アントワープ王立美術館所蔵 ジェームズ・アンソール ―写実と

資料1
「アントワープ王立美術館所蔵
ジェームズ・アンソール ―写実と幻想の系譜―」展 報告書
平成24年10月26日
1 事業概要
1-1 展覧会概要
ジェームズ・アンソール(James Ensor, 1860-1949)は、ルネ・マグリット、ポール・デルヴォー
らとともにベルギー近代絵画を代表する画家として知られています。「仮面の画家」とも称さ
れる彼の作品には、仮面や怪物、骸骨といったグロテスクなモチーフが華麗な色彩で描かれ、
人間の心の奥にある偽善や虚飾などの感情がユーモアを交えて表されています。あまりに斬新
かつ個性的な彼の画風は、発表当時には世間では受け入れられませんでしたが、今日では、表
現主義やシュルレアリスムを予言する「20 世紀美術の先駆者」として高く評価されています。
一方で彼の作品は、伝統的なフランドル美術や同時代のフランス印象主義などの主要な絵画
の動向にも大きな影響を受けていました。アンソールは彼らしい想像力に満ちた画面を生み出
すにあたって、ブリューゲルやボスといったフランドル絵画に見られるユーモアのある不思議
な幻想を参照したほか、静物画、海景画では印象派の画家たちと同様に、現実の移ろいゆく光
の効果に鋭い眼を差し向けました。彼は「仮面の画家」として孤高の存在であったと同時に、
同時代の画家と同じ課題を追求する「光の画家」でもあったのです。
本展では、アントワープ王立美術館が誇るアンソールの傑作《陰謀》のほか、発表当時サロ
ンで話題となった《牡蠣を食べる女》、宗教画の代表作《苦悩の人》などでアンソールの画業
を展覧します。また、アンソールに影響を与えたブリューゲルやルーベンスらフランドルの画
家や、クールベやファンタン=ラトゥールなどフランスの画家の作品もあわせて展示し、アン
ソールの芸術を生み出した背景を探ります。
アンソールは、優れたコレクションとして国内外から高く評価されている当美術館の西洋美
術コレクションの端緒であり、本展はそのアンソールを、肥沃なるヨーロッパ絵画史の伝統と
ともに紹介するまたとない機会となります。
[展覧会名]
アントワープ王立美術館所蔵
ジェームズ・アンソール ―写実と幻想の系譜―
[会
[会
期]
場]
James Ensor in Context
2012 年 4 月 14 日[土]-6 月 17 日[日]【57 日間】
豊田市美術館 展示室 8
[主
催]
豊田市美術館、NHK名古屋放送局、NHKプラネット中部、中日新聞社
[後
援]
ベルギー王国大使館
[協
力]
KLMオランダ航空
[制作協力]
[観 覧 料]
[出品点数]
NHKプロモーション
一般 1000 円[800 円] 高校・大学生 800 円[600 円]
[ ]内は前売券及び 20 名以上の団体料金
中学生以下、市内高校生、障がい者及び市内 75 歳以上は無料(要証明)
111点(一部展示替えあり)
1
[関連事業]
■ 記念講演「アンソールと美術の歴史」
ヘルヴィク・トッツ(アントワープ王立美術館学芸員、本展監修者)
4 月 14 日(土) 午後 2:00-3:30 逐次通訳あり
美術館講堂(172 席)
■ 美術館コンサート(2回)
アンソールの作曲した音楽など、同時代の室内楽を演奏(学芸員トークあり)
ピアノ:奥村理恵(愛知県立芸術大学、愛知教育大学講師)
① 4 月 30 日(月・祝)
② 6 月 9 日(土)
※ いずれも午後 3:00-3:30 美術館講堂(172 席)
■ 30 分で楽しむスライドレクチャー
① 5 月 5 日(土) 「におう絵画:フランドル美術のスカトロジー」
② 6 月 16 日(土)「画家の小宇宙:アンソールのアトリエ」
※ いずれも午後 3:00-3:30 美術館講堂(172 席)
※ 講師:当館学芸員
■ バグパイプ・コンサート
ブリューゲルの時代の音楽を当時のバグパイプ(復元楽器)で演奏します
出演:ブリューゲルバンド
5 月 27 日(日) 午後 2:00-3:00
美術館前庭(屋外)
■ ワークショップ「アンソールのこわくてふしぎな仮面をつくろう」
