2008年1月

ロンドン事務所
【原 子 力 白 書 と エ ネ ル ギ ー 法 案 で 新 規 原 子 力 発 電 所 建 設 に ゴ ー サ イ ン 】
英国
新規原発建設に対する自治体拒否権の剥奪
コ ミ ュ ニ テ ィ ー・地 方 自 治 省 は 2007 年 5 月 、イ ン グ ラ ン ド の 建 築 許 可 制 度 に 関 す る
白 書 「 持 続 可 能 な 未 来 に 向 け た 建 築 許 可 制 度 ( Planning for a Sustainable Future)」
を 発 表 し 、「 専 門 家 で 構 成 さ れ る 独 立 の 建 築 許 可 委 員 会 を 設 置 し 、大 規 模 な 開 発 計 画 の
承認を任せる」との提案を行った。これは、中央政府の監督下に置かれる新たな委員
会が、特に原子力発電所などのインフラ設備の建設承認を担うことにより、開発申請
に対する審問や自治体の申請却下に対する上訴に膨大な時間が費やされる現行制度を
改めるという提案であった。
同 じ く 2007 年 5 月 に は 、貿 易・産 業 省( 現 ビ ジ ネ ス・企 業・規 制 改 革 省 )が 、エ ネ
ル ギ ー 白 書「 エ ネ ル ギ ー 分 野 の 課 題 克 服( Meeting the energy challenge)」を 発 表 し 、
地方自治体に影響を与えると思われる幾つかの提案を明らかにした。白書と同時に、
討 議 文 書 「 原 子 力 の 将 来 ( The Future of Nuclear Power)」 も 同 省 に よ り 発 表 さ れ 、
こ れ に 基 づ い て 、 一 連 の 新 規 原 子 力 発 電 所 建 設 に 関 す る 意 見 集 約 作 業 が 2007 年 10 月
まで行われた。
新 規 原 子 力 発 電 所 に つ い て は か ね て か ら 、「 地 方 自 治 体 か ら 管 轄 地 域 で の 建 設 に 対
する拒否権を剥奪し、前述の建築許可委員会が建築申請の承認・却下を行うようにな
る 」 と の 方 針 が 政 府 に よ り 明 ら か に さ れ て い た 。 2007 年 11 月 の ク イ ー ン ズ ・ ス ピ ー
チ で は 、こ の 新 た な 仕 組 み を 導 入 す る た め の「 建 築 許 可 制 度 改 革 法 案( Planning Reform
Bill)」 が 、 今 国 会 会 期 中 に 国 会 へ 提 出 さ れ る 法 案 リ ス ト に 含 ま れ 、 同 法 案 は 同 年 12
月、下院に提出された。
「エネルギー法案」と原子力白書
これらの動きと併行し、政府は昨年来、新規原子力発電所建設に対し、概ね支持の
姿 勢 を 見 せ て い た が 、 今 年 に な っ て 、「 エ ネ ル ギ ー 法 案 ( Energy Bill)」 及 び 「 原 子 力
白 書 ( Nuclear Energy White Paper)」 1 の 発 表 に よ っ て 、 そ の 意 図 を 明 確 に 打 ち 出 し
た 。同 白 書 で 示 さ れ た 政 府 の 考 え は 、「 二 酸 化 炭 素( CO2)排 出 量 削 減 の 必 要 性 と 、既
存の原子力発電所の老朽化という英国が直面する二つの問題を解決するため、新たな
原 子 力 発 電 所 の 建 設 は 避 け ら れ な い 」 と い う も の で あ る 。 白 書 で は 、 CO2 排 出 量 が 少
1
共 に 2008 年 1 月 10 日 発 表 。
1
な く 、 多 様 性 に 富 ん だ 「 エ ネ ル ギ ー ・ ミ ッ ク ス 」 2を 実 現 す る 上 で 原 子 力 が 重 要 な 役 割
を果たすことは、公共の利益に適っているとの主張が掲げられていた。
なお、エネルギー法案は、前述のエネルギー白書「エネルギー分野の課題克服」の
内容を反映したものとなっている。
同白書は、原子力発電の長所として下記を挙げている。
・ CO2 排 出 量 が 少 な い
・比較的安価である
−
−
気候変動による影響の抑制に貢献する。
原 子 力 は 現 在 、 CO2 排 出 量 が 少 な い 発 電 技 術 の う ち 、 最 も
安 価 な も の の 一 つ で あ る 。 こ の た め 、 CO2 排 出 量 を 削 減 し 、 老 朽 化 し た 原 子 力 発 電 所
を交代させるという政府の目標達成に、コストを抑えながら貢献することができる。
・安定性がある
現在、英国の電力の 5 分の 1 を供給しており、安定的な発電が
−
可能な、信頼性の高い技術である。
・安全である
−
非常に強制力の高い規制枠組みによって裏付けされた発電技術で
ある。
・英国のエネルギー供給源を多様化し、特定の技術や国への依存度を低下させる。
「エネルギー法案」の内容の一部は下記の通りである。
・「 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 義 務( Renewable Obligation)」 3 を 強 化 し 、再 生 可 能 エ ネ ル ギ
ーの利用を拡大、迅速化する。
・「 二 酸 化 炭 素 隔 離 ・ 貯 蔵 技 術 ( CCS)」 4 を 利 用 し た CO2 排 出 量 削 減 プ ロ ジ ェ ク ト へ
の 民 間 企 業 の 投 資 を 可 能 に す る 規 制 枠 組 み を 創 設 す る 。 CCS は 、 火 力 発 電 所 か ら 排 出
さ れ る CO2 を 最 大 で 90% 削 減 で き る 可 能 性 が あ る 。
・沖合ガス田建設への民間企業からの投資を可能にする規制枠組みを強化する。英国
に お け る ガ ス 需 要 の 輸 入 ガ ス へ の 依 存 度 が 2020 年 ま で に 最 大 80% に 達 す る こ と が 予
想される中、安定的なエネルギーの供給維持に貢献する。
政 府 は 、 同 法 案 と 、 関 連 す る 「 都 市 計 画 ・ 気 候 変 動 法 案 ( Planning and Climate
Change Bills)」 を 、 今 会 期 中 に 国 会 で 可 決 さ せ た い 意 向 で あ る 。 ま た 、「 核 処 理 ・ 原
子 力 発 電 所 解 体 資 金 保 証 委 員 会 ( Nuclear Liabilities Financing Assurance Board、
NLFAB)」 を 新 設 し 、 民 間 の 原 子 力 発 電 所 事 業 者 が 核 廃 棄 物 処 理 と 原 子 力 発 電 所 解 体
2
特 定 のエネルギー源 に過 度 に依 存 することのない、各 種 エネルギーの適 切 な組 み合 わせ。
3
電 力 会 社 に対 し、提 供 する電 力 のうち一 定 の割 合 分 を、再 生 可 能 エネルギーを利 用 して発 電 することを義 務 付
ける制 度 。電 力 会 社 に達 成 が求 められる再 生 可 能 エネルギーの利 用 比 率 は毎 年 増 える。制 度 の導 入 は 2002 年 4
月 で、2027 年 に終 了 予 定 。
4
石 炭 燃 焼 時 の排 ガスから二 酸 化 炭 素 を分 離 し、地 中 や海 中 に貯 留 する技 術 。
2
のための資金を十分に有しているかどうかを監視し、国務大臣に報告するなどの役割
を 担 わ せ る 見 込 み で あ る 。ジ ョ ン・ハ ッ ト ン・ビ ジ ネ ス・企 業・規 制 改 革 相 に よ る と 、
ビ ジ ネ ス・企 業・規 制 改 革 省 は 2009 年 初 旬 に 一 連 の 新 規 原 子 力 発 電 所 の 建 設 地 を 特 定
し 、 そ の う ち 最 も 早 い も の は 2020 年 ま で に 操 業 を 開 始 す る 予 定 で あ る と い う 。
(参照)
http://www.number10.gov.uk/output/Page14234.asp
http://www.gnn.gov.uk/environment/fullDetail.asp?ReleaseID=343892&NewsAreaI
D=2&NavigatedFromDepartment=True
【公共部門職員の給与引き上げ率が3年毎の改定に変更】
英国
ブラウン首相は1月8日、ダーリング財務相と共に行った月例記者会見で、公共部
門職員の給与引き上げ率を3年毎に改定する旨を明らかにした。
世界的に不安定な経済情勢が続く中、インフレ率を抑制し、国内経済を安定させる
ための措置として提案され、それ以上の詳細は述べられなかったが、労働組合を含め
