見逃し配信サービスにおけるコンテンツへの期待

D MediaRoom
151
Vol.
デ ジ タ ル メ デ ィ ア 教 室
Writer
ソリューション推進局
インタラクティブ事業戦略室
萱野 哲平
Thema
見逃し配信サービスにおけるコンテンツへの期待
今年 1 月 13 日にフジテレビが無料配信サー
ビス『+7(プラスセブン)
』をスタートしまし
た。これはドラマやバラエティなどの「対象番
組を放送終了後最大 1 週間、無料視聴できる」
「いつでもパソコンやスマホなどのさまざまな
デバイスで見られる」というものです。
これまでテレビ局の動画配信と言えば有料
の「オンデマンド」が主流でしたが、昨年 1
月に日本テレビが、10 月には TBS が無料見逃
しサービスを開始し、昨秋には、
「在京キー 5
局でまとまって実施する」という民放連のコメ
ントも発表されています。さらに「Dlife」が、
1 月 14 日に見逃し配信機能を備えたスマート
フォンアプリをリリースしたことで、この動き
は地上波・BS 問わず、今後益々活性化してい
くものと思われます。
こうした動きは視聴者にとって利便性の向
上につながり、歓迎すべきことだと思いますが、
ビジネスとして成熟するかどうかを考える際、
どういったことが期待できるのか、また、その
ための課題は何かについて、ここでは書いてい
きたいと思います。
これまでターゲットでなかった層にアプローチできる
1日 24 時間という枠の中で、リアルタイムに
テレビ視聴できる時間量にはおのずと限りがあ
ります。そういった制限の中、タイムシフト視
聴という形態が人々のテレビ番組の視聴機会を
増加させたという側面があります。それに加え、
見逃し配信サービスは、
「録画してまで見るつ
もりはなかった」
「録画できなかった」人たちも
取り込むことが出来ると期待されます。
見逃し配信サービスへの期待が高いのは若年層
「ACR/ex」
(2014 年主要7地区データ)を
見ると、
「見逃しした番組をインターネットの
動画で見ることがある」は全体では 2 割強で
すが、18 ~ 24 歳の若者では4割に達し、他
の年代を上回っています。さらに、
「インター
ネットでテレビ放送など動画コンテンツを見る
ことに興味・関心がある」では6割を占め、幼
少期からインターネットと接点を持つこの世代
はネット上での動画視聴に対して、他の年代
よりも積極的な姿勢が見られます。まずは若
者を取り込み、そこをフックにサービスを展開
していくのが効果的と考えられます。
次に見逃し配信サービスが普及するための
課題を考えてみます。
「スマホ」の中でのシェア獲得はなるか
「いつでも」
「どこでも」利用でき、既に生活
に密着しているスマホ。だからこそ、端末上で
行われている“楽しみ方”のシェア取りに割っ
て入ることが重要です。通話はもちろん、大き
なシェアを占めるネットサーフィン、SNS、ゲー
ムといった中で、
この先「動画視聴」がどうシェ
アを取っていくのか、他の生活時間を削らせて
までの魅力を作っていけるかが課題になりそう
です。
ちなみに、YouTube は、
「投稿動画(コン
テンツ)
」をいつでも好きなときに視聴できる
サービスとして、ニコニコ動画はそれに「コン
テンツに対しての手入れができる」を付加す
ることで大きく成熟しました。
こういった仕組みや仕掛け作りとともに重要
なのは言うまでもなく、コンテンツの充実化で
す。テレビ放送と同様の位置づけとなるため
には、バラエティに富んだラインナップである
ことはもちろん、どういったコンテンツをそこ
におけるかが最も大きな課題です。
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宣伝、告知ルートの確保とポータルとしての集
客力を保てるか
サービス自体の認知を得ること、そして、ま
ずは体験してもらうことが重要です。それには
「いかに視聴者がたどり着きやすい環境をつく
れるか」がポイントといえます。
YouTube やニコニコ動画が流通したのを例
にとると、SNS などの普及により、あらゆる流
入経路から動画へのアクセスが生じ、それが
拡散した結果、大きな視聴量へとつながって
いきました。一方、
「見逃し配信サービス」と
いうビジネスを考えると、ポータルにどれだけ
集客できるかが広告ビジネスという点から重
要になります。また、ポータルとして機能して
いけば、権利処理、メンテナンスなどの管理
上においても有利に働くと思われます。
独自の市場ルールが必要か
既にサービスが活性化している米国と日本で
は、取り巻く環境(人口構成、ネット普及、コ
ンテンツ接触態度)が大きく異なり、独自の展
開が必要かと思います。
コンテンツが大量に流通し、多チャンネルで
展開されている米国ではコンテンツリーチは高
くても一桁。テレビという視点からみると、相
対的に見て日本の方が寡占化されている状態
です。これは米国よりも「1カ所に視聴者を集
めやすい」ということに他なりません。少なく
とも、土壌が違うということの認識をもった上
で、日本独自の展開が期待されます。
配信期間をどう考えるか
現在展開されているサービスの多くは 7 日
間まで(放送終了後 1 週間、翌放送回まで)
が無料見逃しの最大期間と設定されています。
この配信期間をどう設定し運用していくかは、
テレビ放送、有料オンデマンドとの兼ね合い
を考える必要があります。
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Video Research Digest 2015. 3-4
ネット配信も前提としたコンテンツ作成、新しい
コンテンツの誕生
「アプリ」を活用した「たどり着きやすさ」の展開、
視聴の補完、穴抜け防止化に
スマホならアプリを使ってリマインダーや番
組表をつけるなど、利便性を高めるための対
策が容易です。今後、さらなる技術の発展に
より、魅力的な“使い勝手”が生まれてくるこ
とを期待するわけですが、例えば、
「時間的に
視聴できない」を回避できたり、
「録画し忘れた」
を防止できるなどの機能が開発されれば、利
便性の向上だけでなく、人々の番組に対する
視 聴 行 動 や 意 識まで 変えていくことにつな
がっていくと思います。
新たな制作コンテンツへの期待
最後に、見逃し動画配信サービスを「生活
に密着しているスマホ」で利用することを前提
とした場合、コンテンツ制作においても「様々
な状況で楽しめる」というコンセプトが必要と
なります。
「番組の尺を区切る」
「コーナー単位
での配信」
「音声のない状態でも楽しめるよう
な仕掛けづくり(ミュート再生)
」などの編集
面での工夫と、長年の経験と実績を積み上げ
たテレビ局のコンテンツ制作力により、ネット
配信を意識した新しいテンプレートが創出され
る可能性があります。
今後、
「見逃し配信サービス」が拡大し、成
熟していくことで、どんどん利用が促進されて
いくでしょう。それに伴い、これまでにない新
しいスーパーコンテンツが誕生し、テレビも
ネットも益々盛り上がっていくことが期待され
ます。