本 の 話 を し よ う

本の話をしよう。
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『生きていてもいいかしら日記』 北大路公子/ PHP 文芸文庫
(定価 580 円)
危険なので、 絶対に人前で読まないこと
たいへん危険な本です。 中央線の中でこの本を開いて、 笑いが止まらなく
なりました。 どのエッセイも本当に無意味で、 くだらない。 でも、 くだらな
さが突き抜けすぎていて、 これはもう 「公子の哲学」 とでも言ってしまい
たい気になります。 個人的にナンバーワンは 38 ページから始まる 「物悲
しい秋の一夜」。 練り上げられた文章芸の極致です。 こういう文章が国語
まであらゆる面で、 パパラギのそれは幸せそうだとは映らなかった。 豊か
さを追い求め、 モノを作り消費し、 時間と金を管理し、 他と競い合って築
き上げてきたパパラギの、 我々の社会。 他民族の目には歪んで映るその
環境を、 我々自身は本当に豊かで幸せと感じているのか。 30 年以上前
に日本で訳され、 以来気にはしても棚上げにし続けてきた問い掛けに対し、
我々はいつ、 立ち止まり省みるのだろうか。
(選 : サトミ/ JNS)
『ねこに未来はない』 長田弘/角川文庫
(定価 460 円)
ねこ嫌いな詩人がねこ好きな人と結婚したら
にゃんたること ! 「全日本反猫同盟」 の立ち上げまで夢見ていた詩人が
往来堂書店 店長 笈入建志 然と深く結ばれて暮らす一原住民の目には、 衣食住から文化慣習に至る
子供の頃から大切にしている本、今年いちばんおもし
西サモアの酋長ツイアビが触れた、 パパラギ ( 白人 ) たちの暮らし。 大自
ろかった本、こないだ読んでびっくりした本。
自分って幸せなのかな、 と、 ふと考えた時に。
読書は一人でするものです。でも、一冊の本をあなた
(定価 630 円)
と私の間においておしゃべりできることの幸せ、とい
『パパラギ』 エーリッヒ ・ ショイルマン 岡崎照男訳 /ソフトバンク文庫
うのもあると思います。
(選 : 川治豊成/講談社)
本を受け取るだけではなくて、読んだらなにかを言い
うけど……)。
にくる場所になることができたら、楽しそうです。
の教科書に載っていたら、 きっと楽しいですよね (そんな日は来ないでしょ
結婚したのは、 たいへんねこ好きな人。 それから詩人がねこのために引
越しまでするほどのねこ好きになるのには、 1匹の仔ねことの出会いで十分
でした。 でもねこたちは、 いつも唐突にどこかへ消えてしまう……。 くりか
えされるねこたちとの出会いと別れ。 すっかりねこを飼う自信を失っていた
若い夫婦を励ましてくれたのが、 「ねこに未来はない」 という希望の言葉
でした。 美しくユーモラスな言葉で綴られた、 詩人のエッセイ。 ねこ好き
にもねこ嫌いにも。
(選 : 中村/不忍ブックストリート青秋部)
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『ザ ・ 万歩計』 万城目学/文春文庫
(定価 540 円)
『るきさん』 高野文子/ちくま文庫
(定価 609 円)
お願いやめて、 もう変なこと言わないで !
娘が生まれたら 「るき」 と名づけたい
万城目学という男。 変わった小説を書いている (これからも書くだろう)。
時はバブル。 主人公るきさんは病院の保険請求事務を在宅でこなしつつ、
名字も少し風変わりだが、 相貌いたってオーソドックス。 この男がつかめ
バランス釜のお風呂に入り、 地に足着いたマイペースな暮らしをしていま
ない ! 気になる小説家がいたとする。 人となりを知りたいとおもう。 そこ
す。 生活は地味でも頭の中はけっこうぶっ飛んでるるきさん ! 彼女の中
でエッセイを手にする。 さすれば文学的な出自を知り、 理解が深まる。 は
にはしがらみや世間の目なんてものは存在しないみたい。 最終回ではなん
ずでしょ !? この本は違う。 読めば読むほど、 「あんたって一体……」 と
と、 風のようにヒュウッと…… それは読んでからのお楽しみ ! 本書を読
さくらももこ的呟きが漏れる。 もっと読まねば。 なんかズルイぞ、万城目学。
み返すうちに、 あなたはいつのまにか自由の気配に包まれていることでしょ
(選 : 花本武/ブックス ・ ルーエ)
う。 オールカラーページがぜいたくでうれしい ! 目に優しくておしゃれな
中間色がまた、 よいのです。
(選 : 雪舟えま/地球)
『恋文の技術』 森見登美彦/ポプラ文庫
(定価 651 円)
『スコットくん』 フジモトマサル/中公文庫
(定価 820 円)
読めば誰かに手紙を書きたくなること必至 !
スコットくん、 人間だったらモテモテだよ !
クラゲの研究のために住み慣れた京都を離れて単身、 能登半島に渡った
フジモトマサルさんの本が出ると必ずチェックする。 最近出た挿絵集もよ
守田一郎。 彼は孤独を紛らわすために、 文通武者修行を始めます。 本書
かった。 同時に出た小説も揃えて挿絵を眺めて楽しんだけれど、 やっぱり
は彼が友人たちとやり取りした往復書簡の片側だけ。 つまり守田一郎の
フジモトさんが絵と文、 両方手がけているものが読みたいし、 多くの人に
手紙だけで構成されていて、 文通相手の手紙を想像する仕掛けになって
読んでほしい。 フジモト作品に登場するキャラクターの中ではとくにこのス
います。 風流でおつな文章を書かせたら当代随一の著者によるしみじみと
コットくんがお気に入り。 ふだんは群れを嫌うシニカルな男だけど好きな
愉快な手紙の数々は、 読者に手紙の効用を再確認させてくれることでしょ
子にはとことんやさしい。 自由に生きていそうで実は、 という部分もある。
う。 私は本書をきっかけに文通をしている二人を知ってます。
ギャップのある男は人間だったらモテモテかもしれないけれど彼はペンギ
(選 : 小野坂祥子/往来堂書店)
ン。 彼の恋の行方やいかに。
(選 : 功刀貴子/ book pick orchestra)
『毒舌 身の上相談』 今東光/集英社文庫
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(定価 520 円)
『猫語の教科書』 ポール ・ ギャリコ 灰島かり訳/ちくま文庫
(定価 609 円)
「人生相談文学」 の金字塔だ、 馬鹿野郎 !
