Strombolian eruption in a pot: Japanese curry vs. Italian tomato sauce

鍋の中のストロンボリ式噴火
日本風カレーとイタリア風トマトソースの比較実験
○市原美恵,
市川浩樹、栗田敬 (東大・地震研)、柳澤孝寿、山岸保子 (IFREE, JAMSTEC)
Strombolian eruption in a pot: Japanese curry vs. Italian tomato sauce
M. Ichihara, H. Ichikawa, K. Kurita (ERI, University of Tokyo), T. Yanagisawa, Y. Yamagishi (IFREE, JAMSTEC)
1. 研究の目的と背景
火山活動に伴う空気振動の観測は、有用なモニタリングの手法のひとつとして、近年、ま
すます盛んに行われるようになっている。しかし、観測された空気振動の波形を使って、火
口内の現象を読みとる手法や、理論は、未だ確立されていない。たとえば、Fig.1a は、イタ
リア・ストロンボリ火山の噴火の際に観測される空気振動の波形を重ね合わせて得られた、
代表的な波形であるが、この形成過程については、Fig.1b-d のように、様々なモデルが提
ストロンボリ火山の噴火の際に
観測される空振波形
(Ripepe & Marchetti, 2002)
案されている。
さて、そのストロンボリ火山の観測所にて、M. Ripepe 氏と、ストロンボリ式噴火のメカニ
ズムについて議論していた時のことである。液体表面での気泡の破裂に伴う、液滴の飛散
と音の発生についての話になった。我々は、その現象の類推として、カレーを煮込むときの
経験を話した。一方、カレーを作ったことのないRipepe 氏は、マグマをトマトソースに例えた。
それぞれの鍋に見られる現象は、互いに馴染みの深いものであるが、そのメカニズム(気
泡の発生場所や過剰圧、液滴の生成と加速、音の発生源など)について、実は、ほとんど
理解していない。また、カレーとトマトソースに見られる現象は、似ているようで、かなり異
なっているようにも思われる。本研究では、この現象について、両者を比較し、そのメカニズ
ムと相違点を明らかにする。
2. 実験装置と試料
マグマ中の爆発
(Buckingham&
Garces, 1996)
気泡破裂
表面での気泡膨張
(Riepep et al.,
(Vergniolle&
2001)
Brandeis, 1996)
3. 加熱の様子と音波
計測システム
カレー
トマトソース
18cm
高速度ビデオカメラ
(Yokogawa, WE7000)
計測条件:(1)10kS/s, (2)500kS/s
1
0
-1-2.5
0
time (s)
マイクロフォン+アンプ
1
0
-1-2.5
0
time (s)
2.5
1
0
-1-2.5
2.5
カレー
カレー(S&B “なっとくのカレー” 辛口)
野菜(じゃがいも、人参、玉ねぎ、にんにく)、牛肉、
食用油脂(パーム油、なたね油)
小麦粉、砂糖、カレー粉、......等
トマトソース(自家製)
イタリアントマト(缶詰)、玉ねぎ
食用油脂(オリーブ油)、バジル、食塩
攪拌後、あまり発泡し
ていない
0
time (s)
2.5
12
26
15分程煮込んだ頃
15分程煮込んだ頃
Pressure (Pa)
マイクロフォン
トマトソース
2.5
25
0
0
time (s)
0
time (s)
攪拌し、表面の
膜を除去
1
-1
-2.5
高速度
ビデオカメラ
Pressure (Pa)
ハイビジョン
ビデオカメラ
0
10
Pressure (Pa)
Pressure (Pa)
試料
1
-1-2.5
2.5
防音チューブ
(Bruel&Kjaer, 4129+NEXUS)
計測条件:(1)0.1Hz-10kHz, 1V/Pa
(2)20Hz-100kHz, 1V/Pa
同じ場所で連続発泡
Pressure (Pa)
PCベース計測ステーション
23
加熱開始後、
発泡が盛んに
なってきた頃
Pressure (Pa)
トリガー信号
08
(Photoron, FASTCAM-1280PCI, B/W
ノートパック)
撮影条件:1024x1024, 1000fps
1
0
-1-2.5
0
time (s)
2.5
4. パルスの発生と気泡の破裂
5. スペクトルとパルス波形
− 800Hz<のHigh-Pass を掛けた波形
◆ 高速度ビデオカメラでとらえた気泡破裂時刻
多くのパルスに同期
する気泡の破裂が
確認できた。
?
パルスの発生と気泡の
破裂は対応していない。
明瞭な気泡の破裂自体、
希にしか発生しない。
6. 音の発生モデル
Helmholtz resonator (Spiel, 1992)
2a
2r
c
2π
fo =
S
εV
S = πa 2 , V = (4 3 )πa 3
ε = 8ka 3 π (1 ≤ k ≤ 2)
c 9π ⎛ a ⎞
g⎜ ⎟
r 8k ⎝ r ⎠
x
g( x ) =
2 + (1 + x 2 ) 1 − x 2
fo =
表面の気泡サイズ: r~5mm
音を出すときの口径: a~1mm
気体の音速: c=404m/s(vapor 373K)
とすると、fo~5kHz。
カレーの現象のスケールに一致する。
Bubble pulses (Rayleigh, 1917; Plesset & Prosperetti, 1977)
r
Linear oscillation
Rayleighcollapse
t
tc
Rayleigh-collapse
t c = 0.914r ρ P
f o ≈ 1 2t c
Linear oscillation
fo =
1
2πr
3γP
ρ
液体密度: ρ=1000 kg/m3
圧力: P=105 Pa
水蒸気の比熱比: γ=1.33として計算。
同じ気泡径に対し、Helmholtz の共振
周波数より低周波。
トマトソース内部の音源?
気泡半径(r) の単位をmに、周波数の単位をHzに置き換えても同じ関係
Æ ストロンボリ火山のスケール?
7. まとめ
カレーとトマトソースは、実は、ずいぶんと違う振る舞いをしている。
カレーの鍋から出てくる音のパルスは、気泡がはじけるときに作られる。
トマトソースから聞こえるパルスは、液面の気泡の運動と対応していない。
気泡破裂後の、液面のリバウンドに伴う液滴の飛散は、トマトソースのみに
見られる現象だが、明瞭な音の発生を伴わない。
トマトソースのパルスは、液の内部で作られているらしい。
パルスの周波数も、カレーの方がトマトソースよりも有意に高い。
前者は、Helmholtz 共振周波数で、後者は液体内部で、気泡が振動する周
波数で決まっていると考えられる。
どちらのメカニズムも、火山の空振の発生源として考えられているもので
ある。今後の課題は、今回のように、高速度ビデオで直接液面の観察が
できない状況で、両者を区別する方法を考案することである。
なお、余談であるが、本実験の結果、カレー(辛口)に、トマトソースを混
ぜると、辛さが激減することがわかった。辛いのが苦手な方には、お奨め
である。