妊娠中の子宮筋腫核出術は決して禁忌ではない

青森臨産婦誌
青森臨産婦誌 第 23 巻第 2 号,2008 年
総 説
妊娠中の子宮筋腫核出術は決して禁忌ではない
弘前大学医学部大学院医学研究科産科婦人科学講座
福 山 麻 美・田 中 幹 二・山 本 善 光
二 神 真 行・尾 崎 浩 士・水 沼 英 樹
大館市立総合病院産婦人科
湯 澤 映
Myomectomy during pregnancy is never contraindicated.
Asami FUKUYAMA, Kanji TANAKA, Yoshimitsu YAMAMOTO
Masayuki FUTAGAMI, Takashi OZAKI, Hideki MIZUNUMA
Department of Obstetrics & Gynecology, Hirosaki University School of Medicine
Ei YUZAWA
Department of Obstetrics & Gynecology, Odate City Hospital
うべきであるという主張もある。
は じ め に
今回我々は保存的に経過観察を行うことは
高齢妊娠の増加に伴い子宮筋腫合併妊娠は
困難と判断した 5 例に対し,妊娠中の筋腫核
増加傾向にあり,最近の報告では 2.6~3.9%
出術を行った。その成績を紹介すると共に,
とされている1),2)。子宮筋腫合併妊娠は全妊
妊娠中の子宮筋腫核出術施行の是非について
娠期間を通して問題が多く,例えば妊娠中は
考察したい。
切迫流早産,胎盤早期剥離などの産科異常が
増加し,また分娩時には分娩進行の障害とな
子宮筋腫合併妊娠の頻度
るなど帝王切開の頻度も高く,さらに分娩後
子宮筋腫が妊娠に合併する頻度は,内診を
も異常出血が起こりやすい。
主とした診断が行われた時代の統計では全妊
治療方針は保存療法を中心とする考え方
娠の 0.1%程度であったが,最近の Lolis らの
が 一 般 的 で あ り, 例 え ば Williams の 教 科
報告では 3.9%程度である2)。また当然の事な
書 に は,“Management of Myomas During
がら,35 歳以上の高齢妊娠では子宮筋腫を
Pregnancy” の項のいきなり一行目に “After
合併する頻度が高く,我が国でも出産年齢の
the diagnosis is confirmed, expectant
高齢化とともに増加傾向にある。
management is recommended.”, さ ら に 読
み 進 め る と “Resection of myomas during
妊娠が子宮筋腫に及ぼす影響
pregnancy is generally contraindicated.” と
子宮筋腫はエストロゲン依存性腫瘍と考え
3)
記されている 。しかしその一方で,ある程
られており,約 20%の筋腫では妊娠中の増
度以上の大きさの筋腫で何らかの臨床症状を
大が認められる4)。また筋腫核への血行障害
有する症例に対しては,積極的に核出術を行
のため,変性や壊死をきたすこともある。こ
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青森臨産婦誌
れは妊娠中期から後期に多く,その部位に炎
水腎症,頻尿,尿閉,腰痛などが起こる。
症を生じることも稀ではなく,時に嘔気や嘔
また,Rice らは筋腫の大きさと合併症の
吐,発熱の原因となる他,切迫流早産につな
関係を詳細に検討し,
がりかねない。また漿膜下に発育した有茎性
・筋腫の大きさが 3 cm 以上になると早産,
胎盤早期剥離,骨盤痛,胎勢異常の頻度
筋腫は妊娠中に茎捻転を起こすことがあり,
が多くなる
この場合には強度の疼痛をきたし緊急手術を
・胎盤早期剥離は筋腫合併妊娠では 10.8%
要することもある。漿膜下筋腫の被膜血管の
破綻により腹腔内出血をきたすこともある。
に見られ,ことに筋腫が胎盤直下に位置
さらに妊娠子宮の増大と子宮下部の伸展によ
する場合には 57%と高率にみられる
る筋腫位置の相対的変化は,よく経験するこ
・骨盤痛は 5 cm 以上の筋腫では 25%以上
とである。初期に分娩障害となると考えられ
に認められ,治療としては安静,鎮痛薬
たものが,後期には胎児より上方に位置する
などの保存的治療で十分なことが多い
こともあることから,分娩様式の選択は分娩
・3 cm 以下の筋腫は臨床的に問題がない
直前に行うべきである。
と報告している6)。
子宮筋腫が妊娠に及ぼす影響