一家に一猫。 ファンタジーと猫を愛する人必読
毎度、 読者から寄せられる様々なお悩みに対して、 ときに 「しっかりせえ !」
真の作者が猫のツィツァであることは著者近影と表紙の写真で一目瞭然。
と励まし、 ときに 「張り倒すぞ、 この野郎 !」 と一喝、 また 「愛に国境も
ツィツァは猫の国の話を人間が理解できるように丁寧に説明してくれる。 第
人種もない」 なぞと殊勝らしいことを云うかと思えば、 「悪いことは言わん。
一章 「人間の家をのっとる方法」 から第十九章の 「最後にすべての子猫
死にな」 とて一言のもとに引導を渡す、 ……これまさに不覊奔放の暴言
に話しておきたいことは」 と、 唐突な終わり方がなんとも猫らしい。 猫の
録にして、 なおその紙背に溢れる澄徹の智慧と仏心とを掬するに、 もって
魔法に掛かり、 ファンタジーの世界へ。 当店の看板猫虎太郎もパソコンで
人生の範となすべき至言の書、 さては 「人生相談」 なるものを一個の文
暗号のような文字を打つ。 猫の国に送信した後はキーボードを独占。 猫
学作品たらしめた、 云わば 「人生相談文学」 の金字塔、 ……まァ、 騙さ
は不思議だ。 甘えるかと思えばするりと自分の世界に入っていく。 真ん丸
れたと思って読んでみやがれ、 こん畜生め !
の水晶のような瞳に操られている証人が私達。
(選 : 羽毛田顕吾/ブックス&カフェ ・ ブーザンゴ)
(選 : JAZZ 喫茶映画館)
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『フィツジェラルド短編集』 フィツジェラルド 野崎孝訳/新潮文庫
(定価 578 円)
『問いつめられたパパとママの本』 伊丹十三/中公文庫
(定価 620 円)
失ったものへのあたたかくも哀しいまなざし
恋人に教えてあげても
フィツジェラルドといえば、 最近リメイクで話題になった映画 『華麗なるギャ
久しぶりに雲一つなく晴れた日曜日、 突発的に海が見たくなって気になっ
ツビー』 の原作が有名ですが、 一九二○年代を生きた若者、 いわゆる 「ロ
ていた人にメールして、 山下公園に連れて行ってもらった。 そしたら空と
ストジェネレーション」 をさまざまなシチュエーションや角度からより堪能す
海がおんなじブルーで、 ぼーっと眺めたあとにちょっと試してみたくなって
べく、 今回は短編集を選びました。 上流階級に属し、 特権的意識から結
「どうして空って青いんだっけね ?」 と訊いてみた。 彼は困ってしまって、
婚のチャンスを逃して老成する主人公を描いた 「金持ちの御曹司」 をはじ
海の色が反射しているせいだと答えた。 そこでもしさらりと、 きちんと、 説
め、 時代の迷子 (ロスト) になった若者たちを主人公とした珠玉の六作
明してくれていたら、 彼かっこよかったんだけどなあ。
品を収録。 さまざまな訳がありますがなんといっても野崎孝がおすすめで
(選 : 鈴木/往来堂書店)
す。
(選 : 平山亜佐子/挿話蒐集家、 デザイナー、 音楽家)
『秘密の花園』 バーネット 土屋京子訳/光文社古典新訳文庫
(定価 840 円)
7
(定価 700 円)
秘密っていうから、 やっぱりドキドキする
「暮し」 のない毎日なんて
タイトルは聞いたことあるけど自分からは読もうと思ったことはないなあ、
衣食住を始めとした、 花森安治流の暮し方指南エッセイ集です。 「アジケ
という古典。 児童文学とされているし、花園っていうのも少女趣味すぎるし。
ナイ世の中である」 とブツクサ言いながら、 ヒントやご意見をくれるのが本
だから私も大人になってから人に勧められて読んだらびっくり。面白い。え !
