在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの

生命健康科学研究所紀要 Vol8 (2011)
研究報告
在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み
―第 1 報―
中路純子1)、沖 高司2)、粥川早苗3)、宮本靖義2)、伊藤玲子1)、井戸尚則4)
1)
中部大学生命健康科学部作業療法学科、2)理学療法学科、
3)
スポーツ保健医療学科
4)
東海記念病院リハビリテーション科理学療法士
1)
中部大学生命健康科学部、2)愛知淑徳大学医療福祉学部、3)国立長寿医療センター疫学研究部
要
旨
小児期より比較的重度の身体障害がある在宅障害児・者に対する支援を具体化し、地域での生活
を豊かにすることを研究目的とした調査の結果、リハビリテーション関係者による専門的な指導の
不足が課題の一つであること明らかになった。本人・家族の幸福感や満足感を伴ったリハビリテー
ション関係者による支援とは、どのような要件が求められているのかを明らかにする事を目的と
し、3 組の家族の協力を得て現状評価を行い、若干の介入を開始した。結果、3症例ともに本人・
家族が改善を希望している項目は ICF による「活動」の領域であり、
「心身機能」との因果関係が
深いことが分かった。しかし実際の介入は、心身機能に深く介入を必要とする者、生活環境を変化
させ、好ましい日常活動の継続によって改善の期待が出来る者、適切な福祉機器やヘルパーの導入
が必要と思われる者と、異なる対応が求められた。
そして、3 家族ともに温度差はあるものの、家庭への介入に対する抵抗感があり、育ててきたプ
ロセスを否定されることへの恐れを感じとることが出来た。
リハビリテーション関係者の専門的な評価と介入は、対象家族の生活スタイルを尊重する事から
始まる。小児期から障害のある在宅障害者への介入は、それまでの経過をよく聞き取り、家族の思
いに耳を傾けねばいけない。時間をかけて互いに協力関係を結びつつ、方向性を見定める態度が重
要である。それらの事を前提条件として、専門家による適切な評価と介入が求められるのである。
対象家族の人生を肯定し、共感し、専門的知識を持って具体的に生活環境への介入・支援を行うこ
とが、リハビリテーション関係者に求められる支援の要件であることが分かった。
Ⅰ.はじめに
体障害がある在宅障害児・者に対するリハビリテー
中部大学地域医療・障害者支援領域センターの
ション関係者の関わりについての報告は少なく、支
本研究チームでは、2009 年に、春日井市在住の身
援内容と本人・家族の幸福感や満足感との関連に
体障害児者(小児期より障害のある方)の医療環境
ついて述べたものはなかった。
についてアンケートを実施し、その結果、リハビリテ
近年は障害児・者の権利が尊重されるようになり、
ーション関係者による専門的な指導の不足が課題の
心身ともに豊かな生活支援が求められる時代になっ
1)
一つであることが分かった 。地域で生活をする在
ている。その流れの中で、在宅障害者の支援は本人
宅障害者に対する支援については、多くの調査や
支援と家族支援の双方を必要とし、それぞれの思い
報告がなされているが、介護者の心身の負担や支
や価値観には違いがあることを理解したうえでの対
援メニューの項目に関する調査結果が多い。また、
応が求められると考える。
重症心身障害児・者の QOL に関する報告もあるが、
本研究の目的は、在宅障害者とその家族が幸せ
本人の意思の反映が難しく、介護者を通した調査が
を感じる事が出来る支援とは、どのような要件を満た
ほとんどである。そして、小児期より比較的重度の身
す必要があるのかを明らかにし、そのためにリハビリ
68
中路純子,沖
高司,粥川早苗,宮本靖義,伊藤玲子,井戸尚則
テーション関係者が行う専門的な支援とは何かを導
運動機能は寝返りがかろうじて可能な程度で、
き出すことである。今回、3 組の家族の協力を得て現
どの肢位においても筋緊張の変動が大きい。ダ
状評価を行い、若干の介入を開始する事が出来た。
ンドリンナトリウム(筋弛緩剤)を服薬しており、
