京都府立大学における国際交流のあり方に関する提言

京都府立大学における国際交流のあり方に関する提言
平成19年8月
国際交流委員会
目
第1章
次
はじめに―国際交流のあり方
・・・
p 2
第2章 本学における国際交流の現状
・・・ p 4
第3章 本学における国際交流の問題点・課題
・・・ p12
第4章
本学の今後の国際交流の取り組み
・・・
p15
第5章
総
・・・
p20
括
-1-
第1章
はじめに―国際交流のあり方
現在,世界的規模で,社会,経済,文化のグローバル化が急速に進展し,国際的な流動
性が高まっている。
早くも我が国は,1999 年 6 月のケルン・サミットにおいて,来るべき 21 世紀は柔軟性と
変化の世紀であり,すべての人々にとって流動性に対応するためのパスポートは教育と生
涯学習であるとして,生涯にわたる学習の機会の確保と,学生,教員等の国際交流の重要
性を強調し、これがケルン憲章に盛り込まれた。
グローバル化時代に対応して教育の在り方を見直す必要性については,我が国に限らず
国際的にも共通の認識となっている。2000 年 11 月 22 日に発表された大学審議会の「グロ
ーバル化時代に求められる高等教育の在り方について」の答申においても,我が国を取り
巻く状況と高等教育の更なる改革の必要性が謳われている。
グローバル化時代における高等教育が目指すべき改革の方向は,我が国の高等教育の国
際的な通用性・共通性の向上と国際競争力の強化を図らねばならない。そのため,国際協
力や国際理解グローバル化時代への対応とその視点が必要である。世界中の様々な人々と
共生し,地球社会の一員として活躍する人材には,その時代と活躍の舞台にふさわしい教
養と専門的知識が必要である。グローバル化時代を担う人材の質の向上に向けた教育の充
実や学生,教員等の国際的流動性の向上などが、我が国の高等教育機関に求められる。
こうした世界の動きにあって,日本においては,グローバル化時代に求められる教養を
重視した教育の改善充実として,自らの文化と世界の多様な文化に対する理解の促進を考
えなければならない。異なる歴史的・文化的背景や価値観を持つ人々と共生していくため
には,自らがよって立つ国や地域の歴史や伝統,文化を深く理解し,異なる文化的背景を
持つ人々に対し,これを適切に説明し理解を求めたり,主張したりすることのできるいわ
ゆる発信型の能力を備えた学生を養成することが必要である。
他方,異なった歴史的・文化的背景や価値観の存在を視野に入れつつ,地球的規模で物
事を考える基礎を培う観点から,世界の多様な国や地域の歴史や伝統,文化に対する理解
を深めさせることもまた重要である。
京都府という地域に根ざした教育・研究にはすでに長い伝統と蓄積がある本学は、これ
を基盤に地域社会の国際化に更なる貢献をするという視座から国際化・国際交流を教育・
研究の両面において展開するべきである。
我が国と諸外国相互の研究・教育の国際化・活性化を促すとともに,国際理解の推進と
国際協力の精神の醸成に寄与するという観点から,本学においても専門分野を問わず,異
文化理解教育が重要な課題となり,異文化理解マインドを持った学生・研究者の養成を目
指して行かなくてはならない。
国際的に知名度の高い京都にある本学においては,これまでの教育・研究に加え,今後は
異文化理解に関する教育・研究を実践し,異文化理解マインドを持った発信型の学生・研
-2-
究者を養成していくことが,国際都市京都にある大学としての社会的な使命の一つである
と考えられる。
本学が京都府のさらなる国際化に貢献するため,そして異文化理解マインドをもった学
生・研究者を養成していくために,本学の教育と研究を国際的視野に立って推進すること
が必要となる。また、設置者の京都府におかれても、財政状況が厳しいとは言え、大学の
国際化は今後の大学運営の重要な key point であり、予算の配慮をお願いしたい。
以下、本学における国際交流・留学生交流の現状を分析し、現在の体制の不十分な点、
問題点を指摘しながら、グローバル化時代における本学の国際交流・留学生交流のあるべ
き姿について提言する。
-3-
第2章 本学における国際交流の現状
2.1
本学の国際交流の概況
本学における国際交流としては、長期にわたって継続している中華人民共和国西安外国語
大学との交流と、近年農学部教員の努力により実現した中華人民共和国雲南農業大学との交
流がまずあげられる。
このほか、文学部においては03年度には11名、04年度には15名、05年度には2
2名、福祉社会学部においては03年度には3名、04年度には5名、05年度には9名、
人間環境学部においては03年度には15名、04年度には21名、05年度には29名、
農学研究科においては03年度には26名、04年度には36名、05年度には40名の教
員が在外研究に赴いて国際学会に参加するなどの活動を行っている。
また、国外に留学に赴いた学生・大学院生の数は、過去5年間に長期留学だけで文学部2
0名以上にのぼるほか、社会福祉学部が10名程度、人間環境学部と農学部を合わせて10
名程度となっている。また、文学部からはこれまでに11名の大学院生・卒業生を西安外国
語大学に日本語教師として派遣している。
過去5年間に本学が受け入れた留学生の数は、文学研究科17名、文学部1名、福祉社会
学研究科7名、福祉社会学部3名、人間環境科学研究科6名、人間環境学部1名、農学研究
科11名である。
2.2
教職員の国際交流
これまで本学教員は国際交流を積極的に行ってきた。後に述べるように、国際学会など
に盛んに参加している。更に特筆すべきは、文学部を主体として長期にわたり継続してい
