フーリエ解析 学期末考査採点講評 2015 年度後期 工学部 2 年 環境化学科 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) 半年間お疲れ様でした。普段の講義では小テストの成績もなかなか奮わなかったため、少し学期末 試験にも配慮を加えてしまったのですが、流石に平均点が 85 点を超えてしまったのは想定外でした。 簡単にし過ぎてしまったようですね、反省しております。ただ、小テストのときには散々であった問 題もかなり正解率が向上しており、皆さんも良く勉強されてきたことが伺える試験結果であったの で、これはこれで良いのかな、と思っております。本当に良く努力されたと思います。 さて、この講義では半年間でフーリエ解析を学びましたが、本講義で扱った内容は正直なところ 初 歩の初歩 位のレベルです。本当はこの程度の基本的な計算力を身につけた先に、それこそ奥底の知 れないフーリエ解析の広大で魅力的な世界が広がっているのですが、半年の講義では到底そんなとこ ろまでは到達出来ません。その結果、講義では (正直あまり面白くもない) 計算問題ばかりを扱うこ ととなってしまい、申し訳ない限りですが、この先フーリエ解析がどのような場面で応用されていく かについては、是非これから専門課程を修めてゆく中で皆さん自信の目で確認していって欲しいと思 います。 本講義で学んだフーリエ解析の基礎事項が、今後皆さんが専門課程を進んでゆく中で、何らかの形 で役立つことを切に願います。半年間ご聴講ありがとうございました。 ■基本データ [学力考査得点] 受験者数: 平均点: 12 名 (3 名欠席) 86.00 点 標準偏差: 16.47 (最高 100 点満点 +α) 最高点: 109 点 (1 名) 得点分布: 0–9 10–19 20–29 30–39 40–49 50–59 60–69 70–79 80–89 90– 人数 0 0 0 0 0 2 0 2 2 6 割合 (%) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 16.7 0.0 16.7 16.7 50.0 [最終評点] (小テストの成績を合算したもの) 単位認定資格保有者数: 平均点: 86.50 点 得点分布: 12 名 (3 名放棄) (100 点満点) S: 6 名 A: 2 名 標準偏差: 11.87 B: 2 名 最高点: 100 点 (6 名) C: 2 名 D (不合格): 0 名 0–9 10–19 20–29 30–39 40–49 50–59 60–69 70–79 80–89 90–100 人数 0 0 0 0 0 0 2 2 2 6 割合 (%) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 16.7 16.7 16.7 50.0 ■各設問についての講評 〇 第 1 問について: フーリエ解析の基礎事項についての問題。フーリエ解析では実にたくさん の新しい概念が登場しましたので、それらをきちんと整理して身につけられているかを確認する問題 でした。15 点満点で平均点は 13.15 点、満点は 9 名でした。かなり成績は良かったです。 (1) はフーリエ解析の基礎用語についての穴埋め問題。出来は非常に良かったと思います。折角な ので、解答以外の選択肢についても簡単に解説しておきましょう。 ラプラス変換: フーリエ変換と良く似た変換ですが、実数値関数を実数値関数に変換するところが 大きな特徴。特に非斉次な線形常微分方程式の特殊解を求める際に用いられます。詳しくは 『微分方程式Ⅱ』の講義で扱われます。 フーリエ余弦級数: 空欄ウ 積分積: 「畳み込み積」のダミー解答として作った 造語 。こんなの聞いたことありません。 偶関数: 空欄イ 三角関数: ギブス: 良くご存知のサインコサインタンジェントその他。 空欄オ。その他、量子力学の分野等でも超が付く程有名な物理学者/数学者。 メラン変換: 有名な積分変換の一種。特にガンマ関数やゼータ関数の解析の際に非常に良く用いら れます。メリン変換とも。 フーリエ正弦級数: 外積: 正弦関数 (サイン) のみを用いたフーリエ級数。勿論空欄ウのダミー。 2 つの空間ベクトルに対し、それらと直交して大きさがその 2 つのベクトルの張る平行四辺形 の面積となるようなベクトルのこと。ベクトル積とも。『線形代数学Ⅰ』でお馴染み。 フーリエ変換: 空欄ア。やはり半期の講義でフーリエ変換までしっかり扱うのは時間的に厳しいで すね…… ドップラー: 救急車が近づくときと離れていくときでサイレンの音の高さが異なって聞こえる、所 謂ドップラー現象で有名。数学ではまずお目にかからない人ですね。 ∑∞ an xn が与えられたとき、その羃級数をマクローリン展開として持つような ∑∞ 1 n 関数 f (x) のこと。例えば羃級数 x の母関数は ex n=0 n! マクローリン級数: 『微分積分学および演習Ⅰ, Ⅱ』で散々勉強したあれ。 母関数: 羃級数 畳み込み積: 奇関数: n=0 空欄エ。慣れるまでは何やってんだか分からないですよね、ホント。 関係式 f (−x) = −f (x) を満たす関数。勿論空欄イのダミー。 