金森幸介 「50+1」 / April 25-26, 2009 / La Cana, Tokyo DISC ONE 01 夕陽よ急げ 02 なにもない俺だけど 03 >蜃気楼のように 04 >だいじょうぶ 05 通り雨 06 >Woo Baby 07 Same Old Songs 08 愛さずにいられない 09 Circus Town 10 >P.S. Peace and Love 11 >君の心の草原を渡る緑の風のように 12 冬真最中 DISC TWO 01 悲しい日々 02 Birthday Song 03 地平線 04 さくら 05 君を愛していいかい 06 Oh My Endless Summer 07 忘れものを取りに行こう 08 摩天楼Blues 09 遠くはなれて子守唄 10 もう一人の僕に DISC THREE 01 箱舟は去って 02 もう引き返せない 03 24時のLullaby 04 Soul Mate 05 Help Me 06 何処へ 07 いいこと 08 Hey,Girl 09 昨日今日明日 10 >No No Train DISC FOUR 01 Across the Border Line 02 Broken Heart 03 週末 04 Happyendを探して 05 >たとえば 06 気をつけろ 07 ピート・タウンゼンド 08 Life Goes On 09 水の重さ DISC FIVE 01 ちがう言葉 02 太陽が折り返し地点 03 夢の中 04 Paranoia Blues 05 Lullaby 06 ふたりは 07 Sha-na-na 08 >美しい絵を描く人達がいる 09 >静かな音楽になった 10 Rock and Roll Gypsy, Part 2 produced : KOSUKE KANAMORI / KAZUYA KITAMURA / YUKO TOMITA vocals and guitar : KOSUKE KANAMORI all songs written by KOSUKE KANAMORI except Across the Boder Line by RY COODER / JOHN HIATT / JIM DICKINSON, ふたりは by KOSUKE KANAMORI / JUNJI ARIYAMA live recorded at LA CANA / shimokitazawa, tokyo april 25-26 2009 live sound : ATUSHI KANO recorded and edit : KAZUYA KITAMURA mixed : SHIGEO MIHARA cover and inner woodcut : EIJIRO MORI visual design : YUKO TOMITA thanks : GRATEFUL, YOSHIO TAKAHASHI 「オレが死んで、追悼ライヴを開くという動きがあったら、絶対に 止めさせるように。それがオレの遺言や!」 金森幸介はよくそう話している。彼自身の死期は確実に近づいて はいるものの、確定された日時やそのことを意識させる重い病があ るわけではない。ただ彼はそういったもの、死者ではなく残された 者のエゴにたいして、ときどき、もの凄い嫌悪感を示す。 彼がそのことを口にするたびにわたしは「またはじまった」と思 い「ハイ、ハイ」と相打ちを打つと「ハイは一回でいい!」と必ず キレるので、 「追悼ライヴを開く動きがあったら、絶対に止めさせる。 で、わたしが主催する。『金森幸介・追悼ライヴ』で観客動員が見 込めるのなら」といい返すようにしている。 2 日間で 50 曲ともう 1 曲を金森幸介が演奏するライヴを開くと いうアイディアが浮かんだのは、2008 年 11 月 14 日、ラ・カーニャ(東 京・下北沢)でのライヴ終了後のこと。その夜の彼の演奏を聴いて、 そう考えたのではないし、もちろん、観客が多すぎて1日だけでは もったいないと思ったわけでもない。以前から金森幸介に彼が 2001 年に発表した 5 枚組 CD『50 / 50』を再発売したいと申し出 ていたが本人にその意思がなかったので、ライヴでそれを再現すれ ばいいと考えた。