第15回半導体における非平衡電子系に関する国際会議 (HCIS-15)

The Murata Science Foundation
第15回半導体における非平衡電子系に関する国際会議
(HCIS-15)
The 15th International Conference on Nonequilibrium Carrier Dynamics in Semiconductors
A72114
開催日 平成19年7月22日〜平成19年7月27日(6日間)
開催地 東京大学本郷キャンパス工学部2号館1階大講堂・工学部6号館会議室
申請者 東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻 教授 樽 茶 清 悟
上記を背景として、会議の主要テーマを、
会議の概要と成果
(1)半導体ナノ構造における量子現象とキャ
1.目的
リアダイナミックスと(2)次世代に適合しう
高度に発達した情報化社会を迎えた現在、
るデバイスの物理と材料・構造とした。
(1)は、
画像情報の伝送や視覚情報処理のさらなる高
本会議の継続的なテーマであり、量子細線、
度化には、電子・光情報処理装置の高密度
量子ドットなどを用いる電子・光デバイス
化、高速化、高精細化が必要不可欠であるが、
の開発に必要不可欠な電子・正孔のピコ秒・
これらの装置は地球環境への負担を軽減する
フェムト秒領域における散乱過程、電子・格
省エネルギーの要求を同時に満たす必要があ
子相互作用、並びに、電子・光相互作用が主
る。半導体による量子構造や低次元ナノ構造、
な内容である。
(2)は前2回頃から重要になっ
原子・分子構造を用いるデバイスはこのよう
てきたテーマで、原子・分子構造の電気的性
な要求を満たす最も有力な候補として期待さ
質の実験と理論的モデル化、ナノ構造半導体
れている。微細構造における電子散乱現象は
中のスピン制御を原理とする電気的磁気的性
典型的な量子現象であり、電子の波動性と粒
質の解明、固体系量子情報処理における量子
子性の双方の性質が複雑に関与している。ま
コヒーレンスの緩和現象が主な内容である。
た、低次元系の電子・格子相互作用ならびに
本国際会議は上記テーマについて実験・理
電子・光相互作用はバルク材料と異なり、そ
論両面から明らかにすることを主な目的とし
の関与する電気的、光学的現象には構造依存
ている。
性が強く現れる。電子デバイスのチャネル寸
法が電子の波長程度以下になりつつある昨今、
2.会議の概要
上記のような量子現象や相互作用の影響を理
2.1 発表論文数 146論文
解し、制御することは、これからの電子、光
1)応募論文数
デバイス開発にとって不可欠である。さらに、
一般投稿論文 152論文(23ヶ国から)
最近では、革新的情報処理として量子通信・
計算、環境・医療問題に適合できる可能性を
2)採択論文数
もった分子素子・ネットワークなどへの期待
一般論文 135論文(取り消し15論文を除く)
が高まっている。
(オーラル:55論文、ポスター:80論文)
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Annual Report No.22 2008
3)招待論文数 11論文
10年強は続く見込みだが、プレナーCMOSは
あと2,3世代までであろう。22n mの先は革新
4)国別論文数
を必要としている。「次世代に向けた選択は何
(含む招待論文、除く取り消し論文)
か?」が重要であり、これこそがHCISのジョ
日本:62、アメリカ:13、ドイツ:13、
ブである。HCISは理論と実験の双方の論文が
フランス:10、イタリア:10、イギリス:10、
バランスよく発表される唯一の物理の国際会
韓国:8、スペイン:6,台湾:4、
議である。
「あなたの実験データを解釈してく
オーストリア:2、カナダ:2、ロシア:2、
れる理論家を見つけ出す最良の機会」あるい
中国:1、スウェーデン:1、スイス:1、
は「実験家にあなたの理論的予言の実証を説
トルコ:1
得する最良の機会を与える」、そのような会議
計16ヶ国
であります。
H C I S15の個人的印象を述べます。16カ国
2.2 参加者数 162名
から約170人が参加し、66の口頭発表と80の
日本 91名
ポスター発表が行われ、これらはバランスよ
外国 71名(15カ国)
