(長期および短期的ホルモ ン分泌調節のメカニズム)

博 士 ( 理学) 堀田 晴美
学 位 論 文 題 名
Th
eage
-r
el
at
edan
dt
h
es
ho
r
tt
er
mr
e
g
ul
a
to
r
ym
ec
h
an
i
sm
so
fh
o
r
mo
n
alse
c
re
t
io
n
( 長 期 およ び短 期的 ホルモ ン分 泌調 節の メカニ ズム )
学位論 文内容の要旨
ホ ル モ ンの 血 中 濃 度は 種 々 の 機構 に よ り 一定 に 保た れてい るとい われて いる。 しか
し、 ホ ル モ ンの 血 中 濃 度は 一 方 で は長 期 あ る いは 短 期的な 調節機 構のも とで様 々に変
化す る 。 本 研究 は 、 こ の長 期 お よ び短 期 の ホ ルモ ン 調節機 構を明 らかに するこ とを目
的と し 、 長 期的 調 節 機 構と し て 加 齢時 の ホ ル モン の 変化、 短期的 調節機 構とし て皮膚
刺激 時 の ホ ルモ ン 変 化 に着 日 し た 。加 齢 に 伴 うホ ル モン濃 度の変 化の機 序に関 し、加
齢 に よ り 減 少 す る ホ ル モ ン と 増 加 す る ホ ル モ ン を 取 り 上 げ た 。
こ れ ま での ホ ル モ ン調 節 機 構 の研 究 の 多 くは 、 ホル モンの 血中濃 度を測 定する こと
によ っ て 行 われ て き た が、 ホ ル モ ンの 血 中 濃 度の 変 化は必 ずしも 分泌の 変化を 反映し
たも の で は ない . そ こ で本 研 究 で は、 ホ ル モ ンの 血 中濃度 に加え て、分 泌速度 を直接
測定 す る 事 を試 み た 。 この 目 的 の ため に 、 対 象と す るホル モン分 泌腺の 静脈に カニュ
ーレ を 設 置 し、 分 泌 さ れる ホ ル モ ンを 直 接 採 取す る 方法を 開発し た。ま たこれ までの
ホル モ ン 分 泌調 節 機 構 の研 究 の ほ とん ど は 、 無麻 酔 の状態 で行わ れてき た。無 麻酔の
状態 では分 泌速度 を直接 測定す ることが 難しく 、また 情動の 影響を 受ける ことに なり、
本研 究 に は 適さ な い と 考え ら れ た 。そ こ で 、 私は 麻 酔下の ラット を用い 血圧、 呼気中
炭酸 ガス濃 度、体 温を常 時モニ ターし、 ‘調節 するこ とによ り、動 物を安 定した 生理的
状態 に 保 ち 、ホ ル モ ン 分泌 速 度 の 測定 を 行 っ た。
― 59ー
第1
章:
血漿中甲状腺ホルモン濃度の加齢変化の機序
甲状腺ホルモンは、体のほとんどの組織の代謝を調節するホルモンであり、加齢に
ともなう酸素消費量の減少と甲状腺機能の加齢変化との関わりが予想されるため、叩
状腺機能の加齢変化については古くから多くの研究が行われてきた。t
p
状腺ホルモン
のサイロキシン(T4)の血漿中濃度は老化ラットで低下するが、甲状腺からのT
4
の
分泌については、加齢により減少するという報告と、増加するという報告があり、議
論のあるところである。甲状腺からは、T4
のほか、3
,3
’,5ートリヨードサイロニン
(T3
)が分泌される 。血漿中T
3濃度は老化ラットでも比較的良く保たれていると報
告されているが、甲状腺からのT3
分泌の加齢変化についての報告は見あたらない。そ
こで本研究では、甲 状腺からのT
4とT
3の分泌の加齢変化を明らかにすることを目的
とした。この目的のために、麻酔ラットを用いて、甲状腺静脈から甲状腺静脈血を直
接・採取する方法を確立した。6
ー8
ケ月齢、2
5
ー2
6
0
月齢、2
8
ー3
0
0
月齢の3
群の雄ラッ卜
に つい て、 甲状 腺静 脈血漿中のT4
とT3
濃度および一般動脈 血漿中のT
4とT
3濃度を
ラジオイッムノアッ セイ法で測定し、両血漿中のT4
とT3
濃度の差分と甲状腺静脈血
漿流量からT4
とT3
の 分泌量を算出した。本研究により、甲状腺からのT4
分泌は加齢
にかかわらず良く維持されており、甲状腺からのT
3
分泌は加齢により増加することが
明らかとなった。
第2
章:
血漿中プロラクチン濃度の加齢変化の機序
プロラクチンは、乳汁の産生と分泌を促すホルモンとして知られているが、雄にお