書の読みどころ。「奇病パリ熱」ではパリに焦がれる日本人を皮肉って「シャ
でどうなるの ? と次々解き明かされていく秘密にドキドキ。 子どもたちに
ンソンでなくとも、 無理してカッポレでもどなっている方が、 もっと気がきい
容赦なくふりかかる死生観。 美しい自然描写。 自然環境とグレートマザー
ているかもしれん」 とピシャリ。 今でもたびたび女性誌でパリ特集が組ま
によって生まれていく自己肯定。 奈落にいた人々に光が立ちこめてゆき、
れるように、 冷めないパリ熱は変わらないですね。 暮しをまるごと雑誌に
明るさを取り戻す。 がんばるのも悪くない ! あれ ? 朝の連ドラみたい
した人が、 どんな思惑を持って世の中を眺めていたのか少しだけ知ること
だ……。
ができるかもしれません。
(選 : ムラタタカコ/往来堂書店)
(選 : 小田垣/文藝春秋)
『フォークナー短編集』 フォークナー 龍口直太郎訳/新潮文庫
7
『暮しの眼鏡』 花森安治/中公文庫
(定価 578 円)
『ナショナル ・ ストーリー ・ プロジェクト①』 ポール ・ オースター編 柴田元幸訳/新潮文庫 (定価 620 円)
納屋は焼くのか燃えるのか。 大きな物語の入り口へ。
自分にはどんな 「物語」 があるだろうか。
「そのあいだ僕はコーヒールームでフォークナーの短編集を読んでいた。」
全米から集まった 「本当の話」、 というより 「本当にあった嘘みたいな話」
( 村上春樹 「納屋を焼く」 ) フォークナーといえば長編なのに、 あえて短
ばかり入った本です。 例えば、 自分の居所を離れて遠く旅に出た時に、
編集ってのがなんかキザだな、と思ったのが懐かしい。 フォークナーが 「納
空港の通路ですれ違ったどこの国の人かも知れない初老の紳士であった
屋は燃える」 という短編を書いており、 この短編集に入っているのを知っ
り。 裏路地のレストランで覗いた厨房の下働きの若者であったり。 この本
たのはだいぶんあとの話。 そしてフォークナーの短編が 「いい」 のに気が
を読むことは、 そんな彼らの 「知る由もない人生」 にふと思いを馳せるの
ついたのはさらにあとの話。 「クマツヅラの匂い」 もいいけど、 「あの夕陽」
に似ています。 きっとそれは 「本当にあった嘘みたいな話」 なはずで、 同
の何とも言えない不安定さがお勧め。 長編群の登場人物や家族も出てき
時に彼らにとっても私の人生は 「本当にあった嘘みたいな話」 なんだろう
ます。
なと。 そんな不思議な感覚に気づかせてくれる本です。
(選 : しまけいいち/根津映画倶楽部)
(選 : 内山グリ/ C.A.G)
6
6
『名探偵に薔薇を』 城平京/創元推理文庫
(定価 798 円)
『サバイバー』 チャック ・ パラニューク 池田真紀子訳 /ハヤカワ文庫 NV
(定価 840 円)
猟奇猟奇猟奇 ! 乱歩直系のミステリ
「ひとりぼっちじゃない。」
論理性とバッドセンスが絶妙なバランスで共存しているのが乱歩作品の魅
パラニュークの独特なリズム・語感を放ちながら、物語は「その時」に向かっ
力だが、 それを色濃く受け継ぎ、 アップデートしているのがこの作者。 第
て進んでいきます。 少しだけ立ち読みしてみて、 ご購入を検討してみてくだ
一部 「メルヘン小人地獄」 このネーミングセンスがとにかく素晴らしい !
さい。 心地よいなと思ったら一気に読んでしまう一冊です。
猟奇最高 !
(選 : 松村純也/旅ベーグル)
(選 : 海猫沢めろん/文筆業)
『雪冤』 大門剛明/角川文庫
『マイナス ・ ゼロ』 広瀬正/集英社文庫
(定価 660 円)
(定価 800 円)
死刑囚が冤罪 ? 真相は深い闇の中にあった。
この本を読まずにタイムトラベルを語るな。
15年前の殺人事件で逮捕され死刑宣告を受けた男が本当は無実だとした
1970 年に出版された広瀬正の最高傑作。 本気でタイムマシンを作ろうと
ら。 息子を冤罪から救い出そうと奔走する父親は少しずつ真実へと近づい
した著者は頭の中で最高のタイムトラベルを体験し、 それを書き落とした。
ていく。 死刑制度や冤罪、 被害者家族の心の問題。 たとえ気づかなくて
中学生だった私はなけなしの金で単行本を買い、 夢中になって何度も読
も法律や制度はいつでも私たちの日常にかかわってくるもので、 そのあり
み直した。 同じところで必ず 「えー !」 と声を上げ、 ひっくり返っていた。
方は犯罪を犯さなくても決して他人事なんかじゃない。 ミステリーを読み
しばらくの間絶版となっていたが、 集英社が 1982 年に文庫化しその後ま
解くことを楽しみながら、 法律や制度のあり方も考えてみたくなる。
た絶版。 2008 年に再び文庫となってよみがえった。 SF、 タイムトラベル
(選 : 糸日谷/羽鳥書店)
好きだけでなく全人類が読むべき超名作。
(選 : 大倉眞一郎/ラジオ ・ パーソナリティ、 フォトグラファー、 紀行作家)
『ふがいない僕は空を見た』 窪美澄/新潮文庫
(定価 546 円)
『アクロイド殺害事件』 アガサ ・ クリスティ 大久保康雄訳/創元推理文庫
(定価 798 円)
とにかく、 生きてさえいればいい
ポワロの灰色の脳細胞は晩年もキレキレです
出産後しばらくして読んだこの小説は、 めまいのしそうな性描写と現代的
この小説は二度読むことになるので、 正直お得だと思います。 なんせ結
な主人公たちの人生に衝撃を受けると共に、 親になったばかりの私の心
末が大どんでん返し ! なので、 結末を知ってからもう一度読むはめにな
に深く刻まれた。 生きていくのはそんなに容易いことではない。 喜びと痛み、
るのです。 一度目はぜひ一気に。 二度目はぜひじっくりと。 本作は、 あの
感情と関係の中で、 生と性が入り交じる。 青春という文字とは裏腹に、
名探偵ポワロ晩年の事件。 引退し、 畑仕事にいそしむポワロの元に、 村
ほとんど泥水飲むような 10 代を巧みにやり過ごすのは、 なかなか難しい。
の大地主であるロジャー ・ アクロイド殺害の相談が持ち込まれます。 ポワ
それでも生まれたばかりの美しい子を見ると 「生きていればこそ」 と思う。
ロは医師のジェイムズ ・ シェパードを助手に事件の解決に乗り出しますが
とにかく、 生きてさえいればいい。 全ての主人公に、 希望と共に感じたこ
……。 衝撃のラストには 「そう来たかッ !」 と膝を打つこと間違いなしです。
ともそれだった。
(選 : カジノリコ/古道具ネグラ)
(選 : 崔聡子/陶芸作家)
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9
8
8
『異界を旅する能』 安田登/ちくま文庫
(定価 777 円)
『わたしたちに許された特別な時間の終わり』 岡田利規/新潮文庫
(定価 380 円)
夏は、 異界と出会うためにあるのだ !
