第 17 7 号 - 名古屋大学 文学研究科 文学部

第 17
7号
発行:名
名古屋大学文
文学部
広報体制委
委員会
koho@
@lit.nagoya-u.ac.jp
教員
員コラム―No..16
恐る
るべし,インド人
和田壽
壽弘(イン ド文化学)
仏教
教経典の原典
典は様々な言
言語で書かれ
れていますが
が,大乗仏
教経
経典の多くは
は,インド古
古典語のサン
ンスクリッ ト(梵語)
で書
書かれていた
たと推定され
れています。この言語,
,実はイン
います。新
ドで
では「死語」ではなくて
て,現代でも
も話す人がい
聞や
や映画もあっ
って,れっき
きとした「生
生きた言語」
」です。そ
の文
文法は,紀元
元前5世紀頃
頃に活躍した
たと推定され
れるパーニ
ニと
という人によ
よって約 40
000 の規則の
の下に体系化
化されまし
た。文法規則を
をすべて挙げ
げるなんてい
いう,壮大で
で,類を見
ない
い仕事を成し
し遂げたのが
がインド人で
です。
面白い規則の
面
の例を挙げま
ましょう。サ
サンスクリッ
ットの名詞に
には男性,女
女性,中性の
の性別があり,格変化
化もあ
りま
ます。英語で
ですと,「I」は主格,「my」は所有
有格,「me」は目的格と
となりますが
が,サンスクリットに
には8
」のように主語を表し
格あ
あります。そ
その最初の格
格である「主
主格」は,日
日本語で言え
えば「馬は」
」や「馬が」
します
..
が,パーニニは
は「主格語尾
尾の意味」に
についての規
規則を作りま
ました。つま
まり,
「〜は
は」
「〜が」の意味は何
何かと
考え
えたわけです
す。誤解を恐
恐れず極論す
すると,彼は
は,語尾が付
付けられる名
名詞が表すも
もの(例えば
ば「馬」
)の
の数,
性を
を意味すると
としました。(日本語で
ではそんなこ
ことはあり得
得ませんが,日本語の場
場合に置き換えて説明
明して
いる
るので我慢し
して下さい。)主語を意
意味するとも
も言いません
んでした。数
数や性は他の
の語尾でも表すことが
ができ
..
ます
すから,これ
れらと比較し
して,事実上
上,「主格語
語尾」の意味
味は「ゼロ」ということ
わち,
とになります。すなわ
この
の語尾には文
文章の構造上
上の意味は何
何もない,と
ということで
です。驚くべ
べき答えで はありませ
せんか。
紀元前5世紀
紀
紀のパーニニ
ニが到達した
た文法体系は
は今もってイ
インド人の誇
誇りです。体
体系があまりに整然と
として
いる
るために,コンピュータ
タのシステム
ムとの関係に
に取り組むイ
インドの研究
究者もいます
す。私たちも
も彼の文法か
から,
過去
去の偉業や過
過去の文化を
を垣間見るこ
ことができる
るのみならず
ず,言語につ
ついての哲 学,さらには日本語に
につい
て考
考える際にも
も,様々な刺
刺激を受けま
ます。インド
ド人というと
と何やら神秘
秘的という 印象を受けるかも知れ
れませ
んが
が,実は恐ろ
ろしい程に理
理屈っぽい人
人たちです。
授業紹介―
授
File
e11
連想
想の森に
に踏み迷
迷いつつ
専攻
攻:日本文学
学(文学・言
言語学コース
ス)
授業
業名:中世人
人の連想の世
世界
昔の人は
は何を考え,
,どのよう に生活していたのでし
しょう
か。この問
問いに対して
て,過去の人
丹念に
人々が残した書物を丹
読み解く ことによってアプロー
ーチするのが
が日本文学
学研究
です。
ばこの授業で
では,江戸 時代前期に刊行された
た『俳
たとえば
諧類船集』
』という聞き
き慣れない書
書物を扱いま
ます。この本
本は,
ある見出 し語につい
いて連想され
れる言葉を列
列挙した連
連想語
。授業では受
受講生が様 々な文献にあたり,連
連想関
辞典です。
係の根拠を
を明らかにしていきま す。こうした作業を通
通して,
はじめて昔
昔の人々の世界観に近
近づくことが
ができるので
です。
具体例として
具
て,「走る」という言葉
葉を見ましょ
ょう。急いで
でいる時には
は誰しも走る
るし,ジョギングを日課に
して
ている人も大
大勢います。現代の我々
々にとって,走ることは
は日常的な動
動作です。と
ところが『類
類船集』の「
「走」
「犬」
「狐」のような動
の項
項目に挙げら
られた連想語
語を見ると,
動物や,
「秤
秤」
「舟」の ような非生物が大半を
を占め
2010
2
年 12 月 10 日
るこ
ことに気付き
きます。人間
間は僅かに「早使」
「科
科人」
「童部」
」
「狂人」の
の四語のみで
です。このう
うち「早使」
「科
人」は,やむにやまれぬ理
理由で走る特
特殊な人々で
です。また,
「童部」
「狂人」は半分神
神様のような存在なの
ので,
厳密
密には人では
はありません
ん。つまり,江戸時代の
の人にとって
て「走る」と
という動作 は特殊な行
