小学校体育科4学年「サッカー型ゲーム」

小学校体育科4学年「サッカー型ゲーム」
指導者
長井
隆樹
この授業では、以下の二点を重視した授業を展開する。一つ目の「○○型ゲーム」では、サッカーとは異なり
児童が自由な発想でゲームのルールを作り、みんなが楽しめるゲームを作り上げるという学び方を重視する。二
つ目は 、より意欲的に学習が行えるよう 、運動に対して抵抗感をもっている児童が抵抗感をもたずに運動ができ、
得意としている児童が思いきり動ける状況を設定することである。
二つ目の点においては、競争型のゲーム(勝敗にこだわったゲーム)とレクリエーション型のゲーム(勝敗に
こだわらないゲーム)のどちらかを選択させ、自分の希望するグループでゲームを行えるようにする。このよう
な場を設定することで、能力が異なる児童で構成されたチーム(異質グループ)での学習がより楽しくなり、多
くの児童が満足感をもてると考える。
Ⅰ
学習指導案
1.単元名 「キミもストライカー!めざせ!ワールドカップ」(サッカー型ゲーム)
2.指導の目標
・自分なりに楽しめるルールを考えることができる。
・児童一人ひとりが有能感・満足感をもちながら主体的に活動し、サッカー型ゲームを楽しむことができる。
3.単元と児童
(1)指導内容
○今までの指導
【運動意欲を高めるために(基本の運動では)】
これまでの学習では、まず、運動に対しての意欲を高めることに重点を置いてきた。そして 、「できないから
悪い」や「できるから優れている」など技能面にこだわっていた児童に対して、自分と他の児童を比べて判断す
るのではなく、「自分なりにどこまでできたか」を判断の基準として学習を展開してきている。
例えば「浮く・泳ぐ」の学習では、その評価の観点を「個々の児童がどれだけ伸びることができたか」に置き
自分の進歩を児童の判断材料とした。また、この際、遊びながら基礎・基本を学べるような学習を展開し、知ら
ず知らずのうちに自分の泳力が高まっているように配慮した。この結果、児童は自分のがんばりと自分の伸びを
自ら大きな喜びとして味わうことができた。
また、
「 走・跳の運動」では、「だれが速いか 」ではなく、「自分がどれでけ速くなったか」を判断基準とさせ、
自分の高まりを喜び、友達の高まりを高く評価するようになった。
このような学習の展開により、児童は「友達と比べ優れている。あるいは、劣っている」という判断をするの
ではなく 、「自分がどれだけ高まったのか。伸びたのか」を判断の基準とするようになり、運動が得意な児童も
不得意な児童も自分なりに運動することの喜びを味わい、自分を認めるとともに友達を認めるようになってきた。
【運動意欲を高めるために(ゲームでは )】
3年生の体育学習では、ベースボール型ゲーム・サッカー型ゲーム・バスケットボール型ゲームの三つの運動
を行い、4年生では、ベースボール型ゲームを学習している。
ベースボール型ゲームの学習では 、「みんなが楽しめるゲーム」を目標に「ルールと場や用具の工夫」を行っ
た。
野球少年団に所属している男子児童が多いことから、どうしてもチャンピオンスポーツとして確立しているル
ールの適応を強く望む男子児童が多かった反面 、「みんなが楽しむという目標とずれる」との反論も強く、話し
合いの結果 、「自分たちの力にあったルール作り」を優先することとなった。
このような学習で、児童は 、
「 ○○型ゲーム 」という運動の領域がどのように学習するかという学び方を知り、、
チャンピオンスポーツのルールにとらわれず自由な発想でルールを作り、また、力の高まりによりルールを自由
に変更することを修得した。
さらに、3年生では、異質グループでの学習をより有効にするために、サッカー型ゲーム・バスケトボール型
ゲームで、ゲームへの参加目的を選択させた学習(等質グループ)を行っている。
参加目的の選択とは、勝敗にこだわり競争型のゲーム様相を希望するのか、あるいは、楽しくレクリエーショ
ン型を希望するのかの選択である。
