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地方政府の徴税インセンティブ

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研究ノート
地方政府の徴税インセンティブ
ー徴収率の格差と地方交付税制度
西川雅史*
埼玉大学
横山彰林
中央大学
本稿の目的は、地方交付税制度における「貧 困の畏」の有無を実証的に検証するこ
とである。地方交付税制度における「貧 困の畏」とは、地方政府のうち地方交付税を
受けている団体(交付団体)では、交付税を受けていない団体(不交付団体)と比べ
て課税インセンティブが低下するとし寸仮説であり、広く一般に信じられているもの
由井・佐
である。山下 (2001)の実証結果はこれを支持するかのようであり、田近・ 1
藤 (2001)はこの前提に基づいた地方交付税制度の改革を主張している。またヲ山下・
、 費用最小化の視点から交付税制度の歪みを実証的に明らかに
赤 井 ・ 佐 藤 (2002) は
しているがヲ堀場・持田・深江 (2002) 、持田 (2003) はヲ歳入最大化の視点からみ
る 限 帆 地 方 交 付 税 制 度 に 「貧 困の畏」が生じる余地のないことを指摘している。本
稿では、制度的な背景を意識しつつ、地方政府の歳入最大化行動に「貧 困の畏」が生
じる余地が少ないことを実証的に検証した。
1
. はじめに
Tiebout
(
1956)は 、 地 方 政 府 が 「 足 に よ る 投 票 」 と い う 地 域 間 競 争 の 過 程 の 中 に
あり、効率的に地域住民の選好を反映する必要に迫られていると考えた。これを踏
本稿の作成に当たり、アイデアの段階で林正義氏(財務総合研究所〉かち 貴重なアドパイスを頂載し
こするとともに、内容をより充実
た。また、匿名の査読者かち頂いた指摘は、本稿の構成をよりクリア L
したものとしてくれた 。記して謝意を表したい。なお、残されているであろう過誤は著者達にある。
*埼玉夫学経済学都助教綬
(masashi"[email protected]"u.ac.jp)
(y
[email protected])
材中央フ史学総台政策学都教授
まえて、 BrennanandBuchanan (
19
8
0
)は一般的な市場競争とのアナロジーから、
地域間競争は自治体の数が多いほど激しくなり、効率性が高まると考えたのである
(fragmentatione
f
f
e
c
t
)。これに対して Oates(
19
8
5
)は、地方政府の数が増えても
公共財供給の生産効率性が上昇しないことを実証的に示したに Oatesの解釈は、全
体の人口・面積が一定であるときに地方政府の数が増加すれば、個別自治体の規模
が縮小し、規模の経済を発揮できなくなってしまうというものである(集中度効果)
地方政府の供給する財が非競合性と非排除性を有しているのならば、供給におけ
る規模の経済性が十分に期待できるはずであり、規模を小さくしてしまうことの非
効率性は、容易に示すことができょう。公共財供給の規模の経済については、
Hirsh(
19
7
3
)を踏襲する形で広く実証的に証明されているところでもあるとただし、
Brennane
ta
lと Oatesの議論は、対立したものではない。仮に、 Brennane
ta
l
が指摘するように、地方政府の数が増加することで効率的に行政運営しようとする
インセンティブが強まったとしても、規模の経済を発揮できないのであれば、技術
的な生産効率性が低下することを Oatesは示したのであり、効果の相対的な大きさ
が問題とされているのである。したがって、 Oatesの主張も地域間競争を否定する
ものではない。
しかしながら、日本の地方財政制度のように、中央政府が地方政府の財源を手厚
