コーポレートブランドのブランドマネジメントについて

コーポレートブランドのブランドマネジメントについて
∼ 社内に向けたブランド戦略の重要性 ∼
アデコキャリアスタッフ(株)
(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモ関西
大阪ガス(株)
(株)大丸
岡
岩
石
真
松
根 一
上 裕
野 剛
貢
雅
道
彰
Ⅰ.問題意識(仮説)
1.なぜブランドか
ブランドは単なる名前ではなく、消費者と企業に様々な価値(効果)を提供する。
たとえば「ティファニーの宝石」であると言えば、そこには単なる名前以上の様々な情報
が盛り込まれており、そのことが価値を生み出す。
製品そのものに大きな差がない場合や、差を認識するために多くの手間をかけなければ
ならない場合、顧客は「製品」=「その製品のブランド」と認識するのである。
その結果、「ブランド力=製品力」という現象が生まれ、企業はブランド・イメージの向
上に力を注ぐことになる。
2.ブランドの効果(認知促進・価値伝達・品質保証)
① 消費者にとっての効果
・ブランドがもたらす情報により購買決定が迅速になり、購買の効率性が高まる。
・ブランドがもたらすイメージが使用・経験の満足度を高める。
② 企業にとっての効果
・法的保護が受けられ、競合企業と差別化できる―商標権が設定できる。
・顧客のブランド・ロイヤリティーを得て、安定的売上げを確保できる。
・プレミアム価格の設定が可能となり、またプロモーションへの依存を小さくすること
もできるため、高いマージンが実現できる。
・ブランドの拡張により成長機会を増やすことができる。
・流通チャネルが販売リスクを低減させるために積極的に取り扱おうとする。
3.ブランドの定義
ブランドとは、企業と顧客が共同で創りだすもので、企業の売上・利益・イメージの源
泉として、その所有は企業にあり、同時に顧客の便益価値として、その生活空間で共有さ
れるもので、企業が顧客の期待に応えるためのいわば「約束」と言える。
そのため勝手にブランドをやめてもいけないし、勝手にコンセプトを変えるべきもので
もなく、消費者の持っているイメージの世界に異質な商品を追加してもいけない。
4.ブランドの力
ブランド=顧客の期待に応えるための「約束」ゆえに、販売手法の制限、価格の制限、
販売チャネルの制限、品質維持コスト、管理体制等様々な制約が生じてくる。
しかし、そのような制約を卓越したブランドは前述のような効果をもたらし、長期的な
利益の源泉としてその力を発揮するのである。
5.ブランド管理
そうした効果を生み出すブランドを持つには、企業はそれなりのマネジメントの努力が
必要なはずである。
価値を生み出すブランド(=強いブランド)をもつ企業はどのようなブランドマネジメ
ントをしているのだろうか。
① 日清食品
90年にブランドマネジャー制度を導入。多数のブランドを6グループに分け、ブ
ランド毎の収益を週単位で管理。01年度にはブランドマネージャー間でブランドの
貸借や売買ができる新制度も導入。ロイヤリティーを支払えば他のブランドマネジャ
ーが担当するブランドも使用可能になり、社内競争を活性化することで商品開発力を
強化。
② マンダム
ブランド戦略というものを「経営戦略とマーケティング戦略をつなぐもの」として
位置付け。商品戦略とブランド戦略とは完全に区別している。
具体的には、
「ターゲット」と「カテゴリー」を2軸に「ポジショニング・マップ」
を作成し、ブランドの棲み分けを行っている。
⇒
強いブランドをもつ企業ではブランドマネジャーとブランドを管理する組織や仕組み
が確立されている。
しかし、
トップブランドのエヌ・ティ・ティ・ドコモは主だったブランドマネジメントをしてい
ないというが・・・。
③ エヌ・ティ・ティ・ドコモ
エヌ・ティ・ティ・ドコモの「約束」は、安心感と信頼性といえるが、同社では特
にブランドマネジメントの組織や体制は敷いていない。
しかし、携帯電話業界において、サービス内容の多様化や料金体系の複雑化により、
顧客にとっては各社の差をを認識することが益々困難になってきている市場で、依然
として同社がトップシェアを維持していることを考えれば、エヌ・ティ・ティ・ドコ
モというブランドが大きく購買動機に起因していることはまず疑いの余地がないはず
である。
【仮
説】
強いブランドを育成、維持管理するために、必ずしも「ブランドマネジメント」は必要で
はない。
Ⅱ.我々の提案(研究で得たもの)
1.仮説の検証
少し整理してみると、日清食品やマンダムがマネジメントしているのは、「カップヌード
ル」や「チキンラーメン」、そして「ギャッツビー」・
「ルシード」といった商品ブランドで
あり、エヌ・ティ・ティ・ドコモの場合は企業名すなわち「コーポレートブランド」であ
ると区別することができる。日清食品やマンダムのように「商品ブランド」のマネジメン
トでは、組織的なブランドマネジメントが有効となっていることは確かなようである。
しかし、エヌ・ティ・ティ・ドコモがマネジメントしている「コーポレートブランド」
では、そのマネジメントの方法が若干異なってくるのではないだろうか。
