骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、骨髄線維症

骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、骨髄線維症、および赤芽球癆
患者の輸血後鉄過剰症に関する多施設共同
後方視的調査研究
− 研究実施計画書 −
1. 研究課題
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome: MDS)、再生不良性貧血(aplastic anemia:
AA)、骨髄線維症(myelofibrosis:MF)、および赤芽球癆(pure red cell aplasia: PRCA)
患者の輸血後鉄過剰症に関する多施設共同後方視的調査研究
2. 研究目的
MDS、AA、MF、及び PRCA における鉄過剰症患者の臓器障害合併率を後方視的に明らか
にする。同時に、輸血量及び血清フェリチン値と臓器障害合併率との相関性について後方
視的に検討し、また、鉄キレート療法の導入状況について調査する。
3. 背景
MDS と AA は、輸血療法を必要とする日本で最も一般的な貧血症である 1)。ヒトには鉄排
泄の生理的機構がなく、健常者の一日鉄排泄量は約 1mg にとどまるため、度重なる赤血球
輸血により鉄過剰症を生じる。過剰な鉄は主に肝臓、心臓および膵臓などに沈着し臓器障
害を引き起こすことが示されている 2,3)。鉄過剰症による臓器障害は,鉄過剰のマーカーで
ある血清フェリチン値が 1,000ng/mL を超えると最初に肝臓で出現し,その後,鉄沈着の進
行に従って心臓など他の臓器障害が出現するとの報告
4)や、鉄過剰症と診断された
MDS、
AA 患者 331 例中 12 例に肝機能障害、14 例に糖尿病及び耐糖能低下、2 例に心機能異常が
認められたとの報告 5)がある。
本邦の特発性造血障害調査研究班が実施した後方視的研究によると、海外の報告と同様に、
血清フェリチン値が 1,000ng/mL を超えると臓器障害を引き起こすリスクが高まることが
示されている
6,)。また、患者の
75%において、血清フェリチン値を 1,000ng/mL 以上まで
増加させるのに要する赤血球輸血量は 43.4 単位と算定された。同調査では臓器障害に関し
ても報告されており、約 40%の症例に血清 AST 値(GOT)あるいは血清 ALT 値(GPT)
に異常を認め、292 例中 13 例に肝 MRI が実施されており、11 例に肝鉄濃度の異常が認め
られた。また、292 例中 64 例に心エコーもしくは心電図検査が実施されており、14 例に心
機能異常が認められた。
鉄過剰症に対する治療であるが、原疾患が骨髄不全であるため、瀉血は選択肢とならず鉄
キレート療法が唯一の治療法である。しかし、本邦において注射剤であるデフェロキサミ
ンの適切な投与は難しく、鉄キレート療法の効果を妨げており、多くの患者が有効に治療
されていないことが明らかになっている 6)。一方、新規経口鉄キレート剤デフェラシロクス
が本邦でも導入されコンプライアンスの改善が期待されているが、導入後の鉄キレート療
法の実施状況は明らかではない。
以上により、我々は実地臨床において MDS、AA、MF、PRCA における鉄過剰症患者の臓
器障害合併率、輸血及び血清フェリチン値と臓器障害合併率の相関性を後方視的に検討し、
鉄キレート療法の導入状況についても調査することとした。
1
4. 研究対象
以下の基準を満たす患者を対象とする
1)
MDS、AA、MF、PRCA
2)
2007 年 1 月以降に、従来からの総輸血量が 40 単位以上に達した患者
※ 生死は問わない。
5. 研究デザイン
本研究は、多施設共同研究であり、後方視的な調査研究として行う。選択基準を満たした
患者を対象に、調査表を用いてデータを集め解析を行う。これらの、調査項目は各施設で
日常診療で実施されている場合に記載するのであって、本研究のために新たに行う必要は
ない。
6.
