指導案

小学校図画工作科6学年「新春沼垂小ギャラリー
抽象画で遊んじゃおうー自分を見つめてー」
指導者 教諭 石
塚
崇
子供たちに表現する喜びや楽しさを実感させたい。感じる力・感じる心を育て、自分らしい表現に、そして自
分自身に自信がもてる子を育てていきたい。
この授業は、6学年における「造形遊び」で、線や形・色で遊びながら深くかかわることで、自分らしい表現
を追究していくものである。抽象絵画などの鑑賞と、様々な表現遊び、表現への方向付けとなる提示を授業の中
に取り入れていくことで、子供たちは表現への思いや、線や形・色のもつ美しさや意味を感じ取り、自分につい
ての思いを深めながら、表し方を考えて表現していくであろう。この題材を通して、表現や描画材について新し
い意味付けを図るとともに「生きる力」を育成していきたい。
Ⅰ
学習指導案
1 題材「新春沼垂小ギャラリー 抽象画で遊んじゃおうー自分を見つめてー」
2 指導目標
(1)自分らしい表現への思いをもち、抽象的なイメージを表していくことを楽しもうとする。
(関心・意欲・態度 )
(2)自分の思いを基に、抽象的なイメージを表す方法を構想する。(発想や構想)
(3)線や色を組み合わせながら自分のイメージにふさわしい方法を工夫して表現する 。(創造的な技能)
(4)イメージの違いや色の調和の良さ、美しさを味わいながら、表現の良さを温める 。(鑑賞)
3 題材と児童
(1)指導内容
〇 今までの指導
図画工作科で創造的な思考を促すために、今までの実践で特に大切にしてきたことは、子供が夢中になれ
る題材設定、思いや想像を連続させていくための複数の手だて、試したり表現の幅を広げたりできる材料や
技法の3点である。実践の中で、自分なりの思いをもって意欲的に追求する子供の姿が多く見られた。しか
し、安易な一斉指導で一人一人の思考の流れを止めてしまい、意欲をしぼませてしまったことがあった。ま
た、活動内容の不明確さや発想が広がらないことから「何を表したらいいのか分からない」とか、学習過程
に沿った支援の不十分さから 、「これでいいや」とあきらめてしまう子供も見られた。
「造形遊び」では、楽しく取り組める子が多いが、子供自身に身に付いたものは何かという見取りや評価
の点で不十分であったと思われる。これは、裏返せばねらいが明確でなかったということである。その点に
ついて、本実践で教師側・子供側から明らかにしていけたらと思う。
〇 本題材の指導内容
新学習指導要領で、材料などを基にして楽しく造形活動を行う内容、いわゆる造形遊びが高学年まで位置
付けられた。これは遊びの特性である主体性、行為性、想像(創造)性、意外性、共同性、などを学習に取
り入れた、過程を重視する授業であり、単に遊ぶという活動ではない。ものをつくり出す喜びや表現する楽
しさを味わう体験は、ものや人との関係や、新たな発想や意味、問題解決などの過程をつくり出していくも
のであり、自分らしく生きる基盤になると考えられる。
本題材では、線や形・色で抽象的に自分の思いを表す活動が中心となる。活動を通して表現の美しさや偶
然できる形などのおもしろさを体験させていきたい。特に大切にしたいことは材料となる画材や表現方法に
進んでかかわり、自分らしい表現を考えながら造形活動をしていくことである。表現を試すことと自分の思
いを感じることを遊び感覚で繰り返すことで、思いにこだわりや深まりが現れることが期待できる。また、
抽象画の鑑賞や表現への方向付けとなる提示を通して、表現の意味について考えを深めたり、イメージをも
って自分らしい表現を追究したりできるようにしていきたい。
表現することを自分自身への自信へと結び付けていくために、子供の行為や表現を、もっと子供たちに還
元していく必要があると考ている。そのために、子供の見取り、声掛け、評価、効果的な鑑賞を大切にして
いきたい。
〇 今後の発展
平成14年度からの新指導要領で、高学年での「造形遊び」が新たに加わり、鑑賞指導の充実がうたわれ
ている 。「鑑賞」と「造形遊び」をセットにして行うことで、子供たちは表現について意識しながら、目的
をもち、より意欲的に取り組めると考えられる。この題材は、平面表現だけでなく、立体表現へも発展させ
ることができる。また、見たものをそのままに表すという「再現」という意識から子供を解き放つ題材とな
り、今後の表現活動に生かされればと願っている。
