Online DITN 第 423 号 ■ Educators(1) ● Educators 米国における 糖尿病食事療法 〜患者が理解して実践しやすい 段階的なカーボカウントと ポーションコントロール〜 ●上畑 陽子先生 (東京大学医学部附属病院 病態栄養治療部 管理栄養士) 米国の食事療法は 炭水化物&エネルギーコントロール 日本の糖尿病食事療法がエネルギーコントロールであること 交換表の 1 単位は、カーボカウントの 1 カーボと等しいものが多 に対し、米国のそれは炭水化物&エネルギーコントロールと言 いため応用がきく。今まで食品交換表で食事療法を行ってい える。米国糖尿病学会、米国栄養士会ともに、糖尿病患者の た患者がカーボカウントに移行することも比較的容易である。 血糖管理には炭水化物コントロールが重要としている 1, 2) 。炭 さらに、栄養成分表示は 1 サービング (1 回の適正摂取量) あた 水化物コントロール法のひとつにカーボカウントがある。日本で りで表記されており、食べる量に応じた炭水化物量の把握も は、カーボカウントというと「摂取した炭水化物量に見合った 容易に確認できる (図 1) 。 インスリン量をうつ」 と理解されるが、これには食品に関する豊 富な知識や計算能力が必要となり、患者によっては難易度が Step2 血糖変動のパターンを見つける 高いため、米国でこれを行っている患者は少ない。実際のカー ボカウントは Step1 からStep3まで段階的に実施される 3, 4)。 次に、Step2 では、血糖と炭水化物摂取量・摂取タイミング、 薬、運動などの関連性に着目し、血糖変動のパターンを見つけ Step1 炭水化物摂取量を一定に保つ ることに重点をおく。これには、炭水化物摂取量の把握や頻回 な SMBG 測定が不可欠である。Step1 で炭水化物一定食を Step1 では、毎食の炭水化物摂取 量を一定に保つ食事療法を行う (炭 水化物一定食) 。1 食あたりの炭水化 物量は、 炭水化物 15g を 1 カーボとし、 個々の患者の年齢、性別、活動量な どに応じて登録栄養士により決めら れる。患者と相談しながら、生活スタ イルや食事パターンなどに合わせて 微 調 整 す ることも あ る が 、 1日最低でも130g の炭水化物を摂取 することが推奨されていることにより、 1 食あたり最低 3 カーボは摂取するこ とが理想とされる 4)。米国の食品交 換表は、炭水化物の含有量によって 食品分類されている 5) (図 1)。食品 2013 Medical Journal Sha Co., Ltd. 図1 カーボカウントに使えるツール ①米国の食品交換表 炭水化物 ②栄養成分表示 炭水化物 蛋白質 (g) (g) 食品リスト Carbohydrate パン、 シリアル、穀物類、糖質の多 い野菜、 クラッカー、 お菓子、豆類 果物類 脂質 エネルギー (g) (kcal) 1カーボ 15 0-3 0-1 80 15 − − 60 乳製品 無脂肪、低脂肪1%(Low-fat) 低脂肪2%(Reduced-fat) 全脂肪 スイーツ、 デザート、 その他糖質類 12 12 12 8 8 8 0-3 5 8 100 120 160 15 * * * 糖質を含まない野菜類 5 2 − 25 肉や肉の代替品 1回の適正摂取量 (サービングサイズ) 炭水化物 31g ≒ 2 カーボ Meat and Meat Substitute 脂身の少ない肉 脂身のやや多い肉 脂身の多い肉 植物性たんぱく質 脂質 Fat − − − * − 7 7 7 7 − 0-3 4-7 8+ * 5 45 75 100 * 45 アルコール Alcohol * − − 100 *食品により異なる Online DITN 第 423 号 2013 年(平成 25 年)6 月 5 日発行 Online DITN 第 423 号 ■ Educators(2) 習得しているため、運動や体調などによる血糖変動のパターン 食事摂取量を把握しない。カーボ数も1 カーボ= 15g だが、実 を読み取りやすい。食べる内容による血糖変動パターンに気 際は 11 〜 20g を 1 カーボとしてしまう。米国人と日本人でイン づく患者も出てくる。