日本語が拡張されるとき
能など、 自分には縁がないと思っていた。 だいいち、 あの客たちのスノッ
「三月の 5 日間」。 衝撃は学生劇団で回覧された BS1のビデオ録画だった。
ブさが大嫌いだった。 でも、 少し心が病んだときに、 何気なく手にとった
ラブホテルとイラク戦争のまさに不可能性の極限。 湿度の微妙な差異で
この本に出会って考えが変わった。 シテとワキという最小限の登場人物、
全く違う方に辿り着きそうな不安定な言葉の羅列。 観劇後、 気づけば自
そしてあの小さな舞台で、 “この世” と異界を作り出している ! シンプル
分の中の日本語が拡張され (てしまっ) ていた。 ブログの登場や携帯 ・
な音であの世と交信するような音楽を創っているブルースや、 ボサノヴァに
デジカメの画素数の増加と軌を一にする、 とまでいっていいかはわからな
通じるものがあるといったら、 言い過ぎかな ? でも、 俄然、 能を見たくなっ
いけど。 増殖した言葉はしかし(実際の舞台で役者達が体を持て余してか、
たのは事実なのだ。
不思議な運動をしていたように)、 現実の中で行方も知らず垂れ流されて
(選 : 吉上恭太/サウダージな夜@古書ほうろう)
いく……。 読了後はできれば戯曲で読んでみてください。
(選 : 菅/中央公論新社)
『江戸の妖怪革命』 香川雅信/角川ソフィア文庫
(定価 820 円)
『硝子戸の中』 夏目漱石/新潮文庫
(定価 300 円)
妖怪? 大好物です ♡
漱石のエッセイ集
豆腐小僧、 ろくろっ首、 猫又……。 太平の世となった江戸時代。 妖怪た
患った著者の最晩年の、 思い出が語られる随筆集なのですが、 気軽に読
ちが突然 「キャラクター」 に ! 人間を怖がらせてきた彼らは、 とつぜん
めるのがいいです。 千駄木や切通しなど、 馴染み深い地名が出てくる挿
娯楽の道具となった。 双六、 カルタ、 おもちゃ絵、 凧、 人形などの 「妖
話に対してだけではなくて、 「ある程の菊投げ入れよ棺の中」 と亡くなっ
怪玩具」。 妖怪を描いた 「妖怪図鑑」。 妖怪を出現させる 「妖怪手品」
た知人に対して手向けの句を詠んだり、 「教を受ける人だけが自分を開放
のマニュアル本。 妖怪を軸に、 日本人の世界観が大きく変わった江戸時
する義務を有っていると思うのは間違っています。 教える人も己を貴方の
代を描きます。 怖くて可愛い図版も満載。 妖怪と一緒に暑い夏を乗り切り
前に打ち明けるのです。」 と相手に告げたり、 という印象的で重厚な場面
ましょう !
に対しても、 なぜだかそう感じられます。 なぜだろうと思いながら、 何度
(選 : 竹内祐子/角川学芸出版 ・ 書籍編集部)
も読み返してしまいます。
(選 : yotarotakashima)
『百物語』 杉浦日向子/新潮文庫
(定価 882 円)
『風車祭 カジマヤー』 池上永一/文春文庫
(定価 1180 円)
江戸の 〈やさしい〉 怪談
宮崎駿監督、 映像化 ! して下さい。
暗い夜には、 自分の輪郭が溶けてしまう。
夏になると、 この物語の登場人物たちに無性に会いたくなる。 “生” への
輪郭が溶けると、
エネルギーが半端ないフジと関わるのはちょっと怖いけれど、 フジのカジマ
自分が人ではないものの言葉を話し出すようで、
ヤーのパレードは、 見物人のひとりとして見てみたい。 六本足の豚ギー
人ではないものが自分の言葉を話し出すようで、
ギー、武志、ピシャーマの世界をそっとのぞいてみたい。 スナック 「梨明日」
怖い。
にも惹かれるが、 客の平均年齢 95.78 歳のスナック 「長寿」 にも行って
でも一度でも、
みたい。 そして、 慶田盛のオジィの唄と三線を聴きながら、 月夜の島を彷
人でないものが話す自分の言葉を聞いたものは、
徨い歩きたい。 この物語を読み終えると、私はしばらく現実に戻れなくなる。
そこに不思議な安堵を見出すものです。
(選 : 広瀬薫/京阪神エルマガジン社 [東京])
これはそういう本。
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11
(選 : 丹治史彦/信陽堂編集室)
10
10
『アラブ飲酒詩選』 アブー ・ ヌワース 塙治夫訳/岩波文庫
(定価 504 円)
『猿飛佐助』 杉浦茂/ちくま文庫
(定価 756 円)
2013 年夏、 アラブの酒好きの叫びに酔う。
すごく いい感じ
8~9世紀にアラブで活躍した酔いどれ詩人の作品を集めた一冊。 詠まれ
ぱっと見て、 まず本の佇まいがいいですよね。 なんてことないようですが、
ているのは、 酒に溺れ快楽を求める日々。 イスラムと聞いて思い浮かべる
カバーのデザインが秀逸です。 暇な方は、 どうぞじっくり見てみてください。
厳格なイメージとは真逆だ。 酒を擬人化して賛美するなど、 オシャンティー
素朴で可愛らしい画と、 ちょっと変てこな世界観は、 一度はまると病みつ
な部分もあるが、 呑み続ける為の言い訳をあの手この手で語っているよう