る西安外国語大学との友好関係と、農学部が主体となって近年開始された雲南農業大学と
の交流である。
本学は1982年以来西安外国語大学と交流を続けている。この関係は、京都府と陜西省
の間で結ばれた友好提携関係の一環として、京都府立大学・京都府教育委員会と西安外国語
大学との教員交換協定として始まったが、その後京都府教育委員会は派遣を取りやめ、本学
単独の事業になった。この間に文学部から8名、人間環境学部から1名、農学部から1名、
短期大学から1名の教員が西安外国語大学に派遣されて日本語教育に従事し、西安外国語大
学における日本語教育に貢献するとともに、多様な活動を通して友好関係を深め、中国にお
-4-
ける本学の名声を高めるため努力してきた。その成果として、次節で述べるように西安外国
語大学から多数の留学生が本学大学院に入学し、その一部は修了後中国各地で活躍するなど、
交流の成果は確実にあがってきている。しかし府の財政難に伴い、2001年以降本学から
の教員派遣を中止するとともに、西安からの派遣教員の待遇も改めざるをえないことになっ
た。だが西安側の交流継続に対する熱意は強く、派遣教員は待遇が改まる以前にまさる熱心
さで教育に取り組んできている。
現在西安からの派遣教員は、週6コマ中国語の授業を担当しているほか、特に中国語学習
に熱意を示す学生・院生のため、週に1~2度勉強会を開いている。また、教員によっては
それぞれの特技に応じて、太極拳・バレーボール・料理などの講習会を開催し、これには学
生・院生のみならず、一部の教職員や一般府民も参加している。更にはさまざまな府の行事
においても通訳その他の役割をつとめるなど、京都府が行う国際交流のシンボル的役割を担
っていると言っても過言ではない。もとより教育面においては、ネイティブの教員が専任同
様の形で大学に常駐していることは非常に効果的であり、近年急速に増加している中国語履
修者に対応する上で、西安外国語大学からの派遣教員は不可欠の存在と言ってよい。
また西安から派遣されてきた教員の中には、日本における学位取得を希望する例も多く、
本学大学院に入学する事例もあり、また他大学大学院に入学した元派遣教員も、非常勤講師
として本学の教育に貢献する例が多い。こうした点から、西安外国語大学教員の間において
も本学派遣への期待は熱烈なものがあり、多彩な国際交流を行っている西安外国語大学の中
にあっても、本学との交流は特に重要なものと位置づけられている。
以上のように、本学と西安外国語大学は長期にわたる交流を行い、その間に深い信頼関係
を築いてきた。またこの交流は、近年まで事実上本学唯一の国際交流であった経緯があり、
本学関係者や卒業生、更には府民の間における認知度も高く、本学が前向きに国際交流を行
っていることを内外に示してきた意義は大きい。
ただし、すでに述べたようにこの交流は財政上の問題から危機に見舞われてきており、そ
のため本学教員の派遣が休止されたままの片務的な状態にあることは、対等の交流としては
大きな問題があると言わざるをえない。また西安からの派遣教員の待遇も十分なものとは言
えず、活動の多くを派遣教員のボランティア精神に負っていることは、望ましい状態とは言
えない。
このほか、文学部においては、延べ人数にして03年度には11名、04年度には15名、
05年度には22名が在外研究に赴いて国際学会に参加するなどの活動を行っており、特に
04年度に韓国で寓言学会に参加した国文学・中国文学専攻の藤原英城准教授は、同年度の
二月には同じ国際学会を府立大学で開催し、日韓の交流に大きく貢献している。また06年
2月には、文学部と国中文学会(国文学・中国文学専攻を母体とする団体)の主催で日中演
-5-
劇に関する国際シンポジウムを開催するなど、さまざまな活動を行っている。更に、西洋文
学専攻では、現在英国ニューカッスル大学、エクセター大学と大学間協定を視野に入れた交
流を行っており、更なる提携関係を模索しているところである。
福祉社会学部においては、在外研究に赴いた教員が延べ人数にして03年度には3名、0
4年度には5名、05年度には9名と比較的少ない。今後交流を拡大することが望まれる。
理系の人間環境学部及び農学部の教育研究においては、国際的な視点はますます重要性
が高まり、むしろ必須のものとなってきた。特に、国際化を推進する京都府が設置し、国
際都市を目指す京都に存在する府立大学は、教育面および研究面・学術面において、国際
化の拠点としての責務を積極的に果たして行かなければならいからである。それは真に京
都府民に奉仕するために国際的なレベルでしっかりとした教育・研究を行うことが必要だ
からであり、また、京都について学びたい(京都で学びたい)希望を有する諸外国の研究
者や若い学生に門戸を開き、そのチャンスを与える使命を有するからである。
基本的に、国際的な人的交流の全ては教員の個人的チャンネルを通じて行われてきたと
言っても過言ではない。過去の府立大学白書に明らかなように、教員の海外に於ける教育
研究活動は総じて活発である。その資金負担については、ほとんどの場合が教員の努力に
よって獲得された競争的資金によるものであり、個人的チャンネルを通じた国際交流であ
ることを別の面から裏付けている。こうした個人チャンネルを通じた国際交流が拡大し、
研究者個人のレベルを超えた形になっているものが農学研究科には存在する。
雲南農業大学との学術交流協定が平成 16 年 8 月に締結され、同年 12 月に府立大学にお
いて調印式が行われた。この事業は、農学研究科植物病理学分野の久保教授と雲南農業大
学朱学長との研究交流を通じた個人的なチャンネルから出発したものである。現在では国
際協力銀行の「中国内陸部人材育成に関わる調査事業」の委託事業として、久保教授を中