つまり、児童は昨年度二つの単元で参加目的の選択(競争型・レクリエーション型)を経験している。児童は 、
自分が十分楽しめるグループを選択していた。「自分が十分に楽しめる」とは 、「自分の力に適している 」こと
が大切である。しかし、決して、教師側から子供たちの能力を輪切りにして、グループ分けをしたのではなく、
あくまでも児童が自分の力を考慮してゲーム様相を選択していた。
レクリエーション型ゲームを希望した児童は「運動すること自体」に自信がなく、意欲が低いため「激しいゲ
ーム」に対して「自分には無理だ」と強い抵抗感をもっている。また 、「どうせ自分なんて」と劣等感のような
感情を抱いている場合が多く、運動に対しての意欲が始めから低い状態にある。このような児童は、レクリエー
ション型を選択したチームメートや対戦相手とゲームをするまでは、「和やかなゲーム」をイメージしてゲーム
を始めた。しかし、実際はかなり激しいゲーム様相となっていた。
このようなゲーム様相になる要因は、全てゲームを行う児童の気持ちが等質グループという状況設定で大きく
変化したためである。
「どうせ自分なんて」とか「自分がやらなくても」という気持ちが 、「自分もできる」や「自分がやらなくて
は」という気持ちに変化していったからである。
また、運動を得意とする児童が運動を苦手とする児童を軽んじたり、苦手な児童が劣等感をもつこともなかっ
た。
等質グループごとのゲームで一人一人の児童が、有能感や達成感・成就感などを味わい、体育学習に対する意
欲が高まり、このことで個々の児童が「上手になった」という自覚をもてるに至った。実際には、限られた時間
内にあまり技能が高まることは期待できず、あくまでも児童が「上手になった」と感じているにすぎない。しか
し、この「上手になった」と自覚できることが大切であり、ゲーム領域の楽しさを味わう上で重要な要件である
と考える。
【基礎基本の獲得のために】
克服型の水泳・器械運動などに発展する基本の運動では、楽しみながらそれぞれの運動特性に触れさせ、基礎
基本の必要感をもちながら、意欲的に運動ができるように学習を展開した。そして、「自分なりにできる喜び」
を体感させながら有能感・満足感を味わえるようにした。
この際、児童が主体的な学びができるように、学習カードの活用を行い 、「自分の力にあった技」への挑戦や
「技の高まり」を中心に授業を展開した。また、マット遊びでは、基礎基本となる「着手」に主眼を置き、前転
や後転を確実にできるよう場の工夫や教師の師範・補助で学年のほぼ全員がこれらの技を修得できるに至った。
また、ゲーム領域では、児童が「もっと上手になりたい」「上手になれば、作戦がうまくいく」と児童側から
練習を希望する声がとても多く出され、意欲的に練習を行った結果ゲームに必要な基礎基本的な技能を獲得して
いった。
【目的別の編成について】
新潟大学大学院に在籍中に、高学年ボール運動領域の意識調査を行い(調査対象:新潟市内高学年児童403
名)ボール運動に対する意識を明らかにした。
その結果、「ボール運動が苦手である」と認識している児童の多くが 、「ボール運動を得意としている 児童」
との関係から、動きが抑制されているという問題点が明らかになった。そこで、この問題点を解決するために高
学年では、スキルテストなどの導入で能力別のグループ編成で授業を行ったところ、ボール運動が苦手な児童の
動きがより活発になり、能力の異なる児童で構成された異質グループでの関わり方が好転した。
高学年ボール運動領域へとつながる中学年ゲーム領域( サッカー型ゲーム)では、その発達段階を考慮し、
「目
的別」での授業を展開した。また、この実践の効果を検証するために、従来の異質チーム(能力の異なる児童で
構成されたチーム)での授業を同学年で行い、比較・検討した。この結果、従来の異質チームで単元を通した学
習よりも、目的別グループを導入した方が、児童の動きが活発になり、満足度が高いことが明らかになった。
なお、目的別グループの構成メンバーをみると、実際は能力別のグループ編成となっていた。
