海外トピックス

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フランクフルト中央駅
訪日韓国人における旅行形態と旅行手配の実態について
奥 田 恵 子
調査研究センター主任研究員
人を記録した。
また,2004年7月から始まった週休2日制度の
2008年7月16日,韓国旅行新聞社は「国民海外
段階的な導入(2008年7月までに,従業員が20人以
旅行実態調査」の結果を発表した(調査実施:2008年
下の企業と一部の公務員を除いた全事業者において
6月,回答者:18歳以上のウェブモニター男女3 , 010人,
週休2日制が導入済み)により,20代などの若い世
うち,日本訪問経験のある回答者は23 . 1%)
。これは,
代を中心に,特に東アジア方面への,いわゆる「安・
同社が2002年から継続的に実施している調査で,
近・短」と言われる,予算50∼75万ウォン(1ウォ
韓国人における海外旅行の実態を把握する上で信
ン≒0 . 1円)程度の週末を利用した手軽な海外旅行
頼性の高いデータのうちの一つである。今回の調
の市場が拡大している。
査結果のポイントとして,近年における個人旅行
とりわけ日本への入国については,2006年3月
化へのシフトとインターネットなどの手段を活用
からの短期滞在ビザ免除措置や,翌年8月に合意
した個人旅行の直接手配化の流れが指摘できる。
された日韓航空自由化などの影響を受けて増加傾
言うまでもなく,訪日韓国人は今後ともますます
向にあり,2007年には,年間で韓国人出国者数の
増加することが予想されており,わが国のインバ
2割を占める約260万人が日本を訪問している。
ウンド観光を支える大きな柱である。
そこで,本稿では,同調査結果などをもとに,
2 . 個人旅行化の経緯と旅行手配の実態
訪日韓国人における旅行形態と旅行手配の実態に
ついて経緯を踏まえながらまとめる。
韓国人における海外旅行の形態としては,当初,
団体旅行が主流であった。しかし,ライフスタイ
1. 海外旅行市場の広がり
ルの変化により同行者数の少人数化が進んだこと
や,インターネットの普及により海外の情報が容
韓国では,1989年に海外渡航が自由化されて以
易に入手できるようになったこと,また,海外旅
降,経済の成長と共に海外への渡航者数は増加す
行に求めるニーズが多様化してきたことなどが要
る傾向にある。韓国人出国統計(韓国観光公社)に
因となり,調査が開始された2002年には団体旅行
よると,2003年には,SARS 等の影響を受けて落
と個人旅行の比率が6対4と,団体旅行の方が多
ち込みを見せたものの,それ以降は毎年10%以上
かったところ,2005年には団体旅行と個人旅行の
の伸びを見せており,2007年においては1 , 332万
比率が並び,それ以降は,両者はほぼ同じ割合で
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08.9
運輸調査局
推移している。
受け入れられる可能性や,実質的な旅行商品の値
訪日旅行については,すでに個人旅行の割合が
上がりにつながることに対する利用者の不満など
団体旅行を上回っており,現在,個人旅行の割合
について懸念する声が高まっている(「朝鮮日報」
が約6割となっている。また,手配手段について
2008年1月27日,7月9日)
。
は,旅行社を経由して個人旅行商品を購入した割
このため,旅行会社各社では,ターゲットを絞
合(航空券とホテルのみのフリープラン商品)が2割弱
ったテーマ性のあるパック商品やフリープランな
である一方,インターネットなどの手段を通して, どの開発に精力的に取組んでいる。また,安価な
往復交通手段や宿泊を別々に直接手配した割合が
パック商品においてかねてより時々発生していた,
4割弱(宿泊のみ現地で調達する場合も含む)となっ
ショッピングやオプション観光の強要,あるいはツ
ている。このことから,訪日韓国人の旅行手配手
アーガイドのチップ請求などに対する旅行者の不
段としては,旅行会社の商品を購入するより,航
信感を払拭するべく,商品の詳細な説明や,ガイ
空会社や格安航空券を販売するオンライン旅行会
ドへのチップ集金を行わない「No -Tip」運動等
社のサイトなどを通じて,直接手配をしている割
を実施することにより,パック商品における付加
合が高い状況がうかがえる。
価値の造成やイメージアップなどに取組んでいる。
3 . 旅行会社が懸念する顧客離れ
4. 訪日旅行の満足度と課題点
この旅行会社の商品離れを加速させるのではな
今回の調査結果では,訪日韓国人における訪日
いかと考えられるのが,航空会社の旅行会社に対
満足度は平均して82 . 57点と非常に高い状況とな
する販売手数料(コミッション)ゼロ化の動きである。
っている。しかしながら,訪日中に不満に感じた
大韓航空は,2008年7月8日,世界的にコミッ
点として,例えば,「言葉が通じない」,「事前の
ションゼロ化の動きが進んでいることを鑑みて,
旅行情報が不足している」(それぞれ3割弱)など
航空券販売に対して支払っていた旅行会社へのコ
(複数選択設問)が挙がっていることも事実である。
ミッションについて,2010年1月以降は支払わな
今後,大韓航空の子会社である「ジンエアー」
い方針を明らかにした(なお,大韓航空とアシアナ航
(一般的な運賃より8割程度の水準でサービスを提供
空の両社は,2008年4月から,コミッションを従来の
しており,航空券販売をウェブに限定している格安
9%から7%へ引き下げている)
。韓国の報道による
航空会社(LCC))が2009年夏頃から日本路線に就航
と,韓国における一般的な中小旅行会社では,航
を予定しているほか,
「釜山国際航空(エア釜山)」
空会社からのコミッションが収益の約6∼7割を
や「仁川タイガー航空」についても日本就航の意
占める構造となっているため,コミッションがゼ
欲を見せていることから,旅行者の旅行手配手段
ロ化された場合の旅行業界に与える打撃は大きい
の選択肢が広がり,直接手配の流れがさらに加速
とみている。そこで,今後の新たなビジネスモデ
することが予想される。そのため,ツアーガイド
ルとして,旅行業界全体で予約や発券,相談,申
を必要としない旅行者,とりわけ,従来のパック
し込みなどのサービスに応じて手数料を徴収する
商品では想定されにくかったエリアなどへ直接手
「フィービジネス」の導入について検討していく
配をする個人旅行者の増加に備えて,これらの問
方針を明らかにしているが,この制度が韓国人に
題に対応していくことが重要であると考える。
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