心として外部資金を獲得し、また先方も日本政府のODA資金を活用して関係者の往来を
確保している。交流協定は、雲南農大若手研究者の技術研修を府立大学で受け入れ、一方
本学農学部学生の技術中国語現地研修を雲南農大側で受け入れることを基本骨格としてお
り、共同研究事業を両大学の教員及び研究者で実施することをうたっている。先方からの
若手教員の短期研修受け入れは、これまで雲南農大側で獲得した日本政府ODA資金を使
って実施されている。共同研究としては、府大ACTRの補助を受けて、雲南省棚田周辺
の農業環境の調査をすでに開始している状況である。
このほか、人間環境学部および農学研究科の教員は、国際学会・会議への参加や海外で
の現地調査などの活動を行っている。人間環境学部では、2001年度(平成13年度)
-6-
に24名、2002年度(平成14年度)に15名、2003年度(平成15年度)には
15名、2004年度(平成16年度)には21名、2005年度(平成17年度)には
29名の教員(延数)が主に国際学会での発表や国際会議への参加を行った。一方、農学
研究かでは、2001年度(平成13年度)に29名、2002年度(平成14年度)に
31名、2003年度(平成15年度)には26名、2004年度(平成16年度)には
36名、2005年度(平成17年度)には40名の教員(延数)が主に国際学会での発
表や国際会議への参加を行った他、海外でのフィールド調査などを行った(下表)
。
人間環境学部
農学研究科
2001年度(平成13年度)
24(2)
29(11)
2002年度(平成14年度)
15(2)
31(12)
2003年度(平成15年度)
15(3)
26(14)
2004年度(平成16年度)
21(2)
36(17)
2005年度(平成17年度)
29(10)
40(14)
※ 括弧内は、外部競争的資金(科学研究補助金、JICA、日本学術振興協会補助金等)による人数(内数)
。
2001年度(平成13年度)以降、多少の増減はあるものの、おおむね漸増傾向にあ
り、2005年度(平成17年度)には、教員数の70%近くが国際的な活動を行ったこ
とになる。ただし、経費として外部から獲得した競争的資金(科学研究補助金、JICA、日
本学術振興協会補助金等)による数は数%~30%であり、他の公的団体助成金や本学の
研究費を財源としてものを考慮しても、多くの業務が私財を投じて行っている現実が浮き
彫りになっている。
2.3
学生の国際交流
本学学生の国際交流に対する意欲は強く、これまで正式の留学制度などが存在しなかった
にもかかわらず、多数の学生・大学院生が海外留学に赴いており、更に多様な形で国際交流
を行っている。
特に、文学部文学科国文学・中国文学専攻からは、1996年以来、常時1~2名の国文
学・中国文学専攻の卒業生もしくは大学院生が西安外国語大学・長安大学に日本語教師とし
て赴任してきた。これは、元来は両大学教員間の個人的な結びつきから始まった私的な交流
であったが、長期間継続する内に重みを増し、近年は文学部長の推薦を得て赴任する形で行
われ、更に2007年からはその派遣が両大学の交流協定書に院生を派遣する旨が明記され
て、正式な交流の一部となるに至っている。赴任した院生・卒業生の多くは帰国後、西安で
-7-
の経験を生かして日本語教育・国語教育を中心とする教育事業に携わっており、この交流の
成果を社会に還元すると同時に、本学が国際交流に取り組みを対外的に示す上でも役立って
いる。
また近年、多くの本学学生が西安外国語大学への短期留学を希望し、派遣教員の尽力によ
り留学を実現している。西安においては友好関係にある大学からの留学生としてさまざまな
便宜を与えられており、これもまた教育上有益であるのみならず、両大学、ひいては京都府
と陜西省の関係を強化し、草の根から友好関係を育てていく上でも有効なことといえよう。
一方、西安外国語大学からも多くの卒業生や教員が本学大学院への入学を希望して来日し
ており、その数は国文学・中国文学専攻4名、国際文化学科2名に上っている。修了者は、
日本語・日本文化関係の研究・教育事業に従事する例や、日中間の交流に寄与する職に就く
例が多く、やはり両国の交流に大きく寄与していると言ってよい。
農学部・研究科においては、前述のように雲南農業大学との交流協定に基づき、雲南農大
若手研究者の技術研修を府立大学で受け入れており、技術中国語現地研修のための本学農
学部学生の雲南農業大学への留学が図られた。カリキュラム編成上平成 18 年度からの開講
で、これに関する費用は受益者負担を原則としている。
このほか、文学部については、文学研究科国文学中国文学専攻からは、2005年度から
2名の博士後期課程在学生が中国政府奨学金留学生の高級進修生(研究者扱い)として留学
し、2006年9月からは更にもう1名が同じ資格で留学しているほか、2003年には学
部生1名が私費で中国に留学している。また過去10年まで範囲を広げれば、ベトナムに私
費留学・タイで日本語教育に従事(ともに1年間)などの事例がある。
文学科西洋文学専攻では、過去5年間だけで8名の学部生が英国・カナダに1年以上の長
期留学に赴いており、特に、英国メトロポリタン大学に2年間留学して、取得した単位を帰
国後本学の専門科目に読み替えた者や、3年間の予定でカナダの大学の専門課程に在学中の
者(ともに2004年)などは、単なる語学研修に終わらない事例と言ってよい。また同じ
2004年には、博士前期課程在学中の大学院生が英国に留学しており、1年間の語学研修
の後、エディンバラ大学大学院に入学し、応用言語学の修士号を取得して帰国している。こ
の他、多数の学生が英語圏・ドイツ語圏への短期留学に向かっており、西洋文学専攻自身も