2.コーポレートブランドの特性
企業イメージ(ブランドイメージ)が向上すれば、自社の商品ブランドの品質やイメー
ジをコーポレートブランドが保証(裏書き)することが可能となり、企業経営やブランド戦
略をプラスに導くことができる。
3.コーポレートブランドにおけるブランドマネジメント
ブランドはトップ経営者だけが創造したわけではなく、ブランドを現場で支えているの
は、ふつうの従業員やパート社員である。
特にコーポレートブランドについては、従業員のモチベーションを向上させやすく、商
品ブランドより、コーポレートブランドのほうが、従業員のモラルに直接影響する。
つまりブランド広告は消費者に向けて製作されているように見えるが、ブランドが伝え
るメッセージは従業員に対しても有効なのである。
エヌ・ティ・ティ・ドコモの場合においても、一見ブランドマネジメントがなされてい
ないようにも伺えるが、企業から従業員に向けたメッセージ活動(=社内マーケティング)
は充実していて、それがドコモというブランドをマネジメントしているのである。
同社は、安心感と信頼性という「約束」を守るため、設備(通話地域の拡大)、迷惑メ
ール対応、高品質なサービスを提供することがドコモブランドのマネジメントであると
して、全社員が同じベクトルに向かいドコモブランドの価値観を共有するために、企業
理念「MAGIC」で事業の5本柱を築き、それを実現するために従業員が実践すべき
行動原則として「DREAM」を策定し、社内メッセージを発信している。
① 「コーポレートブランド」マネジメントの事例
ⅰ.日立製作所
2000年4月に「HITACHI」ブランドの価値向上のためのブランドマネ
ジメントを導入。特にコーポレートブランドの全社的なコーポレートステートメン
トを「インスパイア・ザ・ネクスト(次の時代に新しい風を吹き込む)」と定め、グ
ループ600社をあげてのブランド戦略に取り組んでいる。
ⅱ. セイコーエプソン
経営理念の制定(世界13ヶ国語で制定)、経営理念の小冊子の発行、社内報、社
長ホームページを通じて、グループ全体で「EPSON」という企業の歴史、文化、
業績、価値観等の共有、定着を行っている。
② 社内マーケティング
社内マーケティングが何故有効なのか。それはなんといっても、従業員の感情を製
品やサービスと一体化し、企業が「約束」を守る事の徹底に最善の方法だからである。
従業員がブランドに関心を持ち、価値を信じれば、もっと一生懸命働くであろうし、
ロイヤリティーも高まる。
しかし、従業員に思い入れがなければ、広告で伝えようとするメッセージも十分な
効果を発揮できない。従業員がメッセージを充分理解していないため、その期待に反
した働きをしてしまうことも考えられる。
その事が極端に出た例として、雪印乳業の欠陥商品問題や雪印食品の牛肉偽装事件
があげられるだろう。企業全体として、SNOWブランドだからこその品質面・安心
感などの「約束」を守らず、社会的責任をきちんと果たさなかったために、長年にわ
たって築き上げた雪印ブランドが、一つの商品、一つの関連会社・事業部という事に
関係なく、全体として一気に失墜させてしまったように、ブランドはポジティブに働
くだけでなく、ネガティブに働くこともあるのである。
③ ブランドマネジメントの必要性
仮説「強いブランドを育成、維持管理するために必ずしも『ブランドマネジメント』
は必要ではない」に対する我々の結論は「 NO(ブランドマネジメントは必要)
」で
ある。
しかし、我々が考えていたようなブランドマネジメントだけが、ブランドマネジメ
ントの全てではないと言うことが分かってきた。
我々は日清食品やマンダムのようにブランドマネージャー制度を導入することだと
か、ブランド管理の仕組みや体制を築くといったようにどちらかと言えば、「顧客にブ
ランドを如何にして知らしめるか」という方向にしか議論が進められていなかった。
しかし、ブランド戦略の成否には、従業員一人一人がどこまでその内容を理解し、
顧客に対して情熱をもって取組むかということも大きなポイントとなり、そのため従
業員に向けたメッセージ活動、すなわち社内マーケティングがブランドマネジメント
として如何に必要であるかを改めて認識した。
4.営業がになうブランドマネジメントの役割
しかし、社内マーケティングを実践している企業は少なく、マーケティングとなるとす
ぐに顧客をだけを対象に考えてしまい、ブランド戦略の最重要基盤となる従業員を無視し
ていまいがちである。
営業活動を担務している人間としては、この社内マーケティングにおける役割は大きな
ものがあると思われる。
対顧客向けの営業活動を社内にも利用すれば、ブランドビジョンについて従業員の理解
を深めるだけでなく、従業員の日常業務の中でそのビジョンを実践させることも可能だか
らである。
我がチームのメンバーはそれぞれが「コーポレートブランド」としてはある意味では確
立された企業に帰属しているが、ブランドを管理する組織や仕組みはほとんど築かれてい
ない。まずは、社内マーケティングのできることから始め、ブランドの求心力を自社内か
ら醸成していくべきである。
以
上