く保障する制度の下では、地方政府の活動が緩慢になる可能性が高く、地域間競争
の機能を疑わざるを得ない。 日mart(
19
9
8
)は、カナダの財政制度についてモデル分
析し、地域聞の財政調整制度が地方政府の効率性を阻害する要因となることを明ら
かにした。 HayashiandBoadway (
2
0
0
1
)は、これを実証分析し、制度的に異なる
取扱いを受けることになる州が異なる最適行動を採用し、全体として効率性が阻害
されていることを指摘した。 Buettner(
2
0
0
1
)は、ドイツの事例から一般補助金が増
加するほど、地方政府の設定する税率が低下する傾向にあることを示している。こ
れらの研究は、日本の地方政府の財政行動を考察するのであれば、地域間競争を阻
害する可能性のある財政調整制度を明示的に取り入れなければならないことを示唆
してし、る。
1O
a
t
e
s(
1
9
8
5
)と同様の視座からの分析には N
e
l
s
o
l
l
(1987),M
a
r
l
o
w
(1988),Z
a
x
(1989)があるが、統一
的な事実を葺くに は至っていない。
2f
r
a
g
m
e
n
t
a
t
i
o
ne
f
f
e
c
t と集中度効果 (
c
e
n
t
r
a
l
i
s
m
) について は Z
a
x
(1989), O
a
t
e
s
(1989)を参照のこ
と
。
3H
i
r
s
hの議論は日本においても広〈展開されている。林 (2002)は、 最 新のサーベイであるとともに
最 も包括的な研究となっている。
田近・油井・佐藤 (
2
0
01)は、日本の地方財政調整制度を非常に簡略化した形で
モデル化し、地方政府のうち地方交付税を受けている団体(交付団体)では、交付
税を受けていない団体(不交付団体)と比べて課税インセンティブが低下するもの
と仮定している。本稿は、これを地方交付税制度にまつわる「貧困の畏」と定義し、
検証すべき中心的な課題とする。
2
0
01)は、 1
9
9
8年のデータを用いて、地方政府が超過課税を実施する確率
山下 (
とその自治体の財政力指数の関係について分析し、おおむね、正の相関があること
を明らかにした。財政力指数が lを超えると財源超過団体として定められ、地方交
2
0
01)が置いた仮定を支持している
付税が不交付となることを考えれば、田近他 (
2
0
0
2
) が指摘しているように、
とも解釈できる。しかしながら、堀場・持田・堀江 (
現行の地方財政制度においては、交付団体と不交付団体との問で超過課税に対する
.1節でも明らかに
インセンティブに差違が生じる余地はない。この点は、本稿の 2
2
0
01)の分析結果と田近
なる。したがって、制度を十分に考慮するならば、山下 (
2
0
01)の予測が結びつかないことになる。
他 (
2
0
0
2
) では、徴収率についても言及し、地方政府に裁量の余地が
さらに堀場他 (
あるとしても、交付団体と不交付団体との問で差違が生じないと結論している七た
だし、徴収率についての解釈が本稿と異なっているので、これを指摘しておきたい。
2
0
0
2
) では、「徴収率は 97/100と規定されている。したがって、市町村の
堀場他 (
裁量的行動によって変更可能な数値となっていなし、」とされている。これに対して
本稿では、地方交付税制度の基準財政収入額の算定に用いられる徴収率は、過去の
全国の値を参考にして定められるものであり、全国の平均値に依存しているものと
して設定する。なお、以下では、とくに断らない限り、地方政府とは市町村、とり
わけ市と同義で用いる。
2
. 交付団体と不交付団体のモデ、ル化
市町村の歳入は、その 50~60% が地方税と地方交付税とによって占められている。
これに続くのが 5~10% を占める国庫補助金であり、他は僅かな割合を占めている
堀場他 (2002)では、さらに続けて、課税標準額や固定資産税の評価額を 操 作しようとするインセン