各 方 面 に は 波 紋 が 広 が っ た 。こ れ に 先 立 ち 政 府 は 、2008 年 の 英 国 経 済 に つ い て 見 通 し
などを逐次発表している。それらの発表ではっきりと述べられたわけではないが、英
経済は、今年も、昨年米国などにおけるクレジットクランチ(信用収縮、金融収縮)
に続いて発生した世界的な経済不安の影響を受け続けるものとみられている。
ブ ラ ウ ン 首 相 と ダ ー リ ン グ 財 務 相 は 会 見 で 、「 3 年 毎 の 給 与 引 き 上 げ 率 改 定 に よ っ
て公共部門職員が長期的な収入見通しに基づいた資産・家計管理をすることが可能に
な れ ば 、英 国 経 済 に 柔 軟 性 と 安 定 性 が も た ら さ れ る 」と 述 べ た 。更 に 、「 公 共 部 門 に お
け る 給 与 引 き 上 げ 率 の 規 制 は 民 間 部 門 に も 影 響 し 、イ ン フ レ 率 を 抑 制 す る 効 果 が あ る 」
と述べたほか、労働組合の要求通り給与引き上げ率をより高く設定したとしても、イ
ンフレ率上昇と物価高を招いて給与引き上げ分は相殺されると主張した。
政府は今後、この件について、中央政府省庁職員の組合、地方自治体職員の組合及
びその他の労働組合と協議を行う。協議により、これまで1年毎だった公共部門職員
の給与引き上げ率改定は3年毎に変わり、中央政府各省及び地方自治体への予算配分
決定と改定のタイミングが同じになる見込みである。
政府は、現在の1年毎の改定という制度下においても、給与引き上げの段階的導入
を巡って警察官及び刑務所看守の組合と対立しており、3年毎の改定という取り決め
は反発を呼びそうである。一方、地方自治体職員の労働組合は、給与引き上げ率がイ
ンフレ率を下回った場合にストを行うかどうかについて組合員と協議を行う旨を明ら
かにしている。
3
公 共 部 門 の 給 与 を め ぐ る 政 府 と 労 働 組 合 の 対 立 は 、1978〜 79 年 に 、俗 に「 不 満 の 冬
( Winter of Discontent)」と 呼 ば れ る 大 規 模 な 社 会 的 混 乱 を 招 き 、79 年 の 総 選 挙 で 労
働 党 政 権 が マ ー ガ レ ッ ト・サ ッ チ ャ ー 氏 率 い る 保 守 党 に 敗 れ る と い う 結 果 に 繋 が っ た 。
こうした背景があるため、公共部門職員の給与改定は、政治的に重要な意味を持つ問
題となっている。
(参考)
http://www.pm.gov.uk/output/Page14188.asp
http://www.pm.gov.uk/output/Page14198.asp
【外国人労働者規制の「ポイント制度」導入など英国の移民制度改革】 英国
第 二 次 世 界 大 戦 以 降 、英 国 に と っ て 、移 民 規 制 は 常 に 大 き な 課 題 で あ り 続 け て い る 。
1950、60 年 代 に は 、旧 植 民 地 か ら 多 く の 移 民 が 流 入 し 、人 種 間 の 対 立 が 生 ま れ た 。特
に 1990 年 代 以 降 は 、 内 戦 を 逃 れ て き た ソ マ リ ア 及 び ボ ス ニ ア 人 難 民 申 請 者 の 流 入 、
2004 年 及 び 2007 年 の 欧 州 連 合( EU)拡 大 を 契 機 と し た 主 に 東 欧 か ら の 移 民 労 働 者 の
増加などによって外国人の移住者がこのところ急激に増えていることから、移民規制
を求める声も強くなり、この問題は政府の優先課題の一つとなっている。
英政府による現在の移民制度改革の主要ポイントは下記の通りである。
◎移民労働者規制にオーストラリア式の「ポイント制度」を導入する。
◎ 「 国 境 ・ 移 民 庁 ( Border and Immigration Agency)」 5 及 び 税 関 、「 UK ビ ザ ( UK
Visas)」 6 の 機 能 を 統 合 し 、 移 民 規 制 、 税 関 、 ビ ザ 業 務 を 一 括 し て 担 う 単 一 組 織 「 英 国
国 境 庁 ( UK Border Agency)」 を 創 設 す る 。 こ れ に よ り 、 英 国 の 港 及 び 空 港 で の 国 境
警備を強化する。
◎ 外 国 籍 の 英 国 在 住 者 に 対 し て ID カ ー ド( 身 分 証 明 書 )の 所 持 を 義 務 付 け 、移 民 の 身
元及び彼らがどのような公共サービスを受ける権利があるか等が分かるようにする。
政 府 は 2007 年 12 月 、 既 存 の 多 く の 移 民 関 連 法 を 統 合 、 簡 素 化 し た 新 た な 移 民 法 を
2008 年 中 に 国 会 に 提 出 す る と の 見 込 み を 明 ら か に し て い る 。
5
移 民 規 制 ・管 理 業 務 を行 う内 務 省 の執 行 機 関 。
6
海 外 の英 国 大 使 館 等 で英 国 へのビザ申 請 処 理 を行 う内 務 省 と外 務 省 の合 同 組 織 。
4
ポイント制度
ポ イ ン ト 制 は 、 労 働 、 職 業 訓 練 、 学 業 等 を 目 的 と し た 外 国 人 7の 入 国 ・ 滞 在 を 規 制 す
る新たな制度で、今年から段階的に導入される。移民の増加に関する報道が過熱し、
国 民 の 懸 念 が 高 ま る 中 、与 党 労 働 党 は 2005 年 、総 選 挙 マ ニ フ ェ ス ト( 選 挙 公 約 )で 初
めてその構想を明らかにしていた。制度の目的は、英国で不足している高度な技術を
持つ外国人による労働を容易にし、逆に、低熟練労働者の入国・労働を制限すること
である。
同制度では、外国人労働者は、職歴、技能、資格、年齢、学歴、語学力などに応じ
てポイントが与えられ、5つのカテゴリーに分けられる。カテゴリー1に分類される
高度な技術を持つ者と、カテゴリー2に分類される熟練労働者は、殆どの場合、労働
許可証取得の条件として英語力の証明が求められ、英語テスト合格証書の提出等が必
要とされる。
5つのカテゴリーは下記の通りである。
カ テ ゴ リ ー 1:
英 国 の 経 済 成 長 、生 産 性 向 上 に 貢 献 で き る 高 度 な 技 能 の 保 持
者。起業家、投資家、弁護士など。
カ テ ゴ リ ー 2:
技 術 を 有 す る 熟 練 労 働 者 。英 国 の 労 働 力 不 足 を 補 う た め 採 用
され、英国内で仕事のオファーがある場合にのみ労働許可証を
申請できる。看護婦、教師、エンジニアなど。
カ テ ゴ リ ー 3:
低熟練労働者。特定の分野で短期間のみ雇用される労働者。
特定のプロジェクトのため雇われる建設現場労働者など。
カ テ ゴ リ ー 4:
学生
カ テ ゴ リ ー 5:
特 定 の プ ロ グ ラ ム に 参 加 す る 若 者 及 び 短 期 労 働 者 。国 際 交 流
プログラム、ワーキングホリデー制度等に参加する若者、競技
会や演奏会などのため入国するプロの運動選手、音楽家など。
同 制 度 は ま ず 、2008 年 2 月 29 日 よ り 、カ テ ゴ リ ー 1 に 該 当 す る 外 国 人 労 働 者 で 労 働
許 可 証 更 新 を 希 望 す る 者 か ら 適 用 が 開 始 さ れ る 。そ の 後 、2008 年 第 3 四 半 期 に カ テ ゴ
リ ー 2 と 5 が 、2009 年 初 め に カ
テ ゴ リ ー 4 が 続 い て 導 入 さ れ る( カ テ ゴ リ ー 3 の 導
入 時 期 は 未 定 )。
ポイント制度は日本人にも適用されるが、特に英語力については、カテゴリー1で
7
ビザなしで英 国 で居 住 ・労 働 する権 利 を有 する EEA(欧 州 経 済 領 域 )加 盟 国 及 びスイスの国 民 を除 く。
5
ア イ エ ル ツ ( IELTS) 8 6.5 程 度 、 カ テ ゴ リ ー 2 で 同 5.5 程 度 と 、 共 に 英 検 準 一 級 程 度
の高いレベルが求められることになるとみられるため、英国に駐在員を派遣している
日系企業・組織等からは懸念の声も聞かれる。必ずしも高度な英語力を必要としない
エンジニアや調理師等にも等しく高度な英語力が要求されることになり、日系企業が
英国で事業を行う上での障害になりかねないことが危惧されている。
ID カ ー ド
「 2007 年 英 国 国 境 法( UK Borders Act 2007)」が 2007 年 10 月 30 日 に 成 立 し 、EEA
加 盟 国 ま た は ス イ ス 以 外 の 国 の 国 籍 者 で あ る 英 国 在 住 の 外 国 人 に 対 し 、ID カ ー ド の 保
