写真集「神面(しんめん)」について

-写真集「神面(しんめん)」について-
この本は、宮崎県の面師、本井繁意氏の神楽面作品集の形をとりながら、宮崎県に伝わ
る神楽(かぐら)を中心とした、「祈りの文化」を広く知ってもらうために作られました。
(本編は全てカラー印刷です)
神楽
(かぐら)
は、その発祥を「古事記」に記されるように古くから日本人に慣れ親しま
れるお祭りの一つであり、また神事として重要な役割も担っています。
特に宮崎県椎葉村や米良山中の神楽は、神への「奉納」だけでなく、神がそこに降臨する
姿を体現する「シャーマニズム」の要素を色濃く残す原始的な舞いです。
そこで使われる面は「神面」と呼ばれ門外不出、神楽以外では人目にさらされる事はあり
ませんでした。
高千穂神楽が有名になった現在、宮崎の神楽は全国的に知られるようになりましたが、
出典が明らかな面を一般に公開することは今でも非常に稀であり、神楽に関わる人々の
「神面」に対する信奉意識は少なからず継承されています。
また、面が神そのものであるとされるため、面の修復や打ち直しを他地域で行えず、朽ち
果ててボロボロになってしまった面の扱いに苦慮する保存会もたくさんあります。
そのような状況の中、戦前からこの問題を抱えていた椎葉村の間柏原(まかやばる)神楽
保存会が平成5年、延岡市内藤家の能面を本面として能面打ちを行っていた本井氏に「面
の打ち直し」を依頼しました。この縁から本井氏は、椎葉村内の神楽面のうち十数点と、
米良山中「尾八重神楽」「中の又神楽」等の神面のうち二十数点を本面と同じ形で打ち直
し、神面の「再生」が成されました。
現在、宮崎の神楽では伝承してきた地域の過疎化にともなう継承者の不足や人々の価値観
の変化により「神楽の存続」が危ぶまれているところや、すでに途絶えてしまった神楽も
少なからず有ります。
地域の伝統文化の衰退は、宮崎に限らず全国的な問題ともいえるのではないでしょうか。
存続のために観光行政のアトラクションとして利用される一方で、日本文化の神髄が失わ
れていく危険性があるという矛盾も抱え、形の継承とともにその心の継承の大切さも大き
な課題として表面化してきています。
本書では、宮崎の山深い集落に残る日本人の原点の一つである土着文化に触れ、文化
性、芸術性に富んだ貴重な「神面」をご覧いただけます。面の大きさ等を正確に採寸掲載
し、また実際どのような神楽で使われるのか等の解説も含め、資料としても有用な形を目
指しました。尾八重神楽のページには実際の神楽舞を掲載し、面だけでなく神楽に関わる
人々の姿をみて頂く事が出来ます。
宮崎の山懐で執り行われる原始的な神事「神楽」、宮崎の秘境に伝わる「神面」をご覧
頂き、日本人の心や文化の源流を再認識していただければ幸いです。
写真家 生田浩