きになります。 私はじっくり再読することはあまりないですけど、 たまに手
な詩が親しみやすい。 酒への愛は時代を超え、 かつてのアラブと自分の
にとって、 ぱらぱらめくって、 「いいなあ」 とつぶやいて、 ちょっとだけ幸せ
半径数メートルを一体化させる。 アラブへの興味から手にした本だったが
になります。 もう少し熟成 (?) すれば、 そこにあるだけで嬉しい本になる
(実際、 注釈や解説はアラブ社会の理解に役立つ)、 同時に、 酒と人の
ような気がしています。 こういう文庫本はありがたいですね。
かかわりも面白おかしく楽しめる。
(選 : 日比智史)
(選 : トノタイプ/ NOKKEL、 tonotype.com)
『訳詩集 月下の一群』 堀口大學訳/岩波文庫
(定価 1260 円)
『エドワード ・ ゴーリーが愛する 12 の怪談』 E ・ ゴーリー編 柴田元幸ほか訳/河出文庫
(定価 893 円)
入学しよう堀口大學
夏の夜の悪夢
「日も暮れよ 鐘も鳴れ 月日は流れ わたしは残る」 (ギヨーム ・ アポ
これは絵本作家ゴーリーの、 編集者兼イラストレーターとしての仕事です。
リネール/堀口大學訳) その後の日本における創作詩、 訳詩に多大なる
12 人の書き手による怪談は粒ぞろいで、 しかし何より挿絵が怖い。 不安
影響を与えることになる 『月下の一群』。 影響を受けた多くの人たちはこ
と想像力をじわりじわりと掻き立てます。 完全に挿絵目当てでしたが、 怪
ぞって堀口大學フランス語学部日本語学科卒業ということだ。 入学の手
談と言えば乱歩やドイルしか思い浮かばない私には新鮮でした。 ここで気
続きはこれを買うこと。 発表から 80 年以上経つけれど、 いまだに言葉が
に入った作家の本を読み進めるのもおもしろそうです。 とは言え、 ゴーリー
追いかけてくる。 さぁ入学だ。
の魅力は彼自身の文と絵が揃ってこそ。 不条理が生むナンセンス、 そこ
(選 : 榎本周平/青土社営業部)
から滲み出るユーモアにきっと取り憑かれます。 絵本作品もぜひどうぞ。
(選 : 坂崎紀子/橙灯ギャラリーカフェ)
『石原吉郎詩文集』 石原吉郎/講談社文芸文庫
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(定価 1470 円)
『フランケンシュタイン』 メアリー ・ シェリー 森下弓子訳/創元推理文庫
(定価 777 円)
「書くまい」 としてえらばれたことば
人間以上に人間らしい怪物の物語
ソ連に抑留され強制労働に従事した体験が源泉となった詩と散文。 著者
映画版の、 バイオリンのうつくしい音色に心をふるわせるモンスターも魅力
は肉体的に過酷な環境よりも、 人間として失ったものを恢復してゆく時の
的だが、 原作の怪物は、 『若きウェルテルの悩み』 に 「思索と驚異のつ
苦しさを語る。 それを読むとこちらも苦しくなるが、 静かなのに圧倒的な
きることのない泉」 を見出し、 『失楽園』 を読めばアダムこそ自分だと思
力で引き込まれる。 現代詩が出てくると構えてしまうけれど、まず詩を読み、
いたいのにむしろサタンの悲劇的立場に己を見てしまう、 創造主フランケ
それから散文を読み、 ふたたび詩にもどると、 そこにあることばがいっそう
ンシュタイン博士よりよほど人間的な存在である。 という言い方が雑なら、
重みを増す。 不思議な愛着がわいてくる。 どちらかだけではわからない。
人間的であるとはどういうことかを考えさせる存在である。 邦訳はいくつか
詩と散文、 両方を通してはじめて 「詩は書くまいとする衝動」 と定義する
あるようだが、 創元推理文庫版の森下弓子訳はとてもいいと思うし、 新藤
著者の世界が見えてくるように思う。
純子の解説もすばらしい。
(選 : 橋爪史芳/中央公論新社)
(選 : 柴田元幸)
12
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『大東京繁昌記 山手篇』 講談社文芸文庫編/講談社文芸文庫
(定価 1785 円)
『春宵十話』 岡潔/光文社文庫
(定価 500 円)
「昭和二年」 の散歩の達人 ! 日本が誇る数学者、 岡潔の珠玉のことば
そうそうたる執筆陣による正しいゴシップ集。 よく知っている町の知らない
岡潔のとある論文を読んだ海外の数学者たちは、 「岡潔って何人いるんだ
話が満載です。 例えば、 根岸の書道博物館の場所にあった八石教会の
ろう ?」 と思ったそうです。 それほどに国の内外で尊敬を集めたこの大数
人は、 乗り物に乗ることなく、 どこまでも歩き、 髪を切らずに大人も子供も
学者は、 名随筆家でもありました。 「人の中心は情緒である」 のひとこと
皆まげを結っていたとか。 富士見坂近くには活動写真の撮影所があったと
から始まるこの一冊は、 私たちの胸に、 耳に、 痛く突き刺さることばに溢
か。 東京駅前の中央郵便局から出す速達が 3、 4 時間後に先方に届い