ティプには、交付団体と不交付団体との聞で差違 を生じる余地があるものの、地方政府による操作が容
易でないことから、ここでも差違 は顕在化しにくいと指摘している。持団(2
0
0
3
)も固定資産税評価額か
こ分析し、制度的な歪みが生じている事実がないととを主張してい
ら地方自治体の徴税インセンティプ l
4
令。
に過ぎない。ここでは、地方政府の歳入が地方税と地方交付税のみで構成されてい
るものと考えてモデル化を進める。この仮定は、地方交付税制度にまつわる「貧困
の畏」を検証しようとする本稿の目的に対して本質的な影響 を与えるものではない。
いま、地方政府 1の歳入 Eを以下のように特定化する。
。
<a
i
,
t
i
<
l
。<弐 ,
Z
i
)
1
(
K二 日λZ,
+S
,
c
,
ここで、 C は地方税を徴収するための費用である。也、 t、 Z はそれぞれ地方
税の徴収率、税率、課税標準額を意味しており、これらの積によって地方税収とな
る。また、 S は地方交付税額であり、式 (
2
)のように基準財政需要額 D と基準財政
収入額 R の差分として交付税額が定まる。ただし、 D
.<Rであるならば、地方政府
lは交付税を受け取ることができない。
S
二
, Di-Ri
(
2
)
基準財政需要額の算定については、補正係数などを通じて王子、意的な操作が可能で
あることも指摘されているが、ここでは客観的なデータに基ついているものと仮定
する。他方で、基準財政収入額は、市町村であれば地方税収の 75%として式 (
3
)の
ように算定される。
R,
二 0
.
7
5
&
.
/
Z
,
(
3
)
ここで、 iは標準税率であり、地方政府にとって外生変数となる。もし、地方政
府が標準税率を超えて課税するならば、その追加的税収の全額が地方政府の収入と
なる。
総務省によれば、基準財政収入額を算定するときに使用する徴収率は、過去の全
国の値を参考にして一意に定められるものとしている。そこで、本稿では 4を全国
の平均値として以下のように特定化する。
;
z
L
i
q
k二三+
;
z
M
l
q
k
4二
(
4
)
式(
4
)の m は、地方政府の総数であり交付団体も不交付団体も含まれている。
4は
nが徴収率を引き上げるならば 4も上昇する。
c
平均値であるから、地方政府 j U1
他を一定とすれば、
4の上昇は、地方政府 1の基準財政収入額 R を大きくし(式 (3))、
2
))。こうして、各地方政府の徴収率には戦略的
地方交付税額 S を小さくする(式 (
な補完関係が存在することになる。ここで、各地方政府の規模の違いを調整するた
めに関数形を一人あたりにしておく。
地方政府 1の一人あたりの徴収費用 C は、図 l となる実態を考慮、して、一人あた
り地方税収に関する二次関数として式 (
5
)のように特定化する。
fqM+;州 zj
(
5
)
C,二
ここで、/と bは関数の形状を決める変数であり、 z
,
二Z,
/N,
である。式(1)へ式
(
2
)・(
3
)・(
4
)を代入し、これを N で除せば、地方政府 1の一人あたりの歳入となる。
5
)の費用の下で最大化するような地方政府を考えてみよう。ただし、 D と
これを式 (
R の相対的な比較によって歳入構成が変化し、交付団体であれば一人あたり歳入は
y。となり、不交付団体であれば y,
となる。
+d, -O ちた[~ +
守
土
Y二日 t
z
,
%
(
a,
VJ
J
a
c
l
c
z
c-
九 二 吋,
z
,州 z,い,1,
i
f Do>凡
(
6
0
)
i
f D,
<R
, (6-1)
ただし、 y,
二
王 /N
,
、d
,
=D
,
/N,
、町二 R,
/N,
であり、添え字の 0 と lは、それぞ
れに交付団体と不交付団体を意味している。
2
.
