「中東・北アフリカ日本語教育セミナー2016」が、9 月 4 日、5 日の 2 日間、国際交流基金カイロ日本 文化センター(以下、当センター)で開催されました。今年のセミナーの全体テーマは「21 世紀を生 きる力」で、9 か国から約 40 名の参加者が集まりました。 開会式では、まず当センター所長高橋より皆様にご挨拶があり、来賓としてご参加くださった在エ ジプト日本国大使館広報文化センターの山本英昭所長より、参加者の皆様に励ましのおことばを頂き ました。 つづく基調講演には、カリフォルニア大学サンディエゴ校から當作靖彦教授が遠路はるばる 44 時間 かけてお見えになり、「なぜ日本語・日本文化を学習するのか」というテーマでお話しいただきまし た。 21 世紀は、ロボットや AI の進化によって人間にとってとても生きづらい時代になっていくと予想さ れています。そういう時代を生き抜くのに必要な力として、高度思考能力、創造力、コミュニケーシ ョン能力、協働力が注目されるようになってきています。 このような時代には日本語教育にも、人間形成、すなわち生産的な生活を送り、社会に貢献できる 人間をつくる教育が求められるようになってきています。語学教育の歴史の流れでいえば、70 年代以 前の「KNOW(知っている)」の時代から、20 世紀末の「DO(できる)」の時代を経て、21 世紀の今は 「CONNECT(つながる)」の時代になってきているのです。 このような流れの中で、日本語を学ぶ価値というものも見直されつつあります。バブル経済の崩壊、 アベノミクス、少子高齢化、脱原発など日本は世界に先駆けて課題に取り組んでいる課題先進国とし て世界に注目されています。日本は 21 世紀の地球の未来像であり、日本語はグローバル・リテラシー の言語として学ぶ価値のある言語といえるのです。 日本語は今まさに学ぶ価値のある言語であるという大変勇気づけられる有意義なお話でした。 午後のセッションでは、カイロ、アルジェリア、モロッコ、イタリア、トルコ、UAE から 6 名の参加 者によるスライド・プレゼンテーションがあり、「アインシャムス大学の日本文化紹介イベントでの 活動」、「ノンネティブ教師による日本語指導時の課題 アルジェリアの日本語教育について」、 「日本語学習者の市民性形成過程についての一考察」、「ブログ等、インターネットを活用した活動 と実践」、「援助をもたない文化普及活動-日本UAE文化センター-」というテーマで約 15 分ずつ プレゼンテーションをしていただきました。各地の取り組みや課題が共有でき大変有意義だったとい う評価をたくさんいただきました。 初日の最後は研究発表で、マリーナ・バハー・ラフラさん(アインシャムス大学)による「日本語 とアラビア語における発話機能と日本語学習者の語用論的能力の習得について―「不満表明」を例に ―」と岸田直子さん( 日本UAE文化センター)による「日本語の需要がないUAEで、日本語学習 者はどのようなモチベーションで勉強を続けているか」が発表されました。こちらも大変有意義であ ったとの評価を大勢の方からいただきました。 二日目の午前中は初日の講演に引き続き、當作靖彦先生によるワークショップ「日本語クラスでの 21 世紀型スキルの評価」が行われました。 教育の目指すものが、教師から学習者への知識の移動と考えられた時代には、評価は移動した知識 の量と正確さを測ることに主眼が置かれ、客観性が強く求められました。いわゆるテストによる評価 が主流でした。しかし、知識は教師から学習者に移動するものではなく、社会を通じて学習者の中で 構成されていくものだという考え方の現在の教育では、評価も正解のある課題に対して正答であった かどうかを測る形ではなく、正解が一つではありえない課題に対して、妥当な評価を行わなければな りません。いわゆる面接やレポート、プレゼンテーションなどで評価するという評価法です。 どうしても主観的にならざるを得ないこのような評価をより信頼性を高める方法としてルーブリッ クという評価表とその作成法、使用法をご紹介いただき、グループに分かれて 21 世紀型スキルのルー ブリックを作成しました。 課題は「プレゼンテーションの統括的評価」でした。まず、6~7 人のグループに分かれて、グルー プ内でさらに 2~3 人のグループに分かれ、それぞれに「協働力」、「情報のリテラシー」、「プレゼ ンテーションの仕方」の分担を決めます。グループのメンバーで担当の評価要素や基準を考えて、全 体で一つのルーブリックになるように話し合ってルーブリックを完成させました。そして、できあが った 5 つのルーブリックは参加者全員で共有されました。 初めてルーブリックを知った参加者は「プレゼンテーションの仕方」の評価を担当し、カイロ日本 文化センターの日本語講座のようにルーブリックをすでに導入している現場からの参加者は「協働 力」、「情報のリテラシー」の評価を担当することで、参加者全員にとって有意義なワークショップ になりました。 ワークショップの後は、4 つの分科会に分かれ、国際交流基金の専門家によるファシリテータのもと、 グループディスカッションが行われました。 第一分科会のテーマは、「教室活動における教師の役割」で、外国語教育を担う者として、今どう いうアプローチが求められているが話し合われました。 第二分科会は、「チームワークと発信力を高めるビデオ制作」というテーマで、ディスカッション が行われ、授業で活用できるプランを持ち帰っていただきました。 第三分科会のテーマは「考える力を育てる」で、授業でのアクティビティや複数の教科の連携など をめぐってアイディアを共有し、試験などでの成績が良いというだけでなく、自分が発信したい情報 を面白くわかりやすく伝えらえるような学生を育てるにはどうすればいいかが話し合われました。 第四分科会では、「図表やグラフ、地図の使い方をどう指導するか」というテーマで、講演とワー クショップで学んだ「つながる」を通じて、エジプト人があまり得意ではないという図表やグラフ、 地図を、どう指導すればいいのか話し合いました。 最後には全員ではこの 2 日間のセミナーで学んだことを参加者全員で振り返り、大好評のうちにセ ミナーは終了しました。セミナーの終わりに行った事後アンケートでは、「20 世紀はエスカレータの ような人生が歩めたが、21 世紀は動く歩道で人生に年功による出世が見込めない」や「『Average is over.』すなわち平均的な生き方ができない時代の到来」という現実にショックを受け、新しい教育の パラダイムに則した教育を取り入れていかなければならないと感じたというコメントを数多くいただ きました。
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