6 月 3 日(土) 午前 10:30-12:30
対象:小学 2~4 年生 15 名(募集)
■ 学芸員によるギャラリートーク
4 月 21 日[土]、5 月 3 日[木、祝]、5 月 6 日[日]、5 月 12 日[土]、5 月 26 日[土]、
6 月 2 日[土] いずれも午後 2:00 より
■ 作品ガイドボランティアによるギャラリーツアー
木曜日を除く午後 2 時より(イベント開催日は午前 11 時より)
[印 刷 物]
ポスター:B 1、B2
チラシ :A4
作品リスト:A3二つ折り
カタログ:縦 292×横 227×厚み 17 mm 204 頁 2,200 円
2
[広告宣伝]
◇新聞広告
中日新聞
4/26 2 段 1/4 市民・尾張・三河
4/27 2 段 1/4 東海(浜松発行分)
5/11 2 段 1/4 尾張・三河
4/13・5/19 2 段 1/4 三河インフォメーション広告内
4/25 1 枠 「中部新時代 2012 豊田みよし」内
4/27 半 5 段 愛知県版(とよたハウジングガーデンオープン特集内)
読売新聞
3/15(春の観光特集内)
新三河タイムス 4/12
矢作新報
4/13
東海愛知新聞
4/13
◇交通広告
地下鉄鶴舞線窓ステッカー広告
4 月 9 日~6 月 17 日
地下鉄鶴舞線窓B3広告
4 月 9 日~6 月 17 日
豊田市駅駅貼広告
4 月 9 日~6 月 17 日
新豊田駅駅貼広告
4 月 9 日~6 月 17 日
リニモ 藤が丘駅駅貼広告
4 月 9 日~6 月 17 日
リニモ 愛地球博万博公園駅駅貼広告 4 月 9 日~6 月 17 日
◇広報誌
『広報とよた』
4 月 1 日号
[学芸担当]
鈴木俊晴、都筑正敏
[庶務担当]
橋本園美
[ホームページ]
鈴木俊晴
3
2 実績
2-1 入場者・参加者
◆観覧者総数
区
分
「ジェームズ・アンソール展」
○有料観覧者数
8,058人
内訳/一般
7,208人
高大生
850人
(うち友の会)
(533人)
○無料観覧者数
3,410人
内訳/小・中学生(引率含む)
594人
市内高校生
252人
障がい・高齢者
655人
県芸学生・職員
78人
優待・招待等
合
1,831人
計
※ 1日あたり観覧者数
11,468人
201人/日(会期57日)
◆出版物売上(会期中)
図録『アントワープ王立美術館所蔵
ジェームズ・アンソール
―写実と幻想の系譜―』
◆音声ガイド貸出数
828台(貸出率1台/14人)
2-2 関連事業参加人数
合計 893人
・ 記念講演
ヘルヴィク・トッツ
4 月 14 日(土)172人
・ 美術館コンサート
① 4 月 30 日(月・祝)
172人
② 6 月 9 日(土)
130人
・ 30 分で楽しむスライドレクチャー
① 5 月 5 日(土)
57人
② 6 月 16 日(土)
40人
・ バグパイプ・コンサート
・ ワークショップ
5 月 27 日(日)
6 月 3 日(土)
170人
15人
4
436冊
・ 学芸員によるギャラリートーク
① 4 月 21 日(土)
20人
② 5 月 3 日(木・祝)
18人
③ 5 月 6 日(日)
22人
④ 5 月 12 日(土)
27人
⑤ 5 月 26 日(土)
25人
⑥ 6 月 2 日(土)
25人
2-3 教育機関、団体、視察受け入れ
日付
4 月 17 日
4 月 21 日
4 月 25 日
4 月 28 日
4 月 29 日
4 月 29 日
5月2日
5 月 16 日
5 月 16 日
5 月 20 日
5 月 20 日
5 月 22 日
5 月 24 日
5 月 24 日
5 月 25 日
5 月 26 日
5 月 26 日
5 月 29 日
5 月 30 日
5 月 30 日
5 月 30 日
5 月 31 日
5 月 31 日
6月5日
6 月 10 日
6 月 12 日
6 月 14 日
6 月 14 日
6 月 15 日
6 月 16 日
曜
火
土
水
土
日
日
水
水
水
日
日
火
木
木
金
土
土
火
水
水
水
木
木
火
日
火
木
木
金
土
合計 30団体
団 体 名
1,257人
国土交通省