1 税率における貧困の畏
地方政府が税率を政策変数として歳入最大化を目指すものとすれば、式 (6-0) と
(
6
1
) の一階の条件を求めることによって交付団体と不交付団体の最適な税率を比
較することができる。
z
(
1
-f)
(白川 2二O Q十
二日oZo-Jaozo-bt
o
(
7
0
)
7
Daoz
o
(1-f)
iJ=qzifqZ1bW
げ 二 O Qぐ二了一
(
7
1
)
DctjZj
式(
7
0
)と(7-1)から、 もし由。二日, (条件(I)) かつ Z
o Z,(条件(II
))ならば式 (
8
)
二
が成立する。
(
8)
九二円
したがって、徴収率と一人あたり課税標準額が等しいならば、交付団体と不交付団
) が仮定した地
体とが選択する最適な税率も等しくなる。 こうして、 田 近 他 (2001
方交付税制度にまつわる 「貧困の畏」 は税率の設定(超過課税)に関しては発現し
) が発見した財政力指数と税率の関係も、地方交付税
ない。 それゆえ、 山下 (2001
制度に起因するものではないことがわかる。
図 1 地方税収と徴収費用の関係
1人あたり徴収費用(千円)
6
.
5
6
5
.
5
5
4
.
5
4
3
.
5
3
Z
.
5
。
。
~
O
m
0
~
o
。
。 。
N
c
ω
。
。
品
m
o
。
。 。
吋
ド ド 日
。 ド 日
∞
c
ω
恥
0 0 0 0 0 0 0
1人あたり地方税収(千円)
N
O
T
E 1
3
3
4 サンプル 0998、 1
9
9
9年 の 市 区 都 〉 を 各 自 治 体 の
人あたり
地方税収に応じてグループ分けし、各グループの平均値をプロット
した 。詳 細 な デ ー タ は 巻 末 を 参 照 の こ と 。
2
.
2 徴収率における貧困の畏
次に、地方政府の政策変数が税の徴収率であると仮定し、式 (6-0)と (6-1)を最
9
0
)と (
9
1
)である。
大化した結果が式 (
0
'
,
0
.
7
5
.
_ u _ ""_,,
(
1-1) 0
.
7計ヶ
二 仙 台 。 j
t
,
z
c-ba
.
Jt
,
z
, =0口a.,二
一ι で
"
i
J
a
.c
m
b
tz
o b
(
t
川 '
m
P
手 =tjzj-ftlZj-baJtjzjy o
二
日λ
Q
,
(
9
0
)
,
(1-1
)
b
t
j
Z
j
a
.
;=~
(
9
-1
)
,(条件(1I
))かっ f二九二円(条件(lII))であるならば式(10
) となる。
もしろ二 z
日
"-=1- 0
.
7
5
(
1
-f)
m
(
10
)
a
.
;
ここで、 0
.
7
5
/
{
(
1
-1
)m)がゼロ以上で l より小さいならば α~1 >日;となり、不交付
団体の徴収率は交付団体よりも高くなるこれが地方交付税制度にまつわ'5純粋"
)では、税率や
な意味での「貧困の畏」である。ここで“純粋"としたのは、式(10
l 人あたり課税標準を等しいものと仮定しており、抽出された「貧困の畏」は、ま
さに地方交付税制度によってもたらされたものと理解されるからで ある。これに対
)に課されている条件(lI)を緩和した式 (
1
1
)を考えてみよう。
して、式(10
(
)
l
n
行一円
*日﹁一*内﹁
すると、より現実的な意味で「貧困の畏」が発生する条件が以下のようになる。
<
ろ一司
m
-ラ一}ノ
)
ハU一
士
一f
d
ー
'
/
m
<
(∞
)
-ラ一}ノ
/'1i
士
一f
u
ハり一
弓一九
(
(
12
)
;a
.cおよび a
.
, はゼ ロ以上の値であることかち由。/a.;20は 自明な ので、以下で は無視することがあ
る。
表 1 交付団体と不交付団体における Z
o
/Zjの比較
点調達!
J
i
!