今回の実践は3学期であるが、1学期に実施し、その後の表現活動に生かしていければ、より効果的であ
ると考えられる。
(2)児童の実態
〇 男子17名 女子10名 計27名 (6学年 男子50名 女子31名 計81名)
〇 教科に対する児童の興味・関心と考察
高学年において、学習が進むにつれて図画工作が好きな子と嫌いな子がはっきりしてくる。好きな理由と
しては、思い通りに想像して自由に表現できるとか、色づくりが楽しい、思ったようにできたときがうれし
い、お互いの個性が分かるなどである。嫌いな子は2割程度だが 、「図工には答えがない。」「何を表現して
-1-
いいか分からない。」という子が多い。全体的に表現活動には意欲的で、よりよくしようと考え、試しなが
ら活動する子が多い。しかし、写実的に表したいという思いから「うまい、へた」という意識でとらえてい
る子供もいる。また、自分の表現に自信がもてずに、何度となく「これでいいですか」と聞きに来ることも
多かった。これは、内容や表し方、技法などが限定され、結果として作品重視となっていたことや、表現者
である子供たち自身を認め賞賛していくことが足りなかったと思われる。
発想や構想の面では、題材提示から自分の思いをもつ子が多いが、中には思いを明確にできず、自分の表
現したいことを決めるのに時間が掛かったり、思い通りにいかないと意欲がしぼんでしまったりする姿も見
られた。これらの子には、想像して表すような題材でイメージマップや、声掛け、友達との交流などが効果
的であった。また、図工が嫌いな理由としても「よく分からなくなる」というものがあったが、題材全体の
見通しがもてないと考えられる。題材提示の段階で、自分の思いを明確にし、表現に困っても乗り越えてい
ける、また全体の見通しがもて 、「やってみたい」という思いを膨らませていけるような 印象的な出会わせ
方を考えていく必要がある。
〇 本題材の指導内容に関する児童の実態と考察
以前、ローラー遊びを単発でした時は、遊び感覚で楽しんでいこうとする姿は見られたが、一つのことに
こだわりすぎて発想が広げられなかったり、友達と同じものを作ろうとしたりする子が数名見られた。オリ
ジナルのよさを大いに賞賛することや様々な方法を紹介できるような声掛けやアイディアコーナーなどの工
夫も必要であろう。
文章や言葉で表現していくことは得意な子が多い。自分の思いを作品として結び付けて意味付けしたり、
友達同士で鑑賞し合ったりする姿が期待できる。
(3)指導の構想
〇 抽象画などの鑑賞を取り入れ、表現することについて考えを深め、表現意欲につなげたり、自分の表現を
振り返りながら思いを温める。<作品と深くかかわる>
題材の始め、中、終わりに各1時間程度の鑑賞の時間を設定する。
始めは色と形について、今年度児童会で作った「沼垂小ビオトープマーク」や抽象画数枚を使う。色につ
いては白と黒などの単色の表現と、様々な色彩の表現との比較から色の意味を考えていく。また、好きな抽
象画に題名を付け合うなどして、見た感じを表していく。色や形による表現の多用さや表現への思いを感じ
ることができるであろう。また、グループでの活動を通して、人によって感じ方が違うことに気付かせてい
きたい。この作品と深くかかわる活動が、その後の表現遊びへの意欲につながると思われる。
<鑑賞用に使用する絵画・作品>
・「生き物ランドマーク」
・「ゲルニカ」「泣く女」 <ピカソ>
・「印象3コンサート」「コンポジションⅣ」<カンジンスキー>
・「満月の夜の火事」<クレー>
・「風」<村井正誠>
・「集中ナンバー10」<ジャクソン・ポロック>
・「占い師」<ミロ>
題材の中・終わりでは、子供たちの作品を鑑賞し合い、表現の良さを見つけ自分の表現に生かしたり、思
いを温め自信につながるようにしていく。
〇 筆を使わない様々な技法を試し、表現の可能性を追求する<線や形・色、表現の方法と深くかかわる>
筆を使わない表現を子供たちにも考えさせ、材料を用意させる。教師側でも技法を数種類紹介し、試して
みたいものを自由にできるようにしていく。筆を使わないことによって、遊び感覚で、偶然できた線や形・
色のおもしろさを楽しめるであろう。
そして、この活動を互いに紹介していくことを通して、次の表現に生かしていけると考える。
<考えられる表現>
・ものに色を付けてこする、転がす。
