ナノスケール物性試験問題 2012.12.4 1. ばね振り子が垂直方向に振動している.摩擦を無視した場合の振動子の運動方 程式は m d 2x kx dt 2 と現される。ここで、m は重りの質量、x は変位、t は時間、k はばね定数である。 (1) さて、系の長さのスケールをL と書くと、m はその体積すなわちL3 に比例する。 同様に、k および振り子の共鳴周波数f は系の大きさに対してどのようなベキで変 化するか答えよ。ヒント:ばねの復元力はその材料となるワイヤーの断面積と、長 さの変化率に比例する。 x KLx 但、Kは定数 L k L1 , 1次のべきで変化する. 力:F kx KL2 1 k L 1 3 2 m L L 共鳴周波数はLに反比例する. 従って周波数:f (2) 摩擦力は振り子の表面積と速度に比例する。ばね自体の摩擦を無視し、さらに 振り子の摩擦の原因となる空気の粘性を変化させ ずに振り子のみを小さくした場合その振動の様子 (a) x はどのように変化するか。大きな振り子と小さな振 t り子のx の時間変化の様子を図で示して説明せよ。 (b) x t 摩擦を考慮した運動方程式は以下の通り d 2x dx kx 2 dt dt ここで、ηは摩擦力の係数である.質量、ばね定 m 数および摩擦力の係数のスケール依存性を考慮して、 m ML3 , k KL, HL2 とおけば、運動方程式は dx d 2x k K H dx x x 2 2 dt m m dt ML ML dt となり、振り子が小さくなるほど共鳴周波数が増大するとともに摩擦力も 大きくなる.ここで、時間スケールの変換t Tを行うと、 d 2x K 2 d M K 今、 M 2 H T dx T x M L d L 2 T 1となるようにTを選べば、 L d 2x H dx x 2 d M d となり、方程式のすべての係数は長さスケールの変換に対して不変となる.すな わち、すべてのスケールにおいて運動は相似である右図( a )に示すような減衰振動、 または、 (b)に示すような制動を示す.後者はH 4 Mの時に現れる. 2. 通常のモーターは電流が発生する磁気力(ローレンツ力)を用いて動く、ところ がナノの世界では磁気力よりも電気的な力(クーロン力)を用いた動力が有効とな るといわれている.この理由を式を使って簡単に説明せよ. Lorentz力:F q v B E 単位体積当たりに直すと単位体積当たりの力は※1、 f j B E となる。ここで j :電流密度 B:磁束密度 , :電荷密度 E:電界 である。大きな駆動力を得るにはこれらの量を大きくすればよい。ここで、j とEの 最大値はその物質固有の量でありスケールに依存しない※2。また、永久磁石が作 る磁場Bも物質固有の量でスケールに依存しない。一方、静電容量Cは例えばL L m 2 L2 であり、ここに最大電界を加えると L CVmax CE max E 蓄積される電荷密度は max max となる。即ち、最大電荷密度はスケ 3 2 L L L ールに依存し、小さなスケールでは磁気力に比べて電気力が大きくなる。 の電極を距離 L mだけ隔てて置いた場合C ※1. 上記の解答では、力の大小のみを比較した。エネルギー効率の比較など他の観点 からの比較も可能である。 ※2. 最大電流が発熱による温度上昇で決まっている場合は、小さな素子ほど最大電流 密度を大きくできる場合がある。これは小さな世界ほど放熱効率が良いためである。 素子が単一で周りに他の発熱源がなければ簡単な計算から jmax L1となり、磁気 力と電気力のスケーリングは同じになる。多数の素子が集積されている場合は上記解 答案にあるようにjmax L0となり電気力が有利になる。 3. 真空技術・分析技術のなかから適当手法を選び200字程度で説明せよ. MBE:分子線エピタキシー(Molecular beam epitaxy)法の略。超高真空中で金属な どの原材料を加熱し蒸発することにより分子線を形成する。分子線を結晶基板など に照射することにより結晶成長を行う。基板温度、蒸着源温度などを制御すること により比較的熱平衡状態に近い成長を実現・制御できる。成長中に高速電子線回折 などのその場観察を行うことにより原子層のオーダーで精密な結晶成長制御が可 能であるが、成長速度が遅く工業生産用にはコスト高となる。 4. ナノテクノロジーを使ってなにかすばらしいものをつくろう。どんなものをど のような手法で作りたいか? また、それはどうしてそのようなすばらしい性質を示 すのか? トップダウン、ボトムアップ、並列性、スケーリングなどの言葉を用いな がら 300 字程度で説明せよ。 解答例:放射能除去用ナノボット 広域に希薄に広がる放射能汚染を取り除くために、以下のようなナノボット(ナ ノロボット)を開発する。 アリのように土中に穴を掘り進み、土中の放射化したCs, Iなどの元素を選択的 に取り込み濃縮したのちに帰巣して死骸となって堆積する。このことにより広大な 地域の汚染を効率的に取り除く。ナノボットは放射線のエネルギーを利用して自ら 運動・増殖するので、作業が超並列的に行われる。装置の効率は汚染物質を吸収す るための穴の表面積と穴を作るために必要な作業量(穴の体積)の比できまるので L2/L3=L-1でスケールされ小型の装置が有利となる。 現時点ではトップダウンで自己増殖型の小型ロボットを作る技術はない。そこで、 ボトムアップ手法に期待したい。
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