O
記
子f
,
f
山山一日
手
て3
さ
付E
l
/
信仰波若宮迫'
E
l
/
,淋
ソ
ーんあたり潔税務質 (
10
0
万用
山川一山
交付立す併
該当ずンア弘毅
Z 0/ Z 1
N
OT
E 分析に使用した 1
3
3
4サンプル 0998, 1
9
9
9年 の 市 区 都 〉 が 対 象 。
表 lには、一人あたりの課税標準額が不交付団体で相対的に大きいことが示され
c
/z
,
は一般的には 1より小さいと考えて良いであろう。
ており、現実の z
また、 1-0
,7
5/
(
1
-f)mの取りうる範囲を考えてみよう。 m は地方交付税制度で財
5
)の費用関数における/の意味
源を共有する自治体数なので正の整数である。式 (
と図 1の 形 状 を 鑑 み れ ば 、 / は 負 値 で あ る 可 能 性 が 高 い 。 そ う で あ れ ば 、
1-0,75/
(
1
-f)mは Z
o
/
Z
jより小さいかもしれないが、大きくなる可能性もあり、「貧
困の畏」が消失してしまうこともあり得る。
したがって、「貧困の畏」が発現しているか否かは自明ではなく、実証的な分析に
よって確認しなければならないのである。
23 自治体数 m と限界費用曲線の切片/の効果
,
式(
1
1
)で
、 m が限りなく大きくなると
a
;
/
a
;は z
,
jz
。に近づく。表 lから、一般的
,
/
z
。が 1以上であることを踏まえれば、 mが十分に小さいときには CXc<日
:
、m
には z
が十分に大きくなると叫>叫になる。このような m の効果は、基準財政収入額を計
算する際の徴収率が全国の平均値とされていることによってもたらされている。も
" を引き上げると、平均値である
し、地方政府 Jが徴収率 α
り、地方政府 i
4が上昇する。これによ
u"nの基準財政収入額 R が式 (3)を通じて上昇し、式 (
2)より交
付税額 S が減少する。つまり、各地方政府は、他の地方政府より低い徴収率である
ことが財政的な損失を生み出す構造になっており、徴収率の引き上げ競争に直面し
ている。この競争は、 Brennane
ta
l
.(
J9
8
0
)のフラグメンテーション効果と同様の
構図によって自治体数 m が増えるほど加熱する。本稿では、これを地方交付税制度
における「競争促進効果」と呼ぶことにする。 m に依存している競争促進効果は、
式(
9
0
)と式 (
9
1
)の比較から明らかなように交付団体でのみ働く。したがって、競
争が加熱するほど交付団体の徴収率が上昇し、貧困の畏が相殺される構造になって
し
、
る
。
次に/の効果である。これは、
1=民の条件を維持しつつ、式 (6-0)と式 (6-1)を税
収額 ajzで最大化することで明らかになる。
。
7
5
1-==f+b(α~otozo )
(
13-0)
l=f+b(a
λz,
)
(
13
-1
)
m
式(13
0
)・
(13
1
)の左辺が l人あたり税収額 aJJ
,から得られる限界効用、右辺が
その限界費用を意味しており、図 2を描くことができる。もし、限界費用曲線の切
片/が 1-(O.75Im)よりも大きいならば、交付団体にとって徴税行為から得られる
限界効用が限界費用を補うことができないので徴収率をゼロにしようとする。さら
に、/が lよりも大きいならば、不交付団体までもが徴収率をゼロにしようとする。
その結果叫
=
α
Jとなるかもしれない。もちろん、こうした事態は現実的ではないで
あろう。ここでのモデルが説得力を持つためには、徴収率が正値をとるような状態、
すなわち限界費用曲線の切片 fが l 刊 行 1m)より小さくなることが必要になる。
このとき、他を一定として m が正値であることを考えれば由。 < a,
となるが、 m が十
となる。
分に大きいならば由。 =a
1
図2 限界費用と限界効用
限界費用/限界効用
c
' f+b(
α
,
t
,z
,
)
二
不交付団体の限界効用
1-(O.75Im)
交付団体の限界効用
αt
z
3
. 実証分析(1) :費用関数
第 2節の分析から、地方交付税制度にまつわる「貧困の畏」の有無は実証的な分
析によって確認する必要があった。
式(12
)は、より現実的な意味で「貧困の畏」が発生する条件を示しており、その
左辺には 2つの未知数がある。 lつは財源、を共有する団体数 m であり、実勢ならば
約 3000となる。他方は、式 (
5
)で費用関数の形状を定めている/であり、徴収費用
の関数を推計することから得られる値である。そこで、式(14
)のような推計モデル
によって/を求めてみる。採用する分析手法は、データが 1998-99年の市区を対
象としたパネル形式であることの優位性を活かし、ランダム効果モデルであるな
お、データの出典および記述統計量は巻末に付した。
Cit
二
工s,
x
"+u
,
+e
"+c
o
n
s
t
.