・スタンピング
・フロッタージュ(引っかく)
・マスキング(部分を隠して色を付ける)
・ストローの吹きつけ
・シャボン玉
・ひもに色を付けて引っ張る。
等
〇 学年T・Tを組むことで活動内容を多用にし、学年へと活動を広げていく
上記の鑑賞と様々な技法を試す段階では学年T・Tで実施する。学年で一緒に実施することで、子供たち
はより多くの表現を見ることができ、自分の表現に生かしたり、見方や考え方を広げていくことができる。
また、子供が選んだ様々な表現技法にも対応することができるとともに、鑑賞や造形遊びの内容を学年や学
校へと広めていく良さがある。
○ 表現への方向付けとなる提示をしていく
「しばらく芸術に浸ろう 」「芸術は内面の世界を表現するもの 」「心の動き、感情や感覚を表現しよう」
をキーワードに、自分の気持ちを色や線、面で表現していくようにする。
投げ掛けとして 「抽象画の世界を表します 。」「抽象画の世界は、うまい・へた、似てる、似てないとい
-2-
う規準のない、自分の気持ちを素直に表現していく世界です。」「卒業を前に、今の気持ちを、色や形で表
しましょう。」「自分の思いや気持ちにピタッときた、心に残る1枚にしていこう。」などを考えている。
(4)研究とのかかわり
「自分らしさを発揮する主体的な造形活動 ∼生きる力の育成を目指して∼」という研究テーマを設定し、本
題材で実践していく。図画工作科で伸長・育成したい生きる力は次の2点である。
○ ありのままの自分を肯定し、心を開いて自分なりの方法で表現する力(発信・自信)
○ 他とかかわりながら見方や感じ方を広げたり、自分自身と対話しながら新たな自己を見付けたりしてい
く力(還元・かかわり)
「自分らしさ」とは、自分の思いをありのままに表現したり、納得がいくまでつくり、つくり変え、つくり続
けたり、思いのままに想像したりする子供の姿である。さらに、その姿は、人、もの、自然と深くかかわり、自
分自身と対話していくことを通して豊かになっていく。
創造的であり、自らの感性や造形感覚を働かせて学びをつくり、思いを実現していくような「主体的な造形活
動」によってこそ、自分らしさは発揮され、発信・自信や還元・かかわりといった生きる力が伸長・育成される
と考える。
次の2点を研究の内容とする。
○ 表現意欲を引き出す題材の開発
○ 表現に対する成就感や満足感を味わわせる支援の在り方
研究の方法として、研究実践を通し、伸長・育成したい生きる力を具現化するために活動・学習過程・働き掛
けが効果的であったかどうかをを明らかにし、生きる力の現れを子供の実態から探っていく。
4
指導計画 <9時間>
第 1 次
抽象画の鑑賞で、自分の感じた題名を付け合うなどして 、色のイメージや表現の多用さを感じる 。
<2時間>
第 2 次
自分が用意した材料などを基にして、描画材を工夫しながら表現遊びを楽しむ。<2時間>
第 3 次
お互いの表現を鑑賞し合い 、「自分の気持ち」を表す次時の活動を知り、構想する。<1時間>
第 4 次
どんな表現が効果的かを試しながら、「自分の気持ち」が色や形で表れるように表現する。
<3時間…本時7/9時間>
第 5 次
作品への思いを文章化し、互いに鑑賞し合い、思いを温める。<1時間>
5 本時の指導
(1)ねらい
どんな技法で表現をしていくと効果的か考えながら、形や色を組み合わせ、自分の気持ちが表れるように工
夫して活動を楽しむ。
(2)展 開
教 師 の 働 き 掛 け
児
童
の
1
反
応
自分の気持ちを抽象画で表して
いきましょう。何か困っているこ
と、相談したいことがあったら言
ってください。
始めましょう。
A:もう一度やり直してもいいです
か。
A:どうしてやり直そうと思うの 。
・今度は別の方法でやってみよ
A:気に入ってる場所はあるかな 。
う。
A:OK です。いろいろ試しな
・試しながらやろう。
がらやってみましょう。
B:自分の気持ちにピタッとき
B:もう終わりそう。
たら終わりです。絵と話を
・よく考えてみよう。
するつもりで考えてみまし
・よし、完成だ。
ょう。
・友達のものを見てみよう。
B:その上から付け足していく
・もう一つ、別なやり方でやっ
ことはありませんか。友達
てみよう。
や廊下の表現を参考にして
みましょう。
C:どうしていいか分からない。
C:どんな感じにしたいの?