子宮筋腫が分娩に及ぼす影響
1 )切迫流早産,前期破水
1 )分娩障害
腹部緊満,腹痛などの切迫流産症状がみら
筋腫核が子宮下部や頸部に存在する場合に
れることが多く,流産の頻度は正常妊婦の約
は児頭下降障害が起こりやすく,帝王切開の
2 倍となる5)。また筋腫核が子宮腔の拡大を
適応となることがある。ただし児頭が筋腫を
制限する場合や疼痛刺激により子宮収縮を誘
越えて下降すれば経腟分娩は可能である。
発する場合には,切迫流早産症状を呈し,早
2 )微弱陣痛
4)
産率も約 2 倍に増加する 。破水自体は頸管
Coronado らの報告によると,手拳大以上
局所の感染に起因することが多いが,筋腫に
の体部筋層内筋腫を有する場合には微弱陣痛
よる子宮腔の変形や子宮収縮の誘発があると
となる頻度が 2 倍に増加するという7)。
子宮内圧の上昇が加わるため,卵膜の脆弱化
3 )弛緩出血
が助長される。
微弱陣痛となった例に限らず,体部筋層内
2 )胎位・胎勢の異常
筋腫では分娩後も弛緩出血を発症しやすい。
骨盤位,横位,反屈位などの異常が起こり
特に筋腫核の位置に胎盤が位置している場合
やすい。
には,生物学的結紮が起こりにくく出血量が
3 )子宮内胎児発育遅延,胎児変形
多くなる。
筋腫による圧迫や子宮腔の変形などにより
11%に胎児発育遅延を認めたという報告があ
子宮筋腫が産褥に及ぼす影響
る4)。また同様に頭蓋変形や,耳介変形,斜
体部筋層内筋腫では,産褥期も子宮収縮不
頸などの外表変形をきたすこともある。
全をきたしやすい。また筋腫により産道に変
4 )胎盤の異常
形や狭窄が生じた場合には悪露が滞留しやす
胎盤付着部位の一部に筋腫が存在すると,
い。さらに子宮内感染や産褥期出血も起こり
常位胎盤早期剥離の危険性が高くなる。また
やすくなる。
筋腫は着床部位にも影響を与え前置胎盤や癒
妊娠中の子宮筋腫核出術は是か非か
着胎盤の原因にもなる。
5 )周囲臓器圧迫症状
妊 娠 中 の 筋 腫 核 出 に つ い て は, 前 述 の
巨大な子宮筋腫により,消化管通過障害や
Williams の教科書を引用するまでもなく避
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第 23 巻第 2 号,2008 年
表 1 当科で施行した妊娠中の筋腫核出術
症例 年齢
手術時の 術前CRP値
核出 核出腫瘍 最大径 変性の 手術時間 出血量
筋腫種類 位置
妊娠週数 (mg/dl)
個数 重量(g) (cm) 有無
(分) (g)
1
30
12
0.2
2
35
16
5.8
3
31
19
6.5
4
33
13
3.7
5
38
15
1.2
筋層内 底部
1
1,550
20
無
105
609
3
1,500
15
有
93
600
3
1,700
12
有
110
250
漿膜下 体部
1
1,250
15
有
102
1,550
漿膜下 底部
筋層内 体部
6
742
9
有
115
367
漿膜下 底部
筋層内 体部
底部
筋層内
体部
転帰
37週C/S
生児, 健
37週C/S
生児, 健
26週C/S
生児,CP
37週C/S
生児, 健
15週流産
けるべきだとする意見が多い。あるいは有茎
健児が得られた。3 例の平均はそれぞれ出生
性筋腫に限るべきであるという意見もある。
体 重 2,776±131 g,Apgar score1 分 値 8.6±
また昨年 10 月福島で開催された第 25 回分娩
0.57,5 分値 9.6±0.57 であった。
症例 1 と症例 5 について,その経過の概略
管理研究会のシンポジウム(代表世話人 佐
を紹介する。
藤章 福島県立医大教授)でも筋腫核出術の
是非が話題となり,会場の意見は真っ二つに
【症例 1 】
割れた。避けるべきだという主張の代表的理
由は,妊娠中の筋腫核出は出血が多くなる,
患者:30 歳 無職
切迫流早産のリスクが高まる,核出術をしな
主訴:子宮筋腫合併妊娠の精査と周産期管理
くても大概は問題なく分娩に至るというもの
妊娠分娩歴:0 経妊 0 経産
であった。
月経歴:初経 13 歳,月経周期 25 日型~7 日
果たしてそうであろうか。以下に我々の過
間,過多月経,月経困難症なし
去 5 年間の成績と代表的症例を提示する。こ
既往歴・家族歴:特記事項なし
れらの症例は,そのまま経過観察していて良
現病歴:無月経を主訴に近医を受診。妊娠の
い結果が得られたであろうか。
診断と同時に成人頭大の子宮筋腫を指摘さ
れ,精査ならびに周産期管理を目的に妊娠
当科での成績
10 週 2 日に当科紹介となった。来院時の腹
