40357 日本建築学会大会学術講演梗概集 (近畿) 2005年 9 月 東京湾臨海部における海風の動きと冷却効果に関する研究 (その1) ∼実測調査概要・結果∼ 正会員○増田 幸宏* 1 正会員 *2 準会員 瀬野 太郎 同 ヒートアイランド現象 風の道 実測調査 正会員 佐藤 円佳* 3 海風 都市環境 冷却効果 同 田村 健 *4 成田 健一*5 三上 岳彦* 6 同 高橋 信之* 7 名誉会員 尾島 俊雄* 8 1.研究目的 N 新橋駅 近年、東京において都市排熱の増加や土地被覆の変化に伴っ てヒートアイランド現象が深刻化しており、対策が求められて いる。その対策の1つとして冷涼な海風の活用が注目されてお り、特に海風の入口となる臨海部における風の道への配慮が重 図 2 新橋周辺観測点地図 要であると考えられる。 本論文では東京湾からの海風の入り口にあたる品川から新橋 凡例 に到る地域を対象として、気温、湿度、風向・風速を実測する 調査、検証する事を目的とする。本稿では主に実測概要、実測 ● 温度、湿度観測点 品川駅 ことにより対象地域での都市気候の実態を把握し、海風による 都市の冷却効果と都市形態が海風の流れに与える影響について N ▲ 温度、湿度 風向・風速観測点 1000m 図 1 対象地域観測点地図 結果について述べる。 2.実測概要 観測期間は 2004 年 9 月 2 日 7 時から 9 月 3 日 15 時(新橋の一 N 30 NNW NW WNW NNE NE ENE 10 W 部、建物に設置した観測点等では 7 時以降に開始した点もあ N 20 0 E WSW ESE SW る)である。観測範囲は、JR品川駅からJR新橋駅を含む南北6km ×東西 3km である。温湿度を 54 地点(うち新橋 18 地点)観測 SE SSW a. 汐留 SSE S b. 新橋 NNW NW SE SSE S 30 NNW NW NNE NE ENE 10 W c. 目黒川 N 20 WNW 0 E WSW ESE SW SE SSW SSE S 図 3 地表面風配図(昼間) N NNW 30 NW 20 2 に示す。これによると、AMeDAS は東京だけで 170km に 1 個、 METROS は5km2 に1個の観測点を持つことが分かる。また、今回 の実測は0.33km2 に1個であり、高密な実測調査となっている。 表 2 既存の気象観測網 ヒートアイランド METROS 現象観測 都市環境観測 今回の実測 E ESE SSW 2 気象観測 ENE 0 SW メーカー名/型番 観測地点 観測間隔 TandD/TR-72S,TR51 温度、湿度 地上1.6m 2分 ESPEC/TS-11 風向・風速 コーナシステム/KADEC21-KAZE 地上2m 1分 観測網 AMeDAS NE WSW り付け、観測時間中を通して常に換気を行った。 表 1 観測機器概要 3.東京の気象観測網 既存の東京の気象観測網について観測密度を求めたものを表 NNE 10 W アイル橋、JR 新橋駅前の 3 地点で観測した。(図 1、2) 表1に観測機器の概要を示す。温湿度計には強制通風筒を取 N 20 WNW した。また、風向・風速は、築地川上の大手門橋、目黒川上の 30 WNW 10 W 0 N NNE NE ENE E WSW ESE SW SSW SE SSE S a.N 汐留 b. 新橋 面積(km 観測ポイ 観測密度 観測範囲 2) ント数(個) (個/km2) 日本全国 377899 1311 0.0035 東京(島部除く) 1781 10 0.0056 東京23区( 一部、武 621 120 0.19 蔵野市・調布市) 東京臨海部 18 54 3.00 NNW 30 NW 20 WNW 10 W 0 NNE NE ENE E WSW ESE SW SSW SE SSE S 4.実測調査結果 NNW 4-1 地表面付近での風の流れ 4-1-1 昼間 NW N NNE NE 20 WNW c. 