有 を 義 務 付 け る 権 限 が 国 務 大 臣 に 与 え ら れ た 。 ID カ ー ド に は 、 指 紋 ス キ ャ ン デ ー タ 、
虹彩スキャンデータなど、個人のバイオメトリクス情報が記録され、所持者は、政府
からカードの提示を求められた場合、これに従わなければならない。今後、対象者が
段 階 的 に 拡 大 さ れ 、 英 国 人 へ の ID カ ー ド 発 行 は 2009 年 か ら 開 始 さ れ る 。
短期ビザ
政 府 は 2007 年 12 月 18 日 、 短 期 滞 在 者 向 け ビ ザ に 関 す る 下 記 の 変 更 案 を 明 ら か に
した。
・ 英 国 に 在 住 す る 外 国 人 を 外 国 在 住 の 家 族 9 が 訪 問 す る 場 合 、 政 府 に 保 証 金 ( deposit)
を 納 め さ せ 、 帰 国 時 に 返 還 す る ( 家 族 が 英 国 に 滞 留 す る 可 能 性 が あ る 場 合 の み )。
・観光ビザの期限を現在の6ヶ月から3ヶ月に短縮する。
・商業活動への従事、または特別な目的で入国する人を対象としたビザを創設する。
「特別な目的」には、学術研究や婚姻、私設医療機関で治療を受けることなどが含ま
れる。
・オリンピック等の単発イベントに入国目的を限定したビザの創設。
政 府 は こ れ ら の 案 に つ い て 、2008 年 3 月 ま で に 意 見 集 約 作 業 を 行 う こ と と し て い る 。
移 民 制 度 改 革 の 10 カ 条 プ ラ ン
と こ ろ で 、 リ ア ム ・ バ ー ン 移 民 担 当 大 臣 は 2008 年 1 月 14 日 、 国 境 ・ 移 民 庁 で 行 っ
た ス ピ ー チ の 中 で 、 2008 年 の 移 民 制 度 改 革 10 カ 条 プ ラ ン を 発 表 し た 。 ポ イ ン ト 制 度
や ID カ ー ド を 含 め 全 て 発 表 済 み の 政 策 で あ っ た が 、 年 初 に あ た り 、 2008 年 に お け る
8
9
ブリティッシュ・カウンシルが実 施 する英 語 能 力 認 定 テスト。International English Language Testing System。
EEA(欧 州 経 済 領 域 )加 盟 国 及 びスイスの国 民 を除 く
6
移民政策の方針を改めて表明した形になった。内容は下記通りである。
・英国への入国を希望する全てのビザ申請者から指紋のスキャンデータを採
取 す る 。 15 日 以 内 に 開 始 。
・外国人従業員の英国内での就労資格の有無をチェックしなかった雇用者に
対 し 、「 逮 捕 時 罰 金 ( spot fine)」 を 科 す る 。 60 日 以 内 に 開 始 。
・ 外 国 人 労 働 者 の 規 制 を 目 的 と し た「 ポ イ ン ト 制 度 」を 新 た に 導 入 。80 日 以
内に実行。
・移民規制、税関、ビザ業務を一括して担う単一組織を創設し、現場の職員
に は 警 察 に 類 似 し た 権 限 を 付 与 す る 。 100 日 以 内 に 実 行 。
・ 釈 放 後 に 本 国 へ 強 制 送 還 さ れ る 外 国 籍 受 刑 囚 の 数 が 、 2008 年 は 2007 年 を
超 え る こ と を 確 認 す る 。 180 日 以 内 に 実 行 。
・ 外 国 籍 の 受 刑 囚 は 釈 放 後 全 て 、 自 動 的 に 本 国 へ 強 制 送 還 す る 。 200 日 以 内
に開始。
・ 難 民 申 請 者 収 容 施 設 の 収 容 能 力 を 拡 大 す る 。 300 日 以 内 に 実 行 。
・英 国 在 住 の 外 国 人 に 対 す る ID カ ー ド の 発 行 を 開 始 す る 。300 日 以 内 に 実 行 。
・外国人の出入国者数をカウントする。クリスマスまでに開始。
・難 民 申 請 の 60% に 対 し て 6 ヶ 月 以 内 に 決 定 を 下 し 、そ の 決 定 を 実 行 す る よ
う に す る 。 360 日 以 内 に 実 行 。
尚 、 政 府 に よ る こ れ ら の 移 民 制 度 改 革 案 は 、 そ の 殆 ど が 「 移 民 規 定 Immigration
Rules」 10 の 改 正 ま た は そ の 他 の 副 次 立 法 の 制 定 、 ま た は 単 に 事 務 手 続 き の 変 更 に よ っ
て達成できるものである。
【ロ ン ド ン 市 が
ロー・エミッション・ゾーン
による排ガス規制を開始】 英国
1.概要
ロ ー ・ エ ミ ッ シ ョ ン ・ ゾ ー ン ( Low Emission Zone、 以 下 LEZ) は 、 環 境 対 策 に 力
を 入 れ る ロ ン ド ン 市( Greater London Authority、以 下 GLA)が 、 大 気 汚 染 の 改 善 を
目 的 と し て 2008 年 2 月 4 日 よ り 導 入 し た 制 度 で あ る 。 市 内 の ほ ぼ 全 域 を LEZ と し て
指定し、ゾーン内に乗り入れる大型のディーゼル車両のうち、EUの排ガス基準であ
る 「 ユ ー ロ 3 11 」 を 満 た し て い な い も の か ら 、 一 日 あ た り 200 ポ ン ド ( 約 46,000 円 )
10
移 民 関 連 法 とは別 に定 められた外 国 人 の入 国 管 理 規 則 。内 務 省 が起 草 し、国 会 が承 認 、内 務 相 が発 行 する。
英 国 への入 国 者 ・移 民 に求 められる要 件 、権 利 等 を各 カテゴリー別 に掲 げているほか、国 外 退 去 処 分 の手 続 き等
が明 記 されている。移 民 関 連 法 と共 に、ビザ・移 民 関 連 で外 国 との間 に結 ばれた合 意 の内 容 も組 み入 れられてい
る。
11
ユ ー ロ は E U 内 で 販 売 さ れ る 新 車 に 対 し て 、炭 化 水 素( HC)、一 酸 化 炭 素( CO)、窒 素 酸 化
7
を徴収するというものである。
ロンドン市内のロード・プライシングというと先行している混雑賦課金制度
( Congestion Charge、以 下 コ ン ジ ェ ス チ ョ ン・チ ャ ー ジ )が 頭 に 浮 か ぶ が 、今 回 導 入
さ れ た こ の LEZ は 、コ ン ジ ェ ス チ ョ ン・チ ャ ー ジ と 外 形 は 似 て い る も の の 、そ の 目 的 、
運用等はかなり異なったものである。
2.経緯
LEZ の 目 的 は 、ヨ ー ロ ッ パ で 最 悪 と 言 わ れ る ロ ン ド ン 市 内 の 大 気 汚 染 の 改 善 で あ る 。
GLA の 試 算 で は ロ ン ド ン で は 大 気 汚 染 の た め に 毎 年 1,000 人 が 死 亡 し て お り 、 ま た 、
世論調査の結果によると市民の7割が自動車からの排気ガスによる大気汚染を憂慮し
て い る 。こ の よ う な 状 況 を 背 景 に 、ロ ン ド ン の リ ビ ン グ ス ト ン 市 長 は 2000 年 の 一 期 目
の立候補時から市内の大気汚染の改善をマニフェストに掲げ、就任後もその対策に取
り 組 ん で き た 。2002 年 9 月 に は「 Cleaning London’s air」と 題 す る 大 気 の 質 改 善 の た
め の 戦 略( Mayor ’s Air Quality Strategy)を 発 表 し 、そ の 中 で は 、ロ ン ド ン 交 通 局 の
バ ス の 低 公 害 化 、 タ ク シ ー に 対 す る 排 気 ガ ス 規 制 強 化 等 と 並 ん で 、 LEZ の 実 現 可 能 性
の検討が既に謳われている。
2003 年 7 月 に は GLA、ロ ン ド ン 区 協 議 会 12 、環 境 ・食 糧・農 村 問 題 省 、交 通 省 の 共
同 委 託 に よ る LEZ の 実 現 可 能 性 調 査 の 結 果 が 公 表 さ れ 、 LEZ を 設 定 す る の で あ れ ば 、
対象はバスと貨物車に限定し、対象地域はロンドン全域にすべきである、との結論が
示されていた。
そ れ を 元 に 協 議 が 重 ね ら れ 、2006 年 7 月 に LEZ の 原 案 が GLA に よ り 示 さ れ 、コ ン
サ ル テ ー シ ョ ン ( 日 本 で 言 う と こ ろ の パ ブ リ ッ ク コ メ ン ト 制 度 ) 手 続 き を 経 て 、 2007
年 5 月 に 市 長 は 2008 年 2 月 か ら の LEZ の 実 施 を 発 表 し た 。