名古屋造形大学
名古屋大学文学部美学美術史研究室
学校法人河合塾美術研究所
学校法人河合塾美術研究所
黒野清宇総会
岡崎市立北野小学校
たねの会
NHK文化センター豊橋教室
山梨造形美術会
福井大学
豊田高専建築学科
三重県立美術館友の会
樹木・小坂老人クラブ
岐阜県立加納高等学校
愛知教育大学
福井県立美方高等学校 美術部
朝日丘中学校
朝日丘中学校
油絵サークル 絵歩里サークル
悠久会(日進市老人クラブ)
朝日丘中学校
時来夢希ツアー
扶桑東女性の会
学泉大学
朝日丘中学校
清洲アートラボ(清洲美術館)
朝日丘中学校
朝日丘中学校
名古屋芸術大学
合 計
5
人数
16 人
87 人
24 人
20 人
25 人
20 人
100 人
25 人
19 人
30 人
47 人
38 人
127 人
81 人
39 人
31 人
23 人
38 人
34 人
27 人
30 人
67 人
24 人
44 人
23 人
35 人
25 人
35 人
67 人
56 人
1,257 人
2-4 マスコミ等
◇新聞(展評・紹介記事)
中日新聞
県内4月 15 日
県内 4 月 17 日(鈴木俊晴、担当学芸員)
県内 4 月 18 日(鈴木俊晴、担当学芸員)
県内 5 月 29 日(宮川まどか、記者)
三河 4 月 13 日(田畑皆彦、記者)
三河 5 月 1 日(古根村進然、記者)
豊田 5 月 29 日
夕刊 5 月 25 日(中野京子、作家)
朝日新聞
夕刊
日経新聞
全国 5 月 17 日、6 月 14 日(鈴木俊晴、担当学芸員)
赤旗
6 月 2 日(高橋昌宏、記者)
4月4日
とよたホームニュース
4 月 14 日
新三河タイムス 4 月 12 日(鬼頭直基、記者)
矢作新報
5 月 25 日(貞島容子、記者)
東海愛知新聞
6 月 10 日
信濃毎日新聞
6 月 14 日
◇美術専門誌
月刊ギャラリー
ナゴヤアートニュース
4月号
№124
新美術新聞
2012.4-5
3月21日号
美術の窓
4月号
アートコレクター
6月号
◇雑誌・地域誌
ノジュール
4月号
ぴあ×スターキャット
4月号
メンズ・ジョーカー
6月号
ナゴヤカレンダー
4月号
愛知の建築
5月号
月刊Kelly
6月号
けんぽプラザ(全国設計事務所健康保険組合広報誌)
fratto(三河・浜松エリアコミュニティ誌)
Wind(名鉄沿線情報誌)
6月号
6
春号
vol.15
◇テレビ・ラジオ
NHK
情報フレッシュ便「さらさらサラダ」
:平成24年4月17日(火)午前11時30分~正午(総合TV/東海3県)
「ウィークエンド中部」
:平成24年5月12日(土)午前7時30分~8時(総合TV/東海北陸7県)
「FMトワイライト」
:平成24年4月26日(木)午後6時~6時50分内(FM/東海北陸7県)
30秒スポット
:平成24年4月7日(土)~平成24年6月11日(月)の期間中、計10回
(総合TV/東海3県)
ラジオお知らせ:適宜
FMとよた
ひまわりネットワーク
◇ウェブ
インターネットミュージアム(丹青社)
3月30日 UP
JDN(Japan Design Net)イベントエース
4月10日 UP
2-5 観覧者アンケート(来館者満足度
主な項目
回答数172
)
(満足+やや満足)(普通)(やや不満+不満)(無回答)
展示内容
83
%
10
%
3
%
4
%
展示空間
82
%
12
%
3
%
3
%
ポスター、チラシ デザイン
70
%
23
%
3
%
4
%
観覧料金
55
%
34
%
6
%
5
%
図録の内容
47
%
31
%
2
%
20
%
図録の価格
25
%
47
%
8
%
20
%
感銘や刺激
83 %
6
%
2
%
9
%
他者に薦めたい
77
12
%
2
%
9
%
%
3 検証
(学芸担当者)
日本でのアンソール展はこれまでに数回行われている。規模の大きいものとしては、
1983-84 年(兵庫県立近代美術館ほか)、2005 年(東京都庭園美術館ほか)があり、ま
た版画展も 2001 年(東京ステーションギャラリー)、2010 年(姫路市立美術館)など
7