行為であり,昔の
人は
は基本的に走
走らなかった
たことがわか
かります。
このように,
こ
基本的な語
語彙であって
ても,本来の
のニュアンス
スは現代と大
大きく異な っており,昔の人の感
感覚と
我々の感覚との
の間には深い
い溝があるの
のです。その
の溝を埋める
るためには,
,一字一句 にこだわってさまざま
まな文
のことを少
献を
を読み解くこ
ことが必要な
なのです。日
日本文学研究
究室は,こう
うした作業を
を通じて昔の
少しでも正確
確に知
ろうと奮闘して
ています。小
小さな発見で
であっても,古人の生き
きた日々を追
追体験できた
た瞬間の喜
喜びは,一度
度経験
する
ると忘れ難い
いものとなる
るはずです。
[河村
村瑛子(大学
学院前期課程
程)]
授業紹介―
授業
File
e12
ワー
ードロー
ーブの向こう側
専攻
攻:英米文学
学(文学・言
言語学コース
ス)
授業名
名:20 世紀イギリス小説
説研究-C. S
S. Lewis とフ
ファンタジー
ー小説
ワードローブ
ワ
ブを抜けると
とそこは雪国
国だった。
そんなシュー
そ
ールな風景 を見せてく
くれる小説を
をごぞんじ
じです
か?川端康成の
の『雪国』で
ではありませ
せん。イギリ
リスの 20 世紀の
世
作家
家 C. S. ルイ
イスの書いた
た『ナルニア
ア国物語』の
の一つ『ライ
イオン
と魔
魔女』
(原題:: The Lion, the Witch and
a the Wa
ardrobe)で
です。
ペヴ
ヴェンシー家
家の 4 人の兄
兄弟姉妹たち
ちが,戦時中
中,疎開先の
の田舎
屋敷
敷にあったワ
ワードローブ
ブに足を踏み
み入れたとた
たん,魔女が
が支配
して
ている雪のナ
ナルニア国に
に迷い込んで
でしまうお話
話です。
英米文学専攻
英
攻での今年度
度の授業では
は,演習の一
一つとしてこ
この作
品を
を『朝びらき
き丸 東の海
海へ』
(原題: The Voya
age of the Dawn
D
Trea
ader)と合わ
わせて扱っています。受講者は 1
18 人。毎回
回3~
4章
章ずつ精読し
しながら,2 人がプレゼ
ゼンテーショ
ョンを行い,質疑応答を
を通して問題
題点を整理した後,グ
グルー
プご
ごとに自由に
にディスカッ
ッションを行
行っています
す。
『ナ
ナルニア国物
物語』はけっ
っして単純な
なファンタジ
ジー作品では
はありません
ん。作者で あるルイスは,オック
クスフ
ォー
ード大学の優
優れた中世英
英文学者であ
あり,敬虔な
なキリスト教
教信者でもあ
ありました。
。なぜルーシーがナル
ルニア
国で
で最初に出会
会うのがファ
ァウヌスでな
なくてはな らないのか? エドマン
ンドを救うた
ためになぜアスランは
は石台
の上
上に身を横た
たえて,魔女
女に自らの命
命を差し出す
す必要があったのか? 朝びらき丸
丸に乗ったカスピアン
ン王子
たち
ち一行が数々
々の島々を訪
訪れて東に向
向かう歴史的
的な意義は何なのだろうか? そう
うした問題解決の糸口をテ
クス
ストの内外に
に捜し求めな
ながら,1 時間半議論を
時
を交わしてい
いきます。
「文
文学を解釈す
する」という
う行為には,言葉を読み
み,理解する
るだけではな
なく,言葉 に内包され
れている重層
層的意
味,文化や歴史
史までをも読
読み取る力が
が要求されま
ます。当然の
のことながら英米文学研
研究の場合
合には英語力
力も要
求さ
されます。
また,
ま
英米文
文学専攻で学
学ぶのはルイ
イスばかりで
ではありませ
せん。シェイ
イクスピア,ジェイン・オースティン,
ブロ
ロンテ姉妹,エドガー・
・アラン・ポ
ポー,ジョン
ン・スタイン
ンベックなどの名作も読
作には
読んでいきます。名作
世界
界観と価値観
観を大きく変
変えてくれる
る力がありま
ます。文学と
というワードローブの 向こう側に
には,知的好
好奇心
を満
満たしてくれ
れる未知の世
世界が広がっ
っているので
です。
[大石和
和欣(准教授
授)]
最近の文学
学部
卒業
業論文
いま4年生は卒業
業論文の追い
い込みの時期で
です。文学部
部では卒業に際し,それぞ
ぞれの専門に
にしたがい,各
各自が関心を
をもっ
たテーマで執筆し
します。卒論
論は,感想文で
でも授業レポ
ポートでもありません。学
学術論文です
す。他の研究者
者の論考を読
読み込
み,批判し,新見
見解を加える
る。大変ですが
が,大学で学
学問を学ぶ醍
醍醐味がぎゅっ
っと凝縮され
れた作業です。(日比)
名大文学部の W
WEB サイト
*本紙
紙では,名大文
文学部の多彩な
な内容を順に紹
紹介していきま
ますが,それま
まで待てない人
人は…
http://www.lit.nagoy a-u.ac.jp/ まで(『月刊
h
刊名大文学部』 のバックナン
ンバーもありま
ます)