れています。 納得のいく人生を生きたひとのことばは、 強い。 刊行は196
たとか。 でも、 文庫で 1700 円は高すぎと躊躇した貴方……。 挿絵の素
3年。 以来50年の長きにわたり読み継がれることばの数々——抱きしめて
晴らしさと、 痒くないところまで手を入れてくれる森さんの解説入りで、 と
みれば、 きっとあなたの何かが変わるはず。
てもお得になっています。
(選 : 足立真穂/新潮社)
(選 : 山﨑範子/谷根千工房)
『千年の愉楽』 中上健次/河出文庫
(定価 630 円)
『怪しい来客簿』 色川武大/文春文庫
(定価 570 円)
香りたつ花のにおい
とんがれ とんがり とんがる
紀州の路地を舞台に、 高貴で穢れた血を持つ、 美しくてけだもののような
どの話にも、 人生の表通りから少しはずれてしまった 「怪しい」 人たちが
血統の男たちが生きて、 死んでいく。 産婆のオリュウノオバが世界の真ん
登場する。 作者は、 彼らをダメなものと切り捨てるのでもなければ、 過度
中にいて、 流転するものを眺めている。 満開の百合の花。 そのような小
に同情したり持ち上げたりするわけでもない。 それでいて、 彼らを描く作
説です。 百合は一晩でつぼみから開いて、 強く香る。 花粉だらけの雄し
者の筆致が終始やさしいのは、 作者自身が彼らの側に近い人だからだろ
べと真ん中に鎮座する雌しべ。 そして大きな花弁は咲いたまま燃えるよう
う。 いずれも一読印象に残る話ばかりだが、3篇目「サバ折り文ちゃん」は、
に枯れていく。 アラーキーやオキーフが好んで題材にしたそれ。 紀州の、
まさに異形の哀しみここに極まれり、 相撲のまったくわからぬ読み手の心
日本の、 湿気と生と性と死のにおいが充満した盛夏の一冊。
にも深く、 そして長く残る一篇だ。 色川節にやられたら、 次は 『狂人日記』
(選 : ボンヌ/ hi→、 tonton、 book pick orchestra)
(講談社文芸文庫) を。
(選 : 空犬/編集者)
『潮騒』 三島由紀夫/新潮文庫
(定価 452 円)
『フーテン』 永島慎二/ちくま文庫
(定価 1260 円)
“潮騒のメモリー” を歌うなら、 これも読んでけろ。
さみしさに寄り添ってくれます。
伊勢湾に浮かぶ小さな島の若い漁師と海女の恋愛を描いた三島由紀夫
みんなでわいわい楽しくしているのに、 急にこころが風邪をひいてしまった
の作品。 文章の流麗さは言うまでもなく、 古代ギリシアの 『ダフニスとク
ようなさみしさを覚えることがあります。 一番大切な何かをどこかへ置いて
ロエ』 がベースになっている、 純愛小説です。 若くて素朴な2人の恋愛は
きてしまったような感じにおそわれて。 『フーテン』 はそんなさみしさに寄り
とても真直ぐなのに、 決して幼くない。 きちんと大人。 このことに気づいて
添って、 こころをあたたかくつつんで火をともしてくれます。
から、 私自身、 もうだいぶ大人だし、 諸々修正しようと強く決意しました。
(選 : 吉井孝博/やまがら文庫)
朝ドラの 「あまちゃん」 が好きな方は、 “潮騒のメモリー” の原作として
読むのも一興かと。
(選 : 高栁/講談社)
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『球界のぶっちゃけ話』 愛甲猛/宝島 SUGOI 文庫
『八甲田山死の彷徨』 新田次郎/新潮文庫
(定価 679 円)
(定価 578 円)
愛甲が何かに吼えている !
冬山に行くときはオニギリを腹巻に入れろ !
前作 『球界の野良犬』 ではキワドイ裏話を次々と暴露し、 関係者を震撼
トンでもない計画でたくさんの犠牲者を出した、 日本軍の雪中訓練の史実
させた甲子園優勝→ドラフト 1 位の野球エリート愛甲猛。 その後何かが
に基づいたお話。 意見が抑圧された重苦しい空気、 ページを開いて十数
あったのかなかったのか、 続編となる本書ではキワモノにはあまり触れず、
ページからもう嫌な予感しかしません。 足掻くほどに悪化する状況、 イメー
でも表には映らない球界のタブーを遠慮なくぶちまけている。 もはや再び
ジカラーは灰色の、 読んでいて気が滅入るようなストーリーです。 もう先
ユニフォームを着るつもりはないのだろうけれど、 あの打撃センスをこのま
が気になって本を置くことができません。 凍ってカチカチのオニギリが食べ
ま埋もれさせるのはあまりに惜しい。
たくなることでしょう。 失敗学入門としても、 この夏を涼しく過ごしたい方に
(選 : 異儀田/往来堂書店)
もオススメの 1 冊。
(選 : 本多正徳/マンガナイト)
『日本語の作文技術』 本多勝一/朝日文庫
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(定価 840 円)
「日本語」 を書き疲れた人への処方箋
とんでもない映画の原作もやっぱりとんでもない !