シュレディンガー: 量子力学のシュレディンガー方程式であまりにも有名ですね。量子力学つなが りで、ギブスとのひっかけとして登場させてみました。 (2) はフーリエ変換の畳み込み公式について。畳み込み積という「訳の分かんない積」が、フーリ エ変換を施した後では普通の掛け算になる (!!) というこの性質は、フーリエ変換の最も顕著な性質 の 1 つと言っても過言ではないでしょう。とは言え、講義では時間の関係でこの性質がどの様な場面 で役に立つかは全く触れられませんでした。もしかしたらどこかでお目にかかることもあるかと思い ますので、そのときにまた思い起こしていただければ幸いです。 〇 第 2 問について: フーリエ解析には必須の、三角関数や複素指数関数に関する設問。どちら も 1 年前期の『微分積分学および演習Ⅰ』レベルのサービス問題 ですので、確実に得点したいとこ ろ。10 点満点で平均点は 6.83 点、満点は 3 名でした。もうちょっと正答率が高いと嬉しかったので すが…… (^^; (1) は複素指数関数のオイラーの公式を書くだけの簡単な問題。これを忘れていた人は 海よりも深 く反省して 二度とこのような失態を犯さないように。工学系でこの公式を知らないのは結構致命的。 (2) は積和の公式を用いて三角関数の積の積分を計算する問題。フーリエ係数を求める際に必須の 三 角関数の直交性 の一部ですね。とは言え、積和の公式は問題文に書いてあるので、殆どやることは 無い筈。cos 0 = 1 が出て来る m = n のときを分けて考えられるかがポイント。 〇 第 3 問について: フーリエ級数展開についての問題その 1。講義中の小テストでは、フーリ エ級数展開の問題の得点率が芳しくなかったので重点的に出題してみたのですが、余計なお世話だっ たでしょうか? 25 点満点で平均点は 23.25 点、満点は 8 名でした。基本的な問題ではありましたが、 正答率が極めて高く、非常に嬉しい限りです。 (1) はフーリエ級数展開の計算。本問で扱う関数は偶関数なので、bn = 0 であることを用いると いもづる 計算はかなり楽になる筈。ここで間違えると (2) も芋蔓式に間違えるので、丁寧に計算したいとこ ろ。……とは言え、殆ど全員が正解だった気がします。講義で一度扱った関数であったことも高い正 答率に貢献したのでしょうか? (2) はパーセヴァルの等式による級数の計算。(1) のフーリエ級数展 開をパーセヴァルの等式に当て嵌めて丁寧に計算するだけです。たったそれだけではありますが、通 常では計算方法もなかなか思い付かないようなこんな級数の値を求められるのは、フーリエ解析の 醍醐味の 1 つとも言えるでしょう。こちらも小テストではあまり出来が良くなかった気がしますが、 非常に良く出来ていました。……別に小テストのときに、もっと本気出してくれても良かったんです よ? (笑) 〇 第 4 問について: フーリエ級数展開についての問題その 2。25 点満点で平均点は 17.75 点、 満点は 2 名でした。こちらの方がある意味では簡単な気もするのですが……。不思議なものですね。 (1) はフーリエ級数展開の計算。こちらは偶関数なので、an = 0 であることを用いると計算はかな り楽になる筈。積分計算も、部分積分が出て来ない非常に簡単なものだったのではないでしょうか。 正答率は非常に高かったです。(2) は、ヒント通り x = 1 での値 f (1) = 2 を考えて、フーリエ積分 公式に持ち込むだけで解けますので、或る意味では「パーセヴァルの等式」などという高尚な公式を 使わなければならない第 3 問よりも簡単だったのではないかと思うのですが、正答率はこちらの方が 良くなかったです。どうしてでしょうね。 〇 第 5 問について (選択問題): 最小二乗近似についての設問。論述問題だし、どうせ選択す る人もそんなにいないだろうと高を括って、小テストで扱ったものとほぼ同じものを出題したとこ ろ、半数以上の人が選択する結果となってしまいました。しかも解答者数 8 名、25 点満点で平均点 18.63 点、25 点満点 3 名という好成績。あの小テストの悲惨な状態は何だったのでしょう……? 本問は小テストの問題と殆ど同じ問題ですし、講義でも丁寧に解説したため、問題の内容自体への コメントはありませんが、 「内積」とか「直交」という用語からも分かるように、本講義で扱った最小 二乗近似の証明は 線形代数学の内容 に基づくものです。つまり 区間 (−π, π) の関数を ベクトル だ と見做して線形代数の理論を適用する という、俄かには信じ難いことを実行しているわけです。本 学ではカリキュラム編成の関係で扱われることはありませんが、『線形代数学』という学問における 「線形空間」(或いは「ベクトル空間」) という概念は、実は非常に抽象的に定義されるものであり、区 間 (−π, π) の関数全体などはその抽象的な定義を満たす対象です。この「抽象線形空間」という概念 は本当に抽象的で、世の大学生を毎年苦しめ続けているのですが、このように概念を抽象化すること によって、「関数」というどう考えても所謂「ベクトル」とは異なる対象にも線形代数の知識が応用 出来る ことこそが『線形代数学』の本当の醍醐味に他なりません。