○本単元の指導内容
本単元に関わる新指導要領の内容は、次の通りである。
ゲーム
(1 )技能の内容
バスケットボール型ゲーム、サッカー型ゲーム及びベースボール型ゲームについて、友達と規則を工夫
し、簡単な技能を身に付け、ゲームを楽しくできるようにする。
aバスケットボール型ゲーム
コート内で攻守が入り交じってボールを手で扱い、簡単な技能を身に付けて、ゲームが楽しくできるよ
にする。
ア.ドリブルやパスをして攻め、早くもどって守るようなゲームをする。
イ.空いているところへドリブルをしたり、方向を決めてパスをしてボールをつないだり、シュートをし
たりするなど簡単な技能を身に付ける。
【ゲームの例】
(ア) ゴールの広さ、高さなどの条件や場を工夫したゲーム
(2 )態度の内容
規則を守り、互いに協力してゲームを行い、勝敗を素直に認めることができるようにする。
ア みんなで規則をつくり、それを守り、互いに協力してゲームをする。
(ア) 規則を守り、審判の判定に従って公正にゲームをする。
(イ) ゲームの作戦や練習の仕方を決め、協力してゲームや練習をする。
(ウ) チームにおける互いの役割を決め、最後まで力いっぱい練習やゲームをする。
(エ) 互いに役割を分担し、ゲームをする場所の整備、用具の準備や後始末をする。
(オ) ゲームの開始前、終了後に、相手チームに整列してあいさつをする。
イ 勝敗を素直に認める。
(ア) 見方の失敗を許し合い、失敗した友達を励まし合ってゲームをする。
(イ) 審判の判定を素直に認める。
(3 )学び方の内容
チームの課題をもち、簡単なゲームを工夫することができるようにする。
ア ルールや活動の場を選んだり、工夫してゲームをする。
イ チームで簡単な作戦を立てて、楽しくゲームをする。
○今後の発展
生涯体育・スポーツの観点から考えると小学校の体育は、その入口であり、中学年は初めてスポーツを教材と
して学習する時期である。
人生 80 年と言われている現在、学齢期における運動との関わり以上に、その後の運動との関わる時間の方が
遙かに長い。
スポーツ先進国といわれている世界各国、例えば、ドイツなどでは小・中学校の時期には、チャンピオンスポ
ーツ的な運動との出会わせ方以上に、運動を楽しむことに重点が置かれた社会体育が実践されている。
我が国ではトレーニングセンターを設け、選手の強化や選手の早期発掘に力を注ぐ一方で、多くの国民が運動
に親しめるようにと 働きかけている。学齢期以降に運動と関わっている成人の割合が欧米諸国に比べ低い現状
にあることから 、児童が生涯を通じて運動に接するように環境を整えること、そして気持ちを耕すことが重要
と思われる。「運動することが楽しい」と感じ、運動に対する意欲を高めることができれば、多くの児童を生
涯体育・スポーツへとつなげることができるからである。
また、小学校で出会う運動にも多くの種目があり、中学校以降に出会う運動も沢山ある。自分が生涯を通じ
てどの運動と接したいかの判断材料として、運動の特性を十分に味わっておくことが不可欠であろう。
本単元は、運動の楽しさを十分に味わわせ、楽しみ方を身に付けさせると共に、生涯体育・スポーツの入口
として有効に働くものと考える。
(2)児童の実態
○ 男子 22 名
女子 16 名
計 38 名
○教科・単元に対する児童の興味・関心と考察
①教科に対する興味・関心
体育学習において、自分なりの高まりが喜びとなったことから、体育に対しての興味・関心の高い児童が大
半であり、昨年度学習した克服型の「浮く・泳ぐ運動(水泳 )」「器械・器具を使っての運動(器械運動 )」など
のような運動や持久走などの肉体的苦痛を伴う運動については、当時抵抗感をもっていた児童も、現在では進ん
で運動に取り組むようになってきた。
また、友達同士で互いに認め合い、個々の児童が喜びや有能感を感じることがとても多くなっている。
さらに、友達を思いやる心も育ってきており、体育学習の場面で助け合いなども多く見受けられる。