と、これまでたびたび日本に紹介されてきた。美術館のコレクションとしても、当館の
ほかに、メナード美術館が代表作《仮面のなかの自画像》(1899 年)を、版画につい
ては国内数館がまとめて所蔵するなど、日本での知名度はやはりそれほど高くはないも
のの、こうした紹介の機会をへて確実に愛好者を獲得してきたといえる。
したがって、本展ではこれまでの回顧的な展覧会をふまえ、あえてアンソール以外の
他作家を織り交ぜることで、ほかの展覧会との差別化をはかり、かつ、より明確なアン
ソール像を伝えることを目指した。
本展はアントワープ王立美術館のコレクションのアンソール作品と、ブリューゲルや
ルーベンスといった過去の巨匠からアンソールの同時代の画家までの作品を、テーマご
とに配することで、アンソールという幾分風変わりな画家をフランドルの絵画史のなか
に位置づけようとする試みであった。基本的な枠組みと作品の選定はアントワープ王立
美術館の学芸員ヘルヴィク・トッツ氏が行い、そこに日本側からの要望や意見が反映さ
れながら出品リストが作成された。アントワープの所蔵品としては宗教画の代表作であ
る《反逆天使の墜落》(1889 年)、あるいは他館所蔵の《自画像》(1888 年)や《キ
リストのブリュッセル入城》(1888 年)などいくつかの重要作が欠けていたとはいえ、
《牡蠣を食べる女》や《陰謀》といった初期から中期にかけてのアンソールの代表作の
ほとんどを展観することができた。メナード美術館から《仮面のなかの自画像》を特別
に借りることができたことも幸いであった。
他作家もいずれも小品ながら、ルーベンス、ピーテル・ブリューゲル(子)、ダーフィッ
ト・テニールスなど、盛期フランドル絵画の代表的な作家にくわえ、レンブラントやハ
ルスに由来する作品がそろい、また、アンソールと同時代の作家としても、アルフレッ
ド・ステヴァンスやアンリ・ド・ブラーケレールなど、アンソールの作品と比較するに
ふさわしい作品群を借り受けることができ、本展の目的であった「風変わりな画家アン
ソールが、いかに歴史のなかに位置づけられ、またその一方でいかに逸脱していたか」
を検証するにふさわしい展観となった。とりわけ、アンソールのドローイング《ハルス
の模写》と油絵《青いショールの老婦人》の類似や、ド・ブラーケレール作《食事》と
アンソールの《牡蠣を食べる女》の対比などはアンソール作品を読み解く上でとても有
意義であり、鑑賞するに魅力的な一角を設けることができた。
その一方で、アンケートを見ると、テーマの設定や解説パネルの語句などがやや難解
で、かえって作品理解の妨げになることもあったようだ。
全体の入館者数は目標には届かなかったが、関連イベントはいずれも盛況であった。
とりわけピアニスト奥村理恵氏と作品ガイドボランティア中野真理子氏の協力を得て
開催したアンソールのピアノ曲を紹介するコンサートは好評で、アンソールの芸術活動
をひろく紹介するまたとない機会となった。
あまり知られていないことだが、豊田市美術館の西洋近代美術のもっとも古い所蔵作
品のひとつがアンソールの《愛の園》(1888 年)である。シュルレアリスムや表現主
義などの 20 世紀の諸動向を予告したとも評されるこの画家は、そうした流れを俯瞰す
るようにある当館のコレクションの端緒に確かにふさわしい。また、アンソールがオス
8
テンドという西洋美術史上の辺境にて制作を続けていたこと、あるいはアントワープと
いう商業と工業の街の美術館のコレクションを紹介するということも、このやはり中央
からは遠い、工業都市の美術館としてふさわしいことであったと考えている。
(庶務担当者)
ジェームズ・アンソールは、ベルギーでは紙幣の絵柄になるほど有名な画家で、日本
でもその特異な作風を愛するファンは多いそうである。しかし一般的にはあまり知られ
ておらず、恥ずかしながら私も今回担当して初めてアンソールを知ったのだった。
実際に見たアンソールの作品群はすばらしかった。印象派と似ていながらもっと違う
感じのタッチ、仮面や人形等の民俗的・原初的なモチーフを入れ込んだ、現代にも通じ
る斬新な表現、そしてそれらが放つ強烈なエネルギーにすっかり魅了されて、「この作
