新たなファイリングシステムの提案 屋比久祐盛 琉球大学工学部環境建設工学科 1. はじめに オフィスや住宅で使われる収納家具は、固定式の物が多く引越や模様替えの際に多大な労力と時間を 要し、担当者はそれぞれ苦労した経験を持っている。ファイルなどを収納した状態で、移動可能な家具 が実現すればレイアウトの変更や、元あった状態に戻すことはとても簡単。また、文書の整理形態を崩 すことなく、低コスト・省エネルギーで、効果的なオフィス環境を実現することが可能である。 2. システムの背景 1974 年に本土復帰した沖縄県において、17 万簿冊という厖大な行政資料(写真‑1)が残された。い わゆる「琉政文書」と呼ばれる文書群である。試行錯誤の上、整理された文書群(写真‑2)は公文書館建 設(写真‑3)の大きな動きを誘発し、現在は検索機能が伴った状態で収蔵されている。廃棄される運命に あった文書が、歴史的価値の高い公文書として蘇り、全国の資料機関の注目を浴びるに至っている。そ の整理のプロセスで発案されたのが本文書管理システムである。 写真‑1 雑然とした公文書 写真‑2 整理後の琉政文書 3. 開発の経緯 琉球大学と㈱OFSEC は、産学連携の共 同研究事業を 1999 年 11 月からスタート 年 2000 年 している。当初、文書管理システムは考 案者の渡口善明氏によって試作開発され ていた。しかし、ビジネスとして成り立 たせるためには、技術的、経済的に限界 2001 年 2002 年 を感じていた。そこで、この事業を事業 識を活用し、研究事業として進めていっ た。その産学官連携による研究事業の経 緯及び実績を(表‑1)に示す。 融 合 化 開 琉球大学工学部 上下連結機構初期 発 促 進 事 沖縄県工業技術セ 型の開発試作 業 ンター 融合化開 発促進事 業 融合化開 発促進事 業 琉球大学工学部 上下連結機構およ 沖縄県工業技術セ び回転フック特許 ンター 出願にいたる 琉球大学工学部 2003 年 2004 年 地元企業との共同開発 2007 年 地元企業との共同開発 なうこととなった。また、技術的には、 琉球大学と連携し、大学機関の技術や知 表‑1 産学連携のプロセスと補助事業 事業名 共同研究機関 成 果 新規産業 創 造 技 術 琉球大学工学部 開 発 費 補 九州芸術工科大学 助金 協同組合化し、賛同する企業を募集し経 済的なサポート体制を組合という形で行 写真‑3 沖縄県立公文書館 耐震試験による耐 震性検証 専用金型の開発と 量産ラインの実 証、耐震試験の実 施、固定部品の特 許出願 抗菌性月桃紙の試 作開発 扉の鍵金具の試作 4. 新たな規格の提案 オフィスには、様々な書類が存在し、大きさの異なる家具が要求される。しかし、規格の異なる家具 は、平面的あるいは立体的に、内部空間に凹凸を発生させ、統一感の少ない配置は美観や動線計画上の 改善したい問題である。 統一規格として、A4 サイズを基本とする新 たなシステムを構築する事で、ユーザーの 受ける恩恵は計り知れないものがある。横 46cm・奥行き 32cm・高さ 40cmのス チールの箱(図‑1)を作り、それぞれが 連結する事でオフィス空間を形成する手 法を提案したい。奥行 32cmの壁式収納が あっという間に完成する。そして、その組 み合わせは実に多彩でユーザーの好みの レイアウトを実現することが可能になる。 図‑1 コンテナ型収納家具の規格 5. 上下・左右の連結機能 コンテナ型の家具をオフィスで使用す る際、単独での使用も可能であるが、上 下・左右の連結機能(写真‑3)を持たせ ることで、設置の安定性と大きな書架を 形成することが可能である。また、取手 を持つことで上下連結を解除する機構や、 コインで左右連結の設定が可能なフック を実現している。 写真‑3 上下・左右の連結機能 6. 耐震試験 地震国の日本において、耐震対策は重要な課題である。簡素な機構で、一定の耐震性能確保に重点が 置かれた。耐震試験は、株式会社タイセイ総合研究所の三軸振動台を使用した。基本タイプは、2列4 段背面連結・4列4段片面連結の試験体(写真‑4)で行った。結果として、2列4段背面連結は床固 定無しで阪神淡路大震災の揺れに対し 45 度回転したが、倒壊には至っていない。また、オフィスレイ アウトで最も多い4列4段片面連結は阪神淡路大震災 1/2 の揺れに対し自立を保った。対処法として、 文書コンテナ背面の通気 口最上段の穴を利用して、 壁にネジ留めすることで、 阪神淡路大震災の原波に 対して自立を保ち、中の 書籍も安定した状態で原 形を止めることが証明さ れた。 写真‑4 背面連結・片面連結の耐震試験 7. 従来の書架と新たなシステムの比較 これまでの文書管理は、固定式の書架を利用するため、書類の移動にダンボール箱の利用が一般的で ある。現場では、整理された文書が箱詰や移し替えの作業で、検索できない状態になることも多い。ま た、ダンボール箱のまま貴重な書類が保管された場合、使い勝手が悪いため取り出しに苦労する。 時間の経過と伴に、所在は不明確になり、情報公開を要求される行政ではマイナスの要因となる。 従来の書架から、新たなシステムに変更すると、どの様な効果が生まれるのか検証を試みる(図‑2)。 ① 文書の発生、分類、移動、保管がスムーズになる。 ② 文書分類方式の一元化により、検索が容易になる。 ③ 文書を、文書コンテナで一括管理し、置き換え、移し替えによる分類形態の崩壊を防止する。 ④ 文書コンテナにより、引継ぎや移動が簡単になり、レイアウト変更も自由で事務の効率化に繋がる。 ⑤ 上下・左右連結機構で、一定の耐震性能を実現する。 図‑2 従来の書架と新たなシステムの比較 8. 情報公開とシステムの重要性 情報公開や市町村合併など、該当する行政現場では大量の文書の移動が予想される。限られた時間で、 旧市町村の貴重な公文書の記録・保管と、将来の情報公開に向けたシステムの構築は決して容易な事で はない。限られた空間で、事務を行う個人事務所。税金や会計監査の対応に、過去の文書を要求される 銀行や大手企業も同様である。重要なことは、現場で整理された文書形態が、崩れることなく引き継が れるシステム(図‑3)を構築することである。 SOHO OFFICE 図‑3 文書コンテナを用いた新たな空間創造 9. まとめ 昨今の年金問題は、デジタル化に移行する段階で紙の文書をおろそかに扱った事で現在の混乱を招い ていると予想される。そのために支払われる国民の損害は計り知れないものがある。情報公開に必要な ことは、正確な検索・閲覧機能と、保存のためのスムーズな引継ぎを確立すること。新たなファイリン グシステムは、ライフサイクルコストの削減をはかり、自由なレイアウトで、快適なオフィス環境を実 現することが可能になると思われる。
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