著名な刑事弁護士であるロースクール時代の師に 「司法試験の文法対
昨年、 44 年ぶりに完全版がリバイバル上映された映画 『黒部の太陽』、
策はこれを読めば十分」と教えてもらった一冊。 新聞記者の本多氏による、
石原裕次郎と三船敏郎が精力を傾けた超大作だ。 その原作が長野で出
読む側に分かりやすい文章を書くための法則は実にシンプルで、 読んだ
ていたとは! 人跡未踏の黒部渓谷に巨大ダムを建設するため想像を絶す
その日から実践できる。 メール/ SNS /ブログなど、 ウェブが日常的な
る苦難に向かう男たちと、それを支える家族が描かれる。 殉職者をはじめ、
手段となって以来、 文字によるコミュニケーションは日々増加し、 英語より
工事に携わった人々の 「紙碑」 を建てたいとの作者の念が熱い。 この小
も何よりも日本語が日々私たちを悩ませる。 文学表現は別論、 質の高い
説からトンネル工事をメインにシナリオ化した熊井啓監督の手腕の見事さ
テキストを量産するためのフレームワークとして、 今こそ読まれるべき。 誰
も判る。 映画 (DVD化された) と熊井啓 『映画 「黒部の太陽」 全記録』 (新
もが発信者になる時代のために。
潮文庫、 品切れ) とあわせて読んでほしい。
(選 : 永井幸輔/弁護士、 Creative Commons Japan、 マンガナイト)
(選 : 南陀楼綾繁/ライター、 編集者)
『高校生のための批評入門』 梅田卓夫ほか編/ちくま学芸文庫
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『黒部の太陽』 木本正次/信濃毎日新聞社
(定価 567 円)
(定価 1680 円)
『「噂の眞相」 トップ屋稼業』 西岡研介/河出文庫
(定価 735 円)
批評はすでに 「ある」 もの
権力と闘うヤンチャな青春文学
日々の生活のなかの至る所に批評の瞬間はある。 決して表に出てはこな
雑誌 「噂の眞相」 が休刊して 10 年。 最後の数年間、 この雑誌はホント
いけれど、僕らの内奥にたしかに潜んでいる。 それを感じる眼をもつことは、
輝いていた。 現役総理の買春検挙歴や検察トップの女性問題を暴き、 彼
もしかしたらいいことばかりではないのかもしれない。 けれどその芽に気づ
らを権力の座から引きずり下ろす……。 それらをスクープしたのが西岡研
かないことほど不幸なことはないとも思う。 決して難しいことではなく、 瞬
介さん。 まずは巻末の重松清さんの解説から読んでください。 本書は、
間に感じた心のざわつき、 違和感こそ大切にしていきたいし、 それをあき
単なる 「マスコミ裏話」 ではありません。 「噂眞」 を知らない人、 ジャー
らめることが 「大人」 になることであってほしくない。 とか言いつつも、 実
ナリズムに興味がない人でも、 ヤンチャな記者の青春文学として楽しめま
家の両親には早く 「大人」 になれと言われているのですが……。
す ! そして、 元気を持て余している若者たちにこそ、 ぜひ読んで欲しい !
(選 : 小松/往来堂書店)
(選 : ツカダマスヒロ/往来堂書店、 フリー編集者)
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『婦人家庭百科辞典』 三省堂百科辞書編集部編/ちくま学芸文庫
(定価 1890 円)
『職業外伝 紅の巻』 秋山真志/ポプラ文庫
(定価 714 円)
捨てる紙あれば拾う紙あり
希少な十二の職業と職業人たちの魅力
ネットで「百科事典」を検索すると、第二検索語に「処分」と出てくる御時世。
飴細工師、 俗曲師、 銭湯絵師、 へび屋、 街頭紙芝居師、 幇間、 席亭、
確かに今という点で考えれば、 紙媒体としての百科事典の立場は危うい
見世物師……。 聞いたことがあってもどんな仕事でどんな人が携わってい
かもしれません。 しかし、 歴史という線で考えると、 未来の人々への大事
るのかはいまいち分からない。 本書は、 そんな気になる十二の職業と業
な贈り物となるのです。 その好例が、 この文庫。 昭和 12 年 (1937 年 )
界の仕組み、 それを生きてきた人々の興味深い人生を描く。 魅力的な職
編纂の百科辞典の縮刷復刻版。 消えた言葉や、 現代とはかけ離れた戦
業と登場人物を見ていると、 「職業が生き方を決めるのか、 生き方が職業
前思想が今を知る鏡となります。 また、 書名の通り、 女性向けに記され
を決めるのか」 という問いが頭から離れなくなってしまう。 単行本から 7
た生活様式の説明は、 当時の小説や映画に触れる際の有効な参考書に
年後の今を取材した 「文庫版追記」 も、 それぞれの職業 (人) を取り巻
も。 知る愉しみを存分に御堪能ください。
く時代の流れを改めて実感させる。 同 『白の巻』 もぜひ。
(選 : 鈴木喜文/不忍ブックストリート、 ゲームメーカー勤務)
(選 : 石井/不忍ブックストリート青秋部)
『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』 石井好子/河出文庫
(定価 662 円)
『ほぼ日刊イトイ新聞の本』 糸井重里/講談社文庫
(定価 620 円)
夕飯のおかずはお決まりですか?