品のためなら頑張れる。」と思ったほどで、個人的にも幸せな出会いであった。
観覧者の評価も、アンケートで各項目の満足度80%以上と高く、意見欄にも「すば
らしかった。」「アンソールを知らないで来たが作品に引き込まれた。」等、好意的な
感想が多かった。特に今回は5館巡回の中で当館だけがメナード美術館所蔵の《仮面の
中の自画像》を展示したことが大きかったと思う。メナードでこれを見てアンソールを
知ったという人も多く、再会を喜ぶ声が聞かれた。また、アンソールに関連してブリュー
ゲルやルーベンス等の作品を展示したことも好評だった。
今回は19世紀の具象画家でこれだけの面白い内容であればと、かなりの集客を期待
したのだが、しかし数字的な結果は厳しいものだった。その原因は、何といってもアン
ソールの一般的な知名度の低さをカバーできなかったことにあると思う。この展覧会は
現在東京の損保ジャパン東郷青児美術館で開催中で、NHKの「新日曜美術館」で特集
され、雑誌記事や観覧者のブログにも多く取り上げられて注目を集めている。巡回展の
最初が東京で、全国的な関心が高まってからの豊田展であったら、もっと多くの人に見
てもらえただろうし、《仮面の中の自画像》の特別展示も東京から再度見に来る人がい
たりしてもっと効果的だったのではないかと思うと、非常に残念である。
今回はNHKとの共催だったが、番組内での紹介はあったものの、多くの視聴者の目
に触れるような頻繁なスポット広告は無く、知名度の増大にはつながらなかったように
思う。名古屋ボストン美術館の日本名宝展や昨年度のフェルメールと比較するのは酷か
も知れないが、なにげなく見ている画面に名前が映るというのはかなり効果的なので、
もう少し広く発信ができたら、マスコミの強味が生かせたのではないだろうか。
美術館としても、今回はまちなかとの連携が十分にできず、型どおりの広報に終わっ
たことは反省すべき点である。現代美術もそうだが、世間一般に知られていない作家を
どう紹介していくかは今後にもつながる課題だと思う。
関連事業としては、講演会やギャラリートークのほか、アンソール作曲のピアノ曲を
演奏するコンサート、同時代のバグパイプ(復元)を使った屋外コンサート、「こわく
てふしぎな仮面をつくろう」のキッズ・ワークショップといったユニークな事業を展開
9
して非常に好評であった。また、学芸員のスライドトークを各回30分とコンパクトに
したことでフリーの参加者が増えたことはよかった。今後も整理券を配布する事業だけ
でなく、来館者があまり時間を気にせず気軽に参加できるイベントも必要であると思う。
庶務担当としては、初日のベルギー大使出席の開催式典や、共催関係者との調整等苦
労も多かったが、充実した仕事をさせていただき感謝している。
(総括)
本展は海外の名作の巡回展であるが、当館学芸員が担当館として仕切り、内容的にも
アントワープ王立美術館との交渉に当たり、学芸的にも主体性を持っておこなったもの
である。
内容的には、学芸担当の記述にあるように、本展はこれまで日本で行ってきた、単純
なアンソール展ではなく、その美術史上の位置をあらためて探るものであった。その中
で、「特異な異端画家」の中の伝統性を逆に浮き彫りにしようとしたものである。アン
トワープの担当学芸の基本原案ら基づきながらも、残念ながら保存の観点から取り止め
になった作品も多く、それらが来ていれば、さらに説得力のある立体的な奥行きのある
展観になっていたと思われる。そのことは残念だが、その代わりにアンソール作品を補
強するために、メナード美術館から《仮面のなかの自画像》を当館のみ特別借用するこ
とが出来た。これに国内所蔵の版画を追加すれば、さらにアンソールの魅力は倍化した
かも知れないが、予算等の問題で諦めた次第である。
なぜ思ったように入場者数に反映できなかったか?という点での自己分析としては、
庶務担当者が分析しているように、東京展を後にすると中央のマスコミが当館の会期で
は掲載をひかえるということがあったかも知れない。また、NHK は地方局単位で対応し
ていて、当館の場合は名古屋局では昼の情報番組に担当学芸員が出演して、比較的長く