我々は過去 5 年間に,保存的に経過観察を
部超音波にて筋腫はほぼ腹腔内を占拠し,径
行うことは困難と判断した 5 例に対し妊娠中
20.4×11.6 cm の筋層内筋腫と思われた(図
の筋腫核出術を行った。症例の概略を表 1 に
1)。また筋腫の直下に胎嚢を認め,筋腫から
示す。
胎嚢までの最短距離は約 2 cm であった。こ
症例の平均年齢は 33.4±1.4 歳,手術週数
のままでは胎児の正常発育は望めず妊娠の継
は 15±1 週だった。平均核出数は 2.8 個(1
続は困難であると判断し,筋腫核出術を行う
~6 個),筋腫の最大径は 14.2±4.08 cm,核
こととした。
出腫瘍重量は 1,348±375 g だった。出血量は
入院時検査所見:身長 157 cm,体重 60 kg,
675±512.6 ml,
手術時間は 105±8.3 分だった。
血圧 129/77 mmHg,脈拍数 72/ 分,整。
筋腫は筋層内筋腫が多く,
部位としては底部,
入院後経過:自己血を 800 ml 貯血の後,妊
体部に共存するものが多かった。術中胎嚢損
娠 12 週 0 日,全身麻酔下に子宮筋腫核出術
傷例や術後血腫形成例はなかった。また,自
を施行。手術は超音波ガイド下に胎嚢と筋腫
己血以外の輸血を施行した症例もなかった。
の位置関係を適宜確認しながら慎重に進め,
5 例中 3 例は 37 週で帝王切開術を施行し
1,550 g の筋腫を核出した(図 2)。手術時間
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青森臨産婦誌
図 1 症例 1 の経腹超音波検査所見
腹腔内を占拠する筋腫
図 2 症例 1 の術中写真
図 3 カルテに記載された筋腫と胎嚢の位置関係
図 4 症例 5 の術中写真
は 1 時間 45 分,出血量は 609 g であったが,
療
術翌日,翌々日と合わせて 800 ml の自己血
妊娠分娩歴:3 経妊 2 経産(23 歳,24 歳時
輸血を行った。手術終了後,少量の性器出血
に自然分娩,28 歳時に妊娠 15 週で原因不明
と子宮収縮を認めたため,同日から塩酸リト
の子宮内胎児死亡,筋腫の有無は不明)
ドリン持続点滴を 50μg/ 分で開始した。そ
月経歴:初経 12 歳,月経周期 30 日型~6 日
の後,いったん子宮収縮の増強を認めたが
間,過多月経,月経困難症なし
徐々に軽快し,妊娠 12 週 5 日に塩酸リトド
既往歴:2 年前より高血圧症で内服加療受け
リンの持続点滴を中止し,経過良好にて妊娠
ていたが,自己判断で中止
14 週 1 日に退院となった。妊娠 37 週 1 日,
家族歴:母が胃癌,祖母が食道癌
選択的帝王切開術にて 2,912 g の男児(Apgar
現病歴:無月経を主訴に近医を受診し妊娠
score 9 点 /10 点)を娩出した。筋腫核出部
10 週 6 日と診断され,同時に多発性の子宮
位には菲薄化はなく,腹腔内の癒着もなかっ
筋腫と高血圧症も指摘され,精査加療目的に
た。術後経過良好で術後 8 日に退院となった。
て当科紹介となった。経腹超音波では,臍上
3 横指にまで及ぶ多発性の筋腫が認められ,
【症例 5 】
羊水腔は子宮筋腫に囲まれ強度に圧排されて
患者:38 歳 無職
いた(図 3)
。このままの状態では妊娠の継
主訴:子宮筋腫合併妊娠,高血圧症の精査加
続は困難であると判断し,筋腫核出術目的に
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入院予定となった。高血圧症については,当
出術が行われており,核出腫瘍重量も 5 例中
科初診翌日に当院循環器内科に頼診し,同日
で最も少なかった。しかし逆に核出個数が最
よ り α メ チ ル ド ー パ 750 mg の 服 用 を 開 始
も多かったことから,因果関係は不詳である
した。
が多数の筋腫核出が炎症反応を惹起し流産に
入院時検査所見:身長 165 cm,体重 64.7 kg,
至った可能性は否めず,核出個数も考慮すべ
血圧 136/77 mmHg,脈拍数 74/ 分,整。
きかと考えられた。しかしながら,筋腫の大
入院後経過:妊娠 15 週 0 日,全身麻酔下に
きさや個数,部位,手術時間と予後の関係に
子宮筋腫核出術を施行した。超音波ガイド下
ついては,江口らが自らの 105 例に及ぶ妊娠
に筋腫と胎嚢の位置を確認しつつ核出を進
中の筋腫核出症例に対する詳細な検討から,
め,合計 6 個の筋腫を核出し総腫瘍重量は
筋腫径や個数と術後予後に直接的な関係はな