調査項目及び時期
6.1. 調査項目
1) 患者背景(原疾患、原疾患リスク、性別、年齢、総赤血球輸血量、血算、
網状赤血球数、血清フェリチン値、骨髄所見)
2) 生存の有無
3) 臓器障害確認の為の検査
肝機能:AST(GOT)、ALT(GPT)
、総ビリルビン、生検
膵機能:空腹時血糖、随時血糖、グリコアルブミン
心機能:心エコー、心電図
腎機能:尿蛋白、血清クレアチニン、BUN
※ 未実施の検査項目は、未実施と報告。
※ 臓器障害の有無に関しては、輸血後鉄過剰症ガイドに基づいて判断する。
4) 鉄沈着確認の為の画像所見:CT/MRI
※ 検査未実施の場合、未実施と報告
5) 鉄キレート療法の有無
2
6.2. 調査時期
1) 鉄キレート療法なし
診断時
総輸血量 40 単位以上の調査時点
or
中間値
輸血開始前 (1∼2 ポイント)
調査ポイント
●
調査直前値
○
●
各ポイントの調査項目
血算
○
○
●
血清フェリチン値
○
○
●
臓器障害確認の為の検査
○
○
●
鉄沈着確認の為の検査
○
○
○
骨髄所見
●
○
○
※ ●は必須、○は任意
※ 中間値とは、直前値を補強するための任意のポイント
例)直前値より遡って、1 週間前の結果、2 週間前の結果
直前値より遡って、3 週間前の値、6 週間前の値
2) 鉄キレート療法あり
総輸血量 40 単位以上の調査時点
診断時
調査ポイント
or
鉄キレート療法
中間値
輸血開始前
開始時
(1∼2 ポイント)
●
●
○
●
調査直前値
各ポイントの調査項目
血算
○
●
○
●
血清フェリチン値
○
●
○
●
臓器障害確認の為の検査
○
●
○
●
鉄沈着確認の為の検査
○
○
○
○
骨髄所見
●
○
○
○
※ ●は必須、○は任意
※ 中間値とは、直前値を補強するための任意のポイント
例)直前値より遡って、1 週間前の結果、2 週間前の結果
直前値より遡って、3 週間前の値、6 週間前の値
※ 鉄キレート療法として、注射剤、経口剤双方の経験がある場合は、それぞれの投与開始
時の情報を調査票に記入
3
7. 研究の登録
担当医師は選択基準を満たした患者の症例数を原疾患毎に登録票に記載し、研究事務局へ
送付する。
8. 倫理的事項
8.1. 倫理委員会での承認
本研究は、後方視的調査研究であり文部科学省、厚生労働省によって作成された「疫学研
究の倫理指針」
(平成 14 年 6 月 17 日作成、平成 16 年 12 月 28 日全部改正、平成 17 年
6 月 29 日一部改正、平成 19 年 8 月 16 日全部改正)に従って実施される。本研究は「疫
学研究」に当たり、その実施においては施設の施設長の承認が必要である。本研究は主た
る研究実施施設である安城更生病院の倫理委員会に審査申請を行い、承認を得てから実施
する。患者個人情報が匿名化されている既存資料のみを用いた観察研究であるため、上記
「疫学研究の倫理指針」に基づき、参加施設では倫理委員会での審査・承認は必要とせず、
施設長の承認のみで研究に参加することが可能である。各参加施設での審査申請の要否は
各施設の判断に委ねる。
8.2. 説明と同意
本研究は治療介入を行わない「観察研究」で既存資料のみを用いた研究であるため、「疫学
研究の倫理指針」に則り、患者個人に対しての同意取得は必須とされていない。
ただし、本研究計画の概要については安城更生病院血液・腫瘍内科のホームページ
(http://www.kosei.anjo.aichi.jp/sinryo/ketueki.html)に於いてこの研究が行われている
旨と参加施設の記載を行い、一般に公開する。
8.3. 個人情報管理
安城更生病院血液・腫瘍内科内に、本研究で収集された患者データを集積する研究事務局
を設置し個人情報管理者を置く。各施設においても個人情報管理者を置き、本研究に登録
されたすべての患者に対し、各施設においてあらかじめ配布された符号を用いて符号化(匿
名化)を行う。各施設の個人情報管理者は照合表を厳重に管理する。
9. 目標症例数、登録期間
9.1. 目標症例数
参加施設の期間内該当症例 約100例とする。
4
9.2. 登録期間
安城更生病院倫理委員会承認日
2009 年 7 月 15 日∼2009 年 10 月 31 日
10. 研究組織
10.1. 研究代表者
名古屋大学大学院医学系研究科
血液・腫瘍内科学
直江
知樹
〒466-8550 愛知県名古屋昭和区鶴舞 65
TEL:052-744-2145 FAX:052-744-2161
E-mail:[email protected]
10.2. 研究責任者
安城更生病院
血液・腫瘍内科
10.3. 研究事務局(兼症例登録センター)
〒446-8602
伊藤
安城更生病院
達也
血液・腫瘍内科
伊藤
達也
安城市安城町東広畔 28 番地
TEL:0566-75-2111 FAX:0566-76-4335
E-mail:[email protected]
10.4. 予定研究参加施設
愛知県がんセンター愛知病院、愛知県がんセンター中央病院、安城更生病院、一宮市立市
民病院、大垣市民病院、岡崎市民病院、岐阜県立多治見病院、岐阜大学、江南厚生病院、
公立陶生病院、小牧市民病院、社会保険中京病院、市立四日市病院、土岐市立総合病院、
常滑市民病院、トヨタ記念病院、豊田厚生病院、豊橋医療センター、豊橋市民病院、名古
屋医療センター、名古屋掖済会病院、名古屋第一赤十字病院、名古屋大学、名古屋第二赤
十字病院、藤田保健衛生大学、碧南市民病院、名鉄病院、
11. 研究成果の発表
研究成果については、研究会の総意に基づき学会および論文等で発表を行う。論文と学会
の各々の発表の 1st author は登録症例数が最も多かった施設が優先選択権を有し、登録数
次点施設が次に選択権を有するものとする。Authorship は症例登録数の多い順とする。症
例を登録した施設名と研究代表者名、研究実施責任者名及び研究実施分担者名は論文に記
載する。
12. 参考文献
1. Japan Intractive Diseases Information Center. Available at: http://www.nanbyou.or.jp
2. Kushner JP, Porter J, Olivieri N. Secondary iron overload. Hematology/American
Society of Hematology Education Program Book: American Society of Hematology;
2001.