このような視点に立つと、最小 二乗近似のような通常の微分積分学の知識だけでは示すのが結構大変な定理も、「線形代数のときと 一緒じゃん」 という形であっさりと理解することが出来るのです。本学の講義では、いまいち『線 形代数学』の面白さが分かりづらかったのではないかと思いますが、フーリエ解析で学んだ事柄を 『線形代数学』の内容と比較してみる ことで、より理解が深まるのではないかと思います。 〇 第 6 問について (選択問題): フーリエ変換についての基本問題。こちらも小テストの惨状 はどこ吹く風といった感じで良く出来ておりました。まぁ小テストの問題そのままだったことも影響 しているでしょうね。解答者数は 6 名、満点は 30 点満点で平均点は 21.17 点でした。最高点は 30 点満点 (3 名) です。 (1) はフーリエ変換の計算問題。これを間違えると、以降の問題も芋…… (以下省略)。良く出来て いました。(2) も小テストで出題した問題ですね。ヒントに忠実に従って、フーリエ積分公式をきち んと使いこなせれば、何も難しいことはありません。(3) はプランシェレルの等式による広義積分の 計算問題。第 3 問 (2) のフーリエ変換版ですね。結局 e−2|x| の広義積分を計算すれば良いだけです ので、計算自体はそれ程難しくはない筈。プランシェレルの等式をきちんと覚えていたかどうかが分 かれ目でしたね。 〇 第 7 問, 第 8 問ついて (選択問題): 偏微分方程式についての問題。第 7 問では熱伝導方程 式を、第 8 問では波動方程式を出題しました。配点は第 7 問が 30 点、第 8 問が 35 点。ただ、講義 の終盤に扱ったことも影響して、残念ながらどちらも選択者はいませんでした。 偏微分方程式 (特に熱伝導方程式) の初期値境界値問題の級数解の構成は、フーリエがフーリエ 級数の理論を発展させるに至る原点であり、歴史的にも非常に重要です。とは言え変数分離法など、 フーリエ解析自体からは若干外れた知識も必要となるため、やはり 2、3 回の講義で完全に身につけ るのは難しいのも事実です。折角の機会ですので、第 7 問、第 8 問を、講義ノート等を見ながらでも 構わないのでじっくり解き直してみることをお薦めします。そして、可能ならば数式処理ソフトを用 いて、実際に求めた級数解を表示してみると、殆ど同じような設定の第 7 問と第 8 問で解の振る舞い が顕著に異なることが発見出来るのではないかと思います。 〇 第 9 問について (ボーナス問題): どうせ適当に書くだろうと高を括っていたら (失礼!!)、フーリエ解析に対して全受験者がかなり熱 いコメントを寄せてくれて非常に嬉しい限りです。特に「他の講義で登場した概念 (ギブス現象とか、 平均 2 乗誤差とか、出て来ていたんですね) についてしっかり勉強出来たのが良かった」との声を何 件かいただけたのは何よりです。実は私自身、工学系へのフーリエ解析の応用についてはそれ程詳し くありませんので、どのような話題が皆さんの興味と合致するか、おっかなびっくり講義を進めてい たところもあるのですが、それぞれが自分の興味関心に合わせて本講義で学んだ内容を活かしてくだ さるのであれば、これ程の喜びはありません。どの方もかなり書き込んでおられたので、ほぼ 5 点加 点してあります。 ■授業評価アンケートの自由回答欄について 授業評価アンケートの結果は、UNIPA から閲覧することが出来ますが、自由回答欄に書いていた だいたご意見については公表されませんので、ここでコメントさせていただきます (基本的に原文マ マ)。とは言え数える程しかコメントがなかったのですが……(寂)。 〇 良かった点: − 毎回の小テストや練習問題が多かった事。 小テストについては肯定的な意見がいただけてほっとしています。ありがとうございました。まぁ 全体的な小テストの成績はあまり芳しくはなかったですが (笑)、期末試験でここまで成績が上がった ということは、小テストを利用してしっかりと復習出来ていたということでしょう。 また、今学期は私的な事情により、中々講義準備に手が回らず、演習問題の解答等の公表が遅れ気 味になってしまったのは反省点だと思っております。すみませんでした。 − 黒版 (原文ママ) が見やすくノートが取りやすかった。 板書についてのご意見ありがとうございました! 気を抜くと結構ごちゃごちゃと書いてしまう傾向 があるので、なるべくレイアウトが崩れないように気をつけているので、見やすいというご意見をい ただけて大変嬉しいです!! 〇 改善した方が良い点、改善のための提案など: − 線形Ⅲを取った時に、先生の授業が分かりやすかったので、今回も履修させてもらいまし た。他の数学の授業も先生の講義を受けたいです。(以下個人的なメッセージ) これは、改善点ではないですね。それにしても前期から引き続いてのご聴講ありがとうございま す。小テストの成績もなかなか向上しなかったりで、説明が分かりにくくなっているのではないかと 色々試行錯誤しながら講義を進めていたのですが、このようなご意見をいただけて大変励みになりま す。今後も色々な数学に触れていっていただければ幸いです!
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