アメリカ合衆国テキサス大学に10週間の英語学習コースへの送り出しを行っているほか、
アメリカ合衆国エバーグリーン大学との交換留学協定を模索し、更には前述のように英国ニ
ューカッスル大学などとの交流を行うなどの活動を行っており、2006年度からは専攻が
主管となって英国を含む英語圏への留学相談を実施している。
史学科では、1999年から学部生1名が英国バース・スパ大学に留学し、1年間の語学
研修の後、同大学に正式入学、3年間在学した後、一度帰国して本学を卒業し、再び渡英し
-8-
てバース・スパ大学を卒業した例や、2006年博士後期課程の大学院生がカナダに3ヶ月
間留学した事例があるほか、短期留学には多数の学生が赴いている。
国際文化学科では、過去5年間に、多数の学生を短期留学に送り出しているほか、長期留
学としては韓国3名(1名は大学院生)・イギリス2名・カナダ2名・インドネシア1名、
更にはイタリアへの半年間の留学者が1名と、さまざまな国に赴いており、更にはオースト
ラリアで1年間日本語教育に従事した事例もあるなど、学科の性格にふさわしい多彩な国際
交流を行っている。
このように文学部は各学科専攻とも多数の学生を海外留学に送り出してきた実績があるが、
西安外国語大学・テキサス大学の事例をも含めて、すべて私的な交流に止まっており、公的
な留学生交流が全く行われていないことは問題であろう。
福祉社会学部においては、スウェーデンへの長期留学やイギリスでのボランティアホリデ
ー参加などの事例がある。
人間環境学部及び農学部の大学院生あるいは学部生の教育研究に関する海外渡航は、組
織的な事例は存在せず、単発的に行われているのみである。その実数は下表に示す通りで
ある。海外渡航の目的は海外で行われる国際学会への参加・発表が大半である。また、個
人的な語学留学を括弧内に示した(内数)。
人間環境学部
農
学
部
2002年度(平成14年度)
3(1)
3(2)
2003年度(平成15年度)
4(1)
3(1)
2004年度(平成16年度)
3(2)
5(3)
2005年度(平成17年度)
3(1)
4(3)
2006年度(平成18年度)
6(2)
※ 括弧内は、個人的な語学研修あるいは語学留学(内数)。ただし、6か月以上の長期海外留学や(財)
府立大学学術振興会により計画が把握されたものに限る。
このように、在籍学生人数に対して極めて少数の学生しか、教育研究用務での海外渡航
を行っていない。これらの海外渡航経費は、一部教員が獲得した外部競争的資金を充てた
ものもあるが、多くは学生個人の私財を投じている。さらに、括弧内に示す語学留学は、
学生が個人的に行っているものであり、本学からの公的な資金援助は皆無である。このよ
うに、公的な経費援助制度が無いため、すべて自費で行わざるを得ない。従って、教育研
究用務であるにも関わらず、個人旅行扱いとなり、事故などの場合の保証制度も無い。
一方、外国からも多数の留学生が文学研究科入学を希望して来日して研究生となり、その
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多くは入学を果たしている。過去五年間に文学研究科に入学した留学生の数は次のとおりで
ある。
国文学中国文学専攻 英米文学専攻
2002年度 1
史学科
国際文化学科
1
1
2003年度 3
2
2004年度
1
2005年度 1
1
2006年度 1(博士)
1
4
国籍はアメリカ1名、韓国1名、他はすべて中国である。
このように多くの留学生が入学していることは、文学研究科の研究レベルが国際水準にあ
ることを示すものといえよう。ただ、留学生がほとんど大学院に限られ、学部に入学した事
例が2006年度国際文化学科に編入入学した1名に限られることは大きな問題と言えよう。
福祉社会学部における留学生の受け入れ状況は次のとおりである。
学部
大学院
2002年度
2
2003年度
1
2
2004年度
1
2
2005年度
1
1
2006年度
国籍は韓国1名、他はすべて中国である。
このように、福祉社会学部においてはほとんど毎年のように留学生を受け入れている。こ
れは、同学部の教育内容が国際的に見てもすぐれたレベルにあることを示すものといえよう。
特に、大学院のみならず、学部にも複数の留学生が入学していることは、他学部には見られ
ない特色である。
人間環境学部及び農学部の留学生受け入れに関しては、基本的に大学院レベルでの受け
入れであり、学部レベルでの受け入れは極めて稀である。大学院生の受け入れに関しても、
大学側の支援がない現状では、日本語教育や生活支援を含めて全てが受け入れ教員の個人
的負担となる。これは、経済的・肉体的負担を伴う為、個人の努力には限界があり、大学
側の支援策が充実している国立大学法人のように多くの留学生を受け入れることは不可能
である。本学に留学を希望する外国人は決して少なく無い現状を顧みると、早急な留学生
- 10 -
支援策を講じることが望まれる。
人間環境学部
農
学
部
2001年度(平成13年度)
10
6
2002年度(平成14年度)
13
8(ケニア1)
2003年度(平成15年度)
5
8(ケニア1)
2004年度(平成16年度)
4
9(ケニア1)
2005年度(平成17年度)
5
6
2006年度(平成18年度)
2
8
※ 括弧内は、アジア以外からの留学生人数(内数)。
上表に示すとおり、理系2学部では2001年度(平成13年度)以降、毎年11名~
21名程度の留学生を受け入れて来た。国籍は大半が中国であり、この他韓国やアジア諸
国からの留学生が多く、アジア以外からの留学生は2002年度(平成14年度)~20