742 g であった(図 4)
。3 個の筋腫について
いが,子宮底部に筋腫が存在した症例や手術
は胎嚢損傷の危険があり核出を断念した。手
時間が 2 時間を超えた症例に流産例が多く注
術時間は 1 時間 55 分,出血量は 367 g であっ
目に値すると報告している8)。本症例の核出
た。特に子宮収縮は認められなかったが,帰
部位も子宮底部及び体部であったことから,
室時より予防的に塩酸リトドリンの持続点滴
流産の原因については更なる検討を要すると
を 50μg/ 分で開始した。しかし,術後 1 日
ころである。
目に突然の破水と共に分娩が進行し,手術翌
日(妊娠 15 週 1 日)に死産となった。術後
再び妊娠中の子宮筋腫核出術は是か非か
9 日目の USG では子宮底に各々長径 5,5,
前述の如く,妊娠中の筋腫核出については
3 cm の筋腫が認められた。術後 10 日目に退
避けるべきだとする意見が多い。出血の問題
院となった。
もさることながら,最大の問題点は流産の
リスクであろう。手術しない症例の流産率
良い結果が得られなかった症例の考察
は Phelan によると 10%前後と報告されてい
表 1 の症例 3 は,妊娠 18 週時に筋腫部位
る4)。これに対し前述の Lolis らは,子宮筋
に一致する腹痛を訴え救急搬送となった症例
腫合併妊娠 622 例中 13 例(2.1%)で手術を
である。薬物療法にもかかわらず疼痛は持続
要する合併症が発症したため核出術を施行
し,連日ペンタゾシン(ソセゴン®)を使用
し,うち 12 例(92.3%)がその後の合併症
する状況で,CRP も 6.5 mg/dl まで上昇。こ
なく満期まで経過したと報告している2)。ま
れ以上の保存療法は困難と判断し,やむなく
た江口らは,105 例という多数の症例に対し
妊娠 19 週で核出術を施行した。術直後の診
核出術を施行し,流産例は 6 例(5.7%)の
察で頸管が浮腫状に軟化し一指開大していた
みという高い成功率を上げている9)。こうし
ため,併せて McDonald 式頸管縫縮術を施
た成績からは,慎重かつ的確な手術操作とそ
行した。術後早期に CRP も陰性化し子宮収
の後の適切な術後管理さえできれば流産リス
縮もなかったにも関わらず,癌胎児性フィブ
クについては十分克服可能であることが示唆
ロネクチン上昇と共に縫縮糸を押し出すよう
される。しかしその一方,筋腫核出術をしな
に頸管の展退が進行。その後子宮収縮も出現
くても大概の妊娠は問題なく分娩になる,そ
し妊娠 25 週で破水。結局,26 週で帝王切開
れで問題となった症例を私は経験していない
となった。この症例は頸管局所の炎症を抑制
という主張があるのも事実である。
できず破水したものと思われ,頸管縫縮術施
我々が経験した 5 症例は,核出腫瘍重量が
行の是非について考えさせられる症例となっ
1,354±167 g とどれも来院時ほぼ筋腫が腹腔
た。
内を占拠し,このままでは正常な胎児発育が
上記に示した症例 5 は特にトラブルなく核
望めるような状況にはない,あるいは疼痛の
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(87)
青森臨産婦誌
抑制が困難で保存療法での妊娠継続は不可能
リスクが高くなるというものである。一方,
と判断して核出術を施行したものである。
③のできるだけ早期にという主張も,妊娠中
当科の臨床経験ならびに種々の報告から,
期になると筋腫が軟化して核出が困難になる
我々は子宮筋腫合併妊娠については,保存療
こと,手術視野の問題,羊水腔が大きくなっ
法を原則とするが薬物療法で症状の改善が見
てからでは羊膜腔の圧迫により流・早産しや
られない症例に対しては積極的に核出術を選
すいことなどをその根拠として上げている。
択すべきであると考える。
③は他の報告より圧倒的に多い症例数に基づ
筋 腫 核 出 の 適 応 条 件 と し て 種 々 の 報
くものであり,その成功率の高さからもこの
告9)-11)をまとめると,概ね以下のように集
意見が最も説得力をもつと考える。
約される。
ま と め
①筋腫核に一致した部位に激痛を訴え,発熱
や腹膜刺激症状を認め,広範な壊死や変性
子宮筋腫合併妊娠については保存療法を原
が考えられる場合
則とするが,症状の改善が見られない症例に
②漿膜下筋腫の茎捻転
対しては,時期を失することなく核出術に踏
③被膜血管の破綻による急性腹症
み切るべきである。その際には術後の流早産
④腫瘤が大きくなり,膀胱や直腸などの周囲
