Developmental Coaching_Eng(2012)

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2012年1−3月号
目次
発 行 人 か ら の メッセ ー ジ
実り多い一年 2012年に向けてのJHRSコミュニティ現状報告
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カビッティン・順
J H R S コミュニ ティ・ニュース
戦略から実践へ求められる3Cs
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The HR Agenda
2011年全員参加型リーダーシップへの旅
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The HR Agenda
行動志向の対話シリーズ 日本の新しいグローバル・スピリット
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The HR Agenda
特集記事
知は徳なり それはどのようなビジネスなのか。
10
野中郁次郎
リー ダ ー シップ
日本企業にいま求められるリーダーシップとは
14
新堀 進
ウォートン の 知 恵
文化的要素のリーダーシップに対する影響
16
Knowledge@Wharton
コ ー チング
発達志向型コーチング 人のOSのアップグレードを試みるコーチング
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鈴木規夫
HRに聞け
昔からのリーダーシップと新しいリーダーシップ 日本でうまくいくのはどちらか
アンドリュー・マンターフィールド
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松井 義治(ヨシ)
HR法律相談
日本での雇用契約 何を知らねばならないか
22
大山 滋郎
HRの最優良事例
グローバル経済の中で活躍するための五つの秘訣
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ウォーレン・アーバクル
日本におけるHRのプロフェッショナルに
影響を及ぼすようなHR関連情報や資源
に関する最新かつ適切な情報を提供し、
H R 戦略
集合知を生むリーダーシップ
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小串 記代
日本と世界のHR管理システムの架け橋と
なり、情報やHR成功事例、標準、知識体
系などの普及促進を目的とする。
H R 界 の ス ー パ ースタ ー
源 昇 大塚製薬株式会社人事部長
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The HR Agenda
The HR Agenda の使 命
論説
リーダーとリーダーシップ 大局を見つめて
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アネット・カーセラス
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出版物概要
T he HR Age nd aはT h e J a p a n H R S o c i e t y が 出 版する日本 初 かつ 唯 一 の 2ヶ国 語
人材(HR)専門季刊誌。制作はエイチアールセントラル株式会社(The Japan HR Society事務
局)
のエイチアール学習・出版部門。
発行人 統括編集人
The Japan HR Society (JHRS)
カビッティン・順
[email protected]
編集長
アネット・カーセラス
[email protected]
共同編集者
川合 亮平
ブルース・マクリン
ステファニー・オーバーマン
副編集長
岡本 浩志
澤田 公伸
デザイン・制作 ブーン・プリンツ
広告セールス・
マーケティング
および配布
川合 亮平
翻訳者
野田 牧人
ビクトリア・オヤマ
編集補佐
ヒルダ・ロスカ・ナルテア
国内購読
1冊(宅配)
:1,575円
(税・送料込み)
年間購読 ̶ 4冊(電子版のみ)
:3,150円
(税込み)
年間購読 ̶ 4冊(宅配&電子版)
:5,250円
(税・送料込み)
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登録商標であり、The Japan HR Societyに帰属します。
シイラ・モリイ
マーク・スィリオ
編集局
エイチアールセントラル株式会社 (The Japan HR Society事務局)
〒108-0075 東京都港区港南2-14-14
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© 2012. The Japan HR Society 無断複写・転載を禁じます。
画像の出典:
New Year’s by T333, Confident Businesswoman with Co-workers by Avava, Pine Branch by Popovaphoto, Lucky
Bamboo by Alexmax, Melting Iceberg by Nexusplexus, The School of Athens Fresco by Nickolayv, Black and
White Hands by Davner, Thank You by Scionxy, Large Diamonds on Scales by Arsgera
お断り
掲 載 し た 記 事 に あ る 見 解 や 意 見 は 執 筆 し た 寄 稿 者 、筆 者 個 人 の も の で あり 、必 ず しも
「 T h e J a p a n H R S o c i e t y 」の 一 般 会 員 、事 務 局 、アドバ イザ ー 、会 友 、後 援 者 の
立 場 や 見 解 を 反 映 し た も の で は あ り ま せ ん 。本 協 会 は 、掲 載 さ れ た 記 事 や 広 告 に
含 まれるデ ー タ、統 計 、情 報 の 正 確 性 、真 実 性 につき 、その 全 体もしくは 一 部 に 関し 、責 任 を
負 い ま せ ん 。更 に 、掲 載 し た 助 言 、意 見 、見 解 は 情 報 提 供 だ け を 目 的 とし た も の で
あり 、資 格 を 有 す る 法 律 専 門 家 、財 務 専 門 家 のより 専 門 的 な 法 的 、財 務 的 助 言 にとって
かわることを目指したものではありません。
2012年1−3月号
コ ー チング
発達志向型コーチング