評価結果及び介入プロセスを紹介し、在宅障害者と
体幹部の基本的筋緊張は低い。また、股関節
その家族を支援するために求められる要件を考察
は内転・内旋・屈曲位で緊張が亢進している事
する。
が多く、体幹・骨盤でのバランスがとれない。後
頸部は筋緊張が亢進し短縮している事が多い。
Ⅱ.方法
その影響により、捕食等の活動時には舌の突
1. 研究対象
出傾向、開口傾向がある。
青年期以降の身体障害者(身体障害者手帳 1 級
日常生活動作の自立は、セルフケア、排泄、
程度)で、何らかの方法で自分の意志を伝えることが
移乗、移動において全介助の状況であるが、コ
出来る人とその家族(主な介護者)で、本人・家族の
ミュニケーション・社会的認知は表出に困難は
双方から承諾を得る事が出来た3家族とした。
あるが、一定の理解能力が保たれている。知的
2. 倫理的配慮及び個人情報の保護
発達レベルは不明であるが一般的な会話の理
本人及び家族に対して研究の目的・方法・倫理的
配慮・個人情報の保護等について書面で説明をし、
解が出来る。自己認知や問題解決能力は歴年
齢よりも低いと思われる。
同意書を交わした。尚、本研究は中部大学生命健
COPM は双方から情報を得る事が可能であ
康科学部倫理委員会の承認を得ている(承認番号
った。遂行度・満足度ともに評価点は高くなく、
230002)。
食事・トイレに対して改善の希望があった。自宅
3. 評価・介入方法
では入浴・トイレ移乗に介護リフトを利用してお
1)評価の実施:機能的自立度評価法(Functional
Independence Measure;FIM)、カナダ作業遂行測定
り、本人は居間でパソコンによる趣味活動をして
いる。
( Canadian Occupational Performance Measure ;
D 施設のデイサービスと週 3 日のショートステ
COPM)により日常生活動作の自立の程度、生活上
イを利用している。E 病院に通院し理学療法を
の問題の評価を行い、基本的運動能力(姿勢保持
受けている
能力、移動手段)及び、筋緊張、拘縮・変形の有無
についても評価を行った。尚、COPM は、本人と家
2)介入経過
①目標及び課題
族の双方に実施した。また、同意書を交わす時に調
改善したいと希望がある食事とトイレについ
査票を渡し、初回評価までに可能な範囲での記入を
て、本人の苦痛の軽減と介助負担の軽減を目
お願いした。調査票に含まれる項目は、①基本情報、
標とする。しかし、生活スタイルが定着しており、
②健康状態、③利用サービス・住居の状況等の背
専門家が生活に介入した経験がなく、母親は
景因子、④生育歴である。
我々の介入に期待をしていない事が感じられた。
2)介入方法の決定:評価結果をもとに、チームメ
また、本人がいつもと違う姿勢や介助を受け入
ンバー(医師、看護師、理学療法士、作業療法士)
れにくく、運動コントロールの学習及び身体イメ
によって介入目標及び方法を検討し、介入プログラ
ージの再構築が必要であることなどが介入する
ムを作成した。
にあたっての課題であった。
②介入経過
Ⅲ.結果
対象者の評価結果の概要・介入経過を症例ごとに
以下に述べる。(表 1 参照)。
1. 症例 A:30 歳代、男性、脳性まひ(アテトーゼ型
四肢まひ)。
1)評価結果
母親とはゆっくりと信頼関係を深めながらア
プローチを行うこととし、D 施設での生活状況の
評価を先に行った。
ア)短期入所とデイサービスを利用してい
る D 施設を訪問、情報収集を行う。介助者
によって対応が違う事、過筋緊張が起こって
69
在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み―第 1 報
表1ア)評価結果の概要
症例
年齢
診断名
身体障害者手帳
療育手帳
FIM合計
基本動作(5段階評価)合計
COPM スコア 遂行度
COPM スコア 満足度
本人の希望等
家族の希望
利用しているサービス
A
30歳代
脳性まひ(アテトーゼ型四肢まひ)
1級
C
32(全介助群)
10/50
本人:3.6 母:4.5
本人:3.6 母:6
B
50歳代