②単元に対する興味・関心
サッカー型ゲームは、3年生で既に学習している単元であり、学び方等についてのある程度のレディネスが
ある。また、「○○型ゲーム」に対して「楽しい」と感じている児童が大半で、特に運動を苦手としていた 児
童に大きな意識改革が見られた。
しかし、バスケットボール型ゲームとは異なり、守りを専門にした児童を一人決めゴール前に張り付いた状
態にすることが多い。これは、「失点をしたくない」という児童の思いからであるが 、運動に対する消極的な
や姿勢を表している。
一方 、「ルールや場・用具の工夫」という点に関しては、「工夫することで楽しさが増す」との認識があり、
チャンピオンスポーツのルールにこだわらず意見を発表する児童が多い。特に、運動を苦手としている児童は、
「いかに自分が楽しめるか」が大きなポイントとなっているため、恥ずかしがらずに意見を出している。
技能的には、意図的にパスを出したり、シュートをしたりするまでには 至っていないが、「ボールを蹴った
方向に走る」ということが多くなり、積極的にボールに触れようとしている。このため、ゲーム全体が「団子
状態」で進むことが多いが大切な学習であると認識し、肯定的に捉えている。
バスケットボール型ゲームでは、「作戦を意識すること 」「作戦を成功させること」がチームの勝利に大きく
関わっていると認識していた。「手」を使うバスケットボール型ゲームとは異なり、思い通りにならない「足」
を中心としたゲームのために意図的なパスやシュートはほとんどできない。しかし、これまでの学習から、「作
戦を選択したり、意識したりする」ことは十分に考えられる。
以上、体育・サッカー型ゲームに対する興味・関心から考えて、多くの児童が積極的に運動を行うと考えら
れる。また、3年生での経験を生かした学習が期待できる。
○本時の指導内容に関する児童の実態と考察
すでに児童は、目的別のグループ編成をもとにしたチームでのゲームを3年生(サッカー型ゲーム・バスケ
ットボール型ゲーム)で経験していることから、抵抗感をもたずに本時の学習を行えると思われる。
また、同じ時間内に異質グループ、等質グループで行う授業もすでに経験していることから、この点も問題
なくある程度スムーズにチームを変更することができると 思われる。さらに、異質グループから等質グループ
へと変わることで、十分に自分の力を出せなかった児童やゲームに消極的だった児童が思いきり動くことが可
能になり、大きな変容が期待できると考える。
昨年度行ったバスケットボール型ゲームでは、「目的別に等質なグループ」での学習の方が児童の満足度が
高いことが、アンケートの結果から分かっている。さらに、「目的別に等質なグループと目的が異なる異質グ
ループ」での学習をスパイラルさせることで、満足度が次第に上がっていることが分かっている。
また、このような状況は、レクリエーション型を選択した運動を不得意としている児童に顕著であり異質グ
ループでのゲームに対しても満足度が高まっていた。一方、競争型を選択した運動を得意としている 児童は、
「等質グループでのゲーム」に高い満足度を示していた。
レクリエーション型を選択した児童が等質グループでのゲームばかりではなく異質グループでのゲームに対
して満足度が高まった要因として、ゲームに積極的に関われる状況の設定により、技能の向上や運動の特性に
触れたこと、また、これらから有能感を体感することができなどが考えられる。
また、競争型を選択した児童が異質グループでの学習以上に等質グループでの学習で満足度が高い要因は、
異質グループでは、遠慮することなく個人の力を十分に発揮でき不満がなくなった状況であったと考える。し
かし、異質グループでの満足度が授業の始めに比べ大きく変わっていることから、等質グループでゲームを行
うことで、運動を苦手としていた児童の意識や技能が高まったと考えられる。
(3) 指導の構想
①児童が抵抗感なく、サッカー型ゲームをするために
ア.ルールの工夫