人のOSのアップグレードを試みるコーチング
鈴木規夫
インテグラル・ジャパン代表取締役
今日、
日本においてもコーチングは幅広い領域で導入され、人材育成の有効な方法のひとつとして、市民権を確立しているように思われる。
市場には様々な思想や理論に立脚したアプローチが林立しており、
日々の業務や生活の中で課題や問題と直面する人々に貴重な支援を提
供している。
ハーバード教育学研究所のロバート・キーガンが指摘するように、
いる。たとえば、
それは、はじめての海外赴任において、
それまでの自
人間が変化・変容するときには、主に2つの要因が必要となる。即ち、
信を根こそぎ剥奪されるときに、
あるいは、想定外の危機的状況に直
支援と試練である。十分な支援をあたえられることなく、過酷な状況
面して、
自身の非力と脆弱さを思い知らされるときに、我々が経験する
に長く置かれるとき、往々にして、人々は試練に圧倒されて、潰れてし
ものである。
それは正に実存的な危機と形容できるものなのである。
まう。逆に十分な試練をあたえられることなく、安逸な状況に長く置
生存条件が根本的な変化をするとき、人間は単に新しい知識や技
かれるとき、往々にして、人々は能力を十全に発揮する機会をあたえ
術を習得することでは対応できない課題と直面することになる。
そこ
られることなく、弛緩してしまう。
で問われているのは、必ずしも知識や技術を十分に有していないと
ある意味では、今日、急速に複雑化する我々の生存環境そのものが
いうことではなく―もちろん、
それらがある程度重要であることは確
苦悩と挑戦の坩堝と化しており、不確実さは慣れ親しんだ日常業務
かだが―むしろ、
自己の存在そのものなのである。実存主義心理学
にまで及んでいる。
そうした状況そのものが試練として経験されように
者のロロ・メイが述べたたように、
こうした状況において問題となる
なる中で、実質的にコーチングは、
そうした状況に適応するための重
のは、
「 私」が所有しているものではなく、むしろ、我々が「私」
と呼ぶ
要なサポート・システムのひとつとしての役割を果たしているといえる。
生存条件が大きく変化するとき、我々はそれまでに自己の拠り所
としていたもの―たとえば、体験・思想・信条・信念・方法―を再検
存在そのものなのである。解決されるべきは、自己存在の脆弱さで
あり、矮小さであり、未熟さであり、頑迷さなのである。
しかし、
こうした問題の本質を認識することなく、早急に
「問題解
証して、
それらを必要に応じて修正していくことが求められる。
ときと
決」
をしようとするとき、我々はそれに役立つ知識や技法を収集する
して、
こうしたプロセスは、自己を解体して、再構築するプロセスとし
ことに心を奪われてしまうことになる。即ち、新しい内容物を仕入れ
て体験されることになる。
ることに汲々としてしまい、それらを咀嚼・活用する主体である
「人
発達心理学者は、
こうした体験を「死と再生」の体験と形容する
が、実際、程度の差こそあれ、多数の人々がそうした経験を迫られて
試練
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格」―あるいは、
それを
「器」
と呼ぶこともできるだろう―を拡張する
ことの重要性を看過してしまうことになるのである。結局のところ、
あらゆる知識も技法も
「人格」を基盤として利用されるものである。
条件が欠如していることがもたらしている閉塞感は非常に深刻なもの
貧弱な基盤の上に高度な技術を搭載しても、真に有効に活用され
であり、HRプロフェッショナルを能力開発一辺倒のお馴染みだが時
ることはないのである。
代遅れのアプローチの虜にしている。
実際、我々の直面する課題や問題が、単に新しい知識や技法を習
当コラムでは今後、欧米を中心にして注目を集めはじめている、
そ
得することで対応できるようなものであるならば、何もエグゼクティヴ・
うした深層的な変容を志向する発達志向型コーチングについて紹
コーチングをはじめとする高価なサービスを利用しなくても、関連書
介していきたいと思う。
を熟読することで対応できるはずである。つまり、
それらは、基本的に
既存の器を維持したままで対応できるものなのである。
しかし、今日、集合的な生存条件が変化する中で我々が直面する
多数の課題や問題とは、人としての器を深化させることなしには対応
できない種類のものである
(あるいは、
そうした深層的な変容なしに
は、そもそも課題や問題として認識されえないものである)。
コーチ
ングの窮極的な可能性とは正にそうした人間の深層的な変容に関
参考文献
Susanne Cook-Greuter (2005).[自我発達理論:インテグラルの9段階]
http://www.cook-greuter.com/
Robert Kegan (1998).[理解できない世界:現代生活に求められる心とはどのよう
なものか]
Cambridge, Mass: Harvard University Press.
われるところにあるといえる。
発達心理学者のSusanne Cook-Greuter( 2005)が指摘するよ
うに、成人期における成長や変化の大多数は既存の器の範囲内で起
こるものである。
また、器の変容には、少なくても5年程の時間が必要
とされるために
(ロバート・キーガン, 1998)―また、
それを実際に完
遂するには、
それぞれの段階において求めらる特有の支援と挑戦が
必要となるために―現実にそうした変容を実現することのできる人の
数は非常に限られている。筆者もこれまでにコーチとして数多くの方
鈴木規夫:東京都出身。California Institute of
Integral Studies( CIIS)の博士課程を修了。専攻
は、東洋と西洋の心理学。人間の心理的発達と能力
開発の領域において研究と実践に取り組んでいる。
現在、某製薬会社で国際人材の育成に携わってい
る。著書『インテグラル・シンキング:統合的思考のた
めのフレームワーク』、訳書『実践インテグラル・ライ
フ:自己成長の設計図』等。
々の支援にとりくんできたが、
こうした深層的な変容をクライアントが
実現するのを目撃できることは非常に珍しい。
また、段階的な変容をそれほどまでに稀少なものにしている要因
としては、それが本質的に非常に困難なものであるということだけ
ではなく、そうした体験を成人期における自然な体験のひとつとし
て認識して、
それを適切に支援できるだけの見識をそなえたコーチ
があまり存在していないという事情があるのも事実である。問題は、
支援者にもあるのである。
いずれにしても、今日、早急に必要とされているのは、
こうした人間
の深層的な変容の可能性を認識して、
それを適切に支援するための
枠組みを支援者と被支援者の双方が共有することであろう。
そうした
支援
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