それに、わたし自身が年齢を意識するようになっ て、9 歳も年上の金森幸介も若くはないことや、数年前、大阪・梅 田の喫茶店を出て「それじゃぁ」と手を振った彼の肩が細く見えた のを思い出したからだ。彼が愛用するギターも成熟期はすでに通り 過ぎている。生前追悼ライヴ? 60 歳で 60 曲? なんていうのも(送 り手側の)エゴを感じないわけではないので、50 曲と 1 曲ぐらい は新曲を期待して 2 日間のライヴを敢行することにした。 当初は金森幸介もこの企画ライヴには半信半疑で「ホンマにやる んかぁ∼?」と話していたが、2009 年を迎えるころには、新たな 1 曲や演奏予定曲などが金森幸介のなかで決まりはじめていた。同 時にライヴ「50 / 50」という案は消え、「50+1」というタイトル に変更され、内容も現在の金森幸介の新しい「50」となっていった。 アルバム『50 / 50』に収録されている作品には今の彼自身がもうう たいたくないものもあり、新しい曲「ピート・タウンゼンド」や「た とえば」、「忘れものを取りに行こう」などを収録したいという意思 が勝っていた。 何かをやると決めれば几帳面な性格の金森幸介は、収録曲とその 演奏順をかなり綿密に絞り込む。ライヴの途中でも話していたが、 演奏曲を 60 曲ほどに絞り、そこから 10 曲をそのときの気分で削 るということにしておいたようだ。CD5 枚組となった本作品も彼 が決定した演奏順は崩していない。ただ 1 日 3 部構成(25 日は 25 曲、 26 日は 26 曲を演奏)であったライヴでは、下記のような順で行わ れていた。 4 月 25 日 (1st set ) 01 夕陽よ急げ 02 なにもない俺だけど 03 蜃気楼のように 04 だいじょうぶ 05 通り雨 06 Woo Baby 07 Same Old Songs 08 愛さずにいられない (2nd set ) 01 Circus Town 02 P.S. Peace and Love 03 君の心の草原を渡る緑の風のように 04 冬真最中 05 悲しい日々 06 Birthday Song 07 地平線 08 さくら (3rd set) 01 君を愛していいかい 02 Oh My Endless Summer 03 忘れものを取りに行こう 04 摩天楼 Blues 05 遠くはなれて子守唄 06 もう一人の僕に 07 箱舟は去って 08 もう引き返せない 09 24 時の Lullaby 4 月 26 日 (1st set ) 01 Soul Mate 02 Help Me 03 何処へ 04 いいこと 05 Hey, Girl 06 昨日今日明日 07 No No Train 08 Across the Borderline (2nd set) 01 Broken Heart 02 週末 03 Happyend を探して 04 たとえば 05 気をつけろ 06 ピート・タウンゼンド 07 Life Goes On 08 水の重さ (3rd set) 01 違う言葉 02 太陽が折り返し地点 03 夢の中 04 Paranoia Blues 05 Lullaby 06 ふたりは 07 Sha-na-na 08 美しい絵を描く人達がいる 09 静かな音楽になった 10 Rock and Roll Gypsy, Part 2 2008 年にホイホイレコードから発売した金森幸介ライヴ・シリー ズに収録していなかったのは、「Sha-na-na」と新たな 1 曲となった 「Across the Boderline」である。 アレキサンダーなどのカントリーやソウル・ミュージック、耳障り ではない、いかにも休憩中に流れる音楽を彼はライヴに来てくれる 人のために選曲していた。そして、本作品ディスク1の 1 曲目、ディ スク 3 の 4 曲目の冒頭部分に流れているのは B.J. トーマスの「ロッ クンロール・ララバイ」で、50 代の金森幸介はこの曲を自身のライ ヴがはじまる合図のように流している。ちなみに 40 代のときはグ レイトフル・デッドの「アンクル・ジョンズ・バンド」、30 代はザ・バー ズの「ターン・ターン・ターン」であったように記憶している。自身 が 60 代になったときにどの曲をオープニングにするかは、まだ決 めていないそうだ。 