3.対象区域
下 の 図 が LEZ の 対 象 地 域 で あ る 。赤 い 線 の 内 側 が 規 制 対 象 と な る 区 域 で 、緑 に 塗 ら
れ て い る GLA の 領 域 と ほ ぼ 同 じ で あ る こ と が 見 て 取 れ る 。
そ の 面 積 は 約 1,580 平 方 キ ロ で あ り 、 コ ン ジ ェ ス チ ョ ン ・ チ ャ ー ジ が 実 施 さ れ て い
るエリア(地図中心部の斜線部分)より格段に広い地域が対象となっている。因みに
こ の 面 積 は 東 京 23 区 の 面 積 の 約 2.5 倍 に あ た る 。こ の よ う な 規 制 区 域 の 設 定 は 英 国 初
の試みであり、世界でも最大の面積である。
対 象 区 域 と 、 GLA の 領 域 と が 正 確 に 一 致 し て い な い の は 、 境 界 近 く に 差 し 掛 か っ た
車両が適切な迂回やUターンを行うことが出来るように調整を行った結果である。
尚 、 規 制 は 毎 日 24 時 間 、 年 間 を 通 じ て 行 わ れ る 。( 渋 滞 防 止 策 で あ る コ ン ジ ェ ス チ
物( NOX)粒 子 状 物 質 の 排 出 上 限 を 定 め た 規 制 で あ る 。1992 年 に 導 入 さ れ た ユ ー ロ 1( Euro 1)
に 始 ま り 、順 次 規 制 が 強 化 さ れ 、ユ ー ロ 3( Euro 3)は 2000 年 1 月 に 導 入 さ れ た 規 制 で あ る 。
現 在 は 2005 年 1 月 に 導 入 さ れ た ユ ー ロ 4 ( Euro 4) が 適 用 さ れ て い る 。
8
ョ ン ・ チ ャ ー ジ は 平 日 の 朝 7 時 か ら 夕 方 6 時 30 分 ま で の 間 の み 課 金 さ れ る )
出典:ロンドン交通局作成リーフレット
The Low Emission Zone is now in
4.対象車両
規 制 の 対 象 と な る の は 、 12 ト ン を 超 え る 大 型 貨 物 車 両 の う ち 、 E U が 2000 年 1 月
に導入した排ガス基準 ユーロ3 を満たしていないディーゼルエンジン車両である。
但 し 、農 業 用 の ト ラ ク タ ー 、ク レ ー ン 車 、軍 用 車 、 1973 年 以 前 に 製 造 さ れ た 歴 史 的 車
両(この辺がイギリスらしい)等は対象とならない。
当 初 の 対 象 は 12 ト ン 超 の 大 型 貨 物 車 両 だ け だ が 、 2008 年 夏 以 降 、 以 下 の よ う に 対
象と規制度合いが拡大されてゆく予定である。乗用車、オートバイ、小型バンなどは
規制対象とならない。
12 当 時 の
Association of London Government、 現 在 は London Councils に 改 称
9
2008 年 7 月 7 日
対 象 が 3.5 ト ン 超 の 小 型 貨 物 車 輌 及 び 5 ト ン 超 の バ ス に 拡
大
2010 年 10 月 4 日
対 象 が 1.205 ト ン 超 の 大 型 バ ン 及 び 2.5 ト ン 超 の キ ャ ン ピ
ン グ カ ー /救 急 車 等 に 拡 大
2012 年 1 月 3 日
既 に 規 制 さ れ て い る 3.5 ト ン 超 の 貨 物 車 両 及 び 5 ト ン 超 の
バスについて、規制の基準値がユーロ4に格上げされる。
ロンドン交通局は、基準に適合しない車両でも課金されないですむ方策として以下
の3つを提示している。
(1) ロ ン ド ン 交 通 局 に よ り 認 定 さ れ た 汚 染 物 質 除 去 装 置 を 装 着 す る
(2) デ ィ ー ゼ ル 以 外 の 認 定 さ れ た 燃 料 13 を 使 用 す る エ ン ジ ン に 改 造 す る
(3) 基 準 を 満 た し た 新 し い エ ン ジ ン を 載 せ 代 え る
こ れ ら の 改 造 を 施 し た 車 両 は 、車 両 検 査 局( Vehicle and Operator Services Agency)
の検査をパスしなければならない。
5.規制方法
既に行われているコンジェスチョン・チャージの場合と同様、規制区域の内外に固
定式及び移動式のカメラが設置され、このカメラで車両のナンバープレートを読み取
る こ と に よ り 規 制 す る 。読 み 取 ら れ た ナ ン バ ー プ レ ー ト は 、基 準 を 満 た し て い る 車 両 、
対象とならない車両、支払いを免除されている車両のデータベースと照合され、支払
いを行うべき車両のデータベースが作成される。その中から支払いを行った車両が消
し込まれてゆく。
イギリス国内で登録されている車両については、車両登録当局のデータベースが使
用されるため、基準を満たしていれば特に何もする必要は無い。しかしながら、イギ
リス国外(北アイルランドも国外扱い)の車両については、例え基準を満たしていて
も、課金を逃れるためにはロンドン交通局へ別途事前に登録する必要がある。
尚 、規 制 の オ ペ レ ー シ ョ ン は 、コ ン ジ ェ ス チ ョ ン・チ ャ ー ジ と 同 様 、民 間 企 業 14 に 委
託される。
ま た 、LEZ と コ ン ジ ェ ス チ ョ ン・チ ャ ー ジ は 全 く 目 的 の 異 な る 別 個 の 制 度 で あ る 為 、
LEZ 規 制 対 象 車 が コ ン ジ ェ ス チ ョ ン ・ チ ャ ー ジ の 規 制 エ リ ア に 入 る 場 合 は 、 別 途 コ ン
ジェスチョン・チャージが課金されることになる。
6.支払い・罰金等
基 準 を 満 た さ な い 車 両 へ の 課 金 は 一 日 あ た り 200 ポ ン ド( 約 46,000 円 )で あ り 、車
LPG, LNG, CNG。 バ イ オ 燃 料 な ど は 不 可 。
導 入 当 初 は Capita 社 。そ の 後 、2009 年 11 月 か ら コ ン ジ ェ ス チ ョ ン ・ チ ャ ー ジ の オ ペ レ ー
シ ョ ン と と も に IBM 社 に 移 行 す る 。
13
14
10
両の登録上の持ち主に対して行われる。支払いはオンライン若しくは郵送を通じて、
デビットカード、クレジットカード、小切手でのみ可能とされ、コンジェスチョン・
チ ャ ー ジ が そ の 他 に ニ ュ ー ス ・エ ー ジ ェ ン ト( コ ン ビ ニ の よ う な も の )、携 帯 電 話 、駐
車場等に設置される自動支払機等でも可能であることに比して、限定されている。
課 金 の 支 払 い は 、規 制 地 域 に 乗 り 入 れ た 日 の 翌 日 の 24 時 ま で に 行 わ な け れ ば な ら な
い 。 こ れ を 怠 る と Penalty Charge Notice が 発 行 さ れ 、 1,000 ポ ン ド ( 約 23 万 円 ) の
罰 金 が 課 せ ら れ る 15 。更 に こ の 罰 金 を 支 払 わ な い 場 合 、罰 金 は 増 額 さ れ 、最 終 的 に は 執
行 令 状 ( Warrant of Execution) が 発 行 さ れ 、 執 行 官 ( Bailiff) に よ る 財 産 差 押 え な
どが行われる。
7.その他
LEZ の 導 入 に 際 し て 、道 路 輸 送 協 会( Road
Haulage Association) の 会 長 は 、「 環 境 改 善
の必要性に異議を唱えるものはいない。しか
し、貨物車とバスの業者のみをのけ者にする
のは正しい答えではない。市長は業界が今ま
で達成してきた排出物削減のための多大な改
善 を 無 視 し て い る 。」と の 声 明 を 出 し 、反 対 を
唱えた。
ま た 、 自 動 車 協 会 ( Automobile
Association)の 会 長 は「 多 く の ド ラ イ バ ー は
LEZ に つ い て 知 識 を 持 た な い 。標 識 を み て も 、
それが何のことなのかわからないだろう。既
に導入が予定されているコンジェスチョン・
チャージの二酸化炭素排出量による傾斜課金
LEZ の 進 入 路 に 表 示 さ れ る 標 識
16 と 混 同 す る ド ラ イ バ ー も 多 く い る に 違 い な
い 。」 と 述 べ た 。
尚 、ロ ン ド ン 交 通 局 は 、こ れ ら の 声 を 受 け て 、制 度 周 知 の た め に 、導 入 後 28 日 間 は
違反車両に対して警告を行うのみで、実際に課金は行わない方針を打ち出した。