いても生殖器官の増殖、免疫調節、行動発現の調節に関与することが示されてきてい
る。雌および雄ラッ卜において、加齢により血漿プロラクチン濃度および下垂体前葉
からのプロラクチン分泌が増加することが知られている。プロラクチンの分泌は、視
床下部から下垂体門脈血中に 分泌される抑制因子のドーパミンや促進因子のv
a
so
ー
ac
ti
ve i
nt
es
ti
na
l po
ly
pe
pti
de
(VI
P)などによって調節される。これまでに、視
床下部から下垂体門脈血中へのプロラクチン抑制因子ドーパミンの分泌が、老齢ラッ
トにおいて減少していることが報告されており、加齢による視床下部の抑制因子ドー
パミン分泌機能の低下が高プ口ラクチン血症をもたらすことが示唆されてきた。他方、
加齢により視床下部の促進因 子V
IP
が高進している可能性 も考えられるが、これに
― 60
ついて調ぺた報告は見あたらない。そこで本研究では、視床下部から下垂体門脈血中
へのVI
P分泌の加齢変化を甥らかにすることを目的とした。5
ー8
ケ月齢、1
2
ー1
5
0月
齢、24
ーZ
6
0
月齢の3
群の雄ラットの下垂体門脈血を麻酔下で採取し、ラジオイムノア
ッセイ 法を用い て血漿中 のVI
Pを測定した。また同時にドーパミンを高速液体ク口
マトグラフイーと電気化学検出器を用いて測定した。本研究により、視床下部から下
垂体門 脈血中へ のV
IP
分 泌は加 齢にかかわらず良く維持されており、一方視床下部
から下垂体門脈血中へのドーバミンの分泌は加齢により増加することが明らかとなっ
た。従って、加齢に伴う血中プロラクチン濃度の増加は、これらの視床下部ホルモン
の分泌機能の変化によるものではなく、下垂体のプロラクチン産生細胞自体の一次的
変化に基づくことが示唆された。
第3
章:
体 性 感 覚刺 激 に よ る視 床 下部か ら下垂体 門脈血 中へのCR
Hの分 泌調節
体性感覚刺激は感覚を引き起こすと同時に様々な情動や行動、自律機能に影響を及
ばす。我々の研究室ではこれまでに、麻酔して情動を取リ除いた動物において体性感
覚刺激が種々の自律神経機能や内分泌機能に反射性反応を引き起こすことを明らかに
してき た。血 中のAC
TH
およ びグル ココルチ コイド は体性感 覚刺激によって覚醒状
態でも 麻酔下でも増加することが知られている。したがって下垂体(A
CT
H
)一副腎
皮質( グルコ コルチコ イド) 系を活性化する主要な視床下部ホルモンであるC
RH
が
体性感覚刺激で増加することが予想される。そこで今回、麻酔下のラッ卜で視床下部
から下 垂体門 脈血中へ のG
RH分泌が、 皮膚の機械的刺激によってどのような影響を
受けるか検討した。下垂体門脈血を.採取し、その中に含まれるG
RH
をラジオイムノ
アッセ イ法を 用いて測 定した 。その結果、皮膚刺激が実際に視床下部からのC
RH
分
泌を増加させること、またその効果は刺激する皮膚領域によって異なることが明らか
と なっ た 。 一般 血 中 のCRH濃 度は 非 常に低 く、GR
H分泌の 短期的調 節機構 の存在
につい ては議 論のある ところ であった。本研究で視床下部からのC
RH
分泌を直接測
定する ことにより、体性感覚刺激による短期的調節機構の存在が明らかとなった。
-61
学位論文審査の要旨
主査
教授
久田光彦
副査
教授
片桐干明
副査
教授
下沢楯夫(電子科学研究所)
学
位
論
文
題
名
The age-related and the short term regulatory mechanisms of hormonal
secretion
(長 期およ び短期 的ホル モン 分泌調 節のメ カニズム)
ホルモ ンの血 中濃度 は種々 の機 構によ り基本的には一定に保たれている.しかし、この濃度は
一 方では 、長 期ある いは短 期的な 調節 機構の もとで様々に変化する.たとえぱ、短期的には外部
刺 激 な ど によ り 、 ま た長 期 的 に は加 令 な ど によ っ て変化 するこ とが知 られて いる.
申請者 は、こ の長期 および 短期 的なホ ルモン調節機構、特に加令による分泌調節変化をラット
を モデル 動物 として 明らか にする こと を目的 として 研究を 行った .