目黒川 30 ENE 10 W 0 E WSW 汐留では 9 月 2 日 14 時 30 分から 2 日 18 時と、9 月 3 日 6 時 ESE SW SE SSW SSE S から 3 日 15 時、新橋では 9 月 2 日 15 時から 2 日 18 時と、9 月 3 日 6 時から3 日 15 時、目黒川では 9月 2 日 12時から 2 日 18時 4-1-2 夜間 と、9月 3日 6時から 3日15 時の風配図を図3 に示す。汐留、目 汐留、新橋、目黒川全地点において 9 月 2日 18 時から 9 月3 黒川では、河口方向からが最多風向を示し、新橋では南東方向 の風が多く吹いている。 日 6時の風配図を図4 に示す。汐留では昼間と同様に河口方向 からの風を観測している。しかし、新橋や目黒川では北寄りに A study on cooling effect and movement of breeze from the sea at waterfron areas along Tokyo Bay(part1) MASUDA Yukihiro ―735― 図 4 地表面風配図(夜間) 風向が変化している。 NNW 40 30 NW 20 WNW 10 W 0 N NNE NE 次に、地表面付近での昼夜別平均風速を表 3 に示す。汐留、 目黒川では夜間より昼間の方が 表 3 地表面付近平均風速 平均風速が高くなっているが、 昼間 夜間 1.48m/s 1.18m/s 新橋では昼間よりも夜間の平均 a.汐留 b.新橋 1.06m/s 1.34m/s 風速が高くなっている。 c.目黒川 1.88m/s 1.26m/s 4-2 上空風の流れ 4-2-1 昼間 ②新木場 ENE E WSW NNW 40 30 NW 20 WNW 10 W 0 ESE SW SSW SE SSE S ①愛宕 NNW 40 30 NW 20 WNW 10 W 0 N NNE NE ENE NNE NE S E NNW 40 30 NW 20 10 W 0 SE WNW SSE S NNW 80 60 NW 40 WNW 20 W 0 N SSE W ③台場 ENE WSW ESE WNW 60 40 W 20 0 WSW NNE NE ENE E SW SE SSE ⑤羽田 S N E SSE S SE N NW 80 SSE S E ④中央防波堤 ENE E ESE SE E ESE SW SSW NNE NE ENE ESE SW SSW NNE NE NNE NE SW SSW ENE WSW N 20 0 NNE N E WSW ①愛宕 SE S WNW SW SSW NNW 80 60 NW 40 ESE SW SSW E WNW N ②新木場 ENE WSW ENE ESE N SE NNW 40 SSE 30 NW 20 10 W 0 SW SSW 9 月 2 日 7 時から 2 日 18 時と、3 日 6 時から 3 日 15 時に観測 となっていることが分かる。 4-2-2 夜間 N ESE ③台場 ⑤羽田 NNE NE SW SSW E WSW N WSW WSW された風向を図 5に示す。図5より、市街地(①)東京湾内(② , ③ , ④ , ⑤)どちらの上空においても南や南南東が最多風向 NNW 80 60 NW 40 WNW 20 W 0 NNW 80 60 NW 40 20 W 0 N ESE SSW S NNE NE ④中央防波堤 WNW ENE WSW ESE SE N E SW SSW SSE S SSE SE SE SSE S 図 5 上空風風配図(昼間) 図 6 上空風風配図(夜間) 9 月2日18 時から3日6時に観測された風向を図 6に示す。市 街地(①)東京湾内(② , ③ , ④ , ⑤)どちらの上空において も北東方向からの風を確認した。 以上から、観測日における上空風の卓越風向は、昼間では南 方向、夜間では北東方向であるといえる。 4-3 気温分布 実測調査から得られた温度データをもとに図 7に9 月3日15 時、図 8 に 9 月 3 日 3 時の気温分布を示す。気温分布図の作成 水面 には GMT(Generic Mapping Tools)を使用した。 