告知していただいたものの、繰り返しのスポット告知には限界もあり、それを補強する
街並みの告知も行わなかったことも含め、今後の反省課題としたい。
また、関連企画は庶務担当者等が触れているように、コンサートも含め、多角的に展
開していて、また質的にも高く、観客にとっても好評であった。
10
資料2
夏休み子どものプログラム 2012
「小沢剛-あなたが誰かを好きなように、誰もが誰かを好き」報告書
平成24年10月26日
1 事業概要
1-1 展覧会概要
日常に眼差しを向け、人々と関係性を築きながら制作活動を展開する美術家、小沢剛。
《あなたが誰かを好きなように、誰もが誰かを好き》は、直径8mの巨大な布団の山
を舞台にした、子どものためのアートプロジェクトである。このプロジェクトは、2006
年のブリスベンを皮切りに、バンコク、東京、広島で開催され好評を博し、2012 年の
夏、豊田市美術館へと巡回してきた。ここ豊田の会場においても、「ふとん山」をめぐ
って大勢の子どもたちが美術館を訪れた。そして、その弾むような笑い声と汗をびっし
ょりかいて生き生きと遊ぶ光景は、会期を通して絶えることがなかった。
この「ふとん山」には、ふたつの機能がある。ひとつは子どもたちが集う「遊び場」
としての機能である。子どもたちは、布団の山を登ったり滑ったりして自由に遊ぶこと
ができる。「ふとん山」が有するもうひとつの機能、それは子どもたちが描いた絵を別
の町の子どもたちの手元へと届けるポストとしての役割である。来場した子どもにはま
ず封筒が手渡される。封筒の中には2枚のカード―― 1枚は人物が描いてあり、もう
1枚は無地の紙が入っている。人物が描かれたカードは、過去に別の会場でこのプログ
ラムに参加した子ども自らが「好きな人の顔」を描いたもので、今回の参加者が持ち帰
ることができる。そしてもう1枚の無地のカードに自分の好きな人の顔を書き、「ふと
ん山」の山頂にあるポストへ投函すると、その絵は作家とともに次のプロジェクト開催
地へと旅に出る。
小沢剛によるこのアートプロジェクトは、「好きな人」を描いた絵とそれに纏わる想
像力を介して見知らぬ人と人とを繋ぐ、子どもたちの夢の遊び場を創出させる試みなの
である。
[展覧会名]
夏休み子どものプログラム 2012
「小沢剛-あなたが誰かを好きなように、誰もが誰かを好き」
[会
期]
2012 年 7 月 14 日[土]-8 月 15 日[水]【30 日間】
[会
場]
展示室 9
[主
催]
豊田市美術館
[観 覧 料]
無
料
1
[関連イベント]
その1:ワークショップ
ふとん山のトンネルに絵をかこう!
ふとん山の秘密のトンネルにみんなで絵を描くワークショップ。持ち物は懐中電灯。絵
のテーマは「ふとんの中でみた夢」
。現代版の不思議な洞窟壁画が出来上がった。
日時:7 月 21 日(土)14:00-
その2:パフォーマンス
しでかす!ふとん山
ダンサー・振付家、小林由佳と複数のアーティストが集まって結成された、世界初のき
ぐるみアイドルユニット“しでかすおともだち”が「ふとん山」に出没。活弁映画監督、
山田広野のトークを交え、ナツメロをバックミュージックに魅惑のダンスを繰り広げた。
日時:8 月 4 日(土)①14:00-
②16:00-
その3:ワークショップ
信州まくら~ず@ふとん山
信州大学人文学部芸術コミュニケーションゼミの学生らによるワークショップユニッ
ト“信州まくら~ず”。パジャマを着た“まくら~ず”のメンバーが、150個のまく
らを使った驚きの遊びを子どもたちに伝授。みんなでまくらを持って美術館を探検した。
日時:8 月 11 日(土)①10:30-
②15:00-
対象:小学校 1-3 年
定員:各回 20 名(予約制)
[印 刷 物] チラシ:A4
小冊子:A4版
16 頁
[学芸担当]
都筑正敏、鈴木俊晴
[庶務担当]
島村勲、橋本園美
[ホームページ]
鈴木俊晴
2
2 実績
2-1 入場者・参加者
◆観覧者総数
13,511人
※ 1日あたり観覧者数
450人/日(会期30日)
2-2 関連イベント参加人数
合計
510人
・ワークショップ:ふとん山のトンネルに絵をかこう!