後天性脳性まひ(痙直型四肢まひ)
2級
A
56(半介助群)
21/50
本人:測定不能 母:3.8
本人:測定不能 母:6.2
食物の飲み込みを良くしたい。楽な
姿勢で誰とでもトイレが出来る。小遣 不明
いを稼ぎたい。誰とでも話がしたい。
現状に満足している。
アダルトサイトを見ないでほしい。母 店で客との交流。車椅子から車へ 廊下を這う。段差があるときの移
以外の人と食事・トイレが出来る。ヘ の移乗。立って家事をする。きれい 乗。挨拶。ヘルパーさんの利用。将
に服を着る。座って家事を続ける。 棋をする。
ルパーさんと1日外出が出来る。
デイサービス(10年くらい)
訪問リハ:PT(1/W 半年前から)
訪問リハ:PT
現病歴・成育歴
乳児期から専門機関で診察・訓練を
受けていた。養護学校を経て、数年
間の在宅生活の後、通所施設(作業
所)に通い始める。現在は、週3日間
の短期入所とデイサービスを併用し
ている。
3歳時の発熱後の後遺症。小学1年
生は通常学級に在籍したが、2年
生以降は養護学級に在籍。中学卒
業後は在宅にて生活する。家事手
伝い等をしていたが、6年くらい前か
ら歩行の衰えなどあり、外出・手伝
いが難しくなってきた。
生後すぐに専門機関を受診し、訓練
を受ける。母子入園の経験もあり。
小・中を養護学校で過ごし、高校は
県立高校に通う。職業訓練校・作業
所を経由し、現在はデイサービスと
訪問リハを利用している。車の運転
免許を取得している。
その他
インターネットから趣味の競馬を楽し
んでいる。電車も好きである。競馬
場や交通科学館等への外出も、家
族やヘルパー、その他の協力者の
力を借りて実現している。インター
ネットのサイトでは、アダルト向けの
物にもアクセスをして楽しんでいる。
自室にいるときは、テレビとラジオ
家にいるときは、テレビがついてい
がついている状況であるが、好きな
る居間に座っていることがほとんど
テレビ番組等を聞いても、答える事
である。しかし、番組はあまり見て
が出来ない。趣味は将棋。かつて
いないらしい。
はアマチュア無線もしていた。
短期入所(3/W 5年くらい)
デイサービス(3/W)
いる最中でも口腔内に食物を入れるなど、筋
した。また、車椅子の座面のたるみと、バックレ
緊張の状況に合わせた介助法について周知
ストのたるみの調整を行い、左右の坐骨に体重
されていない事が分かった。
を振り分けて座ることで座位姿勢を自分で修正
イ)主治医の勧めにより、誤嚥等の有無の確
できるようにした。初回評価から約半年経過した
認のために嚥下造影検査(VF)を受け、必要な
この時期に初めて食事介助について相談され、
指導を受ける事を目的に、F 病院を受診したが、
頸部を過度に後傾しないようにし、過緊張時に
VF は未実施で、筋緊張コントロールのための
は落ち着くまで待ってから食物を口腔内に入れ
投薬と言語聴覚士の評価・指導を受ける。しか
るように伝えた。
し、言語聴覚士からは運動パターンに対する指
導は無く、食形態の工夫について提案を受け
たのみであった。また、筋緊張が必要以上に低
2. 症例 B:50 歳代、女性、後天性脳性まひ(痙直
型四肢まひ)。
1)評価結果
下し、本人が嚥下困難を感じたために投薬も中
左足部の変形が顕著で、両側股関節と両側膝
止となる。嚥下能力の改善に直結しない事で、
関節の伸展制限があり、肥満傾向でもある事から
母親に不満が残った。
下肢での体重支持が難しい。体幹の回旋運動を
ウ)2 回目の自宅訪問を実施。ポータブルトイ
主とした運動性が低く、座位保持能力も高いとは
レの使用方法について評価を行い、座位保持
言えない。立つ、座る、寝返る、這う等の基本的動
の安定を図るため改造を依頼する。排便時に
作は運動のスムースさに欠け、運動企画の問題を
本人が最も良いと感じている前傾姿勢を保つた
感じさせる。
めに、体幹前面でローラーにもたれる様に設計
70
C
40歳代
脳性まひ(痙直型両まひ)
2級
なし
45(全介助群)
16/50
本人:測定不能 父母:1.6
本人:測定不能 父母:1.4
右手を主に使用して、食事・衣服の着脱・排泄・
中路純子,沖
高司,粥川早苗,宮本靖義,伊藤玲子,井戸尚則