/πit+ b π i~ +a3~tC +内庁+日 5T
;
;P+
8ID
i
t+
ここで右下のインデックスは、
1が市区、
tが年次を意味している。
(
14
)
e
は通常の
i
t
過程を満たす誤差項、 u は市の特性を示すランダムな誤差項である。説明変数のう
ち
、 TC 、TP 、Tll' は、地方政府が積極的に裁量を発揮している市町村民税法人税害1
'
、
固定資産税、都市計画税の税率である。これらは、 2
.3節で前提としていた t
=tを
考慮するためのものである。 IDは不交付団体を l、それ以外をゼロとするダミー変
数である。第 2節のモデルは、交付団体と不交付団体が等しい費用関数を有するも
のとして構築されているが、これが自明ではないので IDを導入した。 πは atzの
代理変数となる l人あたり地方税収である。
さらに、自治体のデモグラフィックな特性と制度的なバイアスを操作するための
説明変数群ろを加えたにその中には、税の徴収費用が主に固定資産税において割
高になる傾向にあることを踏まえ、固定資産税と地方税の課税標準額の比率 (
PTR)
6 プーリッンユ
ペーガンの Lagrangianmultiplier テストにより、通常の回帰分析よりもランダム効
果モデルが適切であることを確認している。また、説明変数の中に、性別などのようにまったく変化し
ない変数が含まれているときには、固定効果モデルを使用することはできない。私たもの場合 地域指
定ダミーがこれに該当しているのでハウスマンテストの手続きを踏まずとも、ランダム効果モデルを 選
択するととになる 。なお とれらの点は次節でも同様である。
7 予備的考察の段階では、
『
決算カード 』で整理されているすべての地域指定(新産、工特、低開発、
産炭、山振、離島、過疎、半 島、首都近畿 中
郁 市町村圏、特定農山村、財政再建指数表選定
〉
こ
無意味なものを排除し、表 3のような説明変数を 選択した。なお、地域
を考慮した。その上で統計的 L
指定のうち「財源超過」は IDとして使用されている 。
が含まれている分析に使用したデータの出典・記述統計量などは巻末の表 4に整
理した。
表2
m
2
[
1
品
JI
0.2734
3
5
1
0
5
0
3
0
0
3
0
0
0
0
.
6
3
6
7 0
.
7
5
7
8 0
.
8
5
4
7 0.9273 0
.
9
8
5
5 0卯 7
6 0
.