04年度(16年度)にケニアから1名を受け入れただけである。国籍に大きな偏りがあ
ることは、極めて大きな問題であり、本学が国際的に開かれた大学として健全にその責務
を全うしている状態とは言えない。
学生の語学研修を除くと、いずれも競争的資金の獲得に事業の存続自体が依存しており
今後いかに安定して事業を継続していくのか資金獲得という点が問題となる。
海外の大学および研究所の教員や研究者の受け入れは、雲南農大の事例を除いて組織的
に実施された例はない。それらは教員の個人的チャンネルに基づき個人的に獲得された競
争資金を使って行われているため、全般に低調である。しかし、教員の努力もあって、そ
の実数は次第に増加しており、現在では外国人留学生数とほぼ同水準にいたっている。
留学生の受け入れは、基本的に大学院レベルでの受け入れで、学部生の受け入れは極め
て稀である。大学院生の受け入れに関しても、大学側の支援がない場合、日本語教育や生
活支援をふくめて全てが受け入れ教員個人の負担となるため、大学側の支援策が充実して
いる国立大学法人と比べあまり活発な印象は受けない。それでも、国費留学生の受け入れ
を大学が認めて以降、留学生数は増加傾向を示しており、農学研究科では 5 名から 10 名程
度の在籍数を数えるまでになった。
- 11 -
第 3 章 本学における国際交流の問題点・課題
3.1 共通的事項
前章で述べたことからも明らかなように、従来の本学の国際交流は、教員の在外研究等を
端緒とする個人的つながりを契機に発展してきたものが多い。つまり、個人の努力に依存し
てきた面が多く、組織としての取り組みに欠ける点に大きな問題があると言わざるをえない。
今後先鋭的な取組を進めていく上でも、個人のネットワークが重要であることにかわりはな
いが、それを大学間・学部間の交流に発展させていくべきかどうかといった戦略的な検討が
必要となろう。しかし、それを行う学内横断的な組織が現在は存在しない。「府大国際交流
委員会」の設置が求められるところである。更に事務局においても、国際交流の窓口となる
べき受け皿が存在せず、関係部局がばらばらに対応している状況であり、これも大きな問題
である。国際交流を専門に担当する部局を設けるとともに、担当する業務に関して十分な能
力を持つ職員を養成することが必要であろう。
また、国際交流と言う以上、海外への情報発信を行うことが不可欠であるにもかかわらず、
その手段が全く整備されていない。英語版ホームページを今年度に開設したが、英語版大学
案内パンフレットの作成など、更なる努力が求められよう。
3.2
教職員の海外派遣
国際交流を行う上で、教職員を海外に派遣することは不可欠である。しかし、現在教員の
在外研究は、資金の面をも含めて個人の努力に委ねられている状態であり、かつては大学が
主体となって実施していた西安外国語大学への教員派遣も中断したままで、雲南農業大学の
例を除いて組織的なバックアップは全くない。ここでも国際交流を担当する部局が存在しな
いことが大きな問題といえよう。今後、従来から続いている中国との交流を継続・拡大する
ともに、現在検討中のヨーロッパ・北米との交流をはじめとする新たな関係を構築していく
ことが求められるが、その際にはどのように大学として関わるかを考慮した大学間協定・総
合協定等のあり方を検討する必要があろう。更に、資金面で大学からの援助が凍結された状
態にあることも重大な問題と言わざるをえない。
また、国際交流の窓口となる学内受け皿の組織的整備とともに、これに伴い、将来的には
担当する事務職員の能力アップも課題といえる。
3.3 海外研究者の受入
海外研究者の受け入れについても、条件が整備されているとはいいがたい。
まず宿舎の面について言えば、西安外国語大学からの派遣教員は現在府公舎を利用してい
- 12 -
るが、将来的な保証がない。今後とも継続して使用できることが望まれるところである。雲
南農業大学などの短期の研究者については、学内の交流施設の利用が可能になり、かなり条
件は改善されたが、規模が限られているため、交流が拡大すれば将来的には設備が不十分に
なるのではないかと懸念される。その他、生活面においても、やはり組織的なバックアップ
が十分に行われているとは言い難い。
また、受け入れた海外研究者の研究活動の府民への還元、府民レベルでの交流は、西安外
国語大学・雲南農業大学関係者についてはある程度行われてはいるが、この点についても組
織的対応に欠けるため、必ずしも本人の意欲が十分に反映されずに終わる面もある。
本学のみの努力では解決しきれない面を持つこれらの問題に対応するためにも、京都府国
際交流センターなど、京都府の国際化関係機関との連携が求められるところである。
3.4
本学学生の海外留学
3.4.1 組織上の問題
本学学生が積極的に海外留学に赴くことは、本学の国際交流において極めて重要な意味
を持つ。しかし、前章で述べたように、本学学生が強い海外留学志向を持っているにもか
かわらず、それを支える体制は十分とは言えない。
現在、海外留学は原則として個人の意欲や活動に委ねられている。最近西洋文学専攻に
おいて英国留学相談会を開催し、また西安外国語大学からの派遣教員が中国留学の相談に
応じるなど、ある程度のサポート体制は生まれつつあるものの、大学として組織的に取り
組むには至っておらず、多くは教職員個人の努力に依存している段階である。また、雲南
農業大学への短期留学が計画されていることを除けば、大学間の相互交流協定に基づく留学
の体制も存在しない。また、個別に認定した事例はあるものの、留学先における修得単位認
定等の制度も正式にはないため、留学しやすい環境が整備されているとは言い難い。
3.4.2 教育上の問題
海外留学にあたっては高度の語学力が前提となる。事実、英語についてはTOEIC・