入浴等の日常生活動作は、自分で出来る事は多
の問題は無いが、コミュニケーションの自発的表
いが、移動に関して困難がある。また、話し言葉を
出が困難である。
持っているが、コミュニケーション・認知能力の課
題が大きい。
COPM の結果は、本人は生活全体に対して8
点という高い満足度を示し、不満も希望も出てこな
COPM は、本人からの聴取は不可能であった。
かった。客観的評価と大きく食い違いがあり、精神
母親は、立位・移動の運動に関する事と、店(自
機能の状況に問題を感じることから、信頼性が低
営)での接客や家事手伝いを望んでいる。
いと判断をした。一方両親は、「移動」と「声を出し
自宅は、本人が活動しやすいように多くの工夫
て挨拶する」事の改善を希望されており、満足度
をされていた。本人は、ほとんどの時間を居間で
は非常に低かった。本人の趣味である将棋の対
過ごしている。トイレや洗面所などで立位になる際
戦が出来るようにとも希望している。
には、転倒の危険が常にあった。週 1 回の訪問に
自宅では、2 階にある自室に設置されたポータ
よる理学療法を受けている。
ブルトイレに座ってほとんどの時間を過ごしている。
2)介入経過
階段の上り下りが困難なため、自宅の居間で家族
①目標及び課題
と過ごす機会はなくなってしまった。本人が基本
加齢とともに活動性が低下しており、母親も
的に持っていると思われる知的水準・活動レベル
その状況を苦にしている。体重の管理と、日中
と現在の生活状況に大きな開きがあった。D 施設
活動の提案、立位に伴う転倒の危険防止のた
のデイサービスと G 病院の訪問による理学療法を
めの提案が必要である。しかし、訪問時の印象
利用している。
から、積極的な介入に対する抵抗感があると思
2)介入経過
われ、時間をかけた信頼関係の構築が課題で
ある。
②介入経過
①目標及び課題
両親が希望する、移動の負担軽減と、本人
の精神活動の賦活を目標とする介入が必要で
初期評価後に自宅訪問を行った。丁寧な対
ある。両親は家の中に他者が入る事を好まない
応であったが、研究チームの介入に対しての抵
様で、デイサービスの送迎スタッフも介入が出
抗感がある印象を受けたため、その後の積極的
来ない。また、知的レベルが高いと思われるが、
アプローチを実施していない。
本人の意思・意欲が見られず、社会参加も十分
3. 症例 C:40 歳代、男性、脳性まひ(痙直型両ま
ひ)。
1)評価結果
寝返り、ずり這いが可能であるが立位は尖足に
ではない。日常生活活動の中でも特に排泄に
おいて、大人の男性としての尊厳が保たれてい
ない状況が見られた。生育歴からは両親が熱
心に育てられた経緯が感じられるが、現状には
より困難である。下肢の筋緊張は座位・立位時に
反映していない。
高くなる。股関節内転・内旋・伸展・膝関節伸展・
②介入経過
足関節底屈パターンが出現しやすい。上肢機能
自宅訪問は現時点で難しいと判断し、デイサ
は、字を書く、箸で食べる事が出来る程度でやや
ービスでの状況を訪問評価した。自発的に行
不器用な感じを受ける。股関節の屈曲、内外旋、
動する事は無く、食事・トイレの動作も非常に時
足関節の背屈に制限があり、仙骨座りになる。体
間がかかる。競争事になると行動は早いようで
幹はいつも円背になっており、顔は、うつむき傾向
ある。パソコンゲームで将棋を行ったところ、表
にある。身体機能の問題もあるが、精神機能の低
情はやや明るくなるが、ゆっくりの展開であっ
下が感じられ、行動は遅く、表情の変化も少ない。
た。
食事・整容動作は、準備をしてもらえば出来る
が、他は介助を必要とする。座位バランス、下肢の
Ⅳ.考察
機能障害が主な阻害因子であるが、精神機能の
それぞれの家族に十分な介入が出来ていないた
低下もあり、スピードが遅い。知的及び言語機能
めに、障害者本人とその家族の幸福感と介入の関
在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み―第 1 報
連について述べることはできない。しかし、小児期か
係が強かった。物理的な環境を変化させるだけでは
ら障害のある在宅障害者への支援についていくつ