サッカーには、オフサイド・トリッピングをはじめ様々な反則やルールがある。また、サッカーは手を使っ
てプレーすることができないゲームであるために不自由さを感じてしまうことも多い。
しかし、手以外の全ての部位を使ってゲームを行うために、ほぼからだ全体を使って行うゲームと言ってよ
い。
サッカーのルールは、規則が簡単で条項も他のスポーツに比べ少ないのが現状である。しかし、このために
反則等の適応が審判の判断にゆだねられ極めてファジーなゲームとも言える。例えば 、「ハンドリング」と言
う反則がこれにあたる。ルール上では 、「故意にボールを手で扱う」と示されているが、児童はボールが手に
触れただけで「ハンド、ハンド」とゲーム中に連呼し「反則だ」と指摘するケースが極めて多い。
ゲームは、流れが大切であり、流れが中断されることは「楽しさ」を削ぐこととなる。また 、「サッカーは、
ボールを体全体で扱う」といっても上半身をうまく使ってボールを止めたり、パスをしたりすることは一朝一
夕にはできない技術である。人間は、本能的に「目」や「顔」にものが飛んでくれば「目をつむったり、よけ
たりする」ものであり条件反射である。ボールが空中にある状態で上半身を使ってボールを扱うようになるに
は、別の条件反射を作らなくてはならず、これにはある程度の時間を要する。
そこで、ボールが空中にある状態では、「手の使用を容認」することとする 。これにより、若干の不自由さ
が解消され、意図的なボール操作も可能となる。
また、大人でも理解できない「オフサイド」などは全く採用せず 、「待ち伏せ攻撃」も容認する。
基本的なルールとしては、安全を第一に考え「殴る・蹴る」等の行為の禁止をあげ、その他は、ゴール位置
による得点の工夫としたい。また、基本的な考えとして「ルールは自分たちで作り上げるもの」と言う意識を
徹底することとしたい。
あ.はじめのルール
・ボールを手で触れない。 ・オフサイドはなし。
◎たたいたり、けったりしてはいけない。
・得点→ゴールに入ると1点と2点
・コートのラインあり
い.児童に適したルールの改善・改良(不自由さを感じたものややりにくさを感じたもの)
・腰より高いボールは、手でとっても良い。 ・コートのラインをなくする。
・全員がシュートをしたらボーナス点
・得点は、チーム全員がフロントコートにいた場合のみ
*点数については、児童の要望で適宜変更していく。
ア.人数の工夫
「サッカーは、11 人でやるもの」と決めつけず、できるだけ多くの児童がボールと関われるように人数を3
から4人を1チームとしてフットサル的なゲームを行う。また、ゴールの高さの関係から、手でボールを扱え
る「ゴールキーパー」を置かないこととする。
イ.場の工夫
コートの白線により、動きが規制されてしまう場合には、コートの白線による規制をなくす。
また、ゴールの数を複数にして攻撃の方向がより多くなるようにする。さらに、用具との関係もあり、ゴー
ルは、カラーコーンを使用する。また、人数との関係やできるだけボールと関われるようにとの配慮から、コ
ートの大きさは、バスケットボールのコートとする。
あ.はじめの場
・はじめのコートは、バスケットボールコート(白線の中)
・ゴールは、一対。
い.改善後の場
・コートの白線をなくす。
・ゴールは、二から三対(場所により、得点を変える)
ウ.用具の工夫
ゴールは、数や大きさが自由に変えられるカラーコーンを使用する。また、ボールは、安全性や操作性を考
慮しバレーボールを使用する(ゴム製のサッカーボールは体育館の床との摩擦が大きく児童がボールの上に乗
り骨折の可能性がある。また、合皮のボールは、重く中学年の児童には、扱いにくい)。
*目的別グループでのルール・場・用具は、グループ毎の要望に応じることとする。
②基礎基本の定着を図るために
運動の基礎基本を確実に定着させるためには、動きを知り、その動きを条件反射的に行えるところまで反復
練習(ドリル学習)が必要となる。
しかし、このような学習のみを単元全体に取り入れることは、時間的に困難であり、また、児童の興味関心