TOEFL、中国語についてはHSKなどの国際的に通用する語学試験の成績が留学受入
の条件として設定されている事例は多い。従って、留学を希望する学生にとっては、これ
らの試験で良い成績を取ることが要求されることになるが、現在本学で行われている語学
の授業は、語学教育としては考えられないような多人数クラスのものが多く、到底そのよう
な要求に応えうる状況にはない。また、最新のコンピュータを利用した教育設備が整えられ
ていないことはもとより、LL教室ですら旧式のものが一つあるだけという状態であり、設
備も十分とはいいがたい。
国際試験で優秀な成績を収めうる学生の涵養は、留学にあたって有利であるのみならず、
国際化が進展している今日にあっては、卒業後、社会に出て活躍するためにも不可欠の条件
といってよい。教育環境の向上が強く求められるところである。
- 13 -
3.5 留学生の受入
現在本学にはかなりの数の留学生が在学してはいるが、問題も少なくはない。
まず、留学生が大学院生に偏り、学部生の数が少ないことがあげられる。これは一つに
は、本学の受け入れ態勢に問題があることが原因と思われる。
入学までの段階について言えば、まず情報発信が不十分であり、授業料減免制度などが
存在するにもかかわらず、その情報が伝えられていないため、受験生にアピールすること
ができない。また、入国・在留に関する身元保証人に誰がなり、在留資格申請を誰が行う
かという問題がある。現状では本学教員が個人的にこれらの役割をになうことが一般的で
あり、組織的対応は行われていない。ここでも交流は個人の努力に委ねられ、個人が責任
を負う形になっているのである。
入学後については、まず留学生向けの宿舎などが全く存在しないことが最大の問題とい
えよう。現在在学する留学生からは、家賃支出が大きな負担となっているという声が上が
っている。また、奨学金・授業料減免制度が十分には整備されておらず、学校推薦国費留
学生についてすら、学費を府が負担することについて明確な規定が存在しない状態であっ
た。この点については、平成8年度後期から私費外国人留学生に対する授業料減免制度が
始まり、また国費留学生については、平成13年度から受入が行われ、個別審査による減
免が可能となってはいるが、なおこれらの恩恵に浴し得ない留学生は多い。これらは本学
入学を考える留学生に深刻な経済的負担を強いるものであり、特にアジア・アフリカ圏か
らの留学生にとっては本学を留学先として選びえない大きな要因となっていよう。
一方、本学においては留学生に対する日本語・日本事情の授業が開設されていない。こ
のため、入学した留学生は日本語力を向上させる機会に恵まれず、しかもカリキュラム上
日本語に加えて更に二つの外国語を履修せねばならなくなる。実際、現在在学する留学生
からも日本語授業開設への切実な要望が出されている。日本語・日本語事情の授業の開設
は急務と言ってよい。
また、再三述べるように国際交流を専門に担当する部局が存在しないため、留学生への
情報提供を行い相談を受ける窓口が一定しておらず、留学生は各部局や教員を回って歩か
ねばならない状態にある。ここでもやはり国際交流担当部局の開設が求められる。
大学全体について言えば、留学生受け入れの方針や選考基準などが明確に定まっていな
いことは問題といえよう。今後国際交流を拡大していく中で、どのような方向で留学生を
受け入れていくか、明確なビジョンが求められるところである。
- 14 -
第4章
4.1
本学の今後の国際交流の取り組み
国際交流の組織体制
4.1.1 国際交流委員会の設置
本学における国際交流事業の実質的発足と発展の基盤整備を考えれば、なによりも第
一に、他の学内常設委員会(教務委員会や学生委員会など)と同レベルで組織的に位置づ
けられる国際交流委員会(=ソフトと国際交流センター=ハード)を設置すべきことが要
請されよう。雲南センターや西安センターはこの委員会を構成する1センターと位置づけ
られる。他に、文学部のニューカースル・アポン・タイン大学との交流が公式になれば、
雲南・西安同様のセンターとして加えてもよい。他の学部もこの種の大学間交流を積極的
に進めることが今後要請される。国際交流委員会と各センターの関係は OS と個別ソフト
ウエアの関係とし、とりあえず、以下の組織機構図となるような、国際交流委員会・セン
ターを早急に設置することが望ましい。
京都府立大学国際交流センター概念図
センター毎
西安センター
下位委員会
府大国際交流
委員会
Newcastle Centre
Language Centre
教務
学生の国際交流支援
学生
教職員の国際交流支援
啓発・対外交渉・事務・施設管理・支援
各種常設委員会
雲南センター
国際交流事務部門
4.1.2 国際交流委員会の組織機構と役割
国際交流委員会は、研究科/学部選出代表・センター長・事務部門代表で構成され、
委員の互選か学長の指名による委員長のもとに、本学における国際交流に関わる頭脳
として働き、以下のような活動に関わる方針・業務の意思決定を行う。
- 15 -
①国際交流全般に関わる業務(大学・地域間協定、英語・中国語による大学概要・
便覧の整備、招聘研究者によるシンポジウム開催、など)
②学生国際交流支援(留学生受け入れ基本方針、留学先との単位互換・認定、留学
生への奨学金・授業料減免・日本語補習・保証人引き受け、留学生 OGOB へのフォ
ローアップ、留学生との交流会、在学生への語学教育環境改善・TOEFL や TOEIC
受験支援・留学相談・奨学金・プログラム紹介、などを含む)
③教職員国際交流支援(在外研究支援、事務職員の語学・在外研修、などを含む)