難しく、本人の筋緊張の変動や身体イメージの適切
かの示唆を得ることが出来た。生活機能の障害と背
な評価に基づく心身機能への介入が必要であること
景因子の相互関係をダイナミックな関係として理解
が分かる。環境因子としての福祉機器の使用を含め、
するために、3 症例を ICF 関連図(図 1~3)で検討す
医療スタッフの適切な評価と支援が必要であり、そ
2)
の結果を受けた施設関係者・家族の協力が必要で
A さんが母親・本人ともに改善を希望している項目
ある事も分かった(図 1)。
る 。
は、「活動」の領域であるが、「心身機能」との因果関
母・本人が
本人が改善
を希望した
希望した事
した事
健康状態
脳性麻痺(アテトーゼ型四肢まひ)
活動
心身機能・身体構造
【感覚と痛み】
腰痛がある
【音声】
声を出す事。音を作る事が出来ない。
言葉での
言葉での会話
での会話が
会話が出来ない
出来ない
【運動】
・筋緊張の変動が大きく、静止時は低緊
張であるが、精神機能が高まる時や動作
時には筋緊張が高くなり、コントロールで
きなくなる。(-)
・体幹・骨盤でのバランスが取れず、上
肢・下肢でバランスを取っている。(-)
・後頚部の筋緊張が亢進し、舌の突出・
開口傾向になりやすい。特に食事の時に
起こると、むせにつながる。(-)
・時間がかかるが、寝返りが出来る(+)
支援と態度
医療スタッフ
医療スタッフの
スタッフの支援と
◆心身機能への
心身機能へのアプローチ
へのアプローチ
◆介助方法の
介助方法の評価と
評価と改善
◆補助具の
補助具の評価と
評価と改善
自宅で
自宅で不都合
が認められた事
められた事
【セルフィケア】
・日常生活活動は全介助
・排泄の
排泄の介助が
介助が大変である
大変である(
である(本人も
本人も苦痛)
苦痛)
・ショート指定先
ショート指定先で
指定先で大便が
大便が出ない
・デイサービスや
デイサービスやショートステイ時
ショートステイ時の食事
はむせる事
はむせる事が多い
参加
【社会参加】
・デイケアに通っている
・2週に1回の理学療法に通っている
・養護学校時代の友達と集う時がある
【対人関係】
ヘルパーさんと半日の外出が出来る
【コミュニケーション】
・パソコンで会話が出来るが時間が
かかる
・パソコンでメールが出来るが時間が
かかる
・状況が
状況が理解できる
理解できる人
できる人でないと、
でないと、意思疎
通が難しい。
しい。
【家庭生活】
インターネットで趣味の競馬関係のもの
を購入する。
環境因子
【サービス・制度】
週3日間のショートステイを利用している
【生活品と用具】
・排泄と
にはリフタ―
リフタ―を利用して
している
排泄と入浴には
入浴にはリフタ
利用している
が、排便時には
排便時には姿勢
には姿勢が
姿勢が不安定になる
不安定になる
・ポータブルトイレを
めたが、骨盤
ポータブルトイレを利用し
利用し始めたが、
が後傾して
後傾して、
不都合である。
である。
して、不都合である
施設スタッフの支援と態度
◆介助方法の理解及び統一
家族の支援と態度
◆介助方法の理解と実践
(他者が家庭に入ることへの抵
抗感や、今まで頑張って育てた
ことを承認してほしいと言う家
族の気持ちへの理解がないと
難しい。)
個人因子
【趣味】
・競馬が趣味で賭けている
・アダルトサイト
アダルトサイトを
を楽しんでいる
母が改善を
改善を
希望した
した事
希望
した
事
図1 症例 A の ICF 関連図
B さんの母親が改善を希望している項目もまた「活
動」の領域であり、「心身機能」との関連も深かった。
動」の領域であり、「心身機能」との関連が強かった
本症例は、運動機能の問題よりも精神機能が低下し
が、本人の知的機能や運動企画の問題等を考える
ていることの方が本人の活動を制限していることが分
と、心身機能に焦点を当てたアプローチでは生活の
かる。また、適切な福祉機器やヘルパーなどの利用
変化は期待できない。生活環境を改善する事によっ
により、「環境因子」を変化させることで本人の活動
てその期待が持てる。訪問リハビリテーションは訓練
制限を軽減することができ、精神機能の低下にも影