日時:7 月 21 日(土)14:00-
参加者数:170 人
・パフォーマンス:しでかす!ふとん山
日時:8 月 4 日(土)①14:00-
参加者数:157 人
②16:00-
参加者数:141 人
・ワークショップ:信州まくら~ず@ふとん山
日時:8 月 11 日(土)①10:30-
参加者数:20 人
②15:00-
参加者数:22 人
2-3 マスコミ等
◇新聞(展評ほか)
中日新聞(豊田版)
「美術館で走る!滑る!豊田で楽しいイベント」7 月 18 日(水)
毎日新聞(地方版)
「布団の山に児童が歓声」 7 月 20 日(金)
◇美術専門誌
美術の窓
平成 24 年 8 月号
◇その他
新聞折込広告(中日・朝日・毎日・読売)
7月6日(金)
◇ラジオ・テレビ
CBC ラジオ:つボイノリオ「聞けば聞くほど」
ひまわりネットワーク
◇ウェブ
ACC(Asian Cultural Council) News
7月 22 日 UP
Museum Cal(美術館カレンダー)
8月2日 UP
信州大学人文学部 HP(信州まくら~ず)
8 月 18 日 UP
READYFOR?(クラウドファンディング) 8 月 1 日 UP
※福島県立美術館での巡回展開催への支援募集
3
3 検証
(学芸担当者)
夏休みの期間中、親子を対象とした参加・体験型の教育プログラム/展覧会として、
美術家、小沢剛による巨大なふとん山を舞台としたプロジェクトを開催した。人々と関
係性を築きながら制作活動を展開する小沢剛は、アートを街の再生のための触媒として
機能させようとする国内外のアートプロジェクトにおいて、今や最も人気のある作家の
ひとりである。
今回は、当館が推進する教育事業のヴィジョンと、小沢が展開している「ふとん山」
プロジェクトのコンセプトがうまく合致し、かつ双方が希望する開催スケジュールが符
合したことで、幸いにも開催へと漕ぎつけることができた。過去にこのプロジェクトを
開催した美術館や寝具業者の協力を仰ぎ、作家とも連絡を取り合いながら、予算面にお
いても工夫・調整することで、設営に必要な基礎の部材の再利用や大量の布団のレンタ
ルが可能になったことは、事業を推進するうえで大きなプラス面となった。さらには芸
術系分野の大学との連携を図ることによって、魅力あるワークショップが開催されるな
ど、充実した関連事業を展開することができた。
何よりも驚いたのは、当初の予想をはるかに上回る多くの親子連れがこの展覧会へと
足を運んでくれたことだ。会期を通して会場は大賑わいで、美術館のスタッフは「ふと
ん山」で遊ぶ子どもたちの安全確保が第一の専念事項になったほどだ。特記すべきは、
普段、美術館を訪れることのない年中~年長の園児とその家族が来場する姿を多く目に
したことだろう。こうした状況を導いたのは、何よりも子どもたちを惹きつける不思議
な効力を備えた「ふとんの山」という作品の魅力によるところが大きい。また広報の面
において、子どもと親にアピールするチラシを作成し、これまでアクセスしたことの無
かった市内こども園の年中、年長さん宛てに重点を絞ってチラシを配布したことも功を
奏したと考えている。これまで来館したことの無い人々も含め、予想を上回る数の入場
者を呼び寄せ、特に親子を対象に美術館の事業をアピールすることができたという点で、
大きな成功を収めたと考えている。
来場した美術愛好家からは、
「美術館を訪れた子どもたちが、
“アートを体験する”と
いうよりは、ただ“遊び場で楽しく遊ぶ”ということに終始してしまっているのではな
いか。」という意見もいただいた。こうした見解に関して、この作品のリレーショナル・
アートとしての側面や作家の作品に対する思いなどを、より積極的に子どもたちに伝達
すべきであったのか、もし伝達すべきであるとしたら、どのような方法があったのか、
今一度、省みるべきことといえるだろう。学芸担当者としては、この夏「ふとん山」に
集まった子どもたちには何かが深く刻まれたと信じたい。いつの日か、何かをきっかけ
にして、子どもたちには「ふとん山」で遊んだ記憶が蘇ることだろう。その時には、立
ち止まって思いを巡らせてほしい。あの時もらった誰かの絵のこと、自分が書いた絵の
行方について。そして、あの「ふとん山」とはいったい何であったのかを。
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(庶務担当者)
今夏も暑い夏が予想されたことから、全国的に、節電努力が家庭でも求められ、連日報
道される中、比較的新しい節電手法として、クールシェアが提唱され、官民施設を問わず、