【多 党 化 の 進 出 : ド イ ツ 州 議 会 議 員 選 挙 】
ドイツ
1 月 27 日 、ニ ー ダ ー ザ ク セ ン 州 と ヘ ッ セ ン 州 で 州 議 会 議 員 選 挙 が 行 わ れ た 。ニ ー ダ
ー ザ ク セ ン 州 に お い て は 、も と も と 現 在 政 権 を 握 っ て い る キ リ ス ト 教 民 主 同 盟( CDU)
但 し 、 14 日 以 内 に 支 払 う こ と に よ り 半 額 ( 500 ポ ン ド ) に 割 引 に な る 。
気 候 変 動 対 策 の 一 環 と し て 、大 型 の 4WD 車 な ど 二 酸 化 炭 素 を 多 く 排 出 す る 乗 用 車 に 対 し て
コ ン ジ ェ ス チ ョ ン・チ ャ ー ジ の 課 金 を 現 行 の 8 ポ ン ド( 約 1,840 円 )か ら 25 ポ ン ド( 約 5,750
15
16
11
の勝利が予想され、選挙自体とはそれほど緊張感がなかった。唯一注目されたのは、
旧 東 ド イ ツ 社 会 党 党 員 と 社 会 民 主 党 ( SPD)か ら 離 党 者 、 及 び 急 進 的 な 組 合 支 援 者 か ら
構成される新しい「左の党」が、初めて5%阻止条項をクリアーし、州議会に議席を
得られるかであった。
一方、ヘッセン州においては選挙の結果は全く予想できない状況にあった。特に選
挙 戦 終 盤 の 10 日 間 で は 、CDU と SPD の 支 持 率 の 差 は ほ と ん ど 無 く 、と て も 緊 張 感 の
高 い 争 い と な っ た 。自 由 民 主 党( FDP)と 連 立 を 組 ん で い る CDU は 、突 如 厳 し い 選 挙
戦 を 戦 う こ と と な り 、野 党 の SPD は 最 低 賃 金 要 求 な ど の 政 策 で 注 目 を 引 き 付 け る 戦 術
に 出 た 。 ヘ ッ セ ン 州 に お い て も 、「 左 の 党 」 の 得 票 の 動 向 、 そ れ が SPD や 他 の 少 数 党
( FDP や 緑 の 党 ) に ど の ぐ ら い の 影 響 を 与 え る こ と に な る の か に つ い て 、 全 国 か ら 注
目が集まった。
結 果 と し て は 、ニ ー ダ ー ザ ク セ ン 州 で は 現 役 の 州 首 相 ウ オ ル フ 率 い る CDU が 42.5%
の 得 票 率 で 勝 利 を 収 め た 。 し か し 、 2003 年 の 選 挙 の 48.3% と 比 べ て 、 5.5 ポ イ ン ト の
減 少 で あ っ た 。SPD は 、2003 年 の 33.4% か ら 今 回 の 30.3% と な っ た 。緑 の 党 は 8.2%
の 得 票 率 で 、2003 年 か ら 0.6 ポ イ ン ト の 減 少 と な っ た 。FDP は 8% で 2003 年 の 8.1%
か ら ほ と ん ど 変 わ っ て い な い 。 最 も 得 票 率 を 伸 ば し た の は 、 左 の 党 で あ り 、 7.1% の 得
票 率 は 、 2003 年 の 0.5% と 比 べ 飛 躍 的 な 伸 び 率 で あ り 、 初 め て 5% 阻 止 条 項 を 超 え 、
議席獲得することに成功した。
ニ ー ダ ー ザ ク セ ン 州 の 議 会 は 最 低 135 席 で あ る が 、 比 例 代 表 制 の 下 で は 、 超 過 議 席
が発生することがあるため、通常それを上回る席となることが多く、今回の議席数は
152 席 と な る 計 算 で あ る 。 そ の う ち 、 CDU は 68 議 席 ( 2003 年 の 91 議 席 と 比 較 す る
と 、23 席 の 減 少 で あ る が 、前 議 会 は 議 席 の 総 数 が 183 議 席 で あ っ た )、SPD は 48 議 席
( 前 議 会 63 議 席 )、 緑 の 党 は 12 議 席 ( 前 議 会 14 議 席 )、 FDP は 13 議 席 ( 前 議 会 15
議 席 )、 左 の 党 は 11 議 席 ( 前 議 会 0 ) と な る 。 ニ ー ダ ー ザ ク セ ン 州 議 会 で 5 政 党 が 議
席 を 獲 得 し た の は 、1959 年 の 選 挙 が 最 後 で あ り 、そ の 後 は 、2 政 党 か ら 4 政 党 で あ っ
た 。 CDU は 、 得 票 率 を 落 と し て い る も の の 、 最 も 多 く の 議 席 を 占 め 、 引 き 続 き FDP
と連立政権を組むことが見込まれている。
ヘッセン州においても、結果はニーダーザクセン州と似通っていた。州議会の5政
党 が 議 席 を 獲 得 し 、与 党 の CDU が 議 席 を 減 ら し た 事 情 は 同 じ で あ る が 、選 挙 中 の 雰 囲
気 と 選 挙 後 の 状 況 は 大 き く 違 っ て い る 。ヘ ッ セ ン 州 で は 、2003 年 の 州 議 会 選 挙 で 初 め
て CDU が 単 独 過 半 数 を 獲 得 し 、単 独 で 政 権 を 握 っ た 。現 職 の 州 首 相 は 、選 挙 戦 の 終 盤 、
大衆迎合的戦略に転換し、若者犯罪に対する罰則の強化、ドイツ出身者以外の犯罪者
の 即 座 の 国 外 追 放 等 を テ ー マ に し た 。 ま た 、 SPD と 緑 の 党 の ト ッ プ 候 補 者 が 二 人 と も
外 国 姓 を 有 し て い る こ と に 目 を 付 け 、「 外 国 人 嫌 い 」( Xenophobie) の 感 情 を 選 挙 戦 で
円 ) へ の 値 上 げ を 含 む 新 課 金 体 系 が 2008 年 度 10 月 に 導 入 予 定 で あ る 。
12
あ お ろ う と し て い た 。し か し 、こ の 戦 略 は 結 果 的 に 逆 効 果 と な っ た よ う で 、結 局 CDU
は 過 半 数 を 失 う こ と と な り 、 SPD と ほ ぼ 同 じ 得 票 率 で 終 わ っ た 。
CDU の 得 票 率 は 、36.8% で 2003 年 の 48.8% か ら 12 ポ イ ン ト 減 少 し た 。SPD は 36.7%
で 、2003 年 の 29.1% と 比 べ 、7.6 ポ イ ン ト の 増 加 で あ る 。FDP は 9.4% で 、2003 年 の
7.9% か ら 1.5 ポ イ ン ト の 増 、緑 の 党 は 7.5% で 2003 年 の 10.1% と 比 較 し て 2.6 ポ イ ン
ト 減 と な り 、 2003 年 に 立 候 補 し な か っ た 「 左 の 党 」 は 5.1% で 初 め て 5 % 阻 止 条 項 を
超え、議席を得ることとなった。
議 席 の 全 体 数 は 、 150 席 で 、 前 議 会 と 変 わ っ て お ら ず 、 ヘ ッ セ ン 州 議 会 で は 超 過 議
席 は 発 生 し て い な い 。 CDU と SPD は 共 に 42 議 席 を 獲 得 し た が 、 CDU に と っ て は 前
の 議 会 の 56 議 席 と 比 べ て 14 議 席 の 減 少 で 、 SPD は 前 の 33 議 席 か ら 9 議 席 の 増 加 で
あ る 。FDP は 11 議 席 で 前 議 会 の 9 議 席 か ら 2 議 席 の 増 加 、緑 の 党 は 9 議 席 で 前 議 会 の
12 議 席 か ら 3 議 席 を 減 ら し 、「 左 の 党 」 は 初 の 議 席 獲 得 で 6 議 席 を 得 た 。 し た が っ て 、
政権確保のためには連立政権を組む必要があるが、加熱した選挙戦と各政党が選挙の
前に揚げた公約のため、調整には困難が予想される。
根 本 的 な 政 策 と 考 え 方 の 違 い 、 SPD と CDU の 最 高 責 任 者 の 不 仲 の た め 、 連 邦 レ ベ
ル で 実 現 し た 大 連 立 は ヘ ッ セ ン 州 で は 不 可 能 の よ う に 見 え る 。 SPD と CDU の 2 政 党
の 大 連 立 以 外 の 連 立 に は 少 な く と も 3 党 の 連 立 が 必 要 と な る 。 し か し な が ら 、 FDP は
SPD と は 組 ま な い と 選 挙 前 に 公 約 し 、緑 の 党 は CDU と は 組 ま な い 、SPD は「 左 の 党 」
とは協議しないというそれぞれの立場を固めていた。となれば、せめて一つの党が公
約を破棄しない限り、どの連立も不可能である。連立交渉を開始するまで時間がかか
