デンマーク サムソ島の自然エネルギー自活と課題 平成 20 年(2008 年)09 月 12 日 「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治 サムソ島!初めて聞いた島です。どこにあるのでしょうか。自然エネルギー100%自活の島とし て世界中から注目を浴びています。 去る平成20年'2008(7月28日、神戸の六甲アイランドで、'株(神戸まちづくりが主催する自 然エネルギーのセミナーがあり、デンマークのサムソ島環境エネルギー事務所所長ゾーレン・ヘ アマンセン氏の講演を聴くことができました。同氏によれば、同島は自然エネルギーにより、暖房 と電気エネルギーの100%自給自足を実現できているとのことです。ゾーレン・ヘアマンセン氏 の講演は、ユーモアたっぷりの判り易い英語レクチュアーでした。以下に概要を紹介しましょう。 1.サムソ島の概要と自然エネルギープロジェクト サムソ島は、面積114k平方メートル、人口4300人の島です。山らしい山のない島です。 2007年に電力自活が実現するまで、サムソ島はユトレヒト半島のデンマーク本土から電力供給 を受けていました。 写真 サムソ島位置図 1970年代のオイルショックを契機に、デンマークで原子力をめぐって論争が起き、その後省エネ と風力発電などの自然エネルギーにより化石燃料を減らす政策が取られ各地に環境エネルギー 事務所が設置されました。サムソ島事務所にはゾーレン・ヘアマンセン氏が初代所長として着任、 自然エネルギー100%供給プロジェクトが10カ年計画で1998年始まりました。エネルギー自活 の初の国家プロジェクトです。 この計画の基礎になったのが、ドイツ同様政府による立法に基づいた電力の固定価格買い取り 制度です。これにより民間投資を引き出すことができたのです。 2007年島で使う電気は島内'陸上(の風力発電で賄えるようになりました。1メガワット'1000 キロワット( の11基の陸上風力発電装置によります。陸上の風車のうち、2基は協同組合によ るもの、9基は各農家が個人所有しています。そして所有者の売電収入の一部は、島のエネル ギー開発のために充てられています。さらに海上には洋上風力タービンは10基で夫々2メガワッ トの出力があります。これらの風車は地域のコープ'生活共同組合、島民出資(、自治体、サムソ の小さな企業が所有し、デンマーク本土に売電し、収益を得ています。完全に炭酸ガスフリーの 島になったと言えましょう。 所要投資 このプロジェクトに大きな投資がなされています。10年間で合計5,500万ユーロ、約88億円'1 ユーロ=160円で換算(が投資されました。そのうちの4,700万ユーロ、約75億円は地域の家 庭、企業、自治体およびエネルギー関連会社が出資し、800万ユーロ約13億円はデンマーク政 府あるいはEUの予算から出ています。サムソ島民の数は4,300人であることから、島民1人当 たりの出資額は相当大きいですが、電気の固定価格買取制度が投資を引き出したのです。日本 にも期待したい制度です。 またサムソ島はかなりの寒冷地だが暖房用エネルギーの75%を自 然エネルギーでまかなうことができるようになりました。ウッドチップや藁を使うバイオマス暖房も ありその価格は石油と比べると1割程度。太陽熱も使う地域暖房のシステムをつくりこれで暖房 熱の25%をまかなうようになりました。離島に持続可能な社会が実現したことになります。 2. 課題=電気の質 安定電源 私は、自然エネルギー推進の立場ですが、風力&太陽光発電の場合、電気の安定性を如何に 確保するかが、重要な課題であると認識しています。ここでいう電気の安定性とは、供給の安定 性と電気の質つまり電圧と周波数です。我々の家庭で使っている電気は電圧が100ボルト、周 波数は西日本では60Hzが、高精度に維持されています。日本の電力会社の素晴らしい実力を 示すもので、世界一高品質でしょう。高品質の商品を生産できる工場の原点に高品質の電気が あります。また、家庭電化製品なども長持ちします。 風車は、風がないと回りませんし、あまり強風だと危険なので回転を止めます。太陽光発電装置 は夜間、雤の日は出力ゼロです。特に風車は羽根の回転から発電しますから、常に回転ムラが あり、電圧、周波数が変動してしまいます。電圧と周波数が変動する電気をそのまま使いますと 電気機器は不良動作を起こし、寿命も縮めてしまいます。 その点、太陽光発電装置は直流電気を作って、そこから100ボルトの交流に変換しています。ま ず電圧一定の直流から交流に変換するので、交流電気は安定しているようです。我が家でもソ ーラー発電電気はまず自家消費して余った電気を関西電力に売電しており、安定電源が必要な パソコンなども問題なく稼動しています。 私はヘアマンセン所長にこの電気の質を如何に確保しているのか質問しました。通訳などを交え、 概略判り得た答えは次のようなものでした。 (1)サムソ島内で発電した電気は全て、デンマーク本土に送られる。そして本土から安定電気が 送られてくる。 (2)デンマーク本土では、火力、風力などを使った発電所が安定電気を発電しており、それらによ って、また隣国のドイツ、スエーデン'原発も稼動中(などとも電気の系統連係を行なっており、さ らに欧州全体が巨大な電力ネットワークを構成しており、電気の質もそれによって維持されてい る。 