図 7、8 より、昼夜共に海側から段階的に気温が上昇してい ることがわかる。しかし、昼間のほうが等温線の間隔が狭く、 N 15 時においては海岸部と市街地の気温差が最大 4.1 ℃を観測 し、内陸側の方が気温が高くなっている。また、昼夜ともに河 川や道路に沿って気温の低い部分が連続しているのがわかる。 4-4 新橋・汐留地区の気象環境 28.5 29.5 30.5 31.5 (℃) 図 7 9 月 3 日 15 時気温分布 NNW 40 NW 20 WNW 図 3のa、b より、昼間の汐留の最多風向は南南東なので、南 南東の風が安定して観測された 12時から13時の風配図と気温 W 分布図を図 9、新橋・汐留の風速を表 4 に示す。 NNE NE ENE 0 E ESE SW SSW N NNW 60 NW 40 SE SSE S 図 9 の風配図と表3 から、汐留の風向が安定しているのに対 して、新橋では風向が安定せず風速も弱いことがわかる。 を比較すると汐留の平均気 温 2 8 . 8 ℃に対して新橋は 23 24 25 (℃) 図 8 9 月 3 日 3 時気温分布 N WSW また、地区での平均気温 N WNW W NNE NE ENE 20 0 E WSW ESE SW SSW 表 4 新橋・汐留風速 (9 月 3 日 12 時 -13 時) SE SSE 水面 S 平均風速 瞬間最大風速 4.50m/s 30.2℃と1.4℃の気温差があ 汐留 2.37m/s 新橋 1.21m/s 2.50m/s ることが分かった。 5.まとめ 実測結果より、地表付近の風向においては周囲の地表面起伏 (標高+建物高さ)の影響により変化している。また、風速(昼 間)は海岸部の方が内陸よりも速いことが分かり、内陸は弱風 化していると考えられる。上空風に関しては昼間の卓越風向は 主に南方向、夜間は北東方向が観測された。気温分布に関して N 500m 28 29 30(℃) 図 9 新橋・汐留地区の気温分布(9 月 3 日 12 時 -13 時平均) 1.4℃の気温差があると分かった。続報において海風の動き及 び冷却効果の把握を試みる。 謝辞;データをご提供頂きました首都大学東京、東京都環境科 学研究所、都市機構、気象庁、東京都土木技術研究所の皆様、 実測に御協力いただいた方々に御礼申し上げます。 *本実測に関しては下記の論文でも発表を行っている。 は海岸部から内陸部へと徐々に上昇していた。また、昼夜とも 『東京湾臨海部における海風の冷却効果に関する研究』、瀬野 太郎、佐藤円佳、増田幸宏、成田健一、三上岳彦、高橋信之、 に河川や道路に沿って気温の低い部分が連続していることが分 かった。局地的に見ても、汐留と新橋で比較すると平均気温で 尾島俊雄、2005年3月、日本建築学会 2004年度関東支部研究 *1 早稲田大学理工学総合研究センター助手・工修 *2 早 稲田大学理工学部 *3 京王電鉄株式会社 *4 早稲田大学 大学院修士課程 * 5 日本工業大学教授・工博 * 6 首都 大学東京教授・理博 *7 早稲田大学理工学総合研究センター 教授・工博 * 8 早稲田大学教授・工博 *1 Waseda Univ. *2 Waseda Univ. *3Keio Electric Railway Co. *4 Waseda Univ. *5 発表会 研究報告書Ⅰ、pp661-664 Prof.,Department of architecture. Nippon Institute of Technology,Dr. Eng *6Prof.,Department of geography. Tokyo Metropolitan Univ.,Dr. Sci *7 Prof., Advanced Research Center for Science and Engineering of Waseda Univ. Prof.,Department of architecture. Waseda Univ.,Dr. Eng ―736― *8
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