本作品のおしゃべりの部分だけを聞いていても彼が洋楽好きで妄 想好きなのがよく理解できる。「この曲は○○にうたわそうとして 書いた」とこれから演奏しようとしている作品を紹介している。近 年、金森幸介のライヴでは自身の曲を紹介・解説することが多くなっ ているような印象を受ける。洋楽と妄想好きが年齢を重ねるとこの ようになる(?)と普段なら冗談をいうのだが、演奏曲目が多いと 自身の音楽活動の総括のように思えてくる・・・・が、これで金森 幸介がライヴ活動を止めるわけでもないのに。 「Across the Boderline」はトニー・リチャードソン監督、ジャッ ク・ニコルソン主演の映画「ボーダー」(1982 年作品)のサウンド トラック用としてライ・クーダー、プロデューサーのジム・ディッキ ンソン、ソングライターのジョン・ハイアットによって書かれた曲 で、一般的にはライ・クーダーの作品として知られているが、金森 幸介はウィリー・ネルソンがうたっているのを聞いて、カヴァーし ようと決めたとライヴ中に話している。ウィリー・ネルソンは 1993 年に同曲をアルバム・タイトルとした作品を発表しているので、金 森幸介が聞いたのはきっとそのアルバムだろう。しかし日本ではこ の曲が 82 年前後にパイオニアのカーステレオ「ロンサムカウボー イ」の CM ソング(映像にはライ・クーダー本人が出演)として使 用されていた。ライ・クーダーのオリジナル・アルバムに同曲が最初 に収録されたのも 82 年で、アルバム『スライド・エリア』の国内盤 のみのボーナス・トラックとして挿入され、87 年発表の『ゲット・ リズム』、95 年発表の『ベスト・サウンドトラックス』でも再録さ れていた。ついでに、ボブ・ディランもこの曲を(90 年代のはじめに) ライヴのみでうたっている。 それにしてもこの 2 日間、金森幸介の集中力とペース配分はたい したものだった。ライヴ中に金森幸介はよく歌詞を憶えていると感 心されていた人がいたけど、わたしからいえば自身がうたう歌詞を 記憶していないシンガーはプロフェッショナルではない。ボブ・ディ ランやグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアなどは 200 曲を 越える歌詞を暗記している。51 曲中 1 曲だけ歌の途中、その歌詞 を忘れてしまった金森幸介であったけれど、それは、まぁご愛嬌で 済む範囲内である。それに、わたしがいう(奏者の)集中力とは頭 のなかで次の歌詞を浮かべているというようなことではなく、奏者 自身がその奏でる音楽との距離感を均等に保ちながらも歌の世界に 深く入り込んでいくことだ。おかげで彼の歌を聞く側もうまくその 世界へ入り込めた。その成果か、51 曲目となった「ロックンロー ル・ジプシー、part2」では客席から手拍子が起こり、サビ部分の「ヘ イ、ヘイ」は観客との合唱となった。金森幸介のライヴで手拍子や 観客が一緒にうたうところをわたしははじめて見たような気がす る。もしかするとそんな現象は金森幸介自身も初体験だったかもし れない。 金森幸介は(何度も書いているが)洋楽にもの凄く影響を受けた ソングライターだ。本作に収録の「通り雨」はイントロ部分のギター はすぐにジェイムス・テーラーの「ファイアー・アンド・レイン」を 連想させるし、「Lullaby」などで聞かれる<トゥララ∼ > や「Life Goes On」での<トゥ∼リラ>というハミング(彼はこのハミング を多用する)はヴァン・モリスンの「アイルランド・ララバイ」から のものだ。ライヴの休憩中に流れていた音楽もすべて金森幸介が持 ち込んだもので、ハンク・ウィリアムスやサム・クック、アーサー・ 50 代後半でこれだけの集中力と体力、2 日間で 2 度ギターを弾く 手が攣りそうになったというが、<日本一のポップス・シンガー>金 森幸介は、ボブ・ディラン風にいうと「まだ暗くはない」のだった。 2 日間で 51 曲をうたう、そんな意味のないことを、意味を持たせ ないままやってのける金森幸介は、まだ、イケる。 09 年 5 月 北村和哉
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