り す ぎ る と 、負 け た CDU の 州 首 相 は 暫 定 的 な 政 権 の ト ッ プ と な り 、再 選 挙 の 実 施 に 向
けて動く可能性も指摘されている。
(参照)
Die Zeit online, „Wer zuckt zuerst?“;
http://www.zeit.de/online/2008/05/hessen-analyse?page=all
Der Spiegel online, “Die Wahlergebnisse in Hessen und Niedersachsen”;
http://www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,528469,00.html
The Economist January 19 th 2008, “Germany’s state elections: Pay
Punishment”; p.33/34
【 ノ ル ウ ェ ー 政 府 は CO2 ゼ ロ 目 標 の 2030 年 ま で の 前 倒 し を 発 表 】
and
ノルウェー
ノ ル ウ ェ ー 政 府 は 2007 年 4 月 に 、 2050 年 ま で に 国 全 体 の 二 酸 化 炭 素 排 出 量 と 吸 収
量 を 均 衡 さ せ る「 カ ー ボ ン・ニ ュ ー ト ラ ル 」ま た は 、一 連 の 人 為 的 活 動 を 行 っ た 際 に 、
二 酸 化 炭 素 の 実 質 排 出 量 が ゼ ロ に な る と い う 概 念「 CO2 ゼ ロ 」と い う 目 的 を 発 表 し た 。
し か し 、 2008 年 1 月 17 日 、 ノ ル ウ ェ ー 政 府 は そ の 目 標 を 20 年 も 前 倒 し の 2030 年 ま
でに達成したいと発表した。新しい目標は、労働党が率いる連立政権が三つの野党と
合意したもので、政権交代があっても変わらない長期的な地球温暖化対策であり、ノ
13
ルウェーは環境対策で世界をリードすることとなる。
ノルウェーのすべての政党は、森林の二酸化炭素吸収量を計算に入れれば、国内の
温 室 ガ ス 排 出 量 を 年 間 1,500− 1,700 万 ト ン 削 減 す る こ と が で き る と 主 張 し て い る 。ノ
ル ウ ェ ー の 二 酸 化 炭 素 排 出 量 の 削 減 分 の う ち 、三 分 の 二 は 国 内 で 実 現 す る と 決 定 し た 。
そのため、再生可能なエネルギーの開発・普及、公共交通システムの改善、交通機関
による二酸化炭素排出量の削減に充てる予算を大幅に増やすことなる。その他、ガソ
リンやディーゼルなど自動車燃料への課税を値上げする予定である。
ま た 、 CO2 ゼ ロ 計 画 で は 、 ノ ル ウ ェ ー の 排 出 権 取 引 を 行 う た め 、 発 展 途 上 国 の 森 林
保 護 や 二 酸 化 炭 素 の 排 出 削 減 に も 毎 年 30 億 ク ロ ー ネ( 約 600 億 円 )を 計 上 す る 。森 林
は温室効果の主な原因とされている二酸化炭素を吸収する力を発揮するので、保護が
重要な課題である。京都議定書の下では、国内の森林保護は単位がもらえないが、発
展途上国での森林保護は単位となる。
しかし、グリーンピース等の環境保護グループからは批判の声もある。ノルウェー
は、石油とガスを輸出し、それによる5千万トンの二酸化炭素の排出は含まれていな
いので、他国の森林を保護して自国の排出と取引するより、石油の輸出をやめたほう
がいいという見方をしている。
ノルウェー国内では政府の目標に対して賛成意見が多いが、政府は目標を達成する
ためのすべての技術はまだ完成していないことも認めている。計画の一つとして、二
酸化炭素を地球の中に閉じ込めることを想定しているが、それについてはまだ十分研
究 が 進 ん で い な い 。し た が っ て 、目 標 を 達 成 す る こ と は 一 つ の 挑 戦 で あ る と ハ ガ 石 油 ・
エネルギー大臣も認めている。
(参照)
April 2007 government announcement (2050 goal)
http://www.norway.org.uk/policy/news/carbon-neutral.htm
January 18 th 2008 government announcement (2030 goal)
http://www.regjeringen.no/en/dep/smk/Press-Center/Press-releases/2008/Broad-agr
eement-to-boost-national-climat.html?id=496872
Reuters article (used by almost all other news agencies)
http://www.reuters.com/article/environmentNews/idUSL1766015320080117?feedTy
pe=RSS&feedName=environmentNews&sp=true
Guardian online, “Norway aims for zero-carbon status with all emissions offset by
2050”
http://www.guardian.co.uk/environment/2007/apr/21/climatechange.climatechange
environment
【 リ ス ボ ン 条 約 締 結 と 地 方 自 治 】 EU/英 国
リスボン条約締結
2007 年 12 月 13 日 、欧 州 理 事 会 の 議 長 国 ポ ル ト ガ ル の 首 都 リ ス ボ ン に EU 各 国 の 首
脳が集まり、リスボン条約の調印が行われた。リスボン条約は、当初改革条約と呼ば
14
れ た よ う に 、 欧 州 連 合 条 約 17 (Treaty on European Union (TEU)・・・マ ー ス ト リ ヒ ト 条
約)と欧州共同体設立条約
18
( Treaty Establishing the European Community
(TEC)・・・ロ ー マ 条 約 ) と い う 2 つ の 条 約 を 改 正 す る 条 約 で あ る 。 こ の 改 正 で 、 前 者
( TEU) の 条 約 名 に は 変 更 が な か っ た が 、 後 者 (TEC)は 「 欧 州 連 合 の 機 能 に 関 す る 条
約 」 ( Treaty on the Functioning of the European Union (TFEU)) と 改 称 さ れ た 。
この条約締結の背景であるが、欧州が当初から取り組んできた、欧州融和のプロジ
ェクトを完成させるための新加盟国の受入れと、意思決定手続きの効率性向上(新し
いメンバーがいるので、こう着状態になるのを防ぎ、意思決定の正統性を保障するこ
とが適当)が必要とされたからである。
EU は 当 初 、EU の 組 織 の 効 率 性 を 向 上 さ せ 、よ り 民 主 的 な も の に す る た め の 法 形 式
と し て 、 欧 州 憲 法 案 を 作 成 し た が 、 フ ラ ン ス と オ ラ ン ダ の 国 民 投 票 で 否 決 さ れ (2005
年 )行 き 詰 っ た た め 、 新 し い 条 約 で な く 現 在 の 条 約 の 改 正 と い う 形 で 、 し か も 憲 法 的 な
象 徴 ( 憲 法 、 欧 州 外 務 大 臣 と い う よ う な 用 語 ) や EU の シ ン ボ ル (旗 、 国 歌 、 標 語 等 )
はできるだけ排除する形で、作業が進められてきた。
リ ス ボ ン 条 約 は 、組 織 安 定 と 、民 主 的 原 理 を 強 め る た め 、EU の 組 織 運 営 に 以 下 の よ
うな変更を加えている。
・ EU に 法 人 格 を 与 え る 。
・ EU の 行 政 執 行 機 関 で あ る 欧 州 委 員 会 の 委 員 の 数 を 各 国 1 名 ず つ の 27 か ら そ の 3
分 の 2 に 当 た る 18 に 縮 小 し 、各 国 代 表 と し て で は な く 、EU を 代 表 し て 法 案 作 成
等に当たれるようにする。
・ EU の 最 高 意 思 決 定 機 関 で あ る 欧 州 理 事 会 (各 国 首 脳 で 構 成 )の 安 定 化 の た め 、 こ
れまでの 6 ヵ月ごとに各国首脳が持ち回りで議長を務めていたのを、2 年半任期