実践される中で、本展覧会は開催された。
本展覧会は、無料で、かつ親子で参加できることから、上記のような目的にかなった使
われ方を提供できたことが、予想を大きく上回る参加者を得ることにつながったと思われ
る。
また、子どもに対してはそれぞれ楽しむ方法があったことによって年齢的な制限がなく
なり、より幅広い親子の参加を得ることにもつながったと思う。
その結果、普段美術館に足を運ぶことがない親子に対して、格好のきっかけが提供でき
たものと思われる。
このように多くの参加者が得られたのも、市役所子ども部各課、とよた男女共働参画セ
ンターを始め民間企業など、当美術館の新しい試みを評価してくれ、PRに努めてくれた
ところにもよるところが大きい。
一方で、館内においてもレストランが独自のお子様メニューを、またミュージアム・シ
ョップが子ども向けの商品を用意してくれるなど、関係各方面の協力や支援によって、支
えられた展覧会であり、広く関係各位に感謝したい。
(総括)
当館はここ数年夏休みの親子で楽しめるワークショップを開催してきたが、今回はさ
らに展覧会という形でのさらに一つの期間と場を広げた展開の第一弾として開催した。
これはこれまで継続実施してきた市内の学校からのバスでの美術館見学が、学校側の
他所への変更等によって数校に減少した現実に対して、どのように美術館側として対応
するかというワークショップの試みの延長であった。
当館が更なる幅広い市民の一つの親しまれる場となる試みとして、そして将来にわた
り美術館というものが生活に根付いたものとするためには、美術館は様々な人々が集り、
出合う場とならなければならない、そのために単なる展示だけでなく、様々な窓口とし
ての幅の広さと、楽しみを提供しなければならない。普段は出会わない人が出会い何か
が発生するような、いわば広場(フォーラム)的な考え方である。そのためにワークショ
ップがあり、ボランティアも含めたトークの場があり、コンサート等の関連企画、さら
にはレストランがあり、ショップがあるかも知れない。そのように展開しているはずな
のに普段見かけない市民も実際に存在するのも事実である。それが小学校以前の子ども
たちを含めた親子連れでもあろう。静かな鑑賞の場ではコンサート等も含め彼らは通常
排除されてしまうかも知れないし、また来ることも避けてしまうかも知れない。
そのような点で今回は通常とは別の状態が発生していた。監視することが不可能とな
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るような、展示の場じたいが、一つの異物として機能しているような状態。学芸担当が
記しているように、当初の小沢剛という作家の一つの作品を、そしてその本来の意図を
はるかに超えて、一つのサンクチュアリのような子どもの解放されたエネルギーの放出
の場に、正直、われわれも圧倒されて、当初の見込みも超えて、何度もフトンは破け、
毎晩のように補修し続け、フトンを代えざるを得なかった。そして当初の見込み以上の
入場者にも結果した。入場者数としては有難いことだが、その「作品」「作家性」から
の逸脱ぶりは、子どもの本能的なパワーによって、大きく目的論的な大人の意図を飛び
越えたものを見せつけるに充分であった。そのことを悲しむべきだろうか?しかし作家
もある程度は折り込み済みの、様々な多様な「使用法」も前提にした、人の想像力に賭
けた場の提供ではなかったか。それでも人に描くという本来的な作業に向かわせたが、
それ以上に滞留し、「作品」を十二分に楽しみ尽くしたというべきだろうか。そのこと
はフトンという懐かしさと家でのタブーの開放、つまりは社会性を親子そろって美術と
いうフレームの中で解いたということだろう。
それはいわばジャングルジムや砂場と似ていて、シンプルで多様な遊びに開いている
目的論からのズレをもともと前提にし、様々な方向に向かう要素があったというべきだ
ろう。
一つの素材の、ひとつの場の魅惑に焚き付けられ、親までが転がり、走り、その傍ら
で絵を静かに描き、何とか頂上のポストに投稿する子どもがいた。見てもいない、会っ
てもいない誰か不明の友達に自分の好きな人の絵姿を送り届け、手元に誰かが同様に好
きな人を描いた絵が残ってしまう。その謎の狂乱と静かなお絵かきという特殊すぎる経
験は、真夏の白日の夢見のようなものとして彼(女)らに残ったかも知れない。ひとつの
身体的な感触も含めて。
次年度は全く異なる場を考えたい。
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