室を自宅に移動しただけではいけないことが分かる
響を与えることができるとも考えられる(図 3)。
(図 2)。
C さんの両親が改善を希望していることもまた「活
そして、3 家族ともに温度差はあるものの、家庭へ
の介入に対する抵抗感があり、育ててきたプロセス
71
中路純子,沖
高司,粥川早苗,宮本靖義,伊藤玲子,井戸尚則
健康状態
母が改善を
改善を
希望した
希望した事
した事
後天性脳性麻痺(四肢麻痺)
活動
【セルフケア】
・食事、衣服の着脱、排泄、入浴は、準備を
してもらえばできる。
・立位・
立位・移動に
移動に困難がある
困難がある。
がある。
心身機能
【精神機能】
知的機能・注意機能・記憶機能等の低
下が認められる。日常生活レベルの
ことも、自己判断は難しい。
【コミュニケーション】
・ごく簡単な質問(現在進行形のことに限る。
想起することはできない。)には答えることが
できるが,反響言語であることが多い。(-)
・言語によるコミュニケーションが可能(+)
【体重維持機能】
肥満があり、運動制限の原因の一つ
である。
【対人関係】
・店で の接客を
接客を しなくなった。
しなくなった。
・家族以外
接触が少ない。
家族 以外の
以外の人との接触
との接触が
ない。
環境因子
【サービス・制度】
週1回の訪問PTを利用している。
身体構造
【下肢の構造】
足関節の変形・拘縮がある
【生活品と用具】
・トイレ、
になるときに、足下が
足下が
トイレ、洗面所で
洗面所で立位になるときに
立位になるときに、
滑りやすく転倒
りやすく転倒の
危険性が高い。(。(-)
転倒の危険性が
・立位を
立位を必要とする
必要とする場所
すり等の補助
とする場所に
場所に、手すり等
具がない。(
がない。(。(-)
・自宅は、ものの配置の工夫により自立を支
える工夫があった。(+)
医療スタッフ
医療 スタッフの
スタッフの支援と
支援と態度
◆心身機能への
心身機能へのアプローチ
へのアプローチ
◆介助方法の
介助方法の評価と
評価と改善
◆補助具の
評価と改善
補助具の評価と
図2
医療スタッフの支援と態度
◆心身機能へのアプローチ
◆介助方法の評価と改善
◆補助具の評価と改善
両親が
が 改善を
両親
改善を
希望した
希望した事
した事
身体構造
【下肢の構造】
・足関節尖足位での拘縮・股関節屈曲
に可動域制限あり
環境要因が
環境要因が心身機能に
心身機能に影響を
影響を
与えていると思
えていると思われること
訪問スタッフ
訪問 スタッフの
スタッフの支援と
支援と態度
◆環境への
環境 への介入
への介入
◆日中活動の
日中活動の提案・
提案・提供
個人因子
特記事項なし
家族の支援と態度
◆介助方法の理解と実践
◆環境の工夫への介入
(他者が家庭に入ることへの抵
抗感や、今まで頑張って育てた
ことを承認してほしいと言う家族
の気持ちへの理解がないと難し
い。)
症例 B の ICF 関連図
脳性麻痺(痙直型両麻痺)
活動
【セルフケア】
・食事・整容動作は、準備をしてもらえばできる
が、その他はすべて介助が必要である。
【移動】
・自宅では
介助を必要と
自宅では這
では這って移動
って移動する
移動する。
する。母の介助を
必要と
し、 時間がかかる
時間がかかる。
がかかる。
・車いすの自走は可能だが時間がかかる。
【コミュニケーション】
・言語による
言語による会話
による会話は
会話は可能であるが
可能であるが、
であるが、大きな声
きな声
が出ない。
ない。
・自発的に人に語りかけることをしない。
・必要最低限の返事程度しかしない。
【家庭生活】
・ほとんどの
自室のポータブルトイレ
ほとんどの時間を
時間を自室の
に座って過
って過ごす。
ごす
【対人関係】
・家庭でもデイサービスでも他者との接触が
少ない。
参加
【社会参加】
・デイケアに通っている
施設スタッフ
スタッフの支援
施設スタッフ・
スタッフ・訪問スタッフ
訪問スタッフの
と 態度
◆自宅環境への
への介入
自宅環境への介入
個人因子
・将棋が趣味であるが、テレビ番組
の視聴程度である。
家族の支援と態度
◆介助方法の理解と実践