・友達のものを見てみよう。
C:アイディアコーナーに行っ
・アイディアコーナーに何かあ
てみたらどうかな。
るかな。
C:友達や廊下の表現を参考に
してみましょう。
-3-
指導上の留意点(*評価)
・広い部屋で活動ができるようにす
る。広いパレット(おぼん)を一
人1枚ずつ使い、作業しやすいよ
うにする。
・思いを明らかにしたり、発想を広
げたりしていくためのアイディア
コーナーを設置する。
・支援として子供の状態を見取り、
声を掛けていく。特に賞賛を心掛
け、自信をもって表現できるよう
にする。
*「自分なりの表現を考えながら活
動したか」今までの試しの表現と
比較しながら 、新しい発想や工夫
している点などを見つけていくよ
うにする。
(表現の観察・比較から)
・手が止まったり、自信がないよう
にしている子の側へ行き、話しか
けたり、見守ったりしていく。
D:どんな感じにしたいの?
D:参考作品を見てみたら。イ
メージマップをかいてみる?
D:好きな色は何?まずは色を
付けてみたらどうかな。
E:こんな描き方もあるんだね。
大発見だね。
E:色合いがいいね。
E:不思議だね。
E:線や形がおもしろいね。
D:何を表していいか分からない。 ・子供たちの進度の差が考えられる 。
・まず、色を付けてみよう。
終わった子から、片付けをし、名
・表したいことをもう 一度考え
札を書いて、掲示する。終わらな
よう。
い子は、次の時間にできるように
する。
E:いい感じになってきた。
・別の表現で付け足そう。
*「自分の表現に納得・満足してい
・ここにこの色や形を付けよう。 るかどうか 。」表情や 言葉か ら見
取るようにする。
2
時間です。すばらしい作品がで ・もう少し時間が欲しい。もっとや
きましたね。今日の感想を書きま
ってみたい。
しょう。発表してください。
・あんな材料で、こんなものができ
るなんて、びっくり。
・とてもきれい。
*感想から活動内容・思考・意欲的
・あんまり、うまくいかない。
に表現できたかを見取る(カード)
(3)評 価
*新しい発想を目指し、楽しい造形活動をしようとする。<観察、評価シートから>
*効果や表現方法を考え、自分らしい表現を構想する。<観察、評価シートから>
*色や形などの調和を考え、表し方を工夫する。<観察、評価シートから>
(4)アイディアコーナーの内容<主なもの>
〇 作品(抽象絵画等・児童作品)
〇 材料
・紙(各種)
・ポスターカラー
・はさみ
・布、ぞうきん ・たこ糸
・網
・針金
・ローラー
・ストロー
〇絵の具
・ポスターカラー
・蛍光ポスターカラー
・アルミホイル
・シャボン玉
・サランラップ
・セロファン紙
等
(5)教室環境
ポスターカラー
材
料
・
用
具
*ブルーシート
完
成
作
品
を
は
る
ー
ア
イ
デ
ィ
ア
コ
ー
ナ
-4-
参
考
作
品
Ⅱ 結果と考察
1 授業の実際
(1)第1次「抽象画の鑑賞」の様子から
2時間続きの鑑賞の活動を3クラス合同で行った。
まず、1時間目は 、「色の表す意味」というテーマで学習した。子供たちが今年度児童会で作成した「生き物
ランド(ビオトープ)マーク」や、ピカソの「ゲルニカ(ほぼ、無彩色)」「泣く女(彩色)」を使い、色の有無
や色による感じ方の違いを比較しながら、色についての意味を考え合った。子供たちは「ゲルニカを見ると戦争
の悲しみが伝わってくるようだ 。」「絵にはいろいろな意味があるんだ。」「感情や気持ちを絵に表せるなんてす
ごい 。」などの思いをもった。また、色について、「感じや心の動きを色によって伝えている。」「色はその絵の
気持ちを表している。」「人の感じ方の違いで色も変わる。」「見る方も色によっていろいろなことが想像できる。
色ってすごい!」などの気付きがあった。
2時間目は 、「抽象画に題名をつけよう」というテーマで行った。提示した6枚の抽象画から自分のお気に入
りを3枚選び、自分で考えた題名を付せんに書いて4∼5人のグループごとにプリントにはり、グループで題名
を共有した。自分で題名を考える姿はどの子も真剣であり、考える楽しさを味わっている様子だった。グループ
での交流では、友達の題名に納得したり驚いたりと、どのグループも楽しそうであった。その後、全体で、思い
