●プリオン病――[ I ]プリオン病の臨床と病理 2.医原性 CJD と変異型 CJD 佐藤 猛* ヒトのプリオン病は孤発性,遺伝性,感染性プリオン病に分類される.感染性プリ オン病の中で,硬膜移植後の CJD と,英国で発生した変異型 CJD との特徴と診断に ついて報告する. 1)硬膜移植後 CJD:硬膜移植歴のある CJD はわが国で最も多く,患者数は 90 名近くになっている. ヒト硬膜が移植された時期は 1983∼1987 年が多い. 移植から発 症までの期間は 16 カ月∼17 年で,新患者はなお発生している.使用された硬膜は,ア ルカリ未処理の Lyodura が大半である.臨床的に 2 群存在する (北本,東北大) .! Dura-classic CJD:孤発性 CJD と同様の症状,経過を示す." Dura-varinat CJD: 約 10% 存在する.緩徐な経過,脳病理で florid plaque が認められる. 2)変異型 CJD : 1996 年,英国でウシ海綿状脳症 (BSE) から感染した変異型 CJD が初めて報告された.欧州で BSE が増加するとともに変異型 CJD も発生しつつあ り,現在 139 名に達している.特徴は若年者に多く (平均発症年齢 26 歳) ,精神病症状 で初発し,緩徐な経過を示す.脳波では,孤発性 CJD にみられるような PSD を欠く. MRI で視床枕の信号異常が診断的価値が高い.脳病理では無数の florid plaque が認 められている. わが国では BSE は 5 頭発生しているが,変異型 CJD はまだ発生していない.診断 と鑑別診断について述べる.さらにプリオンが腸管から侵入して中枢神経系への伝達 する経路と血液を介しての感染の危険性についての知見を紹介する. Iatrogenic CJD and variant CJD TAKESHI SATO Kohnodai Hospital, National Center of Neurology and Psychiatry さとう・たけし:国立精神・神経 センター国府台病院名誉院長.昭 和37年新潟大学大学院医学系研 究科修了.昭和42年米国ウイスコ ンシン大学留学.昭和59年順天堂 大学医学部脳神経内科助教授.平 成4年国立精神・神経センター国 府台病院副院長. 平成10年現職. 主研究領域! クロイツフェルト・ ヤコブ病の臨床,筋萎縮性側索硬 化症の治療. * Key words クロイツフェルト・ヤ コブ病 プリオン 硬膜 変異型 CJD プリオン病 17 行 わ れ て お ら ず,1991 年 に な っ て も 旧 Lyodura が原因と疑わ れ る CJD 患 者 が 発 生 1.医原性プリオン病,特に硬膜移植後 している.1997 年 3 月,厚生省はヒト乾燥硬 CJD 膜の使用禁止の緊急命令措置を行っている. 医原性 CJD には,深部脳波電極からの感染 責任をめぐって訴訟となり,2002 年 3 月,被 2 例,脳外科手術の疑い 6 例,角膜移植後 3 告であるドイツの会社と国と,原告との間に 例,ヒト脳下垂体由来成長ホルモンの皮下注 和解が成立している. 射 146 例, ゴナドトロピン注射 4 例がある. 硬膜移植後 CJD の特徴を以下にまとめる. ヒト死体硬膜移植後の CJD は,わが国では 1)ヒト乾燥硬膜が移植された時期は 1979 90 例(未登録を含む),外国では 51 例知られ ∼1991 年,特に 1983∼1987 年が多かった. 1) 2)移植から発症までの期間 (潜伏期) は 16 ている . カ月∼17 年で, なお患者は増加している (図 1) . 1987 年 2 月,米国 CDC (疾病管理・予防セ ンター) はヒト硬膜「Lyodura」の移植を受け 3)硬 膜 移 植 後 の CJD 患 者 数 は 2002 年 8 た CJD の第 1 例を発表し,この硬膜の使用禁 月現在で 90 名,ほとんどの症例は旧 Lyodura 止を勧告した.わが国では 1991 年に第 1 例 が使用されていた2,3).しかし,米国では 1 例, が報告されているが,同様の患者の多発が指 他社製品である Tutoplast を使用された CJD 摘されたのは 1996 年 7 月,厚生省の CJD 全 が報告されている.1985 年 10 月以降,わが国 2,3) 国調査班中間発表による .ドイツ B. Braun では Lyodura に加え Tutoplast も使用されて 社 の 製 品 で あ る「Lyodura」の 輸 入 は 1973 おり,いずれの硬膜を使用されたかの詳細な 年に開始されたが,当初の製品はアルカリ処 調査が必要となっている. 