これま で、ホ ルモン 調節機 能は 、大部 分ホルモンの血中濃度に注目し、これを測定することに
よ って論 ぜら れて来 た.し かし、 ホル モンの 血中濃度の変化は、かならずしも分泌の変化を直接
反 映しな い. 血中濃 度は、 分泌に よる 供給と 分解などによる消費の両作用によって定まるからで
あ る.
申請者 は、ま ず、血 中濃度 と共 に直接 分泌速度を測定する方法を開発し、分泌量の直接測定に
成 功した .こ の目的 のため に、対 象と するホ ルモン分泌腺の静脈にカニューレを設置し、分泌さ
れ るホル モン を直接 採取す る方法 を開 発した ,また、分泌速度が被試験動物の一時的な情勤など
で 影響さ れる ことが ないよ う、麻 酔下 の動物 の血圧、呼吸中の炭酸ガス濃度、体温を調節して安
定 した生 理状 態下で 測定を 行う方 法を 確立し た.
これら の方法 を用い て、申 請者 は、ま ず加令にともなって起こる酸素消費量すなわち基礎代謝
量 の減少と関係があると考えられる甲状腺ホ´レモンを取り上げ、加令に伴う変化を追跡した.甲
状 腺ホル モン は、体 のほと んど全 ての 組織の 代謝を調節するホルモンとして、その血中濃度、特
に 加令に 伴う 変化は 古くか ら多く の研 究の対 象になってきたものである.申請者は、甲状腺ホル
モ ン で あ る サ イ ロ キ シ ン (T4)お よ び 3、 3’ 、 5ー ト リ ヨ ー ド サ イ ロ ニ ン (T
3)の 分 泌量 を
ラ ジオイ ムノ アッセ イで測 定して いる .測定 は甲状腺静脈から直接サンプルを採取し、一般動脈
-62一
血中濃 度との 差分を 取る ことに よって 正確な 分泌状況を把握することに成功している.その結果
T
4分泌は 加令 時にも よく維 持され 、T3
は むしろ 増加し ている こと も明ら かにし た,こ れは、こ
れまで の他の 研究者 の報 告が、 加令に 伴って 分泌増加が起こるとした研究結果と、減少するとす
る研 究 結果 の 対 立す る 状 況で あ った も の に決 着 を付 け た もの で ある .
申請者 は、 ついで 、雌の 乳汁分 泌のみ なら ず、雄の生殖器官増殖、免疫調節、行動発現にも関
係する ホルモ ンであ るプ ロラク チンの 分泌に ついて、これまで知られている加令に伴う血中プロ
ラクチ ン濃度 、下垂 体前 葉から の分泌 増加の 要因を明らかにする拭みを行っている.プロラクチ
ン分 泌 を 拮 抗 的に 調 節して いるホ ルモ ンであ るドー パミン (抑 制因子 )とVI
P(促 進因子 )の
視床 下 部 か ら の分 泌 量につ いて測 定し た.ド ーパミ ンは電 気化 学的に 、VI
Pはラジ オイム ノア
ッセ イ に よ っ た. ド ーパミ ン分泌 は加 令によ って増 進し、 V
IP
で はむ しろ減 少して いるこ とを
明らか にした .した がっ て、加 令に伴 って観 察されるプロラクチンの濃度増加はこれら調節ホル
モンの 作用に よるも ので はなく 、下垂 体のプ ロラクチン生産細胞自体の加令変化に基づぃている
と推論 した.
さらに 短期 的調節 を受け るホル モンに つい ても、この方法を適用する可能性を検討し、下垂体
からの A
CT
H、こ れとり ンクす る副 腎皮質 グルコ コ´レ チコイ ド分 泌をと もに活 性化す る視床下
部ホ ル モ ン CR
Hの 分 泌が体 性感覚 刺激 により 短期的 に変化 する有 様を 測定し た.そ の結果 、血
中濃 度 が 低 く 短期 的 変化を 捕捉測 定す ること が極め て難し かっ たC
RH分泌量 が皮膚 刺激に よっ
て調節 される ことを 明ら かにし た.
申請者 の得 たこれ らの成 果は、 これま で間 接的な測定からの推論のみで議論されてきたホルモ
ン分泌 調節の 実体を 明白 にした もので あり、 特に加令に伴うホルモン分泌系の変化を明らかにし
たもの である .また 、ホ ルモン 分泌量 の直接 測定法自体は、今後この分野の研究手法として標準
となる もので あり、 重要 なもの である ,参考 論文 7
羈の 内、 申請者 を筆頭 著者と する4編は いず
れも査 読誌に 発表さ れた もので ある. よって 、審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を得る
に十分 な資格 がある もの と怒め た.
-63ー