④ランゲージ・センターの運営(留学生への日本語補習・留学希望者への外国語ト
レーニングを短期・長期に行う)
⑤各センターの活動支援
⑥その他の事業
以上の機能に対応する組織・機構部門を上図のような形で設け、国際交流委員会が
決定する方針に基づいて、センター長の指揮の下、センターに配属された事務職員・
専門職員が、各センター関係者との連携・協働を通じて、日常業務を遂行する、とい
う体制をとることとなるであろう。
また、このような活動の実施に当たっては、京都府国際センターなど府の国際関係
部門との連携を図ることも有効であろう。
4.1.3 国際交流担当事務部門
現行のように庶務課に雲南センター事務が残余的に併合されている事態は、今後の国際
交流推進を考えるとまったくの問題外であろう。
国際交流担当の事務部門は国際交流センター内に事務所を持つとともに、そのために配
属される専任職員を(できれば複数)抱え、求められる課業を遂行する。府人事政策の枠
内で複数配属されることが不可能であれば、専任職員1名と(全学共通経費や他資源から
ででも)専門員を置くべきである(職員異動にかかる専門性の蓄積を考えればむしろ専門
員の方に、国際交流センターの中核職員としての役割を期待すべきかもしれない。さらに
専門員には英語・中国語ないしは各大学間交流の相手国の言語に熟達したものを雇用する
のが望ましい)。
4.2
国際交流のための施設
4.2.1 国際交流センターの独立オフィス
府大国際交流センターは、新館のいずれかの部屋を確保し、複数の職員の事務環境を整
備するとともに、国際交流委員会のすべての事業に関わる諸資源(留学啓発コーナー・IT
機器や面接室などを含む)を整備することが必要である。
新館での確保が無理であれば、大学会館あるいは客員研究者などのためにキャンパス内
- 16 -
に近年整備した「国際交流宿舎」の一部をそれに転用すべきであろう。
とにかく、国際交流センターが独立したオフィス(と職員)をもつことは、最低限の条
件である。
4.2.2 国際交流のための利用・宿泊施設
近年整備されたキャンパス内国際交流宿舎が唯一の既存資源であるが、国際交流推進に
は、研究者・留学生いずれにとっても快適で安価な宿泊施設の提供が必須であり、学生に
とっては留学という夢の実現に役立つ留学コーナーや利用施設の存在が不可欠であろう。
研究者(招聘であれ留学であれ)には宿舎の確保が至上課題となり、この面での支援の
水準が国際交流における府大のランキングを高めることはいうまでもない。国際交流宿舎
の存在はそういう意味で貴重であり、積極的に活用すべきであり、そうした経験に基づい
てますます資源として充実改善を目指すべきであろう。
留学生の利用できる学内資源の貧困さはいうまでもないが、今後宿泊施設をどのように
確保するか、具体策を練らねばならないであろう。留学生寮などハード資源を持たぬ以上、
留学生の便宜のために学生用アパートやマンションの家主に理解・協賛をもとめ、安価で
快適な宿舎確保のための仲介者(保証人)の役割を本学が果たすことが必要であろう。
以上の他に、既存の外部資源、例えば京都国際交流会館はじめ、各種の団体が設置した
利用・宿泊施設との積極的連携が望まれる。
さらに短期留学生の受け入れなどを考えれば、府大近辺あるいは市域内の(在学生の自
宅を含む)個人宅などを登録し、ボランティアのホームステイ資源として確保しておくこ
とも将来的には必要となってくるであろう。
(この種のものは留学生ホスト制度ともよばれ
ることがある)。
また、留学生が日常的に利用できる留学生専用の学内利用施設の整備も必要であろう。
国際交流センターにゆとりがあればそうしたスペースを整備し、留学生の便宜を図っても
よいが、現実には諸困難が伴うので、必要な設備を施し大学会館の一室をそれに当てるこ
とも一策であろう。
4.3
国際交流組織体制・施設に関する中括
国際交流が本学に定着するには、国際交流委員会と交際交流センターの設置およびそれ
に見合う実質的事務支援体制の実現が最低条件である。これを前提に委員会の組織機構や
役割および展望を構想せねばならないであろう。ここでは比較的現実味のあるセンター構
想のみ言及したが、文学部が関わる西安外国語大学、ニューカースル・アポン・タイン大
学や(京都府と姉妹都市である都市にある)エディンバラ大学(今後の可能性を考え)な
ど、大学間交流をベースにしたセンターとするか、雲南や西安など中国センターとし、並
列して欧米センター、アジアセンターなど、地域別に構成することも、今後課題となろう。
実質無からのスタートであるので、しばらくは雲南センター、西安センター、ニューカー
- 17 -
スルセンターくらいにとどめ、将来的にはグローバルなエリア別センターへと発展させる
ことが望まれよう。
4.4
広報
(1)国際社会等とのネットワーク
情報の創造と発信機能の推進を図り、京都府立大学の特色や研究活動を積極的に発信す
る。京都府立大学のホームページをさらに充実させるため、英語版を作成したが、今後も
海外からのアクセスに応えられるための努力が必要である。このうち、大学概要および便
覧の英語版の掲載は必要不可欠である。
また、京都府立大学及び京都府・京都市の魅力を効果的に伝えるイメージページを作成
し、協定校をはじめとする海外の大学とリンクをはる必要がある。これらは留学する大学
のある街の歴史的・文化的遺産の紹介も付加的要素として魅力となりうる。
さらに、ホームページに関しては、将来的に中国語版の作成などを検討する必要がある。
また、定期的に本学の国際交流情報を発信することや、元留学生や帰国した外国人研究
者等のフォローアップを充実させ、組織的なネットワーク作りを行うことが必要である。
(2)本学広報