を損なってしまう可能性が大きい。
そこで、本単元では、基礎基本定着を以下のように設定し授業を展開する。
・自発的に動く
・「上手になりたい」という気持ちをもつ
・ボールを怖がらない
・常にボールの動きに反応する
・動いているボールを蹴ることができる
上記のような内容を4年生のサッカー型ゲームにおける基礎基本と設定し、以下のような構想でその定着を
図る。
基礎基本を定着させる具体的な方法
・ゲームを中心に授業を行う。
・チーム内の話し合い活動で互いの動きを相互評価し合う。
・児童の要望により、スキル練習を教師が提示する。
・目的別グループ毎のチーム編成でゲームを行う時間を設定する。
4.研究との関わり
「自ら学び、自らから考える力を育てる学習指導の在り方」という研究テーマは、体育学習で大切にしている
「生涯体育・スポーツ」と密接な関係にある。
生涯体育・スポーツを児童一人ひとりに実践できる力をもたせるためには、自己教育力の獲得と運動の学び方
や関わり方を知ることはもとより、運動の特性とその楽しさを十分に体感させてあげる必要がある。
本単元及びその他の単元においても全て「運動の楽しさの体感」と「運動の学び方」を重点に体育授業を構想
している。そのための手だてとして本単元においては「ルール」「場」「用具」の工夫や目的別グループ 編成で
行うゲームを学習過程内に設定することを行っている。
これらの手段をとることで、児童一人ひとりが運動の楽しさを味わい、自発的あるいは主体的に運動に取り組
むものと考える。
研究テーマにある「自ら学び、自ら考える力」とは、その背景に体育学習に対するモチベーションの高まりが
必要不可欠であり 、「ルール」「場 」「用具」の工夫と学習過程の工夫が体育学習に対するモチベーション高める
ことになる。
また、「ルール」の工夫は、児童自身が「どのように楽しむか」を考えることでもあり、まさに「自ら考える
力を育てる」ことと同一であると考える。
5.指導計画(全8時間
次 時間
1
2
本時3/8)
学
サッカー型ゲームを試す
習
活
動
○オリエンテーション(0.5)
・チーム作り:異質グループ(1チーム3名)
・はじめのルール提示
○試しのゲーム(0.5)
・動きにくい点、やりにくい点をゲーム後に出
し合う。
○ゲーム(1)
・ルールの工夫①
↓
・ゲーム
↓
・ルールの工夫②
↓
・ゲーム
↓
4年1組のルール
2
5
運動に対するモチベーションを高め (本時)
る。
○異質グループでのゲーム1(3分×2)
○等質グループ(目的別)でのゲーム2(3分×2)
*適宜ルールを変更する。
○等質グループ(目的別)でのゲーム
(2)
○ゲームを等質グループと異質グループでスパイラル
(2)
等質グループでのゲーム
↓
*1時間の流れ
異質グループでのゲーム
3
1
高まった力を合わせる。
○異質グループでのリーグ戦を行う。
6.本時の指導 (全8時間 本時4/8)
(1)ねらい
作戦を意識しながら主体的に動き、自分たちの力にあったルールや場を考えることができる。
(2)展開
教師の働きかけ
児童の反応
指導上の留意点
1.ルールを確認しよ
う。
・コートの線はなし。
・ゴールによって点数が違う。
・高いボールは手でキャッチしていい。
・チーム全員が真ん中の線より前にいないと得点になら
ない。
・2番の「長いパス」を使おう。
・3番の「後ろにパスをして前へ」にしよう。
・8番の「反対がわにパス」にしよう。
・6番と7番を使おう。
○全体でルールを確認する。
2.作戦を決めよう。
3.ゲーム1をしよう。
(異質のチーム)
4.ゲーム1の反省を
しよう。
5.ゲーム2の作戦を
選ぼう。
5.ゲーム2をしよう。
(等質チーム)
*各チーム3分×2
回の前後半
6.対戦相手を考えて、
作戦を立てよう。
(3)評価
・友達がもう少しシュートを入れてくれるとい
いな。
・ボールにあんまりさわれないな。
・私もシュートがしたいな。
・作戦がうまくいかないな。
・上手な人ばっかりがやっておもしろくない