理がされておらず,プリオンの感染性は失活 4)発症年齢は平均 53 歳(15∼79 歳)と, さ れ て い な い た め,1987 年 5 月 か ら は 1 N 孤発性 CJD に比し硬膜例は若年発症の傾向 NaOH 処理が加わった新製品に切り替わって がある. いる.しかし,旧 Lyodura の回収はきちんと 5)初発症状は歩行不安定など,小脳失調 1983年 (名) 18 16 14 1984年 患 12 者 10 数 8 1986年 1985年 1987年 6 4 2 0 (年) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 潜伏期 図1 18 第 121 回日本医学会シンポジウム 硬膜移植年別の患者発生状況 13 14 15 16 で始まる症例がやや多い4). Florid plaque は, 発症後 6∼7 カ月で死亡し 6)硬膜移植 CJD には 2 群がみられること 5) を北本らが強調している(図 2) . た硬膜 CJD でも認められている.さらに孤発 性 CJD でも,コドン 129 が Met! Val の多型を Dura-classic CJD:孤発性 CJD と同様の症 示した剖検例で florid plaque が認められてい 状,経過をとる.急速に痴呆が進展し,数カ る. Florid plaque を示す硬膜例の特異性は, 今 月以内に無動性無言になり,死亡する.脳波 後さらなる検討が必要である. では典型的な周期性同期性徐波群(PSD)が認 められる. 病理所見も孤発性 CJD と同一で, 全脳にわたる神経細胞の脱落, グリオーシス, 2.変異型 CJD 海綿状変化が認められる.プリオン蛋白の免 ウシ海綿状脳症 (BSE) は 1986 年英国にお 疫染色では,シナプス型と呼ばれるびまん性 いてはじめて報告されてから,1992∼1993 の沈着がある. 年には毎月 3,500 頭以上発生し,現在までに Dura-variant CJD (緩徐進行例) :約 10% の 18 万頭以上に達している.その後徐々に減少 硬膜移植 CJD 患者では経過が緩徐で,発症 1 している(図 3).英国では,以前からウシの 年後でも簡単な応答可能で無動性無言になら 成長促進と牛乳の分泌を増加させるためにヒ ず,脳波で PSD が認められない.脳病理は ツジの肉骨粉を餌に混ぜて与えていたが,レ dura-classic CJD に比し軽度で,病変分布も限 ンダリング操作が 1981 年に変更されてから 局性,神経細胞は比較的残存している.後述 加熱処理が不十分となり,感染性プリオン蛋 す る 変 異 型 CJD の 特 徴 で あ る florid plaque 白が失活せずにヒツジからウシへと感染した (花弁状クールー斑) が,この緩徐進行例にも とされている.BSE は,英国のみならず欧州 認められる.硬膜 CJD の剖検脳のプリオン蛋 諸国で数年前から発生し始め,わが国で 2001 白免疫電気泳動は dura-classic,および dura- 年 9 月から 5 頭発生している.この BSE から varinant,いずれも孤発性 CJD と同様の 1 型 ヒトへと感染したのが変異型 CJD (vCJD) で を呈する. ある. (%) 35 30 孤発性 25 Synaptic 169例 硬膜移植 73例 20 15 Florid plaque 10 5 0 1 2 3 4 図2 5 6 8 7 9 10 11 無動性無言までの期間 12 13 14 15 16 17 (月) 孤発性! 硬膜移植 CJD の無動性無言までの期間 プリオン病 19 (頭) 40,000 (名) 30 35,000 25 B 30,000 S E 25,000 頭 数 20,000 20 患 者 数 15 15,000 10 BSE vCJD 10,000 5 5,000 0 0 1986 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 図3 (年) 英国の BSE と変異型 CJD の年次推移(2002 年 8 月) 表1 孤発型と変異型 CJD の差異 孤発型 CJD 変異型 CJD 63 ± 10 29 (12 ∼ 74) 数カ月 6 ∼ 12 カ月 痴呆,筋強剛,ミオクロ−ヌス 不安,引きこもり,不眠,行動異常, 記憶力低下,疼痛,歩行不安定 + − 発症年齢(歳) 罹病期間 症状 脳波での PSD 画像:信号異常 脳病理:プリオン沈着 線条体 視床枕 (Pulvinar) シナプス型 プラ−ク型 1型 2型 プリオン蛋白ウエスタンブロット 英国における vCJD は, 1996 年 Will らが 10 6) ンも両者が同じパターンを呈すること,vCJD 例を報告してから 年々発生数が増加して, の脳を接種したマウスの臨床,病理像が BSE 現在では 128 例に達している (図 3) .