9
9
9
8
2
表 3の推計モデル(1)は、式(14
)の推計結果である。まず、/が 3.23Xl0、bが
8
.10X1
0
-5となっていることから、図 2 で示される限界費用曲線は傾きが正で切片
が負値となり、限界費用と限界効用はゼロより大きいところで交点を持つことがわ
かる。つまり、
q。
と
a,
はゼロより大きい(正の実数)値になる。
m に応じて変化する 1
-0.75/
(1-f)mの推移をまとめたものが表 2である。現行の
地方交付税制度の下では 3000 を超える自治体で財源を共有しているので m >3000
/z,は 0.65程度であっ
であるから、 1-0.75/
(
1
-f)m は限りなく 1に近い。他方で zo
)は満たされず、地方交付税度にまつわる「貧困の民」は発生してい
たから、式(12
ないことになる。むしろ、そればかりか、交付団体の徴収率は、課税標準が相対的
に小さい分だけ、不交付団体よりも相対的に高くなっていなければな らいのである。
なお、 IDが統計的に有意であることから、交付団体と不交付団体の費用関数が
異なることが示されているが,定数項での手離は最大化の過程で消え去るので、交
付団体と不交付団体の限界費用は等しくなる。それゆえ、限界費用=限界効用で定
まる最適行動には影響しないが、これだけ多様な説明変数を操作しでもなお E が
有意となったことは興味深い。ただし、本稿では、この点に主眼をおいていなし、。
4
. 実証分析 (
2
) :交付団体と不交付団体の徴収率の違い
費用関数に基づく考察では、財源を共有する自治体数があまりに多いこと (m~
3000) によって交付団体の徴収率が不交付団体よりも高くなるものと予想されてい
)。ここでは、徴収率を従属変数とするより直接的な分析によって現実
た(由。> a,
e PTRの分母は固定資産 税 、市町村民 税 (法人 税 害目〉、市町村民税 (所得税 劃 〉の各課税標準 l
こ各自 治
体 の税 率を乗じた 値 の台 昔十で あ る。分母の中に ある固定資産税 分 で あ る
。 こ うして 本 来 な らば徴税 で
きた はずの額に占める固 定資産 税の劃 台が示される。
を検証してみる。式(10)では、徴収率における“純粋"な意味での「貧困の畏」は、
条件(lI)・(lII)が満たされているときに発生するとされていた。そこで、条件(lI)
については一人あたり課税標準額(z)、条件(lII)については、先ほどと同様に f 、
f 、 Tll' によってコントローノレする。その上で、ダミー変数 (ID)を用いて、不交
付団体と交付団体の徴収率に違いがあるか否かを検証したい。
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)が式(15
)の推計結果である。そこでは、交付団体と不交付団
体を区分する変数 IDが統計的に有意ではないことが示されており、徴収率で見る限
り、交付団体と不交付団体との行動に明確な違いが存在するとは言えないことがわ
)
かる。これは、堀場他 (2002) の指摘と整合的な結果であると伴に、田近他 (2001
の直観的な仮定が必ずしも自明ではないことが実証的な分析によって示されたこと
になる 。
ところで、第 3節では、交付団体の徴収率が不交付団体よりも高くなる可能性が
示唆されていたことを考えると、交付団体が何らかの理由により、理論的に最適な
水準よりも徴収率を下げているものと解釈できるかもしれない。
5
. まとめ
本稿の目的は、地方交付税制度における「貧困の畏」の有無を実証的に検証する
ことであった。第 2節で示された単純なモデルでは、構造的には(純粋な意味では)
地方交付税制度に「貧 困の畏」が生じる余地があるとしても、現実的には交付団体
の徴収率が不交付団体よりも高くなる可能性もあることが指摘されていた。それゆ
え、「貧困の畏」が発現しているか否かは、実証分析によって明らかにする必要があ
った。
そこで、まず、費用関数を推計することで最適な徴収率について考察した結
果、地方交付税制度にまつわる「貧困の畏」は生じ得ず、むしろ、交付団体の徴収
率が不交付団体に比べて高くなっているものと推察された。しかし、徴収率を従属
変数とするより直接的な実証分析の結果では、交付団体と不交付団体の徴収率には、
統計的に有意なほどの差違を認めることができなかった。ここまでが本稿が発見し
た事実である。
これらの事実を総合すると、地方交付税制度にまつわる「貧困の畏」は、交付団
体の徴収率が不交付団体よりも“高いはずだがそうではない"とし、う意味において
存在していると解釈できるかもしれない。これは、交付団体の徴収率が不交付団体
よりも“低い"ことで「貧困の畏」を指摘しようとする直観的な理解とは異なって
いる。こうした新たな情報が地方交付税制度改革に僅かでも役立つところがまちれば、
本稿の目的が達せられたことになる。
表3 推計結果
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