本学の学生の多くは留学に関する情報を持っていない。入学当時のオリエンテーション
などの機会を捉え、広報活動を行う必要がある。また教員や学生の海外での研究や留学報
告をホームページに掲載し、国際交流の意義や成果を広報することは、キャンパス全体と
しての国際化を推進する上で極めて効果的である。
4.5
財政基盤
(1) 財源の確保
本学が国際交流を今後さらに推進していくためには、その財源が十分に確保されなけれ
ばならない。個人ベースではなく、大学にとって重要な長期的で計画的な国際交流の財源
を充実する必要がある。
奨学寄附金の国際交流への運用を依頼することなどの新しい財源の確保、地域社会への
国際交流活動を通じて資金を獲得できる事業を大学が企画することなどが考えられる。
また、以下の各種事業等のプログラムに応募、参加するなど、国際交流活動を大学全体
として活性化させる必要がある。
さらに、財源の一つとして、財団法人京都府立大学学術振興会の協力の下に、助成事業
の検討を行うことを提案したい。このほかに、民間から助成金を獲得するための全学的努
力が必要である。
・日本学術振興会(JSPS)の拠点大学方式による国際交流
・国際協力事業団等(JICA)の開発パートナー事業による国際交流
・科学研究費補助金
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・AIEJ/ユネスコ青年交流信託基金プログラム
・その他(共同研究、受託研究、奨学寄附金など)
(2) 資金の使い方
アルバイト等で時間を割かれ、厳しい条件下で苦学している留学生が急増している。勉
学意欲に燃えた、質のよい留学生を確保し、本学において研修を積み、学力を高めること、
そして質の高い留学生を社会に輩出することが大学の社会的任務である。また募金活動な
どにより、「留学生に使って欲しい」という寄附団体を発掘することも必要である。また,
質の高い留学生を確保するためにも、各種奨学金の獲得機会を増やすなどして、私費留学
生にも奨学金取得の可能性があることをアピールする必要がある。
- 19 -
第5章
総括
第1章に述べられた通り、国際交流の取り組みは我が国の少子化やグローバル化が一層
進んでいく中でますます重要な意義を持つ。特に最終学府である大学は、国際感覚に優れ
た人材の育成と国際的に意義の大きな研究を進めていくことが、これまで以上に重要な使
命となっている。さらに大学院教育に関しては、「国際的に魅力ある大学院教育の構築に向
けて」
(中央教育審議会平成 17 年9月5日答申)や、
「日本学術振興会グローバルCOEプ
ログラム委員会委員長就任挨拶」(野依良治委員長平成 18 年 10 月 25 日付)に述べられて
いる通り、真に国際競争力を有する人材の育成が強く望まれている。
この現状にあって、我国の各大学ではいよいよ本格的に国際化事業を展開する準備を
着々と進めている。これに対して、京都府立大学においては、2章以下各章に報告されて
いる通り、基本的に全て教職員・学生の個人的な資質・努力に頼っていることが指摘され
ている。個人的な信頼関係に基づくチャンネルから出発し、無報酬の労働のみならず、莫
大な私費を投じたり、あるいは個人の努力によって獲得した競争的資金により、ようやく
実現している極めて嘆かわしい状況にあることが浮き彫りになった。大学間の競争があら
ゆる意味において激烈になっているとき、これは由々しい事態である。
このことは、京都府立大学の立地を考慮するとき、さらに憂慮するべき点を含む。即ち、
京都は我が国の歴史的・文化的な中心的存在であり、また近年は国際都市としてさらに飛
躍することが期待されている。京都府が設置者である本学は、国立大学と異なり、この京
都府の国内的・国際的な地位を発信する絶好の基地である。従って、本学は国内のどの大
学よりも国際的使命が大きいからである。教育はまさに百年の計に基づくものであり、明
日府民の利益になることばかりに奔走するのではなく、今日の留学生が20年後・50年
後に府民にもたらす大きな誇りと利益を忘れてはならない。
この意味で本学の国際化は、単に同規模他大学並に追いつくことを目指すだけでなく、
京都府民一般への直接的な利益も考慮するべきであろう。例えば、英語で京都の名所の歴
史などを学ぶ講義「英語で京都」などは学生に好評であるが、一定の条件のもとで一般府
民へも積極的に開放する取り組みなどである。また、高大連携の一環で府立高校の教員・
生徒を対象に、グローバル化が進展する中で、広い教養を基礎にした活きた語学力求めら
れている現状などについて情報提供などを行い、高校・大学を通じて語学を含め、学び続
けることの動機付けを行っていくことも必要であろう。さらに、これれらの取り組みに賛
同していただける民間企業からの資金提供を積極的に求めていくことも重要な課題であろ
う。
府立大学を取り巻く財政状況が極めて厳しい現状にあっては、これまで行って来た範囲
での国際交流をさらに推進し、後戻りしないことが最低条件である。今後、京都府立大学
の国際交流が本質的な意味でますます活発に展開されることを祈念して本稿を終える。
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「国際交流委員会」名簿
区
分
職
名
氏
名
授
菅
山
謙
正
農学研究科
助教授
川
田
俊
成
員
文
教
授
委
員
福祉社会学部
教
授
津
崎
哲
雄
委
員
人間環境学部
教
授
佐
藤
仁
人
委
員
農学研究科
教
授
牛
田
一
成
委 員 長
文
副委員長
委
学
学
部
部
教
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小
松
謙