第2章 風の概況と地形の変化 1 風の概況 風日と定義し,砂が大きく移動する可能性の 木村 玲二 ある日とされてきた。したがって,本報にお いてもこの定義に従うことにした。図より年 砂丘中央部では,1999 年から風向,風速 平均風速が約 5m/s(赤線)なので,その線よ の観測が開始され,現在も継続している。2011 り上を砂が移動する風速とすると,1 月~4 年 9 月より,砂丘中央部での観測は気温,湿 月,10 月~12 月にかけて砂が活発に移動する 度,気圧,雨量の観測が新たに加わり,デー ことが見てとれる。実際,月平均風速(青線) タも PC 上に自動送信されるようになった。本 が赤線を超えているのは 1 月~4 月,10 月~ 報では年間のデータが揃っている 2012 年の 12 月である。月平均風速が一番大きいのは 12 砂丘中央部での風向,風速について解析を行 月であり,次いで 11 月,3 月,2 月,4 月,1 ったので報告する。 月,10 月となっている。 図1に 1 時間平均風速,1 時間最大風速,1 図3に各月の風向出現頻度を示した風配図 時間平均気温,1 時間平均湿度,1 時間降水量 を示す。風速は 10 分間平均風速のデータを用 の季節変化を示す。過去の研究では地表面上 い,5m/s ごとに色分けしてある。各月の特徴 1mにおける風速が 5m/s ほどで砂が動き出す として: ことが報告されているが,1 時間平均風速の ●1 月~3 月:15m/s 以上の西北西から北北西 図を見ると年中砂が動いている可能性が示唆 の強風が多数を占める。10~15m/s の強風も される。15m/s 以上を超える強風は 1 月~4 北西から北北東にかけてわずかながら認めら 月,10 月~12 月にかけて多い。最大風速が れる。10m/s 以下の風は南から南南西にかけ 30m/s を超える日も台風期以外に見られる。 て多い。全体的には冬の北西の季節風の特徴 気温は鳥取市中心部にある気象台と比較する が色濃く見られる。 と年平均,年最低ともに差はないが,年最高 ●4 月:南からの 15m/s 以上の強風が目立つ。 は砂丘の方が約 2℃低い。湿度も気象台と大 全体的に南方向からの風が多い。 差はないが,砂丘の降水量は気象台より ●5 月:西北西から北西にかけた 10m/s 以上 807mm 少なくなっている。理由として,強風 の風の頻度が多い。 時における雨や雪が雨量センサーに適切に反 ●6 月~9 月:図2の日平均風速の季節変化で 応していない可能性がある。距離的に近い湖 も見られたように,梅雨や高気圧の影響でこ 山の測候所における雨量データと比較しても の時期の風速は穏やかである。15m/s 以上の 相関が全く認められないことから,砂丘中央 強風は認められない。風向のほとんどは南方 部における降水量データを使用する際には何 向からの風である。 らかの補正が必要であると考えられる。 ●10 月~12 月:この時期から再び西北西から 図2に日平均風速,月平均風速の季節変化, 北北西にかけた 15m/s 以上の強風の頻度が高 そして年平均風速を示す。これまでの報告書 くなる。10~15m/s の強風も西から北北東に では日平均風速が 5m/s 以上となる日を強 かけてわずかながら認められる。10m/s 以下 9 の風は南から南南西にかけて多い。1 月~3 過去の報告書と比較すると,2012 年の風速 月の特徴に良く似ている。 や風向は大まかには同じような傾向を示し た。鳥取砂丘における砂移動の主要因は風で 図4の左の図は各月の風向出現頻度を1つ あることは自明であるが,年によって台風が の風配図に纏めたものである。10 月~3 月の 数多く襲来したり,春先のフェーン風が弱か 西北西から北北西にかけての 15m/s 以上の強 ったり,冬の季節風が弱かったり,季節性が 風の特徴と 4 月~9 月の南南西から南南東に 色濃く出やすい。また,降雨が多いと地表面 かけての比較的穏やかな風速の特徴が良く表 が濡れるので砂は飛びにくくなるし(阿不来 れている。図4の右の図は 10m/s 以上の強風 堤・木村,2011),冬に積雪があると砂は雪で の風向別頻度を表したものである。西北西か 被覆されることになる。もちろん,草の飛砂 ら北東にかけての頻度が高いが,南からの頻 を補足する効果はとても大きいことが黄砂の 度も高い。これは 4 月における南からの強風 発生源であるモンゴルや中国における観測で がもたらした結果である。 も 明 ら か に な っ て き て い る (Kimura and 図5は各月の風力エネルギーを示したもの Shinoda, 2010)。したがって,砂移動を正し で,大きく北成分と南成分に分けてある。風 く評価するためには,毎年の風の傾向を知る 力エネルギーは次式によって算定する。 ことと,砂丘表面の状態を把握することが重 要である。 =∑ (1) 引用文献 = (2) 阿不来提阿不力提甫・木村玲二(2011):春季 2 ここに,WE は風力エネルギー(J/m ),N は の鳥取砂丘における飛砂発生の特徴.日本 積算時間(min),WPD は風力エネルギー密度 砂丘学会誌,58(2),31-40. 2 3 (W/m ),ρは空気密度(kg/m ),U は風速 Kimura, R. and Shinoda, M. (2010): Spatial (m/s)である。 distribution of threshold wind speeds 年全体で見ると,北成分の風力エネルギー for dust outbreaks in northeast Asia. は 2859MJ/m2 ,南成分の風力エネルギーは Geomorphology, 114, 319-325. 2 2590MJ/m であり,北成分の方が若干上回る結 果となった。図 4 でも見られたように,10 月 謝辞:鳥取大学大学院連合農学研究科学生の ~3 月の北成分の強いエネルギーと 5 月~9 Abulitipu Abulaiti 君にはデータの解析を手 月にかけての南成分の穏やかなエネルギーが 伝っていただいた。 確認出来る。