もよらない題名や「なるほどな」と思った題名を紹介し合い、みんなに広めていった。抽象画を鑑賞した感想と
して、「いろいろな絵を見られて良かった。」「色によってわくわくするような楽しい絵だった。」「風景とかと違
って、自由な表現で描いてあって見ていて楽しい。絵は見たまま描く必要はないんだなと 思った。」「抽象画も
心を入れて描いているので時間も苦労も掛かっていると思う 。
」
「絵は見た目で判断するものじゃないと思った。」
などがあった。題名を付け合ったことに対しては 、「自分たちだけで、こんな題名を付けられて良かった。すご
く楽しかった。」「つくった人と見る人によって、見方が違っておもしろい 。」「いろいろな題名があって 、人に
よって感じることが違うんだなと思った 。」などの感想があり、抽象画だけではなく、表現することにおいて大
切にしたいことや、自分と人との違いについても感じることができたようだった。
また、「作者の個性が良く出ていた。しかし、抽象画というのは良く分からない 。」というものもあった。子
供たちだけでなく 、だれもが感じることだと思われる。そこで、次時の最初に、上記の感想も含めて紹介し 、
「み
んなの感想は本当にすばらしいね 。感じる力がすごいよ 。」「絵を見るときは 自分が感じたことでいいんだよ 。
絵は言いたいこと、伝えたいことが表れるし、見た人の思いや考えも含まれていくものだね 。」ということを伝
えた。
時間の最後に「みんなも抽象画に挑戦してみよう 。」と投げ掛け 、「筆を使わない表現をすることと、おもし
ろいと思える表現の材料を用意してくること。」を指示して、第1次を終えた。
(2)第2次「いろいろな材料で表現活動を楽しむ」様子から
第2次も3クラス合同で2時間続きの活動を行った。教師の参考作品を提示して、いろいろなやり方で試して
みることを伝え、作業に移った。ほとんどの子供が家から材料を持ってきて、様々な材料で次のような表現を試
していた。
・ サイコロやビー玉、乾電池、ゴルフボールなど転がるものに絵の具を付けて、紙の上で転がす。
・ 毛糸やひもなどに絵の具を付けて、紙の上に置く。または、紙にはさんで、引っ張る。
・ スポンジ、空き缶、カップ容器 、段ボール、おもちゃのブロックなどに絵の具を付けて、スタンプをする。
・ 割りばし、スプーン、、歯ブラシなどで絵を描く。
・ トイレットペーパーのしんに絵の具を付けて、ローラーのように転がす。
思いもよらない表現の仕方には次のようなものがあった。
・ ミニカーのタイヤに絵の具を付けて紙の上で走らす。
・ 輪ゴムに絵の具を付けて、はじいて色を付ける。
・ フイルムケースの底に絵の具を付けて、コマのように回す。
自分の材料で表現するだけでなく、友達の表現をまねしてみたり、学校で用意したローラー、ブラシ・網、ひ
も、脱脂綿、シャボン液、ストローなどを使ったりしていた。
自由な雰囲気の中で、どの子も楽しそうに活動することができた。思いもよらない偶然の色や形に一喜一憂し
たり、一つの材料でも使い方を変えて様々な表現を工夫しながら表したりしていた 。「絵を描くことがこんなに
楽しいとは思わなかった。」「一つの材料でいろいろなことができるなんてすごい。」「次はもっと違う材料を使
いたい 。」などの感想が聞かれた。作品には、どんな材料でどのように表現したかという解説用の名札を付け、
各学級とも廊下に展示した。
(3)第3次「いろいろな材料での表現を鑑賞する」様子から
第3次は 、1時間扱いで各学級ごとに前次での表現を鑑賞し合った。他の学級の作品も見に行けるようにした 。
次回の自分の思いを表す表現へつなげられるように、
「次回が本番で、自分の気持ちを表現します。そのために 、
どんな材料を使って、どのように表現していきますか 。」と投げ掛けると、気に入った作品はどれか、その作品
はどんな材料でどう表現したのかを考えながら見合っていた。鑑賞カードには、気に入った絵から自分が感じた
ことが自然と書かれていた。
この鑑賞の時間は、授業の時間だけでなく、掲示した時点から始まっていた。興味のある子は、休み時間など
に友達同士で作品を見合って感想を話し合ったり、教師と話をしたりという姿が見られた。