さらに を接種されたマウスと類似していることなど フランス 6 例,アイルランド,イタリアで各 からである. 1 例,香港,米国,カナダでは英国在住歴のあ vCJD の特徴は以下のごとくである (表 1) . るものから各 1 例発症しており,BSE と同様 1)若年者が多く,初発症状は不安,引きこ に欧州で徐々に症例が増加している. vCJD が BSE から感染した根拠は以下のご もり,不眠,異常行動,強迫観念,記憶障害 などの精神異常である.初期の神経症状とし とくである.BSE と vCJD とでは脳の病理像 ては,痛みを伴う感覚障害,頭痛などである. が類似しており,孤発性 CJD ではみられない やがて失調性歩行障害,構音障害,振戦,ミ florid plaque が多数出現すること,脳のウエ オクローヌス,舞踏病様の不随意運動,眼球 スタンブロットによるプリオン蛋白のパター 上方視障害などの神経症状がみられる.100 20 第 121 回日本医学会シンポジウム 例の vCJD のまとめでは,精神症状のみの初 発が 63%,神経症状のみ 15%,精神と神経症 表2 若年発症 CJD, vCJD として届け出 さ れた症例の最終診断 状を同時に初発したものが 22% である. 2)6 カ月以上精神症状のみで経過する,比 較的緩徐な経過を示す症例が多い. 3)脳波では PSD がみられない.しかし,基 礎律動では徐波化等の異常がみられる. 4)MRI では,視床枕 (Pulvinar) に T 2 強調 最終診断 例数 視床型 CJD, probable 1 若年発症 CJD 2 脳外科手術後 CJD 1 若年性前頭葉萎縮症 2 CJD 以外の疾患 (悪性症候群,てんかん,脳幹脳炎の疑い) 3 画像や FLAIR で高信号がみられ,90% に陽 性で診断的価値が高い. 5)髄液の 13-4-4 は 50% に陽性,タウ蛋白 と両者を測定することにより 90% の陽性率 である.なお,わが国の孤発性 CJD では,髄 液 中 の 14-3-3 は 96% の 陽 性 率 を 示 し て お り,CJD の診断上重要な検査である(堂浦克 美,未発表データ) . 3.わ が 国 で 若 年 発 症 CJD,あ る い は vCJD 疑いとして届出のあった症例 の追跡調査 わが国では 1996 年の全国緊急調査に続い 6)脳病理では,プリオン蛋白の免疫染色 て,厚生労働省「遅発性ウイルス研究班サー で全脳に florid plaque が無数に認められる. ベイランス委員会」で CJD の症例の把握にあ さらに,神経細胞の周辺には密にプリオン蛋 たっている.これまで若年発症 CJD,あるい 白陽性顆粒が染色されている(perineuronal は vCJD として届け出のあった 9 症例は,実 positive granules) . 地調査と検討会などで検討された結果,すべ 7)末梢組織 (リンパ節,虫垂,扁桃) にも感 染性プリオン蛋白が存在し,神経症状の発現 て vCJD は否定されている (表 2) .9 症例では 全例 MRI で pulvinar sign は認められなかった. 前に末梢組織に異常プリオンが発現している. 8)罹患脳のウエスタンブロットによるプ リオン蛋白パターンは,孤発性 CJD では視床 型を除き 1 型を示すのに,vCJD では 2 型を 示す. 4.プリオン蛋白の腸管への侵入 BSE 由来の異常型プリオン蛋白が経口摂 取され,腸管から取り込まれる際,粘膜上皮 vCJD の診断基準には扁桃生検が入ってい 細胞層にある M 細胞(membranous epithelial るが,英国の Will は probable vCJD は扁桃所 cells)が注目されている7).この M 細胞は免 見がなくとも十分診断可能であり,possible 疫に関与し,細菌やウイルスなどの異種蛋白 vCJD でも慎重に経過をみることにより診断 を取り込む働きがある.異常プリオン蛋白も できるので,安易に扁桃生検を行うべきでな この M 細胞にまず取り込まれ,transcytosis いと強く警告している. により細胞内を移動したのち,上皮細胞下の リ ン パ 組 織 に あ る 濾 胞 樹 状 細 胞(follicular dendritic cell;FDC) や神経細胞,グリア細胞 に取り込まれる.FDC や神経細胞内には正常 プリオン蛋白が存在しており,この正常型と 接触して,正常型が異常型に変換すると推定 プリオン病 21 されている.粘膜下の神経叢に取り込まれた 感染性プリオン蛋白は,迷走神経を逆行性に 上行して,延髄にある迷走神経背側核に達す る.