Untitled

講演要旨
石田聖二(東北大・国際高等研究機構)
「全球規模のミジンコ類の系統地理」
約 10 万年周期の氷河期サイクルが北半球の生物相に劇的な撹乱をもたらした (Hewitt 2004)。氷期の北米では
ヨーロッパは氷床や永久凍土が広く覆われた。一方で、氷床や永久凍土は東アジアに広がらず、極東域は比
較的に温暖で湿潤な環境を維持してきたと考えられる。全球規模に分布するミジンコ種の系統地理の研究を
すすめることで、地域間の撹乱の違いを示すことができ、地球環境と生物の織りなす関係を紐解くことがで
きることを示したい。
大槻朝(東北大・生命科学)
「平地・山岳湖沼における近過去ーミジンコ属の個体群構造の変遷復元ー」
過去の環境変化の痕跡はその影響を受けた生物の遺骸に残ると期待される。そこでミジンコ休眠卵鞘により
過去個体群を再現し変遷の要因解明を試みた。平地と山岳の計 6 湖沼の堆積物中の卵鞘で深度別に定量的・
遺伝的解析を行った。平地湖沼では過去の急激な増加と減少、現生と異なる遺伝子型の存在が確認された。
山岳湖沼では遺伝的な変化は無くミジンコは増加傾向にあった。平地の漁業等に伴う移入・絶滅や捕食圧変
化および山岳での富栄養化等の影響が結果から示されたと考えられる。 熊谷仁志(東北大・生命科学)
「ミジンコ個体群の遺伝的組成:越冬様式と遺伝的多様性の経年変化」
ミジンコ属は通常は単為生殖で繁殖するが、環境が不適になると有性生殖により休眠卵を作る。環境の厳し
い冬期には休眠卵で越冬するが、中には浮遊状態で越冬する個体も存在する。浮遊越冬個体は即座に繁殖可
能なため、春季個体群創設の上では休眠卵越冬個体よりも有利であると考えられる。もしそうならば、遺伝
的多様性は低く、遺伝的組成は毎年近くなると考えられるが、そういった知見は乏しい。そこで、ミジンコ
個体群の季節的、経年的な遺伝的組成の変化を調べた。その結果について発表する。
宋美加(東北大・生命科学)
「日本のミジンコDaphnia pulex 個体群におけるmtDNAのmicroevolution」
Panarctic D. pulex は世界的に分布しているが地域性を欠いている.日本の D. pulex 個体群の進化的およ
び歴史的な起源を調べるために,mtDNA の配列を元に系統樹を作成した.またマイクロサテライト遺伝子座
を用いて核遺伝子型も決定した.その結果,日本の個体群からは4つの系統が見つかったが,そのうち2つ
は少なくとも数千年前に北米から移入し日本で遺伝的に多様化しており,もう2つはおそらくごく最近日本
に移入してきたことが示唆された. 占部城太郎(東北大・生命科学)
「実験生態システムとしてのミジンコ:温暖化と多様性機能研究から」
ミジンコ類は湖沼生態系を特徴づけるキーストン生物であり、世代時間が短く飼育も容易であることから、
生態系研究のみならず生態理論の構築や実証実験においても中心的な生物として扱われてきた。本講演では、
その例として、地球環境変化や生物多様性の機能に関する実験研究について紹介する。 豊田 賢治(総研大・基生研)
「ミジンコの環境性決定機構の解明」
地球上の生物が示す多様性と可塑性に富んだ性決定機構は、性染色体の構成に起因する遺伝性決定と外部環
境によって惹起される環境性決定に大別される。遺伝性決定はこれまで多くのモデル生物でその分子機構が
解明されてきたが、環境性決定については最適なモデル生物を欠いているためほとんど明らかとなっていな
い。本発表では環境に応じて雌雄を産み分けるミジンコをモデルに、環境依存型性決定の分子機構の解明に
取り組んでいる現状を報告したい。
蛭田千鶴(総研大・基生研)
「ミジンコ Daphnia pulex の生殖様式」
ミジンコは、環境の変化に応じて単為生殖と有性生殖を使い分けている。単為生殖では、第1減数分裂後期
に分裂が停止した後スキップし、第2減数分裂に相当する分裂のみが起こる(Hiruta et al.2010)。一方、
有性生殖では、第1減数分裂中期または後期で受精を待ち、受精後に第1減数分裂が完了し減数すると考え
られているが、実際の受精のタイミングや減数分裂過程の詳細は明らかではない。本発表ではミジンコの生
殖様式とその切換え機構に関する最新の知見を報告する。 角谷絵里(総研大・基生研)
「オオミジンコの生殖周期を制御する内分泌機構の解明」
生物にとって生殖周期の制御は種の存続に関与する重要な問題である。成体においても継続的に脱皮を
おこなうミジンコ類では、排卵・胚発生周期は成体の脱皮周期と正確に同期することが知られている。
我々は現在、このミジンコ類の正確な生殖周期を制御する内分泌機構を明らかにすべく、節足動物にお
いて主に脱皮・変態を制御するホルモンである脱皮ホルモンに着目して研究をおこなっているので、そ
の進捗について発表したい。 宮川一志(総研大・基生研)
「節足動物類における幼若ホルモンの受容機構とその進化過程の解明」
幼若ホルモン(JH)は節足動物類において、脱皮・変態・生殖など様々な生命現象のへの関与が知られてい
る多機能性のホルモンであり、複雑な生活環の獲得と多様性の創出に寄与してきた主要な内分泌因子である。
今回我々は、節足動物類において JH 経路がどのようにして進化してきたかを明らかにするために、甲殻類で
あるミジンコより JH の受容体を単離しその性質を昆虫類の JH 受容体と比較したので、その結果を発表した
い。 メモ