ここで、私は、自然エネルギー100%の自給自足ではなく、自活だなと思いました。そこで表題も そのように致しました。サムソ島内で発電された電気は島内消費されていないのです。また自然 エネルギー発電が数%の段階なら良いが、これらは数割も占めるようになると電気の質の確保 には一定のシステムが要るなと思った次第です。 ここで私の元鉄道技師としての理解から風力発電の安定電源化について述べたいと思います。 電気鉄道の架線電圧はよく変動しているのですが、車上で安定電源を作り出しています。 3.新幹線電車の電源 東海道・山陽新幹線を疾走している電車の駆動電源は、架線を流れている単相交流=標準電圧 25,000Volt 周波数60Hzの電気です。私は新幹線の運転経験があり、列車の加減速により 実にその電圧はよく変動していることを知っています。25KVを中心に軽く上下1割は変動してい るでしょう。 そこで新型の電車では上記単相交流をコンバーターを使って一旦直流に変換し、その直流電源 をインバーターを通して三相交流電源を作って三相交流モーターで駆動しています。駆動モータ ーには、VVVF技術'Variable Voltage & Variable Frequency(が適用され、出力は電圧 の変化で制御し、列車速度は周波数変動によりモーターの回転数を変化させる方式で制御して います。この駆動電源は、架線電圧の影響を受け、多尐電圧変動を起こしていますが、モーター の場合、問題はありません。 しかし、制御装置や、列車保安の確保に欠かせないATC装置'Automatic Train Control D evice=列車自動制御装置(は、安定電源が欠かせません。ここで言う安定電源とは、電圧と周 波数が安定している電源のことです。ある。特にATCは、安全確保に絶対欠かせない保安装置 であり、その機能は安定電源によってのみ確保されます。 そこで制御電源は車上整流装置'静止型変換装置(を経由して低圧の直流電気を作りだし、それ をバッテリーに充電します。そしてバッテリーからインバーターを使って電圧100Volt 、周波数6 0Hz の安定した単相交流を作り出し、ATC電源、車内制御電源として供給するのです。 電気の流れを川に例えると解り易いでしょう。雤量によって変動する川の流れは水量が安定しま せん。そこでダムを作って水を貯め、その下にもう一つダムを作って上のダムから流れ込む水量 を制御して下のダムの水位を一定に保つことができれば、その下流では安定した川の流れを作 り出すことができます。下のダムが新幹線電車のバッテリーに相当します。 4.風力発電電気の安定化 風車を大規模に導入した場合、変動は大幅に緩和され、系統側の負担が小さくなります。 実際デンマーク、ドイツ北部、スペインなどにおいて、信頼性を犠牲にせずに電力供給量の2040%を風力で賄えることが実証されているそうで、今年3月22日、スペインでは40.8%もの電 気を風力で賄ったとの実績が報告されています。欧州の風の吹き方は日本より定常的のようで すね。それでも系統容量に占める風力発電の割合が大きい場合は、ある程度の蓄電設備を加え ることが必要となりましょう。日本では風力割合が1割以下なら、火力発電で安定化微調整を図っ ていると電力会社の方から伺いました。 しかし、大きな電力ネットワークでカバーする方式は、こ れから要求されるマイクロエネルギーの考えに反します。電気は遠くへ送るほど送電ロスが生じ、 熱となって空気中に逃げるからです。EU域内では国を超えた系統間連係ができていますが、日 本の場合、海を超えて韓国、中国と同様のことを行なえるでしょうか。太陽光発電はその点、自 家消費の割合が高くできます。 となれば、個々の風車や風車群単位で出力を安定化する必要があります。 インターネットのWikipediaに下記のような対策が有効であるとの情報がありました。 ・大型のブ レード自体の慣性力を利用する。風の強い時に回転数を動的に上げて運動エネルギーを蓄え、 風が弱くなった時に利用することで、発電機の出力を平滑化する。 ・一部の風車を調整力としてリザーブし、適宜解列'解放、接続(などを行うことで風車群全体 の出力を平滑化する。 ・電力を一時的に蓄電池に貯蔵する。 ・系統連系部'インバータなど(に力率の調整能力を付与する。 ・フライホイールによる慣性回転や油圧・ガス圧・空気圧'圧縮空気(による蓄圧によってエネル ギーを貯蔵する。 ・局地的な気象解析を行い、リアルタイムで発電量を予測する。 サムソ島では、上記のような対策は採られているか不明です。私は電力供給をある程度地域限 定にするには、上記のような対策が必要ではないかと考えます。特に精密機械、設備を使うとこ ろでは絶対必要ではないかと思います。 皆様方の御意見をお聞かせ頂ければ、幸甚です。長文にお付き合い有難うございました。 参考資料 桐生広人 2008/08/04 JanJanニュース・NPO法人 環境エネルギー政策研究所HPへ 投稿 ゾーレン・ヘアマンセン http://www.isep.or.jp/kako/samsoe.html 地球に謙虚に運動 代表発信
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