例えば、同じカーボ数でも油分の多いピ スリン分泌能に差異があるため、日本人ではより厳密な炭水化 ザを食べたときは食事の 4 時間後も高血糖が持続していること 物コントロールが必要という局面もあるが、どこまで詳細なコン を自ら発見し、摂取量の調整やインスリン投与内容の変更を自 トロールが必要であるのか検証することも有用に思われる。日 ら医療スタッフへ提案してきた患者もいた。 本人にとって、簡単で無理なく実践できる糖尿病の食事療法の 確立に期待したい。 Step3 速効型インスリン注射量を算出 参考文献 1)Franz MJ et al., Journal of American Dietetic Association. 2010; 110(12): 18521889. 2)American Diabetes Association, Diabetes care. 2013; 35, Suppl 1: S11-S63. 3)Nelms MN et al., Nutrition Therapy and Pathophysiology. 2007. Belmont, CA, : 587 4)Gillespie SJ et al., Journal of American Dietetic Association, 1998; 98(8): 897905. 5)Wheeler ML et al., Choose your foods: Exchange Lists for Diabetes, 6th Edition, 2008. American Dietetic Association, Chicago, IL. 6)Centers for Disease Control and Prevention. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2004; 53(45): 1066-1068. 最後に Step3 では、炭水化物−インスリン比を導き出し、速 効型インスリン注射量を算出する。インスリンポンプを導入して いる患者では、Step3 まで到達できるよう指導を行うことが望 ましいが、その他の患者の大半は Step1、2 のみを実践してい る場合が多い。 1 回に食べる量をコントロールする 炭水化物コントロールと合わせて、エネルギーコントロールも 重要視される。なぜなら、米国の 2 型糖尿病患者の 80 %以上 が過体重であり、半数以上は肥満であるため、エネルギーコン トロールにより体重管理を行うことが非常に要用とされるから である 6)。米国人はポーションサイズ (1 回に食べる量)が多い 傾向がある。そのため、ポーションコントロールだけである程度 のエネルギー制限が期待できる。そのツールには、手で表現 する食事量モデルや、お皿の分割法などがあげられる (図 2) 。 My plate にて主食量をカーボ数で指示すれば、My plate を 活用したカーボカウントも実践可能である。 米国の食事療法は、段階的なカーボカウントや My plate な どにみられるように、患者が理解・実践しやすいよう配慮され ているように感じられる。日本では 0.1g 単位まで計量し食事療 法を行う患者も多いが、米国の重量単位はオンス (1 オンス= 約 28g) であり、大半の患者は 1/4、1/3、1/2 オンス単位でしか 図2 ポーションコントロールに使えるツール ①お皿の分割法 ②手で表現する食事量モデル (直径23cmのお皿) 3オンス 肉、魚 (85g) 質の少ない野 /2=糖 菜類 皿1 お お 皿 1 / 4= 、魚 、卵、 チーズ等) 1カップ 物 2013 Medical Journal Sha Co., Ltd. 果物、 フルーツジュース 1 カップ 糖質の多い野菜類(例:じゃがいも、 とう 2 もろこし)、豆類、 ごはん、麺類、 シリアル 1オンス スナック菓子、 チーズ1枚 大さじ1 サラダドレッシング、 クリームチーズ 源( 化 肉 炭水 、糖 野菜、 サラダ 牛乳、 シチュー 質 の多 い食 品 お く ぱ たん = 4 / 皿1 小さじ1 マーガリン、バター、油、 マヨネーズ Online DITN 第 423 号 2013 年(平成 25 年)6 月 5 日発行
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