◆福祉機器・ヘルパー等の導入
環境因子
【サービス・制度】
デイサービスと訪問PTを利用している
【生活品と用具】
・自宅でほとんどの
ポータブルトイレに
自宅でほとんどの時間
でほとんどの時間を
時間をポータブルトイレに
座っているために
っているために褥瘡
いるために褥瘡ができている
褥瘡ができている。
ができている 。
・階段の
時間がかかり、
階段の上り下りを這
りを這って行
って行い、時間が
かかり、
母への負担
への負担が
負担が大きいために居間
きいために居間で
居間で過ごすこ
ごす こ
とができなくなった
ごす時間が
時間が持
とができなくなった。
できなくなった。家族と
家族と過ごす時間
てない。
ない。
図3
72
自宅で
自宅で不都合
が認められた事
められた事
健康状態
心身機能
【運動】
・坐位・立位の活動時に下肢の筋緊張
が高くなる。・立位保持が困難(-)
・体幹は円背位で上肢機能にも影響を
与えている。(-)
【運動】
・字を書く、箸で食べるなどの巧緻動作
ができる。(やや不器用な感じを受け
る。)(+・-)
【社会参加】
外部との
外部との接触
との接触がほとんどない
接触がほとんどない。
がほとんどない。
【家庭生活】
ほとんどの
ほとんどの時間を
時間を居間で
居間で過ごす。
ごす。
しする。
家事手伝いを
家事手伝いを少
いを少しする。
【運動】
・足関節、特に左足関節の変形が顕著
で、足底を接地することができない。
・股関節・膝関節の伸展制限がある。
・体感の回旋運動を主とした運動性が
ない。
・基本的動作もスムースでなく、運動企
画能力の低下も考えられる。
【精神機能】活動意欲が低い。行動が
遅く、表情の変化も少ない。
参加
症例 C の ICF 関連図
(他者が家庭に入ることへの抵抗
感や、今まで頑張って育てたこと
を承認してほしいと言う家族の気
持ちへの理解がないと難しい。)
自宅で
自宅 で不都合
が 認められた事
められた事
在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み―第 1 報
を否定されることへの恐れを感じとることが出来た。
も分かった。しかし、障害のある子どもを育ててきた
山ノ井 3) らが保護者を対象とした聞き取り調査にお
年月を理解する必要があり、長い年月を経て築かれ
いて、彼らは長年続けてきた自分の介護方法への
た生活スタイルを変えることは難しいことも分かった。
理解を求めており、肯定的・共感的な態度で接する
事を期待していると述べている。保護者の感情は、
COPM や ICF による評価では顕在化する事がなく、
Ⅴ.まとめ
3家族への介入によって、分かった事を再度まとめ
介入する人間が感じとらねばいけないものであった。
ると以下のようである。
これは、我々専門家が生活に介入する際に、顕在
1.福祉機器の使用や住宅環境などの環境因子に
化する問題にのみ対応するのでなく、保護者の中に
対しての介入は、医療スタッフによる心身機能の適
潜在的にあるものに対して十分に配慮をするべきで
切な評価に基づく支援が必要である。
あることを示唆している。2 事例に対して訪問をして
2.本人と家族の生活に対する満足度は別のものと
いる理学療法士はともに機能訓練のみを行っており、
して捉える必要性がある。
環境因子に対する介入をしていない。作業療法士
3.家庭への介入や生活スタイルを変える事に家族
が関わっていない事も課題であるが、生活への介入
は少なからず抵抗感を持ち、今までの育て方(介護)
を快く感じていない家族の思いがそうさせていること
を否定されることに不安を感じていた。
も否定できない。
リハビリテーション関係者の専門的な評価と介入
在宅障害者への支援は、本人支援と家族支援の
は、生活スタイルを尊重する事の上に成り立つもの
双方が必要である。A さんは、COPM により、母親と
である。小児期から障害のある在宅障害者への介入
本人の価値観の違いが明らかになった。日常生活
は、それまでの経過をよく聞き取り、時間をかけて互
に対する満足度は母親よりも本人のほうが低い。末
いに協力関係を結びつつ、方向性を見定める態度