ここから神経連絡網を介して中枢神経系 全体に感染が拡大する.一方,FDC に侵入し た異常型プリオン蛋白は,リンパ網を介して 脾臓,腸間膜リンパ節,大動脈周囲リンパ節, 扁桃等へすみやかに伝播する. 5.感染性プリオン蛋白と輸血の安全性 vCJD 患者では末梢のリンパ組織にも感染 性プリオン蛋白が存在することから,輸血の 安全性が問題となる.BSE 脳をヒツジに経口 投与し,神経症状が発現前の無症状期に採っ 5)クロイツフェルト・ヤコブ病診療マニュアル(改訂 版).厚生労働省遅発性ウイルス研究班(班長:北本 哲之).2002 年 1 月. 6)Will RG, Ironside JW, Zeidler M, et al. : A new variant of Creutzfeldt-Jakob disease in the UK. Lancet 1996 ; 347 : 921―925. 7)Heppner FL, Christ AD, Klein MA, et al. : Transepithelial prion protein transport by M cells. Nature Med 2001 ; 7 : 976―978. 8)Houston F, Foster JD, Chong A, et al. : Transmission of BSE by blood transfusion in sheep. Lancet 2000 ; 356 : 999―1000. 9)Bons N, Lehmann S, Mestre-Frances N, et al. : Brain and buffy coat transmission of bovine spongiform encephalopathy to the primate Micrcebus murinus . Transfusion 2002 ; 42 : 513―516. 10)Foster P : Transmission of TSEs through blood. In International Workshop on vCJD and the safety of blood and plasma derivatives. Bergen, Norway, April 2002 ; 18―19. た全血を羊 19 頭に輸血したところ,2 頭が発 症している8).BSE 脳をキツネザルの脳内に 接種したのち,このサルの脳乳剤を 2 匹のサ 質 ルの脳内に接種した.さらに buffy coat を他 疑 応 答 の 1 匹の脳内に接種したところ,3 匹ともに 発症した9).また,BSE 脳を接種したマウス 座長 (金澤) 大変示唆に富むお話をいただ の血液を用いた実験で,最初のクレオシピ きました.いろいろな論点があろうかと思い テート(エタノール)とフラクション ( I depth ますが,それぞれのお立場でご質問いただき filtration),II(chromatography),III(nanofil- ましょうか. tration) に感染性があることが示されてい 10) 立石 潤 (九州大・名誉) 先ほどの Hous- る .食品や輸血の安全性を高めるには,厳 ton の実験が,私も一番気になりました.人間 しい感染防止対策が必要である. の輸血と同じスタイルの実験で,長い間 19 頭のヒツジのうち 1 頭しか発症しないとい 〔文献〕 1)Brown P, Preece M, Brandel JP , et al . : Iatrogenic Creutzfeldt-Jakob disease at the millenium . Neurology 2000 ; 55 : 1075―1081. 2)厚生省「クロイツフェルト・ヤコブ病等に関する緊 急全国調査研究班報告書」 (班長:佐藤 猛).1997 年 3 月. 3)Sato T, Hoshi K, Yoshino H, et al. : Creutzfeldt-Jakob disease associated with cadaveric dura mater grafts in Japan , January 1979-May 1996. MMWR 1997 ; 46 : 1066―1069. 4)Hoshi K, Yoshino H, Urata J, et al. : Creutzfeldt-Jakob disease associated with cadaveric dura mater grafts in Japan. Neurology 2000 ; 55 : 718―721. 22 第 121 回日本医学会シンポジウム うことで,私はアーチファクトかと思ってい ましたが,そのあとの 1 頭の所見はどこに発 表されましたでしょうか. 