な。
・自分の所にボールが来たら困るな。
・作戦がうまくいったな。
・作戦がうまくいかなかった。
・同じ人ばかりがシュートをしていた。
・思うように動けなかった。
・1番の「広がろう」にしよう。
・2番の「ドリブルを多くしよう」にしよう。
・シュートのうまい人がいるから4番にしよう。
・シュートが強い人がいるから、3番にしよう。
・前のゲームより、やりやすいな。
・さっきよりもボールにさわれるぞ。
・前のゲームより、思い切りできるぞ。
・同じ力の友達だよやりやすいな。
・いっぱいシュートをするぞ。
・相手の作戦は良さそうだ。
・作戦がうまくいかないから変えよう。
○長いパスをたくさん使おう。
○かたまらないようにしよう。
○5番の「ドリブルを多くしよう」と2番の「長いパ
ス」を使おう。
○8番の「反対がわにパス」を使おう。
○6番の「パスを多くする」を使おう。
○異質チーム毎に作戦を確認
させる。
また、提示したカードにあ
る作戦の細かい動きも合わ
せて指導する。
○兄弟チームを決め、兄弟チ
ームのゲームを観察させ
る。
*計 12 チームを作る。
試合時間 3分
2コートを使用する。
○良いプレーやその児童なり
にがんばりが見られたら賞
賛する。
○チームの動き、個人の動き
と作戦のできについて反省
させる。また、兄弟チーム
からのアドバイスも参考に
させる。
○チームの構成メンバーを考
えた作戦を選ばせる。
○作戦を意識した動きになる
ように、声をかける。
○兄弟チームからも作戦を意
識するように声がけをさせ
る。
○兄弟チームがカードにアド
バイスを書くようにする。
○勝敗の原因を考えさせ、良
かった点を自覚させるとと
もに、改善点を考えさせる 。
また、この際、適切な作戦
を選択するよう支援する。
○新しく選択した作戦は、学
習カードに赤ペンで記入さ
せる。
作戦を意識しながら主体的に動き、適したルールを考えることができたか。
Ⅱ結果と考察
1.楽しめるルール作り(場の選定を含む)について
チャンピオンスポーツにおけるサッカーのルールを全て理解している児童はいなかった。また、3年生で「バ
スケットボール型ゲーム」や「サッカー型ゲーム」「ベースボール型ゲーム」など「○○型ゲーム」などを既に
経験していたこともあり教師が提示したルールを自然に受け止め、授業が始まった。
体育館で行った本単元の授業では、児童はまずはじめに、コートのラインをなくし体育館内を自由に動けるこ
とを要求した。これは 、バスケットボールコートを使用したためか 、
「はじめのルール」にあるコートの制限(ラ
インあり)に対して不自由さを感じたためである。
この場の設定についてのルール変更により、ゲームが中断することなく、よりスムーズなゲーム展開が可能と
なり多くの児童がゲームを楽しく感じるようになった。コートのラインによる制限をなくすことは、3年生のバ
スケットボール型ゲームですでに体験している変更であり、3年生での「○○型ゲーム」での学習におけるレデ
ィネスが生きたと言えよう。
4年生の児童は、コート全体を見渡して効率よく動くことがまだできない。このために、児童の意識はゲーム
中にはボールに集中し、自然の「団子状態」が出現する。そして、ボールをいち早く「ゴールへ運ぼう 」「ゴー
ルに入れよう」と前方への蹴り合いが行われる。しかし、いくらボールを蹴っても目の前に相手チームの児童が
集まっているために、思い通りにはボールを前方へ運ぶことができない。児童がゲームに慣れるに従い、これが
顕著となり、得点があげられなくなった。
このような状態を解消するためには、児童の意識改革が必要となる 。「数的優位」を意識させるために「グリ
ッドコート 」などの導入も行われているが 、根本的な解決にはつながりにくいと考え、コートの変更を提案した。
提案されたコートを試してみたいとの要望が多く、コートの四隅にそれぞれゴールをおくフォーゴールコート(図
1参照)で行った。
この結果 、「団子状態」が少しずつ解消し、得点や得点の機会が増え
●
