取りまとめた資料を送付し、個別に情報提供と注意喚起を実施した。 以上 27
© Copyright 2024 Paperzz