の 常 設 議 長 (所 謂 「EU 大 統 領 」に 当 た る )を 設 置 す る こ と と す る 。
・ 加 盟 国 の 関 係 閣 僚 で 構 成 さ れ る 欧 州 連 合 理 事 会 (又 は 「閣 僚 理 事 会 」。条 約 発 効 後 は
単 に「 理 事 会 」と 呼 ば れ る )で は 、特 定 多 数 決 19 の 方 法 を 改 め る と と も に 、特 定 多
17
欧 州 連 合 (EU)の 設 立 を 定 め た 条 約 。 1992 年 に 調 印 、 1993 年 11 月 に 発 効 。 ユ ー ロ
の 創 設 と EU の 三 つ の 柱 構 造 を 規 定
18
当 初 欧 州 経 済 共 同 体 設 立 条 約 と 呼 ば れ 、 欧 州 (経 済 )共 同 体 の 設 立 1957 年 3
月にフラ ンス、西ドイ ツ、イタリア 、オラ ンダ、ベルギー、ル クセンブ ルグに よって調 印され た。欧 州
連合条約により現在の名称に改められた。
19
特 定 多 数 決 ・・・( 従 来 の 方 法 ) 加 盟 国 の 人 口 を 基 に 、 例 え ば 、 ド イ ツ ・フ ラ ン ス ・英 国 等 は 29 票 、 ベ ル
ギ ー ・ギ リ シ ャ 等 は 12 票 ・・・と い っ た 票 数 を 各 国 に 割 り 当 て 、 ① 全 345 票 中 255 票 、 ②
賛 成 国 の 人 口 の 合 計 が EU 全 体 の 62% 以 上 、③ 加 盟 国 の 過 半 数 と い う 条 件 を い ず れ も 満
15
数決の範囲を拡大して、意思決定が円滑にできるようにする。
・ 外 交 に つ い て は 、 こ れ ま で 権 限 が 「 共 通 外 交 ・ 安 全 保 障 政 策 上 級 代 表 」と 「 欧 州
委 員 会 対 外 委 員 」の 2 つ に 分 か れ て い た が 、こ の 条 約 で「 欧 州 連 合 外 交・ 安 全 保
障政策上級代表」が新設され、これに 1 本化される。
・ 市 民 の 直 接 選 挙 に よ り 議 員 が 選 定 さ れ る 欧 州 議 会 は 、法 制 定 ・予 算 ・政 治 関 係 で よ
り権限が強化され、欧州委員会の委員長を理事会の指名に基づき任命する。
そのほか、より民主的な組織とするため、議会の権限強化と併せて、主要なメンバ
ー 国 か ら 100 万 以 上 の 署 名 を 集 め れ ば 、 法 案 を 提 案 す る よ う 欧 州 委 員 会 に 要 求 で き る
権 利 や 市 民 ・市 民 団 体 と の 対 話 の 重 要 性 を 認 め る 条 項 も 設 置 し た 。ま た 、欧 州 連 合 理 事
会 ( 閣 僚 理 事 会 ) の 審 議 と 票 決 は 公 開 と な っ た 。 各 国 議 会 に も EU が 補 完 性 原 理 を 侵
害しないようにチェックする権限が与えられた。
ま た 、 こ の 条 約 で EU そ の も の の 権 限 も 拡 大 強 化 さ れ る こ と と な る 。
EU の 新 し い 権 限 と し て 、宇 宙 や エ ネ ル ギ ー に 関 す る 権 限 や 各 国 の 支 援 ・調 整 ・補 完 的
活 動 な ど の ほ か 、 自 由 ・安 全 ・訴 訟 の 分 野 で 役 割 の 強 化 が 盛 り 込 ま れ た 。 こ れ ら の 分 野
の 多 く で 、欧 州 連 合 理 事 会 (閣 僚 理 事 会 )の 決 定 が 全 会 一 致 か ら 特 定 多 数 決 に 変 わ り 、効
率 性 が 向 上 す る こ と と な っ た 。 ま た 、 EU の 経 済 的 利 益 を 侵 害 す る も の に 限 る と し て 、
犯 罪 の 捜 査 ・訴 追 ・訴 訟 権 限 を 持 つ こ と と な っ た 。
な お 、 2000 年 に 発 布 さ れ た 欧 州 連 合 基 本 権 憲 章 20 に つ い て も 正 式 に 法 的 拘 束 力 が 与
えられた。
地方自治関係の規定
地 方 自 治 の 分 野 に 関 し て 、今 回 条 文 中 に 地 方 ・地 域 自 治 体 に 関 す る 規 定 が 明 記 さ れ る
こととなった。新しい「欧州連合条約」第4条は加盟国間の平等に「地域・地方自治
体 も 含 む 」 と 明 記 し 、 新 し い 「 欧 州 連 合 の 機 能 に 関 す る 条 約 」 第 300 条 3 項 は 、「 EU
地域委員会は、選挙で選ばれた地方・地域自治体を支える、又は議会に責任を負う地
方団体の代表で構成される」と規定する。
また、新しい「EU連合条約」第5条の中で、補完性原理の下でEUが権限を行使
で き る 場 合 と し て 、「 加 盟 国 が 中 央 レ ベ ル で も 地 域・地 方 レ ベ ル で も 十 分 に 目 的 を 達 成
たすことが必要
(新 し い 方 法 )
① 加 盟 国 数 の 55% 以 上 と ② 賛 成 国 の 人 口 の 合 計 が EU 全 体 の 65% 以 上
という二つの条件を満たすことが必要
2000 年 12 月 に 欧 州 議 会 、 欧 州 連 合 理 事 会 、 欧 州 委 員 会 の 3 者 に よ っ て 公 布 さ れ た 人 権 に 関 す る 規
定 文 書 。 条 約 や 憲 法 あ る い は 法 律 上 の 文 書 で は な く 、 EU の 最 重 要 3 機 関 に よ っ て 「 厳 粛 に 公 布 さ れ た
(solemn proclamation) 」 と い う 曖 昧 な 位 置 づ け が な さ れ て い る 。
20
16
で き な い 」と き を 挙 げ て お り 、同 条 を 受 け た 形 で 規 定 さ れ た 議 定 書 21「 補 完 性 原 理 と 比
例 原 理 に 関 す る プ ロ ト コ ー ル 」は 、「 欧 州 委 員 会 は 法 制 立 案 に 際 し て 提 案 前 に 広 く 意 見
を 聞 く べ き 」と し つ つ 、「 意 見 を 聞 く に あ た っ て 、必 要 に 応 じ て 、地 域 レ ベ ル ・地 方 の
活 動 次 元 で ど う 見 る か を 考 慮 す べ き 」と し て い る( 同 議 定 書 第 2 条 )。そ し て 、法 制 立
案 に 当 た っ て 考 慮 す べ き ニ ー ズ の 中 に 地 方 ・地 域 自 治 体 の ニ ー ズ を 含 め る と し て い る
( 同 議 定 書 第 5 条 )。
さらに、補完性原理関連条項については、欧州連合地域委員会が欧州裁判所に訴え
る 権 利 を 定 め て い る ほ か (同 議 定 書 第 8 条 )、地 方・地 域 自 治 体 に 影 響 す る 新 し い 法 制 立
案の地方自治体の財務に対する影響等について、補完性等に適合するかどうか判断で
き る よ う な 詳 細 な 説 明 を 求 め て い る (同 議 定 書 第 5 条 )。
こうした地方自治に関する条約上の位置付けが行われたことに対して、欧州自治体
協 議 会 ( CEMR) は 、 条 約 調 印 の 前 の 週 に あ た る 2007 年 12 月 5 日 、 ド イ ツ の シ ュ ト
ゥットガルトで会議を開催し、この条約を歓迎する宣言を発表した。
こ の 宣 言 は 、「同 条 約 は 、E U の 組 織 と 意 思 決 定 の 手 続 き に 重 要 な 改 正 を 行 う も の で
あ り 、特 に E U 内 に お け る 地 方・地 域 の 自 治 体 の 役 割 を 強 化 す る も の 」で あ る と し 、「 新
条約の速やかな批准を通じて、これらの重要な条項が速やかに効力を発揮しうるよう
に と の 希 望 を 表 明 す る 。」 と の 評 価 を 加 え て い る 。
CEMR が 評 価 し て い る 点 は 、 次 の 通 り で あ る 。
・ EUとEU関連組織の条約において初めて、地方・地域の自治体を明確に定義
していること。
・ 補完性原理を現在の国の政府とEUの間だけでなく、地方・地域の自治体も含
む形に拡張していること。
・ 条約自体だけでなく、補完性原理と比例原理に関する新しいプロトコールにお
いても、関連法案の制定等に当たって、地方・地域との自治体のより効果的な
協議を定めていること。
・ 地方・地域自治体に影響する新しい法制立案の地方自治体の財務に対する影響
を従来にもまして考慮に入れることを求めていること。
・ 特に補完性原理関連条項について欧州連合地域委員会が欧州裁判所に訴える権
利を定めていること。
・ EU の 諸 目 的 の 中 で 、 地 域 連 携 の 諸 原 則 を 承 認 し て い る こ と 。
