摂食障害を減らすために

摂食障害を減らすために
心理臨床学科 1 年
0901069 安武知美
1.はじめに
雑誌やテレビで注目されているモデルや芸能人の多くは、スリムな体型をしている。
彼らにあこがれてダイエットをしたことがある、という人も少なくないのではないだろ
うか。しかし、憧れを通り越した強い願望は正常な美に対する歪みを生み、心身ともに
ボロボロにしてしまうことがある。
このレポートでは、摂食障害の現状を明らかにし、改善案を提案する。
2.摂食障害の現状
これまで摂食障害の患者は、20 歳前後の女性がほとんどだとされていた。摂食障害
患者の男女比における調査でも、1 対 10 と圧倒的に女性が多いという結果が定着して
いたが、これは治療に現れる患者の男女比である。最近調査基準が変わり潜在患者まで
含めるようになったことから、実際の男女の差はもっと少なく、1対5程度だという。
摂食障害はもはや、女性だけに関する病気ではないのである。
また、2003 年に厚生科学研究の一環として、国立精神・神経センター保健所が全国
の中学・高校を対象に実施した調査によると、
「摂食障害の生徒が増えている」と回答
した学校が、中学校で 45%、高校では 54%だった。中学校・高校のいずれも半数近く
の学校で摂食障害の生徒が増えていると答えており、低年齢化しているといえる。
そして、摂食障害の患者数も確実に増えているのである。厚生省研究班が行った「日
本の摂食障害推定患者数の調査」によると、1993 年は人口 10 万人に対して 4.9 人であ
るのに対し、1998 年には 18.9 人と、5 年間でおよそ 3.8 倍に膨れ上がっている。10 万
人に対して 18.9 人というと一見少なそうに見えるが、この統計はあくまで表面化して
いる人数である。周りに知られたくないなどの理由から病院に行きたがらない人や、自
分が病気であることにすら気づいていない人(特定不能の摂食障害者)もいるため、実
際はもっと多くの摂食障害患者がいると予想されている。
これらのことから、摂食障害は私たちが考えている以上に身近な病気となっているこ
とが分かる。
3.摂食障害となる原因とその症状
摂食障害の原因についての専門家の一致した見解は、心理的、社会的、遺伝的、生
物学的要因がそれぞれ関与しているということだ。過度のダイエット、ストレス、成長
することへの不安、父母からの愛情不足などが主な原因として挙げられている。
摂食障害が引き起こす症状には、大きく分けて精神的症状と身体的症状の 2 つがある。
精神的症状とは、自己身体の認識に異常があり、患者自身の主観的な体重評価が客観
1
的評価と一致しないというのが一般的だ。体重増加と肥満への強い恐怖とこだわり、不
安、焦燥感、抑うつなどの感情で頭が常にいっぱいになる。その状態が続くと、朦朧状
態や精神錯乱状態に陥り問題行動1)を引き起こす。
次に、身体的症状とは、極端な体重の変化や、女性の場合は月経停止などが挙げられ
る。一見するだけでは分かりにくいが、他にもさまざまな症状を引き起こし2)、栄養障
害が長く続くと骨粗しょう症などの後遺症が残る場合もある。
摂食障害は、進行すれば日常生活を送ることが困難になるほど、体をむしばむ可能性
のある病気だ。常日頃から自分の生活を見つめなおし、原因と成りうる要因に目を向け
ることが大切だと考えられる。
4.改善案
この節では、摂食障害を減らすための対応として、以下の3つを提案する。
2節で示した通り、
まず第 1 に、
専門医や専門スタッフ3)の数を増やすということだ。
摂食障害の患者が急激に増加している4)が、その増加に対して専門家や専門医、専門ス
タッフの不足が続いており、専門医の疲弊傾向が強いと言われている。また一方で医療
機関の中には、時間と手間のかかる治療を嫌がり、摂食障害患者を敬遠するところも少
なくないという。この問題を解決するために、摂食障害を専門とするカウンセリングの
資格を設立するのはどうだろう。これには2つのメリットが考えられる。1つ目は、医
者の負担を軽減できること。2 つ目は、医療と並行してカウンセリングを行うことで、
治療効果があがると考えられることだ。摂食障害は、精神的なことからなることが多い。
じっくりとカウンセリングできる体制が必要である。
第2に、病院や地方自治体が積極的に情報公開を行うことだ。通院を拒んでいる摂食
障害患者のうち約 3 割は、病院に行くと強制的に栄養剤を飲まされる、すぐに入院させ
られるといった不確かな情報を耳にしたことによる恐怖が原因だという報告がある。不
確かな情報が、人々を病院での治療から遠ざけている。この問題を解決するために、病
院や地方公共団体が不確かなうわさを否定した上で、具体的な治療方法をしっかりと公
開することが大切である。正しい情報を知ることが、患者が病院を訪ねるきっかけにな
るのではないだろうか。
第3に、学校を中心に摂食障害の講演会を行うことを提案する。摂食障害の患者を減
らすと同時に、新たな摂食障害患者を生み出さないための防止策が必要だ。学校では、
交通安全や性教育に関する講演会は総合的な学習の時間やLHRを利用して積極的に
行われている。しかし、摂食障害をテーマにした講演会というのは学校でもなかなか行
われていない。交通安全や性教育も大切だが、摂食障害の問題にも目を向ける必要があ
る。痩せたいという思いが強くなり、悩み事も増えてくる一方で、まだまだ判断力の乏
しい思春期の中高生には特に講演会で正しい知識を得ることは、有効だ。講演会を行う
ことが、摂食障害を意識し考える機会になればと思う。
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5.終わりに
本稿では、摂食障害の現状を明らかにし、改善策を提案した。ただし、摂食障害とい
っても、その症状は様々である。過食症や拒食症といった個々の症状に対する対処の仕
方についても考えていかなければならないと考える。
資料1.高木神経科医院の登録患者数の推移(2002 年)
患者数
年月
注
1) 隠れ食い、盗み食い、自己誘発性嘔吐、不登校、ひきこもり、万引き、自殺、下剤
や利尿剤の乱用など。
2) 徐脈、低血圧、低血糖値、皮膚の乾燥、点状出血班、肝機能障害、腹部膨満感、寒
さに対する不耐性など。
3) 心理療法センターのカウンセラーなど、主に患者の精神的ケアを行う専門家のこと。
4) 資料1が示すように、一機関で見ても登録患者数が年々増加していることが分かる。
参考文献
1) 高木州一郎・浜中貞子
2) 上原徹
2004
2001
『拒食症・過食症の治し方がわかる本』
『食にとらわれたプリンセス』
3) OA-JAPAN オフィシャルサイト http://oajapan.capoo.jp/
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