佐藤 インターナショナルワークショップ のレビューをしたニュースに入っています. Houston のグループが,論文では 1 頭だった けれども,さらに 1 頭あったとワークショッ プの中で発表していて,そのサマリーとして の記事です. 立石 それは非常に重要だと思います.19 頭のうち 1 頭しか出ないということはあり えません.もっと出てこなければエビデンス にならないと思って,私も個人的に英国に聞 けで,オリジナルは見ていません. 片峰 茂 (長崎大) 全く異なる質問です. きましたら,英国政府の実験だから文献にす 従来のプリオンの考え方からしますと,異な る以前には発表できないという返事をもらい る症状が出る,pathology も違う,PrPSc の電気 ました. 泳動上の挙動も違うとなりますと,明らかに ほかのデータについて,buffy coat その他 異なる strain が感染していると考えたいと思 の実験を挙げられましたが,CJ マウスでもヒ うのですが,まずその考え方でよろしいかど トの材料でも脳内に接種すれば発症するとい うか.要するにホストのファクターが絡んで うデータは事実です.ただそういうことは普 いないのかということです. 通ヒトではありえないので,ヒトの予防医学 もし strain が異なる,agent のほうが違う の場合は分けて考えないといけないかと思い という考え方になりますと,ヨーロッパ,お ます. そらくドイツにその strain がいたことになり 山内一也 (日本生物科学研) いまのイギリ ます.Florid plaque という非常に典型的な所 スの輸血の実験ですが,Journal of General Vi- 見が出ますので,variant CJD と非常によく似 rology の 2001 年 11 月号に,その後の成績が ています.ところが時期的なことを考えると すでに報道されています. その中にもう一つ, ずれているものですから,BSE との関連は考 スクレイピーで同じような成績が出たという えにくいです.そうなりますと,florid plaque 結果が入っています.BSE のウシは,実験的 をつくる strain はどこにいたのでしょうか. に感染させたヒツジからの輸血で感染しまし 従来の sporadic CJD は plaque をつくらない た.スクレイピーのほうは自然発症のプリオ ことが診断基準でしたから,そのあたりをど ン病で,輸血で感染した.そういう意味でま のように考えたらよいのでしょうか.私は た違う重要性があるという内容です. ずっと悩んでいまして,どなたかお答えいた 品川森一 (帯広畜産大) 山内先生と同じこ とをコメントしようと思ったのですが,輸血 だければ非常にありがたいと思います. 佐藤 これはむしろ北本哲之先生 (東北大) を受けたヒツジの 17% が陽性になったとい のお考えですが,硬膜移植で plaque をつくる う成績が出ています. タイプとつくらない sporadic タイプは全く 小野寺 節 (東京大) すでにインターネッ 別種で,plaque をつくるタイプは,ウシから ト の Journal of General Virology で 発 表 さ れ 感染した variant CJD のように新しい感染症 ていて,25 頭のうち 2 頭が BSE と同じよう が日本に持ち込まれたのだろうということ に輸血だったという話だと思います.英国の で,agent として明らかに性質は違うという プリオンの感染実験はバックグラウンドにヒ ことを強調しておられます.ただウエスタン ツジがあるから,みんな疑問符を重ねていま ブ ロ ッ ト を 行 い ま す と,classic タ イ プ と すが,フランスの場合でしかもキツネザルを plaque タイプでは差がないのだそうです.現 使って行っていますから,それはそれで違う 在の方法では両方分けることはありませんの buffy coat を行う意味があるのではないかと で,いろいろな先生方のお話と標本を見た私 いう話は聞いています. 自身の感触では,画然と分けられるのかなと 佐藤 フランスの場合は詳しい報道がまだ 思っています.いまわかっているのはコドン です.インターナショナルワークショップの 129 と 219 でしょうか,そこだけですから,ま ディスカッションの紹介として載っていただ た別の個体側の要素があるのではないでしょ プリオン病 23 毛利 うか. そうなのです.基本的には感染性の もう一つアルツハイマー病もそうですが, agent ですから,transmission できるのが基本 plaque をつくると plaque そのものは細胞毒 です.