昔はよかったと百万べん叫んでも、 何も変わらない。
夕陽が差し込む台所。 まるで印象派の絵画みたいな、 淡く染まるパリの
本当はやりたいことがあるのに、 それでは食えないから手を出せないでい
街を眺めながら、 バタをぬったグラタン皿にじゃがいもと玉ねぎをかさねて
る。 できることから少しずつでも始めてしまえばいいとはいうけれど、 勝算
並べる。 何ともない、 当たり前の日常、 ささやかな日々の一こま。 でもそ
もないのにどうやって ? どうしても一歩が踏み出せない人はイトイさんが
れが何よりもの幸せ。 そんな生活を夢見ながら読みすすめると、 お話に溶
そのころ普及し始めたインターネットに感動して四十九歳の誕生日 (伊能
け込んだようにレシピが現れる。 本から夕飯のいい香りが漂って来そうな、
忠敬かよ !) にマックを買うところから読んでみてください。 ただ感動し
ストーリー仕立ての、 レシピを読む一冊。 「ノルマンディー風じゃがいも料
た ! オレもやりたい ! というだけで勝算なんて全然ありません。 あとは
理」 はおすすめの一品。 是非スーパーに行く前に、手に取ってみて下さい。
文化祭のノリです。 往来堂の部活ノリも指摘されているところですが、 熱
(選 : 葉山万里子/往来堂書道部顧問、 こどものためのアート情報誌
量は文化祭のほうが上か ? 負けないぞ。
tonton プロデューサー)
(選 : 笈入建志/往来堂書店)
『彼女のこんだて帖』 角田光代/講談社文庫
(定価 550 円)
『文房具 56 話』 串田孫一/ちくま文庫
(定価 714 円)
読むと台所に立ちたくなる一冊
串田孫一の輪ゴムになりたい
食べることについて書かれた文章はたくさんあって、海原雄山みたいな仰々
串田孫一の、 文房具にむける眼差しが好きです。 まるで生き物に対するそ
しいものから改行だらけのブログまでさまざまだけど、 角田光代さんが書く
れのように、 深い情があります。 わたしは、 もし生まれ変わるなら串田孫
それは私にとっていちばんおいしそうで、 料理欲を最もかきたてる。 「彼女
一の文房具になりたいと、 時たま考えます。 「帳面」 「萬年筆」 あたりが
のこんだて帖」 は、 いろいろな状況の人と彼らがつくるごはんが登場し、
花形ですが、 自分は 「輪ゴム」 がいいなと思っています。
そのどれもが例外なくおいしそうというすばらしい一冊です。 レシピもつい
(選 : 渡邊直子/往来堂書店)
ているので、 あの話のあれを食べたいなと思ったら、 すぐにチャレンジでき
るのもうれしい。 さあ、私もお財布持って、近所のスーパーまで買い物に行っ
てきます。
(選 : 小関祥子/イラストレーター)
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『あたらしい憲法のはなし』 童話屋編/童話屋
(定価 300 円)
定価 300 円
『内蔵とこころ』 三木成夫/河出文庫
(定価 819 円)
初心忘れるべからず
カラダの声なんか聞こえてこないわたしに
日本国憲法が公布された年に文部省が発行した中学生向けの教科書で、
「カラダの声に耳を傾け、 内蔵からキレイなわたしに」 ……みたいな歌い
基本精神をやさしく、 うつくしい文章で説いている。 「戦争放棄」 と書か
文句が恐ろしい。 それって 「思いこみ身体感覚」 じゃないですか ? ……
れた " るつぼ " に入れられた軍艦や兵器が鉄道や自動車等に生まれ変わっ
でもいまのじぶんのカラダ全然 OK 的に太っ腹にも生きれない…身体の
ていく有名な絵は、 誰もが一度は目にしたことがあるはず。 挿絵目当てで
「思いこみかもしれない」 日々の変化が気になってしまうのです。 そんなわ
買い (他の絵もいい ! ) 中身はすぐには読まずにいたが、 薄いのでちょう
たしには、にんげんがどのように進化してきたのかを「読む」ことによって「腑
どいいやと旅行鞄にしのばせ車中で読んだのが奇しくも 5 月 3 日だった。
に落ちる」 だけでも気持ちがよかった。 「じぶんの身体感覚」 を解読する
どん底から理想的な社会を目指した当時の情熱が伝わり胸を打つ。 賛否
ヒントに。
両論はともかく、 忘れてはならぬ原点。
(選 : 土屋みづほ/不忍ブックストリート、 装丁デザイナー)
(選 : ますこえり/イラストレーター)
『京都の平熱』 鷲田清一/講談社学術文庫
(定価 1008 円)
京都 「らしさ」 ってなんだろう?
『力餅食堂』 にて 「おうどん」 を啜るときのあの気持ち、 食堂の椅子に
腰掛け過ごす日常を、 鋭い言葉で描き出してくれた本なんてこれまでな
かった。 「喫茶店という空間、 これが近代都市京都を支えてきた」 という
一言には大きく頷きたい。 1970 年代の京都を背景にして、 市バス 206
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帯に付いている江戸川乱歩さんを3人集めたら
「D 坂文庫特製ポスター」がもらえるよ( ' jj ' )
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ミロコマチコさんのコウモリがいい感じ。やったね!
番のルートに沿って、 京都に生まれ暮らす哲学者が、 花街、 学生街、 場
末を巡る。 あなたの京都幻想を打ち砕く一冊。
(選 : 木村衣有子/随筆家)
『国マニア』 吉田一郎/ちくま文庫
(定価 714 円)
「国づくり」 の限界事例集
*応募方法*
古今東西あらゆる国は制作されたものであり、 現在も制作されている、 と
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レジにてお申し付けくださいませ。
*なくなり次第、終了とさせていただきます。
めたらどうなるのか。 「マイ国家」 や 「吉里吉里国」 が出現したら ? 何
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考えるとなんだか不思議です。 突然、 個人や集団が独立国家を名乗り始
があれば国ができるのか (実力 ? 神話 ? 承認 ?)。 実際に、 端から見
れば 「国」 といえるかどうかあやしい集団組織は、 今までも数多くありま
したし、 今でも数多くあります。 本書は、 そういった 「国」 の形成 ・ 維持
についての限界事例を豊富に取りそろえた好著です。
(選 : 出口/元往来堂書店)
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よろしければ、感想をお聞かせください
・この本を買ったよ
・こんなところを面白く読んで、こう思ったよ
・この人の紹介文/セレクトがいいね などなど……。
先着でD坂文庫オリジナルポスターを差し上げます!
ペンネーム(本名でも可)をご記入の上、このページをスタッフにお渡しいただくか、
[email protected] までお寄せください。なお、頂いた感想はすべて店頭に掲示させてい
ただきます。
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