3. McLaren GD,Murir WA, Kellermeyer RW. Iron overload disorders; natural history,
5
pathogenesis, diagnosis, and therapy. Crit Rev Clin Lab Sci. 1983;19:205-66.
4. Olivieri NF, Brittenham GM. Iron-chelating therapy and the treatment of
thalassemia. Blood. 1997;89:739–61.
5. Cho D, Lee J, Sohn S, et al. Transfusion-related iron overload in Korea.
Korean J Hematol. 2007;42(Suppl 2):11–2.
6. Takatoku M, Uchiyama T, Okamoto S, et al. Retrospective nationwide survey of Japnese patients with transfusion dependent MDS and aplastic anemia highlights the
negative impact of iron overload on morbidity/mortality. Eur J Haematol.
2007;78:487-94.
6
13. 付表
13.1.再生不良性貧血の重症度基準(平成 16 年度修正)
stage 1
軽症
下記以外
stage 2
中等症
以下の 2 項目以上を満たす
網赤血球
stage 3
やや重症
好中球
1,000/μl 未満
血小板
50,000/μl 未満
以下の 2 項目以上を満たし、定期的な赤血球輸血を必要とする
網赤血球
stage 4
重症
最重症
60,000/μl 未満
好中球
1,000/μl 未満
血小板
50,000/μl 未満
以下の 2 項目以上を満たす
網赤血球
stage 5
60,000/μl 未満
20,000/μl 未満
好中球
500/μl 未満
血小板
20,000/μl 未満
好中球
200/μl未満に加えて、以下の 1 項目以上を満たす
網赤血球
20,000/μl 未満
血小板
20,000/μl 未満
注1 定期的な赤血球輸血とは毎月 2 単位以上の輸血がひつようなときを指す。
注2 この基準は平成 10(1998)年度に設定された 5 段階基準を修正したものである。
7
13.2. FAB 分類(MDS の分類)
末 梢 血
骨
髄
WHO 分類
refractory anemia(RA)
芽球<1 %
芽球<5%
RA
RA with ringed sideroblasts(RARS)
芽球<1%
芽球<5%
RARS
環状鉄芽球>15%
RA with excess of blasts(RAEB)
芽球<5%
芽球 5∼19%
RAEB
RAEB in transformation(RAEB-t)
芽球>5%
芽球 20∼29%
AML
(または Auer 小体をもつ芽球)
chronic myelomonocytic leukemia
芽球<20%
芽球<5%
9
単球>10 /L
(CMMoL)
MDS/MPD
±前単球増加
Bennett JM , Catovsky D , Daniel MT , et al. : Proposals for the classification of the myelodysPlastic syndromes. Br J Haematol 51 : 189-199 , 1982.
13.3. IPSS 国際スコアリングシステム
スコア値
予後因子
骨髄の芽球 (%)
核型*
血球減少
0
0.5
1.0
1.5
2.0
<5
5∼10
―
11∼20
21∼30
予後良好群
中間群
なし∼1 血球系
2∼3 血球系
予後不良群
スコア値の合計による分類、低リスク群:スコア値 0、中間群―1:スコア値 0.5∼1.0、
中間群―2:スコア値 1.5∼2.0、高リスク群:スコア値 2.5 以上
* 予後良好群:正常、―Y、5q ̄、20q ̄、予後不良群:複雑型染色体異常(3 個以上の染色体
異常)または 7 番染色体の異常。中間群:その他の異常。
Greenberg P , Cox C , LeBeau MM , et al. : International scoring system for evaluating prognosis in myelodysplastic syndromes. Blood 89 : 2079-2088 , 1997.
8
13.4. 鉄過剰症診療ガイド
Suzuki T et.al. Int J Hematol (2008) 88: 30-35
9