○
た。そして、ゲーム経験をする毎に、コートを広く使った攻め方が見ら
ゴール
れるようになった。
●
○
ボールゲームでは、これまでの「1チーム3人」という実践が行われ
その効果も認められている。本単元においても、同様の人数構成とした
が、チーム内における一人一人の役割が非常に重要となり「全員攻撃、
●
○
全員守備」が繰り広げられ、少ないゲーム時間内でも運動量が十分に確
保されていた。「1チーム3人」と合わせフォーゴールコートでのゲー
●
○
ムの効果もあったと考える。
しかし、安全面や発達段階を考慮してバレーボールを使用したためか、「高いボールは手で捕りたい」という
意見が出され採用されたルールについては、ボールが高くバウンドしないことや児童が反射的に高いボールから
逃げるなどの動きが出現したために、実際はほとんど効果のないルールとなっていった。
2.目的別に等質なグループでのゲームについて
競争型のゲーム(勝敗にこだわってゲーム)とレクリエーション型のゲーム(勝敗にこだわらないゲーム)に
分けてチームを構成し、同じゲーム目的のチーム同士で試合を行うことで、一人一人の児童の動きがより活発と
なり、意識が大きく変わった。
レクリエーション型のゲームを希望した児童も、実際のゲームでは、勝敗にこだわり激しいゲームが展開され
ていた。また、相手チームも自分たちと同程度の力のために、ある程度余裕を持ってゲームを行うことができ、
このことにより技能の向上が図られ、有能感や満足感を味わうことができた。
さらに、チーム内での話し合いも以前は受け身であった児童が、積極的に自分の考えを主張し、自分のできる
ことや自分たちのできることを考えて戦術を選択したり、戦術を組み合わせたりしていた。
目的別に等質なグループでの学習を経験することで、攻防一体となるサッカー型ゲームの特性に十分触れ、そ
の楽しさを味わった児童は、異質グループ(能力が異なる児童で構成された従来のチーム)でのゲームにおいて
も、他人任せにするのではなく各自が積極的に動くようになった。また、運動に対して苦手意識を持っていた児
童が自信を持って動くようになったことで、運動を得意とする児童が、安心してパスを出せるようになるなど、
チーム内の関係が円滑なものとなった。つまり、運動を得意とする児童も苦手とする児童も互いのプレーや意識
を認め合うことができるようになったと考える。
さらに、以前から「自分よりも上手な人」と認識していた友達から認められ、一緒にゲームができることで大
きな満足感を得ることができ、ゲームの楽しさをより強く体感することができたと考える。
本単元では 、「児童の自由な発想でのルール作り」と「目的別に等質なグループでのゲーム」を学習過程内に
取り入れることで、運動の楽しさを十分に味わわせ、運動に対する意欲を高めることを目的とした。
しかし 、「児童の自由な発想」といっても、児童が自分たちの発想だけでルールを変更することはかなり難し
いのが現状である。児童からは、ゲームに対して満足できない点を心おきなく語らせ、少しでも多くの問題点を
しっかり出させることが重要となり、そのための手だてが今後の課題となる。また、単に「ルールを考えよう」
と言っても児童にはルールを変更するためのレディネスが乏しいことから、教師側から複数案を提示し選択させ
ることも必要となるのではないかと思われる。
今回の実践では、問題点を十分に出させる手だてや児童に提案するルール常に複数案とはいかなかったことか
ら、今後研究する必要がある。
資料1
サッカー型ゲームの作戦
こんなのがあるよ!!
1番
ひろがろう
長いパス
2番
○
○←仲間
○
○◎←ボール
◎○
3番
後ろにパスそして前へ
4番
いつも一人を前に
○◎
①
○
②
○
●
●
●
○
○
5番
ドリブルを多くする
パスを多くする
6番
○
②
○
①
○
○
7番
空いているところにパス
8番
反対がわにパス
●
●
●
● ○
○
◎○
*この人は、走る!!
●
○
● ○
○
資料2:児童の実態とめざす姿