をいかに予防するかが鍵となり,そのために
適応を厳密に行うこと,術中は細心の注意を
臓器の圧迫症状が重篤な場合
払いつつ的確な手術操作を行い可能な限り手
⑤急速な筋腫の発育・増大を認め悪性腫瘍の
術時間の短縮を図ること,さらには術後の感
疑いがある場合
染並びに炎症のコントロールを厳重に行うこ
⑥出血,疼痛などが保存療法では改善しない
とが重要であると考える。
場合
⑦筋腫が原因と思われる流早産の既往がある
場合
⑧妊娠中期において原因不明の子宮内胎児死
亡の既往がある場合
(尚,本稿の一部は第 273 回青森県臨床産婦人科医会,
ならびに第 61 回日本産婦人科学会学術講演会にて発
表した。)
⑨大きさや位置などにより妊娠の継続に障害
文 献
となると思われる場合
1 )Suwandinata FS, Gruessner SE, Omwandho
CO, Tinneberg HR: Pregnancy-preserving
myomectomy: Preliminary report on a new
surgical technique. Eur J Contracept Reprod
Health Care, 13: 323-6, 2008.
また至適手術時期に関しても種々の報告が
あり,急性腹症などの緊急手術を除くと,
①胎盤形成が完了した妊娠 4~5 ヶ月10)
2 )Lolis DE, Kalantaridou SN, Makrydimas G,
Sotiriadis A, Navrozoglou I, Zikopoulos K,
Paraskevaidis EA: Successful myomectomy
during pregnancy. Hum Reprod, 18: 1699-1702,
2003.
②妊娠 10~12 週頃11)
③超音波で胎児の心拍運動が確認できればで
きるだけ早期12)
と意見は分かれている。①は胎盤形成が完了
すれば流産率も低くなり,さらにこの時期で
3 )Cunningham FG, Leveno KJ, Bloom AL et al.:
Williams Obstetrics 22nd ed, McGRA-HILL,
New York, pp.242-247, 2005.
あればまだ出血も比較的少なくてすむという
考えに基づくものであり,②は妊娠 10 週未
4 )Phelan, JP: Myomas and pregnancy. Obstet
Gynecol Clin North Am, 22, 801-805, 1995.
満では器官形成期のため子宮への手術侵襲は
避けるべきであり,逆に 12 週以降では術野
5 )木川源則 : 妊娠に合併した子宮筋腫と手術適応.
産と婦, 49, 895, 1985. Am, 22, 801-805, 1995.
の展開が制限され手術操作が困難となり出血
量増加の可能性や手術侵襲による流・早産の
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6 )Rice JP, Kay HH, Mahony BS: The clinical
significance of uterine leiomyomas in
pregnancy. Am J Obstet Gynecol, 160. 12121216, 1989.
9 )江口勝人, 木村吉宏, 金重恵美子 : 子宮奇形・筋
腫合併妊娠. 周産期医学必修知識, 周産期医学編
集委員会編, 東京医学社, 東京. 177-178, 2006.
10)山本 宝, 冠野 博 : 妊娠合併子宮筋腫の管理.
「産婦人科の良性腫瘍」, 青野敏博他編, 302-307,
中山書店, 東京, 1999.
7 )Coronado GD: Complications in pregnancy,
labor, and delivery with uterine leiomyomas.
Obstet Gynecol, 95, 764-769, 2000.
11)杉本充弘, 中川潤子, 佐藤千歳 : 子宮筋腫の核出
術. 産科と婦人科, 71, 877-883, 2004.
8 )江口勝人, 平松佑司, 関場香他 : 妊娠子宮筋腫に
対する核出術とその臨床成績. 産科と婦人科, 54,
58-62, 1987.
12)江口勝人, 大倉磯治 : 子宮筋腫によるトラブル.
産婦人科の実際, 44, 11: 1763-1768, 1995.
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