なお,4 月の南成分の風力エネ ルギーは冬季の北成分のものに匹敵する大き さである。 10 最大風速 (m s-1) 平均風速 (m s-1) 気温 (℃) 30 20 10 0 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/110/111/112/1 40 30 20 10 0 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/110/111/112/1 40 20 0 単位 (℃) 年平均: 14.8 年最高: 35.8 年最低: -3.6 湿度 (%) -20 150 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/110/111/112/1 100 50 降水量 (mm) 12/1 11/1 10/1 9/1 8/1 7/1 6/1 5/1 4/1 2/1 3/1 1/1 0 40 30 20 10 0 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/110/111/112/1 単位 (%) 年平均: 71.7 年最高: 95.4 年最低: 15.9 単位 (mm) 年降水量: 1474 1月: 185.6 7月: 80.5 2月: 45.8 8月: 131.7 3月: 35.4 9月: 189.7 4月: 121.1 10月: 185.3 5月: 57.4 11月: 219.1 6月: 123.1 12月: 98.9 月 図 1.1 時間平均風速,1 時間最大風速,1 時間平均気温,1 時間平均湿度,1 時間 降水量の季節変化。赤線は平均風速が 5m/s,最大風速が 15m/s のライン。 11 16 日平均 月平均 年平均 14 12 単位(m s-1) 月平均 1月: 5.7 2月: 6.0 3月: 6.1 4月: 5.9 5月: 4.6 6月: 3.9 7月: 4.2 8月: 4.5 9月: 4.4 10月: 5.5 11月: 6.1 12月: 6.6 風速 (m s-1) 10 8 6 4 2 年平均: 5.3 0 1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 月 図2.日平均風速,月平均風速の季節変化,年平均風速 12 12/1 1月 NNW 80% 2月 N 60% NW NNW 80% NNE NE 40% WNW E WSW ESE SW SSW W WSW 5~10 ESE SW 15~ SSE SSW 3月 4月 N NNW 80% NNE 60% NE 40% ENE N NNE 60% NW 15~ SSE S NE 40% WNW 20% ENE 20% E 0% W E 0% ~5 ~5 WSW ESE SW SSW ESE SW 15~ SSE SSW 5月 6月 N NNW 80% NNE NE WNW NW ENE 40% NNE NE 40% WNW ENE 20% 20% W N 60% 60% 15~ SSE S 5~10 10~15 SE S 80% NW WSW 5~10 10~15 SE NNW 100% 5~10 10~15 SE S NNW 80% W E 0% ~5 ~5 10~15 SE WNW ENE 20% 0% NW NE 40% WNW 20% W NNE 60% NW ENE N E 0% W E 0% ~5 WSW ESE SW SE SSW SSE WSW 5~10 10~15 ESE SW 15~ SE SSW S SSE S 図3.各月の風向出現頻度を示した風配図 13 ~5 5~10 10~15 8月 7月 NNW 100% N NNE 80% NW NNW 80% 60% WNW 40% ENE WNW 0% E W WSW ESE SW SSW SW SSW 10月 N NNW 80% NNE NE 40% ENE E WSW W ESE SW SSW E 0% ESE SW 10~15 SSE SSW 11月 12月 N NNW 80% NNE 60% NE 40% ENE N NNE 60% NW NE 40% WNW 20% 5~10 ~15 SSE S ~5 10~15 SE S NNW 80% W ENE WSW ~5 5~10 SE WNW NE 20% 0% NW NNE 40% WNW 20% W N 60% NW 10~15 SSE 9月 ~5 5~10 SE S 60% WNW ESE S NNW 80% NW E 0% WSW ~5 10~15 SSE ENE 20% 5~10 SE NE 40% 20% W NNE 60% NW NE N ENE 20% E 0% W E 0% ~5 WSW ESE SW SE SSW SSE 5~10 WSW 10~15 15~ ESE SW SE SSW S SSE S 図3(つづき) 14 ~5 5~10 10~15 15~ 年風向 NNW 40% N 30% NW NNW 20% NNE NE 20% WNW NE 10% WNW 10% W NNE 15% NW ENE N ENE 5% E 0% WSW W ~5 ESE SW SSW WSW 5~10 10~15 SE ESE SW SE 15~ SSE E 0% SSW > 10 SSE S S 図4.年風向出現頻度風配図(左)と 10m/s 以上の強風風向別頻度(右) 1000 風力エネル -2 風力エネルギー (MJ m ) -2 N o r th e r ly : 2 8 5 9 ( M J m ) -2 S o u th e r ly : 2 5 9 0 ( M J m ) 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 1 2 3 4 5 6 7 8 月 月 図5.風力エネルギーの月変化 15 9 10 11 12
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