まだいろいろな strain のマウスに行っ 性がなくなるといわれていますので,むしろ ているわけではありませんが,あるマウスを plaque をつくることによって,神経細胞の変 使ったときには明らかに transmission できま 性をブロックして少し長生きするのではない すし,あるマウスではできません.できる, で し ょ う か.も し strain が 違 う と す る と, できないということで区別できますから, plaque をつくるような脳の中の条件に差が BSE の分類と同じように別のものと考えて あるはずですから,plaque をつくる個体側の もよいのではないかというのが私の感想です. 要因は何であるかを調べる必要があると考え 岡田義昭 (国立感染研) 二つありまして, ています.これは専門の立石先生に教えてい 一つはいまヨーロッパの国々では献血をする ただけたらと思います. 際に,BSE のリスクが高い国に住んだことの 立石 variant CJD の 関 連 で florid plaque ある供血者が制限されていますが,それはあ が騒がれていますが,これは 20 年くらい前 くまでも輸血用血液の採血が制限されている の Moira Bruce の分類です.スクレイピーヒ だけで,原料血漿については世界的にまだ制 ツジで出る plaque のタイプを彼女が数種類 限がされておりません.世界の大部分の有償 挙げていて,その中の一つです.だからスク 血漿由来の血液製剤は米国で採血されたもの レイピーにはそのころからあったということ が供給されていますが,ヨーロッパで採血さ です.ただし日本ではいままでいわれていな れたものも一部ありますから,今後ヨーロッ かったわけですから,外来性の agent strain パの血漿は国によってある程度使用が制限さ であろうと思います. れるかもしれません.それについて,FDA や 毛利資郎 (九州大) Transmission スタディ WHO もまだ制限する考えはないようです. の結果からいえば,いまの Dura-classic タイ ただ,輸血用の血液に関してはだんだん厳 プと plaque タイプは明らかに違う strain と しくなっています.たとえばヨーロッパに 認識してよいと思います.というのは,plaque 1980 年∼現在まで 5 年以上住んでいる方は は transmission できません.それともう一つ, 国を問わずすべてだめといわれています.現 いま立石先生がおっしゃった plaque タイプ 在日本でも,ヨーロッパの場合は 10 カ国ぐ の病変は,明日お見せしようと思っていまし らい制限がありますが,おそらく全部だめに たが, マウスの strain の違いによって, 本来は なるのではないかと思います.ただ,それは plaque をつくらないプリオンの agent であり あくまでも輸血用の血液の話ですので,そこ ながら,plaque を形成する例をたまに見るこ のところを混同しないようにしなければなら とができます. ないと思います. 座長 確認ですが,plaque タイプは trans- missible でないということですか. 毛利 いまおっしゃっている硬膜移植後の ものに限定された現象です. 座長 そ れ は back transmission が で き な それから,分画製剤の中にプリオンが混入 するかどうかが大きな問題になっています. 数年前に行われた福岡 2 株を使ったマウス の実験では,分画の中に低いけれども感染性 が認められるということが報告されています. いということですか.その方は移ったはずで 佐藤 分画のどのレベルまでですか. すよね. 岡田 I+II+III です.グロブリンぐらいま 24 第 121 回日本医学会シンポジウム では認められるという報告がありました.私 う添付文書が配られています.血液製剤が中 が一番心配しているのは,いま脳外科領域で 枢神経に使われるとすれば,それが一番大き ヒト由来の硬膜が使えませんので,人工硬膜 な感染ルートだと思いますが,それは一応防 (たとえばゴアテックスなど) を代わりに使い げていると思います. ます.その場合,縫合しても髄液が漏れ出る ただ末梢に投与されても,量が増えたりし ので,それをふさぐためにフィブリノゲンの ますと,感染性がないとの証明もされていま 糊を使うことがあることです.BSE が問題に せんので,そういうところの検索はこれから なったときに,フィブリノゲン糊の脳神経領 も続けていかないといけないと思います. 域での使用を注意するよう添付文書に載せる 座長 どうもありがとうございました. ようにしましたので,3 年ほど前からそうい プリオン病 25
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