(4)第4次「表現を試しながら、自分の気持ちを色や形で表現する」様子から<本時を含む>
① 自分の用意した材料で表現を楽しみ、自分の表現を追究する子供たち
-5-
第2次で材料の可能性を試し、その後に鑑賞もしていたので、第4次の子供たちは自分の活動を想定しなが
ら材料を用意してきた 。また、ある程度、どんな表現にしていこうかということも考えてきていたようだった。
今回はいよいよ本番で、自分の思いや気持ちを表現することを確認し、表したい思いを常に意識しながら表
現していくことを伝えた。この思いや気持ちは、始めに明確でなくても、表現しながら考えたり、変わってい
ったりしてよいことも話した。2度目の表現活動なので、子供たちは待ってましたという勢いで活動に移って
いった。
ゼンマイ仕掛けのおもちゃの足にに色を付けて紙上で歩かせる子供。ひもに色を付けて紙上でたたいて表現
する子供。たくさんの容器を目の前に並べて、どの形をどこに押していこうか考えながら表現する子供。シャ
ンプーなどのポンプで色水を和紙に吹き付ける子供。ビーズを絵の具に混ぜ、ローラーで表現する子供。紙に
水を垂らしながら絵の具を指で広げていく子供。紙を小さく切って、そこに絵の具を付け、画用紙に貼っては
がして色を付けていく子供。紙を置いてマスキングしながらローラーで表現していく子供。紙を破って穴をあ
けて表現していく子供…。前回に比べ多様な表現が多かった。第2次は自分で用意した材料がなくて、友達か
ら借りたり学校の物を使った子供たちも、自分で表現材料を用意することで、自分なりの表現方法を考えなが
ら追究する姿が見られた。これは、自分の用意した材料によって、表現が自分だけのものとなり、自分らしさ
を表すこととなっていたからだと考えられる。
また、自分の表現に合った材料ということを意識しながら活動を進めていた。このことは、その材料が自分
らしい表現を表していける良い道具であるという、自分なりの確信をもつことができた姿であった。
② なかなか、自分の殻を破られない子供たち
上記のような追究する姿の反面、なかなか一つの表現の仕方に、別の表現を付け足していくという姿が見ら
れない子供たちもいた。これは、画紙全体の中で、画面構成を工夫していく力ともかかわりがあると考えられ
る 。このことは 、第3次の鑑賞の時間に画面構成を含めて、色合いの美しさや、表現に止め時があることなど 、
いろいろな観点で子供たちと話し合い、気付きが生まれる場面があれば良かった。
③ 子供たちの作品から
No.1「道」
No.2 「自然」
・自分がその時に考えたことをたことを表
してみました。
No.3「虫くい
・この絵は、自然の風景を見ている時のうれし
さをかきました。青は水、緑は森、黄色は光
を表しています。
∼記憶の迷宮∼」
No.4 「心の宇宙」
・ローラーでいろんな色を混ぜたやったら
こんなのになっていた。始めに穴をあけ
て、紙をちぎっていて、スポントあいて
たから虫くい。カラフルだからいっぱい
の記憶。
・これは心の宇宙を表してみました。色によ
って、それぞれの思いがあって、心は宇宙
のようだと表現してみました。
-6-
(5)第5次「作品を鑑賞し合い、思いを温める」様子から
作品に題名を付け、一言PRを書き、「ふれあいホール」の壁に「新春、沼垂小ギャラリー」として展示し
ていった。壁にはる角度や隣の絵との色合いなども、子供たちと考えながら貼っていった。題名に対して納得
したり、「こんな感じも伝わってくる」と話をしたりしながら、表現の良さや思いについて自由に話しながら
鑑賞を進めていた。互いを認め合いながら、良さを探す活動となっていた。
(6)子供たちの授業後の感想・アンケートから
① 感想
<材料や用具に関して>
・今までに無い感じの図工で楽しかった。同じ材料でも違う使い方をすると、いろいろなことが表せる。
同じ道具でも使う人によって表し方が違ってくるということが分かって良かった。
・材料や用具を自分なりに工夫して絵が描けたし、今まで図工をやってきた中で一番楽しく気軽に描けた。
絵を描くことがこんなに楽しいこととは思わなかった。
・道具や紙の色など、ほんの少し変えるだけで、感じる物が全然違っておもしろい。特に偶然できた色は、
また違うイメージをつくり出す。とても楽しかった。
<鑑賞に関して>
