帝王切開後の子宮内膜症性嚢胞の破裂が原因と疑われた急性腹症の1例

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エンドメトリオーシス研会誌 2
0
0
7;2
8:11
5−11
6
〔一般講演/臨床−1〕
帝王切開後の子宮内膜症性嚢胞の破裂が原因と疑われた急性腹症の1例
福井大学医学部附属病院産科婦人科
澤村
陽子,鈴木
吉田
千代,折坂
好雄,小辻
誠,田嶋
公久
文和
はじめに
子宮内膜症性嚢胞の破綻が原因で,帝王切開
術後7日目に,腹水貯留を伴う急性腹症を発症
した症例を提示する.
症
患者:2
9歳
例
初産婦.
6年に左卵巣の子宮内膜症性嚢胞
既往歴;平成1
に対し,アルコール固定術と GnRHa 療法を受
けている.
図1 ダグラス窩に腹水は認めず,ダグラス窩は閉鎖
8年1月上旬を最終月経として自
現病歴;平成1
していると考えられた.卵巣の腫大あり
然妊娠が成立し,妊娠初期より前医で妊婦検診
を受け,妊娠経過には異常を認めなかった.
平成1
8年1
0月1
5日(妊娠4
0週4日)に前期破
胞と考えられ,ダグラス窩は閉鎖していると考
えられた.
水し,前医に入院.翌日(妊娠4
0週5日)CTG
0
9
0
0/µl,RBC 4
4
0×1
0
4
血液検査所見:WBC 1
上,non−reassuring fetal status と 診 断 さ れ た
/µl,Hb 1
2.
4mg/dl,plt 3
9.
6X1
0
4/µl,CRP
ため,緊急帝王切開術を施行された.術中所見
3.
2
1(2+),Na 1
3
9mEq/l,K 3.
9mEq/l,
では,重度の子宮内膜症のため,両側卵巣は腫
Cl 1
0
0mEq/l,BUN 1
3mg/dl,Cr 0.
4mg/dl,
大しダグラス窩は閉鎖していた.術後の経過は
TP 7.
0g/dl,GOT 1
1IU/l,GPT 1
5IU/l,Amy
良好であったが,術後7日目より下腹痛を自覚
6
2IU/l
し,徐々に増悪した.術後8日目に腹腔内の液
軽度の炎症反応を認めた.
入院後の経過
体貯留を認めたため当院に搬送された.
入院時所見
腹腔内の液体貯留は,前医での診察時に比べ
3
6/8
9,
全身所見:顔色は良好だが苦悶様,血圧1
ると増加しており,入院後時間の経過とともに
脈拍8
6,体温3
7.
3℃.
悪心・嘔吐も出現し,腹膜刺激症状も増悪した
腹部所見:腹壁切開創創部は離解なく,下腹部
ため,術後縫合不全を考慮し開腹術の方針とし
全体に圧痛と反跳痛を認めた.
た.
局所所見:悪露は赤褐色少量,子宮は手拳大で,
ダグラス窩に圧痛を認めた.
開腹所見と処置
腹腔内には,淡血性の腹水4
0
0ml が貯留し,
(図1)
:腹腔内に液体が貯留し,
超音波断層所見
子宮は手拳大,色は蒼白で収縮はきわめて不良.
子宮腔内には液体貯留はなかった.
左卵巣とダグラス窩に子宮内膜症性嚢胞が存在
左卵巣が約3cm 大に腫大し子宮内膜症性嚢
し破綻していた.
116 澤村ほか
軽快した.術後2
4時間のドレーン排液量は6
0
0
ml であったが,翌日から激減し,術後5日目
にドレーンを抜去した.
以後の経過は良好で,術後2週間で退院とな
った.
考
察
子宮増大による癒着部の緊張が原因と考えら
れる妊娠中の子宮内膜症性嚢胞の破裂は,過去
に8例の報告がある.
しかし,産褥早期の子宮内膜症性嚢胞の破裂
図2
膀胱子宮窩腹膜を開放したところ
は,これまで報告はない.
創部離開や血腫はみられない.
漓産褥に急激な腹腔内の液体貯留を来たす疾患
には,子宮破裂,膀胱破裂〔1〕
,胆嚢破裂〔2〕
,
急 性 膵 炎〔3〕
,SLE の 増 悪,肝 硬 変〔4〕
,
心臓粘液腫〔5〕が存在するが,血液検査,
術中所見からいずれも否定された.
滷嚢胞除去と腹腔内洗浄だけで症状が急激に改
善された.
以上より,産褥の急性腹症と腹水貯留は,帝
王切開術術後早期の子宮内膜症性嚢胞の破綻に
よるケミカルな腹膜刺激の結果である可能性が
最も高いと考察された.
図3
ダグラス窩に破綻した子宮内膜症性嚢胞が存在
した
今後,子宮内膜症合併妊婦が増加すると予想
されている.産褥の急性腹症と腹水貯留を認め
た場合,上記疾患も考慮に入れるべきである.
帝王切開創部の血腫,出血,創離開は認めな
かった(図2)
.腹腔内の炎症により,小腸全
体が軽度拡張していた.腸間膜,虫垂には異常
所見を認めなかった.
以上の所見から,帝王切開術後7日目に,子
宮内膜症性嚢胞が破綻し(図3)
,それが原因
で,腹水貯留を伴う急性腹症を発症したと診断
し,子宮内膜症による癒着を剥離,嚢腫を核出,
腹腔内洗浄を行い,ドレーンを留置し閉腹した.
術後経過
手術直後より腹膜刺激症状は消失した.術後
2日目まで3
8℃台の発熱が続いたが,3日目に
は解熱した.
4日目頃まで腹痛を訴えたが,経過とともに
文
献
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