4)
光ら は、施設生活をしている重症心身障害者に対
が重要である。それらの事を前提条件として、専門
する QOL 評価の結果、施設生活者は、「身体的・物
家による評価と介入が対象者の幸福感を導くもので
質的幸福感」は高く、「自己決定、自治権、個人の選
ある事を明らかにすることが我々のこれからの課題
択」が低いとし、主観的判断の出来る入所者 1 名の
である。
「心理的幸福感と個人の満足」は、職員の客観的評
価よりも低い結果が出たとしており、A さんも同様で
Ⅵ.謝辞
あると思われた。B さん、C さんについては本人の希
本研究にあたり、ご協力をいただきましたご本人と
望が適切に聴取できなかったが、家族の希望とは別
ご家族の皆様及び施設関係者の皆様、重症心身障
のものとして捉える必要がある。
害者への理学療法を指導いただきました青丹学園
家族はいくつかの希望を持ちつつも、我々専門家
の古川智子先生、対象者の評価の場を提供してい
が介入して改善することを本当に望んでいるのだろ
ただきました東海記念病院リハビリテーション科の皆
うかとの疑問が生じた。生活を改善するためには、生
様に、深く感謝いたします。
活スタイルを変えねばいけないことは、3 症例ともに
共通していた。しかし、介入されることには少なから
引用文献
ず抵抗感を持っていた。不満があると思いつつも現
1)沖高司、中路純子、他:身体障害児を取り巻く医
状のままが平和なのかもしれない。しかし一方で本
療環境について―春日井市在住の肢体不自由
人の幸福や満足は家族とは違い、少なくとも A さん
児者を対象としたアンケート結果を通して―、中
は我々の関わりに期待をしているように感じた。
部大学健康科学研究所紀要 第 6 号 p9-p17、
今回の評価・介入のプロセスの中で、デイサービ
スや訪問リハビリテーションを受けている場合であっ
ても、介入の質について見直す必要性があることが
分かった。環境因子への積極的な介入が必要であり、
そこには医療スタッフの評価・介入が重要であること
2010
2)障害者福祉研究会編集:国際生活機能分類―国
際障害分類改訂版― 中央法規, p17、2002
3)山ノ井麻衣:重症化する在宅重症心身障害児・者
を介護している保護者に対する看護の役割,神奈
73
中路純子,沖
高司,粥川早苗,宮本靖義,伊藤玲子,井戸尚則
川県立保健福祉大学実践教育センター看護教育
研究収録 33 号,p279-p286,2008
4)末光 茂、土岐 覚:成人重症心身障害児者の
QOL に関する研究―Hughes らの QOL 評価項目
を使用して―、川崎医療学会誌 Vol.10 No.1
p1-p8 2000
Title
:
The trial of the approach which
supports a fortunate life of a disabled person
who being home and its family
Author(s) : Junko Nakaji1),Takashi Oki1),
Sanae Kayukawa 1),Yasunori Miyamoto 1),
Reiko Itou1),Hisanori Ido2)
Address(es) : 1)Department of Occupational
Therapy ,College of Life Health Sciences,
Chubu University, 1200 Matsumoto-cho ,
Kasugai , Aichi 487-8501 Japan
2) Department of rehabilitation, Tokai
memorial hospital, 681-47 Ohora,
Hazama-cho,Kasugai, Aichi 487-0031 Japan
Keywords:
:Adult who have severe handicaps,
Disabled person who being home, fortunate
life
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