・いろんな絵が見ることができて楽しかった。同じ表現の絵は1枚も無かった。友達の絵を見て、自分な
りに感じることができた。
・絵も人によって感じ方が違うことが分かった。
・何か形にしなくても、相手の人に何が言いたいかが、ちゃんと伝わることが分かった。
<抽象画、思いを表すことに関して>
・すっきりした(心の中)。
・楽しい遊びだった。表したいことが表せたからかな。始めに決めていたことが描けなくて、結局自由に
した。こういう「ごちゃり」としたのが私です。思ったことが一番だなと思いました。
・ピカソがいるけど、、心を込めて描けば、みんなの絵もピカソの絵になるんじゃないかと思った。
・風景画は見たままにしか描けないけれど、抽象画は思うままに描けて楽しい。自由に思ったまま描くの
が楽しいことや、みんなの思っていることが良く分かって良かった。
・絵はそこにある 物をそのまま写すのだけが上手というわけではないということが分かった。筆を使わな
いで描くのもなかなか大変だった。
・自分たちで抽象画ができるなんてすごいなと 思った。気持ちが素直に絵に出るし、自分の新たな発見が
できるんだなと思った。
・芸術家の絵が最初は意味が分からなかったけど、学習すればするほどその人の気持ちが分かってきまし
た。
・絵というものは 何か考えてみた。僕は自分の心や気持ちを主役にして描くものが絵だと思う。このよう
に描くと、上手も下手も無いと思う。
・良くできたところもあったけどあまりできないところもあった。
・やりすぎて変になった。これ以上やるかやらないかというところが分かった。
・無意識に絵を描き、その中で表現するのは難しい。
②
授業後のアンケート
5
1.自分から進んで楽しく活動することができました
か。
2.材料を考えながら用意できましたか。
4
●
●
3.材料や用具を自分なりに工夫して使いましたか。
4.自分の思いや感じたことを表せましたか。
<よくできた…5
2
ふつう…3
●
●
5.抽象画や友達の作品を見て感じたことはありまし
たか。
6.学習の満足度はどうですか。
3
2
1 <平均>
4.4
3.6
3.8
4.1
4.0
●
4.2
できなかった…1>
考察
「自分らしさを発揮する主体的な造形活動 ∼生きる力の育成を目指して∼」という研究テーマを設定し、本題
材で実践をしてきた。図画工作科で伸長・育成したい生きる力は次の2点である。
○ ありのままの自分を肯定し、心を開いて自分なりの方法で表現する力(発信・自信)
○ 他とかかわりながら見方や感じ方を広げたり、自分自身と対話しながら新たな自己を見付けたりしてい
く力(還元・かかわり)
-7-
研究の内容とした次の2点と、子供の感想から考察をする。
(1)表現意欲を引き出す題材について
絵の上手、下手にこだわり始め、自分らしく追究できにくくなった高学年のこの時期ではあったが、子供たち
の様子や感想から、多くの子が絵や表現に対しての意識を変える題材になったのではないかと思われる。そのこ
とは次の要因が考えられる。
① 抽象画の鑑賞と表現を一体として取り組んだこと
第1次で、色や抽象画の意味、抽象画の見方(題名付けから)を学習した。このことがそれ以降の表現の意
欲につながっていったと思われる。予想以上に子供たちが感じたものは大きかった。感想にもあるように、表
現の多様性や自由さ、思いを表すことの大切さ、上手・下手のないこと、などを子供たちは感じることができ、
「自分たちにもできるんだろうか、やってみたい、やってみよう」という気持ちになっていったようだった。
また、子供たちが作品を鑑賞し合う時間を表現と表現の間に設定したことも、意欲的になった一因と思われ
る。友達の良さを見いだし、「今度はわたしも、あんな材料や色で表してみよう」という自分の表現への直接
的なかかわりもあったし 、「あの人はこんな感じを絵で表しているんだ」という間接的なかかわりもあった。
このかかわりが、次への表現意欲へとつながっていったと思われる。
② 自分の材料・用具を用いたこと
表現する場面では、どの子も大変集中して取り組んでいた。これは、自分が表現で使う材料を考えて用意し
たり、用具の使い方を自分なりに工夫して表現方法を考え出したりということが大きかった。自分の材料を大