こ れ に 加 え 、 CEMR は 、 地 方 自 治 を 補 強 す る も の と し て 「 共 通 利 益 の た め の 公 共 サ
ー ビ ス の プ ロ ト コ ー ル 」第 1 条 に 特 に 注 目 し て い る 。同 条 の 規 定 は 次 の と お り で あ る 。
21
議 定 書 ( プ ロ ト コ ー ル ) ・・・
条約の 1 種で他の条約と効力は変わらないが、通常、既存の条約を補
完する性格の条約にその名称が用いられる。
17
「 経 済 的 公 共 サ ー ビ ス に 関 す る EU の 共 通 の 価 値 観 と し て は 「 サ ー ビ ス 利 用 者 の ニ
ー ズ に で き る だ け 沿 っ た 形 で サ ー ビ ス を 提 供 、執 行 、組 織 化 す る に 当 た っ て の 国 家 、
地 方 及 び 地 域 の 政 府 の 本 質 的 役 割 や 広 い 裁 量 権 を 尊 重 し て い く こ と 。」が 含 ま れ る 。
CEMR は 、 こ の 「 広 い 裁 量 権 」 に つ い て 、 特 に 自 治 体 間 及 び 公 共 団 体 が 協 同 で 作 る
団体や協定を通じて公共サービスの提供を行う地方自治体の権利についても、それが
地方の民主的手続きによってサービス利用者の利益に最も適う解決策であるとみなさ
れる場合にはすべてこのプロトコールの対象とすべきだとしている。言い換えれば、
公共サービスの方法について、国等が口を出すのではなく、自治体に広く裁量権を認
めるべきだとの主張である。欧州委員会及びその他の組織においても、この「広い裁
量権」とそれを民主的手続きで最適と認められた公共サービスにすべて適用するとい
う原則を十分に尊重するよう要求するとともに、各国議会に対して、リスボン条約の
補 完 性 原 理 の 適 用 の た め の 法 整 備 を 進 め る に 当 た り 、特 に 地 方 ・地 域 自 治 の 原 則 を 保 障
していくことを要求している。
CEMR と し て は 、「 各 国 政 府 及 び EU と 伴 に 、 経 済 競 争 力 、 地 域 開 発 、 社 会 の 一 体
化 や 統 合 、持 続 可 能 な 発 展 、エ ネ ル ギ ー ・気 候 変 動 、国 際 協 調 と 平 和 、そ の 他 の 任 務 や
課 題 に 取 り 組 む た め こ れ ら の す べ て の 役 割 を 果 た す 」 と 宣 言 し 、 こ の た め 、「 「 欧 州 」
の 名 前 を よ り 市 民 に 身 近 な も の と し 、 真 に 市 民 の た め 、 そ し て 市 民 と 共 に 進 む EU と
して発展するよう手助けする」と、自らの取組に向けた意気込みを表明している。
CEMR の 宣 言 は 、 こ れ ま で 国 と EU の 関 係 の み で あ っ た 補 完 性 の 原 理 を 自 治 体 と
EU 関 係 に ま で 言 及 し た こ と を 評 価 し つ つ 、更 に 自 治 体 と 国 と の 関 係 に お い て も こ の 原
理を共有させ、このことについて地方自治体の地位を高めていこうとする意思を表明
したと考えられる。
付言すると、この条約案は、憲法条約案と異なり、従来の条約を改正しただけと
い う 意 味 で 、「改 め 文 」形 式 を 取 っ て い る が 、こ れ に 対 し CEMR は 、こ の 形 式 に よ る 改
正方式はたいへん読みづらく、理解しづらいという懸念を表明し、今後この条約を体
系化し、一本化していくことを求めている。
英国における反応
英 国 政 府 は 、 国 内 の EU に 対 す る 反 応 が 醒 め た も の で あ る た め か 、 国 民 投 票 を 避 け
る た め 、 人 権 関 係 や 訴 訟 関 係 で い く つ か の 適 用 除 外 を 設 け さ せ た り し た 22 。
22
英 国 に 関 す る 適 用 除 外 規 定 ・・・ 英 国 は 、 ポ ー ラ ン ド と 共 に 、 自 国 に 対 す る 、 欧 州 司 法 裁 判 所 に よ る 欧
州 連 合 基 本 権 憲 章 の 適 用 を 免 れ る こ と を 定 め た 議 定 書 を 付 帯 さ せ る こ と で 合 意 し た 。ま た 、ア イ ル ラ ン
ド と 共 に 、警 察 や 司 法 で の 分 野 に つ い て 全 会 一 致 か ら 特 定 多 数 決 で の 表 決 に 変 更 す る こ と に つ い て の 適
用 除 外 を 受 け る (す な わ ち 拒 否 権 を 持 つ )こ と に な っ た 。
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し か し 英 国 内 で の 条 約 締 結 に 関 わ る 報 道 は あ ま り 好 意 的 な も の と は 言 え な い 。特 に 、
国民投票を避けたことについては多くのマスコミがその問題点を取り上げた。
英 国 政 府 は 、2007 年 7 月 の 白 書 で こ の 条 約 に 対 し 政 府 が 国 民 投 票 な し に 効 力 を 発 生
さ せ る 条 件 を 掲 げ た レ ッ ド ラ イ ン 23 を ク リ ア し て い る と し て 、国 民 投 票 は 不 要 だ と し て
いる。
今回の条約について、英国政府は、この原則に基づき、抵触すると考えられる条項
については、変更ないし英国等についての適用除外の規定を設けさせることとしたた
め 、国 民 投 票 の 必 要 が な い と 主 張 し て い る 。し か し な が ら 、「 全 体 と し て み る と 、憲 法
条約としての一般的枠組みを形成して」おり「重要な政策領域でレッドラインを維持
できなくなる」という下院欧州戦略委員会のレポート等を引用し、政府の考え方に疑
問 を 投 げ か け る 論 説 を 掲 載 す る (イ ン デ ィ ペ ン デ ン ト 紙 )な ど の 批 判 の 声 も 出 て い る 。
な お 、現 時 点 で 、EU 加 盟 国 の 中 で 国 民 投 票 を 実 施 す る の は ア イ ル ラ ン ド の み と 伝 え
られている。
こ の 条 約 に 対 す る 自 治 体 の 反 応 に つ い て で あ る が 、他 の EU 諸 国 の 自 治 体 関 係 の 団 体
で は 、 CEMR の 宣 言 を 引 用 し 、 こ れ を 歓 迎 す る 意 向 を 示 し て い る の に 対 し 、 英 国 の 自
治 体 及 び そ の 関 連 団 体 の こ の 条 約 に 対 す る 反 応 は 、概 し て 冷 や や か の よ う に 思 わ れ る 。
(参考)
1. Foundation Robert Schuman:
The Lisbon Treaty
10easy to-read fact sheets
http://robert-schuman.eu/tout-comprendre-sur-le-traite-de-lisbonne.php
2. Council of European Municipalities and Regions: Declaration of the Treaty
Of Lisbon
http://www.ccre.org/docs/stuttgart_declaration_on_lisbon_eng.doc
3. Research Paper 07/86
Library House of Commons
http://www.parliament.uk/commons/lib/research/rp2007/rp07-086.pdf
4. 駐 日 欧 州 委 員 会 代 表 部 の ホ ー ム ペ ー ジ
5. 2007 年 12 月 14 日 の 各 新 聞
DAILY EXPRESS,
http://jpn.cec.eu.int/home/news_jp.php
( GUARDIAN,
FINANCIAL TIMES,
SUN,
INDEPENDENT)
23
レッドライン(英国として最低限譲れない線として定めたもの)として掲げられている原則は、以
下のとおりである。
・ 英国の現在の労働・社会法制の保護
・ 英国のコモン・ロー制度や警察・司法制度の保護
・ 英国の独自の外交・防衛政策の維持
・ 英国の租税・社会保障制度の保護
・ 国家安全保障は、加盟各国の問題であることをはっきりと確認すること
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