くグループ分けされ、分かり易いプログラム
(内訳)ドイツ:11、韓国:11、イタリア:9、
でした。ポスターセッションの質も高く、発
アメリカ:8、イギリス:7、フランス:5、
表論文に対して有益な議論がなされました。
スペイン:4、カナダ:3、中国:3、台湾:3、
特にポスターセッションでは皆が共通して興
オーストリア:2、ロシア:2、
味をもつ論文が明確になったと思います。
スウェーデン:1、スイス:1、トルコ:1
この会議で学んだ事柄を述べます。話題の
主流は、一つは量子ドットを基礎とするスピ
3.会議内容(概要報告より)
ントロニクス(光学と輸送)でした。もう一
本国際会議で発表された論文は 2 0 0 8 年に
つとして、コヒーレントT H zエミッタ(1∼
Wi l e yからプロシーディングとしてとりまと
1 0 T H z)は室温動作、高出力動作へ向かっ
め出版される予定である。ここでは会議内容
ていました。材料の主流はGaAsとGaAsNそ
の概要と特徴、雰囲気をお伝えする。そのた
してGaNなどでした。特にGaNは室温量子デ
めに、国際諮問委員会メンバーP e t e r Vo g l氏
バイス材料としても期待がもてるまでに成熟
(ミュンヘン工科大学)が締めくくりに話され
してきていました。S iは古くて新しい材料で
た内容を引用和訳する。
す。すなわちシリコンオプティクス、そしてナ
『最初に設営、運営そしてプログラムが優れ
ノワイヤが議論されました。強磁性半導体の
ていたことに感謝と祝福を申し上げます。こ
GaMnAs、これからの材料、グラフェン、カー
の会議H C I Sの特徴を述べます。平衡状態よ
ボンナノチューブ、バイオメディカル、細胞、
りも、材料特性よりも、材料作製技術よりも、
有機材料なども議論されました。
むしろキャリアダイナミクスに焦点を絞り、
理論では依然モンテカルロ計算も多かった
現状デバイスの設計および最適化よりも、む
が、非平衡グリーン関数法(N E G F)も明ら
しろ将来のデバイスのための物理に焦点を絞っ
かな潮流と認められました。N E G Fは量子と
ている。CMOSデバイスのスケーリングはまだ
古典効果を同じ基盤上で扱うことができる特
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徴があります。NEGFは成熟してきましたが、
視化技術が目をひきました。走査ゲート顕微
まだ詳細を詰める研究が必要で、モンテカル
鏡による量子キャリアダイナミックスの可視
ロの初期を思い出させます。
化(WeB3)、量子キャリアダイナミクスによ
印象深い報告が数多くありました。まずは
る不純物状態の可視化(ThA8)、検出器とし
驚くべきスピンデバイス。単一量子ドットへ
てのオープン量子ドットによるバリスティッ
の強磁性コンタクトによるスピン注入(例え
ク電子の可視化(ThA5)。ハイパーファイン
ばMoA4)。新規な負性微分コンダクタンス超
相互作用の効率的制御も印象的でした。核ス
格子の輸送における顕著な進歩(MoB1)。光
ピン偏極の印象的制御(FrB)
。
分野と輸送分野のギャップを橋渡しする研究
HCISがカバーする研究分野が今日ほど重要
も印象に残りました。コヒーレントフォノン
であることはこれまでありません。そこで新た
による橋渡し(MoB7)。シリコンのコヒーレ
な参加者をもっともっと惹き付けましょう。
ント制御による橋渡し(WeA1)。量子カスケー
そのために当該分野の専門家が組織するトピ
ドレーザは波長範囲の拡大で大きな進歩が見
カルセッションをさらに増やしましょう。ナ
られ(例えばThBセッション)、堅牢な制御、
ノ構造とデバイスにおけるキャリアダイナミク
よりよい理解が達成された(例えばTu Cセッ
スに焦点をあてて会議名称を新しくしましょ
ション)。新規量子デバイスコンセプトには興
う。ただし番号はこれまでの番号を引き継ぎ
味をそそられました。まず実験で散乱誘起負
ましょう。皆さんにさらなるご助力をお願い
性抵抗トランジスタ(WeB4)、そして理論で
いたします。2009年にモンペリエで再びお会
マックスウエルのデーモンとしての原子スケー
いしましょう。
』
ルスピンフィルタ(MoA5)
。新しい電子の可
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