切にして、どうしたらうまく表せるのか試行錯誤 してる姿や 、「自分の材料を使っておもしろかった。」とい
う感想から、自分の材料を使うことで、それに愛着をもちながら自分なりの表現ができたという意識だったと
思われる。
③ 試しの活動があったこと
抽象画で表すことは、短時間でもできる活動である。何回もつくり、つくり変えていくことで、自分が納得
できるまでやり直すことができる活動であったことが、気軽に、自由に、そして真剣に最後まで追究できる活
動となったのであろう。
作品の完成度はともかく、一人一人が遊びながら試したり 、「表したい思い」を考えながら試したりするこ
とは、材料・用具・色と自分とが深くかかわる活動になっていったと考えられる。
(2)成就感、満足感を味わわせる支援について
表現する段階においては、子供たちに新しい発想、工夫している点について賞賛・共感する支援を心掛けた。
「この形は鳥みたいに見えるね。」との声掛けに自信をもち、その周りの表し方にも楽しんで取り組んでいた子
供には、この支援が効果的だったと言える。
しかし、活動が広がらず、一部分だけにこだわったり 、手が止まったり 、「もう終わりました。」と言いに来
たりする、自信のない子供たちも多少見られた。画面の一部分だけにシャボン玉で色を付けているというこだわ
りのある子供に対して、ふとその手を動かしてやることで、画用紙全体を意識し始め、色を広げていくことがで
きた。また 、「何か寂しくない?もっと別な表現で付け足してみたら。」という助言から、自分なりに考えた表
現を進め、最終的に「後からおもしろくなった。」「最終的にいろんな色で自分を表現できて良かった。」という
感想の子供たちもいた。だが、用具の使い方や画面構成、いろいろな表現の仕方の面で適切な言葉掛けができず
に、なかなか主体的な活動ができない子供もいた。この場合、一人一人と間近で向き合い、できるだけ多くの子
供と話すような支援も大切だろうが、全体を見渡して子供たちの表情や動きをつかみ、ピンポイントで支援して
いくことの大切さを改めて感じた。
言葉掛けについて、やり方を具体的に言い過ぎることはその子が自分で解決していく機会を奪ってしまい、教
師が意図したような表現になっていく恐れはあるが、上記の「寂しくない?もっと別な表現で付け足してみたら。」
などのように、感じたことを伝え、考えさせていくような支援は効果的であった。活動で立ち止まっている子に
対して、教師サイドから「こう感じる」ということを子供たちに返していくことが、より考えを深め、意欲的に
していく。その際、注意しなくてはいけないのは、活動の結果としての作品だけを見ての言葉掛けであろう。
(3)子供の感想から考える高学年の造形遊び<終わりに>
本題材では 、「高学年の造形遊びで子供たちは何を得ることができるのだろうか 。」ということを念頭に置い
て実践を進めてきた。活動の様子や感想などから、表現へ自分の思いを重ね合わせることや絵を見て感じる力・
感じる心が育ってきたことが感じ取ることができる。
子供の感想の中に「無意識に絵を描き、その中で表現するのは難しい。」というものがあった。高学年の子供
が「無意識に絵を描く」という感覚は、図画工作において貴重なものではないだろうか 。「どうなるのか、何が
できるのか分からない。」という無意識の感覚は、幼児や低学年のころに体感したものに似ているようにも思え
る。先が見えず、偶然できた形や色に自分で意味付けしていく。この行為は 、描き(つくり)ながら感じ、考え 、
また描く(つくる)という試行錯誤が如実に表れるものであろう。では、幼児との違いは何か。それは、高学年
なりのたくさんの経験から生まれてきた感じ方や考える力であり、自分の作品に「自分の思い」を形として表わ
そうとする思考やこだわりであると思う。これこそ、自分と対話しながら自分を見つめ、自己を表現しようとす
る「発信」と「還元」の表れた、生きる力ではないだろうか。
しかし、本実践では、課題である評価の面でまだ不明確な点が残っている。今後、評価の観点を明確にしなが
ら、個々の子供の活動や思考から、一人一人についての評価を明らかにしていきたい。
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