西陣織を用いたファッションデザインの提案

西陣織を用いたファッションデザインの提案
900322008
卒業制作発表梗概
三橋研究室 木下美香
1.
研究の背景と目的
.研究の背景と目的
景気低迷が続き、和装離れも進む中で、西陣の和装
業界は新たな活性化が求められている。例えば、西陣織
の工程のひとつである意匠紋様業界は注文主である織屋
さんの景気変動の影響を受けやすく、現在は、最盛期
だった 1965 年前後の三分の一ほどに注文が落ち込んで
いる。その中で当業界は、これまでの受注作業一辺倒か
ら脱皮し、オリジナルの伝統紋様をベースにした新製品
を開発、販売する試みに挑戦している。
一方、若者の間で人気が高まっているアンティーク着
物は、安い値段で手に入り、一万円もあれば一式揃えて
しまえるものもあり、洋服を買うように気軽に着物を買
うことができる。このように、手に入りやすいアン
ティーク着物をもっと自由に自分のファッションに取り
入れようという動きが出てきている。アンティーク着物
を現代のファッションとして捉える若者向けの雑誌など
も発行され、今は一種のブームとなっている。
この傾向は、若者が条件さえ合えば着物感覚を生活に
取り入れて楽しみたいという潜在的ニーズのあらわれと
いってもいいのではないだろうか。
若者にとって、和服を身につける機会は大変限られて
おり、今までに着物を着たのは七五三と成人式、お祭り
の浴衣くらいという人も少なくないが、伝統的な柄や素
材を普段の生活に取り入れる贅沢感や、パーティーなど
特別な時に身にまとう楽しさをもっと感じたいと思って
いる者も多いだろう。
私は、西陣織の他には見られない特質や魅力を、その
ような現代の若者のニーズに受け入れられるものとして
創造・提案することができると考えた。特に、ファッショ
ンデザインとしてどのように取り入れられるかを考え、
西陣織を用いたファッショングッズのデザイン検討や
ファッションデザインのイメージ検討を行い、最終的に
は西陣ファッションの試作提案につなげていきたいと考
えている。
.研究のプロセス
2.
研究のプロセス
西陣の現状を把握・理解し、制作をすすめていくため
に、以下の検討を行った。
1)
意匠紋様業界で働く紋屋さんにインタビューを行い、
消費者と直接つながる生産・流通・販売システムの重要
性、ネクタイやインテリアなど新しい分野の商品開拓の
試みなどについてうかがった。それらから、現代の若者
の感覚に合致した西陣ファッションの創造の必要性を痛
感した。
2)西陣織素材を生かしたベルトやアクセサリー、家具
などのグッズ提案を約 50 点スケッチした(上図)
。
3)龍村美術織物の仕事場を見学し、西陣織産業のアー
ト分野での貢献の可能性について実感した。
4)ファッション雑誌の切り抜きイメージをもとに、西
陣生地を活用した商品化提案を行った。
5)つづれ織の職人さん(20 代の女性 5 名)へのインタ
ビュー調査を行った。
「伝統産業の仕事に関わる若い人が
増えることで、若者の伝統産業に対する関心や興味が出
てくるのではないか。
」という意見を聞き、若い女性によ
る伝統的織物産業の活躍の場を作ることへの重要性を感
じた。
6)西陣織を使ったファッションデザインの試作とイ
メージ写真の撮影。
3 . グッズからファッションへ
ファッショングッズというよりも、服としてのほうが
取り入れられやすいと考えた。なぜなら椅子やテーブル
などは一つ持っていればそれで十分であり、そのぶん購
入する際に、選ぶのにも慎重になりがちである。そして、
西陣織を使ったグッズを気に入ったとしても、結局は
ベーシックなものを選びがちである。
しかし、服や靴、鞄ならば、何個持っていてもいいし、
その日の気分によって選べるため多少めずらしいものや
派手なものでも思いきって買ってみようとなりやすいの
である。
そこで、私は西陣織の素材を用いて服を作ろうと考え
た。
4 . デザインコンセプト
1)西陣織素材がそれだけで、
華やかだったり派手だった
りするので、服の形はあまり変わったものにはせず、ベー
シックなものを選ぶ。
Women s ワイドパンツ
黒をベースに金と緑、朱、水
色の5色の糸で織られた西陣
織のワイドパンツ。全体的に
渋い色なので、上品に着こな
せる。
Women s ワンピース
朱赤に紅色と薄紫色の花柄。
葉模様には黄色と緑が使われ、
ポップな印象。布地のかわい
らしさを生かしてミニ丈の
シャツワンピースを制作した。
6 . まとめ
女性物を5点(スカート、パンツ、ワンピース、ショー
トパンツ、パーティードレスを各1点)
、男性物を3点
(シャツ、パンツ、コートを各1点)の合計8点制作した。
着用してもらったモデルさんの感想として、
「普段は
地味な色の服ばかり着ているので、作品を見て、着るま
では勇気がいったけど、着てみたら華やかな生地の服の
影響で楽しい気分になった。」「着用すると、意外とカ
ジュアルにも着こなせて西陣織が身近な素材になった。
」
1) 西陣織の柄選び。伝統的な花柄や、ポップにアレン
「西陣織素材の感触が独特なものであり、興味を感じ
ジされた花柄、オリエンタル柄、唐草模様の入ったユ
た。
」などの意見が聞かれた。
ニークな柄など、西陣織の様々な表情を見せることので
今回の制作を通して、コスト面での課題はあるもの
きる布地を選び、計8点購入した。
の、改めて西陣織の美しさに触れるとともに、現代の
2)スケッチ。ファッションに興味とチャレンジ精神の
ファッションに取り入れられる可能性を感じた。
ある男女に向けた服のデザイン。太いパンツや、後身頃
この制作が西陣織の今後の発展の一助となることを期
に黄緑色のギンガムチェックの布を使ったデザインなど。
3) 型紙検討。デザインスケッチに合った型紙を選定。 待する。
参考文献
襟の大きさやパンツの太さなど、細部の調整をする。
1)協同組合西陣紋様同志会:
「西陣紋様史」
、1998
4)裁断。
2)三橋俊雄:
「組合情報ネットワークとデザインセンター」協同組
合西陣紋様同志会、2001
5)縫製。西陣織はほつれやすいため、縫いしろのしま
3)
「KIMONO姫 キモノ作家編」祥伝社、2003
つに気をつける。
4)文化出版局:
「私のソーイングボックス10メンズウェア」
、1999
6)仕上げ。服に合ったボタンやホックなどをつける。
5)月居良子:
「レトロが素敵な服」文化出版局、2003
7)写真撮影。できあがった服のイメージに合うモデル
6)矢島タケシ:
「矢島タケシのどこかが違う僕の服」文化出版局、
2000
を設定し、全身のコーディネイトを考えて、写真を撮る。
2) 普通の日に着ても違和感のないように、
服の中で西
陣織素材が占めるボリューム感に十分配慮する。
3) 西陣織素材の服で全身をかためるのではなく、
他の
服と合わせることにより一層、リアルクローズとしての
提案を目指す。
4)西陣織の華やかさを女性だけの物にしておくのは勿
体無いので、男性もターゲットに加え、数点制作する。
5 . 制作のプロセス